2024.12.25

『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』 第三十五話「比古清十郎」/第三十六話「修羅の会合」

 これ以上戦いに巻き込むことを恐れて葵屋を離れ、もう一人の探し人・比古清十郎のもとを訪れる剣心。飛天御剣流の師である清十郎に対し、奥義の伝授を願う剣心だが、そこに薫たちが現れる。一方、蒼紫の前に現れた宗次郎は蒼紫を志々雄の下に誘い、両者は対剣心の同盟を結ぶことに……

 今回も二話まとめて紹介しますが、アクション的な見せ場はほとんどなく、その意味では谷間的な回ではありますが、しかしキャラクターの動きという点では、今後に続く重要な動きが幾つもあった回でした。

 何よりも大きいのは、第三十五話のタイトルにもなっている比古清十郎の登場でしょう。剣心の師匠であり、現・飛天御剣流の継承者というだけでも極めて重要なキャラクターですが、それは同時に、剣心の(人斬り抜刀斎になる前の)過去を知る者ということであり、そして剣心の飛天御剣流はまだ完全ではないということを証明する存在でもあります。
 人格的にも強さの上でも完成した存在として描かれていた剣心も、かつては未熟だった、そして今も成長の余地があるというのは、バトルものとしての要請から来たものではあるかと思いますが、それだけでなく、剣心のキャラクターを深めるものであることは言うまでもないでしょう。

 そしてここでもう一つ重要なイベントとして、剣心と薫(と弥彦)の再会が描かれるわけですが――東京編であれだけドラマチックに別れたわりには、かなりあっさり目のドラマだったのは、これはこれでリアルなのかもしれません。
 しかしここでは、すぐ上で述べたように、過去の剣心を知る(過去しか知らない)清十郎と、今の剣心――それも東京での彼と、東京を離れて京に至るまでの二つの段階の剣心を知る薫と弥彦、そして操が出会うことで、状況が変化していくのが面白いところでしょう。物語の状況が、剣心の周囲の人間が出会い、結びつくことで動いていく――剣心が状況を動かしているわけでは必ずしもないけれども、彼を中心に物語が動く、そんなダイナミズムに感心させられます。

 これは味方サイドだけでなく敵サイドも同様で、第三十六話の後半では、四乃森蒼紫と志々雄真実が敵を共通するもの同士手を結ぶことになります。
 この辺りは段取りではありますが、ちゃんとやっておかないと「抜刀斎は何処だ」「誰だお前は?」になってしまう――というのはさておき、またこの場面は同時に十本刀の(半分)のお目見えにもなっていて、これをまとめてやってしまう手際の良さにはやはり感心します。


 しかしそんな展開の中でこちらの目を奪うのは、やはり比古清十郎のあの襟です。初登場時の、表の顔である陶芸家をやっている場面からあの襟なので、「いくらなんでもあんな襟の陶芸家はちょっと」「しかし確かに比古清十郎といえばあのマントの襟だし」と大いにと惑わされました。
 が、原作を読み返してみたら、そちらでは初登場時は別に普通の襟だったので愕然としたわけですが――今回このように描写されたということは、清十郎は普段からあの襟が正史ということでよいのでしょう。そうに違いない。

 もう一つ、今回はキャラクターのやりとりが中心だった分、ギャグ描写も多かったのですが、その中で初対面の操と薫の会話で、白べこの冴が横から「一緒に暮らしてた?」「道中二人で連だつ?」「ムキになって否定するところがなお怪しい」と茶々を入れるくだりは、ベタではありますが声の演技の巧みさで非常に楽しいシーンになっていたと思います。

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『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』 第三十三話「禁忌の抜刀」/第三十四話「逆刃刀 初撃」

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2024.12.10

『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』 第三十三話「禁忌の抜刀」/第三十四話「逆刃刀 初撃」

 張の奇剣に苦戦しながらも、青空に託された赤空の最後の一振りで勝利する剣心。その刀こそは逆刃刀の真打だった。そして剣心は、初めて逆刃刀を抜いた時のことを思い出す。それはかつて上野戦争の直後に高熱を発して倒れた自分を介抱してくれた、元岡っ引き夫婦を救うためだった……

 今回はちょっと内容的に中途半端な組み合わせですが、二話まとめて紹介(といってもメインは三十四話の方)します。

 第三十三話は、前話から引き続いて十本刀・張との対決。薄刃刀にいきなり苦戦する剣心を最初は見捨てて子供を助けようとした青空は、剣心の格好良い啖呵に考えを改めて父・赤空の最後の一振りを託し、剣心は子供を手に掛けようとした張相手に思わず本気を出して一閃するも、実は逆刃刀だったのでセーフ――という展開になります。 この辺り、運良く人斬りにならなかっただけ(刃衛の時も危なかったですが、あれは薫殿が頑張ったので)というのにモヤモヤしますが、これはまあ仕方がないことでしょう。むしろここは、あれだけ殺人奇剣を作ったにもかかわらず、最後は心を改めた赤空の遺志が彼を、息子と孫を助けたと考えるべきでしょう。(あと、「峰打ち不殺」みたいなことにならなくてよかった……


