2022.06.15

久正人『カムヤライド』第7巻 真古事記の地獄 第三のヒーロー誕生!?

 古墳時代の変身ヒーローの活躍を描く本作も、気がつけば早くも第7巻。この巻のメインとして表紙を飾るのは、この巻より登場の新ヒーロー(?)であります。その誕生の鍵を握る真古事記とは、そしてそれがもたらす地獄のような真実とは……

 モンコ/カムヤライドが新たな力を得て復活した一方で、それぞれの思惑を秘めて動く各勢力。そんな中でヤマトタケルことオウスの皇子は、父・オシロワケの命で、兄・オオウスとともに伊勢に向かうことになります。
 そこで待っていた叔母・ヤマトヒメが二人に見せるのは、彼女がヤマトオオクニタマと呼ぶ巨大な骸骨で……

 という衝撃的なヒキで終わった前巻ですが、この巻でヤマトヒメから語られるヤマトオオクニタマにまつわる真実――いわば真古事記は、さらなる衝撃をもたらします。

 200年前の天孫降臨――天から落ちてきた「もの」の落下時の被害、そして汚染された土から生まれた国津神たちによって、壊滅的な打撃を受けた日向のヤマト族。最後の手段として、落下で生まれた穴の探索を行ったヤマト族は、落ちてきた「もの」の骨と肉を発見、その肉で巨人を生み出し、後の初代大王・イワレビコが乗り込んだのであります。

 そしてその巨人・ヤマトオオクニタマは国津神たちを蹴散らして東征を続け、やがてヤマトの地で新たな国を作った……
 しかしそれで終わったわけではありませんでした。ヤマトオオクニタマの――それに用いた「肉」の呪いか、イワレビコとその子孫八代(欠史八代……)は人ではなくなり、先々代の大王の代になって、ようやくその影響はなくなったのです。

 しかし今度は各地で国津神の復活などの変事が発生、あの「肉」を使い、神を殺す――しかし後代まで続く呪いを防ぐ新兵器の開発計画が、それも二つ進められたのです。
 その一つは、「肉」で鎧を作り、それを人に纏わせる計画――と、ここで思わぬ形でカムヤライドの正体の一端が明かされることになりますが(ちなみにこの事実自体は雑誌掲載時にも描かれていましたが、その前後の事情は単行本描き下ろしで追加)、しかしそれはここでの本題ではありません。

 問題はもう一つの計画――イワレビコの子孫に「肉」を食べさせるという計画で生き残り、人外の力を得たただ二人の成功例こそが、オオウスとオウスだったのです。
 そしてそれに留まらず、さらに語られる真実――オウスが慕ってきた兄・オオウスはその実験の結果暴走、そしてその果てにオウスによって……

 ここで明かされる地獄のような真実は、これまでの描写(たとえば第5巻冒頭など)を見れば確かに――だったわけですが、当然オウスがそれを受け容れられるはずもありません。
 しかしそれを証明する悪魔のような証拠の前に彼の記憶の封印は解かれ、そこから生まれたものこそが――この巻の表紙を飾る第三のヒーロー「神薙剣」!

 しかし悪魔の実験から生まれ、既にオウスの意思すら呑み込んだように見えるこの存在を、ヒーローと呼んでよいものでしょうか。
 現に、ヤマトヒメが目論む神薙剣強化計画への協力を命じられたオトタチバナ(色々あった末に、怪獣退治の専門家として地方巡業中)は、オウスの変貌と、人を兵器として用いんとするこの計画に、あからさまに反発を見せるのですが……

 しかし戦を防ぐためと言われれば、黒盾隊を率いる彼女に拒否はできません。かくてヤマトヒメとオウスいや神薙剣、そしてオトタチバナたちは、モンコを追って菟田に向かうことに。
 そしてその動きをある手段(妙に怪しげなところがあると思いきや、こんな事だったとは!)で察知した天津神側も、自分たちが求めるものが菟田にあると知り、動き出したではありませんか。


 一気に事態は動き出し、最終決戦ムードすら漂い始めた状況。そんな中、主人公たるモンコは――ノツチの悪巧みに巻き込まれ、球技「殖す葬る(ブエスボウル)」に参加することに!?
 この非常時に一体――と思いきや、バンデラスじゃなかったマリアチ率いる敵チームの助っ人には思いもよらぬ二人が参加、ある意味こちらも決戦ムード。いやいやしかし……

 シリアスにもほどがある展開の直後の、落差のありすぎる状況に唖然としつつ、次巻に続くことになります。
(いや、次巻の冒頭ではもっと唖然とすることになるのですが……)


『カムヤライド』第7巻(久正人 リイド社SPコミックス) Amazon

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2022.05.20

平谷美樹『貸し物屋お庸謎解き帖 桜と長持』 帰ってきたお庸! 少女店主の奮闘再び!

 かつて白泉社招き猫文庫で第四弾まで刊行されながら、レーベルの終了とともに中断していた『貸し物屋お庸』が復活しました。貸し物屋(レンタル屋)の出店を営む、口は悪いが情に厚い江戸っ子娘・お庸が、貸し物にまつわる様々な事件解決のために奔走する連作であります。

 「無いものはない」という看板で知られる江戸有数の貸し物屋・湊屋。お庸は若年ながらその両国出店を預かり、日夜威勢よく奮闘する少女であります。
 元々は大工の棟梁の娘だったものが押し込みに両親を殺され、仇討ちに力を借りた代金代わりに、湊屋の主・清五郎の下で働くことになったお庸。以来、清五郎に付けられた手代の松之助とともに、お庸は小さくとも一店の主として奮闘してきました。

 基本的には客の要望に応じて品物を貸し、代金を取る貸し物屋。しかし貸した物が返ってこなかったり、犯罪などに使われては大問題――その上、生来の好奇心と義侠心も手伝って、これまでお庸は様々な客とその貸し物にまつわる事件や騒動に首を突っ込み、解決してきました。
 その対象範囲は、市井の謎から歴とした犯罪、はては亡魂や物の怪が関わるものまで様々(そもそも、生まれずに亡くなったお庸の姉が半ば守護霊状態なのです)。男以上の口の悪さを発揮しつつ、心の内には清五郎への思慕を秘めて、今日もお庸は大奮闘……


