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2025.01.02

新年最初の映画に『ゴールデンカムイ』を

 故あって新年は祝えないのですが、一年の初めらしく賑やかであまり難しいことを考えないで済む(そして記事のネタになる)ものを観たい――と考えて思い出したのが、まだ観ていなかった映画版『ゴールデンカムイ』。丁度続編も発表されたことだしと思って見ましたが、想像以上の作品でした。

 『ゴールデンカムイ』といえば、明治時代の北海道を舞台に、アイヌの黄金を巡って不死身の風来坊とアイヌの少女、生きていた土方歳三と脱獄囚、第七師団の反乱部隊らが入り乱れて争奪戦を繰り広げる一大活劇。私の大好物な内容であって、当然ながら原作は全巻読んでブログの記事にもしていました。
 そんなファンではあるものの、映画は今まで観ていなかったのは、本作に限らずあまり日本の漫画の映画化に興味が持てないためだったのですが――いざ見てみれば、なかなか良くできた作品だったのは嬉しい驚きでした。

 内容的には、本作は原作の第1巻から第3巻の前半までとかなり序盤を題材にしています。
 杉元とアシリパそして白石の出会い、アイヌの黄金の在り処を隠した刺青人皮と脱獄囚の存在の説明、黄金を探す鶴見中尉一派の暗躍と捕らわれた杉元の戦い、第三勢力である土方歳三一味の登場――この『ゴールデンカムイ』という長い物語を描く上での、基本設定というべき内容が中心となっています。

 今こうして観てみると、まだこの時期はだいぶ抑え気味の内容だった――というか変態脱獄囚が登場せず、第七師団の兵士との戦いがメインになるので、ある意味当然なのですが(その分クライマックスで変態枠として二階堂兄弟が暴れた、ということはないでしょうが……)、しかしそれをメリハリの効いたアクションで盛り上げてくれるのが、まず嬉しいところです。
 冒頭の二〇三高地の戦いはそれなりに物量を用意して迫力を出していましたし、随所に登場する動物のCGも違和感も小さかったかと思います。。そして何よりもクライマックスのバトルシークエンスは(それ自体は原作でもあったものですが)、随所をボリュームアップさせて見応えあるものにした上で、クライマックスに原作以上に格好良い(そして杉元との関係性を示すかのような)アシリパの弓のシーンが用意されていたのに唸りました。


 しかしそれ以上に感心させられたのは、ストーリーの整理の仕方です。先に述べたように本作は原作ではまだ冒頭部分を題材としたもの――長編の週刊連載では得てしてこの時期はまだ作品のカラーが固まっておらず、描写や設定なども後から見ると微妙に違和感や物足りなさがあることもしばしばです。
 その点を本作は、原作のかなり先の方からも描写や設定――例えば鶴見が語る反乱計画の資金源や、鶴見が見せるアイヌの金貨の存在、土方とウィルクの関係など――を引用して補って見せているのは、やって当然とはいえやはり盛り上がるものです。

 そしてこうした描写の補完だけでなく、ストーリーの整理の仕方も納得できるものでした。例えば杉元が黄金を必要とする理由について、原作では冒頭で描かれた(しかしアシリパに語るのは相当後になった)のに対して、本作では終盤に描くことで、より印象的なものとしていたのには感心しました。
(ここも、原作ではかなり離れた時期に描かれていた、杉元が婚礼の時に寅次を投げ飛ばす場面と寅次が二〇三高地で杉元を投げ飛ばして助ける場面、この二つを連続して見せることで、対比が明確になるのもいい)

 そしてそのくだりの後に改めて杉元とアシリパの相棒としての決意を描き、その先で、これまで引っ張ってきた「オソマ」を初めてアシリパが――という場面で締めるのが巧みというべきでしょう。もちろんこのくだりは原作にもありまずが、この流れで描くことで、ギャグを交えながらも、杉元とアシリパの相互理解の深まりが、より明確になっているのですから。
(このくだりを生身でやると、かなり悪趣味にもなりかねないだけに一層……)


 もっとも、やはり気になる点はあります。例えばアイヌと和人の関係などは原作に比べるとかなりサラッと流された(それでも白石の問題発言が残っていたのは頑張ったといっていいものか)のは引っかかるところで、コタンでのアシリパとの会話も、ここをカットしちゃうの!? と驚いたのも事実です。

 また、個人的には予告編の段階から気になっていた、杉元や第七師団の服装が妙に綺麗だったのはやはり違和感が残りました。また、白石の漫画チックなキャラクターは実写で見るとかなり浮いていた印象は否めません。
(もう一つ、もう少し土方たちの出番が欲しかったところですが、これはむしろ原作では少し先の場面を持ってきて増やしているので仕方ない)

 とはいえビジュアル面については想像以上に良かった点も多く、さすがにこれは無理があるキャスティングではと心配した山崎賢人の杉元はほとんど違和感がありませんでしたし(時々、ハッとする程原作写しの目線があったり)、また山田杏奈演じるアシリパのあか抜けなさの絶妙なラインは、なるほど可愛い女の子でもこんな環境を走り回っていればこうなるかと、不思議に納得させられました。
 そして出番は少ないながらも、月島の存在感が絶妙(原作ではまだモブ扱いだった初登場シーンのインパクト!)と感じたのは、これは原作時点から好きなキャラだったためかもしれませんが……


 総じてみれば、原作から色々な意味でマイルドになったな、と感じる点はあれど、プラスマイナスでみればだいぶプラスの本作――新年に見るに丁度よい作品であっただけでなく、この後のドラマ版、そして映画の続編も、素直に期待が高まったところです。

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