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2024.04.06

『鬼武者』 第壱話「魔」

 某藩に依頼され、とある村に立て籠もった謀反人・伊右衛門の討伐に向かうことになった宮本武蔵。藩の剣術指南役・松木と門弟たちに同行する武蔵だが、途中、武蔵は意外な裏切り者の存在を指摘、これを斬り伏せる。しかし一行の中に裏切り者がもう一人、しかも人ならざるものが混じっていた……

 2023年11月から配信がスタートしたアニメシリーズ『鬼武者』の第1話であります。『鬼武者』といえば、往年のゲームファンには懐かしいタイトル――PS2で都合4作+αが発売されて以降、ほぼ音沙汰のなかったシリーズが何故いま、という気はいたしますが、メディアを変えたとはいえ、復活はまずはめでたいと感じます。

 そして『鬼武者』といえば、これまで金城武、松田優作、ジャン・レノが「出演」してきたように、主人公のモデリングに実在の俳優を使ってきましたが、今回の主人公は――三船敏郎! これまた何故いま、ですが、こちらは世界配信でサムライものときたらやはりミフネなのでしょう。懐手のポーズを連発するので。むしろこれは武蔵と名乗っているけれども、実はナントカ三十郎というオチなのでは!? と心配になったりもしますが……
 第1話の時点では設定年代は不明ですが、少なくとも巌流島以降、武蔵が壮年の頃であることは間違いないでしょう。実はシリーズの外伝作品『鬼武者 無頼伝』では、本作と同じ大塚明夫声の宮本武蔵が登場しているのですが、その時はまさに巌流島感のある(?)青年期のスタイルだったので、それから時は流れたとでも思いましょうか。

 物語の方は、武蔵がどこかの寺で荒法師たちの群れを素手で取り拉ぐ場面からスタート。この寺に収められている、ある品を借りるための条件だというのですが――厳重に封印されているそれが何かは、シリーズファンには一発でわかるでしょう。
 そして寺からお目付け役的に同行してきた青年僧・海全と共に、某藩の剣術指南役・松木と、門弟の佐兵衛・弦斎・五郎丸・平九郎に合流して――と、いきなり武蔵と海全以外にも五人も武士が登場して、顔と名前が一致するまで時間がかかるのですが、結構なリアル路線のビジュアルの中で各キャラの個性が出るように配置されているためか、慣れればすぐに誰が誰かわかるのはよいところ。尤も、すぐに二人脱落するのですが……

 さて、この藩の一行は、主君に物見を命じられてとある小村に赴き、何を思ったか謀反を起こした伊右衛門の討伐を命じられているのですが、彼の師でもある伊右衛門は、その才を惜しんでかかなり同情的。しかしこの松木、関ヶ原に参戦したことが、武士としての一つの思い出となっているようですが、大坂の陣ではないのが、色々と想像させます(いや、話の流れ的に戦国の終わりというべき大坂の陣ではなく、まだ天下の動静が定かならざる関が原ということなのだと思いますが)。

 さて、松木と伊右衛門の話をした晩、突然この中に裏切り者がいるといいだした武蔵。しかも一行の中に悪人が三人もいるというのですが――武蔵の指摘をあっさり認めた裏切り者は、謹厳実直な顔をしていながら(いやだからこそ)「人は面白いことには勝てぬのだ」と妙に説得力のある言葉とともに武蔵に刃を向けます。
 が、あっさり武蔵に一刀両断され、なるほど、これは物語の流れ的に魔物に変じて襲ってくるのだな? と思ったら、別の方角から魔物が襲ってくるのはちょっと面白い。そしてさしもの武蔵も魔物の猛攻には及ばず、追い詰められた時、海全が寺から運んできた箱の中から取り出したのは――そう、鬼の篭手!

 鬼の篭手を装着した武蔵は、魔物と互角以上の動きで渡り合った末に、魔物を斃した――のはいいのですが、個人的に不満なのは、素の武蔵が魔物に勝てないまでも、もうちょっと強さを見せて欲しかったことと、鬼の篭手の能力が今ひとつ凄く見えなかったことであります。
 いや、武蔵がピンチにならなければ鬼の篭手が必要とされないというのは理解できるのですが、装着したら人間離れして早くアクロバティックに動けるようになりました、という程度では、鬼の篭手の凄さが伝わらず、結果として武蔵も弱く見えてしまったというのが正直なところです。

 先に述べたように、時代劇アニメとしてはかなり落ち着いたビジュアルの作品(そしてそれは一つの魅力だと思います)であるだけに、そこからどう跳ねるのか? その加減が今ひとつだったのは残念です。


 とはいえ、武蔵のふてぶてしくも人を食ったキャラクターは楽しく、彼が言った三人目の悪人が誰かは容易に想像がついたものの、その理由までは思い至らず、聞いてみればなるほど、とニッコリ。まずはこの武蔵がどれだけ武蔵らしく暴れてくれるのか、見届けたいと思います。

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