2022.06.14

「コミック乱ツインズ」2022年7月号

 号数では今年も折り返しに入った「コミック乱ツインズ7月号」は、『そば屋幻庵』が巻頭カラー、新連載の『不便ですてきな江戸の町』が巻中カラー。その他、新連載で『そぞろ源内 大江戸さぐり控え帳』のほか、『軍鶏侍』が掲載されています。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介します。

『そば屋 幻庵』(かどたひろし&梶研吾)
 相変わらすびっくりするくらい美しい藤丸姐さんが表紙を飾っていますが(本編には未登場)、今回のヒロインは牧野家の女中のおみつ。買い物帰りに白玉(これがまた本当に美味しそう)に惹かれていたところを玄太郎に見つかり、一緒に辻占煎餅を食べるおみつですが、二日以内に五回転ぶと牧野家にも大災厄が及ぶという占いが……

 思わぬことで窮地に陥ったおみつと牧野家を救うために、玄太郎が幻庵として作った蕎麦は――これがまた猛烈に旨そうなのですが、何よりも印象に残るのは、御家の危機とはいえ、おみつを親身に気遣う玄太郎と牧野家の人々。『勘定吟味役異聞』でイヤな上司を見ているだけに(?)、実に暖かく感じます。


『そぞろ源内 大江戸さぐり控え帳』(叶精作&天沢彰)
 今回からスタートの本作は、タイトルから察せられるように平賀源内を主人公とした探偵もの。まだ高松藩士だった頃、江戸留学中の源内が、その本草学の知識と頭脳の冴えで様々な事件に挑む物語となるようです。
 第一回のサブタイトルは「血を吸う女」――知り合いの同心・浅間和之助から、立て続けに三人見つかった全身から体の血を抜かれた死体の謎解きを依頼された源内が、妖しげな美女に接近することになります。

 初回ながら次々とレギュラーらしきキャラが登場、それが全員顔見知りなのでこれまでにシリーズ連載されていたのかと思ってしまったりしましたが、この時期の源内を主人公とするのはなかなか面白い。
 また面白いといえば、優等生的なイメージのある杉田玄白が、「人を刻んだ後は甘い物がうまい!!」とかいいだす変態監察医系キャラなのも実にユニークであります。


『ビジャの女王』(森秀樹)
 王の死によって、後継者を決めるべく開かれたビジャロマ会議。継承権を持つも明らかにクズのヤヴェ王子と、持たないオッド姫とどちらを後継者とするか、会議は紛糾を続けます。ここでヤヴェを推すジファルの策によってあっさりと民衆はヤヴェに靡き、勝負あったかに見えたのですが……
 以前描かれたジファルの弱点というか良心を意外な人物が動かし、意外な展開に繋がっていくと思いきや、さらにラストにどんでん返しが待ち受ける今回。おそらくラストに登場したのは、前回もチラリと登場したあのキャラだと思いますが、さて事態はどう転ぶことでしょうか。


『かきすて!』(艶々)
 娘三人の江戸への旅から、旅芸人かと思いきや実は隠密だったおナツ一人の江戸からの旅と、意外な方向に物語が展開した本作。第二シリーズの初回というべき今回は、東海道を西に進むおナツが、途中の宿場で特産品を作る父娘と関わり合うことになります。
 その特産品というのが、わかる人には一発でわかるアレで、ナツがある意味大変な目に遭うのが気の毒というか実に可笑しいのですが――おナツ一人になることで、物語の展開も身軽になったのは良かったと思います。


『仕掛人めし噺 藤枝梅安歳食記』(武村勇治&池波正太郎(原案))
 深川と神田明神下を舞台とする今回、梅安たちは全く登場せず、主人公を務めるのはまさかの音羽の半右衛門とおくら。ある意味非常にスピンオフらしい展開ですが、すっぽんと鰻、登場する料理はこれまで以上に旨そうに見えます。
 が、最も印象的なのはそのオチ。こうくる!? と驚かされつつ、何だか可愛らしく見えてしまった時点で、本作の勝ちでしょう。


『列士満』(松本次郎)
 初陣で水戸天狗党討伐に投入されるも、いきなり夜襲を受けて壊滅寸前となった幕府の陸軍歩兵隊。その中で、仲間を逃して一人奮戦するスエキチですが、敵の隊長に大苦戦することに――という今回、スエキチと天狗党の、緊迫感があるんだかのんびりしているんだかわからない妙な空気感の戦いは、この作者ならではというべきでしょう。
 しかしクライマックス、夜の山で繰り広げられる一騎打ち(その理由がまたスゴい)の不穏な迫力はさすがの一言。結末の苦さ虚しさも印象に残ります。


 次号は『暁の犬』『カムヤライド』『勘定吟味役異聞』が連載再開であります。


「コミック乱ツインズ」2022年7月号(リイド社) Amazon

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2022.06.10

『読んで旅する鎌倉時代』(その二) 坂東武者の時代の終わりに

 十三人の作家が、鎌倉幕府成立に関わる十三の史跡を題材とした十三篇を収録したアンソロジーの紹介の後編です。

「ある坂東武者の一生」(吉森大祐)
 昔から問題行動だらけの父・熊谷直実に振り回されっぱなしの直家。十八年前に騒ぎを起こして鎌倉から逐電、京で法然上人に迫って出家した直実も、この数年はおとなしくしていたかに見えたのですが――今度はその父が頼朝と対立する九条兼実に近付いていると聞き、直家は泡を食って京に向かうことになります。
 しかしその途上、直家のもとに届いた報せとは……