 という『貸し物屋お庸』シリーズでしたが、本作は出版社を変え『謎解き帖』となったとはいえ、物語の内容・スタイル的には全く変わらず――いわばシリーズ第五弾というべき作品となっています。
(第四弾のエピソードなどにもそのまま言及しているのにはちょっと驚きました)
 しかし元々が短編連作スタイルということもあり、ここから読んでも全く問題や違和感はなし。貸し物屋という独特の稼業、そしてお庸の尖ったキャラが、かえって初めての読者にも受け入れやすい物語として成立しているのではないかと感じます。

 さて、そんな本作に収められているのは全六話。
 同業者から、長持の借り主の住所氏名がデタラメだったと調べを依頼されたお庸が、長持の中に桜の花びらを見つけたことから景迹を巡らせる表題作「桜と長持」
 遠眼鏡を借りていった若い男の態度に不審を抱いたお庸が用途を探ってみれば実は男はストーカー、しかしつきまとっている相手は実は――という「遠眼鏡の向こう」
 余興のためといって小猿の面を借りていった客の家で妙なことが起きていると知り、調べに向かったお庸が不思議な出来事に遭遇する「小猿の面」
 店で借りられたつぐらが捨て子に使われたと知ったお庸が、赤子が捨てられた長屋の面々と共に親を探す「つぐらの損料」
 嘘をついて歯がちびた下駄を借りていった相手の正体を探る中で、下駄が使われる用途と思わぬ真実が明かされる「ちびた下駄」
 大晦日に、長らく会っていなかった息子と会うために膳と器を借りにきた老人に付き添うことになったお庸が知る真実「大歳の客」

 最初の二編が中編と言ってよい長さ、以降は短編という印象の六話ですが、いずれも共通するのは、ちょっとしたきっかけから始まる謎解きの面白さと、その背後にある人の情・想い、そしてそれに触れたお庸の成長――それを、人情ものからジェントル・ゴースト・ストーリーまで様々な形で、本作は描いていくことになります。

 エピソードの中には、必ずしも完全なハッピーエンドに終わらない、苦い現実の姿を見せるものも幾つかあるのですが――しかしその現実を受け止め、それでも結果を少しでも救いのあるものに変えようとするお庸の姿が、強く印象に残ります。

 そして印象に残るといえば、「遠眼鏡の向こう」以降本作全般で活躍する、そしてこの先もレギュラーになりそうなキャラクターが今回登場します。
 「遠眼鏡の向こう」の内容にも関わるのでここでは詳細は伏せますが、本人だけでなく、所属するコミュニティの存在も含めて(特に後者については、少々理想化されている印象はあるものの、このような形で描かれるのはかなり珍しいのではないかと感じます)、この先も気になる存在になりそうです。


 さて、第四弾までの展開では、どうやらお庸の出自に何やら秘密を匂わせるものが描かれましたが、復活第一作の本作ではそれはお預け。おそらくそれは、今後再び描かれることになるのでしょう。
 再び走り始めたお庸の向かう先を、今度こそ最後まで見届けたいと、心から思います。


『貸し物屋お庸謎解き帖 桜と長持』(平谷美樹 大和書房だいわ文庫) Amazon

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2022.05.15

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第18章の3「聖の思惑」 第18章の4「宿坊の夜」

 北から来た盲目の美少女修法師・百夜の活躍を描く『百夜・百鬼夜行帖』第十八章は、数奇な運命の下に神になろうとしている少女・むつを、百夜たちが津軽に送るまでの旅が描かれることになります。この第百四話・第百五話では、出羽と早池峰で奇妙な物語が展開します。

「聖の思惑」
 旅の途中、突然出羽国に行きたいと言い出したむつ。出羽三山は女人禁制であるものの、何やら気になることがあるというのですが――しかしその晩、出羽に向かう前に、むつと百夜の周囲に奇怪な現象が起きることになります。
 気がつけばいつの間にか修験者の服装となっており、刺激臭のある煙や、強烈な飢えと乾きに襲われる二人。さらに光る樹を伐り倒させられたり、天狗や餓鬼、巨大な骸骨と対峙することとなったりと、次々に理不尽な状況に放り込まれることに……

 百夜やむつ、二人の師の峻岳坊高星にもわからない、相手の正体とその目的とは?

 と、突然何処ともわからぬ異界に放り込まれた百夜とむつが、次々と正体不明の試練に直面することになる本作。現実世界の方でも二人が消えてしまい、残された高星たちは懸命に捜索に当たることになります。
 考えてみれば、百夜だけでなくその師である高星、そして半ば神になりつつあるむつと、今回の旅の顔ぶれは、超自然的な相手に対してはほとんど最強メンバー。それだけにこの三人であっても対処不能――というか、ただ受け容れるしかない相手の登場には驚かされます。

 しかしこの不可解な現象の意味と、それを起こした者の正体は、わかってみれば、なるほどと思わされるもの。現世の人間には理解し難いものの、異界の側から見れば一定の理があるという、いわば超自然的な合理性というべきものは、本シリーズではしばしば描かれてきましたが、本作にもそれがあります。

 終わってみればどこか民話的な味わいすらある本作ですが、普段はくそじじい的な顔を見せている高星がふと見せる、師としての顔も印象的なエピソードです。


「宿坊の夜」
 むつの希望で早池峰山詣でに向かった百夜一行が、麓の町で泊まることとなった、主のいない宿坊。ただならぬ気配を感じさせる、その宿坊に足を踏み入れた一行を迎えたのは、故郷に帰る旅の娘・しめ、行商人の為造、若い旅の僧の法稔の三人でした。

 そして百夜たちが修法師と知るや、恐ろしい体験を語り始めたしめ。この宿坊は空き家のはずなのに天井から子供の足音が響き、法稔の開けてくれという声に板戸を開けてみても、そこには誰もいなかったというのです。
 そして足音など不審な音は為造の耳にも聞こえ、怯える二人は法稔に妖怪ではと訴えるのですが――彼は狐狸妖怪の類は迷信にすぎないと断じ、経文を唱えることも拒否するのでした。

