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2024.10.16

戦いの場所は心の中!? 横山起也『編み物ざむらい 三 迷い道騒動』

 昨年、第12回歴史時代作家協会文庫書き下ろし新人賞を受賞した、風変わりな人助けと悪人退治のシリーズの第三弾は、横浜を舞台にして米利堅人に絡む「仕組み」を描きます。メリヤス仕事と「仕組み」の対象が同じだったことから、またも騒動に巻き込まれることになった感九郎がその中で見たものは……

 正義感を発揮したのが元で、家から追い出されて牢人となった末に、奇妙な面々が集う墨長長屋に暮らすことになった黒瀬感九郎。持ち前の器用さでメリヤス編みの内職に精を出す感九郎は、やがてその特技を買われて悪党を懲らしめる裏稼業「仕組み」に手を貸すことになり、さらにその中で、人の心の綾を見抜き、それを解く力に目覚めるのでした。
 前作ではその仲間の一人・コキリが失踪したのを追いかけるうち、彼女の、そして「仕組み」の相手である組織・一目連の意外な正体を感九郎は知ることとなりましたが、今回も意外な展開が待ち受けます。

 許嫁で魚問屋の娘・真魚との祝言を間近に控え、「仕組み」に関わるのを辞めようと考えていた感九郎。その矢先、彼は町で侍に絡まれていたのを助けたことがきっかけで、異国の血を引く金髪の少年・朝と知り合います。
 一方、横浜に店を構える米利堅人から、服の直しのメリヤス仕事が指名で入った感九郎は、新たな「仕組み」のために横浜に向かういつもの仲間たち――御前・ジュノ・コキリと共に旅立つのでした。

 そこで明らかになったのは、メリヤス仕事の依頼人である商人のロジャー・スミスこそが、「仕組み」の対象であり、しかもロジャーは朝の父親でもあったという事実。
 そんな関係で、今回も「仕組み」を手伝うことになった感九郎ですが、それと並行して朝とともにロジャーの服を直すうちに、彼は朝の複雑な心中を目の当たりにすることになって……


 本作で三作目となった『編み物ざむらい』ですが、これまでのシリーズでは、悪人退治の裏稼業+メリヤス、さらには異能という意外な取り合わせで、こちらの予想できないような個性的な物語が描かれてきました。
 特に前作は伝奇色濃厚なクローズド・サークルものという意表を突いた展開でしたが、今回は「仕組み」がメインということで、その意味では第一作に近い内容といえるかもしれません。

 しかし本作の主な舞台は横浜――それも幕末の横浜です。既に黒船が来航し、開港した横浜で繰り広げられる今回の「仕組み」は、前作その存在が語られた敵組織「一目連」――将軍家にまで仇なすこの組織が、横浜で企む悪事とは何か? 本作は、これまで以上に、時代背景に密着した内容が描かれることになります。


 しかし物語で描かれるのは、それだけではありません。今回のメインゲストというべきロジャーと朝の親子関係に、感九郎は触れることになるのです。
 ロジャーと日本人遊女の間に生まれ、その出自と外見から周囲から差別されてきた朝。幼いながらも賢く礼儀正しい優等生の朝ですが、そんな彼の心の中には、父への愛憎が入り混じった複雑な想いが渦巻いていたのです。

 本作のサブタイトルである「迷い道騒動」の「迷い道」とは、まさにこの朝の中に存在する入り組んだ想い――心の迷路のことであり、人の心の中をビジョンとして見る力を持つ感九郎は、朝の中のこの迷路を前に悩むことになります。
 実に本作のクライマックスで描かれるのは、「仕組み」の成り行きと、朝の中の迷い道との対峙――この両者が交錯し、一つのドラマを織り成していく様は、本作ならではのものといえるでしょう。


 そしてこうしたドラマを経て、ラストに感九郎が語る言葉は、これまで彼が出会ってきた人々や出来事があったからこその、彼の成長を物語る、ある意味集大成として感じられます。
 あまりに綺麗にまとまっているため、ここで物語が結びとなってしまうのではないか、心配になるほどなのですが――まだまだこの物語には描かれるべきものも多いはずです。
(この幕末という状況と、一目連の中心となる「家」を考えれば、相当ややこしいことになるのではないかと予想できるのですが……)

 今回は結構おとなし目の展開だったこともあり、次なる物語が何を描くのか、注目したいと思います。


『編み物ざむらい 三 迷い道騒動』(横山起也 角川文庫) Amazon

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