2020.06.21

「コミック乱ツインズ」2020年7月号(その二)

 白熱の激闘が続く「コミック乱ツインズ」7月号の紹介後編であります。今回紹介する作品も、激闘死闘の連続であります。

『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 文字通りの死闘の末に、ターゲットの一人を倒した佐内と根岸のコンビ。報酬を受け取りに益子屋を訪れた二人ですが、佐内は益子屋に、依頼人である水野家江戸家老・拝郷との関係を問うことになります。そして同じ頃、BL侍こと水野家徒目付・相良も、拝郷に益子屋との関係を問うのですが……

 言われてみればなるほど不思議ではある、益子屋と拝郷の出会いが語られる今回。大藩の家老と口入れ屋――それも裏稼業まで持っている男(怖いなあ人材派遣会社)が、直接の繋がりを持っているのは、尋常ではありませんが、そこに更に、佐内の父・小野寺友右衛門が関わるのですから見逃せません。
 これまでは凄惨な骸となった姿ばかり印象に残る友右衛門ですが、在りし日の姿は、佐内から甘さを抜いた渋みを足したような壮漢。そしてその腕前は――まさしく剛剣と呼ぶべき凄まじさであります。

 そして自分と水野家の関わりが、ある種因縁めいたものと知った佐内ですが……


『カムヤライド』(久正人)
 アマツ・ミラール、アマツ・ノリットの急襲に、甚大な被害を受けたヤマト。我等がカムヤライドは深手を負い、オトタチバナ・メタルも倒れた窮地で、黒盾隊を率いてミラーるに挑むヤマトタケルは、出雲に現れた国津神の一部である剣で反撃に転じるのですが――しかしその剣は、かつてイズモタケルを怪物に変えかけた代物。人間が手にすれば、国津神の一部として吸収されてしまう――はずが、逆に剣を吸収したかのような異形の姿に……

 光の巨人――ではないものの、そんな感じになりそうなヤマトタケルにミラールが畏れを感じる一方、カムヤライドは、己の体を全く顧みない、最終回のようなバトルでノリットに肉薄。その執念すら感じさせる凄まじさがノリットを捉えたかに見えたとき――それぞれの前に思わぬ存在が現れることになります。

 と、大波乱の末にひとまず水入りとなったヤマトでの戦い。思わぬ絆が生まれた一方で、さらに深まった謎もあり――そしてヒーローたちは深手を負ったままという状態で、この先物語はどこに向かうのか。特にモンコを巡る物語が気になるところであります。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 ついに秀吉との面会を乗り切った政宗。しかし天下は既に秀吉の手に収まり、そしてその後も天運は政宗に味方せず、ついに大坂の陣に――と、いきなりこの回だけで25年の時が流れることとなりました。
 そして景綱も病に倒れ、戦国最後の戦というべき大坂の陣に政宗と共に臨むのはその息子・重綱――というわけで次回最終回であります。
(しかしこの展開だと、次回は同時に『真田魂』の最終回になるのでは……)


『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 ようやく小杉さんを捕まえ、一安心して温泉でのんびりしていた梅安ですが、そこに白子屋の配下・山城屋の刺客5人が襲いかかり、露天風呂はたちまち野郎大乱闘の場に――と色々な意味で危険極まりない展開から始まった今回。
 結局、小杉さんが右脇腹というかなりマズい位置を刺されながらも、敵の大半を仕留めるという大活躍を見せますが、もちろんその場に留まるわけにもいかず、また小杉さんの治療も必要であります。

 そんな中、梅安への刺客カップルの片割れ、田島一之助は、自分を置いて女に走った北山への怒りと、やけ食いのおかげで胃痙攣か何かを起こして勝手に窮地に――と、そこに偶然通りかかったのは、小杉さんとともに宿を変えた梅安。
 素性が判れば殺し合うしかない関係でありながら、相手の素性を知らぬまま、医者と患者という関係になった梅安と一之助。そこに北山が現れ、またもや修羅場の予感で次回に続きます。


 次号は久々に『そば屋幻庵』(かどたひろし&梶研吾)が登場。『勘定吟味役異聞』は次回休載ですが、壮絶な殺陣を描いた今号の次では人情ものとは――凄い描き分けだと感心いたします。


「コミック乱ツインズ」2020年7月号(リイド社) Amazon


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2020.06.15

唐々煙『MARS RED』第1巻 人間の中のヴァンパイア、ヴァンパイアの中の人間

 時は大正、ヴァンパイアを戦力として目をつけた帝国陸軍は金剛鉄兵計画を開始、4人のヴァンパイアを実働部隊とする零機関を発足させた。一方、連続猟奇殺人を追う女性記者・葵は、ヴァンパイアと零機関が激突する場に遭遇し、死んだはずの幼馴染・秀太郎が零機関の一員となっていることを知る……

 2013年・2015年に上演された(そして来年アニメ化が予定されている)音楽朗読劇という、一風変わった題材を漫画化した作品であります。
 漫画を担当するのは、再演時にイラストを担当した唐々煙ですが――実はそれがきっかけで元作品に興味を持ったものの、なかなか接する機会がなかった身としては、今回の漫画化は、実にありがたいお話です。