 そんなところにやってきたという百夜一行が。やがて夜も更けていく中、板戸が激しく叩かれ、法稔をはじめ、ここに集った人々の名を呼ぶ声が……

 雪の山荘ものと幽霊屋敷もののハイブリッドという印象の本作ですが、真相自体は百夜とむつがいる以上すぐに明らかになるものの、その真相に照らし合わせてみると、怪異の意味に納得させられるのは、なかなか恐ろしいものがあります。

 そしてそこから正体を現した怪異の描写もかなりグロテスクなのですが――しかし真に恐ろしいのは、この世の(そしてそれだけでなくあの世の)則に背を向け、他者の手を拒絶した者の末路でしょう。
 正直なところ、百夜たちは厳しすぎるのでは、という印象もあるのですが、逆に彼女たちですら救いようがないとすれば――これほど恐ろしいものはありません。


 しかし本筋には全く関係ないのですが、今回商売の関係で別行動だった左吉が、いなくてもほとんど全く支障がなかったのは……
(驚き役には久保田五郎右衛門がいるので)


『百夜・百鬼夜行帖』(平谷美樹 小学館) 「聖の思惑」 Amazon/ 「宿坊の夜」 Amazon

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 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第4章の3『わたつみの』、第4章の4『内侍所』
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 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第5章の1『三姉妹』 第5章の2『肉づきの面』 第5章の3『六道の辻』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第5章の4『蛇精』 第5章の5『聖塚と三童子』 第5章の6『侘助の男』
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 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第6章の4『四神の嘆き』 第6章の5『四十二人の侠客』 第6章の6『神無月』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第7章の1『花桐』 第7章の2『玉菊灯籠の頃』 第7章の3『雁ヶ音長屋』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第7章の4『青輪の龍』 第7章の5『於能碁呂の舞』 第7章の6『紅い牙』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第8章の1『笑い榎』 第8章の2『俄雨』 第8章の3『引きずり幽霊』
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 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第9章の1『千駄木の辻刺し』 第9章の2『鋼の呪縛』 第9章の3『重陽の童』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第9章の4『天気雨』 第9章の5『小豆洗い』 第9章の6『竜宮の使い』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第10章の1『光り物』 第10章の2『大筆小筆』 第10章の3『波』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第10章の4『瓢箪お化け』 第10章の5『駒ヶ岳の山賊』 第10章の6『首無し鬼』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第11章の1『紅い花弁』 第11章の2『桜色の勾玉』 第11章の3『駆ける童』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第11章の4『桑畑の翁』 第11章の5『異形の群(上)』 第11章の6『異形の群(下)』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第12章の1『犬張子の夜』 第12章の2『梅一番』 第12章の3『還ってきた男(上)』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第12章の4『還ってきた男(下)』 第12章の5『高野丸(上)』 第12章の6『高野丸(下)』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第13章の1『百夜の霍乱』 第13章の2『溶けた黄金』 第13章の3『祈りの滝』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第13章の4『四十七羽の鴉』 第13章の5『錆』 第13章の6『あきらめ聖』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第14章の1『あぐろおう』 第14章の2『妖刀』 第14章の3『幽霊屋敷』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第14章の4『強請(上)』 第14章の5『強請(中)』 第14章の6『強請(下)』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第15章の1『白い影(上)』 第15章の2『白い影(中)』 第15章の3『白い影(下)』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第15章の4『水琴』 第15章の5『千鬼夜行』 第15章の6『三つ巴の戦い』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第16章の1『のざらし』 第16章の2『坊主に断られた回向』 第16章の3『百万遍』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第16章の4『鐵次』 第16章の5『白木村のなみ』 第16章の6『首くくり村』
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 ファー「冬の蝶」/中村茉莉子「花桐」 バラエティに富んだ漫画版『百夜・百鬼夜行帖』

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2022.05.09

細川忠孝『ツワモノガタリ』第1巻 格闘技漫画の手法で描く幕末最強決定戦開始!

 歴史上のある人物とある人物が戦った時、どちらが強いのか? あるいは、あの流派とこの流派とどちらが強いのか? というのは何時の世も大いに興味をそそられるものですが、本作はその幕末剣術版――新選組の強者たちが、これまで戦った中で最強の相手との戦いを語る剣術漫画の始まりであります。

 元治元年(1864年)のある晩――新選組屯所にて賑やかに飲み明かす近藤・原田・斎藤・山南・土方の面々。この面々に酒が入れば当然というべきか、真剣を抜いた斬り合いが始まりかねない剣呑な空気の中、近藤が座興に提案したのは、「この国において最強の剣客は誰か?」という議論でありました。

 かくて、これまで新選組が斬ってきた中で最も強かった相手について語ることになった場で、口火を切ったのは遅れてきた沖田。そして彼が挙げた名は、芹沢鴨……


 この物語の舞台となっているのは先に触れたとおり1864年、そのいつ頃かまではこの巻ではわかりませんが、池田屋事件や禁門の変が起きた、ある意味新選組の絶頂期ともいえる時期であります。
 そして芹沢が粛清されたのはその前年というわけで、まだ記憶に新しい――それも封印すべき記憶を持ち出されて、ここで一同がちょっとたじろぐのは可笑しいのですが、しかし沖田の対決した相手として、これ以上相応しい者がいないのは間違いないでしょう。

 というわけでこの第一巻では、一の段として「天然理心流 沖田総司 対 神道無念流 芹沢鴨」が全編に渡って描かれることとなります。ここでまず注目すべきは、この対決を描くに当たり、そこに至るまでの経緯はさらりと流し、ひたすらどちらが勝つか、剣戟バトルが繰り広げられるというその構成でしょう。

 そしてそのバトルの内容も、単純に沖田と芹沢という二人の強さ比べに留まらず、段のタイトルに冠されているように、それぞれの流派の特徴を踏まえて描かれる点が、本作の最大の特色であり魅力と感じます。
 そう、本作は、時代もの・歴史ものというよりも、格闘技ものの手法で描かれていると言ってもよいでしょう。

