2022.06.14

「コミック乱ツインズ」2022年7月号

 号数では今年も折り返しに入った「コミック乱ツインズ7月号」は、『そば屋幻庵』が巻頭カラー、新連載の『不便ですてきな江戸の町』が巻中カラー。その他、新連載で『そぞろ源内 大江戸さぐり控え帳』のほか、『軍鶏侍』が掲載されています。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介します。

『そば屋 幻庵』(かどたひろし&梶研吾)
 相変わらすびっくりするくらい美しい藤丸姐さんが表紙を飾っていますが(本編には未登場)、今回のヒロインは牧野家の女中のおみつ。買い物帰りに白玉(これがまた本当に美味しそう)に惹かれていたところを玄太郎に見つかり、一緒に辻占煎餅を食べるおみつですが、二日以内に五回転ぶと牧野家にも大災厄が及ぶという占いが……

 思わぬことで窮地に陥ったおみつと牧野家を救うために、玄太郎が幻庵として作った蕎麦は――これがまた猛烈に旨そうなのですが、何よりも印象に残るのは、御家の危機とはいえ、おみつを親身に気遣う玄太郎と牧野家の人々。『勘定吟味役異聞』でイヤな上司を見ているだけに(?)、実に暖かく感じます。


『そぞろ源内 大江戸さぐり控え帳』(叶精作&天沢彰)
 今回からスタートの本作は、タイトルから察せられるように平賀源内を主人公とした探偵もの。まだ高松藩士だった頃、江戸留学中の源内が、その本草学の知識と頭脳の冴えで様々な事件に挑む物語となるようです。
 第一回のサブタイトルは「血を吸う女」――知り合いの同心・浅間和之助から、立て続けに三人見つかった全身から体の血を抜かれた死体の謎解きを依頼された源内が、妖しげな美女に接近することになります。

 初回ながら次々とレギュラーらしきキャラが登場、それが全員顔見知りなのでこれまでにシリーズ連載されていたのかと思ってしまったりしましたが、この時期の源内を主人公とするのはなかなか面白い。
 また面白いといえば、優等生的なイメージのある杉田玄白が、「人を刻んだ後は甘い物がうまい!!」とかいいだす変態監察医系キャラなのも実にユニークであります。


『ビジャの女王』(森秀樹)
 王の死によって、後継者を決めるべく開かれたビジャロマ会議。継承権を持つも明らかにクズのヤヴェ王子と、持たないオッド姫とどちらを後継者とするか、会議は紛糾を続けます。ここでヤヴェを推すジファルの策によってあっさりと民衆はヤヴェに靡き、勝負あったかに見えたのですが……
 以前描かれたジファルの弱点というか良心を意外な人物が動かし、意外な展開に繋がっていくと思いきや、さらにラストにどんでん返しが待ち受ける今回。おそらくラストに登場したのは、前回もチラリと登場したあのキャラだと思いますが、さて事態はどう転ぶことでしょうか。


『かきすて!』(艶々)
 娘三人の江戸への旅から、旅芸人かと思いきや実は隠密だったおナツ一人の江戸からの旅と、意外な方向に物語が展開した本作。第二シリーズの初回というべき今回は、東海道を西に進むおナツが、途中の宿場で特産品を作る父娘と関わり合うことになります。
 その特産品というのが、わかる人には一発でわかるアレで、ナツがある意味大変な目に遭うのが気の毒というか実に可笑しいのですが――おナツ一人になることで、物語の展開も身軽になったのは良かったと思います。


『仕掛人めし噺 藤枝梅安歳食記』(武村勇治&池波正太郎(原案))
 深川と神田明神下を舞台とする今回、梅安たちは全く登場せず、主人公を務めるのはまさかの音羽の半右衛門とおくら。ある意味非常にスピンオフらしい展開ですが、すっぽんと鰻、登場する料理はこれまで以上に旨そうに見えます。
 が、最も印象的なのはそのオチ。こうくる!? と驚かされつつ、何だか可愛らしく見えてしまった時点で、本作の勝ちでしょう。


『列士満』(松本次郎)
 初陣で水戸天狗党討伐に投入されるも、いきなり夜襲を受けて壊滅寸前となった幕府の陸軍歩兵隊。その中で、仲間を逃して一人奮戦するスエキチですが、敵の隊長に大苦戦することに――という今回、スエキチと天狗党の、緊迫感があるんだかのんびりしているんだかわからない妙な空気感の戦いは、この作者ならではというべきでしょう。
 しかしクライマックス、夜の山で繰り広げられる一騎打ち(その理由がまたスゴい)の不穏な迫力はさすがの一言。結末の苦さ虚しさも印象に残ります。


 次号は『暁の犬』『カムヤライド』『勘定吟味役異聞』が連載再開であります。


「コミック乱ツインズ」2022年7月号(リイド社) Amazon

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2022.05.30

岩崎陽子『無頼 魔都覚醒』第2巻 無頼完結 池田屋事件、そして斎藤が見せた顔

 岩崎陽子による新選組漫画『無頼 魔都覚醒』の第二巻にして最終巻であります。天海外法陣の封印が解かれたためか、不穏な空気が漂う京。その京を焼き払おうという暴挙に対して立ち上がる新選組の戦いが、池田屋を舞台に繰り広げられます。しかしその最中に沖田が血を吐いたことを知った斎藤は……

 謎の水晶髑髏争奪戦に巻き込まれたことがきっかけで、京の霊的封印・天海外法陣の存在を知った斎藤と沖田。幕府からその解放を依頼された医師・平賀に協力することとなった二人は、儀式の警護に当たるのですが――しかし儀式は河上彦斎の妨害によって中途半端な形で終わり、斎藤は封印の不完全な解放が、かえって悪影響を招く可能性があると聞かされるのでした。