 さて、本作は、大正時代を舞台とした吸血鬼もの。日本が舞台の吸血鬼ものは既にさまで珍しくはありませんが、本作のユニークなのは、吸血鬼(ヴァンパイア)である主人公・栗栖秀太郎が、軍属である――というより軍の秘密兵器扱いであるということでしょう。

 まだこの第1巻の段階では、作中の設定の全てが明かされたわけではありませんが、舞台となるのは、決して表向きにはされていないとはいえ、ヴァンパイアが人々の間に存在し、そして各国政府がそれを察知し、利用している世界。
 そしてその力を兵器利用せんとする中島中将を責任者とするのが金剛鉄兵計画であり、秀太郎たちが所属する憲兵隊内部の零機関なのであります。

 しかし上で述べたように、一般人はヴァンパイアが存在するなど夢にも思っておらず――秀太郎も、自分がそうなるまで同様の認識。
 そんな人間が吸血鬼となったとき、何を思い、どのように行動するのか――それが本作の趣向であると感じさせられました。(と、この辺りは原作者のあとがきに明示されているのですが、その試みは少なくともこの第1巻を読んだ限りでは成功していると感じます)

 もちろん自らがヴァンパイアになったことは絶対の秘密であり――それどころか公的には死亡したことになっている零機関の四人のヴァンパイア。しかしその中でも、少なくとも後からヴァンパイアとなった秀太郎と山上少佐の二人は、いまだ自らの運命の変化に馴染めず、「生前」を引きずった状態にあります。

 それと如何に向き合い、「生前」の自分と別れを告げるか――それがある意味この巻のクライマックスと言ってもよいかもしれません。
 特に、小太りの中年でヴァンパイアの能力的にも最低クラスと、およそパッとしない山上に、主人公である秀太郎よりもある意味ドラマチックな展開が用意されていたのは――単純にヴァンパイアをヒーローにも怪物にもしようとしない姿勢の現れのように感じられて、大いに好感が持てたところであります。


 金剛鉄兵計画と零機関のあらまし、帝都に跳梁する謎のヴァンパイアたちとの対決、秀太郎と葵のドラマが、それぞれ平行して描かれていることもあり、正直なところ、物語的にはまだまだ導入部といった印象のあるこの第1巻。
 しかし、上に述べたヴァンパイアに対する視点の面白さ(この他にも、ランクの低いヴァンパイアほど本能的に他のヴァンパイアを感知する能力が高いといった設定もいい)もあり――もちろんビジュアル面の魅力は言うまでもなく――この先が期待できそうな物語であります。

 冒頭に描かれた、数年後の関東大震災の場面にいかに繋がっていくのか、そしてタイトルの意味するところは何なのかも含めて、人間の中のヴァンパイアの物語、あるいはヴァンパイアの中の人間の物語の先行きを楽しみにしたいと思います。


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2020.05.22

高橋留美子『MAO』第4巻 現代-大正-平安 1000年を結ぶ謎と呪い

 『犬夜叉』続編アニメ化が話題となりましたが、同じ作者の大正伝奇アクションも好調に巻を重ねて第4巻。関東大震災の業火の中で明らかになった因縁、そして平安時代の摩緒の兄弟子の出現と次々と新たな事実が判明する中、摩緒と菜花の戦いは続きます。

 関東大震災の混乱の最中、封印から解かれた猫鬼の呪いを受けながらも、その器として生かされたことが明らかになった菜花。
 その一方、摩緒の前には数百年前――彼が呪禁道を継ぐ御降家で修行中だった頃の兄弟子・百火が現れ、摩緒が師匠の娘・紗那を殺したと詰るのでした。

 御降家の弟子の中でも末席でありながら、紗那の婿に選ばれ、破軍星の太刀を与えられた摩緒。しかしその実、彼は御降家に伝わる呪禁の秘宝の後継者選びの生贄として――百火をはじめとする五人の弟子のターゲットとされていたのであります。
 お人好しの百火とは和解(?)した摩緒ですが、しかし残るのは幾つもの謎。紗那を殺したのは本当に摩緒なのか、百火が不死身――いや死んでも生き返ってしまう理由は何なのか。そしてその他の兄弟子たちはどこにいるのか……


 と、現代と大正の約90年どころか、大正と平安の約900年にもわたるスケールの伝奇ものとしての色彩を強めてきた本作。
 最大の敵と思われた猫鬼もある意味何者かに利用された存在であり――その意味では、摩緒だけでなく菜花も利用されていることになります。それが何者かはまだわかりませんが――この巻で描かれるのは、新たな兄弟子(と思われる者)との戦いの始まりであります。

 前巻ラストで登場した、慇懃無礼な美青年・朽縄。植物を自在に操る彼の正体は、やはり摩緒の兄弟子、木属性の陰陽師である華紋でありました。
 今はその術を用いて殺し屋紛いのことまでして暮らす華紋と、摩緒たちとの戦いが始まるか――と思いきや万事拘りの薄そうな華紋はあっさりと摩緒を見逃し、その場は収まったのですが、しかしすぐに襲いかかる新たな敵。何者かが式神を使役して人々を次々と蛙人間に変え、摩緒と百火を襲撃してきたのであります。