 さて、原作では葵屋で剣心が改めて逆刃刀を受け取って「よし!」だったわけですが、アニメの方では、剣心の回想の形で、ほぼ一話かけたオリジナルエピソードが描かれることになります。

 剣心が赤空に別れを告げ、刀を託されておそらく程なく――江戸に現れた剣心は、折悪しく高熱を発してダウンしたところを、皐月という女性に救われます。時あたかも上野戦争の直後、夫の義一と共に暮らす彼女は、剣心を新政府軍に追われる旧幕軍の敗残兵と思って助けたのです。 そんなわけで二人(と猫たち)のもとで養生することになった剣心。しかし、かつて義一は岡っ引きとして御用盗を追っていた中で片腕を失い、勝てば官軍と復讐を企んでいる元御用盗たちから隠れ住んでいることを知ります。そしてついに義一の家を突き止め、襲撃してきた元御用盗たち。皐月とお腹の子を助けるために命を投げ出そうとする義一を助けるため、剣心はついに刀を抜くのですが……

 というわけで、結構派手な内容だった第零幕に比べると、初期エピソードに近いムードの物語ですが――しかし舞台はまだ戊辰戦争の最中だけに、いつ庶民が戦いに巻き込まれてもおかしくない世界であり、そして戦いに名を借りて今回の御用盗たちのような悪事を働く人間の存在には、厭な生々しさがあります。もっとも、そんな時代だからこそ、傷付いてもなお明るい明日を目指そうとする二人の姿が印象的であるわけで、やはり時代の混乱の中で傷つき剣を捨てた剣心が、二人のために剣を再び手にする展開には納得がいきます。(ただ、義一はもうちょっと元岡っ引きらしい喋りでも良かったのではないかなあ、という気持ちは、時代劇ファンとしてはあります。もちろん、色々な岡っ引きがいるわけですが……)

 その一方でちょっと引っ掛かったのは、剣心が刀を抜いて初めて、それが逆刃刀であると気付くくだりですが、これはまあ、それまで刀を抜く気にもならなかった、ということなのでしょう(しかしいざ抜いてみたら、面白殺人奇剣でなくて本当によかった……)。また、最終的にその場を収めたのが、剣心の過去の雷名であったというのは、これもまあ初期エピソード的でもあります。 
 もう一つ余計なことをいえば、せっかく「御用盗」というワードが出てきたのですから、いつもの関俊彦のナレーションで「御用盗とは〜」と解説すればよかったのに、と一瞬思いましたが、そうすると相楽隊長の暗い過去が言及されかねないから――というのは考えすぎですが、単なるそこらの賊のように単純化して描かれたのは、ちょっともったいなかったと感じます。

 なお、この第三十四話の脚本は、もちろん黒碕薫。というわけで、アニメオリジナルとはいえ、ほぼオフィシャルと考えてよい内容なのかな、と思います。(ちなみに登場した猫の中に、聞き覚えのある名前が……)


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2024.12.01

『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』 第三十一話「京都到着」/第三十二話「十本刀・張」

 京都に到着し、操の育った料亭「葵屋」で、元隠密御庭番衆の「翁」と出会う剣心。翁の力を借りた剣心は、折れた逆刃刀の代わりを求めて刀匠・新井赤空を探すが、赤空は既に亡き人だった。しかし赤空の最後の一振りがあると知った十本刀・刀狩の張の魔手が、赤空の息子一家に迫る……

 だいぶ遅れてしまいましたが、今回も二話紹介。ようやく京都に到着し、名実ともに京都編スタートといったところですが、志々雄一派との激突もいよいよ本格的に始まります。

 第三十一話で描かれるのは、タイトル通り剣心(と操)の京都到着の模様。ここでこの先、剣心たちの京都での足がかりになる葵屋が登場するわけですが、そこはかつて隠密御庭番衆の京都探索の拠点で――と、重要キャラの「翁」こと柏崎念至が登場します。旧アニメ版ではザ・頼りになるお年寄り役声優の北村弘一氏が演じていましたが、今回は千葉繁氏と、エキセントリックな側面を強く感じさせるキャスティングですが、違和感なくハマっているといえるでしょう(千葉氏も年齢的には無理がないですし――地虫忍者経験もある、というのはさておき)。
 初登場シーンから、一目で剣心を抜刀斎だと見抜き助力を申し出るなど、かつての実力も健在と感じさせる翁ですが、ここで剣心が「新井赤空」と「比古清十郎」と二人の探し人の名を挙げることで、この先の物語が広がっていくことになります。

 しかし隠密御庭番衆といえば、言うまでもなく四乃森蒼紫ですが――その蒼紫といえば、隠すこともなく堂々とあの長物を手に京を闊歩していたのは、これは原作通りではあるものの、ビジュアル的にはやはり面白すぎるというか何というか……(この先、もっと面白いことになるのですが)