 そんな中、新選組は枡屋喜右衛門こと古高俊太郎を捕縛、長州志士によって京の町を焼き払う計画が進められていることを知ることに……

 というわけで、この巻の一つのクライマックスとして描かれるのが池田屋事件。新選組史においてもクライマックスの一つというべき事件ですが、本作においては、さらに大きな意味を持つといえます。
 何故ならば本作の主人公・斎藤一の親友であり、もう一人の主人公ともいえる沖田総が、戦いの中で吐血、昏倒するのですから……

 これまで、何かと悩み込み沈み込みがちな斎藤に対して、時にツッコミを入れ、時に手荒い叱咤激励を行い、友情を育んできた沖田。この巻の冒頭でも、封印解除失敗のことを悩んだ末に切腹(極端)しようとした斎藤を、「半端な死に方だけは許さない」と叱咤していたのですが――その彼が、明日をも知れぬ命となるとは。

 (体調維持のための努力はするけれども、今と変わらず任務をこなしたいにという沖田の無茶なオーダーの下での)平賀の見立てでは一年が限界――偶然その事実を知ってしまった斎藤が、動揺しないはずがありません。
 しかしある意味作中一の強情っぱりの沖田が、養生しろという斎藤の言葉を聞くはずもなく、ついに斎藤は沖田に言うことを聞かせるために勝負を挑むことに……


 互いを親友と認めつつも、それぞれ不器用かつ面倒くさい性格故に、しばしばぶつかり合ってきた二人。しかしここでの激突ほど、緊迫感に満ちたものはこれまでなかったといえるでしょう。そしてその決着の後に、斎藤が見せた顔ほど、印象に残るものはなかったとも。
 斎藤と沖田の関係性がある意味最も鮮烈に描かれたこの場面は、結果として『無頼』『魔都覚醒』を通じて最大のクライマックスであったと感じます。


 その後に描かれるのは、河上彦斎との対決と不思議な共感(有名な彦斎の「はじめて「人」を斬った」発言がこう使われるとは!)や山南の悩み、そして禁門の変。
 そして平賀と勝海舟、坂本龍馬の密談によって、日本の霊的改造が始動することが匂わされるのですが――ここでなんと、掲載誌の路線変更により、物語は唐突に連載終了。いやはや、まだまだ新選組の、そして斎藤と沖田のドラマはこの先もあったはずなのに……


 しかしこの電子書籍版には、その後発表された「菊一文字」「蒼天」の二編が収録されています。

 「菊一文字」は、池田屋事件から三ヶ月後を舞台に、その時に加州清光を折ってしまった沖田と、とある神社から新選組に持ち込まれた「菊一文字」を巡る物語。沖田が菊一文字を手にしていたというよく知られた巷説をベースに一捻り加えた展開もさることながら、沖田が神社に死蔵されていた菊一文字に己を重ねる姿と、変わらぬ斎藤との友情が印象に残ります。

 また「蒼天」は、本編では出番の少なかった藤堂平助の視点から、油小路事件を描く一編。ある意味「新選組」の終わりを痛切に感じさせるこの事件ですが、そこに「先駆け先生」と異名を取った藤堂の複雑な内心と、その先の皮肉かつ切ない結末を絡めた内容は、本作の青春ものの側面が色濃く出ています。
 そしてラストでは鳥羽・伏見の戦いの戦いが描かれるのですが――そこでのある史実を一種の餞として捉える結末も見事としか言いようがありません。
(にしても御陵衛士襲撃を土方が決断した理由も凄い……)

 そんなわけでボーナストラック的な扱いながら、本編のその後を描く物語として、見事な内容であったこの二編。できればこういうスタイルでも構わないので、さらにこの先を読みたかった――というのはもちろん読者の我儘なのですが、しかし改めてそんなことを考えさせられてしまう佳品なのです。


『無頼 魔都覚醒』第2巻(岩崎陽子 ナンバーナイン) Amazon

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2022.05.17

「コミック乱ツインズ」2022年6月号(その一)

 号数の上ではもう今年も半分になった「コミック乱ツインズ」6月号は、表紙『侠客』、巻頭カラーが『ビジャの女王』。新連載が『列士満』と『江戸時代のちいさな話』、シリーズ連載・読み切りで『風雲ピヨもっこす』『雑兵物語 明日はどっちへ』『玉転師』が掲載と、フレッシュな誌面です。今回も印象に残った作品を一つずつ取り上げましょう。

『ビジャの女王』(森秀樹)
 新展開突入といった印象の今回、これまで幾度か言及されてきたオッド王女の兄・ヤヴェ王子が登場するのですが――そもそもこの王子、この非常事態に今までどこにいたかといえば初めからビジャにいたのですが、これまであまりの不行跡で廃嫡同然に幽閉されていたという状態。貧弱なのに凶暴というどうしようもない人物ですが、そのビジュアルも目つきの悪いうらなりという感じで、これだけ魅力のない人物も珍しいほどであります。

 それでも王亡き後の継承権を持つ王子、しかしこの非常事態に――というわけで重臣たちも頭を抱えますが、ここでジファルの提案で円卓会議が開催されることになります。参加者の大多数によって決定というこの時代には民主的にも見えるシステムですが、ジファルが甘言を弄して重臣たちの間には動揺が広がり、そしてヤヴェ自身もラジンと結んでやろうというどうしようもない状態に……
 しかしそのラジンの側にも身内の敵が――と、この先、再び嵐の予感であります。


