2022.06.25

正子公也&森下翠『絵巻水滸伝 第二部』田虎王慶篇3 強襲幻魔君! そして出会う運命の二人

 「晋」を僭称する田虎との戦いもいよいよ佳境。田虎王慶篇第三巻の表紙は、昔からの『絵巻水滸伝』ファンには感慨深い、あの二人――いよいよ運命の二人が出会うことになります。

 情報撹乱のために大将の所在地を隠す田虎軍に対し、許貫忠が残した絵図面によって田虎がいるのは威勝であると知った梁山泊軍。そこで相手の裏をかくべく、陽動として盧俊義が大軍で汾陽を目指す一方で、宋江は少数精鋭で威勝に奇襲をかけることになります。
 途中、要害・壺関を守る山士奇に苦戦しつつも、関勝が旧友の唐斌を説得したことで形勢逆転。本書の前半では威勝の手前の拠点である昭徳城を攻める宋江軍ですが、その前に恐るべき敵が姿を見せることになります。

 その名は幻魔君喬道清――晋の軍師にして護国霊感真人の称号を持つ道士、言い換えれば妖術使いであります。
 その力は、幻魔君の二つ名に表れている通り――生きているような黒い霧の中に李逵たちを包み込んで捕らえ、水と氷を自在に操る力は、混沌の法の封印を解いた樊瑞をも退ける。さらには巨大な金人や五色の竜をも呼び出す――と、幻を自在に操る魔人なのです。

 力自慢の梁山泊の豪傑たちが唯一苦手にしているのが、妖術幻術の類であることは、これまでの戦いで描かれてきたところではありますが、それにしても喬道清は桁が違う。ただ一人で戦況を根こそぎひっくり返す――妖術師の恐ろしさがここで存分に描かれることになります。(そしてその術の由来にも仰天!)

 しかし妖術師が相手であれば、梁山泊にはそれを上回る最強の術者がいます。その力を以てすれば、喬道清を討つことも不可能ではないかと思われたのですが――しかし彼を討ってこの戦いは終わるのか。もはや魔道を行く彼を救うことはできないのか……
 ある意味、敵を倒すよりも難しいことを成し遂げたものがなんであったか。盧俊義との激闘の末に敗れた彼の親友・唐斌ともども二人の豪傑の心が辿り着いた場所は、この血で血を洗う死闘の果ての、一つの希望と感じられます。


 さて、一つの死闘が終わった先に描かれるのは、あの復讐の美少女・瓊英の本格始動であります。

 幼い頃に田虎に父を殺され、母を奪われた瓊英。以来、忠僕の葉清に支えられつつ、復讐の牙を研いできた彼女は、田虎の国舅である鄔梨に接近してその養女に収まるのですが、これはまだ序の口であります。
 鄔梨に毒を盛って力を奪い、彼に代わって戦場に立つ瓊英。そこで功名を上げて田虎に近付き、復讐を果たす――冷静に考えれば水滸伝でも屈指のハードな復讐の人生を送る彼女ですが、しかし彼女が功名を上げるということは、梁山泊を倒すということであります。

 現に緒戦では、女には色々な意味で滅法弱い王英と、水滸伝の元祖娘武芸者というべき扈三娘が、あわやというところまで追い詰められたのですが――しかし本来であれば瓊英と梁山泊は田虎を敵にするという点では同志であるはず。
 そしてこの両者を、奇縁が結びつけることになります。

 偽名で鄔梨のもとに潜入した安道全と、その弟子を装うことになった張清。この張清と瓊英の出会いこそは、まさに運命の出会いというべきものでしょう。
 強引に鄔梨の妻が瓊英の婿選びをしていたところに居合わせ、彼女と武術の手合わせをすることとなった張清。瓊英が放った礫を受け止めた張清は、その礫で以て彼女の第二弾を弾き――ここに礫で結ばれた二人が出会うこととなったのであります。
(その直後、張清の「求婚」の際に、張清といえば何かと組まされるアイツが間接的に役立つのに思わずニッコリ)

 もちろんこの時点での二人はいわゆる契約結婚(?)、真実の夫婦ではないのですが――しかし頑なな瓊英の心を、物柔らかな張清の心が受け止め、礫投げの練習を通じて少しずつ二人が心を通わせていく様は、それまでの瓊英の生き様が苛烈だっただけに、ひどく暖かいものとして心に残ります。
 そしてここで明かされる張清の過去が、瓊英に対する一つの決意に繋がっていくのも巧みで――いつか二人が真に結ばれる日が来るのを、心から祈りたくなるのです。


 いよいよ田虎の本拠・威勝も目前。その前に現れた三眼の怪人・馬霊の、これまでとは全く異なる妖術に苦戦しつつもこれを退けた梁山泊に敵はないように思われますが、さて……
 いよいよ次巻、田虎戦の完結であります。


『絵巻水滸伝 第二部』田虎王慶篇3(正子公也&森下翠 アトリエ正子房) Amazon

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 「絵巻水滸伝」第五巻 三覇大いに江州を騒がす
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 「絵巻水滸伝」第七巻 軍神独り行く
 「絵巻水滸伝」第八巻 巨星遂に墜つ
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2022.06.24

安田剛士『青のミブロ』第3巻 対決、五人の暗殺者 正義vs正義!?

