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2024.04.21

輪渡颯介『捻れ家 古道具屋 皆塵堂』 曰く付きの建物連発、消えた若旦那は何処に

 快調に巻を重ねる『古道具屋皆塵堂』最新作は、皆塵堂版「変な家」というべき、建物にまつわる怪談。飲み仲間の若旦那と奇妙な建物に迷い込み、自分だけ帰還した職人・念次郎。皆塵堂の面々とともに、若旦那の行方を追う念次郎ですが、まだまだ建物にまつわる怪異は終わらず……

 中秋の名月の晩、飲み仲間である取引先の若旦那・松助と飲み歩いていた筆職人の念次郎。しかし二人が気付いてみれば、そこは見覚えのない料理屋の一室――三人分の膳が出ていたものの、自分たち以外の人間は見当たらず、しかも料理屋の中を歩き回っても、元の部屋に戻ってしまうではありませんか。
 実は幼い頃から二階に気をつけろ等、奇妙な教えを受けてきたという松助。背に腹はかえられず、出口を求めて二階に登った二人ですが、そこでも状況は変わらないどころか、松助はどこかに消え、念次郎は煙に巻かれて意識を失うのでした。

 そして意識を取り戻してみれば、季節外れの桜の枝と、見覚えのない掛け軸を手に、ただ一人外で寝ていた念次郎。偶然通りかかった皆塵堂の大家・清左衛門に助けられ、事のあらましを語った念次郎は、こういう事件なら――と、皆塵堂に行くよう促されるのでした。

 やがて、松助の祖父そして父がそれぞれ十八年おきに行方不明となり、死体で発見されていたことを知る念次郎ですが、何やら知っているらしい松助の叔父は、理由を明かさずに江戸中を探している様子。
 念次郎も、皆塵堂の面々の助けを借りながら松助の行方を探すものの、何故か目が覚めた時に見覚えのない建物の中にいて、幽霊に出会ったりと、恐ろしい目に何度も遭う羽目になります。

 はたして松助の行方は、そして彼の家系に、かつて何が起こったのか……?


 というわけで、今回のテーマは「建物」。時空が捻れたような料理屋、封印された長屋、幽霊が現れる風呂屋、勤める者が次々と倒れていく大店――直接的な怪異もあれば、間接的なものもありますが、建物だから近寄らなければいい、というわけにもいかないのが恐ろしい。
 そこに「在る」曰く付きの建物に、知らぬ間に引き寄せられていくのには、何ともいえぬ湿度の高い不気味さがあります。

 もっとも、そこに絡むのが皆塵堂のお馴染みの面々のおかげで、物語に暢気な味わいがあるのはいつものことではあります。
 特に今回は、勘当された(元)若旦那・円九郎が、準主役的な出番の多さで登場。ダメなやつには基本的に容赦のないシリーズですが、いつまでも反省しない彼のいい加減さに、「こいつならいいや」的に厭な目に遭いまくる姿には、同情したり笑ったり――と何ともユーモラスです。

 しかし、皆塵堂側が可笑しいからといって、怪異の側は全く手を抜かず大真面目なのも、また本シリーズならではであります。
 特に今回は、一歩間違えれば、いや過去に何度も人死が起きている、洒落にならない展開(終盤に明かされる、そのロジックが地味に恐ろしい!)。そんな中で現れる幽霊は何者なのか――少しずつ謎が明らかになっていく過程もまた、本作の醍醐味でしょう。


 ただ本作は、ちょっと残念なところもシリーズ定番ではあります。

 いつもながらに霊感が冴え渡るシリーズレギュラーの太一郎は、そもそもの料理屋の謎自体はある理由から解き明かせないものの、それ以外については相変わらずの千里眼ぶり。途中の事件など、彼一人でほとんど全てを解き明かしてしまうのは、さすがにやりすぎに感じられます。

 前作はその辺りをうまく回避していましたが、彼の能力をいかに封じるかが、物語の面白さに繋がってくるというのは、やはり困ったもの。
 物語もキャラクターも楽しめる作品だけに、その点は(シリーズのファンだからこそ)どうにも勿体なく感じてしまうのです。


 ちなみに本作は、これまでシリーズで不明だった作中年代が初めて特定できる記念すべき作品――と喜んでいるのは私だけかもしれませんが、年表マニア的には嬉しいことです。


『捻れ家 古道具屋 皆塵堂』(輪渡颯介 講談社文庫) Amazon

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