 謡曲「敦盛」で知られる熊谷直実。そこでは若武者・平敦盛の最期に哀れを覚えて出家する人物として描かれる直実ですが、史実では土地の境界争いに敗れたのをきっかけに頼朝の前でブチ切れて出奔、出家するなど、むしろいかにも坂東武者らしい豪傑であったようです。
 本作はその後者の直実が描かれ、彼に振り回される直家の姿が何ともペーソスたっぷりに描かれることになります。

 その有様には気の毒になったり可笑しくなったりなのですが、しかし本作の直実の姿に象徴されるのは、荒武者たちが己の気の赴くままに暴れまわった、ある意味おおらかな時代の終わりであります。ここから先は、幕府の統制の下に行きていくしかない直家らの姿には、何ともいえぬほろ苦さがあります。

 しかし「一谷嫩軍記」での自分の扱いを知ったら、直家は何と言ったか……


「由比ガ浜の薄明」(天野純希)
 侍所別当として坂東武者を束ねてきた長老・和田義盛とその一族が、北条義時の度重なる挑発についに暴発し、武力衝突に発展したいわゆる和田合戦。本作はその合戦を、義盛の子・朝比奈三郎義秀の目から描きます。
 妾の子として冷遇され、ただ強くなることのみが己の価値を示す手段であった三郎。そんな彼にとって、この合戦も、ただ父の命じるままに戦う以外の選択肢はありません。しかし義盛の無策に加えて味方の裏切りに遭い、戦で大敗。由比ガ浜にまで退いた三郎は、心の中にあったただ一つの疑念を父に問い質すのですが……

 現代では観光地となっている由比ガ浜を舞台として描かれるのは、武士の家に縛られた三郎と、その家を支配する、いかにも坂東武者らしい義盛の姿です。
 しかし義盛の口から、意外な(というべきか)合戦の真実が語られた先に三郎が選ぶのは――豪勇で知られながらもその死に様は語られず生存伝説すらある三郎のキャラクターを活かし、やりきれない武士の運命を描く物語から一転、希望を感じさせる結末の爽やかさが印象に残る物語です。


「実朝の猫」(砂原浩太朗)
 鶴岡八幡宮を舞台とした本作は、ある意味本書随一の異色作。何しろ物語の語り手は猫――三代将軍実朝の飼い猫なのですから!

 京から源実朝に輿入れした御台所についてきた黒猫の黒麿。子のない二人に可愛がられてきた黒麿は、雪の中、鶴岡八幡宮への拝賀に赴く実朝を見送った直後、猫たちから不穏な噂を聞かされることになります。
 自称・北条義時の飼い猫の六弥太からは、当日列席するはずの義時が急に欠席を決めたこと、そして八幡宮の飼い猫・白妙からは別当――すなわち公暁が不穏な言動を見せていると知った黒麿は、一路八幡宮へ駆けるのでした。

 六弥太、白妙とともに、吹雪の中、矢のように主の下に急ぐ黒麿。ついに実朝を見つけ、急を知らせようとしたその時……

 他の物語から少々時が下った本作の題材となるのは、源氏政権に終止符を打ったあの惨劇――その惨劇を止めるために駆ける黒麿の視点から描かれる物語は、猫ならではの機敏さでもって、スピーディーに、そして緊迫感を以て描かれることになります。
 結末はわかっているものの、しかし何とか避けられないものかと思わず祈ってしまう本作、結末の黒麿の述懐が何ともほろ苦い後味を感じさせます。


 以上、全十三篇の中から六篇を紹介させていただきました。これまで他の時代に比べて題材となることが少なかった鎌倉時代ですが、しかしその鎌倉時代にも色々と興味深い人物・事件があることを示してくれる一冊でありますー

 鎌倉時代に様々な形で分け入っていく道標ともなりそうな本書、執筆陣の豪華さも含めて、これまでもユニークな歴史小説アンソロジーを幾つも送り出してきた講談社ならではの一冊というべきでしょう。

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2022.06.09

『読んで旅する鎌倉時代』(その一) 源平合戦の陰の恋の形

 大河ドラマで個人的に一番楽しみなのは、それに合わせて刊行される、関連した題材を扱った書籍であります。本書はその中でも最もユニークかつ豪華な一冊――十三人の作家が、鎌倉幕府成立に関わる十三の史跡を舞台とした物語を描くアンソロジーであります。

 というわけで、本書は「小説現代」2022年1・2月合併号に掲載された同名の企画を書籍化したもの。ここでは、そのうち特に印象に残った作品を紹介いたします。


「妻の謀」(鈴木英治)
 知人の勧めで、平治の乱で共に戦った源朝長の娘・華子を後妻を娶った大庭景親。実は乱では清盛方と通じ、朝長らを売る形で生き延びたことに後ろめたさを感じていた景親ですが、華子の美しさに目を奪われ、以来、心の底から愛し慈しむのでした。
 しかしその妻は佐殿(頼朝)に味方してほしいと懇願するものの、その言葉に取り合わず、平家に仕え続ける景親。やがて佐殿闇討ちを命じられた彼は、三嶋大社に潜むことに……

 三嶋大社近くの妻塚観音堂を題材とした本作の主人公は、本書でも何度も題材となっている石橋山の合戦で散々に頼朝を打ち破った大庭景親。物語は、明らかに偽りを言って彼に接近してきた妻・華子の思惑を巡って展開することとなります。
 その思惑自体はすぐに予想がつくものの、しかし物語は二転三転、そこに浮かび上がるのは――人間として何を選ぶのか、どちらの選んだ道も決して間違っていないだけに、物悲しくもどこか清々しい後味が残ります。

