2022.05.24

ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第10巻 舞台は駿河から京へ そして乱の終わり

 ずいぶんと骨っぽくなった新九郎の横顔が表紙の『新九郎、奔る!』第10巻は、前巻での今川家の御家騒動の後始末(?)と、京に帰った新九郎の姿が描かれることになります。相変わらず無位無冠無役の三冠王のまま奮闘する新九郎に待つのは、如何なる明日なのか――?

 義兄である今川義忠の横死がきっかけの後継者争いの中で、姉の伊都と甥・龍王丸を守るために調停役に志願した新九郎。しかし対する小鹿新五郎派にはあの太田道灌がつき、大苦戦を強いられることになります。
 ようやく調停に漕ぎ着けたものの、道灌からは「しかし小僧、自分の力で勝ったのではないぞ。 その幕府の御威光のおかげだということを忘れるな!」などと言われ(言われてない)悔しさを噛みしめることに……

 かくて新九郎にとっては苦い表舞台デビューとなったこの御家騒動ですが、しかしあくまでもこの調停は一つの区切りに過ぎません。新五郎が当主代行となり、しかし龍王丸はいまだ当主を名乗れぬままという、双方にとってある意味中途半端な状況で、血の気の多いこの時代の武士が黙っているはずもないのです。
 伊都と龍王丸を狙い、二人が身を寄せた代官屋敷を襲う何者かの兵。そしてその中で、新九郎の家来が犠牲に――?

 と、いきなり緊迫した展開となったこの巻ですが、しかし転んでもただでは起きなくなったのは、今回の経験を経ての新九郎の成長でしょうか。これから自分は京に戻らなければならない中で、伊都たちを守りつつ、家督争いを有利に進める、自分だけができるその手段とは……
 なるほど、こう来るか! という新九郎の一石三鳥の妙手には感心しますが、しかし策を思いつくのと実行することはまた別物であります。

 さらに自分や父も暮らす京の伊勢貞宗邸に戻ってみれば、色々あって幼い将軍義尚も何故かひとつ屋根の下に――となんだかややこしい状況になっているではありませんか。

 元々父が大御所義政に睨まれている一方で、自分は義尚に懐かれている新九郎。義政と義尚の二重体制がまさかこんなところで新九郎に累を及ぼすとは――と驚かされましたが、この辺りの新九郎の家庭の(?)事情と、幕府の事情を並行して、そして絡み合わせて描く趣向は、元々本作の特徴ですが、改めて感心させられました。
(そしてここで不意打ちで投入されるつげオチが可笑しい)

 そして本作ならではの趣向といえば、以前の荏原のエピソードがそうであったように、中央(京)のみではなく、地方のみでもなく、その両者を有機的に絡めつつ、この時代の武士の――政治の在り方を描く手法は、もちろんここでも健在です。
 冷静に考えれば、中央だけでも、地方だけでも存在し得ない当たり前ではあります。しかしその当たり前に、物語として一定の流れをつつ描いてみせるという作者の歴史作家としての手腕に――そしてその主人公に後の北条早雲を選ぶという着眼点に――何度めかの感心をしたところです。

 そして、その中央と地方の関係の最たるものであり、そしてそれを徹底的に狂わせたのが、本作の冒頭から描かれてきた応仁の乱であることは言うまでもありません。
 この巻において、この乱がついに終結することになるのですが――しかしそれではこの乱とは一体何だったのか? その一端を示すものとして、伊都が語る「この大乱で討ち死にした守護大名はゼロなんだって!」という言葉が、印象に残ります。(その後には「無関係な戦で討ち死にしたうちのが馬鹿みたいじゃない!!」と続くのですが)

 もちろん死ななかったのは守護大名のみ、そのほかは武士も庶民も、無数の犠牲が出たことは言うまでもありません。そしてその一人――かつて今出川殿(足利義視)のために兄が無残な死を遂げた新九郎が、まさに都落ちしていく今出川殿にぶつける言葉は、そんな時代への怒りとやるせなさの吐露として、印象に残るのです。


 そしてその乱の終わりは、新九郎自身の身の上にも影響を与えるようなのですが――いよいよ彼も無位無冠無役の三冠王からの脱出なるか、気になるところです。そしてもう一つの乱が終局に向かう関東の情勢もまた……(練馬とか豊島というワードが出てくると胸がときめく八犬伝ファン)

 ちなみにこの巻でほとんどヒロインといってよい印象であったのが伊都ですが――その彼女に対する義政の言葉は(この時代からすれば当然のものだったのかもしれませんが)、この時代の女性の生きづらさを象徴するものとして、こちらも印象に残ったところであります。


『新九郎、奔る!』第10巻(ゆうきまさみ 小学館ビッグコミックススペシャル) 

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2022.05.17

「コミック乱ツインズ」2022年6月号(その一)

 号数の上ではもう今年も半分になった「コミック乱ツインズ」6月号は、表紙『侠客』、巻頭カラーが『ビジャの女王』。新連載が『列士満』と『江戸時代のちいさな話』、シリーズ連載・読み切りで『風雲ピヨもっこす』『雑兵物語 明日はどっちへ』『玉転師』が掲載と、フレッシュな誌面です。今回も印象に残った作品を一つずつ取り上げましょう。

