猛襲フトタマ-1.0! その地の名は走水 久正人『カムヤライド』第11巻
掲載媒体は変わったものの、物語はいよいよクライマックスに突入した『カムヤライド』。新たなる戦いに突入し、さらなる波乱が予感されるこの巻では、天津神二人が身を捨てて立ちはだかることになります。因縁のあるその一人・フトタマと対峙し、怒りに燃えるオトタチバナは――いよいよ運命の時が迫ります。
天津神のうち二人を撃破したモンコたちの前に立ち塞がる新たな敵――それは国津神を自在に操り、東国の蝦夷たちと結んだ謎の人物、その名も「ノミ様」でした。
はたしてその正体は、かつてモンコの前身と疑われたノミの宿禰なのか? だとしたらどのようにして蘇り、そして東国で何を企むのか――かくしてモンコは東国に向かうヤマトタケルの軍に同行しますが、敵の奇手の前に兵を失い、残るは彼ら二人とオトタチバナ、タケゥチのみとなります。
そんな中、神薙剣とカムヤライドの間の、いや、二人の基となった存在の間の意外な関係が明らかになるのですが――それはまた、天津神が戦う理由にも繋がるものでした。
そして、フトタマとウズメは、先に散っていった仲間二人と同様、己の肉体を包むスーツを脱ぎ捨て、背水の陣でモンコたちに挑みます。
決戦の地の名は、走水……
神話に登場する姿とは全く異なるとはいえ、ヤマトタケルとオトタチバナという名が登場する本作において、いつかはこの地が出るのだろうかと密かに恐れていた走水。
記紀神話においては、東征途中のヤマトタケルの船が水神の怒りによって嵐に遭い、それを鎮めるためにオトタチバナがその身を沈めた地であります。
すなわち、オトタチバナとの別れの地ですが――果たして本作においてそれを如何に描くのかとハラハラしていれば、こちらの予想を遥かに上回る展開が描かれることになります。
地の属性であるウズメがカムヤライドを思わぬ形で抑える、いや押さえる一方で、モンコたちの船を襲うフトタマ。自らの水の力を全開にしたその姿――背びれのある巨体を二本の足で支え、口からは巨大な奔流を放つ姿を何と表すべきか。これはやはり、フトタマ-1.0というべきでしょうか。
そんなことはさておき、かつて自分を黒盾隊に導き、強い絆で結ばれたワカタケをフトタマに奪われた――フトタマから見れば自分の分身を元に戻した――ことから激しい敵意を燃やすオトタチバナにとっては、相手がどのような姿を取ろうが黙っていられるはずがありません。
フトタマを倒し、ワカタケを奪い返すため、オトタチバナ・メタルに変身した彼女は――えっ!?
と、とんでもない形で神話が再現されるのには、本当にどんな顔をすれば良いかわからなくなってしまうのですが――ここからそうくるか! と言いたくなってしまうような展開に持っていくのには脱帽です。ほとんどギャグのような状況から、己の能力を活かして逆転してみせる――そのロジカルな展開もイイのですが、その根底にあるのが、モンコのヒーローとしての、いや人としての想いを語る言葉であるのに痺れます。
人一倍人間臭かったヤマトタケルが人の感情を持たぬ神薙剣と化し、そしてオトタチバナまでもが復讐に逸って変貌しかける中、あくまでも人であることを貫こうとするモンコ。
そんな彼の姿は前巻でも描かれましたが、この巻の冒頭でも描かれるそれは、物語が殺伐さと混迷の度合いを深める中、得難く、そして輝きを増して感じられます。
そしてついに逆襲に転じるオトタチバナ――と思いきや、この巻はもう終了。体感ではほんの一瞬に感じられるほどの勢いとテンションで突っ走ったこの巻ですが、次巻ではさらに思わぬ展開と熱い盛り上がりが――というのはここでは伏せて、少々待つとしましょう。
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