2023.11.24

『るろうに剣心』 第二十話「明治剣客浪漫譚 第零幕 前編」/第二十一話「同 後編」

 諸国を流浪する中、横浜に立ち寄った剣心。そこで仮面の外国人医師・エルダーが悪徳医師・石津泥庵の用心棒に絡まれていたのを助けたのをきっかけに、剣心はエルダーの素顔を知ることになる。そして、石津に雇われてエルダーを狙う西洋剣士・エスピラールと、剣心は決闘することになるが……

 まさかの第零幕が前後編で描かれることとなったこの第二十話・二十一話。原作は連載終了からだいぶ経ってからの掲載ということで、比較的知名度が低いエピソード(アニメ放映とほぼ同時に、文庫の『るろうに剣心 アナザーストーリーズ』に収録されましたが)ですが、そこにアニメ独自のアレンジを加えることで、魅力的な内容となっていたといえます。

 原作では一話分ということで、かなりあっさりしていましたが、今回は二話分、それも本編の中に挿入される形となったことで、様々なアレンジを施されているのが目を惹きます。
 その一つ目は、剣心とエルダー、そして車夫の男吉の交流。原作では剣心がエルダーと知り合った後、すぐにエルダーの「正体」が描かれ、後はクライマックスの決闘シーンに雪崩れ込むという、かなり慌ただしい展開だったのですが、今回のアニメ版では、三人がアフタヌーンティーしたり、居留地見物に出かけるという場面が用意されています。
 居留地見物の時の、ヘンな役割分担(?)も面白いのですが、目を惹くのは剣心が茶を飲む場面――庭の沈丁花の香りはわかっても、紅茶の香りがわからない剣心に、エルダーが心因性のストレスを見て取るのは、ちょっとドキリとさせられるシーンです(そしてこれが大きな意味を持つのですが、それは後述)。

 しかし、ある意味今回一番インパクトが大きかったのは、エスピラールのキャラクターの大きな変化ではないでしょうか。日本剣術vs西洋剣術というのは、これは時代ものでは一種の定番パターンではありますが、刀身に螺旋の入ったレイピアという如何にもるろ剣らしいケレン味溢れる武器を披露しながらも、原作でのエスピラールは、紙幅の都合もあってあっさり倒される殺し屋という、実に勿体ない扱いでした。

 それがこのアニメ版では、エルダー抹殺を請け負いながらも、むしろ彼女の護衛を務める最強の剣士・人斬り抜刀斎との尋常な勝負を夢見るという、洋の東西は違えど、剣士の魂を持った男として描かれます(原作では自らを剣士ではなく「人を殺す者」と自称しており、明確に立ち位置が異なります)。
 ここでエルダーを人質に剣心との対決を求めながらも、剣心が応じると「手荒い真似、失礼した」と彼女に詫びる礼儀正しさ(これもオリジナル)を見せるのも心憎いのですが、決闘ではオリジナルの奥義トルナード・インフィエールノまで披露。これがまあ、自分の体を極限までねじって放つという、何だかうずまきに呪われてるんでは――と心配になる技というのはさておき、これまた実にるろ剣らしい奥義で満足であります。
(ここで剣心の返しが、奥義の回転に巻き込まれながらその力をカウンターで叩き返すという、リンかけのヘルガのブーメラン・スクエア破りっぽいのがジャンプらしさを感じる――か?)

 そして改心したエスピラールは、横浜を天然痘の脅威から救い、最後はエルダーのボディーガードとして彼女と一緒に旅立つという、原作の没案を活かした結末を迎えて――と、三木眞一郎が声を当てただけはある(微妙に巻き舌の喋りもイイ)、実に美味しい役どころとして昇華されておりました。

 ここで注目すべきは、決闘を終えて意識を取り戻したエスピラールにエルダーが語りかける言葉でしょう。剣心に敗れたことで、最強の剣士を目指すという希望を失ったエスピラールに、目標が大きすぎると道に迷うと――もっと小さな目標、小さな希望を持って生きてはどうかと語るエルダー。エスピラールが剣を振るう理由を見つめ直すきっかけとなった彼女の言葉は、このエピソードの結末に、まことに相応しいものであると感じます。
 そしてそれは、誰もが安心して暮らせる新時代という大きな希望の下に人斬りの刃を振るい、大きすぎる犠牲を払った剣心にも、そのまま当てはまる言葉といえます。この対比の妙には、ただただ唸らされるばかりです。

 そして今回のエピソードは、実は本編の中で、剣心がいつもの仲間たちと茶を飲んで寛いでいる時に話した物語という趣向。ここで、横浜では茶の香りもわからない――つまり茶の味も楽しめなかったものが、今では楽しむことができることを示すこの場面は、剣心が神谷道場で歩みを止めることで、確実に癒やされていることを示しているといえます。

 もっとも、もうすぐその神谷道場から離れることになるのですが……


 それにしても本編と続けてみると、原作の執筆年代が大きく離れる本作は、ギャグのセンスも全く異なっているのが興味深い……


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『るろうに剣心』 第十九話「津南と錦絵」

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2023.11.10

『るろうに剣心』 第十九話 「津南と錦絵」

 内務省爆破を目論む月岡津南と行動を共にする左之助。しかしその前に現れた剣心によって津南の炸裂弾は全て防がれ、左之助も津南を力づくで制止するのだった。しかし意識を取り戻した後、内務省前で自決すると激昂する津南。その後を追った左之助は、津南と拳を交える……

