2022.05.03

岩崎陽子『無頼 魔都覚醒』第1巻 天海外法陣! 水晶髑髏! 第二シリーズスタート

 岩崎陽子が斎藤一を主人公に描く新選組漫画『無頼』の第二シリーズの第一巻であります。物語のテイストは第一シリーズの冒頭にグッと近づき、斎藤と沖田は、謎の天海外法陣と水晶髑髏を巡る争いに巻き込まれることになります。京都の封印が解かれる時、はたして何が起きるというのか……

 芹沢鴨の粛清など紆余曲折を経つつも、近藤勇の元に団結した新選組。その名を慕って様々な者たちが集まりつつある一方で、隊としては具体的な成果を挙げることができず、隊士の間には徐々に不安が広がりつつありました。が、そこに奇怪な噂が次々と飛び込んでくることになります。
 相次ぐ新選組の怪我人の陰の呪詛、薪炭商・桝屋の周りで目撃されたという蝙蝠男、屯所近くの空き家で目撃された怪火――いずれの噂にも疑いの目を向けながらも、浪士が潜んでいてはと、件の空き家に調査に向かった斎藤は、そこで蝙蝠を思わせる黒い西洋服をまとった男と出会うのでした。

 そんな中、市内で密偵を行っていた最中に「京都封じ」「天海外法陣」という謎の言葉を聞きつけてきた山崎。一方斎藤は、謎の水晶でできた髑髏を手に逃走した浪士を追うも、浪士は行く手に現れた謎の武士に斬られるのですが――謎の武士の素顔が、自分のよく見知った相手であったことに、大きな衝撃を受けるのでした。

 そして斎藤と沖田の前にあの水晶髑髏片手に現れた西洋服の男――平賀は、二人に自分の手伝いをするように呼びかけ……


 新選組版Xファイルといった赴きで、超常現象や伝奇的要素をふんだんに取り入れてスタートした前作『無頼 BURAI』。しかし物語が進むに連れて、そうした要素はフェードアウトし、歴史ものとしての顔が全面に押し出されることとなりました。
 もちろんそれはそれで斎藤と沖田の絆など、本作ならではの要素を、作者ならではの美麗な画で読むことができたので不満はないのですが、やはり(私のような人間には)一抹の寂しさがあったのは事実であります。

 さて、前作は芹沢鴨の粛清(と、それに対する斎藤の屈託とその解消)を描いて終わりましたが、もちろん新選組にとってそれはあくまでも最初の一区切りにすぎません。
 かくて本作ではその後の新選組が描かれるのですが――これが副題に示されているように、嬉しいことにこれまで以上に伝奇色濃厚な内容なのです。

 謎の黒マントの医師・平賀深雪、京都封じの天海外法陣、その鍵となる謎の水晶髑髏、斎藤の隠された出自――と、もう嬉しくなってしまうようなガジェットと展開が目白押し。さらに新たな宿敵としてあの幕末四大人斬りの一人・河上彦斎(もちろん白皙の美形)が登場、沖田と激突するのですからたまらないのです。

 もちろん新選組要素についても言うまでもありません。この巻の舞台となっているのは、芹沢粛清から池田屋事件までのある意味大きな事件がなかった時期。その時期特有の隊士たちの倦怠や動揺を物語に取り込むことにより、土方の言葉を借りればまだ馬のホネだった新選組の姿を、ここでは巧みに浮き彫りにしていると感じます。

 もちろんそんな時期だからといって、怪しげな天海の京都封じ探しに斎藤たちが巻き込まれるのは飛躍した展開にも見えるのですが、そこにきっちり伝奇的エクスキューズが入っているのも嬉しいところであります。
 そして物語のクライマックスにおいて、ついにその妖異極まりない姿を顕わにした封印の門。その封印が――という展開も、ビジュアルも相まって非常に印象的な名場面と感じます。


 その一方で、あの「桝屋」が登場したり、長州浪士たちが怪しげな動きを見せていたりと、この後の展開の準備も着々と進められているこの巻(そして沖田の体調も……)。
 いよいよ次巻では池田屋事件が描かれ、この『無頼』という物語の一つのクライマックスを迎えるのですが――そちらについてはまた次の機会に。

(そしてまあ、次巻が最終巻ではあるのですが……)


『無頼 魔都覚醒』第1巻(岩崎陽子 ナンバーナイン) Amazon

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2022.04.20

青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第5巻 ひとまずの別れ そして舞台は戦場へ

 金の皇女アイラが宋で繰り広げてきた恋と冒険を描いてきた本作も、この第5巻で一つの節目を迎えます。宋の秘密兵器開発も絡んだ宋の後継者争いに巻き込まれ、白凛之が仕える皇太子のために力を貸すことになったアイラ。一方、遼との戦いが激化する中、思わぬ事態から物語の舞台は金に移ることに……

 親善大使として宋に残って暮らす中、康王とともに宋の火薬を使った新兵器の秘密にまつわる争いに巻き込まれたアイラ。初めは自分たちが新兵器を開発しているという第三皇子のウン王の言葉を信じた二人ですが、真実は皇太子が担当している新兵器開発を、ウン王が妨害していたと知ることになります。