 これを退けて新たな攻撃を迎え撃つ摩緒の前に現れたのは、悍ましい姿をした巨大な魔物。そしてその正体は――兄弟子ではない!?
 という捻りも面白いのですが、ここで語られるのは、平安時代の御降家にまつわる更なる謎。果たして御降家を――摩緒を真に狙い、害しようとしているのは何者なのか? 状況は、いよいよますます混沌としてきました。

 そんな中で、菜花はともかく摩緒が受け身の状態になっているのが気になるところですが――強気ヘタレとも言うべき百火のような面白いキャラクターも登場したことでもあり、ここからの更なる盛り上がりに期待したいと思います。


『MAO』第4巻(高橋留美子 小学館少年サンデーコミックス) Amazon

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2020.05.18

「コミック乱ツインズ」2020年6月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」6月号の紹介の後編であります。

『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 東北の動乱、そして伊達家のお家騒動を収め、ついに秀吉と対面を果たすこととなった政宗。しかし相手は天下人、選択を一歩誤れば、政宗はおろか、伊達家そのものが――という状況であります。
 さて現れた秀吉の言葉は――というわけでついに秀吉が本格的に登場したわけですが、その対面の模様は、ほぼ「史実」どおりに描かれることになります。

 その意味ではあまり意外性はありませんが、しかしあの有名な政宗の白装束をネタにとんでもないギャグを入れてきたり、秀吉の仕打ちに対して人間的な成長を見せる政宗(とどさくさに紛れてアピールかます景綱)など、アレンジの加え方はいつものことながら巧みであります。
 また、いかにも傲慢な天下人然とした態度を見せる秀吉が、年を取って偉くなってもやっぱり「あの」秀吉なのだなあ――と思わされるくだりは、あちらの作品のファンとしては大いにホッとさせられました。

 そして、その秀吉に対して政宗が語る東北の姿とは――次回最終回となっても驚かない盛り上がりぶりであります。


『いちげき』(松本次郎&永井義男)
 単行本第6巻発売&最終章突入ということでセンターカラーの今回。相楽総三暗殺の最終作戦に失敗して一撃必殺隊の大部分は壊滅、隊の抹殺を狙う勝が送り込んだ隠密によって指揮官を失い、友も失った丑五郎。もはや帰る家もない彼は、唯一残ったソノに会うため女郎屋に向かうも、そこには宿敵の薩摩藩士・伊牟田が……
 と、牛五郎の最後の戦いが描かれるであろうこの最終章。導入となる今回は、その大部分を費やして、女郎屋に立て籠もった伊牟田が生み出した惨状が描かれることになります。

 自らも戦いの中で数多くのものを失い、そして深手を負って命も遠からず尽きる伊牟田。その彼が女郎屋で追っ手の薩摩藩士を相手に繰り広げた大立ち回りの凄まじさは、まさしく死屍累々という言葉が似合うほどであります。その惨状が、丑五郎が一歩一歩確認しながら奥に進むに連れて描かれていく様はただ圧巻と言うべきでしょう。
(ただ一人生かされてその惨劇を目の当たりにしたソノが、尋常なようで訳のわからないことを口走る辺りの厭なリアリティ……)

 しかし今回何よりも印象に残るのは、丑五郎と伊牟田の顔に浮かんだ「死相」の凄まじさでしょう。女郎屋の外で丑五郎を呼び止めた益満の「人は心労がたたり精も根も尽きると特徴的な人相になる」という言葉をこの上もなく再現してみせた二人の表情には言葉を失います(と、当の益満も周囲からそう思われているのが笑える)。
 果たして死相を浮かべた二人の対決の行方は――どちらに転んでもただで済むはずがありません。


『カムヤライド』(久正人)
 ヤマトに侵入したアマツ・ノリットとアマツ・ミラールの二人に対し、それぞれ戦いを挑むカムヤライドとオトタチバナ・メタルの二大戦士。しかし幹部格の敵を相手にしては彼らも分が悪く、一度は相手の力を封じたかに見えたものの、反撃によって二人は深手を負うことになります。果たして二人の、ヤマトの運命は……
 と、猛烈に盛り上がってきたヤマト編。これはもうパワーアップでもしなくて無理なのではないか、という状況ですが、しかしそんな安直な展開ではなく、人間の底力を――それも二人ではなく、周囲の人々が見せる流れとなるのがたまりません。

 アマツ・ノリットの見えない攻撃の正体はわかったものの、それを打ち破る手段を見いだせず大苦戦を強いられるモンコ(そもそもあれが応急処置になるのかしら)。そんな彼を救ったものは――ここでこう来たか、という展開ですが、これが実に熱い。いつの世もヒーローが孤独に戦う姿は良いものですが、それが人々に受け入れられた姿というのは、さらに良いものであります。

 一方、アマツ・ミラール戦では、深手を負ったオトタチバナに代わり、ヤマトタケルが黒盾隊を率いて大反撃。技のカムヤライド、力のオトタチバナに対して、知のヤマトタケルという印象ですが、これまでの死闘を糧にした彼の成長が窺える姿は、オトタチバナも惚れること間違いなしでしょう。
 そしてそんなヤマトタケルがミラールに見事な一撃を放つものの、しかし――と、まだまだ波乱含みの展開は続きます。


 次号は表紙は『鬼役』、巻頭カラーは『勘定吟味役異聞』、隔月連載の『はんなり半次郎』が登場とのこと。


「コミック乱ツインズ」2020年6月号(リイド社) Amazon


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2020.05.03

音中さわき『明治浪漫綺話』第1巻 要素山盛りの明治吸血鬼伝?

