ついに対面、やさぐれワトソンと詐欺師ホームズ!? 松原利光&青崎有吾『ガス灯野良犬探偵団』第4巻
ホームズといえば――というわけで、ついに登場したジョン・H・ワトソン。しかし本作らしく、彼も一筋縄ではいかない性格で、早速ホームズと早速衝突する一方で、二人は思わぬ事件に巻き込まれることになります。その頃、リューイたちは浮浪児たちの間に起きたある変化に気付くのですが――果たして両者を結ぶものとは?
ある日、共通の知人の紹介でホームズの前に現れた曰くありげな男。彼を一瞥しただけで、戦場帰りの軍医と見抜いたホームズですが、彼はそんなホームズの言葉を信じようとせず……
と、前巻のラストでついに登場したワトソン。ホームズが初対面でアフガニスタン云々と指摘するのはホームズ譚のお約束(?)ですが、ホームズが自分のことを当てたのは、何かのペテンだと決めてかかるワトソンというのは、本作らしい斬新な味付けでしょう
そんなこんなでホームズのことを詐欺師だと見なしつつ道案内を頼んだワトソンですが、その途中で二人はレストレードと出会います。女性の親指だけが路上で見つかったという彼の言葉から、たちどころに真相を見抜くホームズですが、その内容を聞いたワトソンは血相を変えます。実は、彼が道案内を頼んだ理由とは、そこである女性を訪ねるためだったのですから。
一方、リューイたちは、ベイカー街の浮浪児たちが急に羽振りが良くなったことに気付きます。その原因が、パディントン駅の裏に現れて銀貨を配る「お金配りおじさん」だと知るリューイですが、彼はすぐにその銀貨に隠された秘密に気付くのでした。
路上の女性の親指と、お金配りおじさん。一見無関係な両者は、やがて思わぬ形で結び付くことになります。そしてその中で、リューイは一つの選択を迫られることに……
ホームズ譚でありながら、これまでワトソンが不在だった本作に、ついに登場したかの人物。しかし、従来ワトソンは良識的な紳士のイメージが強かったのに対し、本作の彼は、戦場帰りのちょっと荒っぽい、やさぐれ気味の男というのがユニークです。
しかしやさぐれていても心は紳士、そもそも彼がベイカー街を訪れたのは、戦友の遺志のためで――と、そんな彼のキャラクターが、事件に巻き込まれる理由になっているのも巧みです。
(巧みといえば、ここで原典のあの事件を使うか!? というの趣向にも感心)
そして本作の特徴であり魅力であるリューイとホームズの二重推理も健在ですが、それ以上に目を惹くのは、リューイがある選択を迫られるくだりでしょう。
事件の真相を暴けば、いま浮浪児たちが得ている幸せが失われてしまう。しかし黙っていれば、人の命が失われてしまう――その間で悩むリューイと、彼に対して一つの問を投げかけるホームズの姿には、物語が始まった時には想像もつかなかった、ある種の絆が感じられます。
(エピソードの中で、本作で出るとは思えなかった原典の台詞が、少し形を変えて引用されかけるのも嬉しい!)
正直なところ、仲間たちに加えて、ワトソンまでが登場するとなると、必然的にリューイの存在感が薄れてしまうことになりかねません。しかし、作中でジエンが語るように、リューイはこの物語において「道を選ぶ」という重要な役割を担っているのでしょう。
そして紆余曲折を経て、めでたく(?)同居に至ったホームズとワトソンですが、何やらワトソンには明かせぬ秘密がある様子。この先、それが明かされた時でも、リューイが大きな役割を果たすのではないか――そう感じます。
(といいつつ、今回のエピソードは、ラストまでワトソンが完全に攫っていった感は強いのですが)
さて、アビーとハドソン夫人の色々温まる単発エピソードに続いて描かれるのは、既に死亡推定時刻を過ぎた時間に、被害者と出会った人間がいるという、奇怪な首なし殺人事件であります。
事件の奇怪さもさることながら、「えっ、ここで出すの!?」と言いたくなる被害者の名前や、ここに来て再び物語に絡むジエンが所属していた中国マフィアの存在が、否応なしに不穏さを高めます。
そしてラストには、ついにあの人物の名前が――というところで次巻に続く物語。今のところ必然的にジエンが物語の中心となっており、またもやリューイの出番が少ないのが気になりますが、最後に決めてくれるのは彼だと信じて、次巻を待ちましょう。
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