2024.02.26

『明治撃剣 1874』 第伍話「死闘」

 ついに始まった撃剱会本選。急遽真剣の使用が許可された中、第一試合では雷岩梶五郎と対峙した静馬が何とか勝利。続いて、中澤琴も追い詰められた状況から二刀を用いて勝利する。第三試合以降は雨で翌日に順延されるが、その晩、狂死郎は毒を盛られることに……

 というわけでいよいよ始まった大日本撃剱会の本選トーナメント。会場はド派手な四神の像に三、四階建ての客席、試合開始前には大太鼓が打ち鳴らされ、公然と勝敗を賭けた賭博が――と派手にやりたい放題なのにご満悦の守屋組長ですが、撃剱会の運営は狂死郎に任されていたということは、これは彼のセンスなのでしょうか。それはさておき、今回展開するのは、前回選出された八人の選手の激突ですが、しかしその裏側では様々な事態が動いていることはいうまでもありません。

 第一試合は静馬vs雷岩梶五郎――殺人力士の異名を持つ梶五郎とは、前回ちょっとした因縁があった静馬ですが力はともかく、技の面では勝るとも劣りません。しかし木刀同士の勝負では、すぐに得物が折れてしまい――というところで、いきなり真剣の使用もOKというルール変更。そういうのはアンダーグラウンドで行うものでは、と心配になりますが、御前のバックがあるからということか、組長は気にも留めません。
 そんなわけでこれまで以上に命懸けになった勝負ですが、静馬は梶五郎の攻撃をもろにくらいながらも、技もへったくれもない馬鹿力で相手をブン投げて逆転勝利。正直なところ、もう少し技でも使って欲しかったところではあります。

 第二試合は中澤琴vsブレイズ・ミラー。イギリス人のわりには(?)十文字槍を用いるミラーですが、相変わらずの時間を気にしながらの猛攻に追い詰められた琴は、これを二刀を使って封じ、交差しながらの一閃で勝利。しかし忘れかけていましたが、元々静馬たちは二刀を使う辻斬りを追いかけて撃剱会に参加した身だったわけで、これで琴も容疑者の仲間入りです。

 そして第三試合――というところで雨が降り、文字通りの水入り。しかしその晩、せんりのインタビューを受けていた狂死郎が雛鶴に毒殺されかけるという事件が発生。客人よりも先に盃に口を付けるという出来の悪い三下のおかげで助かったようなものですが、どれだけ強力な毒だったのか、狂死郎は一口飲んだだけで瀕死の状態に……
 それでも翌日の試合は進行し、第三試合は藤田五郎vs宝井幸太郎。鎖鎌を使う宝井に刀を奪われて追い詰められる藤田ですが、眼鏡を取ってやたら目つきの悪くなった彼は行司の軍配を奪って攻撃を封じ、そこからさらに行司の脇差で一撃――行司が本身を差していたばかりに、ついに大会に死者が出るのでした。

 そしてついに第四試合――ヨレヨレになりながらも何とか出場した狂死郎ですが、ここで対戦相手の吉川冬吉の意外な真実が判明。実は彼の正体は、清水次郎長一家の小政――うかつにも見落としていましたが、吉川冬吉は小政の本名、そして史実での小政も、居合の達人と言われております。時々思わぬところで面白い史実を拾ってくる本作ですが、なるほど、前回ちょっとした大物扱いされていたのはこのためか、と納得であります。
 さて、体調不良に加えて相手も悪いと窮地の狂死郎でしたが、しかしこちらも二刀を用いて相手の居合いを封じるという戦法で辛勝するのでした。
(ちなみに死因はともかく、死んだ年も史実通りであります)

 しかし狂死郎の受難は続きます。翌日、二人がかりで狂死郎を襲う牧野巡査と小山内。やはり牧野が御前の暗殺者・鴉――なのかはまだわかりませんが、そうであるとすればそのダシにされてしまった小山内は、狂死郎の凶刃を受けることに……
 そしてその頃、琴との勝負で実にみっともなくKOされた静馬。梶五郎戦のしょっぱさに続き、主人公にあるまじき展開の連続に、ただでさえ物語の核心から遠い位置にいる彼の今後が不安であります。おそらく元婚約者はあんなに裏で大暴れしているというのに……


 それにしても明治時代の後ろ暗いところのある商人は、何故ガトリング砲が好きなのか……


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2024.02.25

山根和俊『黄金バット 大正髑髏奇譚』第2巻

 令和に甦った昭和のヒーローが大正を駆ける、異形のヒーローアクション第二巻であります。黄金バットの依代として復活した月城少尉の前に立ちふさがるもう一人のバット・暗闇バット。任務で欧州に渡った月城たちですが、そこで彼と黄金バットの思惑がすれ違うことに……