 そして対する志々雄も京都のアジトに到着、そこで待っていたのは十本刀の一人にして志々雄の軍師・佐渡島方治。切れ者ぶりに似合わず、配下たちの前では自らアジテーション役も辞さない男ですが、ここでは蘊蓄を傾けながら、「勝利」の花言葉を持つ阿蘭陀菖蒲(グラジオラス)の花束をプレゼント――ってこんな場面原作にあったっけ!? と思いきや、今回のアニメオリジナルシーンでした。
 実は今回脚本を担当したのは黒碕薫――長きにわたり原作協力を担当し、このアニメ第一期で担当した石動雷十太編・第零幕では、アニメオリジナルの描写で原作ファンを驚かせてくれましたが、今回も期待通りの展開というべきでしょう。といっても今回は、ここと後述の張のけん玉の件くらいなのがちょっと物足りないのですが……

 しかし、ここで国盗りに前のめりの方治に対して、志々雄は剣心に十本刀を当てると宣言。滅茶苦茶反対する方治ですが、あの面子が全員要人暗殺に役立つかといえば非常に疑問で、志々雄の言うように三四人まとめていけばそれなりにイケるのでは――という気がしないでもありません。もっとも志々雄は三段バカ笑いでわかるようにほとんど自分の趣味で言ってるので、方治の苦労が偲ばれます。
(にしても、宗次郎と宇水がいれば問題ないと、宗次郎と並び称されるほどの宇水さん――活躍を期待しないわけにはいきません)

 さてここで顔を見せた張は、剣心が折れた逆刃刀の代りを求め、その逆刃刀を打った新井赤空(は亡くなっていたのでその息子の青空)の下を訪ねたこと、手ぶらで帰ったものの、赤空には最後のひと振りがあるらしいことを聞いて、妙にやる気を見せます。
 そこで青空の店を訪れた張は、息子の伊織がけん玉で遊んでいたのを見て、自分も自信満々にやってみせたものの、ひたすら大失敗――というのが第三十二回のオリジナルシーン。これが張が伊織を人質に取り、長刀の鞘の先にぶら下げたまま、刀版けん玉ともいうべき逆中空納刀にチャレンジするシーンのサスペンスを煽る――という趣向ですが、力入れるところかなあ、という気はいたします。

 しかしこの張、関西弁の喋りといい、自分の欲のままに動く性格といい、これまで何となく憎めない印象がありましたが――今回改めてみると、実行に至らなかったまでも子供を手に掛けることも厭わないド畜生で、この先の扱いを考えるとなんかこう、もう少しヒドい目に遭っておいてもよかったのでは、という気もします。
 その戦いはまだ決着は着いていませんが、今回の時点でかなりボコボコ。しかし十本刀の実質一番手としての彼の本領発揮は、まだまだこれから――と次回に続きます。


 しかし青空君、神社に奉納した最後の刀まで汚されては赤空が刀匠ではなく本当に「殺人道具を作った男」になってしまうと言っていましたが、この先登場する赤空の殺人奇剣を見れば、もはや手遅れだととしか……
(というか、「殺人奇剣」という言葉ができてしまった時点で既に)


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2024.11.27

最終決戦開始 男たちの奮闘! 椎名高志『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第8巻

 このところ泣かせる展開の連続だったコミカライズ版『半妖の夜叉姫』ですが、いよいよ最終決戦に突入することになります。妖霊星に憑かれた麒麟丸を倒し、犬夜叉を救うため、麒麟丸の本拠に到着した三姫たちですが――この巻は男性陣の活躍が目立つ!?

 博多の海を埋め尽くした幽霊船団の中、是露の乗る母船に乗り込み、激闘を繰り広げた三姫。その最中、己の心を見つめ直した是露は自ら消滅を選び、ついに一つの戦いが決着しました。
 その結果、虹色真珠から解放されたかごめとりん、そして犬夜叉とついに涙の対面を果たした三姫。しかし犬夜叉の身には妖霊星の欠片が深く食い込み、立っていることがやっと――そんな状況に、三姫は自分たちで麒麟丸、そして妖霊星と戦うと告げるのでした。

 そんなわけで、この巻の冒頭で描かれるのは、弥勒や珊瑚、楓のもとに帰ってきた犬夜叉・かごめ・りんの再会。親子の再会は非常に泣かせるものがありましたが、犬夜叉と弥勒の戦友同士の再会もグッと来るところで、特に一目で犬夜叉の状態を見抜いての弥勒のリアクションは、この二人の長年の仲を感じさせます。
(しかしこの様子だと、弥勒と珊瑚は参戦しないようで、残念と言えば残念)

 一方、決戦の地・肥前の麒麟丸の城に到着した三姫一行ですが、気付けばかなりの大所帯――三姫に理玖とりおん、琥珀と翡翠、
竹千代(阿久留が憑依)と雲母(あと冥加)、さらにそこに殺生丸と邪見も加わり、なんと十人強のパーティーです。

