2022.05.23

椎名高志『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第2巻 共闘新旧世代 そして親世代の抱える想い

 アニメは数ヶ月前に大団円を迎えましたが、コミカライズの方はまだまだ絶好調――『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第二巻の登場です。ついに揃った三人の向かう先は退治屋の里、そして結界の山。そこで三人を待つ者は、懐かしい顔ぶれと、新たな敵――!?

 戦国時代からやってきた生き別れの妹・せつな、そして従姉妹のもろはとともに、自分の本当の故郷である戦国時代に向かった女子中学生・とわ。そこで自分が大妖怪・殺生丸の子だと知った彼女は、突如襲ってきた妖怪との戦いの中で、忘れていた記憶を取り戻すことになります。
 そして時代樹の精霊から、時の歪みを正すため、西の果てに向かえと告げられた三人は、旅立ちの一歩を踏み出すことに……

 というわけでいよいよ始まる三人の旅ですが、西の果てに向かう前に立ち寄ったのは、あの琥珀率いる退治屋の里。ここで里の娘たちからめちゃくちゃ尊がられるせつなととわがまたおかしいのですが、やはり印象に残るのは、殺生丸に対する琥珀の思い入れでしょう。
 アニメでは完全に一歩引いた形であまり目立ちませんでしたが、考えてみれば琥珀は、作中でりんの次に殺生丸とは深い縁のある人間。そんな彼が殺生丸の謎めいた行動に、そしてその二人の娘に感傷を抱かないはずはありません。前巻での草太ともある意味通じる彼の内面描写には、数ページの描写ではあるものの、大いに印象に残るものでした。

 そして、対象こそ違え、同様の想いを抱く者は彼だけではありません。退治屋の里で装備を整えた三人が、次に向かうよう指示された山で待つのは、弥勒と珊瑚――そして鋼牙!
 これまた犬夜叉とかごめと縁深い人物でありながら、アニメではほとんど全く出番がなかった(まあ『犬夜叉』でも途中フェードアウトでしたが……)鋼牙に、ここできっちりと出番があるというのも、実に嬉しいところであります。

 そしてもう一人、この場で三人を待っていたのは、鋼牙と同じ妖狼族の凱風――アニメではもろはの師であった女性であります。
 そんな重要な立ち位置でありつつも、アニメではわずか一話で、しかもあまり格好良くない形で退場してしまった凱風。それがこちらでは(もろはとの因縁はあるものの)また少々異なる立場で登場するのも、アニメ視聴者としてはグッとくるのです。


 さて、ここで弥勒たちは、アニメでもキーアイテムであった虹色真珠(ちなみにこちらでは明確に出自は異なる様子)を使って、ある役目を担っていたのですが――しかし現れるのは、味方たちだけではありません。
 それは麒麟の四凶のうち、饕餮と檮コツ、そしてその息子・若骨丸――アニメでは序盤の敵という印象でしたが、こちらではその場に居合わせた親世代とも互角クラスの強敵という印象であります。

 かくて展開するのは、鋼牙vs若骨丸、弥勒・せつなvs饕餮、凱風・もろはvs檮コツという新旧世代入り乱れてのバトル!
 そこに加わっていないとわは珊瑚とともに雑魚妖怪を引き受けるのですが、二人の前に、かつて殺生丸の屋敷を襲撃し、姉妹を引き裂くきっかけとなった焔も参戦、さらに味方サイドも――と、純粋にバトルものとしても盛り上がりまくる展開であります。

 そしてそのバトルの中で描かれるのは、三人のパワーアップと覚醒――親世代の葛藤と新世代の強化、そして新たなる展開への導入、そしても一つタイトルの回収と、ここまで盛り込んでくるか! と、畳み掛けるような展開には、ただただ感嘆するばかりです。
(饕餮のなんでも喰う能力に、こちらではそう来たか! という由来が設定され、弥勒の複雑な胸中と重なる辺り、ただ唸るしかありません)


 限られたページ数で、元作品の設定を用い、元作品と同様の物語を描く――そんなコミカライズの役割を果たしつつ、元作品では描かれなかった、そしてファンが観たかったものを描いてみせる本作。
(その他アニメでのツッコミどころを埋めてみせる――とわの衣装とか)
 豪華な顔合わせのスピンオフ、などという言葉では収まらない名品であります。

 そしてこの巻のラストでは、あの男と、そして第二期で登場した彼女も登場。物語は加速するのか、新たな道に向かうのか、いよいよ期待は高まります。


 しかし長年ダウンしていた邪見を見事復活させた「妖怪の治療が得意なお方」とは、弟子の顔と口調を見るに、もしかして……


『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第2巻(椎名高志&高橋留美子ほか 小学館少年サンデーコミックス) Amazon

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2022.04.25

陶延リュウ『無限の住人 幕末ノ章』第6巻 万次長州へ そして高杉の顔は

 幕末の世に生きる万次を描く本作も、この巻から新展開。新選組との戦いをひとまず終えた万次は、中岡慎太郎とともに長州に向かうことになります。そこで彼を待っていたのは奇兵隊の高杉晋作――しかしその顔は!? 思わぬ出会いと新たな戦いが描かれます。

 坂本龍馬とともに訪れた京で、新選組と幾度となく刃を交えることとなった万次。龍馬・以蔵・彦斎らと共に山南率いる逸番隊と天王山で激突、これを壊滅させた万次は、ひとまず虎口を脱した形となります。
 そして龍馬が海軍操練所閉鎖に伴い会社――すなわち海援隊を設立に向けて奔走し、薩摩の西郷に接近する一方で、万次は長州に向かう中岡慎太郎から用心棒を依頼され、同行することになるのでした。

