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2024.08.16

『君とゆきて咲く~新選組青春録~』 第16話「おかえり、つらかったね」

 山南の死に大きな衝撃を受けた隊士たち。そんな中でも、無理に涙を堪える丘十郎を大作は気遣う。思い悩んだ末に龍馬のもとに向かった丘十郎は、そこで一冊の本を与えられるのだった。そして大作との触れ合いの末に、素直に涙を流す丘十郎だが、既に大作は彼を守るために手を血に染めていた……

 予想通りというべきか当然というべきか、前回の山南の死に、強い衝撃を受けた隊士たちの姿から始まる今回。表向きは脱走の末の切腹ながら、近藤が皆を集めて哀悼の意を告げるという冒頭の場面からも、山南の存在の重みが感じられます。

 そしてまた刀が握れなくなった丘十郎や、ショックで寝込んでしまった新乃丞といった一年生組はもちろんのこと、彼らよりも山南との付き合いが長かった幹部たちも、これまでになく大きな衝撃を受けていたことが描かれますが、その中でも特に衝撃を受けていたのが土方であることは言うまでもありません。近藤不在という状況であったとはいえ、そさて彼には彼なりの理由があったとはいえ、結果的に山南を死に追いやった直接の原因となったのは彼の行動なのですから……
 そして実際問題として山南がかなりのところを担当していたであろうデスクワーク的な仕事も含めて寝ずに向き合う土方は、やはり本作の彼らしくちょっとヒステリックではあるのですが、それはそれで彼の人間的な顔の現れというべきでしょう。

 そしてそんな土方を近藤が宥めているところに現れた沖田が、ほとんど夫婦喧嘩を止めようとする子供のような感じの言動なのがやたらおかしいのですが、しかし彼もまた、自分が引き金となったことはよくわかっているはず。それだからこそというべきか、できるだけ平静に振る舞い、自分の身を擲ってでも皆を守ろうとする姿が、より一層痛ましく見えてしまうのです。

 そんな中、これまで懸命に押さえてきた想いが山南の死で噴き上がり、殺し合いの虚しさと愚かさに打ちのめされる丘十郎。こういう時こそあの人の出番なのでは? と思っていたら、やっぱり出ました坂本龍馬!(というか丘十郎の方から訪ねて行った) かつて仇討ちなぞバカバカしいと語ったのを裏付けるように、丘十郎が庄内を討った結果、長州に付け狙われていると語る龍馬ですが、どうすればという丘十郎に答えは与えず、ただ、一冊の洋書を与えるのでした。
 ――というわけで思い出したように原作ネタが投入されましたが、原作で丘十郎が龍馬を訪ねるのは、庄内を斬った直後にその同輩たちから仇呼ばわりされ、途方に暮れた後。同じ途方に暮れるにしても理由が異なりますが、しかし一冊の本を与えられるのは同じです。

 その一方で原作と異なるのは、丘十郎が実際には長州勢に襲われるに至っていないことですが――それは大作が密かに始末していたから、という展開となります。既に脳内では丘十郎のナイト状態の彼は、丘十郎に近づく奴は俺が斬るからねフフフ――という感じですが、しかしそれは彼がかつての同志である長州の人間を斬るということでもあります。(ここで庄内を原作での土佐から長州に変えたのが再び活きる)
 新選組で長州の人間という正体が明らかになれば斬られ、さりとて長州にはもう帰れない――安らぎの心を知った今ではデビルマン状態になってしまった大作にとって、かつての優しい心を取り戻した丘十郎が自分の前で涙を流し、そしていつかの花火を観に行く約束を口にしてくれたことが、何よりの救いでしょう。

 まあ、その後に駆け落ちしようなんて丘十郎は全く言ってなかった気がするんですが……
 それと真面目な話、丘十郎が変わった後の描写があまり多くなかったので、そこまでよかったね、という印象にならないのはいかがなものか、とは思います。

 それはさておき、大作の決定的な裏切りに、余裕ぶっていた桂もさすがに泳がしているわけにはいかなくなった様子。一方、今度は新之丞が新選組を抜けると言い出し――この二つ、実は関係あったりしない? と個人的には疑心暗鬼になりつつ次回に続きます。


 しかしこのドラマ、原作で大作の好感度をMAXまで高めたらアナザールートに突入した感が……(グッドエンドになるかはどうかは知りません)


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