『ビジャの女王』(森秀樹)
 新展開突入といった印象の今回、これまで幾度か言及されてきたオッド王女の兄・ヤヴェ王子が登場するのですが――そもそもこの王子、この非常事態に今までどこにいたかといえば初めからビジャにいたのですが、これまであまりの不行跡で廃嫡同然に幽閉されていたという状態。貧弱なのに凶暴というどうしようもない人物ですが、そのビジュアルも目つきの悪いうらなりという感じで、これだけ魅力のない人物も珍しいほどであります。

 それでも王亡き後の継承権を持つ王子、しかしこの非常事態に――というわけで重臣たちも頭を抱えますが、ここでジファルの提案で円卓会議が開催されることになります。参加者の大多数によって決定というこの時代には民主的にも見えるシステムですが、ジファルが甘言を弄して重臣たちの間には動揺が広がり、そしてヤヴェ自身もラジンと結んでやろうというどうしようもない状態に……
 しかしそのラジンの側にも身内の敵が――と、この先、再び嵐の予感であります。


『仕掛人めし噺 藤枝梅安歳食記』(武村勇治&池波正太郎(原案))
 本編の合間を縫って描かれる本作、今回は小杉さん登場後――小杉さんが梅安と彦さんの二人をお気に入りの店に連れてくるというエピソード。この店、原作にも登場する鮒宗ですが、子供時代に浪々の身の父とともに極貧に喘いでいた小杉さんが、いかにも曰く有りげな鮒宗の主人に救われたという過去が描かれることになります。
 梅安と彦さんがひと目で鮒宗の主人が只者ではないと見抜く辺りもいいのですが、やはり印象に残るのは料理と、後は妙に可愛い子供時代の小杉さんでしょうか。今ではこんなゴツくなったのに……


『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 水野家の御家騒動も行き着くところまで行き、ついに二胴部隊による拝郷家老襲撃という最終手段を使うに至った反お国替え派。家老の命は辛うじて守られたものの、警護の藩士に幾人もの犠牲が――むしろ全滅でなかっただけよかったと思いますが、しかし人死にが出るほどの御家騒動が(あと、無関係の人間を実験台にする殺人部隊を抱えているのも)明るみになれば、御家がタダでは済みません。
 かくてこの二胴の殺人部隊壊滅に向けた動きが進む中、佐内は敵の中核であり、かつて自分を襲撃してきた――そして何よりも父の仇と目される怪剣士・川越恭之介を抑える役目を依頼されるのでした。これにはもちろん佐内も異論はないどころか、立木野らの助勢を断り、一対一の勝負を望む気合いの入れようであります。

 と、そんなことを密談場所の船宿で、終始覚悟の決まりまくった据わった目で語る佐内に対して、他の舟は出払っているので待とう――と飲み会の帰りに巧妙に二人きりになろうとする奴みたいなことを言い出す相楽。いや、久松さんも一緒なのですが、そこで彼らは、佐内にこの仕事を依頼した理由――佐内の父と二胴の刺客の因縁と、それが佐内の剣客としての魂にどのように働くか、それを測っていたという事実を語るのでした。

 それにしても今回の相楽、頼りになる先輩というか兄貴分というか、いつもと違う――という感じですが(でも顔とか首とか触る必要ないよね……)、それに対して、彼も驚くほど覚悟が決まりまくった返事を佐内は返します。
 しかしもはや無関係などとはいえないほどこの件が、そして自分自身が満枝さんと関わっていることを自覚した佐内は、この先何を思うのでしょうか?
(少なくとも、自分が満枝さんを残して亡くなったら、また益子屋が余計なことしそうだしね……)


 やはり長くなりましたので次回に続きます(今回は二回に収めます……)


「コミック乱ツインズ」2022年6月号(リイド社) Amazon

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2022.05.16

劇団☆新感線『神州無頼街』 幕末伝奇! 痛快バディvs最凶カップル、大激突!

 一昨年、新型コロナの影響で公演延期となった『神州無頼街』が、帰ってきました。富士の裾野に築かれた無頼の街を舞台に、クールな腕利きの医者と口八丁手八丁の口出し屋が、正体不明の侠客一家が目論む大陰謀に立ち向かう、幕末伝奇大活劇であります。

 時は幕末、所は清水湊――清水次郎長親分の快気祝いに名だたる親分衆が集まる中、突如現れた男・身堂蛇蝎。妻の麗波、息子の凶介、娘の揚羽を引き連れ、傍若無人に振る舞う蛇蝎に激昂する親分衆は、突如もがき苦しみだし、倒れていくのでした。。
 そこに駆けつけた町医者・秋津永流の手当で次郎長は助かったものの、親分衆は全滅。これ事態を引き起こしたのが、この国にいるはずのない毒蟲・蠍だと見抜いた永流は、蛇蝎に対してある疑いを抱くのでした。

 一方、清水湊をうろついては他人の事情に勝手に口を出し金をせびる「口出し屋」の草臥は、蛇蝎一家の凶介が自分の幼なじみ・甚五と瓜二つだったのに驚くのですが――向こうは草臥のことなど知らず、それどころか逆に刃を向けてくるではありませんか。
 蛇蝎一家を中心に次々と起こる奇怪な事件と不穏な動き――これに対して、永流と草臥は、蛇蝎を探るため、彼が築いたという富士山麓の無頼の街に向かうことを決意します。しかしそこで待ち受けていたものは、彼ら二人の隠された過去に繋がる謎と秘密の数々だったのであります。やがて二人は、この国を揺るがす蛇蝎一家の大陰謀と対峙することに……