 ちなみに本作は、本書ではほとんど唯一、頼朝の敵方を主人公とした物語。だからこそ描けた物語と言うべきでしょうか。


「初嵐」(阿部暁子)
 挙兵の際、妻の政子と娘の大姫を伊豆山神社に預けた頼朝。戦勝祈願にやって来た頼朝に対し、政子が語る想いとは……

 というわけで、ある意味史上に残るドラマチックなラブストーリーである頼朝と政子の出会いを中心に描かれる本作。ここで描かれるその経緯は、よく知られたものにほぼ忠実なのですが――しかし、本作はその背後にあったものを語ることになります。
 後ろ盾となるものがない頼朝と、旗頭を必要としていた北条時政。二人の男の嘘と欲に恋を演出された形となった政子ですが、しかしそれを知った上で頼朝に対して昂然と胸を張ってみせる政子の姿は、何とも力強く、そして颯爽としたものに感じられます。

 政子が恋に落ちた瞬間の頼朝の描写も実に巧みで、歴史に名を残す二人のナマの姿が印象に残る物語です。


「恋真珠」(赤神諒)
 自分の叔母であり、出会った時には人妻だった初恋の相手・八重への想いを貫き、ついに結ばれた江間小四郎。
 「恋遊びはできても、自分にはもう本物の恋ができない」と宣言する八重を受け入れながらも、なおも前夫である頼朝のことを語る彼女に嫉妬し、その一方でまさに英雄と言うべき義兄相手では仕方ないと感じるなど、小四郎の胸中には複雑な想いが渦巻きます。

 そんな中、ついに頼朝の挙兵に付き従い、初陣を迎えることとなった小四郎。その彼に対し、「恋は思い出になって、終わるわけじゃない。恋は終わってからだって、花開くのよ」と言い残し、頼朝の元に向かう八重の真意とは……

 政子の陰に隠れがちですが、その前に頼朝と結ばれて子を儲け、その子を身代わりに頼朝を助けるという、決して烈婦ぶりでは負けない八重。しかしその八重を本作は、武士を支える妻という形ではなく、恋に生きる一人の女性として描きます。
 己の恋を真珠に喩え、その恋を頼朝に捧げる八重に翻弄される小四郎ですが、八重の心は、はたしてどこに向いていたのか?

 八重姫の供養塔があるという真珠院を題材に、恋を貫いた八重、その想いの全てを理解していた頼朝、その時には気付けなかった小四郎――三人の不思議な人間関係が、人間の身勝手な、しかし最も美しい感情を浮き彫りにする本作は、異様な感動を与える結末も相まって、個人的には本書の中で最も印象に残った作品でした。

 ちなみに本作の小四郎と八重の関係は、奇しくも(?)、大河ドラマのそれと重なるのですが――むしろ一生に一度の恋、そして貝というモチーフから、作者の戦国もの『空貝』と表裏一体の物語とも感じられる作品です。


 次回に続きます(全二回予定)


『読んで旅する鎌倉時代』(講談社文庫) Amazon

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赤神諒『空貝 村上水軍の神姫』の解説を担当しました

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2022.06.05

唐々煙『煉獄に笑う』第14巻 そして三成は往く 曇サーガここに完結

 本作だけで約9年、『曇天に笑う』から数えれば約11年――ついに『煉獄に笑う』完結の時がやってきました。前代未聞の八本首の形態と化したオロチに最後の戦いを挑むのは、天正曇天三兄弟と、秀吉・家康・光秀らの連合軍。持てる力の全てを結集して挑む戦いの行方は……

 真の信長を器としてついに復活したオロチ。オロチ封印の最後の希望、三本の巻物の最後の一本を安土城に突入して見事奪取した佐吉ですが――しかし信長がその意識を残した故か、オロチは牡丹すら知らない形態、八岐大蛇状の怪物に変化するのでした。
 この絶望的な状況下でも、封印の準備に入る牡丹と、彼女を守るべく陣を敷く連合軍。そしてそこに死んだと思われていた芭恋も姿を現し、佐吉・芭恋・阿国の天正曇天三兄弟――石田三成が復活!

 というわけで、今度こそオールスターキャストで臨む最後の最後の決戦が繰り広げられるこの最終巻。
 佐吉・芭恋・阿国の三人(あと後世でいうゲロ吉)に、秀吉・家康・光秀、さらに左近に紀之介(吉継)といった武将たち、百地丹波と浯衛門、桜花と一波、鬼平太、国友の勇真に芦屋弓月と安倍家一門(そしてもう一人)、牡丹――これまでの物語で戦い抜き、生き抜いてきた者たちが恩讐を乗り越えて集うだけで、もう感動的としかいいようがありません。

 たとえほとんど怪獣クラスのオロチの首たちであっても、彼らであれば――と思いたくなる(そして実際どうにかしてしまう)面々が戦う間に、牡丹が死力を振り絞って封印の陣を張る――これで勝利まで後一歩と思いきや、しかし史上最悪のオロチの強さはまだまだ先がありました。
 中心の首が雲を食らった末に全方向に放った熱線(?)によって戦線は一瞬にして崩壊、そしてその首に牡丹と佐吉が飲み込まれてしまったではありませんか。

 そして首の中で佐吉が見たものは、オロチに飲み込まれた安土城の一部と、オロチの中でなおも己の姿を保つ織田信長その人。
 刀を失い、文字通り徒手空拳で信長と対峙することとなりながらも、なおも心は折れない佐吉。そして彼のために芭恋と阿国は、オロチの中に刀を届けるべく奮闘を繰り広げます。あの曇の護り刀を……


 本作において最後の『曇天に笑う』とのリンクというべき護り刀の因縁も登場し、いよいよ終局に向かう物語。しかしそこで描かれたものは――まさか、と言いたくなるような展開であります。ここまで来て、こんなことになるとは――と唖然とさせられる中で、物語は容赦なく展開していくことになります。
 しかしこれもまた、彼らが、石田三成が選んだ道。その果てにある結末であれば、これはもう本作の結末として受け容れるしかない、ということは間違いないでしょう。少なくともエピローグの展開を見れば、だからこその「石田三成」であったか、と舌を巻くしかないのですから。