 岡山の田舎から東京の華族・日与守家に引き取られた十和。良家の子女が通う華族女学院に通うことになった十和は、そこで美貌の青年講師・ルイスと出会う。そんなある日、学校の帰りに謎の化け物に襲われた十和だが、そこに駆けつけたのはルイスだった。実はルイスの正体は異国の吸血鬼で……

 このブログでは事あるごとに吸血鬼時代劇を取り扱ってきましたが、ここに新たな作品が加わることとなりました。文明開化華やかなりし頃を舞台に、華族の(にわか)令嬢と異国からやって来た美貌の吸血鬼を巡る物語であります。

 本作の主人公は、子爵の父と芸妓の母の間に生まれ、その父が亡くなったことをきっかけに、東京の日与守家に引き取られた少女・十和。
 数日前までは岡山で暮らしていた彼女にとっては、東京の、しかも華族の暮らしは新鮮――というより疲れることだらけ。しかしそれどころではない事態に、十和は遭遇することになります。

 ふとしたことから帰りが遅くなってしまい、人目を避けて通った裏道で、何者かに襲われて倒れた女学生を見つけてしまった十和。驚く彼女の前に、口から牙を生やした怪人が襲いかかります。
 と、絶体絶命の彼女を救ったのは、彼女の通う女学院の講師である人間離れした美青年・ルイスと、彼に仕えるこれまた美青年の日本人・東。二人のおかげで助かった十和ですが、実はルイスと東もまた、怪人と同じ存在――ヴァンパイアだったのです。

 諸外国の文化に通じている(たぶん長生きなので)ことを買われ、明治政府から、ヴァンパイアと承知の上で招請されたというルイス。しかし彼を連れ戻すべく、海の向こうから来た同族が、密かに暗躍していたというのであります。
 そんな思いもよらぬ真実を聞かされても、恐れることなくルイスに憧れを抱く十和ですが、事態はいよいよ意外な方向に……


 というわけで、身も蓋もないことを言ってしまえば、吸血鬼もの(パラノーマル・ロマンス)と明治もの、さらには華族もの・女学校もののハイブリッドである本作。
 これだけの要素がきちんとまとまるのかな――と思わないでもありませんが、主人公を華族の世界に足を踏み入れたばかりの好奇心旺盛な少女とすることで、存外一つの世界としてまとまっているのがユニークなところであります。

 それにしても明治政府がヴァンパイアを迎え入れるのはさすがにどうかなと思うところですし、その張本人が伊藤博文(名前はもじってあるので、彼に当たる人物、ですが)なのにはひっくり返りましたが――そこに東の「生前」(ヒント:伊藤博文の師で29歳の時に処刑された人)が絡んできて、思わぬ伝奇テイストが生まれているのは嬉しい驚きでした。


 もっとも、文明開化の陰で、ヴァンパイア同士の戦いが――という路線でいくのかと思いきや、少なくともこの第1巻の後半では、ちょっと『エドの舞踏会』を思わせる鹿鳴館での夜会を巡る騒動や、十和の通う華族女学院(さすがにネーミングがストレート過ぎるのでは――ご思いましたが、これは実在の「華族女学校」のもじりですね)と女子高等師範学校の対立に話が向かうことに。

 この辺りは上で述べた要素の多さがちょっとマイナスに作用したように思えますが――さてこの先の展開にどのように繋がっていくのか。
 どうやら十和の日与守家自体にも何やら謎があるらしく、要素大盛りのままで突き進んでいってほしい――というのも正直な気持ちです。


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2020.04.30

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第16章の4『鐵次』 第16章の5『白木村のなみ』 第16章の6『首くくり村』

 美少女修法師と怪異の対決を描く『百夜・百鬼夜行帖』第16章は、百夜の語られざる事件を描く過去編。その後半では、奥州での百夜の冒険が描かれることになります。生と死にまつわる数々の事件の中で、百夜は……

『鐵次』
 左吉にせがまれゴミソの鐵次との出会いを語る百夜。師匠の峻岳坊高星のもとで修業中であった百夜は、抜き身の刀のような異様な気配を放つ鐵次と出会い、師の命でともにある仕事を果たすよう命じられたのであります。
 死んだ者がそこを通って恐山の宇曾利山に向かうと言われる山に亡魂が溜まっているという師の言葉に、反目しながら向かった二人。そこで二人は、山の頂上に向かおうとする無数の亡魂を目の当たりにすることになります。そして頂上で二人が見た亡魂の核の正体とは……