 さらにウン王の妨害はエスカレートし、放火により焼け落ちてしまう工廠。皇帝に直訴しようとしたアイラも、円珠の秘密を握ったウン王が康王を揺さぶったために断念することに……


 というわけで、口封じに自分に毒を盛ろうとまでしてきたウン王の卑劣な策略にもめげず、凛之たちを助けるため奔走するアイラたちの姿が描かれるこの巻の前半。

 しかし新兵器のために最も重要な原材料が焼け落ちてしまい大ピンチという状況に、さすがにアイラが協力できるはずもなく――とおもいきや、という展開はいかにもお話的に感じますが、なるほどこういう効用があったのか! という打開策は、女性主人公ならでは――といっても許されるでしょうか。
(恥ずかしながら、現代でも使用されているとは知りませんでした……)

 さて、不承不承手を康王も力を貸して、ついに迎えた皇帝の親閲式での新兵器お披露目ですが――その成否もさることながら、ここで印象に残るのは、皇帝の側近くに仕える者たちの顔ぶれであります。
 宰相にして最高実力者の蔡京、その息子で徽宗の最側近の蔡居安、宦官ながら軍事のトップの童貫――とこの時代を舞台にした物語ではお馴染みの面々。特に童貫はこういうビジュアルになるのか! と感心させられます。

 しかしもう一人気になるのは、皇帝の秘書というべき内省夫人の閻月琴――怜悧な美人という印象の彼女は、なんと凛之の元許嫁! この月琴、どうやら宮廷のかなり後ろ暗い部分にも関わっているらしく、凛之との過去も含めて、この先、注目のキャラというべきでしょうか。
(ちなもに凛之の真の姓が今回語られましたが、この時代でこの姓、そして今は没落しているということは、彼の縁者は……)


 さて、皇帝と皇族だけでなく、この国を実際に動かしている者たちの登場に、本作が歴史ものであることを再確認させられた思いですが、この巻の後半では、さらに歴史が動き始めることになります。
 いよいよ遼を圧倒する金軍を率いる、アイラやウジュ、オリブたちの父である金国皇帝。その父が病に倒れたという思わぬ報せに、アイラは急遽金に帰国することになるのです。

 しかし遼と金・宋の戦いがいよいよ佳境に入った上、もともと金と宋も(特に後者は)互いを窺い合う状況。そんな中で皇帝が病に倒れたと知られるわけにはいかないのは言うまでもありません。
 かくて、凛之はもちろんのこと、宋の人々には祖母が倒れたという名目で宋を離れたアイラ。しかし蔡居安は、康王を見舞いに向かわせるという名目で、(康王本人にはそれと知らせぬまま)、金の内情を探らんと企むのでした。

 一方、金が遼に攻勢を強める中、宋のみ手をこまねいているわけにはいきません。金との盟約に従い、遼の首都・燕京を攻めることとなった宋軍ですが、その決め手として、凛之たちも新兵器を携えて戦場に向かうこととなるのです。


 これまでは宋の国内、それも皇室が中心ということで、作中では直接的にはほとんど描かれてきませんでしたが、アイラの物語の背後では、三つの国の激しい戦いが繰り広げられてたのは史実が示すとおり。
 この巻の後半の展開は、その戦いが、ここからアイラ自身の物語に関わってくるということなのでしょう。

 そして歴史の中で金と宋という国が、そしてそこに暮らす人々がどのような運命を辿るかも――そしてその過酷さも、我々は知っています。そこでアイラが、凛之が、登場人物たちがどのような役割を果たし、どのような結末を迎えるのか――いよいよ物語は佳境に近づいているというべきでしょうか。


『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第5巻(青木朋 秋田書店ボニータコミックス) Amazon

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2022.04.14

うちはら香乃『異界譚里見八犬伝 番外編 刹那の奇跡』 信乃、戦場帰りの父に出会う

 「朝日小学生新聞」連載中の『異界譚里見八犬伝』の番外編であります。序章と一章の間の時期に、信乃が垣間見た父と母のかつての姿とは――犬塚家のルーツを描く短編であります。

 山犬討伐に向かった先で、その山犬たちを操る謎の美女・玉梓に襲われ、伏姫神の加護で辛うじてこれを打ち破った信乃。その伏姫神から、信乃は里見の犬士としての自分の宿命を教えられ、孝の玉を授かることに……

 という序章から、信乃が古河に旅立つ一章の間に位置するこの番外編。荘助から、かつて父・番作が里見家の人々とともに結城城に立て籠もっていたと聞かされた信乃は、躊躇いながらもかつての話を聞いてみることを決意します。
 が、番作は手習いの授業(の最中に居眠り)中。そして信乃は浜路とわちゃわちゃやっているうちに縁側から転落してしまうのでした。

 と、気がつけば信乃は一人夜の道に。そこで兵士たちに追われるボロボロの若者と出会った信乃は、それが父の若き日の姿だと気付きます。そしてその後を追いかけた先で、父と母の出会いを目撃することに……


 『南総里見八犬伝』では冒頭に語られた、結城合戦から始まる過去の物語。一方本作は、信乃の物語として始まったことで、この序章ともいうべき部分は、一旦省略されることとなりました。