 これだけの人数がいれば、いかに麒麟丸とて――と思いますが、彼女たちの前に、理玖も知らなかったという麒麟丸の秘密部隊の一員にして小姓頭の冥道丸が立ち塞がります。
 「冥道」という、『犬夜叉』世界では意味を持つ言葉を冠し、アニメでは時の風車の守護者でありながらも、作中では単発の敵キャラに留まっていた感のある冥道丸。しかしこちらでは麒麟丸の腹心に相応しい強力な能力の使い手として、これだけの面々を向こうに回して一歩も引かず暴れ回るのです。

 しかし、その強敵との戦いの中で、大いに印象に残ったのが、翡翠と琥珀です。
 弥勒と珊瑚の子である翡翠は、琥珀の下で妖怪退治屋として活動する少年ながら、これまでは、せつなに気のあるところ以外はあまり印象に残らなかったキャラクターでした。

 アニメに比べると合流が遅かったことや、弥勒との確執がないことがその一因かもしれませんが――しかしここで彼はある役割を果たすことになります。
 それを「活躍」と呼んでいいかは意見が分かれるかもしれませんが――その最中で描かれる、子供時代のせつなとのエピソードには、彼の善き部分が描かれ、グッとくること必至です。

 そしてグッとくるといえばもう一人――琥珀の一世一代の活躍がここで描かれます。本作においては(アニメも含めて)、親世代と子世代の中間の立ち位置で、どうにも割りを食っていた感のある琥珀。そんな彼が、ここで『犬夜叉』からの年月を感じさせるドラマを展開するのがたまりません。
 それはもしかすると(かつて原作者が彼に対して語っていたことを考えると)、描きすぎなのかもしれません。しかし「あれから」の琥珀を描くに、避けては通れない部分を敢えて正面から描き、そして彼の「勝利」を描くのには、ただただ頭が下がるとしか言いようがないのです。
(そして決着シーンで、本作では触れられていない、しかしかつて琥珀と同じ苦しみを抱えていた、あのキャラクターの存在を確かに感じさせる演出の見事さ!)


 もちろん三姫も、アニメ版とはまた異なる(そして考えてみれば本作にはこちらの方が相応しいという印象もある)禍一族と激闘を繰り広げるという見せ場があったのですが、やはりこの巻の主役は翡翠と琥珀――そしてもう一人、決して前面には出ないものの、それが逆にその成長を感じさせるようになった殺生丸だったという印象があります。

 この巻のラストではいよいよその殺生丸と麒麟丸が対峙、因縁の対決が始まることになります。
 しかしもちろん、三姫たちも親たちに負けてはいないはず。殺生丸の戦いと同様、いやそれ以上に、この先の彼女たちの戦いが大いに楽しみです。


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2024.11.11

『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』 第二十九話「再び京都へ」/第三十話「森の出会い」

 尖角を倒し、志々雄と対峙した剣心。しかし志々雄は宗次郎に剣心の相手を任せ、その場を後にする。宗次郎に対し抜刀術で挑む剣心だが、意外な結末となる。一方、道に迷った左之助は、森の中で修行中の破戒僧・安慈と出会う。安慈の使う「二重の極み」に興味を持ち、会得しようとする左之助だが……

 第二十九話と第三十話をまとめて紹介。第二十九話は新月村編のエピローグ的な内容ですが、志々雄の片腕ともいうべき宗次郎との最初の対決によって逆刃刀が折れるという、この後大きな影響を及ぼす展開が描かれることになります。ある意味負けイベントではありますが、直接負けたわけではないにせよ、志々雄本人ではなく、(強さ的にはナンバー2とはいえ)配下に刀を折られるという展開は、なかなかよく考えられたシチュエーションではあります。
 それは剣心と宗次郎が互角だったということを示すだけでなく、流浪人となって以降の剣心の戦いが逆刃刀に負担をかけていた――さらに言ってしまえば、その逆刃刀に象徴されていた剣心の生き方に、なにがしかの無理があったことを示しているのでしょう。斎藤から(それ以前に刃衛にも)突きつけられていた剣心の弱点が、ここでも示されたといえます。

 もう一つ印象に残ったのは、尖角に復讐しようとする栄次に対して、剣心が「死んだ者が望むのは敵討ちではなく生きている者の幸福」と語る場面。ここは、このだいぶ先に原作で語られる彼の過去を思えば、頷けるところではあります。その一方で、その想いが届かず、「小さな手を汚し」た相手から、大変な目に遭わされたりもしたわけですが……


 さて、続く第三十話はガラリと変わって左之助が主役、二重の極みの特訓回です。作中ではほとんど完成された強さのキャラクターばかりの本作ですが、その中で未完成な部類の左之助ならではのエピソードといえます。

 この二重の極み、見かけは普通にぶん殴るというシンプルさに、謎理論を噛ませることですごい効果を発揮するという点が、いかにもジャンプの必殺技的で素敵なのですが、その謎理論が真似すればなんとなくできそうなところが素晴らしいと改めて感じます。連載時に男子小中高生だった読者は、みんな練習した(断言)のは伊達ではありません。