 考えてみれば、幕末という時期は、戦国から江戸時代初期と並ぶほど(フィクションにおいて)剣術が注目された時期であるにもかかわらず、流派ごとの剣術の内容に着目した作品は少なかったように感じます。
 それはおそらく、剣術の技術の上の勝敗よりも生き死にというさらに決定的な勝敗の基準があることと、そしてそれ以上に、戦いの理由が単純な強さ比べでなく、それぞれの主義主張にあるためではないかと感じます。

 それを本作は、可能な限り純度の高い剣術勝負として描いている点が、大いに面白く感じられたところです。(いかにも格闘技漫画らしいナレーションの多用には評価が分かれるかもしれませんが……)

 もちろん、剣術を用いるのが個々の人間である以上、そこにはその人間の個性や人生というものが表れるのは当然のことではあります。しかし本作はそれも流派の特徴と結びつけて描くのが実に面白い。そしてそれでいて漫画らしいケレン味もきっちり用意されているのが嬉しいところであります。

 特にこの巻の最大のクライマックスというべき沖田の三段突きの描写――このあまりに有名な技を描くのに、その内容・使用シチュエーションについて、ドラマチックな要素を残しつつも理詰めに描くことによって、「格闘技漫画の必殺技」感を生み出しているのがたまらないのです。


 そしてまた本作は、最近流行りの歴史(含む神話)上の最強バトルもののように、異世界やパラレルワールドが舞台ではなく、あくまでも幕末の史実を踏まえた物語である点にも、注目すべきでしょう。
 史実という現実の中で描くことによって、リアリティだけでなく、よりキャラ描写やドラマに魅力を与えることができる――そう信じている身としては、これは何よりも嬉しい点であります(そしてそれを担保しているのが山村竜也氏という万全の体制)。

 もっともこの点は、ややもすれば読者にニッチな印象を与えかねず、匙加減が難しいのかもしれませんが――この辺りは、二の段以降のマッチメイクにも期待というところでしょうか。


 ――と、ついつい気が早いことを書いてしまいましたが、実はこの第一巻の時点では、一の段はまだ決着に至っていません。
 沖田独自の必殺剣を以てしてもいまだ倒れぬ怪物・芹沢に、天然理心流の奥義は通じるのか? 猛烈に気になる場面で終わっているだけに、この続きを少しでも早く読みたいものです。


『ツワモノガタリ』第1巻(細川忠孝&山村竜也 講談社ヤンマガKCスペシャル) Amazon

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2022.04.19

畠中恵『もういちど』 二十年目の原点回帰!? 若だんな、もう一度の生

 昨年、二十周年を迎えた『しゃばけ』シリーズ。その記念すべき第二十作目は、ある意味原点回帰の物語――何しろ、若だんなが赤ん坊に戻り、育ち直すことになるのですから! 思わぬ形でもう一度の人生を送ることになった若だんなを巡り、妖たちも今まで以上に奮闘することになります。

 二百年に一度の天の星の代替わりの影響で、雨が降らず夏前から暑い日が続く江戸。体が丈夫ではない若だんなが少しでも体を休められるように、根岸で保養する準備を進める兄やと妖たちに、思わぬ障害が立ち塞がります。
 それは人間たちが雨乞いで招いた龍神たちが隅田川に集まり、川が大荒れになってしまったこと。根岸まで舟で行こうとしていた一行は、?々子河童を通じて龍神に話をつけてもらうのですが――息子可愛さに長崎屋が大量の酒を龍神に寄進したのが、大変な事態を招いてしまうことになります。

 というのも酒に酔っ払った龍神たちが空で川で大暴れ(このシーンの異界めいた迫力が素晴らしい!)。その騒ぎに巻き込まれて若だんなたちの舟が転覆、水中で起きていた星の代替わりに巻き込まれた若だんなは、赤子に戻ってしまったではありませんか!
 頭の中身はこれまでの若だんなのままながら、喋ることも動くこともできなくなってしまった若だんなを、妖たちは根岸で密かに育てることになるのですが……


 という原点回帰にもほどがある表題作から始まる本作。幸いというべきか、若だんなの成長は普通の子供よりもはるかに早く、大人に戻るのもそこまで時間がかからないはず――とはいうものの、(妖とは縁のない長崎屋の旦那を含めて)周囲にこんなことを知られては大騒ぎであります。

 かくて、江戸を転々としながら、若だんなを育てることとなった妖たちですが、良いこともあります。いかなる理由か、若だんなの体は健康そのものになったのです。
 最初の(?)人生では子供の頃から病弱だった若だんなですが、その分を取り戻すように元気に走り回る若だんなと、それに付き合って(振り回されて)大騒ぎする妖たち――という形で、本作は展開していくことになります。

 五つくらいに成長し、わざと悪いことをしたくなったと家を飛び出した若だんなが、近頃根岸の辺りで子供が鬼に攫われるという噂を知り、村の大人たちが不審な動きをしているのと合わせて謎を解こうとするも、事態は思わぬ方向に展開していく「おににころも」
 十二歳くらいに育った若だんなが、思い切り遊んで下さいと送り出された両国の盛り場で、宮地芝居の斬られ役の浪人に剣の弟子入りをするも、浪人が最近江戸を騒がす人斬りの盗人と事を構えることになり、その騒動に巻き込まれる「ひめわこ」
 ようやく元の年齢近くに戻り、長崎屋に帰ってきた若だんな。近く嫁取りすることになった幼なじみの栄吉の許嫁が起こした悶着の中で、妖の蒼玉が入っていた巾着が行方不明なり、それを探すうちに、栄吉の縁談の裏を知ってしまう「帰家」
 毎回、町で違う相手を追いかけているという深編み笠で藍色の着物を着た男が起こしている騒動に巻き込まれた若だんなが、妖たちに頼んで男を探すものの、追い詰めた相手は不可解にも姿を消し、さらにその背後の複雑な事情に巻き込まれてしまい――という最終話「これからも」


 ラスト二話ではほとんど通常営業に近い若だんなですが、そこに至るまでに、周囲の言いつけに逆らって家の外に飛び出してしまう幼子になったり、遊びに出かけた先で剣術修行に夢中の少年になったりと、これまでの若だんなからは思いもよらぬ姿に「成長」するのが、本作の一番の見どころでしょうか。