 新選組に加わった京の三人の少年の目を通じて描かれる異色の新選組伝の第三巻であります。会津藩の者ばかりを狙う辻斬り五人を追うことになった壬生浪士組(ミブロ)。その一員として下手人を追うにおとはじめですが、逆に待ち伏せを受けて窮地に陥ります。はたして反撃の機会は……

 同じ地元からミブロに加わった少年である太郎、そしてはじめと、紆余曲折はありながらも距離を縮めてきたにお。そんな中、芹沢・近藤以下ミブロの面々は、京都守護職たる会津藩藩主・松平容保と対面の機会を得るのですが――そこで会津藩から、会津藩士ばかりを狙い、その目を抉っていくという暗殺者退治を依頼されることになります。

 ミブロの面々が五人組だという彼らを捕らえるべく腕を撫す一方で、におとはじめはこの暗殺者に対して情報を持っているらしい大店の跡取りの少年・世都と対面。しかしその帰りに、暗殺者に待ち伏せを受けて……

 しかし、におたちが子供と見て説得にかかる暗殺者。隣の清国のように、いまこの国が外国に狙われていること、そしてミブロの面々がそれをにおたちに教えず、無知につけこんでいると語る暗殺者、いや倒幕の志士ですが――しかしそれでにおが退くはずもありません。
 他の四人の情報を聞き出すため、無謀にも殺さず捕らえると言い出すにおですが、何とそこに暗殺者がもう一人出現。はじめがそちらと対峙している間に、におは最初の一人と対峙するものの、到底敵うべくもなく……

 というわけで、単なる破落戸や悪党ではなく、ある意味自分の思想、自分の正義を持つ相手と、初めて対峙することとなったにお。しかし思想――とまではいえないまでも、自分自身の正義という点でははっきりと自己を確立しているのがにおというキャラクターの特徴であり強みであります。

 たとえ一見正論を言っているようでいても、自分よりも遥かに上の腕前であっても、自分自身の正義と照らして、偽りや矛盾があれば絶対に屈しない――そんなにおの姿勢は、ここでも崩れることはありません。
 ありませんが、それでも敵わない相手は敵わないわけで――この辺り、一歩間違えればにおが口先だけの理想論キャラになってしまうのが悩ましいところですが、しかしそこをフォローするのは兄貴分たちの役目というところでしょうか。

 その兄貴分である沖田と土方の姿勢――におのことを否定するのでも矯めようとするのでもなく、彼の方向性を受け止め、伸ばそうという姿は、理想の先輩像であることは間違いありません。
 そしてそれを受けて改めて自分の原点を確かめ、まだまだ未熟で八方破れながらも、なおも前に進もうとするにおの姿も、青春ものの主人公としてみれば納得いくものがあります。

 さらに、そんなにおのことを口では散々言いながらも、その最大の長所がどこにあるかを直感的に認め、一度は及ばなかった相手を前に自分自身の真の力を見せるはじめの姿も、実にイイ。
 そして近藤も芹沢も、それぞれ「らしさ」を見せて暗殺者を対峙し、そしてラストはオールスターキャストを揃えつつも、近藤の信頼の下、におが一皮むけた強さを見せる――と、実にいい形で五人の暗殺者編は決着することになります。


 正直なところ、先に述べたようなにおの良くも悪くも青臭いキャラクターは、読者によって好き嫌いがハッキリ出るものだと感じます。
 また、時にミブロの面々のキャラクターが賑やかすぎて、物語の枠をはみ出して暴走しそうな危なっかしさもあるのですが――それでも長所短所併せ持った本作の空気は実に楽しく、その空気にもっと触れてみたいと思わされるのは、間違いがないところではあります。

 青春ものとしての新選組をどこまで貫くことができるか――この先の展開を待ちたいと思います。


『青のミブロ』第3巻(安田剛士 講談社週刊少年マガジンコミックス) Amazon

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2022.06.13

正子公也&森下翠『絵巻水滸伝 第二部』田虎王慶篇2 快進撃梁山泊! 高く掲げる旗の文字は

 官軍としてではなく「梁山泊」として許せぬ奴らと戦う梁山泊の戦いを描く『絵巻水滸伝』田虎王慶篇は、この第二巻でいきなりクライマックス――東京攻略の尖兵たる鈕文忠の守る蓋州攻略が繰り広げられます。さらに登場する田虎軍の豪傑たちとの戦い。そしてあの美少女も本格的に動き出すことに……

 河北で「晋」を僭称し、東京侵攻を開始した田虎。その討伐を命じられた梁山泊は、行く先々で田虎軍の非道を目撃、怒りを燃やすことになります。そして陵川、高平を瞬く間に陥落させた梁山泊は、田虎に与する官吏や富豪たちから不義の財産を奪い、苦しむ人々に分け与えるのでした。
 そんな梁山泊の次なる目標は、田虎の枢密使たる鈕文忠が守る蓋州。幾多の将兵を擁し、蓋州に篭もる鈕文忠を討つことは、田虎討伐の最初の山場ですが……


 というわけで、破竹の勢いで進撃し、悪人たちを相手に痛快な大暴れを繰り広げた梁山泊ですが、この第二巻の前半で激突する鈕文忠は、これまでの田虎軍とは一味違う強敵。
 何しろ「枢密使」(宋でいえば童貫!)に任じられ、東京攻めを担当していたのですから、田虎軍の先鋒ともいえるでしょう。

 しかしこの鈕文忠、元は官軍ながら反逆して田虎に寝返り、賊徒として人々を苦しめてきたという外道。官軍にして賊徒というのは、これは二重に梁山泊の敵というべきで、決して負けるわけにはいかない相手というべきでしょう。
 この相手に対して、梁山泊は蓋州城を包囲して連日連夜攻め立てるという疑兵之計で対抗。しかしそこに田虎軍の援軍が到着し――と、最後は力押しになった気もしますが、しかし総力を挙げての激突は、これはこれで痛快であります。

 しかし梁山泊の「戦い」はそれで終わりではありません。略奪され尽くした蓋州をただ元の住民たちに返すだけではなく、荒れ果てた土地を甦らせる――その手助けをする顔ぶれも、なるほどと感心させられます。
 そしてその末に宋江の命で高く掲げられる旗の文字は――替天行道! まさに弱きを助け強きを挫く梁山泊に相応しい旗印であります。「〝梁山泊〟はこうじゃねえとな!!」と、前巻での燕順の名台詞を繰り返したくなる、この巻きっての名場面というべきでしょう。