 二話に渡ることとなった月岡津南編、原作から考えると時間的に結構余るのでは――と思いきや、何と今回はほぼ後半全体がオリジナルという展開となりました。

 赤報隊時代の友人である月岡克浩、今は絵師の津南と再会した左之助。しかし津南はニセ官軍として十年前に処刑された相楽隊長の恨みを忘れず、自作の炸裂弾でテロを準備中であり、左之助もそれに誘われて――というのが前回の展開。
 それを受けて、今回津南と左之助が内務省の敷地に侵入してみれば、そこで待ち受けていたのは剣心であります。立ち塞がる剣心に炸裂弾ラッシュをかける津南ですが、剣心に及ぶはずもなく、見るに見かねた左之助が当て身を食らわせて津南の家に連れ帰り、剣心は炸裂弾を処分することに――という展開の後、原作では左之助に諭された津南がテロを断念する結末になるわけですが、今回のアニメではそこに至るまでのさらなる悶着が描かれます。

 意識を取り戻してみれば炸裂弾は全て奪われ、テロの手段はなくなった津南ですが、何と内務省で抗議のため切腹し、明治政府の悪業を告発しながら死んでやると激昂。それが民衆の心を動かし、政府への不信の種になる――と大変なことを言い出した津南は、「そんなに都合良くいくかよ!」と身も蓋もないツッコミを入れた左之助の前から、いきなり煙幕弾で姿を消して家から脱出します。
 しかし津南は、その直後に警官にどこに行く? と誰何されて、「どこへ行けばいいんだろうな……」と切ないことを言ったと思えばまた煙幕! もう煙幕おじさんの異名をつけられそうな勢いの津南をようやく見つけた左之助は、もつれあった末に(たぶん)以前剣心と決闘した河原に転がり落ちます。

 そこでお前は裏切った、俺の十年を返せと好き勝手言う津南にさすがに怒りだした左之助ですが、何と津南は左之助と素手ゴロ勝負を宣言。「お前は俺に勝てたことは一度もないだろう」とあまりに自信満々な津南ですが、実は左之助並みの腕前!? そこに炸裂弾が加わったら猛者人別帳に載ってしまうのでは!? と一瞬思いましたが、もちろんそんはなずはなく、ボッコボコにされることになります。それでもお前は十年間何をしていたと詰る津南に、この十年の間に、薫・弥彦・恵――世の人びとは懸命に新しい時代を生きていると答える左之助。そんな人びとが集まった昨日の宴会こそ、隊長が目指した四民平等の姿だと……
 さらに津南のやろうとしていたことは「無駄だ! 迷惑だよ!!」という左之助の火の玉ストレートに、ついに津南も膝を折ります。そして帰り道、津南は、かつて隊長に「お前はお前のやり方で戦え」と言われたことを思い出し……


 と、かなり力を入れて描かれた今回の津南のエピソード。その過去自体は左之助と重なるとはいえ、人斬りではない、しかし幕末を引きずった彼のドラマは、やはり明治ものとして印象に残るものであることは間違いありません。
 そんな津南と左之助を分けたものは、世間や他者との関わりだったのでしょう。そしてその他者との関わり(平和な共存)こそが相楽隊長の理想であり、前回描かれた原作よりも面子が増えた宴会は、やはりその象徴と感じます。

 そんな中でちょっと異質な(左之助も明治を生きる人々の中に入れていない)剣心は、その頃、炸裂弾を一生懸命埋めていたのですが、ここでも印象的なオリジナルのシーンが描かれます。
 炸裂弾を全て埋めたと思いきや、一発のみを火を付けて空に投げ上げる剣心。炸裂弾を埋めるというのは、ネガティブな過去との決別の象徴だとは思いますが、その炸裂弾が夜空を、暗闇を明るく照らすというのは、過去が現在に光明をもたらす、一つの希望の姿といえるのではないでしょうか。


 さて、Cパートではこれまたオリジナルで内務省の最奥が描かれます。結局剣心と津南の戦いの後のみしか知らない人間たちが、あれは志々雄一派の仕業では!? と慌てるのはちょっと可笑しいのですが、大久保卿は川路大警視に、さらなる警戒を命じて――と、ここで初めて志々雄真実の存在が語られたのは目を惹きます。

 なるほど、これを受けていよいよ斎藤一が――と思いきや、何と次回は第零幕の、それも前編。正直なところ全く予想していませんでしたが、ちょうど来週に零幕収録の文庫が出ますし……


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『るろうに剣心』 第十八話「左之助と錦絵」

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2023.11.04

『るろうに剣心』 第十八話「左之助と錦絵」

 赤べこの妙から頼まれ、月岡津南なる絵師の錦絵を買いに絵草紙屋に行った左之助。そこで津南が描いた赤報隊の相楽隊長の絵を見た左之助は、津南が赤報隊時代の友人だと気付く。津南のもとを訪ねた左之助だが、彼は密かに炸裂弾を準備し、内務省へのテロを計画していた。協力を求められた左之助は……