 そして登場人物それぞれが収まるところに収まったエピローグの最後に待つもの――この『煉獄に笑う』という物語の冒頭にリンクして(今見返すと、絵はもちろん違うものの、台詞は同じなのが感慨深い。だからあのアングルだったのか、とも)描かれる結末には、大きく頷くしかないのであります。

 ちなみにこの単行本は、最終話に連載時に比べて、実に30ページ近い描き足しが為されており、完全版と呼ぶに相応しい内容となっています。ここまでくれば、まさに大団円と呼ぶしかないでしょう。


 冒頭に記した通り『曇天に笑う』から数えて11年、そして単行本総計で24巻という分量となった、この曇サーガともいうべき物語。その中でも本作が質・量ともにその中核を成すことは間違いありません。
 今読み返してみても伊賀のくだりはちょっと長かったな――などと思ったりはしますが、しかしそこまで描き込んだからこその、この最終巻の展開であったことは間違いないでしょう。

 このサーガをほぼリアルタイムで読むことができて良かった――心からそう思った次第です。


『煉獄に笑う』第14巻(唐々煙 マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ) Amazon

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 『煉獄に笑う』第2巻 へいくわいもの、主人公として突っ走る
 唐々煙『煉獄に笑う』第3巻 二人の真意、二人の笑う理由
 唐々煙『煉獄に笑う』第4巻 天正婆娑羅活劇、第二幕突入!
 唐々煙『煉獄に笑う』第5巻 絶望の淵で現れた者
 唐々煙『煉獄に笑う』第6巻 誕生、曇三兄弟!?
 唐々煙『煉獄に笑う』第7巻 開戦、第二次伊賀の乱!
 唐々煙『煉獄に笑う』第8巻 伊賀の乱の混沌に集う者、散る者
 唐々煙『煉獄に笑う』第9巻 彼らの刃の下の心 天正伊賀の乱終結
 唐々煙『煉獄に笑う』第10巻 嵐の前の静けさ!? 復活の三兄弟
 唐々煙『煉獄に笑う』第11巻 本能寺の変に動き出す表と裏の歴史
 唐々煙『煉獄に笑う』第12巻 最終決戦開始! 大団円への前奏曲
 唐々煙『煉獄に笑う』第13巻 クライマックスまったなし かぶき者還る!

 「曇天に笑う」第1巻
 「曇天に笑う」第2巻 見えてきた三兄弟の物語
 「曇天に笑う」第3巻 曇天の時代の行く先は
 「曇天に笑う」第4巻 残された者たちの歩む道
 「曇天に笑う」第5巻 クライマックス近し、されどいまだ曇天明けず
 「曇天に笑う」第6巻 そして最後に笑った者
 「曇天に笑う 外伝」上巻 一年後の彼らの現在・過去・未来
 唐々煙『曇天に笑う 外伝』中巻 急展開、「その先」の物語
 唐々煙『曇天に笑う 外伝』下巻 完結、三兄弟の物語 しかし……
 唐々煙『泡沫に笑う』 鎌倉から明治へ、二人の道の先に待つもの

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2022.05.22

桃野雑派『老虎残夢』(その二) 史実を背景に描き出された歴史と人の姿

 第67回江戸川乱歩賞受賞作にして武侠小説+本格ミステリの意欲作『老虎残夢』の紹介の後編であります。武侠ものの登場人物らしい造形でありつつも、それだけでは終わらない本作の登場人物。その最たるものは……

 本作の登場人物たちの中でも、最も陰影に富んだ姿が描かれる者――それは、主人公である紫蘭その人であります。

 前回述べたとおり、被害者である泰隆の唯一の弟子である紫蘭。しかし奥義を伝授されず――いやそれどころかその存在すら知らされていなかったことに、彼女は深い屈託を抱くことになります。
(それが、他人から見れば彼女が師殺しを行う動機になるのも巧みな設定です)

 そしてその悩みは、そもそも泰隆にとって自分は何者だったのか、自分は弟子として愛されていたのかという想いにまで繋がっていくことになるのですが――本作においては、彼女のみならず、この被害者たる泰隆と、他の登場人物との繋がり・結びつきが、物語の後半部分を動かしていくことになるのです。

 金国に理不尽に家族を奪われ、一人生きてきたところを紫苑と泰隆に拾われた恋華。泰隆と複雑な想いで結びついた関係にあった祥纏。ある事件がきっかけで泰隆と激しく仲違いしていた文和。流派は異なるにもかかわらず泰隆と深い繋がりを持つという為問……
 本作の謎解きは、同時に、紫苑も含めた登場人物一人ひとりを通じて、泰隆とはいかなる人物であったのか、というのを描くものでもあるのです。


 そしてその果てに紫苑たちが知る真実とは――それはもちろんここでは明かすことはできませんが、こちらが当初予想していた以上に、物語の時代背景と密接に結びついているということは述べても許されるでしょう。

 冒頭に述べたように、舞台は南宋――それも13世紀初頭、北宋が滅亡してから数十年が経つ間に金とは和議が結ばれ、国家として空前の繁栄を謳歌していた時代。しかしその一方で、モンゴルではチンギスハンが力を蓄えて金を圧迫する状況にありました。
 そしてその金と宋との関係も、様々な矛盾を孕んだ、危うい均衡状態のもとに成り立っていたのです。

 それがこの物語にいかなる形で影響を与えることになるのか? 物語の終盤において、物語を構成する要素が、この史実を背景に、全てがピタリと一枚の絵に収まるのには、ただ圧倒されるばかりです。
 そしてその絵に描かれているのは、殺人事件の謎解きだけではありません。そこにあるのは、いかなる武術の達人でも及ばぬ歴史の暴力的なまでに巨大な力であると同時に、その力に対する人間の小さな希望の姿である――その事実が、大きな感動を生むのです。