 しかし、梁山泊と並び称される田虎軍は、単なる賊徒の集まりではありません。豪傑・好漢――そう呼ぶに相応しい男たちもまた、田虎の下に投じているのです。

 この巻の後半で描かれるのは、燕青が許貫忠から手に入れた河北の絵図を元に、田虎が潜む威勝に奇襲をかける少数精鋭の宋江軍と、陽動として大軍で汾陽を目指す盧俊義軍の戦い。
 晋寧で盧俊義が対峙する竜公こと孫安もまさに好漢というべき男ですが、この巻でクローズアップされるのは、宋江軍を阻む壺背関を守る山士奇、そして抱犢山に依る唐斌という二人の豪傑。
 一百華旗の山士奇は、元富豪ながら役人を殺して逃亡者となった伊達男(「富豪では、腕前はどうだろうかな」「そうだな。うちの副首領も、元は富豪だ」という会話に吹き出す)、そして黒龍の唐斌は、あの関勝と幼い頃から切磋琢磨してきたという硬骨漢であります。

 いずれ劣らぬ二人の勇将が、天険に篭もるのですから易易と落とせるはずもありません。それどころか思わぬ挟撃を受けて絶体絶命の窮地に陥った宋江たちの運命は――いやはやこうくるかという展開に驚かされました。
 この辺り、原典を読んでいれば結末はわかっているのですが、いつもながら、本作のアレンジの抜群のうまさに感心させられるところです。


 さて、その一方で晋のいわば中枢を舞台に描かれるのは、敵の懐に飛び込んで復讐の刃を研ぐ瓊英の姿。そして彼女のその名は知らずとも――いや、彼女の実在を知らずとも、夢に見た彼女に恋する張清。
 そして史進と魯智深がかつて出会った瓊英の存在を思い出し――幼い瓊英の登場に連載時にはファンの間でも話題になりましたが、実に十数年越しの伏線がここで実ったことになります。

 梁山泊の前に立つ次なる強敵は、そして瓊英の復讐の行方、張清の想いの行方は――田虎篇もいよいよ佳境に突入であります。


『絵巻水滸伝 第二部』田虎王慶篇2(正子公也&森下翠 アトリエ正子房) Amazon

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2022.06.06

霜月りつ『あやかし斬り 千年狐は綾を解く』 蘭方医と妖狐が挑むバラエティ豊かな化け物退治

 このブログ的には『神様の用心棒』の霜月りつによる、妖怪時代小説の快作であります。ある日、謎の美貌の薬売りから効果抜群の薬を与えられた蘭方医の多聞。その後再会する二人ですが、その場面はなんと――奇妙なコンビによる化け物退治が始まります。(内容の詳細に触れますのでご了承下さい)

 父の診療所を継いで日々奮闘する若き蘭方医・武居多聞。ある日、大怪我をした男の手当に難儀していた多聞は、突然現れた美貌の薬売りから与えられた、驚くほどよく効く薬に助けられることになります。
 その数日後、往診帰りに獣のような唸り声を聞いた多聞ですが、そこで彼が目にしたものは、見たこともない恐ろしい化け物と対峙するあの薬売り。しかも薬売りは化け物を手もなく捻ると、その口から出てきた光を飲み込んでしまったではありませんか!

 そんな信じられない光景を見た一月後、大川の土手で背中を真っ直ぐに切り裂かれた狐を見つけ、家に連れ帰って手当をすることとした多聞。狐に青と名付けて共に暮らす多聞ですが、その狐はなんと……


 と、ここまでくれば予想がつく方もいらっしゃるかと思いますが、この青こそは実は薬売りの正体。故あって人の姿で化け物を退治をし、そこから薬を作っているという妖狐だった青の話を聞き、多聞は協力を約束するのでした。
 本作ではこの多聞と青、そして多聞の幼馴染で定町廻り同心の硬骨漢・板橋厚仁が、江戸を騒がす事件の数々に挑む全三話が収録されています。

 さて第一話「蟷螂の疵」で描かれるのは、上で述べた青が深手を追わされた事件――大川沿いで次々と発生する通り魔事件の謎。
 厚仁からの依頼で被害者たちの手当を行った多聞は、一見無差別に見える被害者たちに、実は共通点があることに気付くのですが――しかし彼自身も襲撃を受け、対峙したその相手は!? と、その姿にまず驚かされることになります。

 こういう展開では、スレた妖怪ものファン(?)としては、鎌鼬かな、それとも髪切かな――などと考えてしまうのですが、しかしここで描かれるのは、そんな予想など及びもつかないような存在。はたしてこの化け物は何者なのか、そして何故人を襲うのか――人知を超えた力を持つ青でも簡単には倒せないこの化け物に対して、多聞たちはその出現に至る理由、「綾」を探ることになります。

 このように本作に登場するのは、通り一遍の妖怪ではなく、一捻りも二捻りも加えられた独特の存在。そして力押しで倒すのではなく、その正体を解き明かすという謎解きの要素が強いのも、また本作の魅力なのです。


 そんな本作の魅力が最もよく現れているのは、第二話「振り袖夢幻」でしょう。このエピソードでは、あるきっかけで猿若町の宮地芝居の二枚看板・菊山と鹿の輔と知り合った多聞が、二人の愛憎入り混じった関係を知り、さらに町を騒がす足切りの通り魔事件に巻き込まれることになります。

 一見無関係なこの二つの要素を結びつけるのは、役者たちの間で囁かれる「振り袖お化け」の存在。足を失って無念のうちに死んだ役者が化けて出たというこの化け物と取引をすれば、芸が上達するというのですが――しかし青も知らないこの化け物は何者なのか。
 多聞の医者という設定も最大限に活かして展開する物語は二転三転、前話以上に捻りの効いた展開に驚きつつ、ラストではきっちり泣かされるという、実に見事なエピソードなのです。