 というわけで、42周年興行として上演の運びとなった『神州無頼街』。私も二年待ちましたが、無事観劇することができました。
 物語的には、「無茶苦茶強い正体不明の流れ者が、さらに強くて悪い奴の陰謀を叩き潰すために大暴れする」という、皆大好きなスタイルの本作。しかも今回は、その主人公が二人――つまりバディものなのが最大の魅力でしょう。

 一見クールながら心優しく、医者ながら武芸の腕も立つ永流(福士蒼汰)。そして口から先に生まれたようなお調子者ながら、やはりバカ強い草臥(宮野真守)。そんな二人が、それぞれ実に気持ちよさそうに、物語の中を飛び回ることになります。
 特に歌手としても活躍している宮野真守は、劇中歌の多くを実に気持ちよさそうに歌いまくり。元々歌も踊りもふんだんに投入されているのが劇団☆新感線ですが、今回は特にその度合いが大きかったように感じるのは、このムードメイカーの大活躍があってのことでしょう。

 そして忘れてはいけないのは、本作が時代伝奇ものであること。そもそもタイトルからして古き良き時代伝奇小説の証である(?)「神州」というワードを掲げているわけですが、幕末伝奇とくれば――という二大ネタがどちらも投入されているのがまず嬉しい。
 しかしそれはあくまでもいわば前フリであって、メインはさらにスケールの大きな、とんでもない展開が用意されていたのには、正直に申し上げて唖然としました。
(ちなみに「神州」らしくというべきか、ニヤリとさせられるような用語や場面も幾つか登場するのにも注目)

 しかし本作で最大のインパクトを感じさせるのは、主人公たちが挑む強敵――身堂蛇蝎と妻・麗波であることは間違いありません。
 死と暴力が人間の形をしているような、しかしどこか茶目っ気のある蛇蝎、そして彼を支える妖艶華麗な美女――では終わらない麗波と、強烈極まりないこの二人。そんなカップル好演/怪演/熱演する二人――新感線初登場の高嶋政宏と常連の松雪泰子に目を奪われました。

 特にこの二人こそが、上で触れたとんでもない展開の仕掛人なのですが――いやはや、これまで色々と時代伝奇ものを見てきましたが、ここまで凄まじいことを企んだ奴は見たことがありません。間違いなくいのうえ歌舞伎、いや新感線の舞台史上でも最凶最悪のカップルであることは間違いないでしょう。


 しかし正直なところ、この強烈すぎるカップルの前に、主人公たちの存在感がいささか薄れがちに感じられたのも事実。
 また――この辺りは内容の詳細に触れかねないためにぼかしますが――作中に登場した二つの「家族」の存在が、物語展開や主人公たち(というか草臥)とあまり有機的に結びついていないという印象もありました。

 そんな勿体無い部分はあったものの、本作が新感線の二年遅れのアニバーサリーイヤーに相応しい、ド派手でケレン味たっぷりの時代伝奇活劇であったことは間違いありません。
 特に主人公コンビはこの一作で終わるのはもったいない――彼らの痛快なバディぶりを、是非また見てみたいと心から思います。


関連サイト
公式サイト

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2022.04.26

張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第7巻 大乱闘のその先の真実と別れ

 齢千年の狐・廣天を狂言回しに、中国の怪談集『捜神記』を題材にして描く『千年狐』、その神異道術場外乱闘編もいよいよこの巻で完結であります。並み居る強豪(?)を倒してついに術比べ大会の勝者となった廣天たち。しかし主催者・商荘に対し、廣天が突きつける真実とは……

 いきなり住居を失った末に多額の借金を背負い、すったもんだの末に、豪商・商荘が治める山里に文字通り流れ着いた廣天と神木、宋定伯と医者。そこで商荘が道士たちを集めて賞金と副賞の山を賭けた道術大会を催そうとしていたことを知った廣天たちは、これに飛び入り参加することになります。

 易断の名人の典風、隠形の術を得意とする怪人・黄極君、禁呪使いの美女・娟玉、不吉な未来を告げる周南、一切が謎の人の楊道和――いずれもただならぬ雰囲気を漂わせた面々ですが、口八丁手八丁でこれを退けた(?)廣天たちは見事に優勝、するのですが……
 いざ商荘と対面した廣天(と神木、医者)は、賞金も山も不要、その代わりに商荘と話がしたいと言い出すのでした。はたして廣天の真意とは――?


 というわけで喉から手が出るほど欲しかったはずの賞金と山を不要と言い出した廣天ですが、彼女が求めるのはただ一つ、屋敷の奥にいる者――すなわち、商荘の新妻と直接話をすること。その理由はひとまず置くとして、確かに商荘の妻、いや商荘自身の周囲には、不審な点が数々ありました。

 禁足地である山中の遺跡に並ぶ、不気味な像は何なのか。その山に夜に入り込んで商荘と妻は何をしていたのか。そして何よりも、人前に姿を見せない(そしてやたら背が高く奇妙な姿をした、ポポポとか言いそうな)彼の新妻とは何者なのか?
 そのほかにも、商荘の里では幽鬼が存在しないこと、意味有りげな態度を見せる商荘の使用人など、考えれば不審な点ばかりであります。

 いやそもそも、商荘は本当に道士たちを金持ちらしい気紛れだけで集めたのか――言い換えれば、道士に何をさせようとしていたのか? この巻の前半では、時にひどく冷然と、容赦ない態度で他人に臨む――かつて冥府で阿紫をド詰めした時のように――廣天が、商荘に迫ることになります。
 その果てに描かれるものは、もはや妖怪退治というより憑き物落としというべきもの。そしてその果てに商荘が語るものは……