 タイトルの時点でファンには大いに気になるのがこのエピソード。何しろ、作者のシリーズキャラクターの一人にして、百夜の兄弟子である鐵次の過去編であり、百夜と鐵次との出会いを描くというのですから。
 「今」では、亡魂を祓うたびに縫い込んだ無数の端布付きの長羽織がトレードマークの鐵次ですが、この当時はまだ長羽織は真っさら。そして「今」以上にぶっきらぼうな彼と、鼻っ柱の強さでは似た者の百夜の一歩も引かないやりとりが楽しいのですが――事件を引き起こしていた存在が二人の前に現れたとき、物語の色調は大きく変わることとなります。

 大飢饉で家族はおろか、村そのものが全滅した中でただ一人生き残ったという過去を持つ鐵次。そんな彼の存在は、百夜とはまた異なる形で、陸奥というものを背負っていると感じさせられます。
 鐵次のあれはここからだったのか!? という結末も、もちろん強く印象に残るエピソードです。


『白木村のなみ』
 陸奥湾沿岸の漁村で、数年にわたり続く、三十名もの屈強な漁師たちが行方知れずになる事件。村の肝入りに依頼を受けた峻岳坊の話を聞いた百夜は、行方知れずが始まった年に亡くなった者のうち、水死した白木村のなみという子供に注意を引かれるのでした。
 なみの亡魂に導かれ、小舟に乗って海に出た百夜。しかしそこで彼女は無数の水死した亡魂と、それを操る謎の存在と遭遇することに……

 「祟りがないくらいの怖い話」という左吉のリクエストに応えて百夜が語るのは(結構サービス精神旺盛)、前話に続き、彼女が無数の死者と対峙することとなる、確かに恐ろしい話であります。
 特に前半の山場である、百夜が乗った小舟が無数の水死人に囲まれる場面、そしてクライマックスの、水死人を操るモノと水中で百夜が対峙する場面の迫力、緊迫感はかなりのものがあります。

 タイトルロールのなみの存在感が薄いのが残念ですが、まだ未熟な百夜の迷いが描かれるのも新鮮に感じられる物語です。
(そしてその迷いは、次のエピソードと重なる部分があるのですが)


『首くくり村』
 珍しく不安げな峻岳坊の言葉に送られ、原因不明の首吊りが続くという破寺に向かった百夜。そこで同じように首吊りの噂を聞きつけてきた雲水・禅定と出会った百夜は、ともに寺に重苦しく漂う何者かの想念の正体を探ることになります。
 その最中、禅定と言葉を交わすうちに、大きな戸惑いを覚える百夜。やがて彼女は思わぬ窮地に陥ることに……

 修業時代で一番危なかった話というリクエストを受けて語られるこのエピソード――既に師が認めるほどの強大な力と、それを用いるだけの分別を持つようになった百夜ですが、ここでは思わぬ生命の危機に遭遇することになります。

 そんなこのエピソードで描かれるのは、人は、生き物は何故生きるのか、という問いを巡る禅定との問答。ある意味最も根源的なその問いに対する百夜の答えが、今回の物語の核心であり、テーマと言うべきでしょう。
 無数の亡魂たちが荒れ狂うエピソードが多かったこの章の結びとしては一見地味に見えるかもしれません。しかしここで提示される百夜の答えは、生と死を描いてきた物語の結末に、まことに相応しいものと感じられます。

 そしてそれは、今この時代を生きる我々に対する作者からの心からのエールとして感じられるのであります。

『百夜・百鬼夜行帖』(平谷美樹 小学館) 『鐵次』 Amazon / 『白木村のなみ』 Amazon / 『首くくり村』 Amazon

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 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第16章の1『のざらし』 第16章の2『坊主に断られた回向』 第16章の3『百万遍』


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 「慚愧の赤鬼 修法師百夜まじない帖」 付喪神が描く異形の人情譚
 『鯉と富士 修法師百夜まじない帖』 怪異の向こうの「誰」と「何故」

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2020.04.27

陶延リュウ『無限の住人 幕末ノ章』第2巻 勢揃い新選組! そして池田屋へ

 アニメも無事完結した『無限の住人』ですが、こちらの公式スピンオフはここからが本格始動という印象。幕末の京を舞台に、万次が新選組と激突する『幕末ノ章』第2巻であります。万次を巡る様々な思惑が交錯する中、舞台は池田屋に……

 逸刀流との戦いから数十年――アメリカに漂流して帰ってきてから土佐に隠棲していた万次。そこにやってきた坂本龍馬に連れられ、京に向かった彼はそこで出会った新選組と早速事を構えたり、武市半平太と龍馬の軋轢に巻き込まれたりと早速騒々しい日々を送ることになります。
 しかしその新選組が、死んだはずの山南敬助を中心に異形の使い手を集めた「逸番隊」を結成。半平太を捕らえただけでなく、万次の不死身の肉体を狙って動き出すことになります。

 そしてその一番手、犬を操る奇怪な犬面の剣士・喜多見が万次の前に立ち塞がることに……


 と、万次の肉体を狙う逸番隊との戦いと、維新浪士たちと新選組の戦いが平行して描かれるこの巻。
 もっとも、実は逸番隊との戦いは喜多見戦くらいで、正直なところまだまだ戦力不足の印象は否めません(もっとも、思わぬ大型新人が参加することになるのですが……)。