 そして最後の第三話「狐火の夜」では、人を食い殺しては一滴残らず血を啜る狐の化け物が江戸に出没、この化け物と対峙した多聞は、相手の、そして青の意外な正体を知ってしまい――と、物語は伝奇的に一気にスケールアップすることになります。
 人々が恐慌を来す中、多聞と青を助けるのはなんと――というケレン味溢れる展開も楽しく、ラストに相応しいエピソードであります。(そして冒頭のある描写が活きる展開にもまた涙)


 人間と妖怪がバディとなって妖怪を退治するというのは、妖怪ものでは鉄板の展開ではあります。しかし本作は、主人公たちのキャラクターの楽しさや物語展開の巧みさといった点はもちろんのこと、化け物の――つまりはストーリーの――バラエティの豊かさという点で他にはない魅力を持つと感じます。
(冷静に考えると「綾」が登場するのがほとんど第一話のみなのですが、それもある意味バラエティの現れというべきでしょうか)

 本作だけで終わらず、この先も豊かで意外性に富んだ多聞と青の冒険を読んでみたい――そう強く感じさせられる佳品です。


『あやかし斬り 千年狐は綾を解く』(霜月りつ 小学館文庫キャラブン!) Amazon

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2022.06.03

正子公也&森下翠『絵巻水滸伝 第二部』田虎王慶篇1 対田虎開戦 燃えよ梁山泊魂!

 『絵巻水滸伝』第二部もいよいよ佳境、田虎王慶篇の開幕であります。遼国との激突に勝利したのも束の間、朝廷の思惑で和議が成立し、向かう先を見失った梁山泊に下されたのは河北の田虎討伐の命。「同類」とも言える田虎との対決に臨む梁山泊が見たものははたして――梁山泊魂が燃え上がります。

 招安後の初の戦いとして、南下を開始した遼を迎え撃った梁山泊。激闘の果て、遼の守護神・兀顔光を破り勝利を飾った梁山泊ですが、その直後に宋の朝廷は遼との和議を決定――彼らの戦いは思わぬ形で終結し、燕京を基点に独立を狙う呉用の計画も水泡に帰するのでした。

 さらに追い打ちをかけるように、梁山泊の好漢たちをバラバラに各地に追いやり、個別に始末するという、どこかで見たような謀を巡らせる高キュウ。しかしそこに田虎軍の東京侵攻が始まったのは、天の助けというべきでしょうか。
 はたして今度は田虎討伐を命じられることとなった梁山泊ですが――遼国戦の恩賞もほとんど出ないままというのはともかく、対外戦争であった遼国戦とは違い、彼らにとっては「同類」である田虎との戦いは、何とも意気の上がらないものといえるでしょう。

 しかし田虎の勢力圏に近づいた梁山泊の面々が見たものは、救いを求める民衆の姿。恣に略奪や暴行を繰り広げる田虎軍に財や親しい人々を奪われ、それを討伐する官軍は役に立たないどころか、賊のものと称して人々の首を狩り集める――そんな地獄に苦しみ、息を潜めて隠れてきた人々が、梁山泊に救いを求めてきたのであります。
 そんな人々を前にして、好漢たちが黙っていられるはずがありません。血の気の多い面々だけでなく、普段は冷静な李応までが強い怒りを見せる(それがいわゆるノーブレス・オブリージュの点からなのもらしくてイイ)など、俄然闘志を燃やした梁山泊は、田虎軍撃滅のために動き出すことになります。

 官軍から支給された地図がいい加減で全く役に立たないという椿事があったものの(それに気付くのが地元出身の施恩や張青という捻りも嬉しい)、陵川、さらに高平を一日のうちに陥としてみせた梁山泊軍。しかしそこで思わぬ事態が発生することになります。
 先に述べたとおり、田虎の暴戻と官軍の無策に苦しめられてきた二つの街の人々。日々の食事にも事欠く有様の民衆に、まさしく旱天の慈雨の如く食料を支給する梁山泊ですが――しかしそのあまりの多さに、やがては兵糧にも影響が出かねない状況となってしまったのです。

 それではどうするか? その難問の答えは、まさしく梁山泊ならではのものであります。
 ――そう、田虎に与して庶民を苦しめる貪官汚吏からいただく!

 いやはや、破天荒のようでありながら、実に梁山泊らしいこのやり方、作中で燕順が言うとおり、「〝梁山泊〟はこうじゃねえとな!!」と快哉を挙げたくなる痛快な展開であります。
 そしてここで「おとなしい仕事」に、水を得た魚のように精を出す顔ぶれが、本職のメンバー――大規模な戦ではちょっと出番が少なめになってしまう元山賊組なのも、何とも楽しくなってしまうのです。


 田虎軍との戦いの始まりとともに、梁山泊と他の賊徒との違いをこれ以上無いほど明確に描いてみせたこの第一巻。しかし戦いはまだまだ緒戦、この後には、東京攻略の先鋒である田虎軍の「枢密使」鈕文忠と四威将が守る蓋州攻略戦が待っています。
 そしてこれまでも燕青を助けてきた謎の男・許貫忠が燕青に託したものは何か、そして田虎篇といえばこの人というべき、あの美少女も暗躍を始め、物語はこれからが本番というべきでしょうか。


 ちなみに本作では家族を人質にとられ、心ならずも田虎に協力していた陵川の耿恭。蓋州に捕らわれた家族の安否を気遣う彼を見て、黄信が昔の自分を思い出すと語るのは、いい話のようでいて非常に不吉なフラグでは……


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2022.05.29

たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記 博多編』第6巻 「神風」吹かず そして総司令官時宗の真実

