『鬼武者』 第肆話「魅」
さよを救い出すため、指定された破れ寺に足を踏み入れた武蔵一行。そこで待ち受けていたのは、二十年も前に武蔵に倒されたはずの吉岡三兄弟だった。幻魔と化して甦った三兄弟に、鬼の篭手を装着した挑む武蔵。一方、平九郎らは伏鐘の中に閉じこめられ、火を付けられたさよを助け出そうとするが……
気がつけばもう折り返し地点の本作ですが、今回描かれるのは、いわば中ボス戦ともいうべき展開――前回登場した謎の三兄弟との決戦が繰り広げられます(三人まとめてというのがまた中ボスっぽい)。
謎とはいいつつ、前回のクレジットで既に正体は吉岡三兄弟とわかってはいたのですが、本作においては既に武蔵に斬られて死んだはず、という扱い。その詳細は語られませんでしたが、武蔵が亦七郎相手に、七十人集めても俺に勝てなかった云々と煽りを入れるところを見ると、巷説のような(あるいは武蔵を描くフィクションの大半のような)経緯で倒されたのでしょう。
つまり、清十郎が道場で武蔵に倒される→報復に向かった伝七郎が返り討ちに遭う→亦七郎が一乗寺下り松で吉岡一門総出で武蔵を討とうとするも亦七郎だけ斬って武蔵が逃げる――という流れですが、ある程度この辺りの知識がある人間ならともかく、(吉岡一門の説明はあったものの)もう少し描写があった方が、因縁の対決ということで盛り上がったのではないかと感じます。
(Netflixということで、海外展開が前提なわけですし……)
そしてこの吉岡三兄弟、既に二十年ほど前に死んでいるとのことですが、そんな時間の隔たりもなかったように復活するというのは、ちょっと何でもありになってしまい、個人的にはどうかなあと感じます。というか、対武蔵以外にはあまり意味がなさそうなので、武蔵が来ることを予想して復活させたのでしょうか……
と、色々と考えてしまいますが、戦いの方は、幻魔化して腕のリーチが伸びた清十郎、同じく全身の筋肉が異常に発達した伝七郎、足が異常に発達した亦七郎と、三人それぞれ違う部位がパワーアップし、それを用いた連続攻撃を放ってくるというのが基本パターン。三人がかりで一人を襲うというのは、武芸者としていかがなものか――と、幻魔にそんなものを求めるのが間違っているわけですが、亦七郎など登場時点で武蔵の懐に瞬間移動して、ほっぺたを舐めて離脱するという、文字通りの舐めプをしたりするくらいで、余裕と自信はたっぷりあるのがわかります。
対する武蔵の方も、最初から鬼の篭手を装備して全力で勝負する体勢ですが、やはり三対一というのはどう考えても不利で、押されまくった末に大ダメージを受けて昏倒するまで追い込まれることになります。
いや、武蔵にも仲間たちがいるわけですが、こちらは人質に取られたさよ救出に忙殺されることになります。地面に伏せた寺の鐘の中に閉じ込められ、しかも周囲に巻いた縄(?)に火をつけて燃やすという、変形の道成寺パターンになり、放っておけば蒸し焼きというさよを助けるために、佐兵衛・平九郎・海全は必死に鐘をひっくり返そうとするのですがこれが難しい。
梃子の原理で悪戦苦闘する中で、何と海全は燃える鐘に手をかけると、自らの手のみならず体が焼け焦げるのも構わず鐘を倒すべく力を込め――と、ある意味こちらの方が盛り上がります。
一方、武蔵の方も追い込まれて覚醒――というより鬼の篭手に意識を乗っ取られて大暴れ。それでも武蔵は二刀だが俺たちは三人、つまり刀は三本あるから武蔵は勝てない! という説得力があるのかないのかわからないロジックで挑む吉岡三兄弟ですが――予想通りというべきか、前回討たれた五郎丸の忘れ形見・鷹の次郎丸の乱入に体勢を崩され、特に伝七郎はズババババッサリ感を決めらた末に、皆仲良く魂を鬼の篭手に吸われる羽目に……
しかしそれでも鬼の篭手は満足しないのか、虚ろな表情で敵の亡骸にザックザックと刀を突き刺すという、かなりコワい状況になってしまった武蔵。しかしそれを最後の力を振り絞った海全が止めて武蔵も正気に戻り――何だかすっきりはしないものの、何とか勝利であります。
そして息を引き取る海全。侍を嫌い(理由は結局語られませんでしたが)、武蔵だけでなく他の面子にも冷然と接してきた海全ですが、その最期の姿は、決して彼が頑なだけの存在ではなかったことを示す、一つの大往生であったかと思います。
一方、吉岡兄弟など所詮捨て駒、と嘯く伊右衛門の傍らには、やたらと長い刀を背負った剣士が――ああやっぱりこの人もいるのね、というところで、物語は後半戦へ……
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