 思えば長州は万次にとっては因縁の地――かつてアメリカから帰国した際、万次は長州に漂着、野山獄に繋がれ(ほんの数コマですが高須久子が!)、そこで吉田松陰と出会っていたのであります。
 しかし当時の長州藩は下関戦争の敗北に加え、禁門の変を経ての長州征討によって打撃を受け、藩内で佐幕派と勤王派の血で血を洗う争いが続いている状況。その中でも勤王派の旗色が悪く、ほとんど壊滅寸前だったところに、敢えて慎太郎が出向く理由とは……


 一方、新選組は度重なる戦闘の中で失った戦力の補充のために、近藤と平助が江戸に赴くのですが――そこで仲間に加えたのが、北辰一刀流伊東道場の猛者たちであります。
 正直なところ伊東派の面々は、一部の例外を除いて、個人としてはあまり印象に残っていなかったのですが、本作においては皆なかなかの面構え。個人的にはその印象は、むしろ逸番隊よりも逸刀流に近いものを感じさせてくれます。

 しかしそんな面々があっさり近藤たちの下に入るはずもなく、いきなり険悪なムードとなるのですが――何よりもわかりやすい相互理解のために提案されたのは、双方の代表戦。ここで「新選組」側の代表は沖田、一方、伊東側の代表は服部武雄――!
 服部はまさに上に述べた一部の例外、新選組でも二刀流遣いの達人として名を馳せましたが、この二人の激突はまさに名人戦というべきでしょう。剣戟の面ではこの巻のメインというべき激闘は、大いに盛り上がります。

 しかしそれでも、その実力の一部を敢えて伏せてみせる沖田に、何ともいえぬ不穏さも感じるのですが……


 さて、物語は再び万次側に戻り、長州で慎太郎からある男を紹介されるのですが、それこそは高杉晋作。松蔭の弟子の一人であり、そしてこの時期の長州藩の勤王派を一人で支えていたともいうべき人物であります。が、そのビジュアルは――どう見ても尸良。

 これは別に尸良と血縁があるわけでは(たぶん)なく他人の空似ですが、万次も思わず驚くほどのそっくりさんです。
 なるほど「狂」的なイメージのある(そして写真では短髪なこともあって)人物だけに、意外と違和感のない高杉の尸良顔。もっとも性格の方はあまり似ておらず、万次を襲った女刺客と戦った際も、全く容赦はしなかったものの、決して己の快楽のために斬ったりはしない辺り、やはり別人であります。

 とはいえ、であるならば何故同じ顔に――という印象はあるわけで、本作ではこれまでも本編のキャラを思わせるキャラがちょこちょこと顔を出してきましたが、ここまで有名人でというのは初めて。一種のスターシステムとはいえ、やはり違和感は否めません。

 それはさておき、顔に似合わぬ(?)高杉の風雲児ぶりには、万次も感じ入るものがあった様子。それどころか、下関でのクーデター開始早々に刺客によって深手を負った高杉から頼まれ、その影武者を引き受けてしまうのですから驚かされます。
 この辺りは前巻での八百比丘尼との対話もあり、またそもそも万次って意外と人が良いわけですが、武士の理屈とか大義名分とかを嫌う人間だけに、対面してからわずかのうちに、ここまで肩入れするのにも違和感がありますが……(まあ、高杉は他の武士よりもずっと万次に近い人間だとは思います)


 というわけで、これまでとは全く形で歴史に関与することとなった万次ですが、しかし彼を付け狙う怪剣士たちが新たに登場します。あの見廻組の佐々木只三郎率いるその名は「挽斃連」――伊東派が逸刀流だとすれば、こちらは六鬼団を思わせる曲者揃い。
 今は長州の佐幕派に協力しているものの、真の狙いは万次だという彼らの目的は――幕末ノ章、まだまだ先は長そうであります。


『無限の住人 幕末ノ章』第6巻(陶延リュウ&滝川廉治&沙村広明 講談社アフタヌーンコミックス) Amazon

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2022.04.18

「コミック乱ツインズ」2022年5月号(その三)

 「コミック乱ツインズ」2022年5月号の紹介のその三、ラストであります。

『ビジャの女王』(森秀樹)
 ビジャが辛うじて蒙古軍の攻撃を退けてきた一方で、蒙古軍に敗れた末に大破壊・大虐殺が行われたバグダード。ビジャにとって大きな痛手となったのは、そこで治療していたオッド姫の父・ハマダン王が、蒙古軍に捕らわれたことであります。はたしてビジャを包囲するラジン軍に引き渡され、磔台に晒し者にされるハマダン王。問題は、その王の安否ですが――と思いきや、意外とハマダン王に関してはあっさりと決着(?)し、今回はなんとジファルの描写がメインとなります。
 ビジャの若き宰相でありながら、王位の簒奪を狙い、蒙古軍と内通して利用せんと企むジファル。その言動は典型的な裏切り小才子という印象でしたが――今回描かれるのは、それとは全く異なる彼の顔なのです。

蒙古軍に完膚なきまでに蹂躙されたバグダードにあった当時世界一の学び舎であり知識の宝庫「知恵の館」――蒙古軍に焼かれ、学者たちも皆殺しの憂き目に遭うことになったそここそは、かつてジファルも学んだ場所。それを知ったジファルは、涙を流して激怒し、蒙古皆殺しを叫ぶではありませんか。
 そしてブブが見せるインド墨家の科学力に素直に尊敬の念を抱き、万が一の時のために自分が写本した学問の書を彼に託し、人類の発展に役立てるよう頼むジファル。もしかしてジファルは実は結構イイやつ、もしくはバグダードを焼かれて目が覚めたのか!? と思いきや、ビジャを簒奪し、蒙古軍を利用して成り上がろうという野心はそのまま……

