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2024.04.17

『鬼武者』 第弐話「魑」

 藩の侍らとともに苦手な吊り橋を渡り、件の村に入った武蔵。人影が見当たらない村を探索する一行は、一人隠れ暮らしていた少女・さよを見つける。村に何が起きたのかをさよに尋ねる一行だが、その時、怪物と化した村人たちが襲いかかる。無数に現れる村人たちに手を焼く武蔵たちだが……

 冒頭、お前の力だけでは幻魔には勝てないので、我ら鬼の力が篭った篭手に、幻魔の魂を食わせるとパワーアップするぞ、と武蔵に語りかける鬼の魂(?)。おお、わかり易く『鬼武者』だ、と感心しますが、当の武蔵は実は高所恐怖症で深い谷にかけられた吊り橋にてこずっていて――という、ちょっぴり武蔵の人間味を描いて始まります。
 というか人間味がありすぎる(要するにアバウトすぎる)武蔵に、師を失った五郎丸・平九郎は微妙な表情。師を信じたいみたいなことも言い出しますが、いや、前回既に君たちの師は立派に血迷っていたわけで――と観ている側が思っているうちに着いた村は、予想通りのゴーストタウンであります。

 単に人気がないだけでなく、戦いの跡まであるという状況の中、ここで登場するのが本作のヒロイン(?)のさよ。両親も含め、周囲が皆怪物たちの犠牲――というより怪物になってしまった状況で、一人逞しく隠れ暮らしていた少女というのは、ホラーアクションの定番でしょう。
 このさよ、デザイン的にはあまり媚び媚びしたところがなく、(このような境遇のわりには小綺麗な気もするものの)ごく普通の村の子供的ビジュアルなのは、好感が持てます。

 それはさておき、ようやく生存者を見つけたところに襲いかかってくるのは、幻魔――というかゾンビと化した村人たち。何だか元祖『鬼武者』は元々バイオハザードのエンジンを使って製作する予定だったという話を思い出しますが、とにかく真っ昼間の、比較的開けた村という、ゾンビ相手には色々な意味で適さない場所での戦いが始まります。

 ここでさよの守りを海全と佐兵衛に任せ、自分は五郎丸と平九郎とともにゾンビと戦う武蔵ですが――ちょっと驚かされるのは、二人に対して「足を斬って動きを止めてから首を落とせ」などと、ゾンビ相手に的確過ぎる助言を与えることでしょう。どう考えても経験者としか思えないのですが、一体これまでに何があったのか――そもそも、幻魔が絡んでいると知る前から鬼の篭手を借りだそうとしていたのも謎ではあります。
 しかしみんなこの助言に従わない! ゾンビ相手のチャンバラという、人類があまり経験していないシチュエーションに平常心でいられないであろう五郎丸と平九郎はともかく、言った武蔵本人が正面からバッサリ感なのは――まあ、武蔵くらい強ければいいのかしら。

 といってもあまりの数の多さに手を焼いた武蔵は、五郎丸たちが時間を稼いでいるうちに一計を案じて――と、ここで鬼の篭手を投入。雑魚相手にあっさり、という気もしますが、この辺りの使えるものは何でも使う感は、まあ武蔵っぽいと言えるかもしれません。しかし使えるとはいえ、自分と同じ村に暮らしていた皆さんがゾンビと化して襲ってくるという状況のさよを、いわば囮として使おうという無神経さはさすがにどうかと思いますが――まあ、戦国の余燼がくすぶる時代に武芸者やっている人間に配慮を求めても仕方ありません。
 もっとも、大塚明夫の声で喋る三船敏郎のビジュアルの宮本武蔵に、「指一本触れさせん」などと言われたら、もう安心してしまうのも事実ですが……

 そんなこんなで、村に残っていた鉱山採掘用の火薬で景気よくゾンビの皆さん(と村に残されていたさよの祖父母の亡骸)を火葬にして一件落着。いくら採掘用とはいえ、そして非常事態下とはいえ、これだけたくさんの火薬を村に置いておくか、という疑問は強く残りますが……
 しかしここで明らかになる裏の事情――村人が偶然金鉱を掘り当ててしまい、扱いに困って藩に届けたら、藩も扱いに困って口実を設けて人を送り込んだら、そいつがおかしくなって大変なことになった、というのは、なかなか時代劇らしくてよいと思います。

 そしてそれに対して、規模が大きすぎるからさっさと藩に復命して、幕府の力を借りてでも軍隊送り込もうぜ、という武蔵のある種の合理主義(いや、さよの保護もそこに含まれているのですが)も楽しいのですが――しかし村での戦いの合間にあの吊り橋が落とされていて、という、これまたホラーアクションでは定番のシチュエーションで次回に続きます。


 ちなみに武蔵の面白キャラぶりが印象に残りますが、腕利きだけど常識人感溢れる五郎丸と平九郎、口が悪い平九郎と正面からイヤミを言い合う海全と、周囲のキャラ描写も多いのは、評価できるところであります。(こうなると一人地味な奴が怪しいのですが……)


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