 今回描かれるのは、原作では番外編と銘打たれた左之助主役編、というより、原作きってのオーバーテクノロジーの持ち主であり、後に(間接的に)志々雄真実の野望を挫く男・月岡津南の登場編であります。
 ――と、アレなファンからネタ的に扱われることの多い津南ですが、今回は原作に幾つかのオリジナルシーンを追加することで、なかなか印象的な物語となっています。

 物語の展開は、上で触れた通り、赤べこの妙に頼まれた幕末の隻腕の剣士・伊庭八郎の錦絵を頼まれた左之助が、店で自分たちの姿が描かれた相楽総三の錦絵を見つけて、月岡津南=以前の仲間だった月岡克浩だったと気付き――という、原作そのままのもの。
 左之助が喧嘩屋というアンダーグラウンドな稼業を営みつつも(内心はともかく)結構明るく楽しくやっていた一方で、津南は錦絵師という職に就きながらも、たった一人で孤独に爆弾テロを計画していた、という対比がなかなか印象的な構図であります。

 もちろん、仮に津南の炸裂弾が軍艦を数発で沈没させるほどでも、たとえ中央官庁の中でもさらに中枢の内務省だとしても、官庁を一つ焼き払って後は周囲の蜂起待ちというやり方で国が転覆するはずもなく(まあ、慌てて志々雄一派が蜂起して大変なことになった可能性もありますが)、その辺りは実は作中屈指のクレバーさを持つ左之助が危惧する通りだというほかないのですが――しかし、それも幕末の修羅場を、幼い頃に経験してしまった(幼い頃にしか経験していない)が故の哀しさというべきなのかもしれません。

 この辺り、ある意味ガキ大将がそのまま大人になったような左之助に対し、変に考えすぎて大人になってしまった津南で対照的という気もしますが――ここで印象に残るのは、アニメオリジナルの回想シーンであります。
 相楽隊長に銃の腕を褒められつつも、これからは武器を持つのではなく勉学に励め、新しい赤報隊を作れと諭されるくだりは、彼の火薬の素養の由来を描くだけでなく、相楽の理想と、その相楽の死によって津南の現実とが哀しくも乖離してしまったことをを浮かび上がらせるのですから。
(しかしここで火薬でなく銃のスキルツリーを伸ばしていたら、リボルバーでガン=カタ絵師が誕生していたのか……)

 そしてその晩、左之助が神谷道場を借りて宴会を開き、津南を招くのも、原作ではいつもの面子+妙と燕だったのを、こちらでは左之助の舎弟や近所の人たち、そして恵を招くという形になっているのが面白い。ここで舎弟たちと恵の和解が描かれるのも目を惹きますが、一番印象に残るオリジナルシーンは、やはり津南が剣心を絵に描くくだりでしょう。
 ここで初めて、剣心がかつての維新志士であることを知り、一瞬敵意を燃やす津南ですが――気持ちを落ち着けたように描いた剣心の姿は、顔に十字傷がある他は、目も口もないのっぺらぼう。これに対して津南は「俺は見たものを描く。この男は見えん。その笑みの下にあるものが、傷の奧にあるものが見えん」と語るのですが、これは津南がその芸術家の感性でもって、剣心の本質を捉えてしまったのでは――と思えば、何ともゾクリとさせられるではありませんか。

 さて、宴もお開きとなり、客は帰っていつもの面子は道場で眠りについた中で、立ち上がる津南と左之助。あるいはこのアニメ版で左之助がいつもの面子に加えて様々な人々を招いたのは、津南に社会との関わりを感じさせるためだったのかも――とも思いましたが、しかし時既に遅く(?)津南はテロルに向かい、そして左之助も行動を共にします。
 しかし剣心がそれに気づかぬはずもなく――というところで次回に続くというのはちょっと驚かされるところで、原作では全三話だったもののちょうど二話目までで続くとは、次回は一体どうするのか。もちろん、オリジナル描写でドラマをさらに掘り下げてくれるのであれば、大歓迎であります。

 こうして今回見直してみると、原作の中でもかなり「明治もの」的な味わいが濃厚に感じられるエピソードであるだけに……


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2023.10.27

『るろうに剣心』 第十七話「決着」

 雷十太の飛飯綱で右腕に深手を負った由太郎。怒りに燃える剣心は、由太郎らの見守る中、雷十太と対決する。飛飯綱と纏飯綱の連携に追い詰められたかに見えた剣心だが、飛龍閃の一撃が雷十太を打ち破る。しかし心身に深い傷を負い独逸に旅立つ由太郎に、かける言葉もない剣心たちだが、弥彦は……

 いよいよ雷十太編も今回がラスト。作者が監修に入ったこのアニメ版の真価が問われることとなる(言いすぎ)回であります。はたしてその結果は――基本的に原作の流れを忠実に踏まえつつも、しかし随所に施されたアレンジで、印象としては大きく踏み出した内容となっておりました。

 前回、飛飯綱の不意打ちで右腕を負傷した剣心ですが、しかし同じ右腕の負傷であれば剣術は絶望的となった由太郎の方が重い。原作ほどでないにせよ、かなりの怒りが感じられる姿で雷十太戦に向かう剣心ですが――おっ、と思わされたのは、ここで戦いを見守るのが、左之助・薫・弥彦に加えて、由太郎である点でしょう。
 原作では直接戦いを見ていない(病院にいた)由太郎ですが、ここで一度は師と仰いだ雷十太の姿を見ることは、これはこれで残酷ではあるものの、大きな意味があるといえるでしょう。