 そのうち伏姫伝奇に当たる部分は、後に三章で、信乃たちがヽ大法師から聞かされるという形で描かれましたが、もう一つの結城落城にまつわる物語――信乃の父・番作と母・手束の過去については、これまで語られてきませんでした。
 それがここで描かれるとは、と少々驚きつつも、この後の物語の流れを思えば、描くとしたら、このスタイルになるのは頷けます。

 さて、その内容の方は、いかなる奇瑞か結城落城後の時代に現れた信乃が、村雨を持ち三つの包みを携えた父・番作と出会い――と、原典の第二集で描かれた番作の姿を踏まえて描かれます。
 もっともここでの出会いは、サブタイトルの通り、まさしく「刹那」――というより目撃に近いものではあります。しかしここでの番作の姿は、この時点の信乃にとっては最も縁遠い、戦の空気を漂わせたもの。それが彼の心に強い印象を残したことは疑いようもありません。

 ことに番作が抱えている包みの中身について気付いたこと(そして村雨は落としても包みは落とさなかったこと)は、信乃にとっては――そして主たる読者層にとっても――大きなインパクトを与えたことでしょう。
(そしてあと二つの包みについては特に触れられていないのは、これは本作ならではの視点ではあると思います)


 本編ではこの後、大塚村を襲った惨劇で、落命した(とはいえ明示はされていませんし、浜路の例もありますが……)番作と手束ですが、図らずも大切な人を失うこととなった信乃が、両親のことをどのように思い出すのか――ページ数としてはごく短いものながら、そんなことも考えさせてくれる一編です。


『異界譚里見八犬伝 番外編 刹那の奇跡』(うちはら香乃 Kindle版) Amazon

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2022.04.13

相田裕『勇気あるものより散れ』第2巻 生き残った武士の姿、会津武士の姿

 明治初頭、数奇な運命に翻弄されてきた不死の民の少女・シノと死に損ねた会津の武士・春安の主従の戦いを描く物語の第二巻であります。不死の一族を殺す力を持つ妖刀・殺生石を手に入れたものの、その代償に倒れ伏した春安。はたして春安の運命は、そして彼らは無事に脱出することができるのか……

 戊辰戦争で生き残り、死に場所を求めた末に、大久保利通暗殺の企てに加わった元会津藩士・鬼生田春安。しかしその企てを九皐シノと名乗る少女剣士に阻まれ、一度は命を失った末に、春安は彼女に蘇生させられるのでした。
 実はシノは「半隠る化野民」と呼ばれる不死の一族の末裔。その眷属とされた春安は、幕府にその身を利用され尽くした末に心が壊れた母の命を絶つというシノに、協力を誓うのでした。

 そして不死殺しと呼ばれる妖刀・殺生石を奪取するため、仲間たちと宮城に潜入した春安は、そこでシノの兄・隗と対決。殺生石の力で辛うじて勝利したものの、その代償で力尽きて……


 と、いきなりクライマックスのような展開でヒキとなった前巻ですが、しかし春安が力尽きた場所は、彼らにとってはいわば敵地というべき場所。目的である殺生石を奪取したとしても、ここから脱出できなくては意味がありません。

 しかし捨てる神あれば――というべきでしょうか、偶然出会った会津出身の陸軍幼年学校生徒・鉄馬に救われ、春安たちは元会津藩家老・山川大蔵(この時点では山川浩)のもとに身を寄せることになります。
 ここで感心させられるのは山川大蔵というチョイス。なるほど、知恵者として数々の逸話を持ち、そして明治政府でも会津出身として異数の出世を遂げたこの人物であれば、主人公の後ろ盾となってもおかしくはないと感じます。

 しかし、春安とシノが挑む相手は、いわば政府。二人が山川の元に潜伏していることを察知した太政官図書掛の山之内は、銀座の街中で銃撃戦も辞さない強引な攻撃で、脱出した春安たちに追撃を仕掛け……


 というわけで、前半では春安たちと会津出身の人々との交流(そしてそれを通した明治の武士たちの姿)が描かれ、そして後半では春安たちと新政府との激突が描かれるこの巻。
 前巻が半化野民にまつわる物語が中心となる伝奇性の強い内容であったとすれば、この巻は比較的歴史ものとしての性格が強めであると言えるかもしれません。

 もちろんそれは物語がおとなしいということとイコールなどではなく、特に後半の、とんでもない武器まで飛び出してほとんど市街戦のような様相を呈する戦闘シーンは、インパクト十分といえるでしょう。

 しかしそんな物語の中で気になってしまうのは、人間側のキャラクターへの感情移入のしにくさであります。
 確かにこの時代に生き残ってきた武士の窮状――特に会津武士の理不尽ともいえる状況――は、知識として頭に入ってはいますが、それが作中の描写から、キャラクターの行動原理として納得できるかというと、いささか疑問があります。

 特にこの巻の終盤の展開では、この行動原理がキャラクターの生死にまで関わってくるのですが、そこに感情移入できなければ、行動が極端な人間、という印象で終わってしまうので……


 この巻のラストでは再び物語が伝奇サイドに大きく動き出す予感がありますが、さてその中で明治の武士たちの物語を、ここからどれだけ力強く描くことができるのか。正念場と感じます。