 武侠ものとして、本格ミステリとして、歴史ドラマとして、様々な顔を持ち、そしてそれが見事に有機的に結びついている本作。
(個人的には、武侠もの独自の用語・要素をサラリとわかりやすく描く語り口にも感心させられました)

 もっともその一方で、後半の意外な真実とキャラ掘り下げの連続によって、前半の武侠ものらしいケレン味は薄れてしまった感は否めません。
 それでも、本作に唯一無二の魅力が存在することは間違いないことでしょう。そしてデビュー作である本作以降も、できればこのような武侠ものを、武侠ミステリを生み出してほしいと、作者には期待してしまうのです。


 最後に、蛇足で恐縮ながら本作の百合要素、紫苑と恋華の愛の必然性についてですが――確かに二人が男女カップルであっても、弟子と師の娘という、江湖では禁断の関係という点には変わりがないことから、必然性は薄いようにも感じられます。

 しかし――物語の詳細に触れる部分があり、あまり詳しくは述べられないのですが――紫苑を男性とした場合、本作の物語が成り立たないこと(もしくは相当大きく構成・要素を変える必要があること)、かといって恋華を男性にしても物語により不自然な点が生じること、二重の禁忌があった方がより強い犯行動機がある(と周囲に見做され得る)ことから、多少危なっかしい部分はあるものの、必然性はあると、私は感じました。
 もちろん、そこに必然性を求めるという視点もまた、(メタではあるものの)紫苑を苦しめるものの一つではあるのですが……

 ちなみに作中で師弟関係に関するこの禁忌を説明する際、武侠ファンであれば思わずニヤリとさせられるくだりがあるのですが、実は時系列的には本作の方が先(この時点ではまだ起きていない出来事)――と、これは本当の蛇足であります。


『老虎残夢』(桃野雑派 講談社) Amazon

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2022.05.21

桃野雑派『老虎残夢』(その一) 被害者は武術の達人 武侠小説+本格ミステリ!

 第67回江戸川乱歩賞受賞作は「館」×「孤島」×「特殊設定」×「百合」――そしてその特殊設定が「武侠」なのですから見逃せません。奥義を伝授すると三人の武侠を集めた達人が孤島の楼閣で殺害され、謎を追うのはその弟子――本格ミステリにして武侠ものという極めてユニークな作品です。

 時は13世紀初頭、南宋の時代――大海に浮かぶ小島・八仙島に隠棲する達人・碧眼飛虎こと梁泰隆が、己の奥義を受け継がせるとして、旧知の三人を招いたことから物語は始まります。
 泰隆の妹弟子にして大手飯店を切り盛りする紫電仙姑こと楽祥纏、泰隆の同門で海幇(海賊)の幇主である烈風神海のこと蔡文和、そして外功の達人であり孤月無僧の異名を持つ為問――いずれも凄まじい武功を持つ達人ですが、三人を迎える泰隆の弟子・蒼紫苑の胸中は複雑であります。

 幼い頃に両親を失い、師に拾われて以来十八年、厳しい修行を重ね、内功については達人の域に達した紫苑。それなのに師は自分ではなく他人に奥義を伝授しようというのか? ある事件で負った傷が元でほとんど外功が使えない身とはいえ、何故自分ではないのか――と。
 そしてもう一つ、師の養女・梁恋華との秘密の恋愛関係も、彼女を悩ませていたのです。

 それでも平静を装い、いずれ劣らぬ個性的な三人を迎え、恋華と二人でもてなしの宴を準備する紫苑。宴は盛会のうちに終わったものの、その翌日、師が起居する島の中央部の八仙楼に向かった紫苑は、冷たくなった師の亡骸を目の当たりにするのでした。
 何者かに毒を飲まされた上、腹を匕首で刺されていた泰隆。はたしていつ誰がどうやって、そして何故師を殺したのか? 自分も恋華も容疑者であることを承知の上で、紫苑は調べを始めるのですが……


 武術の奥義とその伝授のために集められた達人たち、そしてその現場で起きる殺人――本作は、不謹慎ながら(?)武侠ものファンであればニッコリとしたくなるようなシチュエーションが描かれる物語であります。
 しかしそれと同時に本作は、本格ミステリとしても、しっかりとした格好を整えた作品でもあります。

 何しろ舞台となる八仙島は、本土との往来は頻繁にあるものの、船でなければ行き来はできない孤島。そして犯行現場の八仙楼は、その島の湖の中央に建てられ、常人であればこれまた舟がなければ行き来できない建物なのです。
 それに加えて犯行が起きたのは寒い雪の晩とくれば、これはもう定番中の定番シチュエーション、孤島+雪の山荘ではありませんか!

 しかしここで「常人であれば」とわざわざ書いたのは、常人でない人間がゴロゴロしているのが武侠ものであるからにほかなりません。
 そもそも軽功の達人である泰隆と紫苑であれば、湖を跳んで楼に入ることは可能ですし、他の面々も(全く修行していない恋華を除けば)そこまでの芸当は無理にせよ、例えば軽功で雪の上に足あとを残さずに歩くなどはお手の物であります。

 そして被害者が達人であることは、同時に、犯行にさらなる不可能性を与えることでもあります。何故ならば内功の達人であれば、体内に入った毒など、半ば自動的に体外に排出してしまうのですから!