 考えてみれば幼い頃から病弱で、そして良い子だった若だんな。当たり前の子供が経験してきたものを全く経験してこなかったというのが何とも切ないのですが――しかし別の人生を味わっても、そこでも妙な騒動に巻き込まれ、妖とともに謎解きに挑むのは相変わらずなのが微笑ましいところであります。

 しかしそうなると気になってしまうのが、元の年齢に戻った時に何が起こるかですが、それを示す物語の結末で描かれる若だんなの姿には――おそらくこれまで一度も見せたことがないような姿だけに――何ともいえぬ後味が残ります。

 それでも、若だんなの周囲には、これまで同様、これからも可笑しくも頼もしい妖たちがいる。これまで同様、これからも彼らと一緒の、謎と騒動に満ちた、微笑ましくもほろ苦い日々が待っている――それを示すこの結末は、二十周年という一つの節目に、相応しいものだと強く感じます。


『もういちど』(畠中恵 新潮社) Amazon

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 「みぃつけた」 愉しく、心和む一冊
 「ねこのばば」 間口が広くて奥も深い、理想的世界
 「おまけのこ」 しゃばけというジャンル
 「うそうそ」 いつまでも訪ね求める道程
 「ちんぷんかん」 生々流転、変化の兆し
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 「ころころろ」(その二) もう取り戻せない想いを追いかけて
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2022.04.18

「コミック乱ツインズ」2022年5月号(その三)

 「コミック乱ツインズ」2022年5月号の紹介のその三、ラストであります。

『ビジャの女王』(森秀樹)
 ビジャが辛うじて蒙古軍の攻撃を退けてきた一方で、蒙古軍に敗れた末に大破壊・大虐殺が行われたバグダード。ビジャにとって大きな痛手となったのは、そこで治療していたオッド姫の父・ハマダン王が、蒙古軍に捕らわれたことであります。はたしてビジャを包囲するラジン軍に引き渡され、磔台に晒し者にされるハマダン王。問題は、その王の安否ですが――と思いきや、意外とハマダン王に関してはあっさりと決着(?)し、今回はなんとジファルの描写がメインとなります。
 ビジャの若き宰相でありながら、王位の簒奪を狙い、蒙古軍と内通して利用せんと企むジファル。その言動は典型的な裏切り小才子という印象でしたが――今回描かれるのは、それとは全く異なる彼の顔なのです。

蒙古軍に完膚なきまでに蹂躙されたバグダードにあった当時世界一の学び舎であり知識の宝庫「知恵の館」――蒙古軍に焼かれ、学者たちも皆殺しの憂き目に遭うことになったそここそは、かつてジファルも学んだ場所。それを知ったジファルは、涙を流して激怒し、蒙古皆殺しを叫ぶではありませんか。
 そしてブブが見せるインド墨家の科学力に素直に尊敬の念を抱き、万が一の時のために自分が写本した学問の書を彼に託し、人類の発展に役立てるよう頼むジファル。もしかしてジファルは実は結構イイやつ、もしくはバグダードを焼かれて目が覚めたのか!? と思いきや、ビジャを簒奪し、蒙古軍を利用して成り上がろうという野心はそのまま……

 今回のサブタイトル「善と悪のジファル」のとおり、大きな二面性を見せたジファル。しかし彼にとってはどちらも自分、二つの顔が矛盾なく尊大しているようですが――典型的などとはとんでもない、複雑なキャラクターを露わにしたジファルもまた、本作の重要人物であることは間違いありません。


『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
 城を手に入れ浦上宗景の命をこなして信頼を勝ち取った末に、重臣・中山信正の娘と結婚するよう命じられる直家。とりあえずこれで当時の武士としては立派に一人前となり、政略結婚とはいえ妻との間には娘たちも生まれ――と、良いことずくめのようですが、「政略結婚」「娘」と宇喜多的にはズンと重いワードが並びます。

 それはまだ先のこととして、気持ちは通じ合ってはいないものの、それなりに彼のことを理解している妻と、タイプは全く違うもののそれなりに人物であるらしい義父とそつなく付き合ってきた直家ですが、そんなところに宗景からの新たな指令が。それは最近宗景から距離を起き始めた島村盛実の抹殺――直家にとっては仇である盛実を討つ大義名分が出来たと燃える直家ですが、しかし宗景は抹殺対象にもう一人の人物の名を挙げて……

 と、まさに大義親を滅すという状況になってしまった直家。後世のイメージからすれば、喜んでやりかねないような気もしますが、さて……


『カムヤライド』(久正人)
 前回、驚愕の「殖す葬る」対決が描かれた本作。一回で終わりかと思いきや、ノツチの家を急襲した黒盾隊がトラップに翻弄されている間も、まだまだ激闘は続きます。

 ノツチとマリアチ、どちらのチームも戦力になる人間とならない人間がハッキリと分かれる中、モンコを監視に来てマリアチチームの助っ人になった大王の密偵・タケゥチは話術(?)・体術で活躍。もう一人の助っ人にして実は天津神のコヤネは、ぞっこんのモンコに見とれて役に立たずと、もうやりたい放題です(そしてまたキノが例のポーズを)。
 と、本当にどうするんだこれ、という状況ですが、まだまだ試合はエスカレート。手段を選ばないことでは定評のある師匠の能力バトルみたいなトラップ設置から、ついにモンコが、そしてコヤネが……

 いやはや、まだ前回の方がまともに野球(野球言うな)していたというおそろしいことになってしまった今回。しかしそんな中でもタケゥチは目的のものを見つけ、そしてラストにはついに二人が互いの正体を(?)と、次回は死闘待ったなしの状況であります。ここにさらにオウスも加わればどういうことになるのか――本当の戦いはここからです。