 とはいえ、逸番隊の背後にいる人物――あの綾目歩蘭人の曾孫である綾目歩蘭なる少女が、この巻では本格始動。というかいきなり暴走。歩蘭人とはまた異なる(歩蘭人にこれやられても困りますが)手段で血仙蟲を求める手段を熱く語る姿には、強烈なインパクトがあります。


 が、この巻でそれ以上にインパクトを与えてくれるのは、ついに勢揃いした新選組オールスターの顔ぶれでしょう。
 これまで登場した近藤・土方・沖田だけでなく、原田・永倉・斎藤・藤堂・源さんが見開きで一堂に会する姿は、いかにも何かの組織の幹部めいた(組織の幹部です)姿で、これが実に格好良いのです。

 その姿やキャラクターも、お馴染みのイメージを踏襲しつつも、いかにも「むげにん」的なアレンジとなっているのが嬉しいところで、新選組好きとしては彼らの活躍を早くみたい――と一瞬何の漫画か忘れて思ってしまったところで、池田屋事件に雪崩れ込むのが実に盛り上がります。
(ちなみに本作では御所焼き打ちは半平太が白状しているのに、歴史と辻褄を合わせるために拷問される古高俊太郎が可哀想すぎる)

 一方、万次の方はといえば、一旦江戸に行くことになった龍馬に頼まれて桂小五郎のボディーガードになった――ちなみに実は吉田松陰とも知人だった万次――ことがきっかけで、「その時」に居合わせることになります。

 これは本作の特徴というか、この時代の万次は随分分別くさい――というより政治的なものに距離を置く性格のためか、維新浪士たちには比較的冷淡。ここでも積極的に戦うことなく、桂を逃がすことを優先する万次ですが――しかしそう簡単に脱出できるはずがありません。

 この巻は、新選組最強のあの剣士が万次の前に出現、いよいよ色々な意味で万次の本領発揮か――? という展開で引きということになりますが、ほとんど逸刀流剣士のような存在感の宮部鼎蔵も気になるところで、次巻ではさらに派手な剣戟を見ることができそうです。


『無限の住人 幕末ノ章』第2巻(陶延リュウ&滝川廉治&沙村広明 講談社アフタヌーンコミックス) Amazon

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2020.04.23

出口真人『前田慶次かぶき旅』第3巻 舞台は天草へ 新たなる敵剣士の名は!?

 その後の前田慶次を描く本作も3巻目に突入であります。肥後での騒動は解決したものの、そこで天草の不穏な動きを知ることになった慶次。もちろん黙っていられるはずもなく、早速天草に乗り込んだ慶次の前に現れたのは、なんと……

 関ヶ原の戦の後、飄然と九州に旅立った慶次。肥後で加藤清正と出会い、たちまち意気投合した慶次ですが、土地の盗人島で、地元の民数十人が南蛮海賊に殺されるという事件が発生することになります。
 一触即発の状況を収めるために慶次が提案したのは清正の前での御前試合。海賊側は事件の張本人である剣士・ガルシア、日本側は立花宗茂――この異次元対決はいくさ人の貫禄で宗茂の圧勝に終わったのですが、それが新たな事件の火種となります。

 御前試合の結果をもって双方遺恨は水に流す――はずが、納得がいかぬと海賊側に迫る島の人々。その場は清正自身の出馬で治まったものの、その背後には天草のキリシタン勢力の暗躍があったのであります。
 それと時を同じくして、土地の役人が天草の海中で発見した巨大な黄金の十字架。しかし役人一行は、そこに現れた異国人・ガルシア神父に連れられた剣士によって皆殺しにされるのでした。

 驚くべきほどの長さの刀を操るその剣士の名は、なんと……


 というわけで、新章突入という印象のこの巻。肥後編(?)と同様、異国人が敵という展開になりますが、しかし九州のキリシタンをエスパニアの隠れ戦力とも言うべき存在として描く視点はそれなりに面白いと感じます。

 しかしそれ以上に面白いのは、やはりなんと言っても、今回の「敵」であろう日本人剣士の存在。ほとんど長刀、というより長巻サイズの刀を自在に操るその剣士こそは、佐々木小次郎! それも後に宮本武蔵と戦う小次郎の先代、初代小次郎という設定であります。
 なるほど、本作に小次郎が登場すると聞いた時には、時代が合うような合わないような――と思いましたが、こういう設定にしてきたか、と感心いたしました。

 ちなみに本作には、前の巻から徳川の密偵という設定で、柳生兵庫助が登場。剣の腕はさすが――というべき若者ですが、しかし本作に登場するのは慶次をはじめとして清正、宗茂と化け物クラスのいくさ人なので、いささか分が悪く、まだまだ未熟な若者という描写であります。

 考えてみれば慶次は完全に成長の余地がないキャラクターであるだけに、これから成長する若者の視点というのを担うことになるのかな――という印象ですが、作中の描写的には、もしかするとコメディリリーフなのかもしれないのが本作の恐ろしいところで……


