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2024.08.02

相田裕『勇気あるものより散れ』第6巻 混迷の戦い、ついに決着!?

 不死の宿命を受け継ぐ半隠る化野民と眷属の剣士たち同士の死闘はなおも続きます。自分たちの母を巡り、激突する煙花・生松・シノ――化野民の兄妹たちの戦いは、人間を巻き込んでほとんど戦争という域にエスカレート、その中で暴走した生松を止めるため、剣士たちは死力を尽くすことに……

 化野民を殺す力を持つ妖刀・殺生石「華陽」を奪い、母の身柄を求めて明治政府の高官たちを次々と襲う生松と眷属の菊滋。宿敵であった政府図書掛の山之内と組んだシノと春安は、藤田五郎を仲間に加え、生松たちを追跡します。
 眷属同士の死闘の末、菊滋こと鵜飼幸吉を斃した春安。しかしそこにシノと生松の姉・煙花と眷属の壽女、さらに隗の眷属・伊庭八郎までが出現――一方で図書掛は数多くの兵を率いて彼らを待ち受け、小石川一帯は戦争状態に……


 はたして誰が何のために戦っているのか――そんな疑問すら浮かぶ大混乱の中で、なおも続く、化野民と化野民の、眷属と眷属の、そして人間と化野民・眷属との戦い。この巻でもその戦いはほぼ一巻丸々費やして描かれます。

 この戦いに加わるのは大きく分けて二派。片や、シノ・春安・山之内・藤田(と図書掛の兵たち)。片や生松・煙花・壽女・伊庭八郎――それぞれに戦う理由は微妙に異なりながらも、達人たちが一つ所に集まり、死闘を繰り広げる様は、これはこれで壮観というべきでしょうか。

 そんなこの巻の前半で描かれるのは、シノvs生松、藤田vs伊庭、煙花&壽女vs図書掛の兵たちの戦い。
 不死身の肉体を持つ者同士ならではの凄惨な戦いを繰り広げるシノと生松、幕末の名剣士同士が激突する藤田と伊庭、そして大砲まで持ち出した人間たちを前に不死身の力を存分に振るう煙花と壽女と、それぞれに趣向の異なるバトルが展開します。

 この中で特に幕末ファンにとって見逃せないのが、藤田vs伊庭であることはいうまでもないでしょう。
 かつてはともに旧幕府軍として修羅の戦場を戦った同志ながら、警察の巡査となった者と、一度死して化野民の眷属になった者――幽明境を異にするという表現はちょっと違うかもしれませんが、とにかくあまりに境遇が変わってしまった二人。しかしそうであっても二人の剣の腕は変わりません。

 おそらくは幕末最強クラスの二人の激突は、もはや名人戦。激しい技の応酬の中、初めは巡査として棒を手に戦っていた藤田も、ついに刀を抜いて本気モードになったところで繰り出される、双方得意の突き技――というだけでたまりませんが、そこからの思わぬ決着もまた、二人の「今」の違いを表すものと言って良いかもしれません。
(というか、相変わらずブレない本作の藤田……)

 しかし混迷の中、戦いは思わぬ方向に転がっていきます。シノとの戦いの最中、山之内の切り札により、致命打を受ける生松。しかし最後の力を振り絞った生松は、「華陽」を手にします。
 死を前にして、華陽にまとわりつく異様な気に操られるように怪物的な力を発揮する生松を止めることができるものは……


 と、思わぬ面々が加わった死闘の末に、ついにここでの戦いは終結します。しかしその犠牲は、決して小さなものではありません。

 本当にこの巻はほぼ完全に戦いのみ(煙花と壽女の出会いは回想シーンで描かれましたが)で終わってしまったため、ストーリー的にはほとんど進んでいないのですが――この混沌の先に何があるのか、今は全く見えない、というのが正直なところであります。


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