『仕掛人めし噺 藤枝梅安歳食記』(武村勇治&池波正太郎(原案))
 本編の合間を縫って描かれる本作、今回は小杉さん登場後――小杉さんが梅安と彦さんの二人をお気に入りの店に連れてくるというエピソード。この店、原作にも登場する鮒宗ですが、子供時代に浪々の身の父とともに極貧に喘いでいた小杉さんが、いかにも曰く有りげな鮒宗の主人に救われたという過去が描かれることになります。
 梅安と彦さんがひと目で鮒宗の主人が只者ではないと見抜く辺りもいいのですが、やはり印象に残るのは料理と、後は妙に可愛い子供時代の小杉さんでしょうか。今ではこんなゴツくなったのに……


『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 水野家の御家騒動も行き着くところまで行き、ついに二胴部隊による拝郷家老襲撃という最終手段を使うに至った反お国替え派。家老の命は辛うじて守られたものの、警護の藩士に幾人もの犠牲が――むしろ全滅でなかっただけよかったと思いますが、しかし人死にが出るほどの御家騒動が(あと、無関係の人間を実験台にする殺人部隊を抱えているのも)明るみになれば、御家がタダでは済みません。
 かくてこの二胴の殺人部隊壊滅に向けた動きが進む中、佐内は敵の中核であり、かつて自分を襲撃してきた――そして何よりも父の仇と目される怪剣士・川越恭之介を抑える役目を依頼されるのでした。これにはもちろん佐内も異論はないどころか、立木野らの助勢を断り、一対一の勝負を望む気合いの入れようであります。

 と、そんなことを密談場所の船宿で、終始覚悟の決まりまくった据わった目で語る佐内に対して、他の舟は出払っているので待とう――と飲み会の帰りに巧妙に二人きりになろうとする奴みたいなことを言い出す相楽。いや、久松さんも一緒なのですが、そこで彼らは、佐内にこの仕事を依頼した理由――佐内の父と二胴の刺客の因縁と、それが佐内の剣客としての魂にどのように働くか、それを測っていたという事実を語るのでした。

 それにしても今回の相楽、頼りになる先輩というか兄貴分というか、いつもと違う――という感じですが(でも顔とか首とか触る必要ないよね……)、それに対して、彼も驚くほど覚悟が決まりまくった返事を佐内は返します。
 しかしもはや無関係などとはいえないほどこの件が、そして自分自身が満枝さんと関わっていることを自覚した佐内は、この先何を思うのでしょうか?
(少なくとも、自分が満枝さんを残して亡くなったら、また益子屋が余計なことしそうだしね……)


 やはり長くなりましたので次回に続きます(今回は二回に収めます……)


「コミック乱ツインズ」2022年6月号(リイド社) Amazon

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2022.05.03

岩崎陽子『無頼 魔都覚醒』第1巻 天海外法陣! 水晶髑髏! 第二シリーズスタート

 岩崎陽子が斎藤一を主人公に描く新選組漫画『無頼』の第二シリーズの第一巻であります。物語のテイストは第一シリーズの冒頭にグッと近づき、斎藤と沖田は、謎の天海外法陣と水晶髑髏を巡る争いに巻き込まれることになります。京都の封印が解かれる時、はたして何が起きるというのか……

 芹沢鴨の粛清など紆余曲折を経つつも、近藤勇の元に団結した新選組。その名を慕って様々な者たちが集まりつつある一方で、隊としては具体的な成果を挙げることができず、隊士の間には徐々に不安が広がりつつありました。が、そこに奇怪な噂が次々と飛び込んでくることになります。
 相次ぐ新選組の怪我人の陰の呪詛、薪炭商・桝屋の周りで目撃されたという蝙蝠男、屯所近くの空き家で目撃された怪火――いずれの噂にも疑いの目を向けながらも、浪士が潜んでいてはと、件の空き家に調査に向かった斎藤は、そこで蝙蝠を思わせる黒い西洋服をまとった男と出会うのでした。

 そんな中、市内で密偵を行っていた最中に「京都封じ」「天海外法陣」という謎の言葉を聞きつけてきた山崎。一方斎藤は、謎の水晶でできた髑髏を手に逃走した浪士を追うも、浪士は行く手に現れた謎の武士に斬られるのですが――謎の武士の素顔が、自分のよく見知った相手であったことに、大きな衝撃を受けるのでした。

 そして斎藤と沖田の前にあの水晶髑髏片手に現れた西洋服の男――平賀は、二人に自分の手伝いをするように呼びかけ……


 新選組版Xファイルといった赴きで、超常現象や伝奇的要素をふんだんに取り入れてスタートした前作『無頼 BURAI』。しかし物語が進むに連れて、そうした要素はフェードアウトし、歴史ものとしての顔が全面に押し出されることとなりました。
 もちろんそれはそれで斎藤と沖田の絆など、本作ならではの要素を、作者ならではの美麗な画で読むことができたので不満はないのですが、やはり(私のような人間には)一抹の寂しさがあったのは事実であります。

 さて、前作は芹沢鴨の粛清(と、それに対する斎藤の屈託とその解消)を描いて終わりましたが、もちろん新選組にとってそれはあくまでも最初の一区切りにすぎません。
 かくて本作ではその後の新選組が描かれるのですが――これが副題に示されているように、嬉しいことにこれまで以上に伝奇色濃厚な内容なのです。

 謎の黒マントの医師・平賀深雪、京都封じの天海外法陣、その鍵となる謎の水晶髑髏、斎藤の隠された出自――と、もう嬉しくなってしまうようなガジェットと展開が目白押し。さらに新たな宿敵としてあの幕末四大人斬りの一人・河上彦斎(もちろん白皙の美形)が登場、沖田と激突するのですからたまらないのです。

 もちろん新選組要素についても言うまでもありません。この巻の舞台となっているのは、芹沢粛清から池田屋事件までのある意味大きな事件がなかった時期。その時期特有の隊士たちの倦怠や動揺を物語に取り込むことにより、土方の言葉を借りればまだ馬のホネだった新選組の姿を、ここでは巧みに浮き彫りにしていると感じます。