 そして雷十太戦は――今回のアニメ版らしい動きの良さで飯綱連打を放つ雷十太と、それを超機動で躱す剣心の攻防がなかなか見応えがありましたが、注目すべきは決まり手であります。同じ飛天御剣流・飛龍閃ではあるものの、原作では柄頭の一撃一発でKOだったのが、アニメ版ではそこから追い打ちで(刀を鞘に納めながらの)一撃、さらに龍槌閃チックに鐺でもう一撃と、強敵に相応しいフィニッシュぶり(単に容赦がなかっただけかもしれない)。その後の弥彦を人質にとって逆に弥彦に煽られるという最高に格好悪い雷十太のムーブは変わらないものの、元祖うぐぅを晒して廃人になることもなく、まずはマシな結末であったといえるでしょう。
(Aパートで始末されたのはさておき)

 しかしこの回の真の見所はこの先にあります。右腕の傷を癒やすために世界で一番医学が進んだ独逸(まあ、ポーラールートとかあるし……)に向かうことになった由太郎の傷ついた心に、弥彦の手厳しい叱咤激励が火をつける――という原作通りの展開もいいのですが、驚かされたのはその次――剣心と薫の会話の話題の中心となったのはなんと雷十太だったのであります。
 「剣の才能は確かだった。だがなまじ才能があったから、剣の本質を問うことなく、ただただ技だけを追い求めてしまった」とまでここで剣心に言わしめる雷十太。確かにガード不能の飛び道具を連打するのは、(この後も含めて)本作の誰もがなしえなかった偉業ではありますが、そこで留まってしまい、剣とは、剣術とは何かを考えることをしなかった。おそらくは雷十太にとっては、それを考えること自体が道場剣法の惰弱さに繋がるものと見做したのだと思いますが――だからこそ彼は徒に攻撃性に流れ、頻りに殺人剣を称揚することになったのでしょう。そんなことに拘らなければ、本当に新しい剣術を明治の世に根付かせることができたかもしれないのに……

 そして剣心は語ります。「人を殺めなかった、その一線を越えなかったことが救いなのだと、あの男が気付けばよいのだが」と。雷十太の虚勢を決定的に暴くことになった、人を斬っていないという事実が、このような形で彼にとっての救いとして語られるとは――脱帽であります。


 しかし本作は実はこれだけで終わりません。Cパート――おそらくは雷十太が敗れ、剣心たちが立ち去ったその後、雷十太は人斬りという経験を積むため、もう誰でもいいと路傍の地蔵に祈る娘と老婆に血走った目を向けるのですが――まさかここで経験を積んでしまうのか!? とちょっぴり不安になったところで、彼の刃が断ったモノは……
 その皮肉な、しかし何とも示唆的なモノの前に膝を屈し、身も世もない泣き声をあげる雷十太。それは一人の剣客の心が折れた末の絶望ではなく、新たな剣客の産声だったと思いたいものです。


 というわけで、雷十太を雷十太として描きつつ、しかしそのキャラクターを救ってみせるという離れ業を見せてくれた今回。やがては真の剣客となった彼が北の大地に姿を現す――かどうかは知りませんが、ある種の希望を見せてくれたことは間違いありません。

 そして次回、雷十太に並ぶオーバースペックを持つ男が……


(しかし原作にある台詞なのですが、いま左之助が「真打登場」というと、どうにもおかしい)


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2023.10.20

『るろうに剣心』 第十六話「理想の男」

 自分の誘いを断った剣心に襲いかかる雷十太だが、剣心に刀を折られ、その場は引き下がる。翌日、神谷道場を訪れ、弥彦に勝負を挑む由太郎。しかし彼の竹刀の持ち方がデタラメなのを見た薫は、由太郎に剣術を教える。道場に馴染んでいくものの、雷十太の下で強くなりたいと語る由太郎だが……

 雷十太編の第二回となった今回、アバンがほぼ丸々前回の振り返りだったのはもったいない気もしますが、本編では冒頭から雷十太が凄まじい勢いで剣心に襲いかかります。この辺りの、力任せのような、ちゃんと技があるような――という動きはなかなか面白いですが、刀を折られて引き下がるのは、ギリギリ大物の対面を守ったムーブというべきでしょうか。

 しかし今回のメインは、雷十太よりも弟子の由太郎の方。前回はイキリまくった小僧という感じでしたが、今回はそんな彼が何故強さを求め、雷十太の弟子になったか、そして神谷道場の人びととの交流が描かれることになります。
 そもそも由太郎が神谷道場に足を踏み入れることになったのは、弥彦と勝負するためでしたが、そこで竹刀の持ち方を知らないことがバレてしまう――という展開は、それだけで彼が置かれている境遇や彼のキャラクターが現れていて、今見ても秀逸と感じます。

 そんな彼が、薫や弥彦と交流するうちに――というのは実に微笑ましくも、それ自体が雷十太の思想のアンチテーゼとなっているのが興味深いのですが、しかし彼が強くなろうとする理由は、それなりに「明治」を感じさせるものといえるでしょう。
 士族の出でありつつも商人の道を選び、そして強盗に襲われても土下座するしかない――そんな父を見返し、士族として生きるためというのは、ある意味弥彦とは対照的な理由。そこで彼が出会ったのが雷十太ではなく、剣心たちであったなら――この先の展開を見れば、そう思わざるを得ません。

