« 平安伝奇! 陸奥に潜む紅い瞳の鬼 さいとうちほ『緋のつがい』第1巻 | トップページ | 「コミック乱ツインズ」2024年12月号(その一) »

2024.11.17

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』 第7話「魔道の果て」

 魔族の襲撃を受けた睦天命一行の窮地を救った凜雪鴉。一方、一連の謎めいた行動を訝しむ刑亥に、阿爾貝盧法は時空魔術によって因果を改竄した末の呪いを語る。そんな中、それぞれの動きを見せる魔宮貴族たち。そして鬼歿之地では、瘴気の谷の底を探るため殤不患が谷底に向かう……

 早くも一クールの折り返し地点に到達した今回ですが、冒頭描かれるのは、魔族から襲われる睦天命一行の危機。どこかの誰かさんによる恨みを八つ当たりされる羽目になった一行ですが、見るからに雑魚っぽい相手にもかかわらず、天工詭匠ロボは一撃でダウンし、睦天命は得物でもある琴を破壊され、無力な嘲風はちょっとか弱い女性にやり過ぎではないかと思うような殴打を受け――と思ったらそれは全部幻でした、と文字通り煙に巻いたのはインチキキセル野郎。
 もちろん善意で助けたわけではなく、利用する気満々――凜雪鴉のことを知らない三人が出会ってしまったのが(特に一番利用のしがいがありそうな嘲風)運の尽きという気もしますが、利用価値のあるうちは一番頼もしい相手なのかもしれません。利用価値のあるうちは。

 一方、前回ついに神蝗盟にまで手を伸ばしたのに対し、さすがに不審というか不安感を隠せない刑亥に対し、阿爾貝慮法は驚くべき真実を語ります。魔界の最下層に生まれた非力な存在であった自分がここに至るまでの苦労と苦闘――を彼が全くしていないことを。
 端から見れば凄まじい天賦と幸運の結果に見えるそれは、彼が到達した時空魔術の秘奥、因果律すら捻じ曲げる彼の技によるもの。しかしその末に、自分自身にとって辛い記憶、不都合な過去は、自分でも意識できないレベルで全て消し去られてしまったのです。そんな彼にとって、もはや魔宮貴族という輝かしい地位に象徴される自分の人生は、自分の力で勝ち取ったものではなく、別の世界線の自分とはいえ、人が引いたレールの上を歩んでいるのみ。彼のように気位の高い男にとって、それはどれだけ味気無いものでしょうか。

 単なる愉快犯ではないことが明らかになった阿爾貝盧法ですが、彼が息子である浪巫謠に固執する理由もそこにあります。浪巫謠は自分の人生にとっては予想外の異物、自分自身の運命を知り尽くした自分でもわからぬ存在の登場に、彼は歓喜に震えていたのです。
 つまりこれまでの一連の行動は、単なる悪趣味ではなかったということになりますが――本人は全く理解の範疇外だと思いますが、自分自身の予想もつかない子供の成長を心待ちにするというのは、これはもう普通の父親の心境ではないでしょうか。
(そして、そんな身の上を聞いたら、喜んでオモチャにしようとするヤツが一人いるわけで……)

 そんな思いもよらぬ魔族模様が語られているかと思えば、元気に暗躍している魔宮貴族たちは、ある意味悩みがないといえるでしょう。しかしその筆頭である烏蕾娜と佩雷斯は、本心を隠しながら酒を酌み交わしている間に、それぞれ霸王玉と花無蹤にびっくりするくらいあっさりと暗殺される有り様(そしてその後、刑亥によって雑に異空間に封じられる神蝗盟組)。

 一方、安索亞特は浪巫謠にパワーアップのためと称して怪しげな薬を勧めますが――聆牙が止めたにもかかわらずあっさり飲み干した浪巫謠は、悪夢の中でかつて殺した相手(たぶん)や睦天命、そして殤不患にさんざん詰られることになります。
 これで人間の心を捨ててパワーアップするということなのかな、と思いますが、何だか自分の人生に迷って他人の甘言に乗せられた挙げ句、結果的に自分と周囲を傷つけるというのは既視感がありますが――もう少し成長しようよ、というのはさすがに酷でしょうか。

 そして鬼歿之地では、瘴気の谷底が魔界に繋がっているのではないかという疑いを確かめるために、殤不患が谷底に降りることになります。予告を観た限りではいきなり飛び降りていたので、さすがに心配になりましたが、第二期で婁震戒に折られた空飛ぶ神誨魔械・誅荒劍(完璧に存在を忘れてました)を丹翡から託され、辛うじて剣に残っている浮遊能力を使って降りていくことに……
 いや、やっぱり蛮勇にも程がありますし、なにかあったら残された二人もただでは済まないと思うのですが、ここで躊躇しないのが江湖の男伊達というものでしょうか。

 かくて混沌にもほどがある魔界に降りていく(であろう)殤不患ですが、そこで待ち受けるものは――まさか顔馴染みがほとんど全員揃っているとは思ってもいないでしょう。特にインチキキセル野郎。


関連サイト
公式サイト

関連記事
『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』 第1話「帰郷」
『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』 第2話「魔界の宴」
『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』 第3話「侠客の決意」
『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』 第4話「奇巧対決」
『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』 第5話「魔宮貴族」
『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』 第6話「謀略の渦」

|

« 平安伝奇! 陸奥に潜む紅い瞳の鬼 さいとうちほ『緋のつがい』第1巻 | トップページ | 「コミック乱ツインズ」2024年12月号(その一) »