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2024.08.27

陶延リュウ『無限の住人 幕末ノ章』第10巻 最後の激突 そして幕末から明治へ

 長きにわたり描かれてきた幕末絵巻も、ついにこの第十巻を以て完結となります。大政奉還を成功させたものの、諸勢力から狙われる龍馬を近江屋で守る万次。しかしそこに修羅と化した沖田総司が襲いかかります。大切な者を喪った万次の最後の戦いの行方は……

 薩長同盟に次いで大政奉還を成功させ、無血革命へと大きく時代を動かしてみせた坂本龍馬。しかしその立役者として、龍馬は幕府のみならず、武力倒幕を目指していた薩長からも命を狙われることになります。

 一方、知らぬこととはいえ、自分がその龍馬の命を助けてしまったことを知った沖田は大暴走、療養のために一度は江戸に向かったもののUターンし、京で辻斬りを始めるのでした。
 そして総司・新選組・見廻組から追われることになった龍馬は、万次とともに近江屋にひとまず隠れるものの……

 というわけで、ついに来てしまった運命の慶応3年11月15日。この日に何が起きたのか、それはいうまでもないでしょう。
 かくしてこの巻の前半では、近江屋での死闘が描かれることになります。本作においては、龍馬には万次がついていることはいうまでもありません。並みの相手であれば引けを取るはずもない万次ですが、しかしそこに総司が現れたことで、残酷な結末を迎えることになります。

(ちなみに龍馬に手を下した人間については見廻組の今井や新選組の原田など、諸説ありますが、本作では律儀にそれを全部採用しているのがちょっとおかしい)

 かつては凛を守って逸刀流や幕府の手の者たちと渡り合い、見事彼女に仇討ちの本懐を遂げさせた万次。しかし、それはあくまでも僥倖だったのかもしれません(冷静に考えれば結構凛に守られたり救われたりしてましたしな)。
 そしてその事実に否応なく直面させられた万次が取った行動とは……


 そして、江戸で沖田が療養している屋敷での万次と総司の激突を以て、本作は終わりを迎えることになります。

 友を喪い怒りに燃える万次が勝つか、死を目前にして透徹した心境の総司が勝つか? 万全の態勢で臨んだ万次ですが、迎え撃つ総司の方も思わぬ(本当に何故ここに……)得物を手にして一歩も引かない――いやむしろ万次を圧倒します。
 この、狭い屋内を舞台にしての変態武器を用いての剣戟は、実に「らしい」――本作のラストを飾るに相応しいものといえるかもしれません。

 そして意外といえば意外、納得といえば納得のその結末もまた……

(意外といえば、應榮が誰の子孫かというのはちょっと意外というか、結局押し切ったんだなあ――というか)


 幕末の物語は終わり、明治の物語へ――正篇の結末に繋がって完結した本作。

 すぐ上で触れたように、ラストバトルは納得のいくものでありましたし、また物語的にもここで終わるのが適切であろうとは思いますが――しかし、これまで描かれてきた様々な人々の運命が、あっさりと一コマで片付けられてしまうのは、それはそれで非常に勿体ないという印象は否めません。
 特に物語前半にあれだけ暴れまわった土方についてはほとんど触れられず――というのは、これも物語の流れ上仕方ないのですが、やはり残念ではあります。

 正篇とは大きく異なり、幕末の史実――大きな歴史のうねりに関わることとなった万次。しかしそれは終わってみれば結局、巻き込まれただけ、という印象が残るのは、これも仕方はないとはいえ、索漠たる印象が残ります。
 もちろん万次にとってみればそれはいい迷惑、自分は必死に切り抜けてきただけということなのだと思いますが――正篇での目的を貫き通した彼の姿を思うと、この物語の意味をどう捉えたものか、少々悩んでしまうのです。

 そんな中、陶延リュウの作画は大きな収穫であったと思います。四季賞では武侠ものを発表していたこともあり、次回作にも強く期待しているところです。


『無限の住人 幕末ノ章』第10巻(陶延リュウ&滝川廉治&沙村広明 講談社アフタヌーンコミックス) Amazon


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