2025.01.04

幻の中国服の美女を追った先に 波津彬子『レディシノワズリ』

 人と人以外の存在の関わりを儚く美しく描いてきた波津彬子が、英国を舞台とした作品の一つが本作――曰く付きの中国の美術品があるところに現れる謎の美女、レディ・シノワズリと、彼女を追いかける青年ウィリアムの姿を中心に描かれる連作シリーズです。

 年の離れたいとこで道楽者・チャールズのアリバイ作りのため、彼と共に訪れた屋敷で、中国服をまとった金髪碧眼の美女と出会ったウィリアム少年。しかし、その屋敷でウィリアムがチャールズから離れていた間に、チャールズが以前付き合っていたバレリーナが殺されるという事件が発生します。

 元々、亡くなった祖父のコレクションを処分したいという相談に乗るために件の屋敷を訪れ、中国服の美女と会ったというチャールズ。殺人の嫌疑を晴らすため、アリバイ証言を求めて美女を再び訪ねたチャールズですが――しかし屋敷はもぬけの殻だったのです。

 自分で確かめるために再び屋敷を訪れたウィリアムの前に姿を現したあの美女。そこでウィリアムが屋敷の中で大きな動物の尻尾を見たと告げた途端、彼女は奇妙な態度を取ります。彼女の助言で真犯人を見つけたウィリアムですが、そこには数々の謎が残ります。そして「レディ・シノワズリ」と名付けた彼女にもう一度会うことが、彼の人生の目標となって……


 かくして、ウィリアムが少年期から青年期に至るまで、一度どころか幾度も謎のレディ・シノワズリに出会い、美術品にまつわる奇妙な事件に遭遇する様を中心に、本作は展開していきます。
 もちろんレディに出会うのはウィリアムだけではありません。彼の学友であるリンジーやその母、同じ骨董クラブの才媛・ガートルードやその父といった様々な人々の前にも、彼女は謎めいた姿を現すのです。

 「シノワズリ」とは、17世紀から18世紀にかけてヨーロッパで流行したヨーロッパで流行した中国趣味の美術様式のことを指します。なるほど、明らかに東洋人ではないにもかかわらず中国服に身を包んだ彼女には、相応しい呼び名かもしれません。
 しかし、彼女は明らかに只者ではない存在です。冒頭のエピソードのように、しばしば中国の美術品を用いた詐欺に関わったと思えば、幻のように姿を消してしまう――いや、それどころか、ウィリアムのようにごく一部の人間しか見ることができない、ハクという白い虎を連れ、さらに何よりも、ウィリアムがいつ出会う時も、いやそのはるか以前から、彼女の姿は変わらぬままなのですから。

 美術品にまつわる、どこまで人間なのかわからぬ美貌の存在――というと、どこかの骨董品店の少年を思い出しますが、本作のレディは、そちらよりも遥かに謎めいていて、ガードの高い存在です。これではウィリアムならずとも、彼女が何者なのか、その後を追いたくなってしまう――という時点で、我々は彼女の掌の上で踊らされているのでしょう。


 さて本作は、最終話を除けば、すべてのエピソードでレディと関わり合う人物(あるいは家系)の名が冠されたエピソードが展開していきますが、やがてその中で、彼女の目的が朧気に見えてくることになります。それは、中国にまつわる何らかの美術品――彼女は自分がしばしば扱うような中国趣味の偽物ではなく、「本物」の品物を探しているようなのです。

 これ以上相応しい名はないと感じられるサブタイトルの最終話「別れ」において、ウィリアムがレディから聞かされた言葉――それは必ずしも我々が望んだ答えではないかもしれません。しかし、舞台となっていた1930年代(というのはここで初めて語られたように思いますが)という一つの区切りの時代が終わる時には、相応しいものであったと感じられます。

 「その後」のえもいわれぬ余韻も含め、まさしく佳品と呼ぶべき作品といってよいでしょう。

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2024.12.30

2024年に語り残した歴史時代小説(その一)

 今年も残すところあと二日。こういう時は一年の振り返りを行うものですが――既に読んでいるにもかかわらず、まだ紹介していない作品が(それも重要なものばかり)かなりありました。そこで今回は二日に分けてそうした作品に触れていきたいと思います。(もちろん、今後個別でも紹介します……)

『佐渡絢爛』(赤神諒 徳間書店)
 いきなりまだ紹介していなかったのか、と大変恐縮ですが、今年二つの賞を取り、年末のベスト10記事でも大活躍の本作は、その評判に相応しい大作にして快作です。

 元禄年間、金鉱が枯渇しかけていた佐渡で、謎の能面侍による連続殺人が続発。赴任したばかりの佐渡奉行・荻原重秀は、元吉原の雇われ浪人である広間役に調査を一任し、若き振矩師(測量技師)がその助手を命じられることになります。水と油の二人は、衝突しながらもやがて意外な事件のカラクリを知ることに……

 と、歴史小説がメインの作者の作品の中では、時代小説色・エンターテイメント色が強い本作ですが、しかし作者の作品を貫く方向性はその中でも健在です。何よりも、ミステリ・伝奇・テクノロジー・地方再生・青年の成長といった様々な要素が、一つの作品の中で全て成立しているのが素晴らしい。
 「痛快時代ミステリー」という、よく考えると不思議な表現が全く矛盾しない快作です。