 しかしトレホ親方さぁ……


 次号は『雑兵物語 明日はどっちへ』(やまさき拓味)が掲載。『列士満』(松本次郎)、『江戸時代のちいさな話』(笹井さゆり)と新連載もスタートします。


「コミック乱ツインズ」2022年5月号(リイド社) Amazon

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2022.04.04

堀内厚徳『この剣が月を斬る』第2巻 松陰の遺した男!? 凶人「幽霊」vs宗次郎

 心に激しいものを抱えた少年時代の沖田宗次郎を主人公に描くユニークな新選組漫画、全三巻の中盤であります。剣士として人間として成長していく宗次郎の前に現れるのは、もう一人の少年と「幽霊」――そして宗次郎たちは、歴史の表舞台に躍り出るため、井伊直弼暗殺計画を阻むべく奔走することに……

 力を渇望し、己の中に「闇」を抱えていた少年・沖田宗次郎。しかし弟子入りした試衛館の若先生・嶋崎勝太との出会いから、彼は少しずつ成長していくことになります。さらに土方歳三を加え、三人で大きな夢を叶えることを誓うのですが――その矢先に、宗次郎の前に不気味な男が現れます。
 宗次郎のことを「黒猫」と呼び、まるで最初から観察していたかのように語るひょっとこ面の男。彼は吉田松陰と名乗り……

 と、前巻のラストで怪キャラとして登場した松陰ですが、本格的な出番は少しだけ先となり、この巻の序盤で描かれるのは、もう一人の少年剣士との出会いであります。
 その少年――宗次郎がガールフレンドのすずとでかけた祭りで出会った彼は、第一巻で宗次郎たち三人が大乱闘を繰り広げた北辰一刀流・伊東大蔵(!)の弟子。褐色の髪と青い目を持つ彼は、「平助」と名乗るのでした。

 その頃、偶然津藩主・藤堂和泉守と知遇を得た勝太と歳三ですが、実はこの和泉守こそは平助の父。そして平助が自分と母を捨てた和泉守を斬ろうとしていることを知った宗次郎は、何とか思いとどまらせようとして……

 というわけで、新たに登場した剣士は藤堂平助。宗次郎とは同年代としてしばしば友人ポジションで描かれる平助ですが、藤堂家の御落胤という説も有名な話であります。
 しかしこれほど極端な行動に走るのは結構珍しい印象で(というより少年時代の平助が登場する自体珍しい)、母が異国人で碧眼という設定も含め、本作らしいアレンジというべきかもしれません。

 もちろん、宗次郎が勝太と出会って救われたように、平助も宗次郎との出会いで救われるのですが……


 そして時は流れて安政6年、宗次郎18歳になった年。獄に繋がれていた吉田松陰は斬首されることとなるのですが――あれだけ意味ありげに登場した割りにはあっさり退場したように見えた彼は、とんでもない置き土産を残していくことになります。
 それは彼が獄中で出会った人斬りの青年「幽霊」。己の名を持たず天涯孤独、人斬りで暮らしてきた彼を気に入った松陰は、彼にある計画の存在を伝えると同時に、新たな名を与えるのでした。斎藤一と……

 ええっ!? という経緯で登場した本作の斎藤一。新選組に参加するまでの経歴があまりはっきりわかっていない人物だけに、フィクションでも様々に描かれてきた斎藤ですが、松陰のある意味忘れ形見というべき本作の彼はまず最凶といってよいかもしれません。

 先に述べたように殺伐にもほどがある人生を送ってきただけに、人を斬ることも、そのために卑怯な手段を使うことも全く躊躇わない斎藤。彼は松陰に似ていると言われた「黒猫」――宗次郎を標的と定めると、女装(美人)して接近、すずを誘拐して宗次郎を誘き出し、問答無用で真剣勝負を仕掛けます。
 自分と似ていると言われながら、友も仲間も持ち恵まれた宗次郎に一方的に怨念をぶつけ、斬りかかる前に一瞬目の前から消えるという奇怪な剣法を操る――まさに言動ともに「幽霊」としか言いようのない怪人。まさか斎藤一が幕末バトルものの変態敵キャラになるとは――さすがに想像の外にありました。


 そしてこの狂――いや強敵に惨敗した宗次郎は、近藤勇となった勝太に頭を下げて特訓を開始することになります。一方土方は、江戸に井伊直弼暗殺を狙う一団が潜んでいることを嗅ぎつけ、その企みを粉砕することで仕官に繋げようとするのですが――実はこれこそが松陰が斎藤に託した「計画」。

 かくて安永七年三月三日、暗殺決行前夜に集合場所である神社を襲撃する近藤・土方・宗次郎と、無理矢理引っ張り込まれた平助。
 土方の作戦で、集まった十五人の浪士を分断し、各個撃破する四人ですが、そこに何故か太鼓を打ち鳴らし、その太鼓をブン投げて壁をぶち破るという奇策で近藤たちの包囲を破って斎藤が出現!

 と、とんでもない混乱の中で終わるこの第2巻。残すところあと1巻でどのような結末を迎えることになるのか――それはまたいずれご紹介いたします。
(しかし、宗次郎が第1巻であれだけ葛藤した人斬りを、この神社での戦いであっさりやってしまうのは、ちょっと違和感が否めないのですが……)


『この剣が月を斬る』第2巻(堀内厚徳 講談社週刊少年マガジンコミックス) Amazon

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2022.03.17

「コミック乱ツインズ」2022年4月号(その三)

 「コミック乱ツインズ」4月号の紹介、最終回であります。

『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
 浮田国定との長きに渡る戦いの末、効率重視に目覚め、徐々にアレな感じになっていく直家(しかし作中では最初っからそんな感じだったような気がしないでもありませんが……)。
 結局国定が籠もっていた、そして祖父の城であった砥石城は与えられず、それどころかその祖父の仇である島村盛実に与えられたのですが、それでも腐らない直家はこれはこれで一個の人物という気がいたします。
(しかし憤る弟への対応は……)

 そんな彼に対して浦上宗景が下した新たな指令とは――常人にとってはめでたいイベントですが、しかしそれがこの先、恐ろしい史実に繋がっていくことになります。
 はたして本作がその時をどのように描くのか――早く知りたいような知りたくないような、という気分です。


