たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記 博多編』第9巻
上陸した蒙古軍の猛攻の前に太宰府撤退を余儀なくされた日本武士団。水城に拠って最後の抵抗を続ける迅三郎たちは乾坤一擲の奇襲に打って出ることになります。ついに日本と蒙古の全面対決が迫る中、日本武士団に一致団結の時は来るのか……?
蒙古軍の上陸による大混乱の中、義経流の使い手同士、思わぬ形で協力することとなった迅三郎と両蔵。その後も戦いは続き、ついに迅三郎たちは太宰府に築かれた数百年前の水城に拠ることを余儀なくされます。
そんな状況でもいまだ団結できず、抜け駆けや自分の面子を重んじる武士たち。そんな状況に追い込まれた迅三郎たちを見ていると、かつての対馬での戦いを連想させる不吉な状況を思わされます。
しかしあの時と状況が異なるのは、迅三郎の周囲にいるのが無力な避難民たちではなく、己の牙持つ武士たちであることであります。
そしてその一人、天草水軍の大蔵太子が企てるのは、水城の周囲の水路から、水の流れに乗って小舟で打って出るという奇襲。確かに意表を突いた、そして敵陣に肉薄出来る手段ではありますが、しかし一度行ったら戻ることはできない出撃です。
しかしそれを迅三郎が厭うはずもありません。かくて迅三郎と猛者たちは、地獄に一直線の舟旅に乗り出すことに……
と、クライマックスに相応しい展開ですが、実はこれはまだ序の口。この先描かれるのは、それぞれ総力を結集した日本武士団と蒙古軍の全面対決なのですから。
ようやく駆けつけた援軍と合流し、かろうじて死地から逃れた日本武士団(しかし薩摩武士はここでもこんな扱い……)。しかし蒙古軍も集結し、戦いは一気に全面対決の様相を呈します。
被征服国を含めた多様な陣容でありながらも、それゆえに指揮命令系統としては強固な蒙古軍に対し、これまで散々描かれてきたように、軍兵の数は負けぬものの、皆基本的に横並びでまとまりがない日本武士団。はたしてその構図は今回も繰り返されてしまうのか。
「神風」という奇跡を否定し、否定された中で、決着をつけるには正面から勝負をつけるしかない状況で、戦いの行方は――と前振りを書けば想像がつくように、ここに来てついに少弐景資の下に結束する日本武士。
それが決して力や権威によるものでなく、共に死地を潜り抜けた者たちだからこその結びつきが――というのは、やはり大いに盛り上がるところであります。
そしてその中で迅三郎は相変わらずの活躍を見せるのですが、ここまで盛り上がったら流れ的に負けは考えられない、感じられてしまうのも痛し痒し。上で触れたように、今回は迅三郎の周囲が武士だけであるだけに、勝って当たり前に感じられる――というのは、これまでこの物語を読んできてナンセンスな感想ではあるのですが、改めて対馬での戦いが何であったか、考えさせられます。
しかしこれで戦いの決着はつくのか。思わぬ状況に置かれた両蔵の運命も含めて、物語の結末が気になります。
迅三郎本人は(というか本人たちも)全く意識していないところで繰り広げられている大蔵太子と輝日姫のヒロイン力勝負の方は、まあ別に……
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