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2024.06.16

よしおかちひろ『オーディンの舟葬』第2巻 歴史のうねりに呑まれた復讐鬼二人?

 11世紀初頭のヴァイキングのイングランド侵攻を背景に描かれる復讐譚、第二巻であります。狼に育てられた青年ルークと彼の仇であるヴァイキング・白髪のエイナルの激突は、ヴァイキング王そしてイングランド軍の思惑も絡み展開していくことになります。

 幼い頃から二匹の狼と共に育ちながらも、村の神父・クロウリーに保護され、人間性を取り戻していったルーク。しかしヴァイキングの襲撃を受けた村で、クロウリーは白髪のヴァイキングによって首を落とされ、ルークも片目を奪われることになります。
 十年後、本格的な侵攻を始めたヴァイキング王・双叉髭のスヴェンの軍勢を次々と襲撃し、壊滅させていくルーク。そして二匹の狼を連れた隻眼の彼は、ヴァイキングたちから「戦狼(ヒルドルヴ)」と呼ばれるようになるのでした。

 そしてついに仇である白髪の男・エイナルと相まみえたルーク。しかし、二人が激しくぶつかり合う最中にイングランド軍が横槍を入れたことから、ルークはエイナルに深手を負わされて……


 そんな大いに気になる展開から始まる第二巻ですが、ルークの復讐行は、イングランドとヴァイキングという二つの勢力の間で翻弄されていくことになります。

 そもそも本作の背景となっているのは、11世紀初頭のスヴェンによるイングランド侵攻。ヴァイキングの猛攻によってイングランド王が逃走、ついにロンドンにスヴェンが入る――というあまりにドラマチックな展開(そしてそれが史実であること)には驚かされますが、当然、イングランド側が指を咥えて見ているばかりではありません。
 体勢の立て直しが必要な状況の中、単身でヴァイキングと戦い、壊滅させるルークのような存在がいれば、それを利用しない手はない。そんな思惑からルークの前には、奇妙な目出し帽の少年アラン・ミューアが現れます。

 明らかに胡散臭い風貌ながら、賢人会議(国王や聖職者・貴族等から構成される会議体)の使いを名乗るアラン。当然、ルークにとってはイングランドも賢人会議も知ったことではありませんが、深手を負った上、エイナルに兄弟同然の狼・フィーを連れ去られたことから、やむなくアランに協力することになります。

 その一方で、エイナルも複雑な立場に置かれることになります。ルークの復讐の相手でありながら、実は彼自身、叔父に当たるスヴェンに両親を殺された復讐鬼でるエイナル。正体を隠して機を伺う彼は、ルークを逃したことでスヴェンから散々に屈辱(本当に野蛮人……)を味合わされた末、その息子・第二王子クヌート付きとされるのでした。
 ボンボンのようで食えない少年である(そして実は従兄弟である)クヌートに振り回されるエイナルもまた、アランの策に巻き込まれていくことになるのです。


 個人のドラマが、巨大な歴史のうねりと結びつくことにより、新たなドラマが生まれる――歴史ものの醍醐味は、そこにあるといえるでしょう。そしてこの点は、個人の復讐劇が国の興亡と結びついていく本作においても同様であります。

 その点は相変わらず魅力的なのですが、しかし正直なところ、この巻ではルークとエイナルのドラマは、巨大な歴史の流れの前に霞みがちに感じられます。
 というより、この巻の時点では、そうした巨大なものの代理人というべきアランに脚光が当たり、二人(特にルークの方)が完全に食われているという印象が強くあります。

 そんなこの巻でのアランの重みは、終盤ほぼ一対一でスヴェンと対峙するのが彼であるという点にも表れているといえるでしょう。あるいは、行動原理が明確すぎるルークは、混沌とした時代を描く歴史ものを引っ張っていくのには、あまり向いていないのかもしれませんが……

 いずれにせよ、まだまだ二人の復讐鬼には、歴史の中に埋没してほしくはありません。この巻のラストで再び出番の回ってきたルークが、次の巻で不安を吹き飛ばすような活躍を見せることを、期待したいところです。


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