「コミック乱ツインズ」2024年6月号(その二)
今月の「コミック乱ツインズ」紹介の続きであります。
『~江戸に遺る怪異譚~古怪蒐むる人』(柴田真秋)
今号二つある特別読み切りの一つは、初登場の柴田真秋による時代ホラー。これまで『WEAPONS&WARRIORS 武器と戦士たち』などファンタジー漫画を発表してきた作者が、時代ものを描くのはこれが初めてではないかと思いますが、舞台となる夜の闇の暗さが印象に残る作品です。
公務で尾張国は犬山に向かう侍・喜多村が渡し場で出会ったもの――それは逆立ちになって手と首で道を征く女の幽霊。驚いて刀を抜く喜多村ですが、川向うの村の庄屋の妻と名乗り、仇を討つために船に乗りたいという彼女の言葉を信じ、船頭を叩き起こすも……
という、まず逆立ち幽霊の画的なインパクトに驚かされ、そして次にその願いを叶えようとする喜多村の豪胆さというか律儀さに妙なおかしみも感じる本作。しかしその先に待つのは、逆立ち幽霊という凄絶な存在に相応しい恐ろしい結末であります。
物語的にはシンプルで、もう少し怪異を見ていたい気持ちもありますが、しかし、怪異に寄り添うような突き放すような喜多村の立ち位置から生まれる客観性は、不思議な後味を残します。(しかし首はどこに……)
冒頭に「シリーズ読み切り」と記載されており、作者のSNSでも新連載と記されていることから、これからも本作は登場するのでしょう。諸国の監察を任としている喜多村が、次に如何なる怪異に出会うのか、楽しみにしたいと思います。
『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
三村元親を明禅寺合戦で破り、西備前を手中に収めた直家。お互いの気持ちを確かめあったお福ともラブラブで絶好調――と、お福さんが直家に理解がありすぎて、これイヤ歴史小説だっりしたら絶対お福さんは裏があって直家に近づいていて、後で裏切る気まんまんにしかみえないのですが、さすがにそれは考えすぎでしょう。
それよりも裏切るといえば、直家の一応主君である浦上宗景は、勢力を伸ばす直家をついに切り捨てることを決定。以前から腹黒いところは見せていましたし、意外ではありませんが――当時の勢力図を見ると、浦上領と宇喜多領が面積上は同じくらいで、いやこれは宗景でなくとも危機感を覚えるでしょう。というか、いかにも黒幕っぽい大物感を出してる場合ではないのでは……
ついにお福と婚礼を挙げて幸せ一杯であっても、もちろんその動きに気付かぬ直家ではなく、それどころか彼の目は備前の外に向かいます。そこに現れるは、毛利、尼子、そして織田――と、新たなる強豪たちが登場し、ほとんど第一部完というノリで続きます。
『カムヤライド』(久正人)
己の命を擲って海と一体化し、マイナス1.0な感じで海上のヤマトタケルたちに迫る天津神フトタマ。オトタチバナ・メタルは自重を考えずに突撃して豪快に沈み、モンコはある意味緊縛要員で行動不能、残るヒーローはヤマトタケルの神薙剣だけという状況です。
次々とフォームチェンジを繰り返し、巨大なフトタママイナス1.0を撹乱しにかかる神薙剣ですが、パワーの源がニ=ギである彼は、地球の海の力を味方にしたフトタマに苦戦を強いられることに。そんな中、海に沈んだオトタチバナは……
結果だけみれば神話通り、海に飛び込んだオトタチバナ。しかし彼女が自爆したのは、フトタマに奪われた(向こうにしてみれば元に戻した)ワカタケを取り戻すためですが、この状況下で彼女にできることはないのか。そしてそもそも吸収されたワカタケは既に存在を失っているのではないか――その答えが、今回描かれます。
生まれも育ちも、姿形も力も全く異なるオトタチバナとワカタケ。しかしそんな二人をこれまで結びつけていたのは――その絆が二人を結びつける展開には、こちらもほう! と唸りたくなります。
(もっとも、今までオトタチバナの変身の技術・理屈が作中ではっきりと描かれていないこともあり、こういうことができるの? とちょっとすっきりしないところもありますが――いやもうこれはそういうものだと思うべきでしょう)
本当にこれでいいの!? と思わなくもありませんが、ワカタケの神話上での位置づけを考えれば、これもある意味納得。さて、ここからの反撃は……
次号は久々復活の『そば屋幻庵』が表紙&巻頭カラーで登場とのことです。
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