 今回のサブタイトル「善と悪のジファル」のとおり、大きな二面性を見せたジファル。しかし彼にとってはどちらも自分、二つの顔が矛盾なく尊大しているようですが――典型的などとはとんでもない、複雑なキャラクターを露わにしたジファルもまた、本作の重要人物であることは間違いありません。


『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
 城を手に入れ浦上宗景の命をこなして信頼を勝ち取った末に、重臣・中山信正の娘と結婚するよう命じられる直家。とりあえずこれで当時の武士としては立派に一人前となり、政略結婚とはいえ妻との間には娘たちも生まれ――と、良いことずくめのようですが、「政略結婚」「娘」と宇喜多的にはズンと重いワードが並びます。

 それはまだ先のこととして、気持ちは通じ合ってはいないものの、それなりに彼のことを理解している妻と、タイプは全く違うもののそれなりに人物であるらしい義父とそつなく付き合ってきた直家ですが、そんなところに宗景からの新たな指令が。それは最近宗景から距離を起き始めた島村盛実の抹殺――直家にとっては仇である盛実を討つ大義名分が出来たと燃える直家ですが、しかし宗景は抹殺対象にもう一人の人物の名を挙げて……

 と、まさに大義親を滅すという状況になってしまった直家。後世のイメージからすれば、喜んでやりかねないような気もしますが、さて……


『カムヤライド』(久正人)
 前回、驚愕の「殖す葬る」対決が描かれた本作。一回で終わりかと思いきや、ノツチの家を急襲した黒盾隊がトラップに翻弄されている間も、まだまだ激闘は続きます。

 ノツチとマリアチ、どちらのチームも戦力になる人間とならない人間がハッキリと分かれる中、モンコを監視に来てマリアチチームの助っ人になった大王の密偵・タケゥチは話術(?)・体術で活躍。もう一人の助っ人にして実は天津神のコヤネは、ぞっこんのモンコに見とれて役に立たずと、もうやりたい放題です(そしてまたキノが例のポーズを)。
 と、本当にどうするんだこれ、という状況ですが、まだまだ試合はエスカレート。手段を選ばないことでは定評のある師匠の能力バトルみたいなトラップ設置から、ついにモンコが、そしてコヤネが……

 いやはや、まだ前回の方がまともに野球(野球言うな)していたというおそろしいことになってしまった今回。しかしそんな中でもタケゥチは目的のものを見つけ、そしてラストにはついに二人が互いの正体を(?)と、次回は死闘待ったなしの状況であります。ここにさらにオウスも加わればどういうことになるのか――本当の戦いはここからです。

 しかしトレホ親方さぁ……


 次号は『雑兵物語 明日はどっちへ』(やまさき拓味)が掲載。『列士満』(松本次郎)、『江戸時代のちいさな話』(笹井さゆり)と新連載もスタートします。


「コミック乱ツインズ」2022年5月号(リイド社) Amazon

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2022.04.15

坂ノ睦『明治ココノコ』第3巻 突入、黒き楼閣 激突、黒白の狐

 明治の東京を舞台に、元九尾の狐であるビャクと、彼の「尾」たちが物の怪の成れの果てであるニゴリモノと対決する妖怪漫画の第3巻であります。浅草に出現し、次々と怪異を巻き起こす謎の漆黒の楼閣に挑むことになったビャクたち。楼閣に突入したビャクは、そこで己の尾の一本と対峙することに……

 かつて天狐によって封印され、己の八本の尾を奪われた九尾の狐。今は力の多くを失い、ビャクと名乗る少年姿となった彼は、天狐の命で、川路利良配下の特別警察隊として、ニゴリモノと対決することとなります。
 そしてビャクに協力するのは、彼のかつての「尾」たち――いまは一本一本が意思を持ち、それぞれ特技を持った狐の物の怪となった彼らとともに、ビャクは次々と事件を解決していくのでした。

 そんなある日、浅草に出現した漆黒の楼閣。いつの間に建築されたのか誰も知らず、そして誰もそこにあることに違和感を持たないという、明らかに怪しげな建物ですが――その周囲では殺人・自殺・怪死・失踪と、胡乱な事件のオンパレード。
 そしてその背後に物の怪、いやニゴリモノの存在があるとくれば、ビャクも黙ってはいられません(もっとも彼の場合、怒りの理由が少々異なるのですが……)。

 しかし天狐が見せたこの楼閣の正体は、辛うじて帝都に生き残った物の怪を引き寄せ、そしてニゴリモノに変化させてしまうという、恐るべき魔塔。そしてその塔の中心には、尾の一人であるコクがいたのです。
 かくてこの楼閣を叩き潰し、コクを連れ戻すべく、総出で出撃することになったビャクと七人の尾の面々のですが――彼らも物の怪である以上、楼閣の魔力には抗えません。そこで天狐の力を借り、時間制限ありではあるもののパワーアップしたビャクたちは楼閣に足を踏み入れるのですが……


 というわけで、前巻のラストからスタートし、一巻以上をかけて描かれるこの「黒き楼閣」編。楼閣のモデルはまず間違いなく浅草十二階こと凌雲閣かと思いますが(ただし本作は実際に造られる十数年前が舞台)、どこか薄暗いイメージもある凌雲閣を、文字通り魑魅魍魎が蠢く魔塔として描くのはなかなかユニークであります。