 ――このように本作は、武侠ものとしての要素が、特殊設定ミステリのそれとしても、非常に効果的に働いています。
 もちろん武侠ものとミステリというのは実は相性が良く、古龍や金庸といった本場の大御所の作品でも連続殺人や暗号等のミステリ要素が少なくないほか、日本でも秋梨惟喬の『もろこし銀侠伝』に始まる武侠ミステリの名作シリーズがありますが――本作はそうした先行作品に勝るとも劣らぬ内容であります。

 そして本作において、本格ミステリや武侠ものとしての面白さに加えて特に印象に残るのは、その人物描写の妙でしょう。物語冒頭で描かれる登場人物たちの、特に三人の達人の、いかにも「らしい」描写も楽しいのですが――しかし物語が進むにつれて、そんな登場人物たちのキャラクターは掘り下げられ、それにつれて最初の印象がガラリと変わっていくことになるのです。そしてそれが、謎解きに密接に関わっていくことも言うまでもありません。

 そしてそんな陰影に富んだキャラクターの最たるものが――と、最近やたらと文章が長くなって恐縮ですが、次回に続きます。


『老虎残夢』(桃野雑派 講談社) Amazon

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2022.05.19

木野麻貴子『妖怪めし』第1巻 料理人兄弟、食で妖怪を鎮める!?

 最近の漫画界では老若男女貴賤上下を問わず、おいしいものを作る/食べる作品が大きなトレンドになっていますが、本作はタイトルの通り、妖怪に(あるいは妖怪が)おいしいものを食べさせようという物語。風変わりな旅の料理人兄弟が、行く先ざきで妖怪と食にまつわる事件に巻き込まれます。

 時はおそらく江戸時代後期、ある目的から旅を続ける料理人兄弟――お人好しで体が頑丈なのが取り柄の忌火と、ひょっとこ顔の子供ながら鋭敏な舌を持つ兵徳の二人は、山越えの途中で見つけた茶屋で、「ヒダル神」について聞かされることになります。
 かつて飢饉で餓死した人々の妄念が凝り、取り憑かれた者は動けないほど激しい空腹に襲われるというヒダル神。しかし握り飯を食べれば逃れられるはずのこの妖怪が凶暴化し、旅人の精気を吸い取って暴れているというのです。

 このヒダル神を鎮めるため、瞬く間に茶屋にあった食材を使って弁当を作ったみせる兄弟。そしてかつてヒダル神を祀ったほこらがあった場所に向かう兄弟に、茶屋の老婆も同行するのですが……

 そんなエピソードから始まる本作ですが、なるほど、料理を食べる相手は空腹、空腹で妖怪といえば――というわけでヒダル神というチョイスには納得できるものがあります。
 ヒダル神に襲われた場合、なにか食べ物を口にすれば助かるというのは定番ですが、しかし本作のヒダル神は故あってパワーアップ版、おにぎりでは足りず――というわけで、兄弟のスペシャル料理の出番と相成る展開も納得です。

 この辺り、妖怪ものでありつつも、調理シーン、そして料理を味わうシーンの描写や台詞回しが、いわゆる「料理もの」のそれなのがちょっと面白いのですが、妖怪を鎮めるのに食を以てするというのは、確かにこれまでほとんどなかったパターンかと思います。


 そして第二話では食べ物関連の妖怪ということか豆富小僧が登場。手にした豆腐を食べると体にカビが生えるなどと言われる豆腐小僧ですが――本作ではやはり暴走・パワーアップして、人間がカビどころではない大変な状態になってしまうのに対し、兄弟が料理で挑むことになります。

 さらにこの巻のラストの第三話では、口にこんにゃくを咥えて橋の上に現れるというこんにゃく橋の幽霊が――と、まことに失礼な言い方ながら、えらくマニアックというかローカルな妖怪の登場に仰天させられます。
(これは本作の監修の妖怪研究家・木下昌美が、この妖怪が現れたという奈良で活動している影響も大でしょう)

 元々この妖怪(幽霊)は、こんにゃくのことが原因で争った末に死んだ妻が化けて出たものと言われますが――ある意味謎多きこの設定を、本作は幽明境を異にする夫婦の愛を描く物語にアレンジ。
 これまでのエピソードでは、主人公兄弟が妖怪に飯を食わせる話でしたが、今回はそれとは異なり――と、物語のバリエーションとしても実に面白いところです。
(個人的には中盤以降の一捻りの内容が、この妖怪の目撃者の職業をベースにしたと思しきものになっているのに感心しました)


 さて、このように第一巻では三つのエピソードが収録された連作スタイルの本作ですが、その縦糸となるのが、兄弟自身の物語であります。
 実は兄弟は半ば妖怪というべき存在――過去のある事件で呪いをかけられてそんな身の上になってしまった二人は、その呪いを解くために、呪いをかけた相手を探しての旅の途中なのです。

 そしてその呪いをかけた相手と思しき存在は、比較的早い段階で登場するのですが――本作に登場する妖怪たちとはちょっとデザインラインが異なるこの妖怪(といっていいのか?)は何者なのか、そしてやっぱり美味しいものを食べて撃退されるのか、だとしたら何を食べるのか……
 少々気が早いのですが、今から気になってしまうのです。


『妖怪めし』第1巻(木野麻貴子&木下昌美 (監修) マッグガーデンコミックスBeat'sシリーズ) Amazon

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2022.05.07

和月伸宏『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚・北海道編』第7巻(その二) いま描かれる明治の「新選組」の姿

 札幌で斬奸と称した人斬りを繰り返す劍客兵器に挑む斎藤一と永倉新八、そして阿部十郎を中心に描かれる「札幌新選組哀歌」編を収録した第7巻の紹介の続きであります。この北海道編で描かれる、斎藤の、新選組隊士たちの姿とは……

 思えば『るろうに剣心』という作品は、無印の頃から、これまでいかにも少年漫画らしい派手なアクションと物語を描きつつも、その背後に、幕末という時代を生き、そこで様々なものを背負った者たちの姿を描いてきました。そしてここでは、明治の「新選組」を、このアプローチで描いているといえます。