 そう、雷十太にとっては由太郎はスポンサーの子に過ぎず、そして知り合ったきっかけである強盗から救ったのも、仕込みだった――やっぱり比留間兄弟並みの悪知恵の持ち主だった雷十太ですが、しかし技だけは一流。『るろうに剣心』の中でも純粋な遠距離剣術(という言葉があるのかどうか)である「飛飯綱」がついに炸裂であります。
 仕掛けがあるわけではなく(少なくとも原作の時点では)、純粋に剣の振りだけで旋風を起こして空を裂き斬るこの技を、独学で会得したらしいのは驚きですが、しかし剣心に放ったのは避けられ、由太郎に当たってしまったのは色々な意味で大誤算。原作のように「生き地獄を味わわせてやる」とまでは言われなかったものの、抜刀斎の地が出た剣心を前に、ついに冷や汗タラリ――次回、本当に地獄を味わうことになるのか、それともアニメオリジナル描写で面目を保つのか、雷十太というキャラクターの未来がかかっているだけに必見です。


 と、途中で気付いたのですが、原作で神谷道場を襲撃した弟子四人は、このアニメ版ではカット。なくてもそれなりに繋がる展開なので、スピードアップのためなのかもしれませんが(そしてこういうアレンジは大歓迎なのですが)――ということは本作の雷十太、もしかして同志ゼロ?
 一部にはそれなりにあった人望も失われた(ように見えてしまう)雷十太が、次回どのような決着を迎えるのか、心配というか楽しみというか……


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『るろうに剣心』 第十五話「その男・雷十太」

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2023.10.15

『るろうに剣心』 第十五話「その男・雷十太」

 出稽古に向かった薫と共に前川道場を訪れた剣心。だがそこに剣術の行く末を憂うと称する壮漢・石動雷十太が現れ、道場破りを仕掛けてきた。師範を叩きのめして看板を奪おうとする雷十太と対峙する剣心だが、雷十太は自ら引き下がるのだった。後日、剣心を招いた雷十太は、自分の存念を述べるが……

 いま一番北海道編への登場が待ち望まれると言われ(というか私が言った)、かつ今回のアニメ版への登場が危ぶまれた男・石動雷十太が、今回から無事に登場であります。
 キャラクターのコンセプトとしては面白かった(そして何気に刀から飛び道具を放つという、作品全体を通じても珍しい技の使い手だった)ものの、何故かあらぬ方向に突き進んでいき、最後はなんとも締まらない結末を迎えた雷十太。そのために作者からは失敗扱いされていたこともあり、ファンからは妙に愛されているものの、作者自身が監修に当たっている今回のアニメ化では、なかったことにされるのでは――と個人的には心配していたのですが、こうして登場するということは、おそらく描写や扱いにもそれなりの変化があるということなのでしょう。

 それを裏付けるように――といってよいかはわかりませんが、今回の脚本を担当したのは、おそらく作者の次にるろ剣に精通しているであろう黒碕薫。内容的には原作に忠実ながら、ほとんどの台詞に手が加わり、細かい描写に変化があったことで、印象が変わった場面もありました。
 もちろんその影響を一番受けたのは雷十太であります。特に、前川道場での剣心との試合で必殺の秘剣・飯綱(ここでの太刀筋の描写はなかなか面白かった)を躱されて自ら退いた後、帰り道で冷や汗タラリ――という原作での一幕がなくなったのは、何気に大きかったと思います。

 それにしても今回アニメで見直してみると、雷十太という男は、道場破りという時代遅れの蛮行――特に今回、原作とは違い、折れた竹刀で意識を失った前川の顔を攻撃しようとするという、やりすぎな行動が印象に残ります――を働く一方で、塚山家に剣術師範として入り込んでいる(そしておそらくそこを足がかりに自らの目的を果たそうとしている)辺り、単なる暴力バカではなく、一種の社会性が感じられるのが面白いところであります。
 塚山家で剣心を迎えた際も、道場破りの際のいかにも古流の剣術家らしい天狗めいた格好から一転、羽織袴姿で現れるなど、これまでの敵とは一風変わったどこかクレバーな部分があるのが、ユニークであります。
(もっとも原作ではこの先がアレだったので、振り返ってみれば社会性や知性といっても、比留間兄のソレと同レベルに見えてしまうわけですが……)

 いずれにせよ、これまでの刃衛や蒼紫といった強敵とは、平和な明治の世において戦いに執着するという点では等しいのですが――しかし幕末の影を色濃く背負っている二人とは異なり、むしろそこから遥かに過去の古流剣術を称しつつも、剣術の行く末を憂うというある意味未来を見据えた持論を唱える雷十太。
 さらにいえば、西洋銃火器にも負けぬ剣術を目指すというのは、ある意味、後の劍客兵器にも通じる思想が――というのは牽強付会に過ぎますが、これまでだけでなく、この先も含めて、『るろうに剣心』という作品に登場する敵キャラクターの中でも異彩を放っている存在であることは間違いありません。

 もちろん、それが結局は――だったのが大問題だったわけですが、はたして今回のアニメ版ではその辺りに変化をつけてくるのか。この先の展開が大きく気になっている次第です。


