総司の秘密、山南の秘密 安田剛士『青のミブロ 新選組編』第2巻
アニメも現在放送中の『青のミブロ』、原作の方は新選組編として新章が展開しています。岡田以蔵との死闘の後、将軍の再上洛に合わせて大坂に向かった新選組。そこで、新選組の未来に関わりかねない一つの事件が起きることに……
芹沢の死を経て、新選組として新たな道を歩むことになったミブロ。新たに多くの隊士が加わった一方、にお・太郎・はじめはそれぞれに実力を花開かせ、鎬を削ります。
そんな中、京で次々と新選組隊士を襲う剣士、その名は岡田伊蔵――総身に知恵は回りかねているような男ながら、異常なまでの技を見せる相手に、沖田総司は互角以上の剣を振るって追い詰めるのですが……
と、そんな戦いの最中に、以蔵に対して「気持ちはわかります 私も同じ天の失敗作ですから」と謎めいた言葉をかけた総司。この巻の冒頭では、そこに秘められた総司の隠された部分が語られることになります。
本作においては、春画集めが趣味と、少々意外な側面が語られていた総司。しかしここで語られる過去は、その趣味の理由であると同時に、普段から能天気とも取れるような態度を取る総司の中に隠されていた、極めて深刻な秘密を描き出します。
しかしそれを深刻なだけでは終わらせず、
一つの救いと、そこから始まる新たな――そして現在に至る関係性を描いてみせるのは、本作ならではのドラマ性というべきでしょう。
そして続くエピソードでは、野口健司の切腹が描かれます。芹沢派でありながらも暗殺を逃れた彼は、最後の芹沢派というべき存在ですが――史実では芹沢暗殺の数ヶ月後によくわからない理由で切腹させられた彼の最期を、本作は独自の解釈で描きます。
本作においては、暗殺の際に見逃される――別の任務を与えられる形で外され、難を逃れた野口。しかし彼は隊の金を使い込むという意外な行動に出ます。もちろんこれは御法度で切腹もの、驚く周囲に対し、彼は土方と二人で話したいと告げます。
しかしそこに現れた沖田は、意外な指摘を――と、予想もしていなかったような展開が続くことになります。
思えば本作の野口は、土方の男ぶりに感動し、強く憧れる姿が描かれていた男。その彼が何故このような挙に出て、そして最期に何を語るのか――そこで描かれる泣きのドラマは、また本作らしいというほかありません。
そしてそれだけでなく、この事態の下で総司が、藤堂が、永倉が、原田が(芹沢暗殺以降、しばしば意外な顔を見せのには驚かされます)、そして太郎が、はじめが、におが――隊士それぞれが、この悲劇に対して違う反応を見せる姿も、強く印象に残ります。
それは大げさに言えば新選組が一枚岩ではない証なのかもしれません。そして史実を知っていれば、そこに悲劇の萌芽を見ることも難しくはありません。しかしそれもまた、間違いなく今の彼らの姿であり――それをこのような形で切り取ってみせるのに驚かされるのです。
しかし野口切腹の際に、一人だけ自分の想いを明らかにしなかった、いやさせてもらえなかった人物がいます。それは山南――本作においては(大抵の新選組ものでもそうなのですが)温厚な良識派であり、それだけにその言動には重みが生まれてしまう立ち位置となった彼に、この巻の後半では脚光が当てられることになります。
におたちにとっては旧知の間柄である将軍家茂の再上洛に伴い、大坂警護を命じられることになった新選組。そんなある晩、巡回中の山南と総司、そしてにおは、ある商家に賊が押し入ったことを知ります。商家――岩城升屋に。
新選組ファン、いや山南ファンはその名を聞いたとき、特別の感慨があるのではないでしょうか。というのも、この岩城升屋での一件は、山南の数少ない剣を取っての逸話であると同時に、彼のその後の運命にも影響を与えた(とも言われている)のですから……
そして本作において描かれるそれは、こちらの想像以上に凄惨なものであると同時に、彼の意外な秘密が描かれることになります。
そしてこの事件が、山南の意外な変化に繋がっていくようなのですが――この巻の時点ではその内容は予想もできないものの、事件の直後に彼が見せたあまりに唐突な(登場人物だけでなく、こちらも驚かされる)行動をみれば、その一端が感じられます。
(ただ、同じ巻に二人、傾向の似た秘密が描かれるのはどうかな、という気はしますが……)
そしてこの山南の変化が、新選組最大の事件に繋がっていくのですが――それは次の巻で。
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