 新選組隊士といえば、本作ではもちろん斎藤がその立場を代表してきました。のでしかし実は彼の場合、既に完成されたキャラとして、作中ではほとんど掘り下げられてこなかった――というよりお馴染みの「悪・即・斬」で済まされてきた感があります。
(ちなみにこの巻でこのワードを、バカじゃねえのと言わんばかりに嫌みったらしく持ち出す阿部十郎の姿が実にイイ)

 幕末から明治に至る今まで変わらず、「悪・即・斬」を貫いてきた斎藤。しかし本当に彼の斬ってきた者全てが悪だったのか? 彼に対立する立場にあった剣心がそれに悩み、償いのために心身を削ってきた一方で、彼はほとんどぶれることなくその道を貫いてきました。
 しかしそれは本当に間違いのない道だったのか? この巻では、それが御陵衛士との決戦――油小路の変をかなりのページを割いて描く中で、問いかけ直されることになります。主義主張は異なるとはいえ、かつての同志が、友が切り結んだこの戦いは、迷いなき存在に見えた斎藤や、飄々と過去を受け流してきた永倉が今なお背負い続けるものとして描かれるのです。

 そしてその戦いでの「敵」であり、敗者となった阿部たち御陵衛士にとっても、この戦いは消せない痛みであることは間違いないのですが……


 と、そんな重いものを内包しながらも、この油小路の変で御陵衛士側の守護神ともいうべき二刀流の服部武雄が、敵味方他の面子が普通の格好をしている中で一人半裸バトルスーツで出現、ヌンヌンヌンと二刀を振り回して奮戦する――そしてそれがまた実に名勝負というべきものとなっているのが実に本作らしいというべきでしょう。

 そしてこの巻の終盤、ついに陰に潜むのを止めて真正面から虐殺を始めた雹辺に、山県有朋直属部隊(!)の面白集団戦法といい――ケレン味溢れるキャラとアクションが次々と投入されてくる辺り、とにかく求められているものをきっちり理解した上で、それを期待以上のクオリティで描いてみせる業には舌を巻きます。
 もちろんそれは無印の時点でも行われていたことではありますが、この北海道編では、そこにキャラクター個々人のドラマを絡めた上で描いてみせる印象があり、確実に作品として進歩していると感じるのです。

 そしてその頂点が、この巻のラストで描かれる阿部十郎の姿でしょう。その想像を絶する(いや、彼が登場した時にここまでやると予想した人間は皆無でしょう。さすがの斎藤と永倉を瞠目させたその凄まじさを思うべし)アクションもさることながら、ここでこれまで阿部が幕末以来抱えてきた様々な想いが一気に爆発するのには、ただただ唸るしかないのであります。

 はたして阿部の想いは雹辺双に、そして斎藤と永倉に勝ることができるのか!? そして阿部が新選組史に名を残すこととなったあの言葉はどのようなシチュエーションで語られるのか?(語られないということはないと信じています)。
 全く予想していなかったところで思わぬところで盛り上がりまくる本作、この先の展開にももう期待しかありません。


『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚・北海道編』第7巻(和月伸宏&黒碕薫 集英社ジャンプコミックス) Amazon

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2022.05.06

和月伸宏『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚・北海道編』第7巻(その一) 札幌で斎藤・永倉を待つ者、その名は――

 大波乱の小樽編が終わったるろ剣北海道編、この巻では札幌での斎藤一&永倉新八という、新選組最強チームが主役を務める「札幌新選組哀歌」編が展開することになります。官吏ばかりを狙う二刀流の剣鬼に挑むのは、この二人と――明治の世に生き残った「新選組」の姿が描かれることになります。

 剣心たちの(というか雅桐倫倶の)奮戦により小樽での実検戦闘の被害が最小限で終わった一方、札幌で「斬奸」を掲げて次々と官吏を血祭りに挙げる劍客兵器部隊将・雹辺双を追うことになった斎藤と永倉。
 この姿なき敵に対し、官吏を囮として自分たちが護衛につくという作戦を提案した二人ですが、それに対して札幌県庁が用意した囮役こそは、彼にとって因縁深い人物――その名は阿部十郎!

 と言っても、知名度という点では、決して阿部十郎の知名度は高くないでしょう。簡単にいえば彼は新選組の砲術師範にして、あの御陵衛士の一人――油小路の血戦を生き残って伏見での近藤狙撃に参加、その後は薩摩方に付き、明治時代は官吏となり、北海道開拓使等に奉職した人物です。
 この阿部、二度に渡って「新選組」と戦った経歴や、赤報隊への参加の事実(といっても相楽の一番隊ではなく二番隊なので左之助とはニアミスですが)、そしてもう一つ、ある有名な言葉なども含め、考えてみれば本作に登場していなかったのが、不思議なくらいの人物と感じます。

 その阿部ですが――本作での描写は、鋭い目に気障とすら感じられるような細い口髭と顎髭、そして洋装に身を固めた、見るからに狷介固陋な人物。そしてその印象通り、斎藤と永倉に対しても全く物怖じすることなく、上から目線で接するという、ある意味根性の入った男であります。(というか純粋に阿部が最年長という衝撃の事実)
 もちろん、阿部にとって御陵衛士の仲間たちを血祭りにあげた(斎藤に至っては獅子身中の虫であった)彼らは不倶戴天の敵、親しく接するはずもないのですが……

 しかし考えてみればこの囮という任務、阿部にとっては命懸けである上に、その命をこの不倶戴天の敵たちに託さなければならないという、ある意味理不尽極まりない状態であります。それでも阿部は黙々とこの囮を務めるのですが――しかし彼らの行動も虚しく、劍客兵器の魔手は別の官吏たちを次々と血祭りに挙げていくことになります。