『勇気あるものより散れ』第2巻(相田裕 白泉社ヤングアニマルコミックス) Amazon


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2022.04.08

秋本治『BLACK TIGER』第1-3巻 最強の女ガンマン、西部(と幕末)を行く

 『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の秋本治が、同作の終了後に連載中の西部劇アクション漫画であります。南北戦争直後の時代、殺しの許可証を持つブラックメンバーの一人にして美貌の超人的ガンマン・ブラックティガーの活躍を描く連作シリーズです。

 西部のとある町で、20人の賞金首が待ち受ける酒場に真っ正面からたった一人で乗り込んだ全身黒ずくめの女ガンマン。瞬く間に全員を片づけてのけた彼女、ブラックティガーこそは、合衆国政府が選んだブラックナンバーの一人――南北戦争後に急激に悪化した南部の治安維持のため、殺人許可証を与えられた凄腕の賞金稼ぎだったのであります。

 そして酒場に居合わせた闇医者のドクター・ウエキを証人に、賞金30万ドルを受け取ったブラックティガーしかしその晩、墓場に埋葬した賞金首の死体が墓場から起き上がり、保安官を殴り殺すという怪事件が発生することになります。
 生ける死体はブラックティガーが倒したものの、その直後に襲撃された彼女は、不意を突かれて捕らわれ、ある研究施設に連行されることになります。

 そこは人体に特殊なウィルスを寄生させて不死の兵士を産み出す秘密兵器・覚醒人間の研究を行っていた南軍残党の研究所。実は「南」のスパイだったウエキを巻き込んで拘束からは逃れたものの、覚醒人間たちの群れが迫る中、ブラックティガーの運命は……


 これまで読切やシリーズ連載作品でしばしばアクションものを描き、また「こち亀」作中でも折りに触れてアクション志向と、ミリタリーやガンマニアぶりをアピールしてきた作者。本作は、そんな作者の趣味がギュッと詰まったハードアクション漫画であります。

 上に述べた第1話はかなり伝奇風味、というかSF風味も入っていますが(そしてそれはそれで本作の基調にもなっているのですが)、しかし本作の基本はあくまでも西部劇。この後に続くエピソードは、ロングドライブあり、ゴールドラッシュあり、騎兵隊と原住民の争いあり――ブラックティガーはウエキを子分代わりに駆け抜けるのは、このどこか懐かしい世界なのです。

 それにしても、時代劇がいまでもそれなり以上に命脈を保っている一方で、(特に国産という点では)非常に寂しい状況にある西部劇。その西部劇を、それも娯楽路線まっただ中を行く作品が、こうして描かれるとは、と思わず感慨深くなります。

 ちなみに以前より望月三起也ファンを公言している作者ですが、本作はその望月ガンアクションへのオマージュの色彩も強い作品。
 特に、スミス&ウェッソンのオリジナルカスタムリボルバーを使うブラックティガーと、同じブラックナンバーである自動拳銃使いのブラックジャガーの決闘の結末など、大いに「らしさ」を感じるところであります。

 その一方で、あまりにブラックティガーの超人的身体能力(むしろその超人ぶりは寺沢武一的なものを感じます)が前面に出すぎていて、もう少し銃撃戦にテクニカルな面が描かれてくれれば、というのも正直な感想ではあるのですが……
 とはいえ、拳銃だけでなく、鉄道や船なども含めた大小さまざまなガジェットを見ているだけで楽しくなってしまうのは、間違いのないところであります。


 さて、本作は現時点で第9巻まで発売されているのですが、今回第3巻まで取り上げたのは、第3巻になんと日本編が収録されているからであります。

 宿敵である「南」のマッドサイエンティスト、ドクター・ノアを追って(第2巻に収録されたこの前のエピソードではフランスでティガーと対決)、実は日本人であったウエキを案内役に、海援隊の教官という名目で来日したティガー。
 折しも京では沖田総司が何者かに殺され(!)、その背後にドクター・ノアが開発したある兵器の影が……

 と、物語はここから竜馬暗殺、鳥羽・伏見の戦いへと突入、その背後で異形の戦いが――と、一大時代伝奇活劇に展開。上で西部劇云々と言っておいて結局それか、という流れになって大変恐縮ですが、しかしこれはこれで、番外編としては大いに魅力的な内容なのであります。
(そして何故か脇役で宮川伸吉が登場するのにちょっとびっくり)

 ちなみに沖田のことについては結局何のフォローもなかったのですが、それはそれで伝奇ものにはよくあることということで……


『BLACK TIGER』(秋本治 集英社ヤングジャンプコミックス) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon/ 第3巻 Amazon

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2022.04.07

伊藤勢『瀧夜叉姫 陰陽師絵草子』第3巻 現在と過去を行き交う物語

 もはや漫画版というより伊藤勢版と言ったほうが正しい気がする『瀧夜叉姫』第3巻であります。同時多発的に起きていた怪異の数々はついに一つの過去に集約され、現在と過去、二つの時代を舞台に、物語は展開していくことになります。

