山根和俊『黄金バット 大正髑髏奇譚』第3巻
大正の世を舞台に、超古代の神々が激突する新約黄金バット伝の第三巻、最終巻です。ラスプーチンに力を貸すナゾーとの戦いを終え、帰国した月城。しかしナゾーはあの大災害を利用して、おそるべき策を巡らしていました。いま、永劫の戦いにひとまずの終止符が打たれます。
復活した太古の邪神ナゾーの巫女・美月、そして連続殺人鬼を依代にした暗闇バットとの戦いを続ける、黄金バットの依代・月城少尉。戦いの舞台は欧州に移り、先輩である機械人間の笹倉中尉とともに、月城は日本を離れます。
そこで人間の命と意思を巡る立場の違いから一度は危機に陥った月城と黄金バットですが、互いを「相棒」と認めて復活……
というところからこの第三巻が始まりますが、いやもう迷いのなくなった黄金バットは強い。かつては同格であり、一度は依代の迷いのなさから力が上回ったはずの暗闇バットを一蹴――ようやく登場したシルバーバトンを振るう姿は、まさに強い! 絶対に強い!
笹倉が相変わらず盛大にやられる(やられても死なないので)一方で、ラスプーチンもあっさり退場し、欧州での戦いもここで一段落するのでした。
そして数年が流れ、大正12年――というわけで、物語のラストステージは、大正伝奇もののクライマックスといえばこれ、というべき関東大震災を背景に展開します。
笹倉とマリーがその能力を活かして被災者を救助している間に、欧州での敗北から復活した暗闇バットと激突する黄金バット。しかし、真の敵は海上から迫っていました。
かつて黄金バットとナゾーが眠りについていた古代アトランティス遺跡。そのオーバーテクノロジーを用いて誕生した超弩級戦艦・東亜が、美月の指揮により、震災で大混乱に陥った帝都に向けて進軍を開始して……
そんな、クライマックスにふさわしい展開のラストバトルですが、正直なところ、駆け足になった印象ばかりが強くあります。
第一次大戦から関東大震災に飛んだのもそうですが、ようやく復活したもののあっさり倒される暗闇バットは、結局何がしたかったのかという感が強いのが悲しい。
ナゾーに支配される平和と、人類の自由意志の結果の戦争のビジョン――その両方を見せて動揺を誘うという作戦はいいのですが、肝心の暗闇の依代に大問題があったのには、ちょっと同情したくもなりますが……
クライマックスの黄金バット××化まで突き抜けると、もうその絶対的な強さにひれ伏すしかないのですが、人間の自由意志を巡る黄金バットとナゾーの戦いの決着としては、文字通り結論を先送りにして終わらせたのは、不満が残ります。
大正の黄金バットの戦いが語り伝えられて――というメタな仕掛けは楽しいのですが、結末に至っては、なぜこの二人が、という気持ちになってしまうのでした。
人間の自由意志を巡る二つの超越者の戦いというテーマ自体は良かったものの、本作の場合、この時代背景とキャラクターで最後まで活かしきれなかったという印象は否めません。
「依代」から「相棒」へと立場を変え、黄金バットに宗旨替えに近い結末を迎えさせた月城のキャラクターが、それほど強いものでなかったのがその一因とも感じますが――いずれにせよ、勿体ない結末ではあります。
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