 さて、そんな強敵や若者たちが登場してくる中で、一人余裕――というよりほとんど狂言回し兼焚付役という印象があるのが、本作の慶次であります。

 上で述べたように、今から成長する要素がない――というより最初から完全なキャラクターとして描かれている慶次(なるほど、退屈するわけだ――と今頃になって感心)。
 この巻でも、天草の残党相手に相変わらず無茶苦茶な無双ぶりを発揮したほかは特にアクションもなく、ほとんど状況を面白がっていただけと言ってもいい状態です。

 だがそれがいい、それでこそ慶次であります。
 果たして初代佐々木小次郎がついに慶次を本気で動かすことになるのか――それはまだもちろんわかりませんが、慶次が現れた以上、この先ただではすまないことだけは確かでしょう。


『前田慶次かぶき旅』第3巻(出口真人&原哲夫・堀江信彦 徳間書店ゼノンコミックス) Amazon

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2020.04.21

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第16章の1『のざらし』 第16章の2『坊主に断られた回向』 第16章の3『百万遍』

 北から来た盲目の美少女修法師の退魔行を描く『百夜・百鬼夜行帖』、久々に紹介の第16章では、仕事がない間の徒然に左吉にねだられて、百夜の口から、左吉と出会う前の事件たちが語られることとなります。

『のざらし』
 調伏の仕事がない合間の退屈しのぎに、自分の知らない百夜の事件が聞きたいと言いだした左吉。自分も退屈していたのか、それに応えて百夜は、江戸にやって来たばかりの頃の出来事を語り始めます。

 千住での依頼を済ませた帰り、小塚原近くで野晒しを探しているという男・徳太郎と出会った百夜。野晒しを持って帰って愛で、その後で供養してもらうという徳太郎に付き添うことになった百夜ですが、いつしか二人は異界に入り込むことになります。
 そして二人の前に現れる、無数の首だけの亡魂。亡魂たちに追いかけられ、逃げ惑う徳太郎ですが……

 というわけで、何とも酔狂というか不気味というか――奇怪な道楽の持ち主が中心となる本作。
 事件の真相や物語の構成自体は、左吉のようにツッコミを入れたい気持ちがないでもありませんが、雪の中というシチュエーションで起きる怪異の凄絶さは白眉と言うべきでしょう。結末の百夜の選択も、左吉がいない物語ならではと感じられます。


『坊主に断られた回向』
 亡くなった主人のもとに枕経をあげに来た坊主が三人続けて逃げ出すという椿事が起きた大店。大店から依頼を受けた百夜は、結界が張られた座敷の中で、奇怪な出来事に遭遇するのですが……

 ある意味シリーズでも屈指のインパクトのあるタイトルですが、そのタイトル以上にユニーク(?)な、百夜に持ち込まれた事件の内容も印象に残る今回。
 葬儀についてはプロフェッショナルであるはずの坊主たちを逃げ出させたモノとは――それはここでは書きませんが、確かにこれは実物に遭遇したら腰を抜かしても無理はありません。

 もちろんそれに冷静に対処する百夜ですが、そこから彼女が掴んだ真相はさらに意外かつ、本作らしい細やかな人情を感じさせるもの。事件の黒幕に思えた人物の行動の理由と、その情を無碍にしない百夜と人々の行動が、温かな余韻を残します。


『百万遍』
 最初に調伏した霊と問われて百夜が語った事件。それは彼女が十歳になるかならないかの頃の出来事――師の峻岳坊高星に連れられて出かけた百万遍念仏供養の場で、百夜は師から「すぐに帰さなければならない子供がいる」と告げられたのでした。
 修行の一環として、その場にいた五人の子の中から、そうと知られずにその子供を見つけ出せと語る峻岳坊。その言葉を受けて、子供たちと何気ない会話を始める百夜ですが、彼女の心眼には、五人とも普通の子供としか映らず……

 百夜最初の事件という、何とも気になる内容でありつつも、そのイベント性に負けない内容の面白さを持つ今回。
 「何を」どころか「なぜ」もわからないまま、五人の子供の中から特定の一人を見つけ出すため、さりげない会話で情報を引き出す――というシチュエーションであり、本作の特徴の一つであるミステリとしての趣向が、最も色濃く表れていると言えるでしょう。

 そしてその謎解きも、ミステリとしてフェアなものでありつつ、辿り着いた真相は本作ならではの怪異なものというのがまた面白い。しかしそれ以上に、百夜がすぐにその真相に気付けなかった理由に唸らされました。
 なるほど、百夜(それもまだ修行途中の)であればこういうこともあり得るか――と、本作だからこそ、何よりもこの時系列だからこそ成立する謎解きの妙に満足いたしました。


