椎橋寛『岩元先輩ノ推薦』第7巻 四つの超常現象と仲間たちの成長
日本各地で起きる怪奇現象の背後に潜む能力者を、陸軍エリィト育成校に「推薦」する岩元先輩の奮闘を描く本作――好調第七巻となる本書では、全四話の短編エピソードが描かれます。いずれも常識外れの怪異を引き起こすのは如何なる能力なのか? 危険と隣り合わせのスカウトは続きます。
昭和初期、日本各地からエリィトが集められる陸軍栖鳳中学校。肉体派エリィトが集まる前線部隊、頭脳派エリィトが集まる研究棟に加え、もう一つ存在する「隔離施設」――奇妙な能力者たちが集うこの分隊に、日本各地から能力者たちを「推薦」するのが、学園書記長の岩元胡堂であります。
自身も火を自在に操る能力者である岩元は、各地で起きる超常現象を調査、時に危険な能力者と対決し、その価値があれば学園にスカウトするよう、学長直々の命を受けているのです。
かくて岩元と様々な能力者の出会いあるいは対決が描かれてきた本作ですが、最近は一巻おきに、短編エピソード集と、怪奇人間との対決を描く長編が繰り返されてきた印象があります。
前巻は奇怪な能力者「毒男」との対決を描く長編でしたが、今回は全四話の短編が収録されています。
人形と会話する能力を持つ一年生・淡魂瑞火が、かねてより探していた天才人形師・迦楼羅の人形が京都に出現、瑞火と岩元が追う「稀代ノ人形師」
橘城学園長が、百貨店の昇降機の中でみかん売りの少年と出会ったことをきっかけに垣間見た異界。その調査に、念写能力者の筆岸蛉と岩元が向かう「暗闇行キノ昇降機」
小学校時代の級友から聞かされた中学校の奇妙な噂話をきっかけに、 岩元の後輩・原町が想像を絶する能力者と遭遇する「原町海ノ事件ノォト」
異例の長寿を誇った科学者・牧野翁の死後、解剖された体内に奇怪な水が発見されたことをきっかけに、学園内に科学とも憑き物ともつかぬモノが跳梁する「ソノ憑キ物水ノ如シ」
どのエピソードも他所ではまず見られないような独創性に満ちているのは、これまで同様。そこで描かれる超常現象(あるいはそれを操る能力)のロジックと描写、それに対する対抗手段やストーリー展開には驚かされるばかりです。
特にこの巻で印象に残ったのは「暗闇行キノ昇降機」であります。ある意味都会に生まれた最先端の科学である昇降機を一歩降りれば、そこには暗闇が広がり、その中には「なにか」が蟠っている――そのギャップと、異界を描く画の力に圧倒されるのですが、岩元たちの調査によって明らかになっていく、謎の能力者の「能力」が素晴らしい。(そこに念写能力者を絡ませることでさらに謎めいたものとする趣向も見事)
全ての謎が明らかになるわけではない結末も、このエピソードにおいてはむしろ効果的に働いているといえるでしょう。
また、別の意味で度肝を抜かれたのは、「原町海ノ事件ノォト」です。とある尋常中学校で囁かれる奇妙な噂と、ある意味で名物教師の存在――どの学校にでも一つや二つあるような逸話が、思わぬところで繋がり、そこに現れるのは……
いや、何をどうすればその能力が発現するのか!? というか何をどうすればこんな能力を思いつくのか? と唖然とする展開から、ラストはイイ話として締められるという、ある意味本作を象徴するような凄いエピソードであります。
ちなみにこの巻の各エピソードでは、学園の様々な生徒(能力者に限らず)が前面に出る形で、岩元はむしろ一歩下がり、締めに登場するという印象があります。これまで様々な能力者をスカウトし、そしてまだまだ未知数の存在も学園にはいることを思えば、このスタイルは正解でしょう。
何よりも仲間たちの成長は、岩元自身が望むところでしょうから……
敵(?)も味方も、この先の意外な能力者の登場が楽しみで仕方ない作品です。
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