 かくて意外な結末を迎えることになった道術大会ですが、しかし物語はそれで終わるわけではなく、むしろここからが本番とすら言えます。
 ある理由からあの山に向かうこととなった廣天と商荘、そして道術大会の参加者たち。呉越同舟、目的のためにそれぞれの特技を活かして進む一行ですが、しかし商荘以外には慣れぬ地で、思わぬ暴風雨に襲われ、大混乱を来してしまうのでした。

 そしてその中でもまた、参加者たちそれぞれのドラマが描かれ、それがまた味わい深いのですが――特にその中の一人にまつわる真実には、必ずや度肝を抜かれることになるでしょう。
 それが誰であるのか、それは物語の興を削ぎかねないために伏せますが――以前さらりと描かれた人物や出来事が思わぬ形で後に繋がっていくという、本作ならではの構造の妙に、今回もまた唸らされたとしか言いようがありません。
(そういえば最初から草食ってたなあ……)

 そしてそれが鬼面人を驚かす態の意外性に終わるのではなく、本作の(特にこのシリーズの)底流にあった「血縁関係」「他者との情愛」――突き詰めれば「人間」と「人間」の関係に繋がっていくのも素晴らしい。
 さらにまたそれが、「人間」ならざる廣天と、あるキャラクターとの決別に繋がっていくという展開は――胸が痛むものの、しかしそれも一つの結末として頷けるのです。


 スタート時には、思わぬトーナメントバトル展開に驚かされ、本当に大丈夫かと心配になったこの神異道術場外乱闘編。しかし完結してみれば、きっちりとバトルものらしい展開を描きつつも、テンポの良いギャグを随所に――かなりシリアスな展開が続いたこの巻においても――散りばめ、本作らしい、本作ならではの物語になったかと思います。

 そして千年狐が次に向かう先は――サブタイトルだけ見れば原点(原典?)回帰の予感ですが、さてどうなることでしょうか。
 一つだけわかるのは、どんな形になるにせよ、決して期待は裏切らないものになるだろうということであります。


『千年狐 干宝「捜神記」より』第7巻(張六郎 KADOKAWA MFコミックスフラッパーシリーズ) Amazon

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2022.04.17

「コミック乱ツインズ」2022年5月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」2022年5月号の紹介その二であります。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 謎の支援者をあぶり出すため、聡四郎が町で絡まれた破落戸たちを叩きのめし、敢えて自分の名を出してみたら思わぬ波紋が――という展開となった前回。読者にはそれが誰の差し金かわかっているのですが、しかし聡四郎にとってはとんでもない大物が関わっていることしかわからないという、これはこれで実に尻の座りの悪い状況であります。

 しかしそんな中でもお役目は果たさねばならないのが勤め人の大変なところ。聡四郎は、元々のお役目である米相場高騰の原因を探ることになりますが――といっても町を歩き回るだけでそうそう簡単に掴めるはずもなく、むしろ役に立ったのは、家に帰ってからの紅さんの言葉。そこで聡四郎は紀伊国屋に向かうのですが――いやいや、基本的に宿敵の元に飛び込むとは博打打ちすぎでは、と心配になります。案の定、うかつに敵を増やすことには定評がある聡四郎らしく、ここで紀文の配下が独自に動くことに……

 そうとは知らず、師・入江無手斎の特訓に協力する聡四郎。本作の迫力担当(?)というべき無手斎だけあって、片手とは思えぬ強烈な技を見せて聡四郎をたじろがせますが、しかしそれ以上に畏れるべきは、宿敵であり自分が倒した鬼伝斎の技をも取り入れるその柔軟性ではないでしょうか。
 そして特訓につきあわされた上に怒られるというちょっと理不尽な目にあった聡四郎ですが、しかしその教えは思わぬ形ですぐに役立つことに――と、新たな強敵の出現を描きつつ、次回に続きます。


『かきすて!』(艶々)
 娘三人の江戸に向かう旅日記としてスタートした本作ですが、既に江戸に到着して久しく、ここ数回は三人娘が江戸で出会った事件が描かれています。今回もそのパターンと思いきや……

 男に騙され、悲惨な最期を迎えたというお町。彼女とは幼馴染だった三人娘のおゆきとおはるは、お町の妹とともに、お町を騙した男を懲らしめるため、幽霊騒動を仕掛けることに――という今回の展開。
 これはどう考えても失敗してマズいことになるパターンでは、と思っていたところに、同じく三人娘のナツに何やら意味深なシーンが描かれ――という展開を受けて、ラストに思いもよらぬ大どんでん返しが描かれることになります。

 正直に言ってかなり唐突な展開に驚きましたが、おそらく本作でほとんど初めてであろうアクションシーンのキレもよく、これはこれでアリかな、という気もいたします。しかしこの展開は最終回かな、と思いきや、次回もあるようで、三人旅から今度は一人旅に変わるということでしょうか。


『しくじり平次』(所十三&野村胡堂)
 ヤンキー漫画と恐竜漫画のベテランによる特別読み切りは、前作から(おそらく)7年ぶりに登場の、漫画版『銭形平次捕物控』であります。

 雪の夜の翌朝、山谷の寮で何者かに刺し殺された姿で見つかった遊女屋・佐野喜の主・弥八。因業で周囲から数多くの恨みを買い、誰に殺されてもおかしくない人物でしたが、三輪の万七親分にしょっぴかれたのは、以前平次の下っ引きをしていた田圃の勝太郎だったのです。
 吉原で火事があった際、言い交わした仲だった妓を見世の納戸に閉じ込めて死なせた弥八を殺すと公言し、事件当日も近くで目撃されていたことから、圧倒的に不利な立場の勝太郎。平次は寮の周囲の人々から聞き込みを始めるのですが……