『徒花』(鶴岡孝雄)
 密通した妻に妻敵討(姦夫姦婦を斬ること)もせず、離縁状を書いたことから周囲の物笑いとなり、親類たちから罵声を浴びせられる侍・柴山啓吾。ある理由から人を斬ることを極度に恐れる彼に対し、本家の伯父である勘兵衛のみは柔らかく接するのですが――しかしそんなある日、啓吾と勘兵衛は、思わぬ場で対面することになります。
 武士の対面を守るための行動に出た勘兵衛に対し、啓吾は……

 人を殺めることを恐れる、というより強いトラウマを抱く侍を主人公とした、一種の武士道残酷物語というべき本作。自分に恥をかかせた相手は殺し、自分は腹を斬るというのが武士の取るべき道だとすれば、はたして武士というのは何者なのか。武士というのはあるべき人間の姿なのか――周囲から「武士」たるべし、とどんどん追い込まれていく主人公の姿にはそんなことを思わされます。

 そしてその果てに彼が選んだ道は――武士と人間とどちらを選ぶのか、その答えは、時代劇としては失格なのかもしれませんが、それでも一つの希望があるようにも思えるのです。


『カムヤライド』(久正人)
 空畦(アクウナ)の土地の権利を巡る「殖す葬る」(ブエスボウル)の試合を前に、相手チームの卑劣な手段により仲間が倒れ、自分とカンパとキノの三人のみとなってしまったマリアチ。しかしそこで現れた二人の助っ人を加え、マリアチは戦いの場に臨む……(注:カムヤライドです)

 というわけで、人間兵器・神薙剣と化したヤマトタケルとオトタチバナが、そして天津神たちが迫るという超緊迫した状況から一転、何故かデスペラードな感じの野球展開となってしまった本作。本当に何故!? という感じなのですが、イザナギの黄泉国下りにおける、黄泉比良坂でのイザナミと八柱の雷神からの呪的逃走を、シレッと野球いや「殖す葬る」の起源(?)にしてしまうセンスには恐れ入ります。

 しかしバンデラス――じゃなかったマリアチチームには、それぞれモンコを追ってきたオシロワケ大王の密偵タケゥチと、天津神の一人であるコヤネ(アマツ・ノリット)が何故か助っ人で参入。これはただで済むはずがないと思いきや――いやはや。
 これまでキャラ薄めだったトレホ親方の弟子・サンゴのキャラがいきなり異常に立ったり、モンコが普通に面白お兄さんになっていたり(あと、絶対やると思ったデスペラード打ち(のポーズ)があったり)と、久々に肩の力を抜くことができる回だったのですが――最後の最後でいきなりまた不穏な空気が漂うことに。これまで以上にどこから何が飛び出してくるかわからない展開であります。


 次号は特別読切で『しくじり平次』(所十三&野村胡堂)が登場。原作は言うまでもなくあの平次ですが――もしかすると7年ぶりの登場でしょうか?


「コミック乱ツインズ」2022年4月号(リイド社) Amazon

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2022.03.16

「コミック乱ツインズ」2022年4月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」4月号の紹介の続きであります。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 前回、柳沢吉保の息のかかった徒目付・永渕啓輔の使嗾した破落戸三人を叩きのめし、敢えてその三人を突き出すことで大事にした聡四郎。それは、これだけ権力の闇に首を突っ込みながらも聡四郎が勘定吟味役を続けられるその理由、つまり謎の支援者を洗い出すためだったのですが――しかしそれが図らずも江戸城中の話題となってしまいます。

 命令も聞かないくせに騒動を起こす聡四郎におかんむりの白石は置いておくとして、同役の勘定吟味役たちは聡四郎の剣の腕を知らなかったのか!? と今更驚かされましたが、考えてみれば彼の戦いは政の裏で繰り広げられていたわけで、それも当然なのかもしれません。もっとも聡四郎の方も、徒目付としてしれっと呼び出してきた永渕のことを、これまで幾度も死闘を繰り広げたにもかかわらず、どこかで会ったような気がする――で済ましてしまうのですから、人の目というのは当てにならないものなのでしょう。
 にしても特命を受けた主人公に上から圧力がかけられる、というのは定番の展開ですが、逆にその圧力がかからないのは何故か、という角度から物語を描いてみせるのは本作ならでは。その一方で、間部家を操って聡四郎を狙おうという紀伊国屋の企みが進行しているわけですが……

 ちなみに今回、見開き2ページを横に断ち切って聡四郎と白石の会話を描いたり、ラスト3ページ連続でこの暗闘に加わる面々の顔ぶれが描かれたりと、力の入った構図の面白さも印象に残るところです。


『儘に慶喜』(日高たてお)
 漫画版『巷説百物語』などを発表してきた作者が描くのは、徳川慶喜を中心に据えた幕末史ともいうべき物語。徳川最後の将軍である慶喜は、幕府崩壊後も生き延び、約30年ほど静岡で暮らしましたが、本作はその悠々自適に暮らす慶喜の姿から始まり、そこに至るまでの幕末の流れが語られることになります。

 山岡鉄舟の西郷隆盛会談から江戸無血開城、旧幕臣の駿府移住まで――鉄舟、勝海舟、大久保一翁、清水次郎長、渋沢栄一など慶喜と直接関わりのあった人物だけでなく、果ては石松まで飛び出す意外史という趣きで描かれる本作。しかし驚かされるのは、その中で慶喜がほとんど何もしないことでしょうか。
 考え、動くのは鉄舟や海舟など周囲の人物、慶喜はデンと構えている――といえば聞こえはいいですが、見ようによっては周囲に任せっきりという状況。確かにそれでは近藤勇も恨み言の一つもいいたくもなるでしょう。

 その一方で印象に残るのは、静岡に暮らす慶喜が、折りに触れて富士に向ける視線であります。徳川幕府の中心であったであった男が今なお日本の中心であり続ける山に向ける視線――そこには、不動の中心であることの意味と重みを知る者ならではの、そしてだからこそ自分自身を韜晦しなければならなかった者の想いが感じられるのです。

 ちなみに、リアルなタッチと漫画的なデフォルメが共存するのが作者の絵柄の印象的なところですが、それはもちろん本作でも健在。最初のコマで自転車を漕ぐ慶喜の顔を見ただけで、作者の作品とわかるのが、何とも楽しいところであります。