 この巻の冒頭で語られるのは、後に一族が様々な鬼と関わる源経基の夢の中に、夜毎現れては彼の体中に太い釘を打っていく女の怪。これで、この物語において怪異や奇怪な事件に巻き込まれた人々は、五人目になります。

 「盗らずの盗人」に襲われた小野好古と俵藤太
 蘆屋道満でも手をつけかねる奇怪な瘡に悩む平貞盛
 盗らずの盗人を引き連れた姫との因縁があるらしい浄蔵
 そして夜毎の呪詛に悩まされる源経基

 これだけ怪事が続けば、さすがに晴明もとぼけているわけにもいかず、そして晴明と博雅の前に現れた賀茂保憲が、晴明秘蔵の酒を奪う――じゃなくて藤原師輔が五頭の蟒蛇に襲われたことを語るに至り、ついに彼らの共通点が、晴明と保憲の口から語られることになります。
 そう、二十年前、新皇を称して関東で乱を起こした平将門と関わりがあったという共通点が……


 というわけで、ついに語られることとなった将門公の名。この巻の後半ではいわゆる平将門の乱に至るまでと、その結末(の一部)が、かなりのページ数を割いて語られることになります。

 関東において、平氏の一族の内紛が続発し、そしてその中心にあった将門がついに蜂起、新皇を名乗って坂東八州を攻め従えた末に討ち滅ぼされた――要約すれば数行ですが、しかしそこには数々の人々が関わり、そして彼らの思惑が複雑に絡み合っています。
 その絡み合った糸を本作は丹念に描いていくのですが――そこに見え隠れするのは将門公ではなく、彼と共に行動したという興世王の姿。この正体不明の人物を、本作は乱の火に油を注いだ地獄の道化師として描きます。

 この興世王の不気味さと凶人ぶりたるや、胸が悪くなるほどですが、しかしそのデザインたるや、そうきたか、と言いたくなるようなもの。
 この巻で表紙を飾りつつも、本編の出番はごく僅か――しかしもちろんインパクトは抜群――の将門公と合わせ、この先描かれるであろう本格的な暴れぶりが今から恐ろしい、と言うべきでしょうか。

 そして過去といえば、この乱の直後に京で起きた、百鬼夜行による惨劇もまた、この巻では描かれることになります。
 この百鬼夜行は、第1巻の冒頭、幼い晴明たちが遭遇したものであり、そしてここで描かれたのはその直後の出来事という繋がりが見えてくるのも興味深いのですが――この辺りの物語の全体像が見えてくるのは、まだ先であります。


 その全体像ももちろん気になるわけですが、しかしそれはそれとして見逃せないのは、やはり本作ならではの晴明と博雅の関係性でしょう。

 原作ではスルーされてきた、一介の得業生と殿上人(というより皇族)という二人の身分の大きな違い。本作はそれををクローズアップし、ある種の緊張を孕んだやりとりを描きます。
 表面上(?)博雅の身を気遣う晴明と、晴明のことは開けっぴろげに信頼する博雅と――それぞれ一方通行なような微妙に通じ合っているような二人の関係。しかしそれはそれで気のおけない間柄が浮き彫りになっていて、原作とはベクトルが異なりつつも、実に「らしい」関係だと感じます。

 そして考えてみれば、原作そのままではないにもかかわらず「らしさ」が濃厚に感じられるというのは、本作全般に漂う空気でもあるわけで、主人公二人はまさにそれを体現しているとでもいうべきでしょうか。

 それにしてもこの巻の終盤、源経基の屋敷で、梁の上の呪詛を探すために平然と博雅の肩を踏み台にする晴明と、それを事もなげに許す博雅というくだりがあるのですが――人前でこれをやるというのは、ある意味大変ないちゃつきっぷりなのでは……


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2022.04.06

岩崎陽子『無頼 BURAI』第5巻 芹沢粛正と、彼にとっての新選組の意味

 斎藤一を主人公に、新選組に集った者たちの姿を描く『無頼 BURAI』ひとまずの区切りの巻であります。試衛館派と芹沢派の関係が悪化の一途を辿る中、何とか打開の道を探そうとする斎藤。しかし時既に遅く最悪の事態が発生、わだかまりを抱えた斎藤は……

 大坂での力士との乱闘事件、大和屋砲撃と、いよいよ乱行を極める芹沢鴨の行動。手打ちの相撲興行を巡って近藤を侮辱され、怒りに燃える土方は、新見錦の内通の証拠を押さえ、新見は全ての責は自分にあると切腹して果てることになります。
 そこで新見に芹沢を託される形となった斎藤は、試衛館派に微妙な違和感を感じ、さりとてもちろん芹沢派につくでもなく、双方とのしがらみに悩むことになります。

 一方、以前より関わりがあった奥州脱藩浪士、実は会津藩国元の隠し目付・高本貞司郎が、内側から新選組を知りたいと入隊。さらに増えた悩みの種に頭を抱える斎藤ですが、高本は外からではわからない隊士たちの真摯な姿に、会津藩の側が新選組を見下していたことに気付くのでした。

