『るろうに剣心』 第二十話「明治剣客浪漫譚 第零幕 前編」/第二十一話「同 後編」
諸国を流浪する中、横浜に立ち寄った剣心。そこで仮面の外国人医師・エルダーが悪徳医師・石津泥庵の用心棒に絡まれていたのを助けたのをきっかけに、剣心はエルダーの素顔を知ることになる。そして、石津に雇われてエルダーを狙う西洋剣士・エスピラールと、剣心は決闘することになるが……
まさかの第零幕が前後編で描かれることとなったこの第二十話・二十一話。原作は連載終了からだいぶ経ってからの掲載ということで、比較的知名度が低いエピソード(アニメ放映とほぼ同時に、文庫の『るろうに剣心 アナザーストーリーズ』に収録されましたが)ですが、そこにアニメ独自のアレンジを加えることで、魅力的な内容となっていたといえます。
原作では一話分ということで、かなりあっさりしていましたが、今回は二話分、それも本編の中に挿入される形となったことで、様々なアレンジを施されているのが目を惹きます。
その一つ目は、剣心とエルダー、そして車夫の男吉の交流。原作では剣心がエルダーと知り合った後、すぐにエルダーの「正体」が描かれ、後はクライマックスの決闘シーンに雪崩れ込むという、かなり慌ただしい展開だったのですが、今回のアニメ版では、三人がアフタヌーンティーしたり、居留地見物に出かけるという場面が用意されています。
居留地見物の時の、ヘンな役割分担(?)も面白いのですが、目を惹くのは剣心が茶を飲む場面――庭の沈丁花の香りはわかっても、紅茶の香りがわからない剣心に、エルダーが心因性のストレスを見て取るのは、ちょっとドキリとさせられるシーンです(そしてこれが大きな意味を持つのですが、それは後述)。
しかし、ある意味今回一番インパクトが大きかったのは、エスピラールのキャラクターの大きな変化ではないでしょうか。日本剣術vs西洋剣術というのは、これは時代ものでは一種の定番パターンではありますが、刀身に螺旋の入ったレイピアという如何にもるろ剣らしいケレン味溢れる武器を披露しながらも、原作でのエスピラールは、紙幅の都合もあってあっさり倒される殺し屋という、実に勿体ない扱いでした。
それがこのアニメ版では、エルダー抹殺を請け負いながらも、むしろ彼女の護衛を務める最強の剣士・人斬り抜刀斎との尋常な勝負を夢見るという、洋の東西は違えど、剣士の魂を持った男として描かれます(原作では自らを剣士ではなく「人を殺す者」と自称しており、明確に立ち位置が異なります)。
ここでエルダーを人質に剣心との対決を求めながらも、剣心が応じると「手荒い真似、失礼した」と彼女に詫びる礼儀正しさ(これもオリジナル)を見せるのも心憎いのですが、決闘ではオリジナルの奥義トルナード・インフィエールノまで披露。これがまあ、自分の体を極限までねじって放つという、何だかうずまきに呪われてるんでは――と心配になる技というのはさておき、これまた実にるろ剣らしい奥義で満足であります。
(ここで剣心の返しが、奥義の回転に巻き込まれながらその力をカウンターで叩き返すという、リンかけのヘルガのブーメラン・スクエア破りっぽいのがジャンプらしさを感じる――か?)
そして改心したエスピラールは、横浜を天然痘の脅威から救い、最後はエルダーのボディーガードとして彼女と一緒に旅立つという、原作の没案を活かした結末を迎えて――と、三木眞一郎が声を当てただけはある(微妙に巻き舌の喋りもイイ)、実に美味しい役どころとして昇華されておりました。
ここで注目すべきは、決闘を終えて意識を取り戻したエスピラールにエルダーが語りかける言葉でしょう。剣心に敗れたことで、最強の剣士を目指すという希望を失ったエスピラールに、目標が大きすぎると道に迷うと――もっと小さな目標、小さな希望を持って生きてはどうかと語るエルダー。エスピラールが剣を振るう理由を見つめ直すきっかけとなった彼女の言葉は、このエピソードの結末に、まことに相応しいものであると感じます。
そしてそれは、誰もが安心して暮らせる新時代という大きな希望の下に人斬りの刃を振るい、大きすぎる犠牲を払った剣心にも、そのまま当てはまる言葉といえます。この対比の妙には、ただただ唸らされるばかりです。
そして今回のエピソードは、実は本編の中で、剣心がいつもの仲間たちと茶を飲んで寛いでいる時に話した物語という趣向。ここで、横浜では茶の香りもわからない――つまり茶の味も楽しめなかったものが、今では楽しむことができることを示すこの場面は、剣心が神谷道場で歩みを止めることで、確実に癒やされていることを示しているといえます。
もっとも、もうすぐその神谷道場から離れることになるのですが……
それにしても本編と続けてみると、原作の執筆年代が大きく離れる本作は、ギャグのセンスも全く異なっているのが興味深い……
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