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2024.06.17

「コミック乱ツインズ」2024年7月号(その一)

 早くも今年も(号数の上では)もう後半戦、「コミック乱ツインズ」7月号は、表紙&巻頭カラーが連載再開の『そば屋幻庵』。レギュラー陣もほぼ勢揃いであります。今回も、印象に残った作品を一つずつ取り上げます。

『そば屋幻庵』(かどたひろし&梶研吾)
 というわけでVIP待遇でお帰りなさいの幻庵ですが、お話の方は普段着の内容なのが、これはこれで実にらしいところでしょう。

 網五郎の語る名物・出雲そばに興味津々の玄太郎。当然の如く幻庵でも早速チャレンジしますが、意外にもちょっと物足りない味と、磯吉に言われてしまうのでした。
 おりょうの方が上手いと言われ、常磐家に押しかける玄太郎。おりょうはおりょうで、この機会を利用して、常磐家から逃げ出そうとするのですが……

 というわけで、常磐家の人々にフォーカスされた印象もある今回ですが、その中でもやっぱり台風の目はおりょう。本作の女性陣の中でも、バイタリティでは一番の彼女らしく、今回も周囲を引っ掻き回しますが、しかしお人好しなのもいつも通りであります。
 おりょうにかかれば玄太郎もウザいオヤジ扱いなのが愉快ですが、物語は収まるべきところに収まって、微笑ましい結末を迎えます。実に安心できる「いつもの味」というべきでしょう。


『鬼役』(橋本孤蔵&坂岡真)
 気が付けば連載陣で唯一の剣士(というか真っ当なお侍)が主人公の本作は、今回から新章「商館長の従者」に突入。タイトルから察せられるように、物語の背景となるのは、長崎出島のオランダ商館長(カピタン)――その江戸参府から、矢背蔵人介の新たな戦いが始まります。

 ことの起こりは、カピタンの将軍拝礼の後の「蘭人御覧」――要は幕府の人々がカピタンらオランダ人を見物するというイベントですが、そこでカピタンが自分が連れてきた武芸自慢の男を披露(「〝鉄の棒〟が如き異人じゃ!!」という将軍家慶の表現がおかしい)。二本の棒を自在に操るこの男は、攘夷大好きの水戸藩が送り込んだ藩士を一蹴するのですが――ここで橘右近が、次なる対戦相手として、蔵人介をいきなり推薦するのでした。
 相変わらず碌なことをしない橘ですが、異国の武術者との決闘は、ある意味剣豪ものの華。もちろん主人公の貫目をきっちり見せる蔵人介ですが――もちろんこれが発端となって、またもや蔵人介は新たな役目を背負い込むことになります。本当に何でもやらされる鬼役……(というか何でもやらせる橘)


『前巷説百物語』(日高建男&京極夏彦)
 原作完結編の発売も目前ですが、こちらは又市最初の仕掛け「寝肥」の完結編。お葉の殺しは、睦美屋で起きた寝肥の怪事に紛れて有耶無耶になりましたが――今回はその真相だけでなく、損料屋・ゑんま屋のお甲の口から、さらに意外なもう一つの真実が語られることになります。

 夫の音吉を殺し、さらに自分を殺そうとした睦美屋の女将・おもとをはずみで殺してしまった――そんな境遇に陥ったお葉を救うためにゑんま屋が仕組んだ寝肥の怪事。その真相は、角助・仲蔵をはじめとする面々によなはる仕掛けで――というのは、話の流れ的に明らかでしたが、今回はそれを又市の目から描く点がユニークです。
 もっともそれは原作の時点で同様なのですが、読み比べてみるとこの漫画版においては、そのディテールを独自の描写(又市をはじめとする一味のやり取りなど)で補完しているのが面白いところでしょう。そして何よりも印象的なのは、又市が音吉の顔を見ようとして、結局果たせない――そしてその後も音吉の顔は作中ではぼかして描かれる点であります。この辺りは、漫画だからこその表現というべきでしょうか。

 その描写の補完は今回の後半――お甲が語る今回の依頼の裏側、音吉・おもとそしてお葉の関係の真実を描く中でも効果的に働いています。特におもとの「人間性」の描写は、一歩間違えるとまさに不良子犬理論になりかねないところを、彼女の不安定な人間性の表れとして描いていたのが印象に残るところです。
 そして結末では、その本作ならではの描写でもって又市の青臭さを描いた上で、又市の仕掛け稼業の始まりがきっちり決まっており、ここから始まる『前巷説百物語』のこの先も期待できそうです。


 残りの作品は次回に紹介します。


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