『両京十五日 2 天命』(馬伯庸 ハヤカワ・ミステリ)
 今年のミステリランキングを騒がせた超大作の後編は、前編の盛り上がりをさらに上回る、まさに空前絶後というべき作品。明朝初期、皇位簒奪の企てを阻むため、南京から北京へと急ぐ皇太子と三人の仲間たちの旅はいよいよ佳境に入る――というより、上巻ラストの展開を受けて、三方に分かれることになった旅の仲間たちが、冒頭からいきなりクライマックスを繰り広げます。

 地位や身の安全よりも友情を取るぜ! という男たちの侠気が炸裂したかと思えば、そこに恐るべき血の因縁が絡み、そして絶対的優位な敵に挑むため、空前絶後の奇策(本当にとんでもない策)に挑み――と最後まで楽しませてくれた物語は、最後の最後にそれまでと全く異なる顔を見せることになります。
 そこでこの物語の「真犯人」が語る犯行動機とは――なるほど、これは現代でなければ描けなかった物語というべきでしょう。エンターテイメントとしての魅力に加えて、深いテーマ性を持った名作中の名作です。


『火輪の翼』(千葉ともこ 文藝春秋)
 『震雷の人』『戴天』に続く安史の乱三部作の完結編は、これまで同様に三人の男女を中心に描かれた物語ですが、その一人が乱を起こした史思明の子・史朝義という実在の人物なのもさることながら、前半の中心となるのがその恋人である女性レスラー(!)というのに驚かされます。

 国の腐敗に対し、父たちが起こした戦争。しかしそれが理想とかけ離れた方向に向かう中、子たちはいかにして戦争を終わらせるのか。安史の乱という題材自体はこれまで様々な作品で取り上げられていますが、これまでにない主人公・切り口からそれを描く手法は本作も健在です。

 ただ、歴史小説にはしばしばあることですが、結末は決まっているだけに、主人公たちの健闘が水の泡となる展開が続くのは、ちょっと辛かったかな、という気も……


『最強の毒 本草学者の事件帖』(汀こるもの 角川文庫)
『紫式部と清少納言の事件簿』(汀こるもの 星海社FICTIONS)
 前半最後は汀こるものから二作品を。『最強の毒』は、偏屈者の本草学者と、男装の女性同心見習いが数々の怪事件に挑む――というとよくあるバディもの時代ミステリに見えますが、随所に作者らしさが横溢しています。
 まず表題作からして、これまで時代ものではアバウトに描かれてきた「毒」に、本当の科学捜査とはこれだ! とばかりに切込むのが痛快ですらあるのですが――しかし真骨頂は人物造形。作者らしいセクシャリティに関わる目線を随所で効かせた描写が印象に残ります(特にヒロインの男装の理由は目からウロコ!)

 一方、後者は今年数多く発表された紫式部ものの一つながら、主人公二人の文学者としての「政治的な」立場を、ミステリを絡めて描くという離れ業を展開。フィクションでは対立することの多い二人を、馴れ合わないながらも理解・共感し、それぞれの立場から戦うシスターフッドものの切り口から描いたのは、やはりさすがというべきでしょう。


 以下、次回に続きます。

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2024.12.25

『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』 第三十五話「比古清十郎」/第三十六話「修羅の会合」

 これ以上戦いに巻き込むことを恐れて葵屋を離れ、もう一人の探し人・比古清十郎のもとを訪れる剣心。飛天御剣流の師である清十郎に対し、奥義の伝授を願う剣心だが、そこに薫たちが現れる。一方、蒼紫の前に現れた宗次郎は蒼紫を志々雄の下に誘い、両者は対剣心の同盟を結ぶことに……

 今回も二話まとめて紹介しますが、アクション的な見せ場はほとんどなく、その意味では谷間的な回ではありますが、しかしキャラクターの動きという点では、今後に続く重要な動きが幾つもあった回でした。

 何よりも大きいのは、第三十五話のタイトルにもなっている比古清十郎の登場でしょう。剣心の師匠であり、現・飛天御剣流の継承者というだけでも極めて重要なキャラクターですが、それは同時に、剣心の(人斬り抜刀斎になる前の)過去を知る者ということであり、そして剣心の飛天御剣流はまだ完全ではないということを証明する存在でもあります。
 人格的にも強さの上でも完成した存在として描かれていた剣心も、かつては未熟だった、そして今も成長の余地があるというのは、バトルものとしての要請から来たものではあるかと思いますが、それだけでなく、剣心のキャラクターを深めるものであることは言うまでもないでしょう。

 そしてここでもう一つ重要なイベントとして、剣心と薫(と弥彦)の再会が描かれるわけですが――東京編であれだけドラマチックに別れたわりには、かなりあっさり目のドラマだったのは、これはこれでリアルなのかもしれません。
 しかしここでは、すぐ上で述べたように、過去の剣心を知る(過去しか知らない)清十郎と、今の剣心――それも東京での彼と、東京を離れて京に至るまでの二つの段階の剣心を知る薫と弥彦、そして操が出会うことで、状況が変化していくのが面白いところでしょう。物語の状況が、剣心の周囲の人間が出会い、結びつくことで動いていく――剣心が状況を動かしているわけでは必ずしもないけれども、彼を中心に物語が動く、そんなダイナミズムに感心させられます。