 もちろん、それがすぐに真似できれば苦労はないわけで、左之助もほとんど右腕を自傷行為レベルまで(左之助が右手を怪我してるのは考えてみればこの頃からなのだなあ)特訓した――だけでは会得できないのが、ドラマの妙でしょう。
 ここで特訓の途中で倒れた左之助の前に相楽総三の霊が登場するわけですが――それで奥義を授けられたら大昔の剣術ものになってしまうわけで、左之助が相良と対峙することで、少年時代から抱えていた己の想いと向き合い(ここで少年時代の声の語りから入って、今の左之助の声に重なる演出は、ストレートではありますが良いと思います)、なんのために強くなるかを再確認するという展開はやはり上手いと感じます。

 などと理屈をこね回さなくとも、やはり左之助の熱血漢ぶり・好漢ぶりは見ていて実に気持ちよく、色々と変化球を投げつつも、やはり作者は熱血ものが大好きなのだな――と改めて再確認させられるエピソードである今回、地理的・歴史的なオチも効いた上に、さらにラストにはこの先の因縁に繋がるもう一つの捻りが、と盛りだくさんで、やはり作中でも名エピソードの一つだと再確認させられた次第です。


 そしてようやく次回から京都が舞台。一クールの前半を使って京都編のいわばプロローグを展開していたわけで、やはり贅沢な構成ではあります。

 しかし二十九話でのオリジナルシーン、尖角を倒されて途方に暮れる部下たちのくだりは、どんな顔で見ればよいのか……(これまでの所業が所業なのでギャグっぽいことをされても全く笑えないわけで)


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2024.11.04

『青のミブロ』 第2話「泣いていい世界」/第3話「魂の在り処」

 ミブロの一員として、鬼の棲み家と恐れられていた屯所に足を踏み入れたにお。そこに集う若者たちは、世評と裏腹に賑やかな面々だった。しかしその一人・芹沢は、宴会の帰りに隊士の一人を殺害、その始末をにおと同年代の少年・太郎に押し付ける。その命令に従う太郎の行動に驚くにおだが……

 アニメ版『青のミブロ』第二話・第三話をまとめて紹介。におが壬生浪士組に加わるまでを描くプロローグ的内容であった第一話に続き、第二話ではOPで顔を見せているミブロのメンバーたちがいよいよ登場することになります。

 ここで突然相撲大会を始めてしまう彼らの姿は、ほとんど体育会系の部活の合宿というノリで普通に面白い兄ちゃんたち、という印象。永倉・原田・藤堂・山南・井上そして近藤という面子だけでなく、新選組ものでは定番の悪役である芹沢も、見かけは非常にコワモテでも、かなり陽気に振る舞っている姿が意外かつ印象に残ります。
 もちろん楽しい場面だけでなく、不逞浪士が暴れているという報に駆けつけてみれば、土方が容赦なく相手を斬り――と、血なまぐさいところも容赦なく描かれます。さらにその上で、第二話の終盤では、におが不逞浪士から子供を庇い、それに対して(本作では奇人の部類に入りそうな)近藤が実にイイことを言って――と、この回ではミブロの陽の姿が硬軟取り混ぜて描かれたと言えるでしょう。

 しかし第三話では、におたち三人の狼の二人目の登場とともに(三人目は第二話で既に登場はしているのですが)、ミブロの陰の姿が描かれます。
 相撲大会の翌日、前日会わなかった少年・田中太郎と顔を合わせたにおですが、同い年の彼に対しても異常にへりくだる太郎は、芹沢に下僕のように扱われている存在。その晩、酔って屯所に戻ってきた芹沢は、同じ浪士組の人間である殿内義雄を斬ってきたと告げ、太郎にその始末を命じて――という展開は、第二話のミブロの姿が、ある意味新選組の今のパブリックイメージに沿ったものであったのに対し、いきなり暗部を突き付けるような描写が衝撃的です。

 特ににおに次いで登場した(史実に登場しない人物という意味で)オリジナルキャラの太郎は、その光のない死んだような瞳と、卑屈な、そして裏表ある言動が強烈なキャラクター。アニメではキャラクターデザインの関係で瞳はそこまで死んで見えませんし、原作でショッキングだった「奴隷」という表現はさすがに使われませんでしたが、それでも強烈に異彩を放っていることは間違いありません。
 そんな太郎が、証拠隠滅と称して行うのがまた強烈すぎる――直接の描写はないとはいえこの時間帯の番組でやるとは思えない行為なのですが、それを目の当たりにしながら、なんとか少しでもマシな方向に変えていこうとするにおの行動(この時、何だかんだ言って太郎よりもよほどリアリストの面が垣間見えるのが興味深い)がこの回の見どころの一つでしょうか。

 近藤派が浪士組内の権力闘争の末に殺したという説が有力な殿内ですが、本作においては裏切り者であり、それに気づいた芹沢によって斬られたという展開は、ちょっとミブロを美化しすぎているようにも思えますが――記録に残る殿内の死に様を取り込んでの結末はなかなかうまいと感じます。
 そして先に述べたように、第二話で新選組の陽の部分・正の部分を描いた上で、第三話で陰の部分・負の部分を描く構成も巧みと言えるでしょう。