 その楼閣での戦いは、これまで限定的な能力に留まっていたビャクと尾たちが、ドーピングとはいえ力の一部を取り戻して、繰り広げるだけあってなかなかの盛り上がり。そしてそのクライマックスに待つのは、謎の黒幕に力を貸し、この楼閣で物の怪をニゴリモノに変えていた尾の一本・コクとビャクとの対決であります。

 これまで、他の尾がまがりなりにもビャクに力を貸していたのに対し、唯一明確に彼に反発し、尾に戻るのであればニゴリモノになる方がマシ、とまで言っていたコク。
 どう考えてもビャクとの対決は避けられない情勢でしたが、ここまで大事になるとは正直予想外でした。

 何はともあれ、そんな二人であるだけに、この対決は一種の思想対決の色彩を帯びることになります。
 物の怪が物の怪であることの誇りを重んじるビャクと、物の怪がニゴリモノになることを一種の進化と考えるコク――この両者の対峙は、(ビャクはこのような表現には怒ると思いますが)明治維新/文明開化というパラダイムシフトを前にした人間たちの精神を、ある意味象徴化したものと感じられます。

 もちろんそれはこれまでも物語の中に存在していた構図ではあります。しかしこれまで登場したニゴリモノがほとんど完全に怪物化していた一方で、コクが自分の意思というものを保っていることで、ようやくこの構図が見えやすくなったと感じます。
 もっとも、相変わらず人間たちには迷惑過ぎる理屈で、ほとんど全く共感できないというのが正直なところなのですが……
(冒頭の浅草グルメのエピソードが、コクへの切り返しに繋がる辺りは巧みなのですが)


 さて、この楼閣での戦いもいよいよ決着か、と思いきや、ラストでは物の怪とも何ともつかぬ黒幕が不気味な姿を見せ、ここからが本題という印象。この黒幕と因縁があるらしいあの人物も参戦し、この「黒き楼閣」編もいよいよクライマックスであります。
(それにしても明治12年という舞台設定がいかにも不穏過ぎる……)

 そしてラストに登場した、日本刀使いで先の戦いでも活躍したという、ちょっとマイペースの警部はやはり……?


『明治ココノコ』第3巻(坂ノ睦 小学館ゲッサン少年サンデーコミックス) Amazon

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2022.04.09

霜月りつ『神様の用心棒 うさぎは桜と夢を見る』 春の訪れとリトルレディの冒険と

 箱館戦争で命を落とし、宇佐伎神社に祀られた神様・ツクヨミの用心棒として甦った青年・兎月の奮闘を描く『神様の用心棒』も、順調に巻を重ねて早くも第四弾であります。この巻では副題にあるとおり、桜にまつわる物語を中心に、時に心温まる、時に恐ろしい全四話が収録されています。

 前巻で描かれた函館の厳しい冬も終わり、その間に厄介になっていたドルイドの血を引く貿易商・パーシバルの屋敷を引き払い、函館山の宇佐伎神社に戻った兎月とツクヨミ。そんなある日、二人はパーシバルから、彼の館に逗留している姪のリズが、夜毎悪夢にうなされていると聞かされます。
 夢の中で日本人の少女になり、蜘蛛の刺青が入った腕に追いかけられているというリズ。しかも夢を見た後には、口から血を垂らした痩せた男の幽霊が現れるというのです。パーシバルと同様、ドルイドの巫の力を持つリズだけにただの夢とも思われず、またリズの女の子を助けて欲しいという願いに、二人は調べを始めることになります。

 やがて、腕に蜘蛛の刺青を入れた凶悪な盗賊・蜘蛛の巣丁次がかつて函館を騒がせた事を知る兎月。しかし既に丁次は捕らえられ、処刑されたというではありませんか。そしてその間もリズの悪夢は続き、やがて夢の中の少女は、桜の木に登って身を隠そうとするのですが……

 そんな第一話「蜘蛛の腕」は、前作で横浜から函館にやってきたリズの存在が中心となるエピソード。好奇心旺盛で賑やかなリズは登場回でも台風の目でしたが、今回も同様に物語を騒がすことになります。
 しかし今回は謎めいた悪夢に加えて、曰く有りげな幽霊に、残虐非道な(しかし死んだはずの)盗賊と、剣呑な内容のオンパレード。元々本シリーズは、どこかほのぼのとした空気の中に、時折真剣に怖いエピソードが混ざるのですが、今回もその流れといえるでしょうか。

 正直なところ、真相は早い段階で気づく方は気付いてしまうと思うのですが、それでも緊迫感に富んだ展開に加え、クライマックスではきっちり泣かせてくる、盛りだくさん一編であります。


 また、第二話「頭の桜」は、いわゆる「頭山」がモチーフとなったエピソード。「頭山」の話を聞かされて、そんな話があるわけないと生真面目に怒るツクヨミですが、そんな彼が町で見かけたのは――という、度肝を抜くような場面が始まりとなる物語です。
 これがまた、私も色々と怪異譚は読んできましたが、これほど奇抜なものは見たことがない――と言いたくなるインパクトながら、しかしその真相がこれまた実にイイ話で、個人的には今回最も印象に残った作品です。

 一方、第三話「花さかずき」は、以前からの約束で一日だけ豊川稲荷の神使になった兎月が、彼女たちの花見を手伝うという幻想的な一編です。深山に春をもたらすために兎月とツクヨミが奮闘する様も可笑しいのですが、やはり本番は花見が始まってから。
 花見に招かれた山の天狗と飲み比べをすることになった兎月ですが、いくら何でも天狗と人間では分が悪いところに――と、ここでこうくるか! というひねりがまた泣かせるエピソードであります。