 ちなみに原作では前川宮内に「まえかわみやうち」とふりがなが付いていた前川師範、今回は「まえかわくない」となっていたのは、やはりこちらの方が正しいということなのでしょう……(何気に江戸二十傑から地味に十二傑と八人ランクアップしていたのもちょっと面白い)

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2023.10.07

『るろうに剣心』 第十四話 「弥彦の戦い」

 稽古を抜け出してはどこかに出かけていく弥彦。弥彦の行く先をつけた剣心・薫・左之助は、弥彦が赤べこで下働きをしていると知る。そこで自分と共に働く少女・燕が、赤べこに押し込みを企むかつての主家の男・長岡に協力させられていると知った弥彦は、止めに入るが……

 今回から2クール目に突入でOPEDも変更になった今回。OPは歌い手がちょっと意外に感じられましたが、映像はそれなりに凝っているけれども前クールに比べるとアクションが少ないのが残念――というよりるろうにキャットがいなくなったのが悲しい。というのはさておき、2クール目の最初のエピソードが、原作では「番外編」と銘打たれた弥彦主役回、しかもかなり地味な話なのはいかがなものか――と思いましたが、実際に観てみればこれがなかなか良い話なのです。

 物語の方は、赤べこでバイトを始めた弥彦が、そこで知り合った燕がかつての主家の男に脅されて店の鍵の型を取らされているという、事を企てている男が呆れるほど頭が悪い(取り巻きも結構困っているのが可笑しい)のを除けば、いやな感じにジメッとした窮状にあるのを知って助けようとするも――という展開。
 もう市井のゴロツキの相手はいいよ――というのが正直な気分ではあるのですが、しかしまだまだ普通の少年でしかない弥彦の奮闘と、それを見守る剣心たち三人という内容は、普通にイイ話で、思わず見入ってしまいました。

 弥彦が多勢に無勢で袋叩きに遭っているところをあえて助けず、その後に多勢相手の戦い方のアドバイスを求められた時にはじめて(地味に生々しく実戦的な内容を)教える剣心。そしてなんだかんだ言いながら剣心が黙ってみていられないことを見抜いて先回りしている左之助(屋根の上の会話での、気の置けないダチ感が何とも)と、それぞれの立ち位置から弥彦を間接的に助ける二人。
 しかしそれ以上に印象に残るのは、薫が語る神谷活心流の、活人剣の精神であります。
「一本の剣に自分と守ろうとする者の二つの命運をかける」
「負ければ自分は勿論守ろうとした者の命運も尽きる」
「活人剣を振るう者は如何なる敗北も許されない」
――「人を殺さない」というのとはまた異なる形で活人剣を語るこの言葉は、実は原作では剣心が語っているのですが、これはどう考えても薫からに変更して大正解。自分の流派の話だから、というだけでなく、今はさておき、これまで殺人剣である飛天御剣流を振ってきた剣心ではなく、これまでも、これからも活人剣を振るう薫が語るからこそ、その覚悟にも重みが出るのですから。
(まあ、ここで語らないと、燕を諭すくらいしか出番がないですし……)

 何はともあれ、そんな大人たちの言葉を胸に弥彦は見事に勝利し、剣士としての第一歩を飾った――というわけで、弥彦が本作においては未来の象徴であることを思えば、やはり大事な回であったというべきでしょう。
 彼のバイト理由も含めて、「弥彦の逆刃刀」や『北海道編』で描かれる弥彦の姿を思えば、なかなか感慨深いものがあります。

 「結構するでござるよ」「するのか……」×2のアニメオリジナルのオチも、剣心と弥彦の演技もあいまって、なかなか味がありました。


 そして次回、このエピソードのためにアニメ化に作者が関わる意味があったといっても過言ではない(過言です)あの男がついに……
(出番カットされなくてよかったです)


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『るろうに剣心』 第十二話「御頭・四乃森蒼紫」
『るろうに剣心』 第十三話「死闘の果て」

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2023.09.30

『るろうに剣心』 第十三話「死闘の果て」

 剣心たちと御庭番衆の死闘が終わったところに現れ、ガトリング砲を乱射する武田観柳。蒼紫を守り、剣心を行かせるために次々と御庭番衆が身を挺した末、観柳は剣心に叩きのめされる。そして観柳は逮捕され、恵の罪も不問となったものの、全てを失った蒼紫は、剣心打倒を胸に闇に消えることに……

 今回で第一クールもラスト、そして観柳・御庭番衆編もラストと、大きな区切りとなった今回。ここで描かれるのは、観柳との決着とその後始末、恵と蒼紫の去就であります。

 というわけで前回ついに伝家の砲塔を持ち出し、ガトガト大暴走した観柳ですが、今回もお前そんなこと原作で絶対言ってなかったろ的なガトリングへの愛(妄執)とインチキ英語連発で再び大暴走。今原作を読み返してみると、この章は記憶していた以上に観柳の影が薄かったのですが、しかし今回のアニメでは(前回も触れましたが)その後の様々なメディアでのイメージを逆輸入して、観柳の印象が大きく強化されていたかと思います。
(そして今回の、誰も信用せずただ一人ガトリングを乱射して自滅する姿は、北海道編を読んだ後だとなるほど、と思わされる、というのはさておき)