 もちろんそんな時期だからといって、怪しげな天海の京都封じ探しに斎藤たちが巻き込まれるのは飛躍した展開にも見えるのですが、そこにきっちり伝奇的エクスキューズが入っているのも嬉しいところであります。
 そして物語のクライマックスにおいて、ついにその妖異極まりない姿を顕わにした封印の門。その封印が――という展開も、ビジュアルも相まって非常に印象的な名場面と感じます。


 その一方で、あの「桝屋」が登場したり、長州浪士たちが怪しげな動きを見せていたりと、この後の展開の準備も着々と進められているこの巻(そして沖田の体調も……)。
 いよいよ次巻では池田屋事件が描かれ、この『無頼』という物語の一つのクライマックスを迎えるのですが――そちらについてはまた次の機会に。

(そしてまあ、次巻が最終巻ではあるのですが……)


『無頼 魔都覚醒』第1巻(岩崎陽子 ナンバーナイン) Amazon

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2022.04.18

「コミック乱ツインズ」2022年5月号(その三)

 「コミック乱ツインズ」2022年5月号の紹介のその三、ラストであります。

『ビジャの女王』(森秀樹)
 ビジャが辛うじて蒙古軍の攻撃を退けてきた一方で、蒙古軍に敗れた末に大破壊・大虐殺が行われたバグダード。ビジャにとって大きな痛手となったのは、そこで治療していたオッド姫の父・ハマダン王が、蒙古軍に捕らわれたことであります。はたしてビジャを包囲するラジン軍に引き渡され、磔台に晒し者にされるハマダン王。問題は、その王の安否ですが――と思いきや、意外とハマダン王に関してはあっさりと決着(?)し、今回はなんとジファルの描写がメインとなります。
 ビジャの若き宰相でありながら、王位の簒奪を狙い、蒙古軍と内通して利用せんと企むジファル。その言動は典型的な裏切り小才子という印象でしたが――今回描かれるのは、それとは全く異なる彼の顔なのです。

蒙古軍に完膚なきまでに蹂躙されたバグダードにあった当時世界一の学び舎であり知識の宝庫「知恵の館」――蒙古軍に焼かれ、学者たちも皆殺しの憂き目に遭うことになったそここそは、かつてジファルも学んだ場所。それを知ったジファルは、涙を流して激怒し、蒙古皆殺しを叫ぶではありませんか。
 そしてブブが見せるインド墨家の科学力に素直に尊敬の念を抱き、万が一の時のために自分が写本した学問の書を彼に託し、人類の発展に役立てるよう頼むジファル。もしかしてジファルは実は結構イイやつ、もしくはバグダードを焼かれて目が覚めたのか!? と思いきや、ビジャを簒奪し、蒙古軍を利用して成り上がろうという野心はそのまま……

 今回のサブタイトル「善と悪のジファル」のとおり、大きな二面性を見せたジファル。しかし彼にとってはどちらも自分、二つの顔が矛盾なく尊大しているようですが――典型的などとはとんでもない、複雑なキャラクターを露わにしたジファルもまた、本作の重要人物であることは間違いありません。


『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
 城を手に入れ浦上宗景の命をこなして信頼を勝ち取った末に、重臣・中山信正の娘と結婚するよう命じられる直家。とりあえずこれで当時の武士としては立派に一人前となり、政略結婚とはいえ妻との間には娘たちも生まれ――と、良いことずくめのようですが、「政略結婚」「娘」と宇喜多的にはズンと重いワードが並びます。

 それはまだ先のこととして、気持ちは通じ合ってはいないものの、それなりに彼のことを理解している妻と、タイプは全く違うもののそれなりに人物であるらしい義父とそつなく付き合ってきた直家ですが、そんなところに宗景からの新たな指令が。それは最近宗景から距離を起き始めた島村盛実の抹殺――直家にとっては仇である盛実を討つ大義名分が出来たと燃える直家ですが、しかし宗景は抹殺対象にもう一人の人物の名を挙げて……

 と、まさに大義親を滅すという状況になってしまった直家。後世のイメージからすれば、喜んでやりかねないような気もしますが、さて……


『カムヤライド』(久正人)
 前回、驚愕の「殖す葬る」対決が描かれた本作。一回で終わりかと思いきや、ノツチの家を急襲した黒盾隊がトラップに翻弄されている間も、まだまだ激闘は続きます。

 ノツチとマリアチ、どちらのチームも戦力になる人間とならない人間がハッキリと分かれる中、モンコを監視に来てマリアチチームの助っ人になった大王の密偵・タケゥチは話術(?)・体術で活躍。もう一人の助っ人にして実は天津神のコヤネは、ぞっこんのモンコに見とれて役に立たずと、もうやりたい放題です(そしてまたキノが例のポーズを)。
 と、本当にどうするんだこれ、という状況ですが、まだまだ試合はエスカレート。手段を選ばないことでは定評のある師匠の能力バトルみたいなトラップ設置から、ついにモンコが、そしてコヤネが……

 いやはや、まだ前回の方がまともに野球(野球言うな)していたというおそろしいことになってしまった今回。しかしそんな中でもタケゥチは目的のものを見つけ、そしてラストにはついに二人が互いの正体を(?)と、次回は死闘待ったなしの状況であります。ここにさらにオウスも加わればどういうことになるのか――本当の戦いはここからです。

 しかしトレホ親方さぁ……


 次号は『雑兵物語 明日はどっちへ』(やまさき拓味)が掲載。『列士満』(松本次郎)、『江戸時代のちいさな話』(笹井さゆり)と新連載もスタートします。


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2022.04.16

「コミック乱ツインズ」2022年5月号(その一)