 そしてラストの「リトル・レディの帰還」は、副題の通り、横浜に帰ることになったリズが、身代金目当ての誘拐事件に巻き込まれる物語であります。
 誘拐犯の足取りを追う兎月ですが、一味を率いるのは、池田屋事件の生き残りと自称する男。一方、リズは誘拐犯のアジトから単身逃げだし、北海道の原野に足を踏み入れるのですが、そこでは死者の念が凝った多数の怪ノモノが徘徊していて……

 と、一難去ってまた一難を地で行くような、先が読めない展開が続くこのエピソード。ちょっと色々と盛り込みすぎのような気もしますが、リズとの別れを控えたツクヨミの複雑な心境あり、意外な助っ人ありと、ラストに相応しく賑やかで、そして爽やかな物語であることは間違いありません。


 本の帯によれば、コミカライズ企画も進行中という本シリーズ。なるほどコミカライズにもぴったりな題材であることは間違いありません。
 そして新たなレギュラーも加わり、そこにちょっと気になる要素も出てきたりして、もちろんシリーズ本編のこれからも楽しみにしているところです。


 にしてもあの人は、甘やかしというより、もはや母親のようになっているような……(まさに慈母の如し)


『神様の用心棒 うさぎは桜と夢を見る』(霜月りつ マイナビ出版ファン文庫) Amazon

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2022.04.02

ししゃも歳三&今川美玖『泣きうた』 歌を切り口に描く幕末群像

 幕末の激動の中に生き、そして死んだ者たちが、辞世をはじめとして、様々な折に詠んだ歌――その歌を切り口に彼/彼女たちの生き様を描く、ユニークなショートコミック集であります。

 2013年・2014年に『幕末 侍たちの三十一文字』『幕末 悲運の戊辰 敗軍編』のサブタイトルで全二巻刊行されたこの『泣きうた』。
 泣きうたとは聞き慣れないワードですが、第二弾の巻頭言を引用すれば「激動の幕末期だからこそ詠まれた泣ける歌を、史実を元にしたオリジナルストーリーで漫画化したもの」とのことです。

 そんな本シリーズは、各十六ページの短編コミックと、題材となった歌とその背景の解説ページで構成されています。

 第一弾『幕末 侍たちの三十一文字』は
「沖田総司」「高杉晋作」「中野竹子」「土方歳三」「伊庭八郎」「久坂玄瑞」「藤堂平助」「土方歳三 恋のうた」の全八篇で構成。顔ぶれ的に圧倒的に幕府側が多いですが、題材となっているのがどうしても辞世の句が多いことを思えば、それもやむなしと言うべきでしょうか。

 ちなみにラストに収録された土方の二話目はタイトルからして「?」となりますが、これが土方の歌としてしばしばネタにされるアレがモチーフ。しかし内容の方は、土方の許嫁として名前が残っているお琴を描くエピソードとなっていて、題材選びの濃さも印象に残ります。

 そして題材という点でいえば、さらに突っ込んだ印象が外れた感があるのが、第二弾の『幕末 悲運の戊辰 敗軍編』。
 「松平容保」「津川喜代美/飯沼貞吉」「山本八重」「西郷細布子」「山川大蔵」「佐川官兵衛」「土方歳三」「佐藤彦五郎」と――戊辰というより(ラスト二人以外は)会津に絞ったチョイスであります。

 恥ずかしながら、津川喜代美や西郷細布子まで来ると、名前だけでは誰のことかわからなかったのですが――津川喜代美は飯盛山で切腹した白虎士中二番隊士の一人、西郷細布子は西郷頼母の長女(敵か味方か尋ねた人、といえばわかるでしょうか)。
 この顔ぶれだけでも、本書の気合の入り方がわかるような気がします。
(その一方で、三回目の登場となった土方の題材が、山南について詠んだと思われる歌なのは、ちょっとカラーから外れている印象なのですが、これはこれで面白いと思います)


 内容的には、上で述べたとおり一人あたりのページ数が少ないこともあり、比較的シンプルなものとならざるを得ないのは確かなのですが――歌という背骨があるために、物足りなさはほとんど感じられませんでした。
 もっとも、その歌という要素も痛し痒しで、おまけページに描かれているように、斎藤一のように、歌がなかったので描けなかった人物がいたのは勿体なく感じられます。といってもこれはもちろん、本書のコンセプトからすれば仕方のないところでしょう。

 そして、様々なエピソードが収録されている中でも、個人的には上に挙げた土方の恋のうたと、意外と知られていない印象のある(真贋もちょっと不明ではある)沖田総司の辞世の句が印象に残ったところですが――もう一つ、忘れがたいのは、掉尾を飾る佐藤彦五郎のエピソードであります。

 日野の名主で土方の姉と結婚し、近藤とは義兄弟の契を交わした佐藤ですが、甲陽鎮撫隊への参加等の例外を除けば、基本的に戦地に赴くことはなく、もちろん戦死もしていません。
 そんな佐藤がここに登場するのは、近藤と土方それぞれへの追悼の歌を詠んでいるからですが――二人への哀惜の念と同時に、激動の時代を傍観せざるを得ず、二人に託してきた夢の終わりを痛感する佐藤の姿が、本シリーズを読んできた自分に重なって感じられるのです。


 冒頭で触れたとおり、十年近く前に刊行されたものではありますが、もしできることなら、同じコンセプトでさらなる物語を読んでみたい――そう感じさせられるシリーズでありました。


『泣きうた 幕末 侍たちの三十一文字』(ししゃも歳三&今川美玖 KADOKAWA) Amazon

『泣きうた 幕末 悲運の戊辰 敗軍編』(ししゃも歳三&今川美玖 KADOKAWA) Amazon

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2022.03.30

瀬川貴次『ばけもの好む中将 十一 秋草尽くし』 二人の絆の危機、老女たちの危機!?