 原作の「雪の夜」を基本的に忠実に漫画化した本作ですが、ここで描かれる平次は、タイトルに相応しくというべきか、かなり三枚目的な色彩の強いキャラクター。下女のお鶴から話を聞き出す際に一緒に折り鶴を折るくだりや、お馴染み三輪の万七親分と漫才のようなやり取りをしながら推理の穴を突いていく場面など、何ともユーモラスな味わいがあり、親しみやすさという点では群を抜いています。

 そんな味付けをしつつも、原作ではちょっと勘に近かった謎解きを、トリックは基本的にそのままに、一ひねり加えてみせる点なども巧みな本作。「しくじり平次」という原作にあるもう一つの、そしてあまり知られていない呼び名を冠してあえて銭投げを外しつつ、読後感の良い人情推理として成立させてみせた作品です。


 次回でラストです。


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2022.04.16

「コミック乱ツインズ」2022年5月号(その一)

 今月の「コミック乱ツインズ」は、表紙が『勘定吟味役異聞』、巻頭カラーが『はんなり半次郎』。また、久々に『かきすて』が登場です。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介していきます。

『はんなり半次郎』(叶精作&篁千夏)
 求善賈堂のいつもの面々に助けを求めてきた、祇園の料亭の次板・太郎左。店の主人が患い込み、太郎左が恋仲の店の娘と結婚して暖簾を継ぐはずが、既に暖簾分けされた兄弟子の藤吉が現れて、料理勝負することになったというのですが――料理の腕はどう考えてもあちらが上。弱りきっている太郎左に、半次郎は南蛮渡来の食材と調味料の数々を提供して……

 本作で骨董品ネタと並んで多かった印象のある南蛮渡来の風物ネタに料理ネタが絡んだ、読んでいてお腹が空く今回。正直なところ、これは腕の勝負ではなく、食材と調味料の差で勝負しているようにしか見えないのですが――まあ話の裏はほとんど見えている状態でしたし、展開として非常に爽やかなのでこれはこれでOKでしょう。

 ……と、最終ページまで来てひっくり返ったのですが、本作は今回が最終回。これから明るい未来が来るかもしれないから頑張ろう的なラストですが、そこで半次郎たちとニコニコしている土方はこの後――と思うと、ちょっと落ち着かない気分になったというのが正直なところです。


『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 二胴の暗殺者との激突に向け、己の生を擲つ覚悟で剣を磨いていた最中の佐内のもとに飛び込んできた悲報。それは数日前から行方不明となっていた根岸が、恐れていた通りの姿で見つかったという報せでした。その発見場所に向かった佐内が見たのは、根岸が、おびき出しに使われた馴染みの女とともに、こう、二胴の実験台にされた後で……(露骨に描かれなくても、顔や体の位置関係でどんな状態かわかってしまうのがキツい)
 しかしここで真の鬼っぷりを感じさせたのは、彼らの雇用主たる益子屋。この惨憺たる有様のところに、根岸の妻女を招いて根岸と対面させるという――いやいや、もう少し色々な意味で整えてからにしましょうよ!

 それはさておき、これは曲がりなりにも彼の許嫁である満枝が、同様に自分を誘き出すための犠牲にされかねないという、佐内にとっては最も恐ろしい事態を示すものでもあります。そうとは知らず、最近ろくに食事も取っていないという佐内のために甲斐甲斐しく手料理を作って待つ満枝ですが、彼女が心配すぎる(さりとて事情を打ち明けるわけにもいかない)佐内に頭から怒鳴りつけられ、一人家路を辿ることに――と、これはかなりマズいシチュエーションではありませんか。
 はたして惨劇がまたも繰り返されるのか!? と不安になりましたが、これは彼女のことも知っているあの人の手配りでしょうか――本作でひたすらシブく仕事をキメてきたあの人がここでもナイスフォロー。まずはホッと一息であります。

 しかし、状況は佐内一人の思惑など関係ない場所で動き始めます。元々この暗闘は、水野忠邦家中での勢力争い――その片割れであり、二胴の暗殺者たちを擁する二本松・大道寺派が決着を急ぎ、ラストには思わぬ大殺陣が展開することになります。一歩間違えれば佐内の戦いも全く事情が変わりかねないこの状況がどちらに転ぶことになるのか――クライマックスは目前という印象であります。

 ちなみに今回、水野忠成の用人・土方なる人物が登場しましたが、時代ものでは悪役が多い土方縫殿助のことでしょう。本作では結構普通のおじさんでしたが……


『仕掛人 めし噺 藤枝梅安歳食記』(武村勇治&池波正太郎(原案))
 前回からスタートしたグルメスピンオフ、今回描かれるのは、梅安の相棒といえばもちろんこの人、彦さんとの二人旅。タイミング的には本編の「殺しの四人」と「秋風二人旅」の間のエピソード――というか「秋風二人旅」の冒頭の語られざる物語であります。

 といっても内容の方は、梅安と彦さんがお伊勢参りの前後に芋川うどんを、伊賀のぼたん鍋を食べまくるという食デート回。いやはや、こんなに楽しく生きてるんだったら仕掛けなんて手を染めなくてもいいのに――と勝手なことを考えてしまいますが、そこで彦さんがフッと重い影を覗かせたところで、ラストは「秋風二人旅」に繋がって終わります。

 前回の内容も考えると、このまま本編の流れを追いながら、その合間の梅安たちの食の姿が描かれるということになる様子で、これはなかなか楽しい企画です。


 恐縮ですが長くなりますので次回に続きます(全三回予定)。


「コミック乱ツインズ」2022年5月号(リイド社) Amazon

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2022.03.26

赤名修『賊軍 土方歳三』第6巻 迫る復讐鬼 そして義を衛る男!