 「神風」は吹かず、真正面から蒙古軍の大群と対決することとなった日本武士団。前巻での迅三郎の奇計により、筥崎勢も合流したものの、不利は変わりません。それでも戦い続ける迅三郎を突き動かすものとは何なのか。そして鎌倉に座す時宗の胸中にあるものとは……

 対馬から博多に上陸し、さっそく蒙古軍に痛撃を与えることに成功した朽井迅三郎。しかしなおも「政治」に拘り、筥崎から動こうとしない大内勢に業を煮やした迅三郎は、なんと筥崎宮を焼くという暴挙に出るのですが――その祟りというべきか、ついに吹いた暴風雨。しかしそれが蒙古船団に影響を与えることなく、無数の船団が博多に迫り……

 と、「神風」を真っ向から否定した末に始まるさらなる戦い。しかしこの巻の冒頭では一端時と場所を変え、鎌倉幕府執権たる北条時宗の姿が描かれることになります。
 かつて迅三郎の運命を変えた二月騒動(無印第四巻)において、北条の分家たる名越時章を討たせた時宗。その際、彼は気弱な若者のふりをして大蔵頼季を使嗾し、その上で全ての責任を頼季にかぶせるという狡猾な姿を見せました。

 その時の印象が強いため、本作では――「政治」に走る武士の象徴として――良い印象がない時宗ですが、今回描かれるのは、元寇十二年前から今に至るまでの彼の姿とその胸中であります。
 幼い頃から北条家の得宗となることを運命づけられ、親族すら油断できない曲者揃いの鎌倉武士の中で生き抜いてきた時宗。己に背負わされたものを理解し、そしてそのために懸命に努力してきた時宗ですが、しかし異国からこの国全てを守るという責任を負わされるとは、さすがに想定の範囲外だったでしょう。

 いや、彼が執権になる前にすでに元からの国書が届いていたことを思えば、彼はそもそも対蒙古戦の総司令官となるために執権になったということ。その重圧たるや想像を絶するものですし、そんな彼に対してそれまで様々な形で指導を行ってきた北条政村の最期の教えなど、実に沁みるものがあります。

 そんなわけでこの巻の1/3かけて描かれるのは、単純な冷酷非常な権力亡者でも策謀家でもなく、彼なりの形で蒙古と戦っていた時宗の姿なのですが――さて、仮にそれを知ることがあったとして、その大義のための犠牲となってきた者たちの一人である迅三郎は何を思うでしょうか。
 いずれあるだろうと個人的に期待している二人の対峙の時を待ちたいと思います。


 さて、この後、時間軸は再び「いま」に移り、嵐にも負けず――いや、これをむしろ「神風(テングリの風)」として総攻撃を開始した蒙古軍二万を迎え撃つ、日本武士団四千の息浜での戦いが描かれることになります。

 しかし少弐景資が期待した援軍は、「神風」によって増水した筑後川を渡ることができず、戦に間に合わない状態。(ここで「間に合わなければ援軍ではない!!」と激昂する景資に対する迅三郎のツッコミがごもっとも過ぎる)
 それでももちろん戦うしかない日本軍の前に現れたのは、蒙古の騎馬兵――軽装による敏速な動きによって重装の武士を翻弄する蒙古兵ですが、ここで一発決めるのが迅三郎。さらに馬の剽悍さでは日本側も負けておらず、戦況は互角と思われたのですが……

 そこに出陣してきたのは、対馬で散々迅三郎と激突してきた副元帥・劉復享。しかも彼が擁する騎馬は、全身を鉄の鎧で覆ったかつての金の騎兵隊・鉄浮屠――鎖で繋いでこそいないものの、これはどう考えても連環馬! と水滸伝ファン的には勝手にテンションも上がります。
 そしてここで迅三郎と劉復享の因縁の対決が――と、この戦いの結末については伏せますが、いやはや、運命というものは皮肉であります。
(そして迅三郎の対鉄浮屠戦法にも、この手があったかと感心)


 しかし息浜での激戦が続く最中、博多の西の河岸にこれまた因縁の高麗の将・金侁が上陸。浮足立つ日本軍ですが、その一帯に対馬出身者たちの集落があることを知った迅三郎は――まだまだ先が見えない戦いは続きます。


『アンゴルモア 元寇合戦記 博多編』第6巻(たかぎ七彦 カドカワコミックス・エース) Amazon

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2022.05.26

田中啓文『元禄八犬伝 五 討ち入り奇想天外』 大決戦、左母二郎vs忠臣蔵!

 さもしい浪人、網乾左母二郎と小悪党たちが、八犬士とともに巨悪を粉砕する痛快時代伝奇活劇もいよいよ最終巻であります。徳川光圀が怨霊に加えて茶々が怨霊まで復活し、風雲急を告げる大坂の運命。一方、吉良家討ち入りを企てる赤穂浪士たちの中にも不審な動きが――八犬伝+忠臣蔵の行方や如何に!?

 伏姫を探す丶大法師の依頼で大坂城内に忍び込んだものの、そこでうっかり茶々の怨霊の封印を解いてしまったかもめの並四郎。秀頼を探す茶々の魔力で、大坂の若者たちが次々と倒れていく一方で、幕府転覆を目論む光圀に操られた水戸徳川家は帝に倒幕の密勅を出すことを要求、西国大名にまで働きかけた一大倒幕計画を企むのでした。

 そしてその計画をより確実なものとするため、綱吉がかねてより探してきた隠し子である伏姫を捕らえようとする水戸側と、それを利用して彼らを罠にかけようとする幕府側。
 さらにそこに思わぬ形で、赤穂浪士の一人である矢頭右衛門七が、そして左母二郎や並四郎も巻き込まれることになって……

 そんな本作の第一話「調伏大怨霊」で繰り広げられるのは、幕府・光圀が怨霊と水戸家・茶々が怨霊・赤穂浪士・吉良家・丶大法師と八犬士たちという、実にまあ様々な勢力が入り乱れての大決戦であります。

