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2024.12.03

漫画に映える水と油の二人 うゆな『大正もののけ闇祓い バッケ坂の怪異』第1巻

 昨年、ポプラ文庫ピュアフルから刊行された、あさばみゆきの大正もののけ退治ものが漫画化されました。東京の山の手を舞台にに、堅物の剣術指南と軟派な八卦見という水と油の二人が、様々な怪異と出会う連作の第一巻です。

 目白で父親の跡を継いで剣術道場の師範を務める柳田宗一郎が、出稽古の途中で出会った八卦見の男・旭左門。道端で女性相手に商売をする左門の胡散臭さに反感を抱く宗一郎ですが、左門は彼に「死相が出ている」「女難」に遭うと告げるのでした。
 腹を立ててその場を離れた宗一郎は、出稽古の帰り、自分の道場があるバッケ坂の入口で、あけ乃という女性を助けるのですが――彼女を送っていった先の屋敷から、出られなくなってしまうのでした。

 怪しい態度を見せるあけ乃と、時間と空間が歪んだ屋敷に閉じ込められてしまった宗一郎。そこに屋敷の外からやって来たのは、あの左門で……


 という第一話から始まる本作は、原作に忠実に展開していきます。はたしてあけ乃とこの奇怪な屋敷の正体は何か。そこに平然と入り込んで宗一郎を助けようとする左門は何者なのか。そして宗一郎と左門は、屋敷から逃れることができるのか。
 第一話からなかなかヘビーな状況ですが、どんな怪奇現象に出会っても気の迷いで済ましてしまう宗一郎と、ヘラヘラと軽薄な態度ながら不思議な術を使う左門――相反する個性の二人が、それぞれの力を活かして窮地を切り抜ける様はユニークな怪異譚として楽しめます。

 というより宗一郎の場合、これが窮地だと理解していないのが面白いところで、それ以外の部分も含めて、ほとんど「漫画のような」四角四面の石頭、いや鉄頭なのですが――それが実際に漫画になってみると実にハマります。
 ちょっとやり過ぎ感があるくらいの宗一郎のキャラクターですが、こうして時にデフォルメも加えた絵で見せられると、違和感がないのが面白いところです。
(ちょっと可愛すぎるキャラデザインかな、とも思いますが、美男子設定ではあるので……)


 ただ、それ以外の部分も含めて漫画として見ると、ちょっと不安定な部分があるのも正直なところです。
 重箱の隅を突くようで恐縮ですが、例えば宗一郎が井戸で水浴びする場面など、本作では服を着たまま頭に水を被っているのですが――確かに原作には細かい描写はないものの、さすがに上は諸肌脱いでいないと無理があるわけで、そこは絵で補う必要があったのではないでしょうか。

 その他、原作では狭苦しい居酒屋だったのが妙に広い空間として描かれていたり(これはまあ、展開的にはあり得ないこともない、と擁護できるかもしれませんが)、原作の内容を漫画という別メディアに移し替えられているか、というと、厳しいことを言えばまだ苦しいように感じます。


 この第一巻では、宗一郎がかつて尊敬していた兄弟子と不思議な再会を遂げる原作第二話まで収録されていますが、原作は全五話構成。この先、いよいよドラマ的に盛り上がる内容を、どこまで漫画として描き留められるか――早くも正念場という印象です。


『大正もののけ闇祓い バッケ坂の怪異』第1巻(うゆな&あさばみゆき 一迅社ZERO-SUMコミックス) Amazon

あさばみゆき『大正もののけ闇祓い バッケ坂の怪異』 水と油の二人が挑む怪異と育む関係性

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