 そこで斎藤は阿部の内通を疑い、栄次に監視を命じるのですが、その中で栄次が見たものは……


 冒頭で触れたように、「札幌新選組哀歌」のサブタイトルが冠されたこの巻収録のエピソード。これだけ見れば、斎藤と永倉の姿が描かれるものと考えてしまいますが――もちろんそれも間違いではないものの、描かれるのは彼らだけではありません。

 実は阿部十郎のほかにも、この巻では元新選組隊士たちが登場することになります。同じく元御陵衛士として多くの行動を共にした加納鷲雄、一時期永倉と行動を共にした前野五郎――今送っている暮らし、そしてそこに至るまでの経緯は全く異なれど、明治の北海道に集った新選組隊士なのです。
 そう、ここで描かれるのは、斎藤と永倉を含め、明治の世に生き残った、生き残ってしまった新選組隊士たちの姿なのであります。
(ここで暖かい一家を設けた阿部の姿を見届けるのが、かつてそれを失った栄次というシチュエーションが素晴らしい)


 そして――何だか語っているうちに止まらなくなってきたので次回に続きます。


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2022.04.18

「コミック乱ツインズ」2022年5月号(その三)

 「コミック乱ツインズ」2022年5月号の紹介のその三、ラストであります。

『ビジャの女王』(森秀樹)
 ビジャが辛うじて蒙古軍の攻撃を退けてきた一方で、蒙古軍に敗れた末に大破壊・大虐殺が行われたバグダード。ビジャにとって大きな痛手となったのは、そこで治療していたオッド姫の父・ハマダン王が、蒙古軍に捕らわれたことであります。はたしてビジャを包囲するラジン軍に引き渡され、磔台に晒し者にされるハマダン王。問題は、その王の安否ですが――と思いきや、意外とハマダン王に関してはあっさりと決着(?)し、今回はなんとジファルの描写がメインとなります。
 ビジャの若き宰相でありながら、王位の簒奪を狙い、蒙古軍と内通して利用せんと企むジファル。その言動は典型的な裏切り小才子という印象でしたが――今回描かれるのは、それとは全く異なる彼の顔なのです。

蒙古軍に完膚なきまでに蹂躙されたバグダードにあった当時世界一の学び舎であり知識の宝庫「知恵の館」――蒙古軍に焼かれ、学者たちも皆殺しの憂き目に遭うことになったそここそは、かつてジファルも学んだ場所。それを知ったジファルは、涙を流して激怒し、蒙古皆殺しを叫ぶではありませんか。
 そしてブブが見せるインド墨家の科学力に素直に尊敬の念を抱き、万が一の時のために自分が写本した学問の書を彼に託し、人類の発展に役立てるよう頼むジファル。もしかしてジファルは実は結構イイやつ、もしくはバグダードを焼かれて目が覚めたのか!? と思いきや、ビジャを簒奪し、蒙古軍を利用して成り上がろうという野心はそのまま……

 今回のサブタイトル「善と悪のジファル」のとおり、大きな二面性を見せたジファル。しかし彼にとってはどちらも自分、二つの顔が矛盾なく尊大しているようですが――典型的などとはとんでもない、複雑なキャラクターを露わにしたジファルもまた、本作の重要人物であることは間違いありません。


『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
 城を手に入れ浦上宗景の命をこなして信頼を勝ち取った末に、重臣・中山信正の娘と結婚するよう命じられる直家。とりあえずこれで当時の武士としては立派に一人前となり、政略結婚とはいえ妻との間には娘たちも生まれ――と、良いことずくめのようですが、「政略結婚」「娘」と宇喜多的にはズンと重いワードが並びます。

 それはまだ先のこととして、気持ちは通じ合ってはいないものの、それなりに彼のことを理解している妻と、タイプは全く違うもののそれなりに人物であるらしい義父とそつなく付き合ってきた直家ですが、そんなところに宗景からの新たな指令が。それは最近宗景から距離を起き始めた島村盛実の抹殺――直家にとっては仇である盛実を討つ大義名分が出来たと燃える直家ですが、しかし宗景は抹殺対象にもう一人の人物の名を挙げて……

 と、まさに大義親を滅すという状況になってしまった直家。後世のイメージからすれば、喜んでやりかねないような気もしますが、さて……


『カムヤライド』(久正人)
 前回、驚愕の「殖す葬る」対決が描かれた本作。一回で終わりかと思いきや、ノツチの家を急襲した黒盾隊がトラップに翻弄されている間も、まだまだ激闘は続きます。

 ノツチとマリアチ、どちらのチームも戦力になる人間とならない人間がハッキリと分かれる中、モンコを監視に来てマリアチチームの助っ人になった大王の密偵・タケゥチは話術(?)・体術で活躍。もう一人の助っ人にして実は天津神のコヤネは、ぞっこんのモンコに見とれて役に立たずと、もうやりたい放題です(そしてまたキノが例のポーズを)。
 と、本当にどうするんだこれ、という状況ですが、まだまだ試合はエスカレート。手段を選ばないことでは定評のある師匠の能力バトルみたいなトラップ設置から、ついにモンコが、そしてコヤネが……

 いやはや、まだ前回の方がまともに野球(野球言うな)していたというおそろしいことになってしまった今回。しかしそんな中でもタケゥチは目的のものを見つけ、そしてラストにはついに二人が互いの正体を(?)と、次回は死闘待ったなしの状況であります。ここにさらにオウスも加わればどういうことになるのか――本当の戦いはここからです。

 しかしトレホ親方さぁ……


 次号は『雑兵物語 明日はどっちへ』(やまさき拓味)が掲載。『列士満』(松本次郎)、『江戸時代のちいさな話』(笹井さゆり)と新連載もスタートします。


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