 今月の「コミック乱ツインズ」は、表紙が『勘定吟味役異聞』、巻頭カラーが『はんなり半次郎』。また、久々に『かきすて』が登場です。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介していきます。

『はんなり半次郎』(叶精作&篁千夏)
 求善賈堂のいつもの面々に助けを求めてきた、祇園の料亭の次板・太郎左。店の主人が患い込み、太郎左が恋仲の店の娘と結婚して暖簾を継ぐはずが、既に暖簾分けされた兄弟子の藤吉が現れて、料理勝負することになったというのですが――料理の腕はどう考えてもあちらが上。弱りきっている太郎左に、半次郎は南蛮渡来の食材と調味料の数々を提供して……

 本作で骨董品ネタと並んで多かった印象のある南蛮渡来の風物ネタに料理ネタが絡んだ、読んでいてお腹が空く今回。正直なところ、これは腕の勝負ではなく、食材と調味料の差で勝負しているようにしか見えないのですが――まあ話の裏はほとんど見えている状態でしたし、展開として非常に爽やかなのでこれはこれでOKでしょう。

 ……と、最終ページまで来てひっくり返ったのですが、本作は今回が最終回。これから明るい未来が来るかもしれないから頑張ろう的なラストですが、そこで半次郎たちとニコニコしている土方はこの後――と思うと、ちょっと落ち着かない気分になったというのが正直なところです。


『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 二胴の暗殺者との激突に向け、己の生を擲つ覚悟で剣を磨いていた最中の佐内のもとに飛び込んできた悲報。それは数日前から行方不明となっていた根岸が、恐れていた通りの姿で見つかったという報せでした。その発見場所に向かった佐内が見たのは、根岸が、おびき出しに使われた馴染みの女とともに、こう、二胴の実験台にされた後で……(露骨に描かれなくても、顔や体の位置関係でどんな状態かわかってしまうのがキツい)
 しかしここで真の鬼っぷりを感じさせたのは、彼らの雇用主たる益子屋。この惨憺たる有様のところに、根岸の妻女を招いて根岸と対面させるという――いやいや、もう少し色々な意味で整えてからにしましょうよ!

 それはさておき、これは曲がりなりにも彼の許嫁である満枝が、同様に自分を誘き出すための犠牲にされかねないという、佐内にとっては最も恐ろしい事態を示すものでもあります。そうとは知らず、最近ろくに食事も取っていないという佐内のために甲斐甲斐しく手料理を作って待つ満枝ですが、彼女が心配すぎる(さりとて事情を打ち明けるわけにもいかない)佐内に頭から怒鳴りつけられ、一人家路を辿ることに――と、これはかなりマズいシチュエーションではありませんか。
 はたして惨劇がまたも繰り返されるのか!? と不安になりましたが、これは彼女のことも知っているあの人の手配りでしょうか――本作でひたすらシブく仕事をキメてきたあの人がここでもナイスフォロー。まずはホッと一息であります。

 しかし、状況は佐内一人の思惑など関係ない場所で動き始めます。元々この暗闘は、水野忠邦家中での勢力争い――その片割れであり、二胴の暗殺者たちを擁する二本松・大道寺派が決着を急ぎ、ラストには思わぬ大殺陣が展開することになります。一歩間違えれば佐内の戦いも全く事情が変わりかねないこの状況がどちらに転ぶことになるのか――クライマックスは目前という印象であります。

 ちなみに今回、水野忠成の用人・土方なる人物が登場しましたが、時代ものでは悪役が多い土方縫殿助のことでしょう。本作では結構普通のおじさんでしたが……


『仕掛人 めし噺 藤枝梅安歳食記』(武村勇治&池波正太郎(原案))
 前回からスタートしたグルメスピンオフ、今回描かれるのは、梅安の相棒といえばもちろんこの人、彦さんとの二人旅。タイミング的には本編の「殺しの四人」と「秋風二人旅」の間のエピソード――というか「秋風二人旅」の冒頭の語られざる物語であります。

 といっても内容の方は、梅安と彦さんがお伊勢参りの前後に芋川うどんを、伊賀のぼたん鍋を食べまくるという食デート回。いやはや、こんなに楽しく生きてるんだったら仕掛けなんて手を染めなくてもいいのに――と勝手なことを考えてしまいますが、そこで彦さんがフッと重い影を覗かせたところで、ラストは「秋風二人旅」に繋がって終わります。

 前回の内容も考えると、このまま本編の流れを追いながら、その合間の梅安たちの食の姿が描かれるということになる様子で、これはなかなか楽しい企画です。


 恐縮ですが長くなりますので次回に続きます(全三回予定)。


「コミック乱ツインズ」2022年5月号(リイド社) Amazon

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2022.04.08

秋本治『BLACK TIGER』第1-3巻 最強の女ガンマン、西部(と幕末)を行く

 『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の秋本治が、同作の終了後に連載中の西部劇アクション漫画であります。南北戦争直後の時代、殺しの許可証を持つブラックメンバーの一人にして美貌の超人的ガンマン・ブラックティガーの活躍を描く連作シリーズです。

 西部のとある町で、20人の賞金首が待ち受ける酒場に真っ正面からたった一人で乗り込んだ全身黒ずくめの女ガンマン。瞬く間に全員を片づけてのけた彼女、ブラックティガーこそは、合衆国政府が選んだブラックナンバーの一人――南北戦争後に急激に悪化した南部の治安維持のため、殺人許可証を与えられた凄腕の賞金稼ぎだったのであります。

 そして酒場に居合わせた闇医者のドクター・ウエキを証人に、賞金30万ドルを受け取ったブラックティガーしかしその晩、墓場に埋葬した賞金首の死体が墓場から起き上がり、保安官を殴り殺すという怪事件が発生することになります。
 生ける死体はブラックティガーが倒したものの、その直後に襲撃された彼女は、不意を突かれて捕らわれ、ある研究施設に連行されることになります。

