« ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第16巻 都生まれ都育ち、時代の申し子の力を見よ | トップページ | 輪渡颯介『捻れ家 古道具屋 皆塵堂』 曰く付きの建物連発、消えた若旦那は何処に »

2024.04.20

青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第9巻 始まる新たな物語 新しい三人の関係?

 燕京を陥としたのも束の間、皇帝アグダを喪った金。アイラも、自分の想いに区切りを付けて金に帰国して――それから一年、第二部とでもいうべきこの巻では、ちょっと変化した人間関係の中で、新たな物語が始まります。金・宋・遼、三国の間で張り巡らされる陰謀の陰にいるのは……

 金が寡兵で攻め落とした燕京に手も足も出なかったにもかかわらず、戦後処理でぬけぬけと燕京引き渡しを求めるなど、横暴をつくした童貫。しかし、アイラと康王の奮闘に阻まれて童貫は失脚、アイラは金に帰ることになります。
 自分の心に整理をつけて白凜之に別れを告げたアイラですが、その一方で康王は自分の心に正直になってアイラに告白を……

 と、大きく人間関係に変化が生じたところで終わった前巻ですが、それから作中で一年が経ち、アイラが再び宋を訪れたところから、新たな物語は始まります。
 アイラが親善の使節として訪れるのは以前と同じですが、しかし大きく異なるのは康王の側。君はそんなに純情な青年だったのか――と驚くくらい、アイラの前では素直に恋する若者になってしまう康王の姿が、何とも微笑ましく、そして彼の一つの成長の証として嬉しく感じられます。

 そしてアイラの方も、父亡き後、自分にできることを考える中で、自分の立場を受け入れるようになります。それはそれで大人になる哀しみというべきかもしれませんが、しかし康王の真心は彼女もよく知るところ。むしろ彼の存在が、そんな彼女の決意を支えているのも間違いないでしょう。
(そして今回出番が少ないこともあり、完全に白凜之は過去の人になった感が……)

 アイラが父の喪に服しているため、ゴールインはまだ先ですが(それを指折り数えて待つ康王……)、しかし二人の幸せは遠からず訪れる――と思われたところに暗雲を感じさせるのは、やはり金と宋の、いや金と宋と遼の関係であります。
 燕京を喪って以来、その行方をくらませてしまった遼皇帝・アグー。彼に会うためには、ごく限られた者のみが手にできる割符が必要であり――言い換えれば、それが手に入らなければ、遼との戦いは終わらないのです。

 そんな矢先、アイラに接近してきた怪しげな男。件の割符を売るというあからさまに疑わしい話に、兄たちの力になるためにも敢えて乗るアイラですが、男は取り引きの最中に、何者かに襲われて命を落とすことになります。
 彼が今わの際にその名を呼んだのが、花街の妓女であると知った康王は、お忍びで妓楼に潜入するのですが……
(ここで康王の父・徽宗とあの女性の話題が出るのが何とも可笑しいのですが、それはさておき)


 このように、康王が完全に協力者になったことで、宋での冒険にだいぶ安心感が出たアイラ。康王にも彼女の直球ど真ん中の度胸が感染ったか、以前とは異なる積極的な姿が頼もしく感じられます。

 しかしそんな二人を以てしても、なかなかに闇が深いこの展開。殺された男は何故割符を持っていたのか、いやそもそも何故割符が宋にあったのか?
 その理由を探るうちに、これまで物語で暗躍していた(けれどもアイラたちはその事実を知らない)あの人物がその姿を現すことになるのです。童貫などよりも遥かに手強いあの人物が……

 一方、白凜之の方も、かつての婚約者であり、いまは徽宗の秘書室長というべき閻内省夫人という後ろ盾を得て、研究に打ち込む毎日。閻夫人も、この巻の表紙では何やら妖しげなムードですが、しかし実は白凜之とお似合いなところもあったりして――と、こちらはこちらでいい感じであります。
 しかし本当にそうなのかどうか。これまで「敵方」と行動を共にしていた彼女の真意が明らかになった時、白凜之もまた、再び物語の中心に引き戻されるのでしょう。


 そんな中、この巻の終盤では、康王の愛する妹・円珠にも、ある変化の兆しが描かれます。
 それは、この先の史実を知る者にとっては、微笑ましく、そしてまた同時に複雑な気分となるものなのですが――少々気が早いですが、これは厳然たる史実に対する、一つの救いというべきなのかもしれません。

 言い換えれば、この先待つのは、救いを求めたくなるほど厳しい史実ということなのですが……


『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第9巻(青木朋 秋田書店ボニータコミックス) Amazon


関連記事
青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第1巻 幾つものねじれの中の歴史ラブロマンス
青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第2巻 皇女の危機と帝姫の悲哀
青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第3巻 金と宋の関係、宋の中の事情
青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第4巻 三人の皇子 泰平の陰の争い
青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第5巻 ひとまずの別れ そして舞台は戦場へ
青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第6巻 舞台は金へ 三人の微妙な関係の行方は
青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第7巻 決戦燕京! 主役はオリブ!?
木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第8巻 三人の別れ、歴史の分岐点!?

|

« ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第16巻 都生まれ都育ち、時代の申し子の力を見よ | トップページ | 輪渡颯介『捻れ家 古道具屋 皆塵堂』 曰く付きの建物連発、消えた若旦那は何処に »