 そんな中、浪士たちの襲撃を受けた芹沢を助けに入った斎藤は、そこで天狗党の亡霊たち相手に刀を振るう芹沢と、彼の周囲の巨大な虚無を目の当たりにすることになります。
 斎藤に対して面影の井戸を引き合いに出し、自分にとって確かに見えていたはずの未来が見えなくなったと語る芹沢。芹沢も自分たちと変わらないと悟った斎藤は、土方に芹沢排除を待つよう訴えるのですが、時既に遅く……


 新選組もので最初の山場というべき(そして結構ここで終了する漫画も多い)芹沢粛清。本作もこのひとまずの最終巻で芹沢の最期が描かれるのですが――注目すべきは、その粛清のその時は直接描かれず、むしろ「そこから先」にページを割いていることでしょうか。

 芹沢暗殺には土方・沖田・原田が加わっていたというのが一般的な説ですが、本作もそれを採用。だとすれば斎藤はその場にいなかったわけで、斎藤が結果のみを知ることになるのはむしろ当然ですが――本作では、それがむしろ大きな意味を持っています。
 なりゆきから沖田をはじめとする試衛館組と行動を共にしながらも、必ずしも彼らと一心同体ではない斎藤。そして(人一倍悩みやすいこともあって)そこから生じる微妙な隙間風を感じてきた彼にとって、この事件は小さなものであるはずがありません。

 そこに当の沖田も、彼には全くそんなそぶりも見せずに加わっていた――というのに加えて、さらに高本から芹沢排除は会津藩の指示だったことを聞かされる斎藤。はからずも芹沢の人間的な部分を見てしまっただけに、更に彼の心は乱れることになるのですが……


 新選組参加後の足取りが(それなりに)判明しているのに比べると、それ以前の行動や、ましてや人となりもほとんど伝わっていない斎藤一。にもかかわらず(あるいはだからこそ)新選組ものの主人公となることが少なくない斎藤ですが、本作は彼に、武士としての信念を持ちながらも同時に繊細な感性を持つ――そしてだからこそ様々な「現実」に悩み続ける青年という個性を与えました。

 その個性ゆえに己のあるべき場所と、そこで共に生きる者を持ってこなかった彼が、初めて得た「新選組」という場所と仲間たち。しかしそこが同士討ちも辞さぬ場だとしたら、そして心を開いた相手がその手を下したとしたら――この巻で描かれるのは、その悩みであります。

 こうしたある意味パーソナルな視点に加え、ここではさらに、高本という外部の視点を通じて、会津にとって新選組は何なのか? という、歴史ものとしての問いがなされることになります。
 それは言うまでもなく、新選組とは何だったのか、という問いかけとイコールであるわけですが――もちろんそこに一つの、本作らしい答えが出ることは言うまでもありません。

 それをここで述べるのは野暮というものですが、物語のラストで斎藤が土方に告げた言葉は、その後の彼の行動を思えば、何とも重みがあるというほかありません。

 そしてもう一つ、高本の「正体」ですが――実は○○というのはすぐにわかったものの、まさか本名が××だったというのにはさすがに仰天。確かに実家はアレなんですが……


 さて、本作はこの第五巻で完結ですが、伝奇度をパワーアップさせて、第二シリーズである『無頼 魔都覚醒』にそのまま繋がることになります。こちらももちろん、近日中に紹介させていただく予定です。


『無頼 BURAI』第5巻(岩崎陽子 ナンバーナイン) Amazon

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2022.04.01

安達智『あおのたつき』第8巻 遊女になりたい彼女と、彼女に群がる男たちと

 冥土の吉原で迷える魂を導く元花魁・あおの奮闘を描く『あおのたつき』、第8巻の中心となるのは、自ら望んで吉原の遊女になった娘を描く物語。何ゆえ彼女は遊女になりたいのか――理解できない存在を前に、あおは戸惑うことになります。

 現世の吉原では花魁・濃紫として知られながらも、ある出来事で命を落とし、いまは子供の姿で薄神白狐社の奉公人として働くあお。宮司の楽丸が失った神具を取り戻すための修験も終わり、二人は誓いも新たに迷える魂と相対することになりますが――今回登場するのは、現世から迷い込んだ一人の少女であります。

 ある日、社に祈祷を頼みに現れた少女――九重という源氏名を持つ彼女は、明日から遊女になると告げ、遊女が天職だと嘯くのでした。
 しかし身なりから彼女がちゃんとした家の娘だと見て取ったあおは、親御さんが悲しむと諭しますが九重は反発するばかり。楽丸はそんな彼女の背後に憑いた不気味な存在を目撃――これが彼女を惑わせていると見て、何とか祓おうとするのですが、憑き物はすぐに姿を消してしまうのでした。

 そして二人が九重の心を変えることも憑き物を祓うこともできないまま、九重の水揚げの日が訪れることに……


 これまで本作で描かれてきた人々とは、ある意味全く異なるパーソナリティを持った九重を中心としたエピソードで「落合蛍」。そこから感じられるのは、これまでにない強い生々しさであります。

 それはこの物語で描かれているのが、これまで以上に現代の我々に直結したものであるからなのでしょう。
 自分の存在感と価値を体の交わりで実感する少女と、そんな彼女を搾取し消費しようとする大人たち――それは我々の周囲で現実に起きていることにほかならないのですから。
(そんな大人たちが嬉々として口に上らせる「毎晩○○○」という言葉は、本作においてこれまでで最も恐ろしく感じられました)