 そこは人体に特殊なウィルスを寄生させて不死の兵士を産み出す秘密兵器・覚醒人間の研究を行っていた南軍残党の研究所。実は「南」のスパイだったウエキを巻き込んで拘束からは逃れたものの、覚醒人間たちの群れが迫る中、ブラックティガーの運命は……


 これまで読切やシリーズ連載作品でしばしばアクションものを描き、また「こち亀」作中でも折りに触れてアクション志向と、ミリタリーやガンマニアぶりをアピールしてきた作者。本作は、そんな作者の趣味がギュッと詰まったハードアクション漫画であります。

 上に述べた第1話はかなり伝奇風味、というかSF風味も入っていますが(そしてそれはそれで本作の基調にもなっているのですが)、しかし本作の基本はあくまでも西部劇。この後に続くエピソードは、ロングドライブあり、ゴールドラッシュあり、騎兵隊と原住民の争いあり――ブラックティガーはウエキを子分代わりに駆け抜けるのは、このどこか懐かしい世界なのです。

 それにしても、時代劇がいまでもそれなり以上に命脈を保っている一方で、(特に国産という点では)非常に寂しい状況にある西部劇。その西部劇を、それも娯楽路線まっただ中を行く作品が、こうして描かれるとは、と思わず感慨深くなります。

 ちなみに以前より望月三起也ファンを公言している作者ですが、本作はその望月ガンアクションへのオマージュの色彩も強い作品。
 特に、スミス&ウェッソンのオリジナルカスタムリボルバーを使うブラックティガーと、同じブラックナンバーである自動拳銃使いのブラックジャガーの決闘の結末など、大いに「らしさ」を感じるところであります。

 その一方で、あまりにブラックティガーの超人的身体能力(むしろその超人ぶりは寺沢武一的なものを感じます)が前面に出すぎていて、もう少し銃撃戦にテクニカルな面が描かれてくれれば、というのも正直な感想ではあるのですが……
 とはいえ、拳銃だけでなく、鉄道や船なども含めた大小さまざまなガジェットを見ているだけで楽しくなってしまうのは、間違いのないところであります。


 さて、本作は現時点で第9巻まで発売されているのですが、今回第3巻まで取り上げたのは、第3巻になんと日本編が収録されているからであります。

 宿敵である「南」のマッドサイエンティスト、ドクター・ノアを追って(第2巻に収録されたこの前のエピソードではフランスでティガーと対決)、実は日本人であったウエキを案内役に、海援隊の教官という名目で来日したティガー。
 折しも京では沖田総司が何者かに殺され(!)、その背後にドクター・ノアが開発したある兵器の影が……

 と、物語はここから竜馬暗殺、鳥羽・伏見の戦いへと突入、その背後で異形の戦いが――と、一大時代伝奇活劇に展開。上で西部劇云々と言っておいて結局それか、という流れになって大変恐縮ですが、しかしこれはこれで、番外編としては大いに魅力的な内容なのであります。
(そして何故か脇役で宮川伸吉が登場するのにちょっとびっくり)

 ちなみに沖田のことについては結局何のフォローもなかったのですが、それはそれで伝奇ものにはよくあることということで……


『BLACK TIGER』(秋本治 集英社ヤングジャンプコミックス) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon/ 第3巻 Amazon

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2022.04.06

岩崎陽子『無頼 BURAI』第5巻 芹沢粛正と、彼にとっての新選組の意味

 斎藤一を主人公に、新選組に集った者たちの姿を描く『無頼 BURAI』ひとまずの区切りの巻であります。試衛館派と芹沢派の関係が悪化の一途を辿る中、何とか打開の道を探そうとする斎藤。しかし時既に遅く最悪の事態が発生、わだかまりを抱えた斎藤は……

 大坂での力士との乱闘事件、大和屋砲撃と、いよいよ乱行を極める芹沢鴨の行動。手打ちの相撲興行を巡って近藤を侮辱され、怒りに燃える土方は、新見錦の内通の証拠を押さえ、新見は全ての責は自分にあると切腹して果てることになります。
 そこで新見に芹沢を託される形となった斎藤は、試衛館派に微妙な違和感を感じ、さりとてもちろん芹沢派につくでもなく、双方とのしがらみに悩むことになります。

 一方、以前より関わりがあった奥州脱藩浪士、実は会津藩国元の隠し目付・高本貞司郎が、内側から新選組を知りたいと入隊。さらに増えた悩みの種に頭を抱える斎藤ですが、高本は外からではわからない隊士たちの真摯な姿に、会津藩の側が新選組を見下していたことに気付くのでした。

 そんな中、浪士たちの襲撃を受けた芹沢を助けに入った斎藤は、そこで天狗党の亡霊たち相手に刀を振るう芹沢と、彼の周囲の巨大な虚無を目の当たりにすることになります。
 斎藤に対して面影の井戸を引き合いに出し、自分にとって確かに見えていたはずの未来が見えなくなったと語る芹沢。芹沢も自分たちと変わらないと悟った斎藤は、土方に芹沢排除を待つよう訴えるのですが、時既に遅く……


 新選組もので最初の山場というべき(そして結構ここで終了する漫画も多い)芹沢粛清。本作もこのひとまずの最終巻で芹沢の最期が描かれるのですが――注目すべきは、その粛清のその時は直接描かれず、むしろ「そこから先」にページを割いていることでしょうか。

 芹沢暗殺には土方・沖田・原田が加わっていたというのが一般的な説ですが、本作もそれを採用。だとすれば斎藤はその場にいなかったわけで、斎藤が結果のみを知ることになるのはむしろ当然ですが――本作では、それがむしろ大きな意味を持っています。
 なりゆきから沖田をはじめとする試衛館組と行動を共にしながらも、必ずしも彼らと一心同体ではない斎藤。そして(人一倍悩みやすいこともあって)そこから生じる微妙な隙間風を感じてきた彼にとって、この事件は小さなものであるはずがありません。