 怪異を愛するあまりばけもの好む中将と呼ばれる左近衛中将・宣能と、彼に毎回付き合わされる十二人の姉がいる右兵衛佐・宗孝の姿を描く本シリーズも、いよいよ佳境に入った感があります。これまで強い絆で結ばれていた(?)二人の間に入った小さなヒビ。さらに思わぬ大事件が発生して……

 「秋草尽くし」とあるとおり、竜胆・桔梗・撫子・女郎花・藤袴・萩・尾花と、葛が竜胆に替わっているほかは秋の七草を副題とした七章から構成されている本作。
 前作は平安初の眼鏡っ子爆誕など愉快な部分もありましたが、今回はかなりの部分でシリアスな物語が展開していくことになります。

 思わぬことから多情丸の告発状を手にしてしまったことをきっかけに、多情丸が宣能にとって仇であり、今も復讐の機会を狙っていると知ってしまった宗孝。
 いつもの怪異巡りの際に、意を決して危険なことは止めるよう訴える宗孝ですが、宣能の決意は固く、二人の間にはぎくしゃくした空気が流れることになります。

 そこでこういう時に頼りになりそうな姉・十郎太に会うため、皇太后に仕える彼女に渡りをつけようと、彼女の部下で元盗賊の双子・朝顔と夕顔と文をやりとりする宗孝ですが――おかげで彼が双子を両天秤にかけているなどと、あらぬ噂が立つこと。
 しかも間が悪いことに、彼女たちへの文が初草の手に渡ってしまったではありませんか。

 しかし本当に困った事態はこれから。以前、初草と東宮と真白の三角関係がきっかけで、稲荷社の暴走老女集団・専女衆が弘徽殿の女御を死霊のふりをして脅かしたことが、当の女御にバレてしまったのであります。
 当然激怒した女御が専女衆へ報復するように右大臣にねじ込み、専女衆に危機が迫る中、宗孝と宣能の絆にも危機が……


 ここのところ、物語の縦糸として展開してきた、宣能と多情丸の因縁。京の暗黒街を支配する男であると同時に、宣能の父である右大臣と結んで後ろ暗い仕事を一手に引き受けてきた多情丸は、悪人というものがほとんど登場しない本シリーズにおいて、唯一、完全な邪悪というべき存在であります。

 そしてかつて自分を庇った乳母を殺した仇であると同時に、自分が最も嫌悪する父の負の部分の象徴というべき多情丸は、宣能にとって、二重の意味で憎んでも余りある相手。しかし宗孝にとって、前者の感情は理解できても、後者は無理(というよりも知らない)というものであります。
 それが今回表面化した二人のすれ違いの原因であり、そして今のところ二人が真に理解し得ない理由といってよいのではないでしょうか。

 もちろんそれは、二人が互いを信頼してないということでは決してありません。それどころか、宣能にとって宗孝は、自分にとってかけがえのない宝でありある意味良心というべき存在――初草を託すに足る相手なのですから。
 しかしそれは同時に、極めて危うい感情とも感じられます。初草を宗孝に託すことができれば、自分は安心して闇落ちできる――宣能はそう考えているのではないか、と。

 そしてそれは宗孝を重んじ、慮っているようでいて、実は彼を完全に信頼していない――さらにキツいことを言ってしまえば、宗孝を自分の良心代わりという名の道具にしているともいえるのではないか、とも感じられます。
 宣能が宗孝に自分の胸中を完全に明かすことができた時――その時こそが、二人が互いを完全に理解したことになるのでしょう。そして宗孝が宣能の複雑な胸中を受け止めることができないはずはないと、これまで二人の姿を見てきた読者であれば、自信を持っていえるはずです。


 しかし、二人にはもはやあまり時間はないように感じられます。クライマックスで宣能が取った行動は、もちろんやむを得ないものであるとはいえ、父親のやり方とあまり変わらないといえるでしょう。そして今回様々な知識を得てしまった多情丸の矛先がどこに向かうか――それを考えただけでゾッとするものがあります。

 夜明け前が最も暗いと申しますが、今がその時であってほしい――心よりそう感じる展開です。


『ばけもの好む中将 十一 秋草尽くし』(瀬川貴次 集英社文庫) Amazon

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2022.03.24

椎橋寛『岩元先輩ノ推薦』第3巻 開戦、日英能力者大戦! そして駆けつける「後輩」

 1910年代、陸軍のエリート養成機関・栖鳳中学校に、各地から能力者を「推薦」する岩元先輩と後輩たちの冒険と戦いを描くユニークな物語の第3巻で描かれるのは、いよいよその動きを本格化させた英国魔女軍団と栖鳳中学校の学生たちの激突。日英能力者たちの激突の行方は……

 栖鳳中学校の書記長を務める3年生・岩元胡堂――自らも炎を操る能力者である彼は、これまで日本各地で起きる超常現象の調査を行い、そしてその現象の原因である能力者を学園に「推薦」してきました。
 栖鳳中学校の「隔離施設」に集まった岩元の後輩たち=能力者を保護し、育成するために、岩元は時に学校の方針に逆らってまでも孤独な戦いを続けてきたのであります。

 そんな中、岩元が命じられた、さる料亭で起きた大量殺傷事件の調査。ある能力者が引き起こしたその事件の背後には、英国からやって来た「魔女」――英国の能力者の存在がありました。
 後輩の原町、天羽とともにその魔女――水使いのネプチューン・ウォーターガンを辛くも倒した岩元ですが、これは前哨戦に過ぎず……