 これは味方サイドだけでなく敵サイドも同様で、第三十六話の後半では、四乃森蒼紫と志々雄真実が敵を共通するもの同士手を結ぶことになります。
 この辺りは段取りではありますが、ちゃんとやっておかないと「抜刀斎は何処だ」「誰だお前は?」になってしまう――というのはさておき、またこの場面は同時に十本刀の(半分)のお目見えにもなっていて、これをまとめてやってしまう手際の良さにはやはり感心します。


 しかしそんな展開の中でこちらの目を奪うのは、やはり比古清十郎のあの襟です。初登場時の、表の顔である陶芸家をやっている場面からあの襟なので、「いくらなんでもあんな襟の陶芸家はちょっと」「しかし確かに比古清十郎といえばあのマントの襟だし」と大いにと惑わされました。
 が、原作を読み返してみたら、そちらでは初登場時は別に普通の襟だったので愕然としたわけですが――今回このように描写されたということは、清十郎は普段からあの襟が正史ということでよいのでしょう。そうに違いない。

 もう一つ、今回はキャラクターのやりとりが中心だった分、ギャグ描写も多かったのですが、その中で初対面の操と薫の会話で、白べこの冴が横から「一緒に暮らしてた?」「道中二人で連だつ?」「ムキになって否定するところがなお怪しい」と茶々を入れるくだりは、ベタではありますが声の演技の巧みさで非常に楽しいシーンになっていたと思います。

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2024.12.24

クリスマス・イブ特別編 マンリー・ウェイド・ウェルマン「山にのぼりて告げよ」

 今日はクリスマス・イブですが、毎年この時期になると読み返したくなる物語があります。それはマンリー・ウェイド・ウェルマンの「銀のギターのジョン」シリーズの一つ「山にのぼりて告げよ」。主人公のジョンがクリスマスの日に子どもたちに語る、ちょっと不思議で心温まる物語です。

 米国のホラー/SF作家であるウェルマンのシリーズキャラクターの一人・銀のギターのジョンは、通り名そのままに、銀の弦を張ったギター片手に、アパラチア山脈を中心に放浪する歌うたいの男。そんな風来坊のジョンを主人公とした連作では、彼が様々な超自然的な出来事や怪物、魔術と遭遇し、それを切り抜けていく様が描かれています。

 このジョンの物語は、作者が実際に収集した舞台となる地方の民間伝承をはじめとして、土着の文化風俗が巧みに散りばめられていて、一種のフォークロア・ホラーというべき味わいがあるのですが――それと同時に、楽天的なジョンのキャラクターと語りが生むユーモラスな空気、そして人間の善性に対する目線が物語に大きな温かみを与え、ホラーだけれどもホッとさせられるという、不思議な味わいが実に魅力的なシリーズです。
(もう一つ、SF的なアイディアが時折スッと投入されているのも楽しい)

 本シリーズについてはいずれまとめて取り上げたいと思いますが、今回紹介する「山にのぼりて告げよ」は、ジョンが直接遭遇した怪異を描くのではなく、あるクリスマスのお祝いに招かれた彼が、子どもたちに知り合いから聞いた出来事を語るという、シリーズの中では少々変わったスタイルの物語です。
 そのため、厳密にはメインとなる内容はクリスマスの出来事ではないのですが――しかし内容的に、クリスマスに語るのにこれほどふさわしいものはない物語です。


 かつては仲の良い隣人であったものの、ちょっとしたことが重なるうちに、決定的に仲違いしてしまったアブサロム氏とトロイ氏。そんな関係を象徴するように、土地の境界に深い溝を掘ったトロイ氏に対して、アブサロム氏がある対策を考えていた時――彼の前に、工具箱を担いだ一人の男が現れます。
 流しの大工だと名乗るその男に対してアブサロム氏が依頼したのは、溝に沿った自分の土地の側に柵を立てること。男は晩飯時までには喜んでもらえる結果が出せると請け負い、作業を始めます。

 そこにやって来たのは、以前荷車に足を轢かれて以来、歩くのに松葉杖が必要なアブサロム氏の息子。好奇心旺盛な彼は見知らぬ男に話しかけ、男の方も聞いたこともないようなたくさんの物語を語り、二人はあっという間に仲良くなります。

 そして、夕方に再びやって来たアブサロム氏がそこで見たものは……


 はたして大工の男が作ったものは何だったのか、そして男は何者なのか――それは読んでのお楽しみですが、内容的には非常に寓話的な本作は、しかしジョンという語り手の口を通すことで(作中、時折聞き手の子どもたちの合いの手が入るのも微笑ましい)、軽妙で、そして同時に強く胸を打つ物語となっています。
 特に終盤、「彼」と我々との関わりについて語る一文は実に感動的で、恥ずかしながら何度読んでも目に涙が浮かびます。