 まだまだ続く会津での死闘。新政府軍の目を惹きつけるために出撃した土方と新選組の前に、強敵・板垣退助と過去からの復讐鬼が立ち塞がります。そして庄内藩に援軍を求める途中、米沢に立ち寄った土方と沖田に襲いかかる敵の群れに、義を衛るためあの男が起つことに……

 会津に依り、必死の抗戦を繰り広げる土方率いる新選組と旧幕府軍。土方は、奥羽越列藩同盟の中核である会津を潰すため、大久保利通が企てた現藩主の、そして前藩主・松平容保の暗殺計画を辛うじて防ぐことに成功します。
 そんな中で土方が知ることとなった奥羽越列藩同盟逆転の秘策――それはなんと、ビスマルク率いるプロシアの援軍でありました。海外勢力の介入は禍の元と反対する土方ですが、既に全ての責任を背負って死ぬ覚悟を決めていた容保の決意は変わりません。

 そしてそこに攻撃を開始する板垣退助率いる新政府軍――その中には、池田屋の恨みを文字通り背負った百村発蔵がいました。板垣の近代戦術と、百村の執念が、土方を追い詰めることに……


 というわけで、この巻の前半で描かれるのは滝沢本陣を巡る戦い。かつての近藤のような覚悟を見せる容保を前に自分の無力さを嘆く土方ですが、だからといってむざむざと主君を討たせるわけにはいきません。
 かくなる上は自分たちが敵の目を惹きつけると覚悟を決めた土方ですが――目を惹きつけるといえばこれだ! とばかりに、誠の旗とダンダラの隊服で突撃を仕掛けるのは、これはいかにも本作らしい痛快さというべきでしょう。

 しかしこの隊服を見るやエキサイトするのが百村。以前、第2巻の白河口の戦いで登場した際にはあまり印象に残りませんでしたが、今回は彼が新選組――というか土方を恨む理由が描かれることになります。そしてそれがまた、これはどう考えても土方が悪いのですが……(本当に想像以上に悪い)。
 ところがこの先の展開で、この悪印象をひっくり返してみせるのですから何とも心憎い。この辺り、土方の格好良さを描かせたら本作は実に巧いものです。


 そして、この巻の後半で描かれるのは、いよいよ籠城が決定的となった中で、庄内藩に援軍を請いに行く土方と市村鉄之助(実は沖田総司)の姿。その途上、米沢に弾薬補給を請いに立ち寄る二人ですが、ここで意外な人物が登場することになります。
 その名は永倉新八――言うまでもない、新選組二番隊組長として活躍したあの永倉ですが、実はこの時期、米沢に身を寄せていたというのは紛れもない史実。とはいえここで永倉を登場させるというのも、本作ならの趣向というべきでしょうか。

 その永倉、本作ではドレッドヘアというまたインパクト満点のビジュアルなのですが、ある理由から土方と対峙することに。元々、甲州での敗北後に近藤の言動が元で袂を分かった男だけに、それはそれで違和感がないようにも思えますが――しかしここから物語はさらに二転三転します。
 既に降伏を決意した米沢にとって土方たちは邪魔な存在、その刃が沖田に迫ったとき永倉は――お約束とはいえ、やはりグッとくるものがあります。

 思えば本作は、原田といいこの永倉といい(そして考えてみれば沖田も)、一度は袂を分かった隊士をも――ファンが見たかった形で――描いてきました。もちろんそれはあくまでも一種の「夢」なのですが、それでもやはり、嬉しいものは嬉しいのは言うまでもありません。

 そしてこの巻のラストでは、これまた泣かせる「再会」が描かれるのですが――しかしそんな中でも、会津は刻一刻と追い詰められている状況にあります。
 落城目前の会津を本作がどのように描くのか、そしてそこで土方たちがどのような役割を果たすのか――嬉しがってばかりはいられない、苦い展開が次の巻では待っているようです。


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2022.03.18

わらいなく『ZINGNIZE』第7巻 ついに結集、江戸の三甚内!

 死闘の最中に乱入した伊達軍により状況が混迷を深める中で、炎の巨人と化して暴走する風魔小太郎。小太郎に挑むは、高坂・鳶沢・庄司の江戸の三甚内――そしてもはや完全に人間を捨ててしまった小太郎に対する高坂甚内の最後の秘術とは!? いよいよ決戦の時であります。

 死人の軍勢から愛するくノ一・菊を救うため、蘇った太田道灌を味方につけて小太郎に挑む高坂甚内。唯一の弱点である高坂甚内の毒を、自らが燃え上がることで克服した小太郎ですが、そこに重火器を携えた中田譲治×2と岡本美登――ではなく伊達政宗と伊達成実、片倉小十郎が乱入、一気に状況は混迷の度合いを深めることとなります。

 さらに、小太郎の不死身の肉体の源であった足柄山の返魂樹が別働隊に焼かれ、焦る小太郎はこの場を離脱しようとするのですが――もちろん高坂甚内がそれを見逃すはずもありません。
 駆けつけた庄司甚内を連れ、小太郎を追う高坂甚内。しかし最後の力を振り絞った小太郎は二人を突き放して逃走、残された二人の前に現れたのは鳶沢甚内で……

