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2024.04.16

「コミック乱ツインズ」2024年5月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」2024年5月号の紹介の続きであります。

『口八丁堀』(鈴木あつむ)
 特別読み切りその二は、もうすっかりお馴染みの北町奉行所の例繰方・平津内之介の名(迷)お裁き。主人公のキャラクターもあってか、これまで比較的コミカルなムードだった本作ですが、今回は非常にシビアな物語となります。

 幼い子供を抱えて生活に困り、養育料目当てに他所の子供を引き受けたものの、手に余って暴力を振るうち、ついに殺してしまった男・鉄蔵。あまりにも身勝手なこの男に強い憤りを抱いた内之介は、過去の判例を踏まえるべく調べを始めます。
 過去の判例を調べ尽くした末に、内之介は、ついに鉄蔵と相対するのですが……

 時代ものでしばしば描かれる貰い子という仕組み。江戸時代の人間の人情の表れとも、社会保障が未成熟な社会ならではの共助ともいうべき仕組みですが、そこに金のやり取りが絡んだ場合、事件に繋がり得ることは、今回から描かれるような史実が示しています。
 これまでのような相手がいる論戦ではなく、ある意味k内之介の自問自答というのがユニークですが、これはこの特殊な事件を裁くために必要な過程というべきでしょうか。

 ただ、相手の罪状が明らか過ぎるので、量刑といってもほとんどバリエーションの域なのが、ドラマ的にはちょっと苦しい。本当に厭な下手人のキャラクターは印象に残りますが……
 印象に残ると言えば、内之介が判例を人に見立てる際、顔のない判例人間というべきキャラとして描かれるのはちょっとコワい――鉄蔵への、「おまえもここで判例となる定めなのだ!」という台詞も。


『凛九郎』(玉彦)
 特別読み切りその三、凄腕の元御庭番・凛九郎の死闘を描く本シリーズの第三弾であります。これまで、妻の形見の馬を殺した悪代官一家を皆殺しにしたり、自分を騙して操ろうとした古巣の御庭番旗頭を殺したりと、行く先々で暴力の嵐を巻き起こしてきた凛九郎が、今回はとある藩を訪れた彼が御家騒動に巻き込まれることになります。

 ふとしたきっかけで、悪党どもの一味から、拐かされていた藩の若君・小太郎を救った凛九郎。小太郎の乳母だという女から、事件の黒幕は家老の平岩左京だと聞かされた凛九郎は、自分も命を狙われたことから、左京のもとを探り始めるのですが……

 と、ここで左京を探る方法、そしてそこでさらに彼が施した仕掛けがちょっと面白く、なるほど御庭番らしいと思わされる今回の展開。毎回ストーリーの趣向が異なるのも面白いのですが、しかし正直なところ、構図的に悪人が誰かすぐにわかってしまうのが残念ではあります。
(しかし一番驚いたのは、冒頭2ページの内容が、今回全く本筋に関わって来なかったことですが――これはまあ、続編があるということなのでしょう)


『カムヤライド』(久正人)
 既に散っていった二人同様、必殺を期すために還らぬ覚悟を決めた天津神・フトタマとウズメ。冒頭からいきなりスーツを脱ぎ捨て、もはや戻れない最終決戦形態になった二人が、海上を行くヤマトタケル一行を襲います。

 しかしモンコは以前語られたように、何故か水に全く浮かない体質(ここでヤマトタケルが一瞬その時のことを――という描写がグッときます)という、冷静に考えれば結構危険な状況で襲いかかるのは、思いもよらぬ(そして何となく馴染みのある)姿になったフトタマ。そしてフトタマにワカタケを奪われたオトタチバナは……

 というわけで、ついに運命の地・走水に到着したモンコたちと天津神たちのバトルがスタート。走水といえば、日本武尊の東征の途中、荒れ狂う海を鎮めるために、弟橘媛が自ら海神の贄となろうとこの地で海に飛び込んだと古事記には記されていますが――一体どうなることかと戦々恐々としていたら、まさかこんなにあっさりアレしてしまうとは、色々な意味で吃驚であります。

 そしてこれまた色々な意味で思いもよらぬ形でモンコが大ピンチとなり、戦える者はただ一人というあまりに不利な状態となった一行。はたして逆転の鍵は誰が握っているのか?


 次号は特別読み切りで柴田真秋の『本当に怖い江戸怪異(仮)』が登場。柴田真秋といえば、ファンタジー漫画『WEAPONS&WARRIORS 武器と戦士たち』の柴田真秋だと思いますが、意外な起用に期待は高まります。


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