 そこに当の沖田も、彼には全くそんなそぶりも見せずに加わっていた――というのに加えて、さらに高本から芹沢排除は会津藩の指示だったことを聞かされる斎藤。はからずも芹沢の人間的な部分を見てしまっただけに、更に彼の心は乱れることになるのですが……


 新選組参加後の足取りが(それなりに)判明しているのに比べると、それ以前の行動や、ましてや人となりもほとんど伝わっていない斎藤一。にもかかわらず(あるいはだからこそ)新選組ものの主人公となることが少なくない斎藤ですが、本作は彼に、武士としての信念を持ちながらも同時に繊細な感性を持つ――そしてだからこそ様々な「現実」に悩み続ける青年という個性を与えました。

 その個性ゆえに己のあるべき場所と、そこで共に生きる者を持ってこなかった彼が、初めて得た「新選組」という場所と仲間たち。しかしそこが同士討ちも辞さぬ場だとしたら、そして心を開いた相手がその手を下したとしたら――この巻で描かれるのは、その悩みであります。

 こうしたある意味パーソナルな視点に加え、ここではさらに、高本という外部の視点を通じて、会津にとって新選組は何なのか? という、歴史ものとしての問いがなされることになります。
 それは言うまでもなく、新選組とは何だったのか、という問いかけとイコールであるわけですが――もちろんそこに一つの、本作らしい答えが出ることは言うまでもありません。

 それをここで述べるのは野暮というものですが、物語のラストで斎藤が土方に告げた言葉は、その後の彼の行動を思えば、何とも重みがあるというほかありません。

 そしてもう一つ、高本の「正体」ですが――実は○○というのはすぐにわかったものの、まさか本名が××だったというのにはさすがに仰天。確かに実家はアレなんですが……


 さて、本作はこの第五巻で完結ですが、伝奇度をパワーアップさせて、第二シリーズである『無頼 魔都覚醒』にそのまま繋がることになります。こちらももちろん、近日中に紹介させていただく予定です。


『無頼 BURAI』第5巻(岩崎陽子 ナンバーナイン) Amazon

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2022.03.30

瀬川貴次『ばけもの好む中将 十一 秋草尽くし』 二人の絆の危機、老女たちの危機!?

 怪異を愛するあまりばけもの好む中将と呼ばれる左近衛中将・宣能と、彼に毎回付き合わされる十二人の姉がいる右兵衛佐・宗孝の姿を描く本シリーズも、いよいよ佳境に入った感があります。これまで強い絆で結ばれていた(?)二人の間に入った小さなヒビ。さらに思わぬ大事件が発生して……

 「秋草尽くし」とあるとおり、竜胆・桔梗・撫子・女郎花・藤袴・萩・尾花と、葛が竜胆に替わっているほかは秋の七草を副題とした七章から構成されている本作。
 前作は平安初の眼鏡っ子爆誕など愉快な部分もありましたが、今回はかなりの部分でシリアスな物語が展開していくことになります。

 思わぬことから多情丸の告発状を手にしてしまったことをきっかけに、多情丸が宣能にとって仇であり、今も復讐の機会を狙っていると知ってしまった宗孝。
 いつもの怪異巡りの際に、意を決して危険なことは止めるよう訴える宗孝ですが、宣能の決意は固く、二人の間にはぎくしゃくした空気が流れることになります。

 そこでこういう時に頼りになりそうな姉・十郎太に会うため、皇太后に仕える彼女に渡りをつけようと、彼女の部下で元盗賊の双子・朝顔と夕顔と文をやりとりする宗孝ですが――おかげで彼が双子を両天秤にかけているなどと、あらぬ噂が立つこと。
 しかも間が悪いことに、彼女たちへの文が初草の手に渡ってしまったではありませんか。

 しかし本当に困った事態はこれから。以前、初草と東宮と真白の三角関係がきっかけで、稲荷社の暴走老女集団・専女衆が弘徽殿の女御を死霊のふりをして脅かしたことが、当の女御にバレてしまったのであります。
 当然激怒した女御が専女衆へ報復するように右大臣にねじ込み、専女衆に危機が迫る中、宗孝と宣能の絆にも危機が……


 ここのところ、物語の縦糸として展開してきた、宣能と多情丸の因縁。京の暗黒街を支配する男であると同時に、宣能の父である右大臣と結んで後ろ暗い仕事を一手に引き受けてきた多情丸は、悪人というものがほとんど登場しない本シリーズにおいて、唯一、完全な邪悪というべき存在であります。

 そしてかつて自分を庇った乳母を殺した仇であると同時に、自分が最も嫌悪する父の負の部分の象徴というべき多情丸は、宣能にとって、二重の意味で憎んでも余りある相手。しかし宗孝にとって、前者の感情は理解できても、後者は無理(というよりも知らない)というものであります。
 それが今回表面化した二人のすれ違いの原因であり、そして今のところ二人が真に理解し得ない理由といってよいのではないでしょうか。

 もちろんそれは、二人が互いを信頼してないということでは決してありません。それどころか、宣能にとって宗孝は、自分にとってかけがえのない宝でありある意味良心というべき存在――初草を託すに足る相手なのですから。
 しかしそれは同時に、極めて危うい感情とも感じられます。初草を宗孝に託すことができれば、自分は安心して闇落ちできる――宣能はそう考えているのではないか、と。