 というところで、ついに高坂・鳶沢・庄司の江戸の三甚内が集結することとなった本作。斬っても燃やしても、毒でももはや死なない怪物に挑むには、超絶の技を持つ三人が手を組むしかない!
 といっても、どうすればトドメをさせるの!? というのがここまで本作を読んできた人間の正直な感想なのですが――なるほど、ここまで無茶苦茶な怪物として描いておいて、ここはこうくるか、という理詰め(?)の展開には、やられた! というほかありません。
(と思っていたら、この後に実にしょうもない展開があるのも、実に本作らしい)


 そして走馬灯というべきか――追い詰められた小太郎が思い出すのは、かつて秀吉の小田原攻めで北条が敗れ去った際の北条氏政との会話と、その後大坂城に乗り込んで豊臣秀吉と交わした会話。
 秀吉を殺してきてやるという小太郎に氏政が何と答えたか、そしてその氏政亡き後、自分を殺そうとする小太郎に秀吉が何と答えたか――ここで示されるのは、彼ら戦国武将たちと小太郎の、人の上に立ついくさ人と彼らに使われる「狗」の、残酷なまでの違いであります。

 それは身分や血ではなく、心の有り様――どれほど超絶の肉体的な力を持とうとも、決して埋められないものの存在を知った時、小太郎は何を思ったのか? その無念こそが、これまでの小太郎の暴走、そして人の身を捨ててまで生にしがみつく様の根底にあることは間違いないでしょう。
 そして以前(第4巻)、小太郎は菊に秀吉との出会いの様を語りましたが、そこでの内容と今回の違いは、矛盾というものではなく、小太郎をしてそう語らざるを得なかったのだろうと――そう感じさせられます。


 そしてそんな想いが暴走を続け、ラスボス形態というか、もはや怪獣と化した小太郎。もうここまでくると鳶沢甚内の重火器も通じない存在と化した小太郎に成すすべはあるのか、というところで高坂甚内が繰り出す「奥の手」とは……
 前巻飛び出した「七つの五右衛門忍法」というパワーワードを遥かに超えるとんでもない切り札にはもはや愕然、今度の今度こそは決着か!?

 というところで、物語は続くのですが――その先に、小太郎と甚内たちの違いが、甚内たちが単なる「狗」でないことが描かれることを強く期待する次第です。
(もちろん、ここに至るまでに既に描かれているといえば描かれてはいる気もしますが……)


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2022.03.15

「コミック乱ツインズ」2022年4月号(その一)

 「コミック乱ツインズ」4月号は、驚愕の新連載『仕掛人めし噺 藤枝梅安歳食記』が表紙&巻頭カラー。そして『おんな座頭けもの道』『儘に慶喜』『徒花』と特別読切が一挙三本掲載と、豪華な内容となっています。今回も、印象に残った作品を一つずつ挙げていきたいと思います。

『仕掛人めし噺 藤枝梅安歳食記』(武村勇治&池波正太郎(原案))
 というわけで、数ヶ月前に完結した武村版『仕掛人 藤枝梅安』がまさかの復活(?)。一見食と関係のないような漫画のグルメ版スピンオフというのは、以前から密かにトレンドになっているような気がしますが、まさか梅安でそれをやるとは――と最初は驚きましたが、冷静に考えれば梅安(というか池波作品)は食と関係大あり。『梅安料理ごよみ』といった書籍も発売されているくらいですから、むしろあって当然なのかもしれません。

 さてその第一回で描かれるのは、梅安ではお馴染みの料亭井筒の料理。井筒の主人の病を治した例に豪勢な膳を振る舞われる梅安ですが、そこで女中になったばかりのおもんと出会い――と、わずか16ページながら本編の隙間を埋める内容となっているのが楽しいところです。
 そして井筒の膳と同じくらい、冒頭の卵かけご飯が旨そうで……


『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 ついに二胴修行の現場を目撃し、秘剣攻略のために己の命を擲つ覚悟を固めた佐内。体を絞るために暫く粥だけでいいと、巻頭の漫画とは正反対の(?)食生活で気合いを入れるのですが――『剣は特訓する』『弟子も育てる』 「両方」やらなくちゃあならないってのが「道場主」のつらいところ ではあります。
(しかし特訓に打ち込むあまり、本当に似合わない無精髭はともかく、月代まで毛が生えだしたのはいただけません。)

 と、そんな殺伐とした状況に訪ねてきた見知らぬ女性は、なんと根岸大隅のご内儀。三日前から根岸が姿を消し、益子屋に訪ねてもわからないので訪ねてきたというではありませんか。そこで根岸に馴染みの女がいたことを思い出した佐内がその店を訪ねてみれば、女の方も三日前から姿が見えないということで……

 立ち位置的に絶対危ない危ないと思い続けてきた根岸大隅ですが、ついに彼にも迫った魔の手。剣の腕でいえば佐内に勝るとも劣らない、踏んだ場数ではおそらく佐内以上の彼ですが、しかし純粋に人を殺すことのみを目的とした魔剣に抗することはできるのか。
 金で他者に刃という名の牙を突き立てる「犬」と、獲物を駆り立て喉笛に――いや土手っ腹に喰らいつく「狗」、強いのはどちらでしょうか?