 と、いずれ始まるであろうと思われた能力バトルの敵として出現した英国「魔女」軍団。魔女術(ウィッチクラフト)を行うのが女性に限らないように、「魔女」といっても男性も数多く含まれているというのはさておき――日本の能力者を擁するのが陸軍の養成学校であるのに対し、英国はいわゆる「魔法学校」(制服もソレっぽい)というのは、ある意味納得であります。


 さて、彼ら魔女軍団の狙いは、日本が擁する能力者たちを捕らえ、あるいは仲間に引き入れること。その最初のターゲットとなったのが、埼玉の山中で石仏を彫り続ける仏師の少年・城戸石英であります。

 実は彼の能力は「複製」――己が手にしたものを自在に複製するという、軍事利用されれば途方もない価値を持ちかねないもの。もっとも彼はあくまでもその力を、己が求める石仏作りのために使っている――大量に生まれたその石仏が、羅漢像で有名な埼玉の某寺院に運ばれているというのが愉快――のですが、そんな彼の意図とは関係なしに、魔女たちは襲いかかってくるのです。

 その動きを察知して彼の保護に向かった岩元と原町ですが、時既に遅く、英国からやって来た四人の魔女によって城戸は確保された後。
 敵の一番手、シャボン玉使いのクリスタルはあっさり撃破したものの、敵のリーダー格と思しきコイン使いのイグニィには(主に原町が)苦戦――さらに足止め役の第三の魔女、茨使いのローズマリィは手強く、岩元はついに目の前で同胞を奪われるという屈辱を味わうことになるのか!? というところで、新たな後輩が駆けつけた!


 能力者もの、というかトーナメントバトルもので、時に勝敗が決する瞬間以上に盛り上がる場面があるとすれば、それは新たな戦士が参加、その能力を発揮する時ではないでしょうか。特にそれが味方側が苦戦していた時であれば尚更であります。
 この第3巻で描かれるのはまさにその展開なのですが、しかし参戦するのが、予想もしなかったような人物というのが実に本作らしいというべきでしょう。

 この人物自体は既に第1巻で登場済み、その能力の一端も既に見せているのですが――しかしどう見ても戦闘向きではない(というより何に向いているのかさっぱりわからない)能力のため、正直ノーマーク。しかしまさかその能力をこう使うか! という展開には読んでいて思わずニッコリであります。
 ちょっと便利すぎる気もしますが、まあデビュー戦なのですからそれも良しでしょう(決め台詞が能力と相まって実に気持ちいいのです)。

 もっとも、前巻でも述べたように、第1巻にあった奇現象ハンター、ゴーストハンター的側面が完全になくなったのは、個人的には非常に残念ではあるのですが……


 何はともあれ、ついに始まった日英能力者大戦。まだまだ双方どのような能力者がいるかはわかりませんが、日本側は何に役立つのかわかりにくい――あるいは直接のバトルに使いにくい――「後輩」が多いだけに、この先登場する顔ぶれが楽しみであることは間違いありません。

 そしてこの巻のラストのエピソードで登場する新たな能力者は、また少々意外な設定なのですが、さて――一筋縄ではいかない展開を期待したいと思います。


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2022.03.17

「コミック乱ツインズ」2022年4月号(その三)

 「コミック乱ツインズ」4月号の紹介、最終回であります。

『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
 浮田国定との長きに渡る戦いの末、効率重視に目覚め、徐々にアレな感じになっていく直家(しかし作中では最初っからそんな感じだったような気がしないでもありませんが……)。
 結局国定が籠もっていた、そして祖父の城であった砥石城は与えられず、それどころかその祖父の仇である島村盛実に与えられたのですが、それでも腐らない直家はこれはこれで一個の人物という気がいたします。
(しかし憤る弟への対応は……)

 そんな彼に対して浦上宗景が下した新たな指令とは――常人にとってはめでたいイベントですが、しかしそれがこの先、恐ろしい史実に繋がっていくことになります。
 はたして本作がその時をどのように描くのか――早く知りたいような知りたくないような、という気分です。


『徒花』(鶴岡孝雄)
 密通した妻に妻敵討(姦夫姦婦を斬ること)もせず、離縁状を書いたことから周囲の物笑いとなり、親類たちから罵声を浴びせられる侍・柴山啓吾。ある理由から人を斬ることを極度に恐れる彼に対し、本家の伯父である勘兵衛のみは柔らかく接するのですが――しかしそんなある日、啓吾と勘兵衛は、思わぬ場で対面することになります。
 武士の対面を守るための行動に出た勘兵衛に対し、啓吾は……

 人を殺めることを恐れる、というより強いトラウマを抱く侍を主人公とした、一種の武士道残酷物語というべき本作。自分に恥をかかせた相手は殺し、自分は腹を斬るというのが武士の取るべき道だとすれば、はたして武士というのは何者なのか。武士というのはあるべき人間の姿なのか――周囲から「武士」たるべし、とどんどん追い込まれていく主人公の姿にはそんなことを思わされます。

 そしてその果てに彼が選んだ道は――武士と人間とどちらを選ぶのか、その答えは、時代劇としては失格なのかもしれませんが、それでも一つの希望があるようにも思えるのです。


『カムヤライド』(久正人)
 空畦(アクウナ)の土地の権利を巡る「殖す葬る」(ブエスボウル)の試合を前に、相手チームの卑劣な手段により仲間が倒れ、自分とカンパとキノの三人のみとなってしまったマリアチ。しかしそこで現れた二人の助っ人を加え、マリアチは戦いの場に臨む……(注:カムヤライドです)