 そしてそれは宗孝を重んじ、慮っているようでいて、実は彼を完全に信頼していない――さらにキツいことを言ってしまえば、宗孝を自分の良心代わりという名の道具にしているともいえるのではないか、とも感じられます。
 宣能が宗孝に自分の胸中を完全に明かすことができた時――その時こそが、二人が互いを完全に理解したことになるのでしょう。そして宗孝が宣能の複雑な胸中を受け止めることができないはずはないと、これまで二人の姿を見てきた読者であれば、自信を持っていえるはずです。


 しかし、二人にはもはやあまり時間はないように感じられます。クライマックスで宣能が取った行動は、もちろんやむを得ないものであるとはいえ、父親のやり方とあまり変わらないといえるでしょう。そして今回様々な知識を得てしまった多情丸の矛先がどこに向かうか――それを考えただけでゾッとするものがあります。

 夜明け前が最も暗いと申しますが、今がその時であってほしい――心よりそう感じる展開です。


『ばけもの好む中将 十一 秋草尽くし』(瀬川貴次 集英社文庫) Amazon

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2022.03.28

『半妖の夜叉姫』 第48話「永遠に続く未来」

 犬夜叉の手を借りて無事借金を完済したもろは。一方、とわとせつなは、殺生丸が届けた反物を仕立てた着物をりんからもらい、父の真意を訝しむ。そこにやってきたもろはは、屍屋に持ち込まれた西国での妖怪退治の依頼を持ちかける。その依頼人とは……

 ついに最終回の今回、麒麟丸を巡る物語は前回でほぼ終了し、その後の三姫たちの姿が描かれることになります。

 冒頭で描かれるのは、氷雪を操る妖怪と戦うもろはと犬夜叉の姿。二人で妖怪退治を始めたのかと思いきや、娘が借金生活者だったのを知ったかごめが激おこの上、犬夜叉に手助けを厳命したのであります(しかもこの借金、返す機会があったのに敢えて残していたと知ったら、かごめがどんな顔をするか……)。さすがに父娘の連携はバッチリで、なかなか強そうだった妖怪もあっさり倒してしまうことになります。しかしこの戦いの最中、相手の氷の息で手を凍らされた犬夜叉が、めんどくせえとばかりに氷の部分をガンガン叩いて砕くあたりが滅茶苦茶らしい感じでありました。
 さて、無事に屍屋への借金を返済したもろはですが、そこに妖怪退治を依頼したいという、どこかで聞いたような声の覆面の若者が現れます。

 一方、りんから新しい着物をプレゼントされるとわとせつな。りんは殺生丸が届けてきた反物を仕立てたというのですが――とわが高かったのではと妙な心配をするのは可笑しい一方で、殺生丸のことだから限度知らずでもの凄い高級品を買ってきそうだよな、という気はいたします。
 それはさておき、今ごろになって父親っぽい顔をする殺生丸に娘たちは不審な顔。そもそも最初から助けてくれればこんな苦労はしなかったのに――というとわの疑問は身も蓋もありませんが、まあ客観的に見れば放置もいいところだったわけで、その辺りの気持ちはごもっともといえます。しかしせつなは一回、とわも精神的に一回死んでいると言われて、私も死んだことあるわよーとあっけらかんと言うりんは、やっぱり殺生丸の奥さんに向いていると思います。(しかも二回死んだしな……)

 さて、何だかんだで着物姿となったとわとせつなのところにやってきたのは、同様に母に仕立ててもらった着物を着たもろは。三人がエンディングと同じ姿になったのはちょっとしたサービスというべきかもしれませんが、殺生丸の真意をいまだに掴みかねている二人に対して、半妖でも強く生きていけるようにするためだよ! と言い切るもろはは、らしいっちゃらしいというべきでしょうか。かなり当たっているのだとは思いますが。
 それはともかく、面白い依頼が入ったからと二人を屍屋に連れて行くもろはですが、そこで待っていたのは、鹿猪と名乗るあの謎の青年。と、ここでさりげなく(?)もろはたちはとわを残して屍屋から出ていき、そして残されたとわは――鹿猪に対して壁ドン一撃! たまらず正体を現したのは理玖――まあ、登場した時から福山潤の声で喋ってるんですから、誰にでも一目瞭然ではあります。

 しかしまあ前回希林理の刃をくらって消滅、しかも本体である麒麟丸も成仏したのに何故? とせつなならずとも言いたくなりますが、その理由が麒麟丸とりおんが魂と魄を分けてくれたから――とまたえらいアバウト。しかし元々が人造生命なので、これはこれでありなのかもしれません。もっとも、どうやら今回は人間(妖怪?)に生まれ変わったようですが……
 何はともあれ、とわにとって理玖も復活したしめでたしめでたし、翡翠の自分への気持ちに全く気付いていないせつな、そもそもそういう話の全くなかったもろはと、三人(と理玖、何故か竹千代)は伊予に向かいます。そこでメインテーマをバックに、もろはが、そしてとわとせつなが襲いかかる妖怪たちの群れをなぎ倒し――『半妖の夜叉姫』、一巻の終わりであります。


 冒頭に述べたとおり、本筋は前回で終わったので今回は一回丸々使ってのエピローグ。正直なところ、作画にあまり力が入っていないのは残念でしたし、本当に後日談という以外ない内容でしたが、理玖が復活したのだけは意外だったかもしれません。

 前回触れたように、結局親は皆子供を想っているものなんだよ、というオチはちょっと微妙かなあという印象はありますが、血の繋らない日暮家(今回、現代で元気にやっている姿が流されたのは、嬉しいような切ないよいな)ととわの関係をみれば、あまり深く考えなくてもよいのかもしれません。
(麒麟丸とりおんの縁もプッツン切っていましたし……)

 まあ、いくらでも話を広げていけそうな結末自体は良かったと思います。それと娘たちの成長に、内心すごく嬉しそうな殺生丸も……


関連サイト
公式サイト

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