 極秘任務で太古の邪神・ナゾーの巫女暗殺に向かったものの、人ならざる力を持つ彼女に返り討ちされ、一度は命を落とした月城少尉。しかし彼はナゾーと戦う謎の怪人・黄金バットの依代として復活。同様に命を落とし、機械人間として再生された先輩・笹倉中尉とともに、ナゾーの眷属たちと戦いを繰り広げることになります。
 しかし軍の内部も一枚岩ではなく、ナゾーに付いた一派の刺客が月城たちを襲います。そしてその中には、太古から黄金バットと戦ってきた暗闇バットの姿が……

 というわけで、二人のバットの戦いから幕を開けたこの第二巻。普通の人間では決して殺せないナゾーの眷属を、いとも容易く倒してしまう黄金バット――と、本作の作中パワーバランスはかなり極端なのですが、そんな中で、黄金バットと同格の存在が登場したことになります。
 いや、この時点の暗闇バットは黄金バットよりも実力は上。月城と黄金バットはあくまでも別の存在、未だに黄金バットと共に在る自分に違和感を持つ月城は、黄金バットと完全に一体化したわけではない一方で、暗闇バットとその依代の連続殺人鬼・白木虎雄は、破壊と殺戮を好むという点で一致しているのですから。

 かくて暗闇バットに圧倒される黄金バット。故あってその場は命を拾った月城ですが、彼と黄金バットとの間の思惑の違いは、続く展開――この巻のメインである、欧州での戦いで明確に示されることになります。

 後に第二次世界大戦と呼ばれる戦いの真っ直中であったこの時代――欧州で激戦が繰り広げられる中、上官から月城と笹倉に下された任務。それは敵国であるはずの独逸に渡り、そこで物資輸送の責任者である将校を護衛するというものでした。一見、利敵行為のようですが、そこにはできるだけこの戦いを長引かせ、そこから得られる利を貪ろうという上層部の思惑があったのです。

 普通のヒーローものであればあり得ないようなシチュエーションですが、しかし月城はヒーローではなく軍人。そして人間の自由意志を重んじる黄金バットも、その理非を意に介さない――と思いきや、ここで思わぬ事態となります。

 そう、この任務で月城が相手にするのは、敵とはいえあくまでも普通の人間。決してナゾーと無関係の人間に力を振るおうとしない黄金バットは、月城に力を貸すのを拒否――そのために月城の肉体もまた、常人に戻ってしまったのです。

 上で述べたように、人間の自由意志を重んじ、それを守ろうとする黄金バット。しかし彼のそれは、その結果、人間が争い滅んでもそれを許容するという、ある意味非常にドラスティックなものでもあります。
 その点で、人類を滅びから回避するために自らの意志の下で(人間の意志は無視しても)完全に管理しようというナゾーと、黄金バットとは非常に対照的な存在であります。そして人類初の世界大戦が行われている時代こそが、この両者の戦いの舞台にふさわしいともいえますが――しかしまさに神の視点としか言いようのない両者の戦いに巻き込まれた人間こそ、いい迷惑といえるでしょう。

 命令とあらば殺人も厭わずも、ナゾーが関わらなければ人間の命が失われていくのを座視する黄金バットに対して、違和感と疑問を抱く月城。しかしそれこそは、黄金バットが守ろうとする人間の意志の表れでしょう。
 だからこそ月城は黄金バットはと共に戦う「相棒」足り得る――この巻の終盤、ドイツから舞台をロシアに移して繰り広げられる戦いの中で描かれる、黄金バットと月城の関係性には、大いに頷けるものがあります。
(まあこの辺り、よせばいいのに月城たちを追ってきた暗闇バットのオウンゴールという印象もありますが……)

 そんな月城に対し、ナゾーの「配下」と化したラスプーチン(!)。両者の戦いはいかなる展開を見せるのか――そこには本作の向かう先があるのかもしれません。


『黄金バット 大正髑髏奇譚』第2巻(山根和俊&神楽坂淳ほか 秋田書店チャンピオンREDコミックス) Amazon


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2024.02.24

安田剛士『青のミブロ』第12巻 決戦の、そして芹沢劇場の始まり

 週刊少年マガジンでの連載はいままさに最高潮ですが、単行本の方でも芹沢暗殺編のクライマックスに突入した『青のミブロ』。暴走する芹沢を暗殺する決意を固めた近藤・土方たちですが、新見の遺志を継いだ芹沢は万全の体制で待ち受けます。そして両者の間に立たされた、におたち三人の選択は……

 幾多の暴走と悲劇を経た末に、新見が自決を遂げ、ついに芹沢排除の意思を固めた土方。それまで抑える側に回ってきた近藤もそれを認める――いや自らが陣頭に立とうとすらする――ことになります。
 いつ、どこで、誰がやるのか、土方が、沖田が、原田が、山南が、藤堂が、永倉が、それぞれの想いを胸に行動する中、におは己が何をなすべきか、一人悩むのでした。

 そして迎えた運命の文久三年九月十六日。八月十八日の政変での活躍を祝する宴会の帰り道で、土方たちは芹沢を暗殺するはずだったのですが――その目論見は次々と崩れていくことになります。
 何事もなく八木邸に戻ってしまった芹沢の寝所に踏み込む決意を固めた土方たちですが、そこに待っていたのは……