 その一方で、「自分を大事にしたほうが良い」と説教するあおと、一連の行動が憑き物によるものと思い込んでいた楽丸の二人もまた、それぞれ自分の理解できる範囲でしかものを見ていない大人たちを象徴しているように思われて、何とも考えさせられるのです。
(この二人の場合は、九重の現代性についていけなかったがため――と言えなくもありませんが)

 もっとも、そのテーマ性が前面に出すぎていたためか、物語展開が直球過ぎる印象があったのも正直なところではあります。特にこの巻冒頭の九重のセリフで、彼女の内面とこの先の展開が予想できてしまうのは、いかがなものかな、と感じられたところです。


 さて、この巻の実質ラストのエピソードである「廓七不思議」は、タイトルのとおり浮世の吉原で囁かれる七つの怪異を追って、あおと、山田浅右衛門に仕える子鬼・鬼助が奔走するユニークなお話。
 何ともトホホなものが多い怪異の真相の可笑しさもさることながら、これまでのエピソードに登場したゲストキャラたちが賑やかに顔を覗かせてくれるのも、また嬉しいところであります。
(そして冥土の四郎兵衛会所の役人が、こう、ちょっとたまらん感じなのも実に良い)

 しかしその一方で、ラストには一転不穏な空気が漂う展開に。どうやら次巻では、鬼助が物語のキーとなりそうです。


 また、恒例の巻末の番外編は二本立てであります。一つ目は大晦日の吉原で狐舞(ちゃんと狐面が笑ってる)を舞う楽丸を描いた一編。吉原の風物詩のために奮闘する楽丸の生真面目さが微笑ましくすらあります。
 そしてもう一編は、生前の濃紫と客との後朝の別れですが――洒落た江戸の大人の恋の物語かと思えば、ラスト1ページできっちりオチが。やはり濃紫は逞しいことです。


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2022.03.26

赤名修『賊軍 土方歳三』第6巻 迫る復讐鬼 そして義を衛る男!

 まだまだ続く会津での死闘。新政府軍の目を惹きつけるために出撃した土方と新選組の前に、強敵・板垣退助と過去からの復讐鬼が立ち塞がります。そして庄内藩に援軍を求める途中、米沢に立ち寄った土方と沖田に襲いかかる敵の群れに、義を衛るためあの男が起つことに……

 会津に依り、必死の抗戦を繰り広げる土方率いる新選組と旧幕府軍。土方は、奥羽越列藩同盟の中核である会津を潰すため、大久保利通が企てた現藩主の、そして前藩主・松平容保の暗殺計画を辛うじて防ぐことに成功します。
 そんな中で土方が知ることとなった奥羽越列藩同盟逆転の秘策――それはなんと、ビスマルク率いるプロシアの援軍でありました。海外勢力の介入は禍の元と反対する土方ですが、既に全ての責任を背負って死ぬ覚悟を決めていた容保の決意は変わりません。

 そしてそこに攻撃を開始する板垣退助率いる新政府軍――その中には、池田屋の恨みを文字通り背負った百村発蔵がいました。板垣の近代戦術と、百村の執念が、土方を追い詰めることに……


 というわけで、この巻の前半で描かれるのは滝沢本陣を巡る戦い。かつての近藤のような覚悟を見せる容保を前に自分の無力さを嘆く土方ですが、だからといってむざむざと主君を討たせるわけにはいきません。
 かくなる上は自分たちが敵の目を惹きつけると覚悟を決めた土方ですが――目を惹きつけるといえばこれだ! とばかりに、誠の旗とダンダラの隊服で突撃を仕掛けるのは、これはいかにも本作らしい痛快さというべきでしょう。

 しかしこの隊服を見るやエキサイトするのが百村。以前、第2巻の白河口の戦いで登場した際にはあまり印象に残りませんでしたが、今回は彼が新選組――というか土方を恨む理由が描かれることになります。そしてそれがまた、これはどう考えても土方が悪いのですが……(本当に想像以上に悪い)。
 ところがこの先の展開で、この悪印象をひっくり返してみせるのですから何とも心憎い。この辺り、土方の格好良さを描かせたら本作は実に巧いものです。


 そして、この巻の後半で描かれるのは、いよいよ籠城が決定的となった中で、庄内藩に援軍を請いに行く土方と市村鉄之助(実は沖田総司)の姿。その途上、米沢に弾薬補給を請いに立ち寄る二人ですが、ここで意外な人物が登場することになります。
 その名は永倉新八――言うまでもない、新選組二番隊組長として活躍したあの永倉ですが、実はこの時期、米沢に身を寄せていたというのは紛れもない史実。とはいえここで永倉を登場させるというのも、本作ならの趣向というべきでしょうか。

 その永倉、本作ではドレッドヘアというまたインパクト満点のビジュアルなのですが、ある理由から土方と対峙することに。元々、甲州での敗北後に近藤の言動が元で袂を分かった男だけに、それはそれで違和感がないようにも思えますが――しかしここから物語はさらに二転三転します。
 既に降伏を決意した米沢にとって土方たちは邪魔な存在、その刃が沖田に迫ったとき永倉は――お約束とはいえ、やはりグッとくるものがあります。