 クリスマスは元々は一宗教の行事、そして今では商業的年中行事に過ぎず、そこで愛と平和を祈るのは、儚く無意味なことで、偽善的ですらあるかもしれません。それでも、これだけクリスマスを祝い、喜ぶ人々が世に溢れているのは、心の何処かでクリスマスが象徴する善きものを信じ、期待しているからではないでしょうか。
 そう考えてしまうのは少々センチメンタルに過ぎるかもしれませんが、今日くらいはそんな善意を信じてもいいのではないか――これはそんなとこを考えさせる物語です。


 ちなみに本作が収録された「銀のギターのジョン」ものの短編集『悪魔なんかこわくない』(国書刊行会)は残念ながら絶版のようですが、図書館などではよく見かけますし、その他にも英語のテキストも公開されていますので、興味のある方はぜひご覧ください。

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2024.12.19

「コミック乱ツインズ」 2025年1月号(その二)

 号数の上ではもう1月、「コミック乱ツインズ」1月号の紹介の後半です。

『老媼茶話裏語』(小林裕和)
 『戦国八咫烏』(懐かしい)による本作は、タイトルのとおり「老媼茶話」を題材とした怪異ものです。「老媼茶話」は18世紀中期に会津の武士が著したもので、タイトルのとおり村の老媼が茶飲み話で語った物語を書き留めた、というスタイルの奇談集です。
 本作はその巻の五「猪鼻山天狗」――後に月岡芳年が浮世絵の題材ともしているエピソードを題材としています。

 猪鼻山に住み着き、空海に封じられた大頭魔王なる妖が周囲の人々を悩ましていると知った武将・蒲生貞秀。貞秀は配下の中でも武勇の誉れ高い土岐元貞に、妖を退治するよう命じます。勇躍山を登り、魔王堂の前についた元貞に襲いかかったのは、巨大な動く仁王像――しかし元貞は全く恐れる風もなく仁王像に斬りつけた上、文字通り叩きのめします。さらに元貞の前には阿弥陀如来が現れるものの、元貞は全く動じず一撃を食らわせるのでした。
 そして山の妖を倒したと貞秀の前に帰還した元貞。しかしその時……

 と、原典の内容を踏まえた物語を展開させつつ、本作はそこで語られなかった事実を描きます。誰もが称賛する配下の猛将・元貞に対して、貞秀が密かに抱いていた心の陰の部分を――と思いきや、それだけでなくもう一つのどんでん返し、原典に描かれた物語のさらに先が語られるという、なかなか凝った構成の作品となっているのです。

 このように、江戸奇談・怪談を題材とした作品でもあまり用いられたことのない題材、そして二度に渡るどんでん返しと、ユニークな作品であることは間違いないのですが――しかしその一方で、クライマックスに登場するのがあまりにも漫画チックな存在で、物語の雰囲気を一気に崩した感があるのが、なんとも残念なところです。
(もう一つ、原典の非常に伝奇的なネタがばっさりオミットされてしまうのも、個人的に残念なところではありますが)


『ビジャの女王』(森秀樹)
 城内に侵入し、地下の娼館街に隠れたオッド姫を追ったモンゴル兵たちも全滅し、ひとまず危機から逃れたビジャ。さらにビジャを包囲するラジンの元に、モンゴルのハーン・モンケからの使者が訪れ、事態は思わぬ方向に展開していきます。

 かつて自分と争ったモンケの娘・クトゥルンを惨殺したラジン。殺らなければ殺られる状況下ではあったとはいえ、いかに実力主義のモンゴルであっても、あれはさすがにやりすぎだったようです。
 かくて、ビジャを落とせば兵の命は助けるという条件でモンケの召還(=処刑)を受け入れることになったラジンですが――しかし彼が黙って死を受け入れるはずがありません。副官の「名無し」に謎の密命を授け(何のことだがわからんと真顔で焦る名無しに、すかさずフォローを入れるのがおかしい)、自分はむしろ意気揚々と去っていきます。

 なにはともあれ、ビジャにとっては最大の強敵が去ったわけですが、しかしモンゴルの包囲は変わらず、そして城内にもまだ侵入した兵が残っている状態。それでもビジャが負けなかったことは間違いありませんが――まだまだ大変な事態は続きそうです。


『江戸の不倫は死の香り』(山口譲司)
 次号では表紙&巻頭カラーと、何気に本誌の連載陣でも一定の位置を占めている本作。今回の舞台となる土屋相模守の下屋敷では、数年前に病で視力を失い隠居した先代・彦直が暮らしていたのですが――その彦直の世話のため、下女のりんがやってきたことから悲劇が始まります。
 婿養子である彦直に対して愛が薄く、ほとんど下屋敷にやって来ることもない正室。そんな中で、心優しいりんに彦直は心惹かれ、やがて二人は愛し合うようになったのです。しかしそれを知った正室は……

 いや、確かに正室はいるものの実質的には純愛に近く、これはセーフでは? と思わされる今回ですが(いつもの話のように、正室を除こうとしたわけでもなく……)しかし待ち受けているのは地獄のような展開。りんがいつもつけていた糸瓜水が仇となった上に、終盤でのある人物の全く容赦のない言葉には愕然とさせられます。
 ラストシーンこそ何となく美しく見えますが、いつも以上に胸糞の悪い結末です。
(こういう時こそ損料屋を呼ぶべきでは!? などと混乱してしまうほどに)


