出口真人『前田慶次かぶき旅』第15巻 旅は日本一のうつけ殿から日本一の不忠者へ!?
新たに奥村助右衛門を同行者に加え、まだまだ続く前田慶次の西国漫遊。周防岩国で、西軍を敗北させた天下一のうつけ殿・吉川広家を訪ねた慶次は、そこで吉川家と毛利家の内輪もめに首を突っ込むことになります。吉川家の小姓の仇討ちに、助太刀として参戦した慶次ですが……
豊前での冒険の後、それまでの仲間たちと別れたものの、莫逆の友・奥村助右衛門と再会した慶次。そこで彼らが向かった先は周防岩国――吉川広家のもとであります。
広家といえば、西軍に属した毛利家の人間ながら、家康と通じ、西軍を敗北させた立役者――ということは慶次たちにとっては怨敵でもおかしくない相手ですが、しかし一廉の漢大好きの慶次がそんなことに拘るはずもありません。
はたして広家が、毛利家を守るために敢えて裏切り者の汚名を背負ったことを知る慶次。折しも、吉川家の小姓が毛利家の直臣・田所に斬殺され、朋輩が仇討ちをしようとしていることを知った慶次ですが……
というわけで、こういう時に水を得た魚のようになるのが慶次という男なのは、今さら言うまでもない話。仇討ちを名乗り出たあからさまに細い青年に定番の必勝法を授け、自分は相手方の助太刀の相手をするという寸法であります。
この相手がまた分藩の藩主・毛利秀元の威を借りた上に、完全に慶次を舐めて大言壮語、無駄に仲間を駆り集めてデカい顔をするという、もはや死亡フラグの数え役満のような男。前田慶次など過去の遺物、と思い込むのは、まあ史実では慶次は70近いので、無理もない気もしますが……
もちろん、その結末は言うまでもありませが、ここで印象に残るのは、うつけ殿はどこへの威風堂々たる広家の姿はもちろんのこと、この騒動をあくまでも仇討として、余人の介入を断固許さない毛利家の人々の硬骨ぶりであります。
(普通だったら絶対ギャグ枠の、面白いビジュアルの執政・佐世元壽もいい漢ぶりを見せるのがいい)
そのついでに、秀元も何となく男らしい奴になっているのはご愛嬌ですが、しかしいつもながらに気持ちの良い幕切れであります。
さて、そんなわけで周防岩国編は完結したのですが、そこから思わぬ縁で続いていくのが次の章であります。
毛利輝元――つまり従兄弟の娘である古満姫が、備前岡山まで行きたがっているのに頭を痛める広家。婚家から離縁され、毛利家に戻っていた姫ですが、その結婚相手というのが何と小早川秀秋! ある意味、広家以上に関ヶ原的にはアレな人物であります。
ひ弱な人間や卑怯者には極めて厳しい世界観だけに、秀秋はどんな人物なのか――とドキドキさせられますが、ここで初登場した秀秋は、確かに線は細いものの、決してうつけ者でも臆病者でもない印象の若者であります。
古満姫を離縁したのも秀吉の養子となっていた秀秋が、猜疑心の塊となっていた秀吉にいつ殺されるかわからない立場だったために、累が及ぶのを避けるため――と、(本作においては)これはこれで細やかな心遣いの秀秋。当然ながら(?)古満姫の中には、彼への愛がいまだ残っているのです。
しかしそれでも家の都合で嫁入りをさせられるのが武家の習い。新たな縁談が出ている中、せめてその前に一度秀秋に逢いたいという姫の切なる願いなのですが――それを見過ごせる慶次ではないのも言うまでもない話です。
かくて慶次たちの次なる目的地は備前岡山――これまで本作にはいなかったタイプである天下一の不忠者・秀秋と慶次、二人の出会いがいかなる化学反応をもたらすのか? ある意味、これまでで最も気になる顔合わせであります。
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