「コミック乱ツインズ」2024年7月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2024年7月号の紹介の続きです。
『ビジャの女王』(森秀樹)
今回も続くモンゴル軍のビジャ攻め――最後の攻城塔を倒したものの、それがかえって城壁を崩壊させて、窮地に陥ったビジャ。城内に潜入してオッド姫を狙った敵兵は、密かに彼女の傍らに控えていたブブが撃退したものの、まだまだ蒙古軍の攻勢は続きます。
さしものモズも「こりゃあ、まいったな!」と冷や汗タラリしている一方で、オッド姫の豹とブブの仲間の巨大イナゴ・墨蝗(やっぱり虫部隊の成果だったりするんですかね……)が仲良く戯れるという異常な状況ですが、それはさておきラジンの父・フレグからの伝令が状況を動かします。
伝令が伝えたフレグの指令とは、そしてその原因となったものは――なるほど、ここでこう繋がるのか、といったところですが、多民族混成部隊というモンゴル軍の特徴を突くのは、さすがは、とうべきでしょう。(そして本当に久しぶりに登場、言われなければ誰だかわからなかったノグス!)
これで戦いは振り出しにと思いきや、状況はまだまだ転がり、さてラストシーンの先に描かれるのは――これまた気になる引きです。
『かきすて!』(艶々)
任務のため、鵜沼宿(今の岐阜県各務原)に向かったナツ。子宝祈願の祈祷に向かう、とある武家の奥方の護衛が今回の任務ですが、新たに側室を立てようとする一派が、神社に奉納する御神体を奪うなどの妨害を企んでいる――というわけで、その御神体の守りをナツは任されることになります。
しかし問題は、その祈祷が行われるのが田縣神社の豊年祭で――と、ここで噴き出す人もいるかもしれません。
田縣神社の豊年祭とは、要するに男性自身を模した神輿を担いで練り歩くという奇祭。それを女性が撫でるとご利益があるという――昔はおおらかというかなんというかですが、ナツにとっては目のやり場に困る祭りであります。そしてこの手の話となるとやっぱり登場するのは、敵方に雇われたナツのライバル(?)、スタイルは良いけれどもそっちの知識はどっこいどっこいのイト!
というわけで、跡継ぎの不在からのお家騒動というのはよくある話ですが、奇祭の盛り上がりを背景に、おぼこい忍び同士がわちゃわちゃ戦うという微笑ましさは、非常に本作らしいと思います。
御神体争奪戦のオチは誰もが予想する通りなのですが、今回はそれがいい。主人公の性格と任務、そして艶笑要素が見事に結びついて、個人的にはこれまでの本作の中でもベストエピソードかもしれません。(そんなに気に入った!?)
『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
三村家との激闘に勝利し、さらにお福さんを娶ってと、ノリに乗っている直家。しかし一応主家の浦上宗景に目をつけられ――と、まだまだ前途多難な状況で、直家は松田元輝・元賢を次の狙いに定めます。
しかし問題も問題、大問題は、先妻との娘が、元賢に嫁いでいることで……
と、いつかは出るだろうと思われた、娘の嫁入り先攻略、いわゆる『宇喜多の捨て嫁』話。女性が政略の道具に使われる戦国の世らしく、自分の娘が嫁いだ先を攻撃するという話自体はあまり珍しくないような気もしますが(それはそれで本当にひどい世界ですが)、直家の場合に特に問題視されるのは――少なくとも本作の場合は、娘の母つまり先妻が、彼女の父を直家が攻め滅ぼしたことで命を落としているためでしょう。
当然というべきか、そんな父に反発する娘ですが、それをあの子も自分の意思を持つように――といい話のように描くのは、ギャグとはいえブラックすぎるかと思います。しかしそれ以上にインパクトがあったのは、そんな直家の策を平然と受け入れるお福で――いや、直家よりもよっぽどこの人の方が真剣に怖いです。
『カムヤライド』(久正人)
運命の走水決戦もついに決着――海水と一体化して巨体で迫る、フトタマことアマツ・シュリクメに取り込まれたワカタケを救うため、メタルボディに魂を宿す時のロジックで、自らの魂とワカタケのそれを入れ替えるという荒技を見せたオトタチバナ。オトタチバナの肉体に宿ったワカタケが見守る中、彼女の最後の戦いが始まります。
その絵柄が本当にシュールなのはさておき、水と一体化して不定形となった相手(さらに言えば、明確には描かれていないものの、自らの存在を幾つにも分けることができる相手)の動きを封じるために、この手があったか! というか、この人しか使えないなこの手段――というところからの、説得力十分のフィニッシュは、決戦に相応しいものであったかと思います。
その後のオチもホッとさせられる(かなあ……)ものですが、その一方で今回はツッコミなのかボケなのか、妙な立ち位置だったのがタケゥチ。「ええと?」連発は仕方ないにせよ、「忘れていました」は流石にいかがなものか。いや確かに、あまりにも描かれないのでこちらももう解決したのかと思っていましたが……
そんなこんなで、次回、重要な真実が明かされそうです。
次号は、3号連続掲載の特別読み切り(読み切りとは?)『口八丁堀』(鈴木あつむ)が掲載。シリーズ連載の『~江戸に遺る怪異譚~古怪蒐むる人』(柴田真秋)も掲載とのことで、楽しみです。
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