 次号は『雑兵物語 明日はどっちへ』(やまさき拓味)が最終回、特別読切で『すみ・たか姉妹仇討ち』(盛田賢司)と『猫じゃ!!』(碧也ぴんく)が登場の予定です。


「コミック乱ツインズ」2025年1月号(リイド社) Amazon

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2024.12.18

「コミック乱ツインズ」 2025年1月号(その一)

 号数の上では早くも2025年に入った今月の「コミック乱Twins」1月号、巻頭カラー&表紙は久々登場の『そば屋幻庵』です
。今回ほとんどレギュラー陣ですが、特別読切として『老媼茶話裏語』(小林裕和)が掲載されています。今回も、印象に残った作品を一つずつ紹介しましょう。

『そば屋幻庵』(かどたひろし&梶研吾)
 冒頭から非常に旨そうな力蕎麦(作中で言われている通り、柚子が実に良いかんじです)が登場する今回ですが、この力蕎麦、近々行われる力石大会の応援を込めたもの。しかしこれを食べた石工職人の岩蔵は、かねてから娘のお照と交際している天文学者の鈴平が気に入らず、大会で十位以内に入らないと交際は認めない、しかも自分のところの若い職人・剛太が一位になったら、そちらにお照をやる、などと言い出して……

 と、とんだ横暴親父もあったものですが、まあ職人としては、娘は手に職を持った男に嫁がせたいというのもわからないでもありません。しかし鈴平も、剛太も実に好青年で、一体この勝負の行方が気になるのですが――これが実にあっけらかんと意表を突いたオチがつくのが楽しい。悪人もなく、誰かが割りを食うわけでもない、本作らしい気持ちの良い結末です。(ただ、そばが冒頭のみだったのは残念)


『前巷説百物語』(日高建男&京極夏彦)
 「周防大蟆」編もこの第五回で最終回、前回は立合いの同心たちの口から、仇討ちの場に現れた大ガマの怪と仇討ちの結末が語られましたが、実は大ガマの存在はあくまでも目眩まし、真の仕掛けは――というわけで、又市と山崎の会話で、それが明かされます。
 前回、同心の口から、ガマは見届け人に退治され、そして岩見平七は見事に疋田伊織を相手に仇を討ったと語られましたが、前者はともかく、後者は望まれた結末ではなかったはず。それでは仕掛けは失敗したのかといえば――思いもよらぬトリックの存在が語られます。

 正直なところ大ガマ自体は(後年の又市の仕掛けと比べると)決して出来のいい仕掛けではないわけですが、本当の仕掛けはその先に、というのが面白い。そしてその中身は又市の青臭い、しかし後々にまで続いていく想いに支えられたものであったことが印象に残ります。
 もちろんこれは原作そのままではあるのですが、又市がこの仕掛けに辿り着くまでに、調べ、迷い、悩む姿が描かれるのは漫画オリジナルで、この時代なればのこその描写というべきでしょう。
(ちなみに問題のお世継ぎに対する山崎の言葉が、原作からはかなり大きく異なっているのはちょっと引っかかりますが、このずっと後に登場するある人物の存在を連想させるのは興味深いところです)

 それにしても今回冒頭に登場するおちかさんが、くるくる変わる表情など、相変わらず実に良いのですが――良ければ良いほど、この先を想像してしまい...…


『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
 前回、一応主君である浦上宗景の奸計により、存在が毛利家にロックオンされてしまった直家。今回はその毛利家がメインとなり、直家はオチ要員で一コマ登場するのみというちょっと珍しい回となっています。

 そんな今回登場するのは、毛利元就の次の代の毛利家を支える「三本の矢」――毛利輝元・吉川元春・小早川隆景の三人。そして三人が直家をいかに攻めるか語り合うその場には、なんとあの三村元親が――と、ある意味タイムリーなビジュアルが懐かしいですが、この三人(というより隆景)を前にしてはレベルが違いすぎるのが哀れです。

 それはさておき、実際に直家を攻めるのは誰か――と思いきや、ここで登場するのは「四本目の矢」こと毛利元清! えらく渋好みのキャラですが、実際に直家とは死闘を繰り広げた好敵手ともいうべき人物です。
 しかし登場するなり突然自虐的過ぎることを言い出すのですが、これがなんとまあ史実とは……(隆景が理解者っぽいのも史実)


 残る作品は、次回紹介します。


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2024.12.10

『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』 第三十三話「禁忌の抜刀」/第三十四話「逆刃刀 初撃」

 張の奇剣に苦戦しながらも、青空に託された赤空の最後の一振りで勝利する剣心。その刀こそは逆刃刀の真打だった。そして剣心は、初めて逆刃刀を抜いた時のことを思い出す。それはかつて上野戦争の直後に高熱を発して倒れた自分を介抱してくれた、元岡っ引き夫婦を救うためだった……