 しかしここまで観柳が大暴れすると、命という名の盾になって散った御庭番衆たちの印象が薄くなってしまうのですが(しかし火男、観柳の目の前まで行ったんだったら、もっとどうにかできたのでは)、そんな中でオリジナル描写で目を惹いたのが般若でした。
 ガトリングを引きつけながら疾走する般若の心をよぎるもの、それはかつて仲間たちの前で蒼紫に稽古をつけられていた時の思い出――と、いうわけで描かれる般若の回想シーン。ここで描写的に般若が一番新参っぽいのがちょっと意外というのはさておき、仲間たちと他愛もないやり取りをする素顔の般若が笑っていたと蒼紫が指摘し、般若もそれを納得する――このくだりは、異形を通じて人の情を描くという点で、実に原作者らしいテイストが出ていたと感じます。

 色々とフォローされてはいたものの、一歩間違えれば悪役たちの勝手な結びつきともなりかねなかった御庭番衆の絆を、はっきりと情の通ったものとして描いてみせたのは実に良かったと思います。
 もう一つ、式尉の剣心への言葉がラストに語られるのも、(内容的にはそこまで引っ張るものではないような気もするものの)御庭番衆たちの記憶を残しているのは蒼紫だけではないということを示す意味で印象的でした。

 さて、この後、観柳も倒され、警察の介入から恵を庇うために、自分の過去の権力(?)を利用する剣心という、冷静に考えればかなり珍しいシーンが描かれるのですが――過去の所業への悔恨は悔恨として、自分が死んで償うのではなく、今自分のできることで償って生きるよう恵に語るのは、今まさにそうしている剣心ならではの説得力があるのはいうまでもないでしょう。
 そしてそれは、死んでいった者たちに報いるために生きながら修羅道に堕ちた蒼紫とは、対照的な生き方であるといってもよいかと思います。(もっとも、ある意味その生き方を与えたのも剣心なのですが……)


 何はともあれ、色々な意味で物語の折り返し地点には相応しい締めとなった今回の結末。正直なところ作画的には微妙なところもあったような気がしますが、後半戦にも期待したいと思います。


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2023.09.28

『アンデッドガール・マーダーファルス』 第13話「犯人の名前」

 〈鳥籠使い〉・ロイズ・〈夜宴〉の三つ巴の戦いの末に、睨み合う人間たちと人狼たちの前に現れた鴉夜。一連の殺人事件の犯人の名を挙げた彼女の呼びかけに答え、ついに犯人が人々の前にその姿を現す。その正体と一連の犯行のトリックは、そしてその動機とは……

 ついに最終回、人間と人狼、二つの村を股にかけた殺人/殺人狼事件の謎解きも大詰めです。前回の最後の最後に全ての謎を解いたと告げた鴉夜ですが、彼女が皆を集めてさてという前に、いつものOP曲に乗って繰り広げられるのは、前回のEDで繰り広げられた三つ巴の戦いの続き――アリスvsクロウリー、カイルvsヴィクター、静句vsカミーラの三元バトルであります。そこに津軽も乱入してさらに賑やかに、そして(さすがにOP後にも食い込んだものの)相当にハイテンポで展開するバトルは、それだけでもなかなかの見応えですが、これが謎解きの前座なのですから、この回の密度を思うべしであります。
 特にこのバトルの中でも、色々な意味で描写が難しそうだった静句vsカミーラ戦は、色彩的にも画的にもちょっと想像していなかったような演出で驚かされました。
(ただ、それぞれの戦後の描写が大胆にカットされたのは残念。津軽とクロウリーの会話は見たかった……)

 そして前々回に静句が、そして十三年前にローザが登らされた羊の櫓の前で睨み合う、二つの村の人々の前に現れた鴉夜が語る内容こそが、今回の事件の「犯人の名前」。密室からルイーゼを攫ったのは何者なのか。一年前から二つの村を震撼させた連続殺人/殺人狼事件の真実とは。そしてルイーゼとノラを殺したのは……
 正直なところ、ルイーゼの事件については犯人の予想がついていた方は少なくなかったかと思いますが、事件の全体像としてみると、まさに「本格」と言いたくなるようなその豪快なトリックには改めて驚かされます。内容的には、文章であればともかく、映像にするのは結構難しいものがあったわけですが、それをうまく成立させてみせたのには感心するほかありません。

 しかし感心したといえば、この複雑な事件の鴉夜による説明が、ほぼAパートで終わったことで――どうやら最終回の脚本には原作者も協力したようですが、これまで同様にかなり細かい部分は省略しているとはいえ、やはり巧みなアレンジであります。

 それでは後半は、といえば、逃走した犯人と津軽との対決、そして犯人が語る真の動機の提示という、さらなるクライマックスが用意されているのがまた心憎い。津軽のラストバトルは、冷静に考えるとこれもどうやって映像化するのか、という内容だったのですが、それを本作らしいビジュアルで見せてくれたのもお見事。もっとも、ちょっとテンポが早すぎて、あっさり決まってしまった感があったのは残念ですが……(あのオチの落差は、敵の強力さがあってこそ引き立つと思うので)
 しかし、戦いの最中に津軽が相手にかける言葉は、彼らしい諧謔に満ちたものでありつつも、ドキッとするような鋭さに満ちたもので、ある意味この物語を象徴するものであったと感じます。