 そしてそんな「狗」のやり口が、恐ろしい事態を招きかねないことに気付いてしまった佐内は……


『おんな座頭けもの道』(伊藤黒介)
 冒頭に述べたとおり特別読切三作品が掲載された今号ですが、衝撃度という点では本作が一番でしょう。現在はpixvを中心に活動を続ける作者が、「創作なんちゃって時代劇」と題して展開してきた『おんな座頭市』シリーズが、見事に時代劇画雑誌に凱旋したのですから。

 年端もいかぬ少女ながら、天才的なまでの剣の腕を持つ仕込み杖の使い手・市。本作は、按摩を表の顔、人斬りを裏の顔とする彼女の人斬り行を描くシリーズであります。
 そんな彼女が今回請け負ったのは、店の若い衆を斬って宿場の飯盛女を連れ出した侍の始末。相手の居場所を突き止めた市は、侍のもとを訪れるのですが……

 格好良くなければ、善悪の定まった仕掛けでもない、晴らせぬ恨みを晴らすというわけでもない――そんなある意味日常の一幕のような人斬りを描く本作。そんな物語が、市と侍、そしてもう一人を通じて、静かに描き出されることになります。
 決して派手ではない(しかしクライマックスの殺陣は、こう動くかと思わず感心)からこそ印象に残る本作、なんちゃってなどでは決してない、佳品というべき作品でしょう。ぜひ再登場を期待したいところであります。
(ちなみに、「女は座頭になれないんじゃ」というツッコミをしれっとごまかすのがなかなか愉快)


 大変長くなりますので続きます(全三回予定)。


「コミック乱ツインズ」2022年4月号(リイド社) Amazon

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2022.02.20

ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第9巻 新九郎戦国に立つ!?

 遠江奪還を目指して暴走した末、戦場で横死した新九郎の義兄・今川義忠。姉と甥を守るために調停役に志願し、駿河に向かう新九郎ですが、しかしそこで待ち受けていたのはかの太田道灌でありました。史実ではここで戦国史にデビューした新九郎ですが、はたして新九郎戦国に立つ!!、といくかどうか……

 旧領である遠江奪還の悲願に取り憑かれたように有力国人を敵に回し、同じ東軍方の守護方を攻めた末、流れ矢に当たって戦死した今川義忠。彼と伊都の間に生まれた龍王丸はまだ幼く、しかも国人たちの意見は分かれて、義忠の従兄弟である小鹿新五郎を擁立する一派が現れます。

 これは通常の場合であれば、誰かが後見になるにせよ、龍王丸が跡目となることで問題はありませんが――しかし冒頭に書いた通り、義忠の暴走は、中央が落ち着いた状態であれば、守護召し上げクラスの問題行動(もっとも中央がこれだったからこその行動かもしれませんが)。
 このままでは幕府も味方はしてくれない――と、ここで新九郎が調停役として手を上げることになります。

 前巻、姉の嫁いだ駿河の今川家をはじめ、東国を訪れた新九郎。その時に新五郎とも知り合っていることを考えれば、適役といえるかもしれませんが――しかし荏原のアレコレで揉まれてきたとはいえ、こちらは大国の跡目争いであります。
 しかも駿河内部では収まらず、新五郎方は彼と関係の深い堀越公方・足利政知を味方につけ、それだけでなく、新五郎の縁者である扇谷上杉は、家宰である太田道灌を派遣してきたではありませんか。

 道灌といえば、扇谷上杉家を支えてきた名うてのツワモノ。そしてそれは物理的な面だけはなく政治面でも……


 というわけで、新九郎と道灌の対決(?)が描かれるこの巻。もともとこの今川家のお家騒動は、新九郎が初めてはっきりと歴史上にその名を残したと言われる、いわばデビュー戦のような扱いであり、そしてそこで道灌と対面したという説も残っています。
 史実ではここで調停案を取りまとめた(道灌にもそれを飲ませた)とされている新九郎。この巻の展開はそれを踏まえたものですが、しかしここで描かれるのは、ひたすら老練な道灌に翻弄される、若い新九郎の苦闘ぶりであります。

 本作においては、灰色の脳細胞が――とでも言い出しそうな、すっとぼけた風貌の道灌。本作では前巻、修善寺の湯で新九郎とはそうと知らない間に出会っているのですが――その時新九郎にはそうとわからなかったように、一歩間違えればギャグキャラのような道灌が、ここではとにかく恐ろしい。

 出方を伺うための様子見も、焦らすための駆け引きも全く効かず、それどころかそのダメなところを面と向かって小賢しいと指摘される新九郎。その様には、新入社員がベテラン社員に精神的「かわいがり」を受けているようで、社会人であればちょっと胃が痛くなりそうな印象すらあります。

 これまで新九郎が乱世の中で様々な試練に遭う本作でしたが、しかしここまで大きなプレッシャーを受けたことは――細川勝元や山名宗全と対面した時も含めて――なかったのではないでしょうか。
 それでも姉と甥を救うため、必死に情報を集め、ついに道灌の泣き所を掴んだ新九郎ですが……


 その描写のユニークさの一方で、史実に忠実な本作だからして、その結果は史料に示されるものと変わるものではありません。しかしその結果の陰の新九郎の想いはどうであったか。
 本作の漫画としての、つまりは画で描く歴史ドラマとしての面白さには常に感心させられてきましたが、この巻ではまたベクトルの違うドラマを見せていただいた思いです。

 ――というところでオチがこれか! とひっくり返ったところで(ある意味作者の原点回帰?)、まだまだ油断できないまま次巻に続きます。


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