 しかしそんな争いなど、本来であれば左母二郎たちには無関係のはず。しかしこれまで伏姫探しに巻き込まれた中で、何度も光圀の陰謀を叩き潰してきたこともあってか、左母二郎はまたもや一肌脱ぐ羽目になります。
 はたして大坂と小悪党の運命や如何に――いやはや、第一話の時点で大変な盛り上がりですが、しかし本作はそれだけでは終わりません。続く第二話「仇討ち奇想天外」では、そのサブタイトルの通り、さらに奇想天外なクライマックスが待っているのですから。


 赤穂浪士の討ち入りに向けて人々の期待が高まる中、なおも慎重を期す大石内蔵助と、その態度が歯がゆいと一刻も早い討ち入りを求める堀部安兵衛ら急進派。
 右衛門七はその両者の間に挟まれる形になってしまうのですが、左母二郎にとっては、主君の仇討ちのために若い右衛門七が命を捨てるなどというのはバカバカしいこととしか思えません。

 しかも世間で持て囃される堀部安兵衛は、剣の腕こそ左母二郎と互角以上ながら、酒乱で傲岸不遜、忠義のためというより単に仇討ちがしたいだけ――というとんでもない奴。そんなこともあって、左母二郎のイライラは募るばかりであります。
 一方、いつ討ち入りがあるかもわからないなかで、ある事実を知ったことから、上野介の求めに答え、吉良邸に御成する綱吉。赤穂浪士方と吉良方、双方に不審な動きが見える中、運命の十二月十四日、全ての登場人物たちが吉良邸に集うことに……

 そんなわけで、クライマックスの後にまたもやクライマックスという贅沢すぎる構成の本作ですが、その盛り上がりが最高潮に達するのが、浪士討ち入りであることは言うまでもありません。
 しかしこれまでの舞台は大坂でしたが、討ち入りが行われるのはもちろん江戸。それより何より、忠義が大嫌いな左母二郎が、浪士討ち入りに関わるはずもありません。そして姫探索が任務の八犬士たちもであります。

 それが一体――と思いきや、こうくるか! という展開にはただただ仰天するしかありませんが、実はそこにあるのは、忠臣蔵という日本有数の物語を、別の視点から捉え直してみようとする試みであるとも感じられるのであります。

 ――物語として見れば波乱万丈、多士済済で実に面白い忠臣蔵ですが、しかしその基調を忠義に置く内容は、現代の我々からすれば、どこかお行儀が良く、居心地が悪くも感じられます。それを本シリーズは、そんな忠義とは正反対の立場にある小悪党の視点を以て描くことで一度相対化し、そして物語そのものの面白さを問い直しているのでは、と感じられます。

 そしてその視点は、同時にやはり日本有数の物語でありながら、その基調を仁義礼智信忠孝悌という徳目に置く――そして何よりも左母二郎のホームグラウンド(?)である――八犬伝にも向けられていることは言うまでもない、のですが……


 その二つの物語が出会い、交錯した果てに何が待つのか――その想像を絶する結末は、いやはやここまでやるか、いやここまでやってこそ! というべきか……
 忠臣蔵という物語と見事に対決してみせたさもしい浪人、網乾左母二郎。それでは彼と八犬伝という物語との対決の行方は――ぜひご自分で確認していただければと思います。


『元禄八犬伝 五 討ち入り奇想天外』(田中啓文 集英社文庫) Amazon

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2022.05.25

かどたひろし『御広敷用人 大奥記録』第1巻 水城聡四郎、「奧」で新たな任に挑む

 以前連載開始時にもご紹介した『御広敷用人大奥記録』の漫画版、その単行本第一巻が刊行されました。上田秀人の代表作である『勘定吟味役異聞』の続編である本作、作画を担当するのは、もちろんかどたひろしであります。大奥に舞台を移した聡四郎の新たな戦いとは……

 勘定吟味役としての激闘の末、結果として徳川吉宗に味方してその将軍継承を助け、そして吉宗を養父とした紅と結ばれた聡四郎。お役目を辞して平和な暮らしを送っていた彼が吉宗に召し出されたことから、新たな物語が始まります。
 吉宗が聡四郎に命じた新たな役目とは、御広敷用人――江戸城大奥の玄関口である御広敷を担当し、大奥と外部との取次ぎを職務とする用人。これまで担当してきた勘定吟味役が「表」とすれば、これはまさしく「奥」――全く異なる世界であります。

 そんなところにいきなり放り込まれることとなった上に、意図や真の任務も教えられず、それどころか「遣える者は酷使する!」「諦めて身分と禄に応じた仕事を致せ!」とブラック上司ぶりを全開する吉宗に、聡四郎はプレッシャーをかけられるのでした。
 実は将軍就任早々、幕政改革に大鉈を振るう吉宗のターゲットの一つが、幕府では聖域扱いとなっていた大奥。その尖兵として送り込まれるのだろうとは想像できるのですが――しかし彼以上に困ったのは、それまで大奥を担当していた者たちであります。

 その中でも実力行使に走ったのは、御広敷伊賀者組頭の藤川義右衛門。ただでさえ御庭番設立で肩身の狭くなった伊賀者の権限を奪われまいと、彼は聡四郎を時に闇討ちし、時に懐柔に走るのですが……


 そんな前途多難な聡四郎の新たな戦いが始まるこの第一巻ですが、内容的にはまだ導入部といった印象。聡四郎にとって、何よりも読者にとっても馴染みの薄い御広敷という場所、御広敷用人の任が紹介されるとともに、この物語の背景となる勢力分布を描くのが、この巻のメインと感じます。