 というわけで、人間兵器・神薙剣と化したヤマトタケルとオトタチバナが、そして天津神たちが迫るという超緊迫した状況から一転、何故かデスペラードな感じの野球展開となってしまった本作。本当に何故!? という感じなのですが、イザナギの黄泉国下りにおける、黄泉比良坂でのイザナミと八柱の雷神からの呪的逃走を、シレッと野球いや「殖す葬る」の起源(?)にしてしまうセンスには恐れ入ります。

 しかしバンデラス――じゃなかったマリアチチームには、それぞれモンコを追ってきたオシロワケ大王の密偵タケゥチと、天津神の一人であるコヤネ(アマツ・ノリット)が何故か助っ人で参入。これはただで済むはずがないと思いきや――いやはや。
 これまでキャラ薄めだったトレホ親方の弟子・サンゴのキャラがいきなり異常に立ったり、モンコが普通に面白お兄さんになっていたり(あと、絶対やると思ったデスペラード打ち(のポーズ)があったり)と、久々に肩の力を抜くことができる回だったのですが――最後の最後でいきなりまた不穏な空気が漂うことに。これまで以上にどこから何が飛び出してくるかわからない展開であります。


 次号は特別読切で『しくじり平次』(所十三&野村胡堂)が登場。原作は言うまでもなくあの平次ですが――もしかすると7年ぶりの登場でしょうか?


「コミック乱ツインズ」2022年4月号(リイド社) Amazon

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2022.03.10

堀内厚徳『この剣が月を斬る』第1巻 「闇」を抱えた沖田宗次郎が嶋崎勝太に見た「夢」

 新選組漫画は数々ありますが、その中でも短いながら鮮烈な印象を残すのが本作。沖田宗次郎――沖田総司と嶋崎勝太――近藤勇の出会いから始まり、二人の絆を軸に描かれる物語であります。遠く夜空に輝く月を斬らんとするような大望を抱いた少年/青年たちの辿り着く先は……

 父を亡くし、天然理心流に預けられることとなった9歳の少年・沖田宗次郎。道場の若先生である嶋崎勝太の指導を受けることとなった宗次郎ですが、しかし父の死に鬱屈したものを抱え、強さを渇望する宗次郎は、事あるごとに勝太に反発するのでした。

 そんなある日、宗次郎は町で破落戸を叩きのめしたものの、連れの不気味な剣士の迫力に押され、その場にあった真剣を手に、思わず逃げ出すことになります。
 その晩、勝太と亡き父のことで口論になった末、真剣を振り回して道場を飛び出した宗次郎。そこで再びあの剣士と出会ってしまい、死を覚悟する宗次郎ですが――そこに勝太が駆けつけます。

 そして初めて真剣の切り合いを目撃した末に、刀を持つことの意味を知る宗次郎。翌日、初めて道場で勝太と勝負し、叩きのめされた彼は、勝太を目標に腕を磨くことに……


 こうして、宗次郎と勝太の出会いから幕を上げる本作。沖田総司が主人公の新選組ものは無数にありますし、総司の少年時代からスタートする作品も珍しいわけではありません。
 しかし、本作のように総司が鬱屈したものを――作中でしばしば「闇」と呼ばれるものを、その少年時代から抱える作品は、比較的珍しいと感じます。

 時に殺意という形で現れる彼の闇。それは破落戸を叩きのめした際のみならず、次のエピソードでも、より明確に描かれることとなります。
 子供への歪んだ愛情から、ヒロインのすずをはじめとする子供たちの親を殺し、手元に置いて虐待をしていた坊主。すずの窮地に駆けつけた宗次郎は、手もなく坊主を倒しただけでなく、殺すつもりで執拗に叩きのめすのですが――すずと、そしてここでも勝太の存在が、彼の心を救うことになります。

 強すぎる力を持ち、その一方で脆い心を持つ少年が、愛する人や尊敬できる師・先輩の支えで己と向き合い、克服して成長する――これは少年漫画では定番のシチュエーションですが、本作の沖田もその系譜にあるというべきでしょうか。


 さて、近藤、沖田とくればもう一人、というわけで、続いて登場するのは土方歳三。本作の歳三は(この時期の)通常営業というか、バカ強いものの喧嘩と放蕩三昧で道場にもロクに寄り付かない青年なのですが――そんな歳三が引き起こした騒動を通じて、「武士」であることの意味と、三人の夢が語られることになります。

 この騒動を解決するために勝太が取った手段(とその後の行動)が実にらしくて楽しいのですが――ここで描かれるのは、この先結成される新選組という場が、宗次郎が(そして歳三も)、勝太の中に見た「武士」であることの意味を具現化したものであったということでしょう。
 新選組が彼らの夢(のための手段)という視点自体は珍しいものではありませんが、本作は彼らがまだ何者でもなかった少年/青年時代を描くことによって、その意味をより深めていると感じます。

 もっともこれは、物語の結末を知った上での感想でもあるのですが――結末を読んだ上で、この第1巻を読み直せば、胸にグサグサささるのですが、それはまたその時に。


 と、ここまで幕末青春ものとしての色彩が強かった物語は、第1巻の結末まで来てにわかに不穏な色彩を強めることとなります。
 周囲の人間たちを言葉巧みに操り、江戸の町に火を放たんとする不気味なひょっとこ面の男。宗次郎のことも最初から観察していたようなこの男の名は――

 言われてみればなるほどと思わされるこの男の毒が物語に回るのはもう少し先になりますが――その第2巻についても近日中にご紹介します。


『この剣が月を斬る』第1巻(堀内厚徳 講談社週刊少年マガジンコミックス) Amazon

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