 引き続き百夜の修行時代を描く後半の3話は、また別途ご紹介いたします。


『百夜・百鬼夜行帖』(平谷美樹 小学館) 『のざらし』 Amazon / 『坊主に断られた回向』 Amazon / 『百万遍』 Amazon

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 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第10章の1『光り物』 第10章の2『大筆小筆』 第10章の3『波』
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 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第11章の4『桑畑の翁』 第11章の5『異形の群(上)』 第11章の6『異形の群(下)』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第12章の1『犬張子の夜』 第12章の2『梅一番』 第12章の3『還ってきた男(上)』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第12章の4『還ってきた男(下)』 第12章の5『高野丸(上)』 第12章の6『高野丸(下)』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第13章の1『百夜の霍乱』 第13章の2『溶けた黄金』 第13章の3『祈りの滝』
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 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第15章の1『白い影(上)』 第15章の2『白い影(中)』 第15章の3『白い影(下)』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第15章の4『水琴』 第15章の5『千鬼夜行』 第15章の6『三つ巴の戦い』

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2020.04.16

「コミック乱ツインズ」2020年5月号

 「コミック乱ツインズ」5月号は、青をベースとしたタッチが印象的な『暁の犬』が表紙。巻頭カラーは『鬼役』、シリーズ連載は『軍鶏侍』が掲載されています。今回もまた、印象に残った作品を取り上げましょう。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 次代どころか次々代将軍の座をめぐる争いが激化する中、毒殺された尾張徳川家の当主・吉通。それをきっかけに尾張藩内の後継争いも激化し、流血沙汰に――という実に混沌とした状況となってきた本作。

 そんな中で聡四郎は、全面衝突寸前の尾張藩士数十人の中に一人割って入って――と、これまでの戦いの中で積んだ経験値の高さをはっきりと見せつけることになります。
 が、冷静に考えると、(ヒーローだからという理由以外で)何故聡四郎はこんな行動を――という気がしないでもないのも正直なところで、これまで切っ掛けだけでも上司の命令によって動いていただけに、ちょっと混乱してきました。もっとも、一番困っているのは聡四郎自身なのは間違いないのですが……


『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 本誌と同時に単行本第1巻発売(本誌の表紙画は単行本のもの)となり、絶好調の本作ですが、今回はほとんど一話を使って二つの壮絶な決闘が描かれることとなります。

 根岸大隅に真のターゲットである鳥居を討たせるため、邪魔となる同役の小堀の相手を買って出た佐内。しかも、まともに戦えば全く敵ではない小堀を、「二胴」に対する恐怖を克服するための練習台として使おうという舐めプぶりであります。
 一方根岸の方は、これまでの置物のタヌキ然とした姿からついに気迫に満ちた剣士としての顔を見せ、鳥居と互角の勝負を展開。カウンター狙いの下段を使う鳥居の剣を冷静に捌く姿は、やはり人斬りで喰ってきた者の迫力というものを感じさせます。

 かくて、登場人物たちがほとんど瞬きしていないようにすら感じられる、読んでいるこちらが疲れるほどの気迫で繰り広げられた二組の死闘。その結果は言うまでもありませんが、その後の二人の言動に、それぞれのキャラクターが出ているのが実に面白いところ。
 ますます豪快で馴れ馴れしい根岸もさることながら、意外と潔癖症で、そして恐怖を乗り越えたことに満足げな佐内のキャラクターはやはり実に独特で、そこがまた彼の魅力であると再確認させられました。


『カムヤライド』(久正人)
 ヤマトを強襲した敵の幹部クラス「コヤネ」と「イシコリドメ」とそれぞれ激突するモンコとヤマトタケル。強力な音波を武器とするコヤネに対し、モンコは土を操って防音壁を造り出し、埴輪作りらしい特殊能力で反撃を開始するのですが――ここで轆轤を回すポーズ(いや本職なんですが)を取りながら、早口で聞かれていないことをしゃべり出すモンコは確かにキモいと思います。
 一方、イシコリドメの光線攻撃に生身で挑むのはさすがに辛かったヤマトタケルですが、盾サーフィンで格好良く出撃したオトタチバナが駆けつけてお姫様抱っこ(もちろん抱かれるのはタケルの方)。オトタチバナ・メタルが強烈な一撃を叩き込むのでした。

 が――もちろん幹部クラスがこれで沈むはずもなく、致命的なダメージを食らってしまった二人のヒーロー。果たしてこの先、打つ手があるのか。そして戦いを目の当たりにしたオシロワケ大王の記憶をよぎる巨大な影とは――毎回実に気になるヒキであります。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 色々あった末に、ようやく秀吉の待つ小田原に向かうこととなった政宗・景綱主従。詰問の使者として訪れた浅野長吉・前田利家を前に、政宗の抗弁が始まって……
 と書くと実に真っ当な展開なのですが、政宗・秀吉双方が時々ものすごいボケをかますのが本当に可笑しい本作。しかし、だからこそラストに見せる政宗の巧みな切り返しが映えることは言うまでもないでしょう。


 そのほか、『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)は最初のエピソードでの敵であり、かつての親友の娘が軍鶏侍の前に現れ――という展開。その娘の凄まじいまでの美しさが強烈に印象に残るのですが――この作品の場合、顔である程度先の運命が読める気がします。
 『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)は、いよいよ白子屋との抗争がスタート。白子屋を討とうとする小杉さんと止めようとする梅安、小杉さんを狙う男色剣客コンビ、さらには白子屋自身までも動き出し――と盛り上がりますが、一番怖いのは、さりげなく一番えげつない手を使う音羽の元締めであることは衆目の一致するところではないでしょうか。


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