 そんなこともあってか――そしてこれは月刊誌とはまた異なるWeb媒体連載のペースもあるのではないかと想像しますが――この巻では剣戟シーンは控えめ、聡四郎が藤川の闇討ちを受ける場面と、師・浅山一伝斎との道場稽古の場面くらいとなっています。
 その意味では静かな滑り出しといえるかもしれませんが、水城聡四郎ものの――いや上田作品のもう一つの主戦場というべき幕政の闇を描く部分は、これはもう脂が乗りきった筆運びという印象があります。

 吉宗が就任早々に大奥に対して見目麗しい女性をリストアップせよと命じ、側室候補と思って選んでみれば、逆にそれはリストラ対象だった――という有名な逸話は本作でも描かれますが、それはあくまでも表に出た話。
 そもそも吉宗と大奥は、将軍位継承を巡り、月光院は彼を擁立し、天英院は彼と対立したという過去が――この辺りは 現在「コミック乱ツインズ」誌連載中の『勘定吟味役異聞』でこれから描かれるはず――あります。

 そんな、ただでさえ火薬庫のような場所をこじ開けて、松明を放り込むような吉宗の行動ですが、その影響が出始めることとなります。アクションだけでなく、この辺りの動きもじっくりと描けるのは、これはかどたひろしならでは、と言ってよいでしょう。


 ちなみに『勘定吟味役異聞』に登場した面々は、まだ出番が少ないキャラが多いもののこちらにも変わらぬ――唯一、初々しくも美しい若奥様ぶりを見せる紅を除いて――顔を見せているのですが、注目すべきは新顔。
 この第一巻から早くも聡四郎との因縁が発生した藤川は、この先長い付き合いとなる男ですが――油断のならなさとどこか崩れた雰囲気、そして忍び衣装の個性など、なるほどこういう姿になるのか、と感心させられます。

 そしてもう一人、本作のヒロインというべき存在が、この巻のラストに登場することになります。その名は竹姫――五代将軍・綱吉の養女であり、これまで二人の婚約者と婚前に死に別れ、大奥で静かに暮らしていた女性であります。
 実は聡四郎が御広敷用人とされた本当の理由はこの竹姫を吉宗が得るため。今回は文字通り顔見せのみですが、あの吉宗が恋い焦がれるというのですから、どれだけ魅力的な女性なのか、推して知るべしでしょう。約二十歳年下というのはまあ目を瞑るとして……
(にしても、竹姫のことを語る直前、あらぬ相手に気があると聡四郎に誤解された時の吉宗の表情……)


 なにはともあれ、いよいよ始まった聡四郎の新たな戦い。現在クライマックスの『勘定吟味役異聞』ともども、先が楽しみな漫画版です。


『御広敷用人 大奥記録』第1巻(かどたひろし&上田秀人 光文社KJC) Amazon

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2022.05.23

椎名高志『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第2巻 共闘新旧世代 そして親世代の抱える想い

 アニメは数ヶ月前に大団円を迎えましたが、コミカライズの方はまだまだ絶好調――『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第二巻の登場です。ついに揃った三人の向かう先は退治屋の里、そして結界の山。そこで三人を待つ者は、懐かしい顔ぶれと、新たな敵――!?

 戦国時代からやってきた生き別れの妹・せつな、そして従姉妹のもろはとともに、自分の本当の故郷である戦国時代に向かった女子中学生・とわ。そこで自分が大妖怪・殺生丸の子だと知った彼女は、突如襲ってきた妖怪との戦いの中で、忘れていた記憶を取り戻すことになります。
 そして時代樹の精霊から、時の歪みを正すため、西の果てに向かえと告げられた三人は、旅立ちの一歩を踏み出すことに……

 というわけでいよいよ始まる三人の旅ですが、西の果てに向かう前に立ち寄ったのは、あの琥珀率いる退治屋の里。ここで里の娘たちからめちゃくちゃ尊がられるせつなととわがまたおかしいのですが、やはり印象に残るのは、殺生丸に対する琥珀の思い入れでしょう。
 アニメでは完全に一歩引いた形であまり目立ちませんでしたが、考えてみれば琥珀は、作中でりんの次に殺生丸とは深い縁のある人間。そんな彼が殺生丸の謎めいた行動に、そしてその二人の娘に感傷を抱かないはずはありません。前巻での草太ともある意味通じる彼の内面描写には、数ページの描写ではあるものの、大いに印象に残るものでした。

 そして、対象こそ違え、同様の想いを抱く者は彼だけではありません。退治屋の里で装備を整えた三人が、次に向かうよう指示された山で待つのは、弥勒と珊瑚――そして鋼牙!
 これまた犬夜叉とかごめと縁深い人物でありながら、アニメではほとんど全く出番がなかった(まあ『犬夜叉』でも途中フェードアウトでしたが……)鋼牙に、ここできっちりと出番があるというのも、実に嬉しいところであります。

 そしてもう一人、この場で三人を待っていたのは、鋼牙と同じ妖狼族の凱風――アニメではもろはの師であった女性であります。
 そんな重要な立ち位置でありつつも、アニメではわずか一話で、しかもあまり格好良くない形で退場してしまった凱風。それがこちらでは(もろはとの因縁はあるものの)また少々異なる立場で登場するのも、アニメ視聴者としてはグッとくるのです。


 さて、ここで弥勒たちは、アニメでもキーアイテムであった虹色真珠(ちなみにこちらでは明確に出自は異なる様子)を使って、ある役目を担っていたのですが――しかし現れるのは、味方たちだけではありません。
 それは麒麟の四凶のうち、饕餮と檮コツ、そしてその息子・若骨丸――アニメでは序盤の敵という印象でしたが、こちらではその場に居合わせた親世代とも互角クラスの強敵という印象であります。