 一方、犯人の真の動機ですが――犯行のトリックをほぼ完璧に見破った鴉夜が、唯一見破れなかったその動機は、明かされてみれば、どこまでも切実なものでありました。正直なところ、アニメの描写のみで真相にたどり着くのはかなり厳しいように思いますが――それでもなお、この環境、この犯人だからこそのものでありながら、しかし同時にある種の普遍性を持つからこそ、この動機からは、胸に突き刺さるような衝撃を受けます。そしてだからこそ、鴉夜のラストの選択も十分に納得できるのです。

 誰もが何かを失ったともいえるこの事件――しかしそれでもどこか爽快感が残るのは、ここで描かれたのが、束縛からの解放の物語であったからなのでしょう。

 そして元々何にも束縛されていないように見える津軽の言葉(?)で終わるこのアニメ版。原作の胸躍るエピローグが描かれなかったのは残念ですが、しかし怪物・怪人たちとの再会を予感されるラストは、これはこれで不思議な広がりを感じさせてくれます。


 仮にアニメの第二期があったとしても相当先のことになるかとは思いますが――しかしその日を期待して待ち続けたくなる快作でした。


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青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス 3』恐るべきは人か人狼か 連続殺人/殺人狼事件!? 

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2023.09.23

『るろうに剣心』 第十二話「御頭・四乃森蒼紫」

 御庭番衆たちを倒し、ついに四乃森蒼紫と対峙した剣心。小太刀と拳法を自在に操る蒼紫に苦戦する剣心は、蒼紫が幕末に機会を与えられなかった無念を晴らすため戦っていると知る。激闘の末、蒼紫の繰り出した奥義・回天剣舞に一度は倒れつつも、ついに蒼紫を倒した剣心だが、そこに観柳が現れ……

 現在のエピソードもおそらくはあと二話ということで、ラスト一話前に相応しい激闘――事実上の大将戦である剣心vs蒼紫が繰り広げられる今回。これまで自分で動くことはなかった蒼紫ですが、御庭番衆の頭領に相応しい実力を発揮、その前に剣心は般若との戦いでダメージを負っていたとはいえ、ほとんど対等の条件で戦って剣心と互角以上の戦いを見せたのは、やはりこれまでで最強の敵と呼んでよいでしょう。
 そんなわけで激闘を繰り広げた剣心と蒼紫ですが、原作では今見てみると以外と地味な戦いが、今回のアニメでは、これまで同様、きっちり動きを見せる殺陣になっているのは見所の一つといえます。

 しかし個人的には、その戦いの最中で語られる、蒼紫の「動く理由」が、より印象的に感じられます。江戸城を守る御庭番衆として最強を自負しながら、慶喜の敵前逃亡から恭順、そして江戸城無血開城によって戦う機会を奪われた蒼紫たち。自分たちが戦っていれば幕府が勝っていたはずという無念の想い、やり場のない闘争心を持て余していた彼らの気持ちはわからないでもないものの、しかしその戦いを起こしていれば生じていたであろう周囲の犠牲を考慮しないその態度は、やはり一種の妄執と感じます。
 どちらかというとその後の、就職先のない他の御庭番衆を抱えて――という方が印象に残る蒼紫ですが、やはりここで剣心を激昂させたその妄執こそが蒼紫の道を誤らせた大きな理由であり、そして前回左之助が式尉に語った剣心と蒼紫の違いが、図らずも正鵠を得たものであったことを示すものでしょう。

 そんな蒼紫を止めるには、剣で以て敗北を与えるしかないわけですが、しかし蒼紫の流水の動きに翻弄され、そして回転剣舞を喰らって一度はダウンした剣心。しかしそこから蒼紫の攻撃に合わせて拳に拳を叩きつけること二回、そして自分の刀を捨て、えっ、この構えは波動拳!? と一瞬素で思ってしまうような両手の構えから、蒼紫の小太刀をガッチリと両手で受け止めたではありませんか。真剣白刃取りかと思いきや、そこからさらに両手の指を咬むように組み合わせて、相手の武器の動きを封じる。これぞ飛天御剣流「龍咬閃」! ――知らない技です。
 実はこれは原作者考案の新技ということで、知らないのも当たり前ですが、原作ではここは普通の(?)真剣白刃取り。「剣術五百余流派通じて唯一の徒手空拳技」と称していましたが、まあまず唯一ではないので、ここで修正ともども新技に変更するのは良いかと思います。
(後に白刃取りのエキスパートになる人間が後ろで見ているので、普通の白刃取りをしても――という気もいたします)

 と、実はこの蒼紫戦決着まででAパート。もう今回一回分使うかと思いましたが、以外に早い決着であります(密度が濃かったので不満はありませんが)。だとすればBパートは――そう、観柳の出番であります。もちろん彼一人ではなく、あの相棒とともに。
 以前、Cパートでわざわざ登場を予告されていた観柳最愛の相棒――ガトリングガン。その後のあれこれによって、もはや観柳といえばガトリングというレベルにまでなってしまったガトリングガンが文字通り火を噴きます。観柳の「ガトガト」連呼付きで!

 絶対やると思いましたが、原作には当時なかった――後の宝塚版で登場、そして北海道編を経ての――ガトガト逆輸入によって一気に御庭番衆の存在感をかき消してしまった観柳。それどころか蒼紫たちの命まで風前の灯火に、というところで次回に続きます。


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