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2024.09.02

劇団☆新感線『バサラオ』(その一) 新感線と婆娑羅の驚くべき親和性

 劇団☆新感線44周年興行『バサラオ』を観劇しました。鎌倉時代末期から南北朝時代の日本をモチーフにした世界を舞台に、凄まじいまでの美を持つ男が、幕府と朝廷を向こうに回してのし上がっていく姿を描く物語――異常なまでにパワフルで暴力的でありながらも、当時に途方もなく蠱惑的な物語です。

 幕府と帝が争う島国「ヒノモト」。その頂点に立つ鎌倉の執権キタタカの密偵として働いてきた青年カイリは、密偵を辞めたいと望むものの、逆心を疑われ逃げる羽目になります。
 その途中、狂い桜の下で女たちを従えて派手に歌い踊る美貌の男――同じ里の出身であるヒュウガと出会ったカイリは、そのバサラぶりに惚れ込み、自ら軍師役を買って出るのでした。

 そして自分たちを討ちに現れた女大名サキドを丸め込み、幕府と対立して沖の島に流されたゴノミカドの首を取ると言い放ったヒュウガ。
 彼が沖の島でゴノミカドと対面、半ば挑発によってその本心を引き出したところに、ゴノミカドの皇子を奉じて山に籠もっていたクスマ一党を動かしたカイリが登場――二人はついにゴノミカドを動かすことに成功します。

 京で再会したサキドを味方に引き入れ、ゴノミカドを奉じた倒幕の軍を起こしたヒュウガ。しかしその陰で、彼は京に来ていたキタタカを密かに逃がすという不可解な動きを見せます。
 一方で、ヒュウガの危険性を見抜いていたゴノミカドは、自身の腹心である戦女・アキノにヒュウガの暗殺を命じます。そしてアキノはカイリがヒュウガに対して密かに殺意を抱いていることを見抜くのでした。

 様々な思惑が交錯する中、バサラの王として君臨せんと暗躍するヒュウガ。彼の野望の行方は……


 鎌倉時代末期から南北朝時代という、ある意味タイムリーな時代をモチーフにしつつ、もう一つ、望月三起也の漫画『ジャパッシュ』を本作。
 現代の日本を舞台に、その美貌とカリスマ性によって力を手にし、独裁者としてのし上がっていく日向と、その危険性を見抜き抗う石狩の戦いを描いた『ジャパッシュ』――望月三起也の作品の中でも異色作・問題作であり、それだけにファンの心に焼き付いた作品――それをモチーフにしたと聞けば、わかる人間には一発で「なるほど、そういう話なのね」と理解できるはずです。

 そんなわけで実際に観る前には「南北朝を舞台にした『ジャパッシュ』か――生々しい話になりそうだなあ」とか「己のカリスマでのし上がって支配者になる男だと、この後に歌舞伎で再演される『朧の森に棲む鬼』とかぶるのでは?」などと思っていたのですが――しかしそれはもちろんこちらの浅はかさというもの。実際に眼の前で繰り広げられたのは、そんな思いを遥かに超える世界だったのですから。

 まず驚かされたのは、劇団☆新感線と南北朝――というよりこの時代の「バサラ」との親和性の高さです。

 バサラ(婆娑羅)とは、「南北朝内乱期にみられる顕著な風潮で、華美な服装で飾りたてた伊達な風体や、はでで勝手気ままな遠慮のない、常識はずれのふるまい、またはそのようす」(日本大百科全書)。
 本作のサキドのモデルである佐々木道誉がその代表的な担い手として有名ですが、本作のヒュウガは、彼女以上に、その言葉に相応しい存在として描かれます。冒頭、舞台の上から吊りで「降臨」する時点で心を掴まれましたが、その後も物語の要所要所で歌い、踊る姿は、まさにバサラの王に相応しいというほかありません。

 そもそも、劇団☆新感線の、いのうえ歌舞伎の魅力の一つは派手な歌と踊り。ヒュウガを中心に、躍動感たっぷりに人々が歌い、踊る姿は、大袈裟にいえば、まさにバサラのイメージを具現化したものと感じられます。

 劇団☆新感線で南北朝といえば、過去に『シレンとラギ』がありますが、ギリシア悲劇をベースとしたあちらと比べると、この「バサラ」という存在を中心に据えた本作は、全く異なるイメージの作品であり――そしてよりこちらの心に響くものとして感じられました。


 さて、そんな世界に登場するキャラクターたちですが――それについては、長くなりましたので稿を改めて述べたいと思います。


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