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2024.05.04

伊藤勢『瀧夜叉姫 陰陽師絵草子』第6巻 浄蔵激闘 そしてついに来たあの言葉!?

 映画『陰陽師0』が現在公開中ですが、こちらもある意味晴明と博雅の0からの物語では? という気もする『瀧夜叉姫 陰陽師絵草子』の第6巻は、いよいよ物語の核心に突入することになります。二十年前の出来事に関わる最後の人物・浄蔵を訊ねた晴明と博雅が知る事実とは……

 都で二十年前の平将門の乱に関係した人物たちを襲う、奇怪な事件の数々。その謎を追う晴明と(勝手についてくる)博雅は、俵藤太から、将門との壮絶な戦いの始終を聞かされることになります。
 その後、興の赴くままに訪れた月夜の朱雀門で、鬼面の美女と出会い、笛を交換して思うままに吹き鳴らす一時を得た博雅。実はこの美女こそは、将門にまつわる怪事を起こしている一党の重要人物だと知らずに……

 そしてついに二十年前の出来事を知る最後の、そして最も重要な一人・浄蔵のもとを訪れる二人。そこで浄蔵が語るのは――という引きで終わった前巻ですが、この巻の前半では、若き日の浄蔵と将門の首との、凄まじい争闘が描かれることになります。

 浄蔵の助けを得た俵藤太との死闘に敗れ、五体をバラバラにされながらも、なおも命を持ち、語るのを止めない将門の首。これを滅ぼす決意を固めた浄蔵は、密かに首を盗み出し、護摩行と称して、炎で滅せんとしたのであります。しかし如何に尋常ならざる法力を持つ浄蔵でも、俵藤太の神刀で斬られてなお生きながらえる首を焼き尽くすのは容易ではありません。
 かくて精神的・形而上的世界だけでなく、物理的世界でも壮絶な死闘を繰り広げる浄蔵。その末に、ついに首を灰にした浄蔵ですが、真の問題はその後に起きることに……


 と、まさかのこの巻の表紙独占となった浄蔵。これまで晴明が「此度のことは浄蔵様が一番深いところまでご存じなのかも知れません」とまで語りながらも、登場したのは二十年前に俵藤太に勝利の鍵となった鏑矢を与え、そしてその戦いの中に壮絶な加持祈祷を行ったくだりくらいでしたが、満を持しての登場は、待たされただけのものがありました。

 そもそも浄蔵は、ある意味晴明以上に怪人物というべき存在。加持祈祷を得意としただけでなく、天文・医学・卜筮・管弦・文章にまで秀でたマルチな才能人だっただけでなく、奇怪な逸話にも事欠きません。
 菅原道真の怨霊に苦しむ藤原時平のために加持祈祷を行った(がその怨念の前に諦めた)。八坂法観寺の塔が傾いたのを呪いで戻した。そして何より、一旦死した父・三好清行を復活させた――そんな人物の存在感が、ここでは違和感なく描かれます。

 そしてその最たるものが、ここで描かれる将門の首との戦いであることは言うまでもありません。法力による戦いは、これまでも無数の作品で描かれてきましたが、作者のイマジネーションと画力の限りを尽くして描かれる戦いは、ただ圧巻というほかありません。
(四天王召喚の件の凄まじいパワー!)


 しかし浄蔵の証言は、この奇絶怪絶な戦いに終わりません。その後に彼が語った言葉こそは、これまで断片的に語られてきたことを繋ぎ合わせ、「敵」の目的を浮かび上がらせるものなのですから。
 第四巻・五巻で描かれた二十年前の戦。第三巻で描かれた(そしてこの物語の始まり自体で晴明も関わった)百鬼夜行の晩の惨劇。さらに五巻で描かれた将門公と謎の男の会話(いわゆる将門岩の逸話)――そこに「今」起きている怪事の数々を重ね合わせて明らかになった恐るべき目的とは!

 と、これはまあ神の視点を持つ読者にとってはある程度予想がつくものではありましたが、こうして数々の伏線が結びつき、ついに巨大な像を結ぶ様は、やはり圧巻というべきでしょう。

 しかし真の圧巻は、その先にあります。これ以上博雅を巻き込まないために、同行を断ろうとする晴明。しかし博雅がその手を取って同行を告げる言葉こそは――来た! ついにあの言葉が来た! と言いたいところですが、それが過渡期ともいうべきか、微妙に異なるものであるのがまた興味深い。
 思えば本作の互いの呼び方は「晴やん」「博雅様」と(前者はともかく)他人行儀なのですが――それがいずれ対等のものになるのでは、これから晴明と博雅の物語が真に始まるのでは!? とテンションも上がってしまうのです。


 そしてさらに容易ならざる真実が明らかになりながらも、その決意を示すように晴明と共に文字通り爆走する博雅。俵藤太も加わり、風雲急を告げる中、ついに現れたのは――と、始まりどころか都が終わりかねない状況の中、非常に良いところで次巻への引きとなります。


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