 今回はちょっと内容的に中途半端な組み合わせですが、二話まとめて紹介(といってもメインは三十四話の方)します。

 第三十三話は、前話から引き続いて十本刀・張との対決。薄刃刀にいきなり苦戦する剣心を最初は見捨てて子供を助けようとした青空は、剣心の格好良い啖呵に考えを改めて父・赤空の最後の一振りを託し、剣心は子供を手に掛けようとした張相手に思わず本気を出して一閃するも、実は逆刃刀だったのでセーフ――という展開になります。 この辺り、運良く人斬りにならなかっただけ(刃衛の時も危なかったですが、あれは薫殿が頑張ったので)というのにモヤモヤしますが、これはまあ仕方がないことでしょう。むしろここは、あれだけ殺人奇剣を作ったにもかかわらず、最後は心を改めた赤空の遺志が彼を、息子と孫を助けたと考えるべきでしょう。(あと、「峰打ち不殺」みたいなことにならなくてよかった……


 さて、原作では葵屋で剣心が改めて逆刃刀を受け取って「よし!」だったわけですが、アニメの方では、剣心の回想の形で、ほぼ一話かけたオリジナルエピソードが描かれることになります。

 剣心が赤空に別れを告げ、刀を託されておそらく程なく――江戸に現れた剣心は、折悪しく高熱を発してダウンしたところを、皐月という女性に救われます。時あたかも上野戦争の直後、夫の義一と共に暮らす彼女は、剣心を新政府軍に追われる旧幕軍の敗残兵と思って助けたのです。 そんなわけで二人(と猫たち)のもとで養生することになった剣心。しかし、かつて義一は岡っ引きとして御用盗を追っていた中で片腕を失い、勝てば官軍と復讐を企んでいる元御用盗たちから隠れ住んでいることを知ります。そしてついに義一の家を突き止め、襲撃してきた元御用盗たち。皐月とお腹の子を助けるために命を投げ出そうとする義一を助けるため、剣心はついに刀を抜くのですが……

 というわけで、結構派手な内容だった第零幕に比べると、初期エピソードに近いムードの物語ですが――しかし舞台はまだ戊辰戦争の最中だけに、いつ庶民が戦いに巻き込まれてもおかしくない世界であり、そして戦いに名を借りて今回の御用盗たちのような悪事を働く人間の存在には、厭な生々しさがあります。もっとも、そんな時代だからこそ、傷付いてもなお明るい明日を目指そうとする二人の姿が印象的であるわけで、やはり時代の混乱の中で傷つき剣を捨てた剣心が、二人のために剣を再び手にする展開には納得がいきます。(ただ、義一はもうちょっと元岡っ引きらしい喋りでも良かったのではないかなあ、という気持ちは、時代劇ファンとしてはあります。もちろん、色々な岡っ引きがいるわけですが……)

 その一方でちょっと引っ掛かったのは、剣心が刀を抜いて初めて、それが逆刃刀であると気付くくだりですが、これはまあ、それまで刀を抜く気にもならなかった、ということなのでしょう(しかしいざ抜いてみたら、面白殺人奇剣でなくて本当によかった……)。また、最終的にその場を収めたのが、剣心の過去の雷名であったというのは、これもまあ初期エピソード的でもあります。 
 もう一つ余計なことをいえば、せっかく「御用盗」というワードが出てきたのですから、いつもの関俊彦のナレーションで「御用盗とは〜」と解説すればよかったのに、と一瞬思いましたが、そうすると相楽隊長の暗い過去が言及されかねないから――というのは考えすぎですが、単なるそこらの賊のように単純化して描かれたのは、ちょっともったいなかったと感じます。

 なお、この第三十四話の脚本は、もちろん黒碕薫。というわけで、アニメオリジナルとはいえ、ほぼオフィシャルと考えてよい内容なのかな、と思います。(ちなみに登場した猫の中に、聞き覚えのある名前が……)


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『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』 第三十一話「京都到着」/第三十二話「十本刀・張」

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2024.12.01

『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』 第三十一話「京都到着」/第三十二話「十本刀・張」

 京都に到着し、操の育った料亭「葵屋」で、元隠密御庭番衆の「翁」と出会う剣心。翁の力を借りた剣心は、折れた逆刃刀の代わりを求めて刀匠・新井赤空を探すが、赤空は既に亡き人だった。しかし赤空の最後の一振りがあると知った十本刀・刀狩の張の魔手が、赤空の息子一家に迫る……

 だいぶ遅れてしまいましたが、今回も二話紹介。ようやく京都に到着し、名実ともに京都編スタートといったところですが、志々雄一派との激突もいよいよ本格的に始まります。

 第三十一話で描かれるのは、タイトル通り剣心(と操)の京都到着の模様。ここでこの先、剣心たちの京都での足がかりになる葵屋が登場するわけですが、そこはかつて隠密御庭番衆の京都探索の拠点で――と、重要キャラの「翁」こと柏崎念至が登場します。旧アニメ版ではザ・頼りになるお年寄り役声優の北村弘一氏が演じていましたが、今回は千葉繁氏と、エキセントリックな側面を強く感じさせるキャスティングですが、違和感なくハマっているといえるでしょう(千葉氏も年齢的には無理がないですし――地虫忍者経験もある、というのはさておき)。
 初登場シーンから、一目で剣心を抜刀斎だと見抜き助力を申し出るなど、かつての実力も健在と感じさせる翁ですが、ここで剣心が「新井赤空」と「比古清十郎」と二人の探し人の名を挙げることで、この先の物語が広がっていくことになります。