『ビジャの女王』(森秀樹)
 宰相ジファルの暗躍によって蒙古軍に捕らえられたものの、相棒の墨蝗の助けで脱出に転じ、ビジャにまでたどり着いたブブ。しかし蒙古軍の追撃はなおも続き、蒙古兵がビジャに入り込む事態に……
 という緊迫した状況の中で展開されるのは、上半身裸で目元だけ出た仮面姿の巨漢という、インパクト絶大な謎の敵とブブの激突。フロントスープレックスやバックドロップも飛び出す超巨漢同士の激突はブブの勝利に終わり、侵入した蒙古兵もビジャ兵が撃退に向かったことで、まずは一安心です(が、実は普通に生きていた仮面の男の正体が気になります)。

 そしてビジャが一つの危機を乗り切った一方で、後半は急展開。バグダードがラジンの父フレグの手に寄って陥落、凄絶な大虐殺が行われた中で、オッド姫の運命にもかかわる事態に繋がっていくことになります。その一方、蒙古側にも思わぬ新キャラが登場、ビジャと蒙古、対峙する双方の先行きが見通せない状態に――というところで、続きます。


 もう一回続きます。


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2022.02.17

「コミック乱ツインズ」2022年3月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」2022年3月号の紹介の後半であります。

『ビジャの女王』(森秀樹)
 単行本第1巻が発売されたばかりの本作ですが、今回繰り広げられるのは、宰相ジファルの裏切りによって負傷し、虜囚となったブブの大脱出劇。前回、警備が手薄となったところを相棒(?)の墨蝗に助けられて単身脱出したブブは、馬を奪ってビジャの城壁まで急ぎますが、追いかけるのは無数の蒙古兵であります。ブブも一騎当千の暴れぶりを見せますが、しかし目的はあくまでも脱出です。

 ここで城門が蒙古兵を恐れて閉ざされたままでは意味がないわけですが、前回ラストに描かれたように、オッド姫はあくまでもブブを信じて城門を開けておくよう命じます。一歩間違えればブブに続いてそのまま蒙古兵が入り込みかねない決断ではありますが――しかしそれを受けてのビジャの兵たちの言葉が熱い! そしてジファルもまた(やむを得ずとはいえ)、被害を最小限に抑えるための対応を命じ、かえってビジャが一体となって闘志を高める様は実に盛り上がります。

 しかし本当にブブは脱出できるのか、そしてビジャはブブのみを迎え入れることができるのか――見るからに異様な(ドラクエのさつじんきみたいな)蒙古兵も迫り、まだまだ油断はできません。


『小平太の刃』(山口正人)
 シリーズ連載の本作、今日も今日とて三次とともに各地をさまよう渡世人・小平太が今回出会ったのは、人相の悪い侍たちに追われている浪人で――と、シリーズではお馴染みの逃亡者パターンの今回ですが、この逃亡者・半九朗はかなりのツワモノであります。
 その剣術の腕を買われ、越後の大名家で主君の護衛となった半九朗。しかしどうしようもない漁色家の主君に対し堪忍袋の緒が切れた半九朗は、この大名の煩悩の元を切り落とし、逃げてきたというではありませんか。

 この半九朗、一度は小平太たちの機転で逃れたものの、思い出の味であるのっぺ汁を食べておきたいと飯屋で小平太と再会。そこで町の強欲狒々爺が、金にあかせて町娘を奪っていこうとしたところに出会い、また堪忍袋の緒が切れたところに、さらにそこに追手たちまでも現れ、大乱闘が始まることに……
 というわけで、悪人たちに対しては怒り爆発しやすい小平太並みに悪を許さぬ半九朗のキャラクターが面白い今回。何かと×××を切りたがるのはどうかと思いますが、ある意味小平太と似たもの同士の彼の大暴れで、普段とはひと味違うエピソードとなりました。


『カムヤライド』(久正人)
 巨大国津神を前に窮地に陥ったところを、異形の姿・神薙剣(カムナキラー)に変じたオウスに助けられたオトタチバナ。彼女をお姫様抱っこできてしまうオウスの姿に、神話のような展開が――と思いましたが、オトタチバナは遥かにしっかりした人物でした。
 オウスが姿だけでなく、その精神までもがこれまでと異なってしまったことを見て取り、それがヤマトヒメによるいわば人体実験の結果であることに不快感と怒りを示すオトタチバナ。元々彼女が反骨心旺盛であることはわかっていましたが、人の尊厳を奪い、兵器として扱うことに反発する健全性を持つ人物であることに――このところの地獄展開を見ていただけに――ホッとさせられます。

 しかしそんな彼女も身分はヤマトの武人、ヤマトを守るためという大義名分を持ち出されては分が悪い。反発しつつも、ヤマトヒメが目論むモンコ(の封印した国津神)追跡にやむなく従うことになりそうですが――しかしここで急展開。オウスの秘密――すなわち自分たちが探し求めてきたニ=ギの肉体の在り処を、天津神も知ることになってしまったのであります。これはモンコを挟んで、天津神と神薙剣の激突待ったなし、ですが……

 ここでモンコサイドに視点が移ってみれば、またもや急展開、というか一体何が起きているのか!? という大変な展開。古墳時代のメジャーな勝負事「殖す葬る」って? 対戦相手がバンデラスと二人の仲間? さらに助っ人が二人――ってアナタ方!? と何を言っているかわからないと思いますが、これはぜひ実際に見てひっくり返っていただきたいと思います。前半と後半、ほとんど別の漫画のようなノリに愕然とすること請け合いです。


 次号は新連載でグルメ漫画(?)『仕掛人めし噺 藤枝梅安歳食記』(武村勇治&池波正太郎)がスタート。その手があったか……
 そして特別読み切りでは、まさかまさかの伊藤黒介の『おんな座頭けもの道』が登場。新作準備中とのことでしたが、ここに登場とは……。その他、同じく特別読み切りとして『儘に慶喜』(日高たてお)、『徒花』(鶴岡孝雄)と盛りだくさんです。


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