« 「コミック乱ツインズ」2024年6月号(その二) | トップページ | 高橋留美子『MAO』第20巻 ジョーカー幽羅子が真に求めるもの »

2024.05.20

『鬼滅の刃』柱稽古編 第二話「水柱・冨岡義勇の痛み」

 周囲に頑なな義勇と話してほしいというお館様の頼みを聞き、朝から晩まで義勇につきまとう炭治郎。自分は水柱の資格がないと語る義勇は、ついに自分の最終選別の際の出来事を語り始める。一方、しのぶはカナヲにある事を告げようとしていた……

 今回はサブタイトル通り義勇の過去編がメインですが、本編に入る前のアバンタイトルで描かれるのは、前回ラストで異常に声が良い、ラスボスみたいな声の鴉に産屋敷邸に招かれた珠世のその後の決断。ここは実は原作ではここで描かれていない場面で、ある意味この先の展開をわかりやすくするためかな、という気もしますが、珠世の回想の形で、戦国時代のあの場面が描かれるのに注目すべきでしょう。(もちろん、そこで何が起きたかが語られるのは、相当先ですが……)

 そして本編ですが――前回、「失礼する」「失礼すんじゃねぇ」、「俺はお前たちとは違う」と柱合会議で問題発言を連発した挙げ句、勝手に退場した義勇。自分ではもう動くこともできなくなったお館様は、それでも義勇の身を案じるという、無惨とは正反対の管理職の鑑のような精神を見せるのですが――そこで炭治郎に託すのは果たして正しかったのかどうか。
 一人屋敷に閉じこもる義勇に対して、ごめんくださいこんにちはと連呼した末に、応答もないのに勝手に侵入する。おそらく断りもせずに、文字通りの膝詰め談判の距離で義勇に話しかける。そして義勇に相手にされなくとも、昼夜を問わず場所を問わず、風呂やトイレ(の外)までつきまとう――もはや公然たるストーカーぶりであります。

 しかしそんな炭治郎に対する義勇の答えこそが、真の恐怖でしょう。義勇が炭治郎に対して感じていた怒り――その理由は炭治郎が水の呼吸を極めず、水柱にならなかったこと。何故ならば今は「水柱が不在」であり、「俺は水柱じゃない」から……
 それまでは炭治郎と義勇のあまりに噛み合わなさに笑っていたこちらも、「あっ、この人、本物だった……」と思わず言葉を失ってしまう戦慄シーン。今まで水柱として作中で扱われてきた人物が、突然それを否定するというどんでん返しに、炭治郎だけでなく、見ている我々も愕然となります。いやはや、『鬼滅の刃』全編を通しても、ここまで怖かったシーンはなかったでしょう。

 それでも負けずに、先に述べたようなストーキングを繰り返すのが炭治郎の炭治郎たる所以。もはや光のコミュ障vs闇のコミュ障の様相を呈してきたこの状況に、さすがに闇の側も耐えかねて、ついに自分がなんでそんなことを言うかの理由を語りだして……(あ、やはりお館様は正しかったのか)
 と、ここで原作のごく初期に登場した錆兎を登場させるのが見事で、そして義勇にとっての錆兎の存在を想像する時に煉獄さんを思い浮かべる炭治郎(ここでまたあのBGMのアレンジを流した上に、無限列車編からの映像を流すという――煉獄さんは何時まで我々を泣かす気なのか!)にグッときます。しかしまあこの辺り、身も蓋もないことをいえば、最終選別のシステムはどうしようもなさすぎただけなのでは――という気がします。確かに義勇が自分を恥じるのもわからないでもありません。
(それはさておき、原作ではよく見るとなんとなくいるレベルだった村田さんがはっきりその場にいるのはちょっと楽しいですが)

 なにはともあれ、前回の柱合会議での問題発言も、
「(俺は実際には柱の資格はないので痣も出せないだろうし、この場にはこれ以上いられないので)失礼する」
「俺は(名実ともに立派な柱である)お前たちとは違う(からこの場にいる資格なんてない)」
だったという――図らずも(?)しのぶの言葉が足りない発言が正解だったわけですが、もし真意が明らかになっていたらいたで、もっと周囲に怒られていたことは間違いありません。
 しかし、そんな面倒すぎる根性の義勇も、炭治郎が放った「錆兎から託されたものを繋いでいかないんですか?」という質問が(勝手に)クリーンヒットして改心。ここで最後まで義勇が語ればいい話で終わるのですが、何分本人の内面で完璧に完結しているので、炭治郎の面白発言に繋がってワヤになってしまうというのは、これはこれで、非常に鬼滅っぽいオチなのは間違いありません。

 そしてオリジナル台詞でなんとなくしのぶのことを気にする義勇にニヤニヤさせられるのですが、そのしのぶは――ということで次回に続きます。

 しかし蝶屋敷組といえば、義勇の元に行く前に、炭治郎がアオイに助言を求めるオリジナルのシーン、ここでのアオイの発言が全く役に立たなかったのは凄い――と思いましたが、自分自身(が戦えないこと)を引け目に感じている者という意味で、義勇に重ねてのことなのかもしれません。炭治郎には完璧に無視されましたが……


関連記事
『鬼滅の刃』柱稽古編 第一話「鬼舞辻無惨を倒すために」

|

« 「コミック乱ツインズ」2024年6月号(その二) | トップページ | 高橋留美子『MAO』第20巻 ジョーカー幽羅子が真に求めるもの »