 しかし隠密御庭番衆といえば、言うまでもなく四乃森蒼紫ですが――その蒼紫といえば、隠すこともなく堂々とあの長物を手に京を闊歩していたのは、これは原作通りではあるものの、ビジュアル的にはやはり面白すぎるというか何というか……(この先、もっと面白いことになるのですが)

 そして対する志々雄も京都のアジトに到着、そこで待っていたのは十本刀の一人にして志々雄の軍師・佐渡島方治。切れ者ぶりに似合わず、配下たちの前では自らアジテーション役も辞さない男ですが、ここでは蘊蓄を傾けながら、「勝利」の花言葉を持つ阿蘭陀菖蒲(グラジオラス)の花束をプレゼント――ってこんな場面原作にあったっけ!? と思いきや、今回のアニメオリジナルシーンでした。
 実は今回脚本を担当したのは黒碕薫――長きにわたり原作協力を担当し、このアニメ第一期で担当した石動雷十太編・第零幕では、アニメオリジナルの描写で原作ファンを驚かせてくれましたが、今回も期待通りの展開というべきでしょう。といっても今回は、ここと後述の張のけん玉の件くらいなのがちょっと物足りないのですが……

 しかし、ここで国盗りに前のめりの方治に対して、志々雄は剣心に十本刀を当てると宣言。滅茶苦茶反対する方治ですが、あの面子が全員要人暗殺に役立つかといえば非常に疑問で、志々雄の言うように三四人まとめていけばそれなりにイケるのでは――という気がしないでもありません。もっとも志々雄は三段バカ笑いでわかるようにほとんど自分の趣味で言ってるので、方治の苦労が偲ばれます。
(にしても、宗次郎と宇水がいれば問題ないと、宗次郎と並び称されるほどの宇水さん――活躍を期待しないわけにはいきません)

 さてここで顔を見せた張は、剣心が折れた逆刃刀の代りを求め、その逆刃刀を打った新井赤空(は亡くなっていたのでその息子の青空)の下を訪ねたこと、手ぶらで帰ったものの、赤空には最後のひと振りがあるらしいことを聞いて、妙にやる気を見せます。
 そこで青空の店を訪れた張は、息子の伊織がけん玉で遊んでいたのを見て、自分も自信満々にやってみせたものの、ひたすら大失敗――というのが第三十二回のオリジナルシーン。これが張が伊織を人質に取り、長刀の鞘の先にぶら下げたまま、刀版けん玉ともいうべき逆中空納刀にチャレンジするシーンのサスペンスを煽る――という趣向ですが、力入れるところかなあ、という気はいたします。

 しかしこの張、関西弁の喋りといい、自分の欲のままに動く性格といい、これまで何となく憎めない印象がありましたが――今回改めてみると、実行に至らなかったまでも子供を手に掛けることも厭わないド畜生で、この先の扱いを考えるとなんかこう、もう少しヒドい目に遭っておいてもよかったのでは、という気もします。
 その戦いはまだ決着は着いていませんが、今回の時点でかなりボコボコ。しかし十本刀の実質一番手としての彼の本領発揮は、まだまだこれから――と次回に続きます。


 しかし青空君、神社に奉納した最後の刀まで汚されては赤空が刀匠ではなく本当に「殺人道具を作った男」になってしまうと言っていましたが、この先登場する赤空の殺人奇剣を見れば、もはや手遅れだととしか……
(というか、「殺人奇剣」という言葉ができてしまった時点で既に)


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2024.11.19

「コミック乱ツインズ」2024年12月号(その二)

 号数の上では今年最後の「コミック乱ツインズ」12月号の紹介の続きです。

『よりそうゴハン』(鈴木あつむ)
 売れない絵師・歌川芳芳と妻のヨリを主人公とした江戸グルメまんがの本作、最近は同じ作者の作品では『口八丁堀』の方が目立っていた感がありましたが、こちらはこちらでやはり味があります。
 今回は長屋に越してきた嘉兵衛とイネの老夫妻を招いてのサツマイモ料理二品が描かれます。なんば煮とサツマイモ炒め、シンプルながらそれだけに実に旨そうな料理もいいのですが、やはり印象に残るのはゲストキャラクターの二人でしょう。

 言ってしまえば嘉兵衛は認知症の気がある老人で、話しているうちに段々とその内容が怪しくなっていく(それに合わせて瞳の描写が変わっていくのが恐ろしくも、どこかリアル)のですが――イネや主人公夫婦の包み込むようなリアクションによって、切なさを描きつつも、悲しさまでは感じさせないのに唸りました。
 イネのことを語る終盤の嘉兵衛のセリフも、典型的な認知症のそれなのですが、しかしその中に温かみを感じさせる言葉を交えることで、二人がこれまで歩んできた道のりを感じさせるのが巧みです。ラストページの美しい幻のような二人の姿も印象に残るエピソードでした。


