「コミック乱ツインズ」2024年6月号(その一)
早くも号数の上で今年も半分過ぎたことになる「コミック乱ツインズ」誌、表紙は『鬼役』、巻頭カラーは『不便ですてきな江戸の町』。特別読み切りで『懊悩寺おつとめ日鑑』と『~江戸に遺る怪異譚~古怪蒐むる人』が掲載されています。今回も特に印象に残った作品を紹介します。
『前巷説百物語』(日高建夫&京極夏彦)
前回番頭たちから通報のあった睦美屋で起きたという怪異。それを調べるために睦美屋を訪れた南町の同心・志方たちは――というわけで、今回は怪異の「正体」が描かれることになります。
肉で満ちたという座敷の襖を無理やり開けてみた先にあったのは、恐ろしいほどに膨れ上がった女主人・おもとの変わり果てた姿と、同じ座敷の中で圧死していた亭主の音吉の亡骸。その場にやってきた学者の久瀬は、この怪異は「寝肥」だと述べて……
というわけで、既に材料は提示されていただけに、読者にとっては何が起こったのかほぼわかっている今回の「怪異」ですが、改めて絵としてみてみると、その仕掛けも思わず納得させられてしまうインパクトがあります。
この仕掛け、後の又市のそれとはまた異なる、『前巷説百物語』らしい荒削りさ乱暴さではあるのですが――それはさておき、その又市といえば、三十両の借金を背負ってしまい、最後の酒をヤケ気味に飲んでいる有様。そんな又市に一生懸命話しかけるおちかさんがいじらしくてカワイイのですが、それはさておきそこに現れたのは――
そういえばまだこの人が出ていなかった、という大物登場で今月は幕。次回で「寝肥」編は完結でしょうか。
『江戸の不倫は死の香り』(山口譲司)
読んだらだいたい厭な気分になるのについつい読んでしまう本作、今回は妻を亡くした初老の武士・今井が、牛天神参りの帰りに仇な女・おとはと出会ったことから始まる悲劇。
人並みに色好みではあれど、これまで本作に登場した男たちのようなギラギラしたものは感じさせない(中途半端に落ち着いた感じがまた厭にリアル)今井は、勝ち気なおとはの積極的なアプローチに深間になるも、実はおとはには夫と子がいて……
とくれば、なるほどこれで密通扱いで大変なことになるのだな、と思ったらここからが変化球。無事に想い想われ結ばれて、と思いきや――誰が悪いといえばそれは決まってはいるのですが、しかしもう少しどうにかならなかったのか、と暗い気持ちになります(いつも)。
冒頭と非常に厭な形で対になる結末も印象に残るのですが――天保10年の設定であれば、5月にしておけば、ラストで河鍋周三郎少年が……(やめなさい)
『ビジャの女王』(森秀樹)
今回も続くビジャと蒙古軍との総力戦――蒙古の最後の攻城塔がビジャの城壁にのめり込みながら倒れたことで、図らずも橋になってしまった状況で、必死に水際で蒙古兵を食い止めるビジャの兵ですが、ついに三人の蒙古兵がオッド姫に迫ります。
これまで城壁に一人立ち、督戦していたオッド姫。ビジャの城壁に守られていた状況、そして一兵も無駄にできない総力戦という状況では、彼女を守る兵はなく、もはやその運命は風前の灯……
というところで、この先どうなるかは伏せますが、また色々な意味で大胆だなこの人、という気持ちになる展開が待ち受けます。そして滅茶苦茶信頼されているな、とも。
まだまだ戦況はわかりませんが、ここでちょっと気になるのは、ビジャに突入した蒙古兵の中にいたムスリムの少年の存在。ナレーションによれば、次に登場するのはずっと先ながら、やがて大きな事を成すというのですが――このパターンは主人公側に碌な事がなさそうで不安になります。
残りの作品はまた次回に。
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