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2024.06.05

平松伸二『大江戸ブラック・エンジェルズ』第5巻 ついに登場! 二人の黒い天使

 まだまだ戦いの種は尽きない江戸の黒い天使たちですが、この巻では、いつかは登場するだろうと思われたあの二人がついに登場します。その美貌で知られる辰巳芸者・麗羅と、彼女の忠僕・水鵬――幕府に恨みを持つ二人の運命が、雪士そして松田と交錯します。

 天の裁きは待ってはおれぬ、はらせぬ恨みを四(死)両で晴らすという深川のお晴らし地蔵。鷹屋の紹介で評判の辰巳芸者の麗羅と知り合った雪士は、ある事件がきっかけで、お晴らし地蔵の正体が、麗羅と彼女に仕える水鵬であることを知るのでした。
 しかも彼女にはさらなる秘密がありました。かつて次々と藩主一族が暗殺され、お取り潰しとなった越前海原藩。実は零羅は藩の姫君であり、水鵬は幼馴染の水城鵬一郎であったのです。そして二人の仇は、鷹屋の仇でもある将軍御側御用人・鬼橋芥舟でした。

 一方、百畳の紙に絵を描くための筆を求めて品川にやってきた松田は、沖に迷い込んできた鯨のヒゲで筆を作るために鯨と対決。水鵬の助けで見事鯨を仕留めるのでした。
 その筆で富岡八幡宮で百畳の紙に挑む松田ですが、それを風紀紊乱と見て取り締まろうとする鬼橋は、配下の公儀隠密・叢雲主膳に妨害を命令。そしてその叢雲こそは、かつて海原藩お取り潰しに動いた隠密で……


 本作の原典(?)ともいうべき『ブラック・エンジェルズ』で、雪藤・松田と並び、ブラック・エンジェルズの主力として活躍したナイフ使いの麗羅と、水使いの水鵬。リアルタイムの読者としては、特にその壮絶すぎる最期もあいまって、水鵬には特に思い入れがあります。
 松田を挟んで微妙な関係にあったこの二人は、続編(といっていいのかなあ……)の『ザ・松田 ブラックエンジェルズ』にも登場しており、いずれこちらにも登場することは間違いないと思っていましたが――ここに満を持しての登場であります。

 しかも麗羅は相変わらず(?)四の付く数字で悪人退治を請負い、水鵬はその麗羅に秘めた想いを寄せ――と、『ブラック・エンジェルズ』を踏まえた設定なのも心憎いところです(さすがに水鵬は水は操れないようですが、「水流×××」という名の技を見せてくれるのも嬉しい)。


 さてこの二人、物語の縦糸であろう御用人・鬼橋芥舟の陰謀に立ち向かうという点で、鷹屋たちとも同志というべき存在。当然ながら、物語の方は、鬼橋との戦いが前面に出てくるのですが、その流れに、当人は全く意識せず飛び込んでくるのが松田であります。
 今回は(今のところ)悪人退治には噛まず、本人はでっかいことをしたいだけで鯨獲りや百畳の絵に挑戦するわけですが、当然ながらそれが滅茶苦茶目立ちます。それが結果としては鬼橋に目の敵にされて、麗羅たちと同じ敵に襲われるわけですが――物語の流れに関係なかった松田がいきなり中心に飛び込んでくるのは、違和感をかんじないでもありません。

 確かにそれはそれで実に松田らしいのですが、『ブラック・エンジェルズ』より後の作品で、松田のウェイトが大きくなりすぎて、他を完全に食ってしまったのを思い出すと、ちょっと複雑な気分になります。


 そしてもう一点、全く関係ないところでうるさいことを言うと、敵方のキャラクターの髪型が奇抜すぎて、物語よりもそちらの方が気になってしまったりするのも、ちょっと困りました。
 特に(これはまだ現時点では敵か味方かわかりませんが)今回初登場の将軍・徳川家福の髪型は、これはさすがに……


 などとあれこれ書きましたが、やはりこのメンバーが異能の暗殺者たちと激突するのは、大いに盛り上がります。いよいよ敵の存在を知ることになった松田、そして今回は出番は控えめだった雪士が、敵といかなる戦いを見せるのか、楽しみにしたいと思います。

(ちなみに細かいところですが、浅草の貧民窟の住人が、麗羅たちの仕事の後始末をしているという設定は、この手の作品としてかなりユニークだと思います)


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