椎名高志『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第7巻 決戦、そして本当の再会の時!
この数巻はクライマックス続きのコミカライズ版『半妖の夜叉姫』ですが、いよいよこの巻ではこれまでの最大のクライマックス――大妖怪・是露との決着が描かます。かごめとりんが封印されるきっかけを作った是露を、果たして三姫は倒すことができるのか!?
京で是露と対峙したものの、苦戦を強いられた三姫。そこに現れた犬夜叉・かごめ・りんの精神の助けと、殺生丸の登場もあり、辛うじて是露を撃退した三姫は、肥前の麒麟丸の根城に向かいます。九州で琥珀と翡翠を仲間に加え、是露を追う三姫。いよいよ是露との決着は間近であります。
そしてこの巻では、冒頭から博多の海を埋め尽くす幽霊船の大軍が出現、緊迫した情勢となります。しかしこの大船団の向こうに是露が居ると察知した一行は、大胆にも是露の乗る大型船に乗り込み、決戦を挑むのです。
琥珀と翡翠が敵を引きつける中(ここでの叔父甥の会話が実に微笑ましい)、是露の元に急ぐ三姫と理玖・りおん。しかし、是露の居城ともいうべき場所に容易く乗り込めるはずもありません。
分断され、一人捕らえられたとわの前に現れた是露。彼女は、虹色真珠を自分の中に取り入れて……
是露が己の中から取りだし、砕いて捨てた心から生まれた虹色真珠。妖怪たちには力を与えるそれは、しかし人間であるりんとかごめの体を大きく蝕むこととなりました。そしてその結果、二人は封印され、母子が引き裂かれたのであります。
二人を救うには、虹色真珠を破壊するのでも、是露を殺すのでもなく、是露の中に虹色真珠を、心を戻さなければならない――そんな難しい状況にあったものが、是露が自ら虹色真珠を自ら戻すとは意外にも思えます。
しかしそれは、これまでとわたち三姫、そしてとわたち親子と対峙する中で、心に小さな変化が生じた彼女が、もう一度己の心と対峙し、己の真に恐れるものを知るためでした。
そこで是露が見た己の過去、己の本心とは――これ、無意識にタラシまくる犬の大将が悪いのでは? と身も蓋もないことを思わないでもありませんがそれはさておき、やはり是露の心の中にあったのは、犬の大将にまつわる様々な想いだったのです。
それに耐えきれず、己の心を捨てた是露がその事実を受け止めた時、はたして何が起こるのか――集結した三姫たちとの決戦は、意外な、しかしこれ以外はない結末を迎えることになります。
それが真に望ましいものであったのかはわかりません。しかし少なくとも是露にとっては、これ以外ない結末であったことは、せつなの所縁の断ち切りが示したものが語っていると感じます。
関わった者たちの胸に様々な想いを残して終わった戦い。それは物語の一つの区切りに相応しいものというべきでしょう。
そしてその先に待っているのは――今度こそ本当の、親子の再会であります。当然ながら(?)殺生丸はその場にはいないものの、これはこれで実に「らしい」りんの姿に微笑み、実に親らしくなった犬夜叉とかごめの姿に頷き――この時が見たかった、というほかない場面が次々と描かれます。
しかしこの場で最も胸を打つのは、とわとかごめの会話でしょう。かごめから見れば、とわは殺生丸の子であると同時に、自分の弟が親として育てた子。そんな合縁奇縁というほかない出会いから何が生まれるのかと思えば――いやはや、この角度から来るとは!
ここでこの小道具は、完全に(かごめを)泣かせに来ているとしか思えません。この瞬間だけ、かごめはもろはの親ではなく、『犬夜叉』の主人公のその後の姿であったと――そういうべきでしょう。
これまで『半妖の夜叉姫』ファンだけでなく、いやそれ以上に『犬夜叉』ファンの見たかったものを存分に描いてくれた本作。ここでもまた、ファンにとって最高の贈り物が描かれました。
(そして怖い顔をして実は大変に嫁・孫たちのことを気遣っていた御母堂様も素晴らしい)
そしていよいよ迫る麒麟丸との、妖霊星との決戦。もうここまで来るとこの先の展開は全く予想できないのですが――一つだけ言えるのは、この先も、ファンの期待に応える内容になるのは間違いない、ということでしょう。それを楽しみに、次巻までしばし待ちたいと思います。
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