 ――が、こうした部分はほぼ完全に原作に由来するところと言えます。レギュラー陣の声の演技はさすがというべきですが、絵的には第一話のネガティブな印象を覆すには至らない――というより、アクションシーンについてはかなり省エネな演出なのが厳しいところで、「アニメ」としての完成度と言った場合には、かなり厳しいと言わざるを得ません。
 この先、「アニメ」としての本作をどれだけ見せることができるのか――このペースでいけば、まず確実に第一部ラストまでいくはず。それまでにどれだけこの印象を立て直すことができるか、その点が勝負という気がします。


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2024.10.26

『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』 第二十七話「見捨てられた村」/第二十八話「野心家の肖像」

 一時は撒こうとしたものの、結局操を連れて京都に向かうことになった剣心。しかしその途中、二人は新月村から逃げてきた少年・栄次と出会う。志々雄一派に支配され、地獄と化した村の有様に憤る剣心は、村に滞在していた志々雄と対峙。その前に村を支配していた志々雄の配下・尖角が立ち塞がるが……

 今回は二十七話と二十八話をまとめて紹介。愁嘆場から始まった京都編ですが、操が登場して一気に雰囲気は明るく(というかドタバタに)――と思いきや、京都編、というか『るろうに剣心』全体でも相当に重いエピソードである新月村編が始まります。

 操が単なるアレな子ではなく、御庭番衆の縁の者であること、そして蒼紫を一心に想っていることを知って、京都に帰るという彼女と行動を共にすることになった剣心(まさかその頃、蒼紫も京都に向かっているとは知らず……)。しかしその矢先に見つけたのは死を目前とした青年、その青年が最後まで守っていたのは弟の栄次で――と、いきなりシリアスな始まりです。

 彼らが逃げてきたのは志々雄一派によって占領・支配された村だったという展開は、さすがに豪快すぎやしないかとも思いますが、後からやって来た斎藤が語る、何故軍隊を派遣できないのか(そして剣心や斎藤といった個人が動かないといけないのか)、という理屈はなかなか面白い。自分が暗殺されかねないので政治家も動かないという流れも納得です。(その辺の人間、下手すると昔は自分が暗殺する側だったしな……)
 そんな中で厭に印象に残るのは、志々雄一派に支配された末に、反抗の気力を失い、それどころか救いに来た剣心たちに反発し、罵声を浴びせる村人たちの姿でしょう。作品が少年漫画の王道を行くようでいて、何気に厭な人間心理が描かれることも多い作者ですが、この頃から既に描かれていたのか――と、妙なところで感心します。

 そして剣心・斎藤と志々雄の対面という重要な場面が描かれるわけですが、直後にその場を(この回のシリアスさを)全て持っていくのは尖角の存在です。いや、この尖角、原作読者にとっては登場シーンで既にインパクト十分――何しろ、原作と異なり、なんか兜被ってるのですから(ついでに手甲もつけてる)。尖角といえば、あの常人とは思えないほど尖った頭ですが、一歩間違えればギャグのようなビジュアルが、尖った兜を被っていることにより、緩和されたような気がしないでもありません。といいたいところですが、あの全身ボディースーツは健在なので、ボディースーツに兜と手甲はつけている変な人になっているのがまた……
 しかし驚かされるのはそれだけでなく、突然「尖角流」などという流派(まず間違いなく自称)を名乗り、原作では手下が語っていた刻み打ち(百烈ナントカ)の名を自ら披露、さらに、幻に終わっていた串刺し頭突きこと人間弩弓(ナントカ頭突き)そしてその超必殺技版まで!

 と、タチの悪いファンとしては、原作では幻に終わった尖角の必殺技が登場するのにテンションが上がった――と言いたいのですが、さすがにそこを頑張らなくてもいいのではないかな、と真顔になってしまった、というのが正直なところではあります。
 そこはいいから、もう少しお話のペースを上げて――と、今回のアニメ化の冒頭から思っていたことを、改めて思ってしまうのでした。
(確かに雷十太のエピソードや第零幕の補完は良かったですが……)


 にしても、尖角の兜が外れてみたら、中から出てきたのは原作通りのトンガリ頭だった、というのには、もうどんな顔をすればいいのか……


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2024.10.21

『青のミブロ』 第1話「壬生浪と少年」

 文久三年、年端のいかぬ子供たちが攫われるなど世情騒然とした京。その片隅のの団子屋を訪れた壬生浪士組の土方と沖田は、そこで働く利発な少年・におに目を留める。数日後、家に帰る途中のにおと妹を賊が襲撃するが、待ち構えていた土方と沖田に蹴散らされる。翌日、におを浪士組に誘う土方だが……

 原作漫画の方は第二部の「新選組編」に突入し、単行本は現時点で合計十五巻を数える『青のミブロ』のアニメがスタートしました。しかも深夜枠ではなく、土曜の夕方五時半、そして連続二クール放送という、当世では恵まれた枠です。

