『君とゆきて咲く~新選組青春録~』 第15話「最期の授業」
沖田が肺を病んでいることを知らされながら、休ませることを躊躇う土方に激昂し、つかみかかった山南。謹慎となった山南は、処分が明けてすぐ、屯所から姿を消す。行き先を突き止めた土方は、沖田と元・山南組を派遣するが、屯所に戻るように説得する皆に対し、山南は刀を抜く……
必ず来るとわかっていながらも、来ないでほしいと祈っていた時がついに来てしまいました。山南の脱走と切腹――今回はほぼ全編、この悲痛な事件を描くことになります。
史実ではあるものの、しかしその理由については今ひとつ明らかではない山南の切腹。隊の運営方針で土方との確執があった、伊東の登場で居場所を失った、左腕の負傷で戦えなくなった――色々な説はありますが新選組、いや壬生浪士組結成当初からの幹部であり、失敗した場合の処遇はよく理解していながらも、それでもなお隊から脱走したというのは、よほどのことを感じさせます。
そして本作においては、これらの諸説を取り込みつつ、また独自の脱走理由を描いてみせたといえます。物語の冒頭から、堅苦しいようでいて優しく、皆のことを案じていた本作の山南ならではの理由――それはまさに今回のサブタイトル「最期の授業」が相応しいというべきでしょう。
そして圧巻は、山南、沖田、土方、近藤それぞれの感情の迸りとぶつかりあいであります。もちろん、冒頭の珍しい激昂した姿から、覚悟を決めた静謐な姿、「最期の授業」の貫禄すら感じさせる立ちふるまい、そしてラストの壮絶な切腹まで、様々な顔を見せた山南が一番印象に残ったことは間違いありませんが、その他の面々も決して劣るものではありません。
一年生の前でのもの静かな表情とは全く異なる「弟」としての顔を見せた沖田、最近不在だったにも関わらずここぞというところで存在感を発揮する近藤(俺たちが行かないでどうする! と、史実とは異なり山南のもとに駆けつけるのが痺れる!)も見事でしたが、やはり特に印象に残ったのは土方です。
ここのところ、近藤不在の穴を埋めるために必死すぎてか、ヒステリックさすら感じさせていた土方ですが、今回はある意味山南の合せ鏡のように、様々な顔を見せてくれます。
冒頭、意外な事実を聞かされた上に山南に食ってかかられた時の困惑、山南が行方不明となった直後に敵に捕らわれているかもという焦り(そこには脱走を信じたくないという想いももちろんあるのですが)、そしてラスト、山南が切腹している間に平静を装うも堪えきれずに――と、本作においてはちょっと損な役回りだった土方の人間味を、一気に見せてくれました。
しかし、これだけ試衛館組にドラマが用意されていたら、もう丘十郎や大作の出る幕はないのでは――という思ってしまったのですが、それは半分当たりで半分外れというべきでしょうか。確かに今回は丘十郎と大作のドラマを描くどころではありませんでしたが――しかし上で触れた山南の「最期の授業」の相手は丘十郎たちなのです。
史実では沖田が山南を迎えに行きましたが、本作ではそれに丘十郎たち「元・山南組」が同行し、そんな彼らに対して、山南は刃を向けることになります。これまで作中で一度も刀を抜くことのなかった(たぶん)山南が見せる、最初で最後の剣戟――いつもの能天気さすら感じさせる人物像とは全く異なる、腰の据わった剣技にも驚かされますが、そこで何人もの隊士たちを軽々とあしらいながら、隊士として、いや人として生きる道を説く姿は、ただただ圧巻というほかありません。
そして史実とは異なり介錯に当たることになった近藤(「書物にならどうにだって書ける」というメタっぽい台詞が、その後「書物は如何様にも変えられる」と、言外に逃げるよう求める言葉に変わるのも見事!)の前で、先に触れた通り壮絶な切腹を遂げた山南。正直なところ、ここまで正面から切腹を描写するとは思いませんでしたが、しかしここまで山南の姿を丹念に描いてきたからこそ、最後の最期まで描き切る――そんな気迫を感じます。
そして今回、随所でその遺した言葉を振り返ることで、改めて芹沢の存在の重みが浮かび上がるのも印象に残りました。特に山南の最期の言葉が芹沢のそれとほぼ同じ「地獄で待っている」だったのは、決して捨て台詞ではなく、彼自身のある種の覚悟の現れであろうことを感じさせるのがまた、胸に刺さります。
しかしこの最期が残した波紋は決して小さくはありません。山南がそれを望んでいたとは思いませんが、はたして残された隊士たちは、これまで同様に剣を振るうことができるのか。少なくとも、丘十郎への影響は決して小さいものではないはずですが……
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