剛腕僧侶の意外な正体!? 木々峰右『寺の隣に鬼が棲む』第1巻
「寺の隣に鬼が棲む」というのは、慈悲を施す寺の隣に邪悪な鬼が棲むように、この世は善人と悪人が入り混じっているという喩えですが、本作は本当に寺の隣(近所)に棲む鬼と、ある僧侶の奇妙な交流の物語。最強を目指す鬼の少年がつきまとう、やたらと腕っぷしの強い僧侶の正体とは……
時は平安時代、とある山奥の寺に身を置く僧侶・真蓮のもとには、毎日のように鬼の少年・山吹が現れ、勝負を挑んでは適当にあしらわれていました。
最強の武士・源頼光を倒し、最強の鬼になって妖の頂点に立つという目的のため、僧侶ながら異常に腕っぷしの強い真蓮を乗り越えようとムキになる山吹。しかし真蓮から、源頼光は百年も昔の人物で既にこの世にないと教えられた山吹が愕然とするのでした。
しかし真蓮の同僚の僧・早達は、そんな山吹に、今生きている中で一番強い人間を倒せばいいと吹き込みます。源頼光の子孫であり、かつて鵺を退治したという武士・源頼政を。
俄然やる気になり、頼政がいるであろう京に向かって旅立つ山吹ですが、その前に現れたのは……
本作は、そんな内容でSNSで評判となった「最強になりたい鬼っ子と最強のお坊さんの話」を第一話として連載化された作品です。
ある意味、この第一話のタイトルが全てを示しているともいえますが、物語がこの後、素手の一撃で大妖を文字通り叩き潰し、刀を振るえば大地を切り割るという、常人離れした真蓮と、夢は大きいけれども実力がまったく追いつかない山吹が、わちゃわちゃと日々を過ごす姿を中心に描かれていきます。
そもそも山吹が最強を目指す理由というのが、源頼光に頭領である酒呑童子を倒されたため、鬼族の地位が妖の間でダダ下がりして、今では人間にも舐められるほどになった名誉を挽回したいから――というのはなかなか健気ではありますが、何しろ山吹は弱い。というより真蓮が強すぎる。
本作では基本的に、そんな鬼と人間で立場が逆転したような二人の交流がのどかに描かれます。
しかし、これだけ常人離れした力を持つ真蓮にも、何か秘密があるのでは、と想像するのは当然ですでしょう。実は彼こそは――というのはわかる方にはすぐわかるかもしれませんが、それでもそう来るか! と驚かされることは間違いありません。
もっとも、史実に照らすと真蓮が出家したのは相当年を取ってからであり、その頃には本作に登場する××は既にアレしていたりしているので、これはもう史実をアレンジしたファンタジーとして受け止めるべきなのでしょう。
(そもそも史実には鬼はいない、とか言わない)
それでも、それぞれに色々と抱えるもの、背負っているものがある二人が、不器用ながらも交流をしていく姿は微笑ましくはあるのですが――いかんせん、第一話のインパクトが大きすぎて(そして綺麗にまとまりすぎていて)、それ以降は厳しい言い方をすれば余談のように感じられてしまうのが辛いところです。
この巻のラストのエピソードでは、物語が一気にシリアス方面に展開することになるのですが、さてこれがこの後、どのように影響することになるのか?
山吹が真蓮の正体を知ってからが本番のような気もしますが、ここからどのようにして物語を盛り上げていくのか、気になります。
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