『前巷説百物語』(日高建男&京極夏彦)
 「周防大蟆」の第四回、いよいよ岩見平七による、疋田伊織への仇討ちが描かれるわけですが――今回は又市たちは(表向き)登場せず、それどころか既に敵討ちが、つまり仕掛けが終わった後に、志方同心と目撃者たちのやり取りによってその顛末が語られることになります。
 それもそれを裏付けるのは、町中の無責任な噂などではなく、仇討ちに立ち会った同心の、いわばオフィシャルな発言。その内容がまた、まず伊織のビジュアルなど大げさな噂は否定しておいて、しかし一番信じがたい、大蛙の出現は事実だと告げる構成は、巧みというべきでしょう。

 ちなみにここで原作にない(はず)異臭が立ち込めるという演出(?)が入るのも面白いのですが――しかし原作にない、この漫画版ならではの描写で印象に残るのは、何と言っても仇人である伊織を目の当たりにした時の、平七の表情でしょう。仇を前にしたとは思えないその表情の意味は――それも含めて、事の真相は次回以降に続きます。


『古怪蒐むる人』(柴田真秋)
 何かと怪異に縁を持ってしまう役人・喜多村による怪異見聞記、今回は「怪竈の事」というサブタイトル通り、竈にまつわる怪異が描かれます。
 知人の山田に、屋敷の下女の弟・甚六が古道具屋で買った竃から、汚い法師が手をのばすと相談された喜多村。早速甚六の長屋に出向いて話を聞いてみると、竃で飯を炊こうとすると、中から二つの目が睨みつけ、さらに竃から二本の腕が出るというのです。そこで竃を買ったという古道具屋に向かった喜多村は、主人の立ち会いの下、ある試みをするのですが……

 と、怪異的にはシンプルながら、その描写がなかなかに迫力に満ちた今回。無害そうで、きっちり実害がある怪異も恐ろしいのですが、それに対して果断な行動に出る喜多村も結構恐ろしいように思います。


 次号はレギュラー陣の他、特別読み切りで小林裕和の『老媼茶話裏語』が登場。「老媼茶話」といえば江戸時代の奇談集ですが、今号の『古怪蒐むる人』といい、こちらの路線を重視しているということでしょうか。個人的にはもちろん大歓迎です。
(まあ、そもそも『前巷説百物語』が連載されているわけで……)


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2024.11.18

「コミック乱ツインズ」2024年12月号(その一)

 今月の「コミック乱ツインズ」は表紙が二ヶ月連続の『鬼役』、巻頭カラーは『ビジャの女王』となります。レギュラー陣の他、シリーズ連載は『よりそうゴハン』『古怪蒐むる人』が掲載されています。今回も印象に残った作品を一つずつご紹介します。

『ビジャの女王』(森秀樹)
 オッド姫が地下の娼館街に隠れたものの、ジファルの手引きでそこに乱入したモンゴル兵たち。その一人でありジファルと繋がるドルジの槍がオッド姫に襲ったところで続いた今回、別の意味で襲いかかろうとしたドルジの魔手から姫を救ったのは何と――と、意外なキャラが活躍しながらも、惜しくもここで退場することになります。
 ブブの怒りは大爆発、ドルジを文字通り粉砕し、娼館街の女主人たちによってモンゴル兵も片付けられ、新たな味方も加わって――とこの場は一件落着ですが、喪われた命は帰りません。ここで墨者の弔い(懐かしい)をするブブの姿が印象に残ります。

 しかし最大の危機は去ったかに見えたものの、天には不吉な赤い月が。そしてブブとオッド姫が目の当たりにした異変とは――まだまだ戦いは続きます。


『不便ですてきな江戸の町』(はしもとみつお&永井義男)
 いよいよ本作も今回で最終回。色々あった末にすっかりと江戸時代に馴染んだ島辺と会沢、特に島辺はこの時代で出会ったおようと愛し合うようになって――と、いつまでも続きそうだった日常は、ある日起きた火事で一変することになります。
 長屋の人々も避難したものの、かつて島辺に贈られた思い出のかんざしを探して火に巻かれるおよう。おようを追ってきた島辺は、彼女を連れてタイムトンネルのある祠まで逃げるのですが……

 というわけで、不便ですてきなどとは言っていられない、江戸のおっかない面が描かれることになった最終回。もう火事から逃げるには未来(現代)に行くしかありませんが、しかし島辺はともかく、おようは――本当にこれで良かったのかしら!? という豪快なオチではありますが(大変さは島辺たちの比じゃないと思います)が、これはこれで大団円なのでしょう。


『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
 最近、宇喜多さんの快進撃が続いていましたが、そういえば主君の浦上宗景は――と思っていたらタイトルが「忘れちゃいけないこの男」で吹き出した今回。しかし宗景がパリピのフリしてかなり陰湿なのは今まで描かれてきた通りで、いよいよ直家追い落としにかかることになります。
 家臣の明石行雄を直家のもとに送り込み、色々と探らせる宗景ですが――この後の歴史を考えると、これが結構逆効果だったのでは、という気がしないでもありません。しかしここで毛利と敵対する尼子に接近していることが明らかになってしまったのは、直家にとってはプラスにはならないでしょう。

 しかしこう言ってはなんですが、ローカルだった話が一気に表舞台の歴史と繋がった感があり(あの有名武将も登場!)、いよいよここからが本番、という気もいたします。


 残りの作品は次回にご紹介いたします。


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