 思えば本作は、原田といいこの永倉といい(そして考えてみれば沖田も)、一度は袂を分かった隊士をも――ファンが見たかった形で――描いてきました。もちろんそれはあくまでも一種の「夢」なのですが、それでもやはり、嬉しいものは嬉しいのは言うまでもありません。

 そしてこの巻のラストでは、これまた泣かせる「再会」が描かれるのですが――しかしそんな中でも、会津は刻一刻と追い詰められている状況にあります。
 落城目前の会津を本作がどのように描くのか、そしてそこで土方たちがどのような役割を果たすのか――嬉しがってばかりはいられない、苦い展開が次の巻では待っているようです。


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2022.03.15

「コミック乱ツインズ」2022年4月号(その一)

 「コミック乱ツインズ」4月号は、驚愕の新連載『仕掛人めし噺 藤枝梅安歳食記』が表紙&巻頭カラー。そして『おんな座頭けもの道』『儘に慶喜』『徒花』と特別読切が一挙三本掲載と、豪華な内容となっています。今回も、印象に残った作品を一つずつ挙げていきたいと思います。

『仕掛人めし噺 藤枝梅安歳食記』(武村勇治&池波正太郎(原案))
 というわけで、数ヶ月前に完結した武村版『仕掛人 藤枝梅安』がまさかの復活(?)。一見食と関係のないような漫画のグルメ版スピンオフというのは、以前から密かにトレンドになっているような気がしますが、まさか梅安でそれをやるとは――と最初は驚きましたが、冷静に考えれば梅安(というか池波作品)は食と関係大あり。『梅安料理ごよみ』といった書籍も発売されているくらいですから、むしろあって当然なのかもしれません。

 さてその第一回で描かれるのは、梅安ではお馴染みの料亭井筒の料理。井筒の主人の病を治した例に豪勢な膳を振る舞われる梅安ですが、そこで女中になったばかりのおもんと出会い――と、わずか16ページながら本編の隙間を埋める内容となっているのが楽しいところです。
 そして井筒の膳と同じくらい、冒頭の卵かけご飯が旨そうで……


『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 ついに二胴修行の現場を目撃し、秘剣攻略のために己の命を擲つ覚悟を固めた佐内。体を絞るために暫く粥だけでいいと、巻頭の漫画とは正反対の(?)食生活で気合いを入れるのですが――『剣は特訓する』『弟子も育てる』 「両方」やらなくちゃあならないってのが「道場主」のつらいところ ではあります。
(しかし特訓に打ち込むあまり、本当に似合わない無精髭はともかく、月代まで毛が生えだしたのはいただけません。)

 と、そんな殺伐とした状況に訪ねてきた見知らぬ女性は、なんと根岸大隅のご内儀。三日前から根岸が姿を消し、益子屋に訪ねてもわからないので訪ねてきたというではありませんか。そこで根岸に馴染みの女がいたことを思い出した佐内がその店を訪ねてみれば、女の方も三日前から姿が見えないということで……

 立ち位置的に絶対危ない危ないと思い続けてきた根岸大隅ですが、ついに彼にも迫った魔の手。剣の腕でいえば佐内に勝るとも劣らない、踏んだ場数ではおそらく佐内以上の彼ですが、しかし純粋に人を殺すことのみを目的とした魔剣に抗することはできるのか。
 金で他者に刃という名の牙を突き立てる「犬」と、獲物を駆り立て喉笛に――いや土手っ腹に喰らいつく「狗」、強いのはどちらでしょうか?

 そしてそんな「狗」のやり口が、恐ろしい事態を招きかねないことに気付いてしまった佐内は……


『おんな座頭けもの道』(伊藤黒介)
 冒頭に述べたとおり特別読切三作品が掲載された今号ですが、衝撃度という点では本作が一番でしょう。現在はpixvを中心に活動を続ける作者が、「創作なんちゃって時代劇」と題して展開してきた『おんな座頭市』シリーズが、見事に時代劇画雑誌に凱旋したのですから。

 年端もいかぬ少女ながら、天才的なまでの剣の腕を持つ仕込み杖の使い手・市。本作は、按摩を表の顔、人斬りを裏の顔とする彼女の人斬り行を描くシリーズであります。
 そんな彼女が今回請け負ったのは、店の若い衆を斬って宿場の飯盛女を連れ出した侍の始末。相手の居場所を突き止めた市は、侍のもとを訪れるのですが……

 格好良くなければ、善悪の定まった仕掛けでもない、晴らせぬ恨みを晴らすというわけでもない――そんなある意味日常の一幕のような人斬りを描く本作。そんな物語が、市と侍、そしてもう一人を通じて、静かに描き出されることになります。
 決して派手ではない(しかしクライマックスの殺陣は、こう動くかと思わず感心)からこそ印象に残る本作、なんちゃってなどでは決してない、佳品というべき作品でしょう。ぜひ再登場を期待したいところであります。
(ちなみに、「女は座頭になれないんじゃ」というツッコミをしれっとごまかすのがなかなか愉快)


 大変長くなりますので続きます(全三回予定)。


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