 さてその第一話は、原作の第一話をほぼ忠実に映像化した内容となっています。団子屋で働くにおと血の繋がらない妹と祖母、そこに現れた土方と沖田の颯爽たる男振りと、それとは裏腹の「ミブロ」の悪評。荒れる京都を象徴するような、子供を狙う人攫いの賊との戦いの中で描かれる、土方と沖田のキャラクターと、におの観察眼。そして土方からのミブロへの誘いと、それに対する答えともいえるにおの叫び……
 細かいセリフや描写の省略はありますが、ほぼ内容は原作に忠実な(その分、プラスもほとんどない)内容です。

 このような(最近では当然の)アニメ化のスタイルは、原作既読者がここで何かを語ろうとするとちょっと困ってしまうのですが、とりあえずキャストにしてはイメージ通りという印象で、特に土方・沖田は、彼らの一種のパブリックイメージに忠実と感じます。
 また、今回のクライマックスである土方と沖田を前にしてのにおの叫びも、正直なところ原作では唐突感とちょっぴり気恥ずかしさがあったのですが、声がついてみるとそういった印象はだいぶ緩和されているのは、さすがと言うべきでしょう。

 その一方で、作画的にはシャープさに欠ける印象が強くありました。これは特に原作のメリハリの効いた絵柄に比べてしまうと、特にそう感じるのかもしれませんが、今後への不安点といえます。
 特に今回はアクションシーンが少なめだから良かったものの、今後本格的にアクションが描かれる場合にどうなるか(もちろん逆にアクションシーンは良くなる可能性も、ないわけではないですが)、気になるところです。
(制作元がファンタジー主体で、時代ものが初めてなのは、これはまあ今日日仕方ないとして……)

 ちなみに今回、ミブロの大半はOPEDとイメージシーンのみの登場だったわけですが、太郎とはじめは、それぞれちょっとマイルドな感じになっているのは面白く感じられるところで、実際の登場を楽しみにしたいと思います。


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2024.10.12

『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』 第二十六話「明治東海道中」

 留守中の神谷道場を訪れた恵の前に現れ、剣心の行方を尋ねる四乃森蒼紫。そこに現れた斎藤から志々雄のことを知った蒼紫は、瀬田宗次郎から接触を受け、京都に向かう。一方、小田原を越えた剣心は、破落戸相手に追い剥ぎを働く少女・操と出会い、金を返させようとするが……

 前半は蒼紫の再登場、後半は剣心と操との出会いと、わかりやすく分かれてはいるものの、ちょっと今回のアニメ版の冒頭並みにスローペースかな、という印象。しかも前半は思わぬキャラの活躍が追加されて驚かされます。

 というわけでその前半は、前回とても凛々しかった恵が、留守道場の管理を任されて愚痴を言いながら顔を出したら蒼紫と遭遇して膝を落とす、という損な役回り(前回も書いたような気がしますが、ここはエピソードを分けて正解だったと思います)。そして、なんか荒んでる頃の蝶野攻爵みたいな目になった蒼紫の魔手が恵に迫った時、そこに現れた斎藤が――と、今回も素晴らしい斎藤の裏方(?)ぶりに感心させられます。
 恵を救いつつ、蒼紫に志々雄の情報を教え、戦力として利用しようとする――という彼の行動は、正直後者については余計な犠牲者を増やしただけのような気もしますが、その直後に描かれているように、元々志々雄一派にも目をつけられていたので、結果は同じだったかもしれません。

 というわけで、こちらでは「誰だお前は!?」などとは言わず、強者として蒼紫に興味を示す志々雄ですが、ここで宗次郎が悪巧みして、かませ犬として阿武隈四入道をけしかけられることになります。可哀想に、おそらくは大した情報を与えられていなかったと思われる四入道は、よりによって御庭番衆の墓で弁当を広げたり唾を吐いたりと、蒼紫の逆鱗に触れる行動を取りまくった結果、瞬殺――されない。
 あれ、この蒼紫、攻撃しないで意外と避けに回ってるな? と思っていたら、四入道も調子に乗って技を繰り出し――こ、これは幻の瞬速四身一体!? 原作ではコンパチだった四人の得物もそれぞれ別のものになっていますし、結構な優遇ぶりです。さらに、初めは攻撃せず躱すことで、相手の得意技を引き出す蒼紫の懐の深さも印象に残ります。……いや、誰が喜ぶのか結構謎のアレンジですが、これは人誅編の、あの禿頭四人組も期待できそうではありませんか!(喜んでる――というか、そんな先の予定は決まってません。たぶん)

 一方の剣心と操の出会いの方は、これも何もそこまで、と言いたくなるくらい原作通りだったのですが(もう少し破落戸ややくざの出番は減らしてもいいのでは)、改めて見ると操は滅茶苦茶90年代っぽい造形なのに感心します。
 いやそれは置いておくとしても、薫とも恵とも全く違うキャラになっているのはさすがで、この二人が何だかんだでおとなしめなのに対して、初登場から動きまくり剣心に噛みつきまくる操のキャラクターは実に楽しく感じられます。

