十三野こう『ごぜほたる』第1巻 そして少女は瞽女を目指す――?
ゴゼ=瞽女を題材にした作品ということで、連載開始時に私の周囲でも驚いていた人も多かった漫画の、単行本第一巻が発売されました。父も母もなく、己の目の光も失ったホタル――ゴゼの一座と出会い、自分もゴゼを目指す彼女の行く手にあるものは……
幼い頃に母を失い、父も行方知れずとなった少女・ホタル。それでも祖父の家で幸せに暮らしていた彼女ですが、ある日、彼女の目が見えていないことが明らかになります。
光を失い、塞ぎ込んでいたホタルですが、ある晩、祖父の家に訪れた旅芸人たちの音曲を聴いて大きな衝撃を受けるのでした。
彼女たちがゴゼ――盲目の女芸人であると知り、自分もゴゼになりたいと強く願うホタル。そんな彼女に、ゴゼの親方・おユキは、幾つもの試練を課します。
しかしホタルは再び村におユキたちが訪れるまでに試練を達成し、弟子入りを認められることになります。父が、伝説の変若水を求めて旅立ったことを知った彼女は、人並み優れたゴゼであり、どこにでも旅することができるという塗香のゴゼを目指す決意を固めるのですが……
近代に至るまで、この国の各所で現実に存在していた盲目の女芸人・瞽女。目明きの案内人に連れられ、三味線を手に各地の村々を渡り歩き、芸を(時にはその身も)売った人々であります。
その存在は広く知られつつも、これまでフィクションのメインとなることはほとんどなかった瞽女。それ故、この瞽女をタイトルに据えた物語が始まった時には、大いに驚かされました。
実際には、単行本の解説ページによれば、あくまでも和風の世界を舞台にした物語で、現実の瞽女を描いたものではない――これについては思うところもありますが後述――のですが、それでも大いに貴重な作品であることは間違いありません。
正直なところ、この第一巻の時点では物語がどこに向かうのかはまだわからないのですが、おそらく(まず間違いなく)ゴゼとして――芸能者として稀有の才能を持つホタルの成長を描く物語となるのでしょう。
その一方で、ファンタジー的な要素も物語にはあります。死の床にあったホタルの母を一時甦らせた変若水、そして何よりもそれをホタルの父にもたらし、その後も幾度か彼女の前に現れた謎の女性――特に顔の半分が岩か鱗のように硬質化し、片目が剥き出しになった女性の存在は、物語に謎めいた影を落としています。
その意味ではどこに転がっていってもおかしくない、様々な可能性のある物語ですが――やはり個人的に残念に感じてしまうのは、先に述べたように、本作は空想世界の(言い換えれば現実世界の過去ではない、パラレルワールドの)瞽女の物語であることです。
確かに扱うには色々と難しい要素もある瞽女ではありますが、しかしそれがあるからこそ、瞽女は瞽女なのではないか。そしてだからこそ、現実に存在した彼女たちを題材とする意味があるのではないか……
(特に、「石童丸」や「信徳丸」など、作中で題材となる歌は現実のものであるだけに……)
空想世界と宣言しているだけ誠実であることは間違いありませんし、本当に大変であることは理解できますが――ホタルの素直に共感できる明るいキャラクターといい、瞽女いやゴゼたちが音曲を奏でる場面の絵といい、漫画として魅力的であるだけに、やはりもったいない、という気持ちは残るのです。
野暮は承知ですが、やはりこの作品を紹介する上では述べておくべきことと思い、最後に触れさせていただいた次第です。
『ごぜほたる』第1巻(十三野こう 集英社ジャンプコミックス) Amazon
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