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2024.07.31

栗城祥子『平賀源内の猫』 第11話「欠片さがし」

 長らく「お江戸ねこぱんち」誌に連載され、現在はwebコミックとして発表されている『平賀源内の猫』の最新エピソードが刊行されました。平賀源内の家のお手伝いで赤毛の少女・文緒が、源内そして帯電体質の猫・エレキテルと共に様々な出来事に出会う物語は、今回文緒の過去に迫ります。

 幼いうちに医者の父が亡くなった後、生まれついての赤い髪を継母や村の人々に疎まれ、逃げるように江戸を出て平賀源内の家に住み込みで奉公することになった少女・文緒。
 破天荒な性格で博覧強記の源内、源内の家に住み着いたひねくれ猫のエレキテルとともに、様々な出来事、様々な人々に出会ううちに、彼女も少しずつ成長していきます。

 しかし彼女には、何やら出生の秘密がある様子。その赤い髪はもちろんのこと、彼女の手には、幼い頃から地図上のオランダの形をした痣、いや焼き印の痕があったのです。
 道具の方のエレキテル修理の傍ら、伝手を辿ってその過去を調べる源内ですが、どちらも難航して……


 という展開を経てきた本作ですが、今回はいよいよエレキテルの心臓部というべきライデン瓶を源内が復元に成功――だけではなく、源内の生涯でも大きな出来事が描かれることになります。
 源内が出羽秋田藩主・佐竹義敦に招かれて鉱山開発の指導を行う――史実では1773年でのことですが、今回源内と文緒、エレキテルはその秋田を訪れることになるのです。

 今回名前は登場しなかったものの、絵画好きの義敦の口から、自分よりも上手いという藩士の存在が語られ、この先の展開も楽しみなのですが――しかし本作においては、この秋田行きには裏が存在します。
 本作ではこの秋田行きは田沼意次からの紹介によるものなのですが、実はこれは、江戸から離れた地で気を緩めた源内の口から、何事かが漏らすのではないか、という狙い。密かに源内が国禁であるオランダとの文通を行っていることを察知した意次は、御庭番・倉地に命じて、源内の真意を探っているのです。

 これまでも描かれてきたその疑いが、今後どのように物語を左右するのかわかりませんが――しかし今回は、もう一つそれ以上に大きな出来事が描かれることになります。

 冒頭に触れたように、幼いうちに父を喪い、実の母も知らぬまま育った文緒。父を喪った後は不幸な暮らしを経てきた彼女は、今回秋田への旅の途上、故郷の村を通ることになります。彼女にとってはトラウマに近い思い出が残る故郷――しかし源内との暮らしで成長した彼女は、それと向き合うことを決めたのです。
 そしてその結果、彼女が知ったものは、その勇気に見合ったものだったというべきでしょう。彼女にとってはもはや思い出というより都合の良い幻ではないかとすら感じていた父の記憶――その真実が明らかになったのですから。

 そして個人的にそれ以上に印象に残ったのは、彼女の「継母」の真実でした。
 文緒の赤毛を疎み、辛く当たってきた継母、いってみれば典型的な継子いじめの悪役として描かれてきたこの人物について語られたことは、わずかではあります。

 そこに垣間見えた彼女の心、感情の揺れは、文緒のことを考えれば同情できるとは言わないまでも、しかし何かしら理解できる――そう感じられるものであったのは、意外ではあるものの、しかしこれまで人の情を細やかに描いてきた本作らしいと感じます。


 しかし、今回はラストに最大の衝撃が待ち受けます。文緒がかつての父の部屋で見つけた、破かれた紙片。源内が復元したそれに記されていた言葉はなんであったか――それは全く思いもよらぬその言葉だったのです。
 はたしてそれが意味するものはなにか? こちらの想像以上に大きく膨らんでいく物語の次回が、今から楽しみです。


 ちなみに本作の第一話が、リニューアルされた「ねこぱんち」誌に再録されているとのこと。今回に繋がる内容であると共に、純粋に単体で見てもよくできた作品だけに、できるだけ多くの方に手にとっていただきたいものです。


『平賀源内の猫』 第11話「欠片さがし」(栗城祥子  少年画報社ねこぱんちコミックス) Amazon

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