 かくて展開するのは、鋼牙vs若骨丸、弥勒・せつなvs饕餮、凱風・もろはvs檮コツという新旧世代入り乱れてのバトル!
 そこに加わっていないとわは珊瑚とともに雑魚妖怪を引き受けるのですが、二人の前に、かつて殺生丸の屋敷を襲撃し、姉妹を引き裂くきっかけとなった焔も参戦、さらに味方サイドも――と、純粋にバトルものとしても盛り上がりまくる展開であります。

 そしてそのバトルの中で描かれるのは、三人のパワーアップと覚醒――親世代の葛藤と新世代の強化、そして新たなる展開への導入、そしても一つタイトルの回収と、ここまで盛り込んでくるか! と、畳み掛けるような展開には、ただただ感嘆するばかりです。
(饕餮のなんでも喰う能力に、こちらではそう来たか! という由来が設定され、弥勒の複雑な胸中と重なる辺り、ただ唸るしかありません)


 限られたページ数で、元作品の設定を用い、元作品と同様の物語を描く――そんなコミカライズの役割を果たしつつ、元作品では描かれなかった、そしてファンが観たかったものを描いてみせる本作。
(その他アニメでのツッコミどころを埋めてみせる――とわの衣装とか)
 豪華な顔合わせのスピンオフ、などという言葉では収まらない名品であります。

 そしてこの巻のラストでは、あの男と、そして第二期で登場した彼女も登場。物語は加速するのか、新たな道に向かうのか、いよいよ期待は高まります。


 しかし長年ダウンしていた邪見を見事復活させた「妖怪の治療が得意なお方」とは、弟子の顔と口調を見るに、もしかして……


『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第2巻(椎名高志&高橋留美子ほか 小学館少年サンデーコミックス) Amazon

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2022.05.17

「コミック乱ツインズ」2022年6月号(その一)

 号数の上ではもう今年も半分になった「コミック乱ツインズ」6月号は、表紙『侠客』、巻頭カラーが『ビジャの女王』。新連載が『列士満』と『江戸時代のちいさな話』、シリーズ連載・読み切りで『風雲ピヨもっこす』『雑兵物語 明日はどっちへ』『玉転師』が掲載と、フレッシュな誌面です。今回も印象に残った作品を一つずつ取り上げましょう。

『ビジャの女王』(森秀樹)
 新展開突入といった印象の今回、これまで幾度か言及されてきたオッド王女の兄・ヤヴェ王子が登場するのですが――そもそもこの王子、この非常事態に今までどこにいたかといえば初めからビジャにいたのですが、これまであまりの不行跡で廃嫡同然に幽閉されていたという状態。貧弱なのに凶暴というどうしようもない人物ですが、そのビジュアルも目つきの悪いうらなりという感じで、これだけ魅力のない人物も珍しいほどであります。

 それでも王亡き後の継承権を持つ王子、しかしこの非常事態に――というわけで重臣たちも頭を抱えますが、ここでジファルの提案で円卓会議が開催されることになります。参加者の大多数によって決定というこの時代には民主的にも見えるシステムですが、ジファルが甘言を弄して重臣たちの間には動揺が広がり、そしてヤヴェ自身もラジンと結んでやろうというどうしようもない状態に……
 しかしそのラジンの側にも身内の敵が――と、この先、再び嵐の予感であります。


『仕掛人めし噺 藤枝梅安歳食記』(武村勇治&池波正太郎(原案))
 本編の合間を縫って描かれる本作、今回は小杉さん登場後――小杉さんが梅安と彦さんの二人をお気に入りの店に連れてくるというエピソード。この店、原作にも登場する鮒宗ですが、子供時代に浪々の身の父とともに極貧に喘いでいた小杉さんが、いかにも曰く有りげな鮒宗の主人に救われたという過去が描かれることになります。
 梅安と彦さんがひと目で鮒宗の主人が只者ではないと見抜く辺りもいいのですが、やはり印象に残るのは料理と、後は妙に可愛い子供時代の小杉さんでしょうか。今ではこんなゴツくなったのに……


『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 水野家の御家騒動も行き着くところまで行き、ついに二胴部隊による拝郷家老襲撃という最終手段を使うに至った反お国替え派。家老の命は辛うじて守られたものの、警護の藩士に幾人もの犠牲が――むしろ全滅でなかっただけよかったと思いますが、しかし人死にが出るほどの御家騒動が(あと、無関係の人間を実験台にする殺人部隊を抱えているのも)明るみになれば、御家がタダでは済みません。
 かくてこの二胴の殺人部隊壊滅に向けた動きが進む中、佐内は敵の中核であり、かつて自分を襲撃してきた――そして何よりも父の仇と目される怪剣士・川越恭之介を抑える役目を依頼されるのでした。これにはもちろん佐内も異論はないどころか、立木野らの助勢を断り、一対一の勝負を望む気合いの入れようであります。

 と、そんなことを密談場所の船宿で、終始覚悟の決まりまくった据わった目で語る佐内に対して、他の舟は出払っているので待とう――と飲み会の帰りに巧妙に二人きりになろうとする奴みたいなことを言い出す相楽。いや、久松さんも一緒なのですが、そこで彼らは、佐内にこの仕事を依頼した理由――佐内の父と二胴の刺客の因縁と、それが佐内の剣客としての魂にどのように働くか、それを測っていたという事実を語るのでした。

 それにしても今回の相楽、頼りになる先輩というか兄貴分というか、いつもと違う――という感じですが(でも顔とか首とか触る必要ないよね……)、それに対して、彼も驚くほど覚悟が決まりまくった返事を佐内は返します。
 しかしもはや無関係などとはいえないほどこの件が、そして自分自身が満枝さんと関わっていることを自覚した佐内は、この先何を思うのでしょうか?
(少なくとも、自分が満枝さんを残して亡くなったら、また益子屋が余計なことしそうだしね……)


 やはり長くなりましたので次回に続きます(今回は二回に収めます……)


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