 この辺りは、京都編(というか道中編)だからこそのキャラクターなのはなんとなく理解できますが、操がもっと作中に早く出てきていたらその後の物語の歴史が変わったのでは……(大げさです)
 ちなみに初出時には一部で物議を醸した操の外套ですが、今回はうまくアレンジしているのか、あまりアレっぽく見えなかったのはちょっと面白いと思いました。

 そしてラストにやれやれ主人公ぶりを発揮した剣心ですが、いくら幕末で経験値を積んでいたとしても、あの橋の壊し方はやっぱり無茶だと思います。
 というか、あれが当たり前だとしたら、やっぱり幕末の京都は修羅の国……


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『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』 第二十五話「京都へ」

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2024.10.08

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』 第1話「帰郷」

 無界閣に消えた浪巫謠を思い、打ちひしがれる殤不患。そんな彼に対し、凜雪鴉は失望したと姿を消す。一方、阿爾貝盧法と刑亥と共に魔界を行く浪巫謠は、父から試練として魔物をけしかけられる。そして魔界に関心を抱く禍世螟蝗は、斥候として覇王玉と花無蹤の二人を送り込もうとしていた。

 第三期以来、実に三年ぶりの登場となった第四期。その初回である今回は、第三期の最終話からほとんどそのまま続く形で、三つの勢力の動向が描かれることとなります。

 まずは主人公サイドですが――激しく落ち込んでいるのは、西幽来の親友である浪巫謠を崩れ落ちる無界閣に置き去りにしてしまった(と思い込んでいる)殤不患。睦天命に合わせる顔もない――などと言ったらまた滅茶苦茶怒られると思いますが――と沈む彼を、捲殘雲は静かに見守ります。というか、酒場の払いを持ったり、呼びに来た護印師(?)への態度といい、いつの間にか大侠の風格が出てきたな捲ちゃん……

 一方、全く優しく接しないのは凜雪鴉です。今のお前は退屈だ、面白味に欠ける。行く先々で騒動を引き起こす厄介者のお前だからこそ興を唆られてきた。血湧き肉躍る冒険譚がここで幕引きというならもうこれ以上つきまとう理由もない――一見、落ち込んでいる人間に容赦なく追い打ちをかけているように見えますが、この場合はツンデレな叱咤激励の影が感じられます。いつかまた血の滾りが抑えきれなくなったら、その時はまた一緒に世間を引っ掻き回してやろうじゃないか、とまで言っていますし……(完全に同類扱いなのはさておき)

 さて、その浪巫謠はといえば、父にして母の仇である阿爾貝盧法、そしてその配下となった刑亥と共に魔界に赴いたわけですが――いよいよ本格的に描かれることとなった魔界は、さぞかし強豪がひしめく弱肉強食の地獄に違いない! と思いきや、これが刑亥が驚くほど寂れた地に変貌していました。というのも、窮暮之戰の人間界侵攻が中途半端に終わったばかりに、侵攻用に召喚した魔神を養わなければならなくなり、毎週生贄を用意しなければならなくなったとか……
 何かの寓話のような話ですが、別の意味で弱肉強食になってしまった魔界の皆さん、殤不患が神誨魔械を持って行ったら喜ばれるんじゃないでしょうか。

 そんな状況もどこ吹く風と歩みを進める魔界伯爵ですが、いまだ生々しい死骸が転がる地にやってくると、浪巫謠に試練と称して魔物退治を命じます。人間には倒せないというその魔物の実力や如何に……

 そしてもう一つ、蠢くのは禍世螟蝗一派です。第三期ラストで驚くべきその正体を明かした禍世螟蝗ですが、いよいよ本格的に魔界への侵攻を決意したものか、斥候を送り込もうと企みます。一体どうやってと思いきや、そこに顔を出したのは鬼奪天工――第三期で時空の狭間に落ち込んだ婁震戒の前に現れ、面白片腕サイボーグに改造した老科学者です。その時は、うっかり七殺天凌を馬鹿にしたばかりに置いてけぼりをくらったこの怪人物が、ついに人物紹介に載る身分に昇格しました。

 いつ元の世界に戻ってきたかはしりませんが、その技術を用いて禍世螟蝗が送り込むのは二人の幹部――というか幹部二人しか残っていないような気もしますが――、その名も覇王玉と花無蹤! 片や蜂の紋章を持つ西幽最強の女傑、片や蜘蛛の紋章を持つ計略自慢の盗賊と、正反対のキャラクターの持ち主ですが、予想通り相性は最悪です。そんな二人を競わせて成果を上げようという禍世螟蝗ですが、どう考えても惨事の予感がします。
(特に自意識過剰っぽい計略自慢の盗賊は、誰がどう見てもアイツの餌食のために出てきたとしか)


 なにはともあれ、これで三つの勢力のうち、二つはすぐに魔界でかち合いそうですが、残る主人公たちはどうするのか――というより殤不患はいつ復活するのか。
 今回がTVシリーズとしてはラストとのことですので、集大成となるような展開に期待したいと思います。


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