『鬼武者』 第捌話「魂」
幻魔兵たちをものともせず、激しく激突する武蔵と小次郎。その戦いは伊右衛門の根城を突き抜け、遥か地底でも続く。一方、脱出する道を探していた佐兵衛とさよの前に、小次郎に斬られて半死半生の伊右衛門が現れる。幻魔になるために手を貸せと迫る伊右衛門に、佐兵衛の答えは……
いよいよ最終回、ラスボスかと思われた伊右衛門は、武蔵との対決のノイズにしかならんとばかりに佐々木小次郎に両腕両足を斬られるという意外な形で退場(?)し、小次郎との戦いが全編に渡り繰り広げられます。武蔵が鬼の篭手を装着した二刀流を振るう一方で、小次郎は両脇から新たに一対の腕を増やした四刀流で大暴れ、周囲をウロウロする幻魔兵たちを巻き込んでのハイスピードなチャンバラが繰り広げられます。
前回の闘技場からいつの間にか舞台は移り、深い竪穴にかかった橋の上で対峙する二人。そこで小次郎が放つのは、魔剣ツバメアラシと秘剣ツバメシブキ――まるでマップ兵器のような勢いで幻魔兵を蹴散らす小次郎の大技です(しかし求めているのはこういう剣戟ではないんだよなあ……)。それにしても復活して武蔵とやり合えるのがそんなに嬉しいのか、とにかくムチャクチャに暴れまくる小次郎のおかげで橋は崩落、武蔵だけでなく小次郎まで落ちて――まさか今になって「落ちながら戦ってる」武蔵を見ることになるとは……
一方、眼の前で起きた惨劇に絶望しかかったさよは、佐兵衛の言葉もあって文字通り立ち上がり、二人で出口を目指します。しかしその行く先には、誰か血まみれの者が這いずった跡が。そして二人が見つけたのは死にかけの伊右衛門――両手両足を失ってボロボロになりながらも、執念のみで生き延びた伊右衛門は、佐兵衛に世界を半分やるから! と竜王みたいなことを言いながら、自分に味方しろと言い出します。
自分が全ての侍を救うとか、世界に冠たる国にするとか、あと「俺を抱け!(俺を抱き上げて連れていけの意)」とか、相変わらずのナニっぷりですが、何を思ったかそれに乗った佐兵衛は、伊右衛門を幻魔になるための儀式を行うという部屋に連れていきます。そして佐兵衛は――伊右衛門を押さえつけると、何やら丸薬を無理やり飲ませた!
一人だけ平然としているところが怪しい怪しいと思っていれば、やはり怪しかった佐兵衛。実は彼は、藩から金山のことを知る者全員の口を封じるよう、ただ一人密命を受けていたのです。なるほど、かつて机上演習で伊右衛門を完封して結構根に持たれていただけはありますが――しかし武蔵はともかく、幻魔とか山ほど出てきて焦っただろうな、というのはさておき、いいとこなくトドメを刺された伊右衛門に続いて、とりあえず手近に口を封じるべき相手がいます。そう、さよが……
あまりに突然の状況に凍りつくさよに近づく佐兵衛ですが、気乗りしないのでやめとこっかとあっさり方向転換。意外と軽めの性格だったのか、適当にごまかしておくといい、さよを見逃します。そしてまだやることがあるというさよと別れ、佐兵衛は己の道を行くのでした。
一方、地底の更にその下まで落下までして戦い続ける武蔵と小次郎。新たな二本の腕を捨て、ついに物干し竿を抜く小次郎を前に、ついに武蔵も人間をやめることにしたのか、鬼の篭手の力を解放し鬼武者へと覚醒――ここに鬼と幻魔の最後の戦いが始まります。早回しみたいな剣戟を続ける二人ですが、そこに割って入ったのはさよ。本当に無謀としかいいようがない行動ですが、彼女は武蔵が人として両親を斬ってくれたから、両親は人として死ぬことができたと、礼を言いに来たのでした。
その言葉に人間であることを取り戻した武蔵は、鬼の篭手を捨て、人間として小次郎に向き合います。さよを逃がすと、その場に落ちていた櫂を手に、軽口を絶やさず小次郎と対峙する武蔵。地下が崩れ落ちる中、武蔵と小次郎の対決の行方は……
というわけで、さよ以外は武蔵も小次郎も佐兵衛も、全員生死不明という形で結末を迎えた本作。とりあえず物語冒頭の寺に鬼の篭手は返されたので、おそらくは武蔵は帰ってきたのだとは思いますが――シーズン2狙いの演出という気も大いにいたします。
しかし、幻魔を操る伊右衛門との対決よりも小次郎との対決がメインになったのは悪くはないとして(武蔵と小次郎の関係がわからない海外の視聴者は大丈夫なのかな、と心配にはなりますが)、肝心の剣戟が、超スピードで打ち合うか、一瞬の大技を打ち込むかという、剣豪同士の技の対決という印象からは程遠いものだったのはまことに残念。なんのために武蔵を題材にしたのか、さらに言えば時代劇をどう考えているのか……
さよをはじめ、キャラクターデザインや全体の画作りは悪くなかっただけに、最後まで時代劇としての楽しさ、さらにいえば必然性ががあまり感じられなかったという印象が残りました。
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