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2024.11.09

清少納言の妹、晴明の弟子に!? 六道慧『安倍晴明くれない秘抄』

 昨年から今年にかけて、大河ドラマ効果で平安ものの作品が数多く発表されましたが、本作もその一つ。清少納言の妹(かもしれない)少女が、霊力を失った安倍晴明を助けて、宮中で続発する怪異と、邪悪な術者に挑むことになります。

 親の顔も知らず、貧民街で育った少女・小鹿は、清原元輔が残した書状に自分の子として名前があったと、元輔の子・清少納言に引き取られることになります。そして御所の中宮定子付きの針子として働くことになり、新しい環境についていくのがやっとの日々を送る小鹿ですが――ある晩、彼女は笛の音と共に奇妙な夢を見ただけでなく、寝ている間に「葉二つ」と文字を書き残したのでした。

 自分の身に起きた出来事に小鹿が戸惑う一方で、宮中では次々と怪事が発生。清少納言たちが定子を追い出そうとする藤原道長一派の仕業と疑う中、定子たちのもとに、安倍晴明と息子の吉平が現れます。
 突然、霊力を失ってしまったという晴明ですが、自分と通じる力を追ってきたという晴明。何故か小鹿が近くにいると力が復活することから、小鹿は弟子という名目で晴明らと共に行動をともにすることになります。

 その矢先に、清涼殿の殿舎で見つかった女房・雪路の死体。美貌で知られた彼女は、しかし目も口もない顔を奪われた姿になっていて……


 安倍晴明が登場する作品は無数にありますが、本作の晴明は既に齢八十を数える老境の姿。それは清少納言の活動時期に合わせるため――というのはメタな視点かもしれませんが、既に陰陽道の蘊奥を極め、世間の酸いも甘いも噛み分けた老賢人の姿は、実に頼もしく感じられます。

 そしてこの時期は、一度は落飾した定子が、一条帝たっての望みで中宮として宮中に残り、それに対して道長が数々の陰湿な嫌がらせをしていた頃でもあります。
 国の上に立つものが専横を続け、そのために周囲の人々が――特に女性たちが泣くことになった、何とも不安定で、どんなことが起きてもおかしくないこの時代。そこに、本作のような物語が成立する余地があるといえます。

 それだけでなく、本作は庶民として育てられた小鹿を主人公とすることで、宮中とは全く異なる市井の視点を物語に加えています。どれだけ宮中で権力闘争が繰り広げられようとも、そこは所詮は衣食住に困ることのない人々の世界。それとは全く異なる、生きることが戦いである世界に暮らしていた彼女の視線は、物語に第三者的な視点を与えています。

 そして、それだけに年齢不相応にシニカルであった彼女の心が、清少納言たちと触れ合うことによって、少しずつ和らいでいくドラマも印象に残ります。


 もっとも、宮中のことを知らない小鹿の視点から描くことで、本作は、逆に物語が見えにくくなってしまった印象は否めません。作中で描かれる謎の数が多く、事態が輻輳した本作においては、この点が物語のテンポを大きく削ぐ結果となっていたといえます。
 特にクライマックス直前までの謎の積み重なり方は、かなり複雑で――それが一気に解ける快感ももちろんあるのですが――一体今は何を追っているのか、何を解けばいいのかがわかりにくい状況であったと思います。

 ユニークな設定であり、結末に明かされる真実も意外かつ納得のものであっただけに、その点は勿体ないのですが――今月、続編の『安倍晴明くすしの勘文』が刊行されたので、そちらも是非読みたいと思います。


 ちなみに本作は、以前に発表され、最近新装版が刊行された作者の『晴明あやかし鬼譚』と同じ世界観に属する物語のようです。
 こちらは本作の約五年後、紫式部をゲストに迎えて描かれる名品ですが――こちらを読んだ後に本作を読むと、共通する登場人物(本作でも活躍する二人)の運命が、何とも言えぬ苦さを持って感じられるところです。


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