 ある意味、この物語が始まった時から、ここに至ることは決定付けられていた芹沢暗殺。それは決して変えられない、厳然たる史実でありますが、しかしそこに至るまでの経緯と、そして戦いが始まってからの経過は、我々が知るものと、大きく異なることになります。

 その分岐点の一つが、新見の死であることは間違いないでしょう。本作においては、芹沢の幼馴染であり、腹心でありつつも一定の距離を置き、むしろ監察役として独自の立ち位置を占めていた新見。その彼も、史実同様に切腹することになりますが――その理由は何であったか。
 前巻のラストでは、その直前に彼が芹沢と正面から向き合い、楽しげな笑みを浮かべながら何やら語り合う姿が描かれましたが、それこそが彼と芹沢が組んだ最後の企ての場だったのです。

 土方たちが密かに暗殺準備を進める一方で、それを完全に読み――いやむしろ誘導すらした上で――万全の体制で待ち受ける芹沢。そう、ここから始まるのは一方的な暗殺などではなく、双方の力と知恵を尽くした戦闘なのです。


 これまで幾度も述べてきましたが、本作の芹沢は単純な暴君ではなく、ガキ大将がそのまま大きくなったような部分と、多くの仲間を惹きつける将器を合わせ持つ人物として描かれてきました。それが、凶暴なのにどこか親しみやすさを感じさせる人物像に繋がってきたといえます。
 そんな彼に相応しい最期とは何か――それは泥酔したところで寝込みを襲われて女と共に殺されるという、ある意味武士にあるまじきものではないでしょう。少なくとも、本作の芹沢と新見はそう考えなかった。それだからこそ、本作の芹沢は、自分の最期に相応しいステージを、自ら作り上げてみせたのであります。

 土方たちを「最高傑作」と呼び、嬉々として迎え撃つ芹沢の姿は、まさに芹沢劇場。役者が違うとしか言いようがありません。

 しかしそれと同時に、これ程自由に見えた芹沢もまた、様々なものに囚われていることが、やがて浮き彫りとなっていきます。己の望むままに生きてきたような芹沢が手に入れられなかったもの――それはなんであったか。
 その一端は、この巻の名場面の一つ、その晩の宴に向かう際、にお・太郎・はじめの三人に対する言葉にも表れているように感じられますが――だとしたら、それに対してにおはどのように相対するのか。

 彼が滅多に見せない激情で以って近藤に挑んだ結果、何が起こるのか。そしてそれが芹沢に何をもたらすのか。八木邸での決戦が続く中、その答えが描かれるのはまだ先であります。


 しかしこれだけ完成度の高いドラマが展開する中、お梅のくだりだけは唐突感が高すぎるのが勿体なさすぎる……


『青のミブロ』第12巻(安田剛士 講談社週刊少年マガジンコミックス) Amazon

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2024.02.23

『戦国妖狐』 第7話「火岩と芍薬」

 岩の闇に歓待される最中、里にやって来た旅の妊婦を里で休ませるたま一行。しかし妊婦が産気づいた矢先に、迅火抹殺の命を受けた道練と烈深が現れる。激しく男と男の拳を交わす迅火と道練。しかしその間に烈深が放った巨岩が、妊婦たちのいる小屋目がけて転がっていくのを見た灼岩は……

 原作読者にはついに来てしまったか、という他ない今回。OPなしでいきなり始まるところからも、ただならぬ雰囲気が伝わります。

 といっても前半はいつもどおりのゆるいムード主体の展開。強くなりたいと夜の素振りを欠かさない真介と、そこに現れた灼岩の、ラブコメ感満載のやり取りにはニヤニヤさせられます(ここで芍薬と火岩と、文字通りの一人芝居を見せる黒沢ともよの演技が楽しい)。あまりの小っ恥ずかしさに、その場に出ていかずにツッコミを入れるたまですが、迅火もたまの隣にいるために闇になりたがっている時点で大概だと思います。
(それにしても真介に剣を教えたのが、武士の幽霊だったのにはびっくり。語られなかったものの、原作でもそのつもりだったとか)

 しかしそんな甘酸っぱい展開の後、妊婦に名前を問われて、人としての名である芍薬ではなく、灼岩と名乗ってしまう彼女が切ないのですが――それを受けて妊婦が女の子なら芍薬と名付けると語る(そして迅火が男の子だったら火岩を勧める)のにグッと来ます。しかしあれもこれも、皆ある意味前フリだったとは!

 一方中盤では、前回酒を酌み交わした道錬が刺客として迅火の前に登場することになります。とにかく強い相手と戦うのが生きがいという道錬は、技はボクシング――いや撲神ながら、相手の攻撃を全て受けとめた上で勝つというプロレスタイル。自分は傷付かずに圧倒的な火力で瞬殺する迅火とは正反対の相手ですが、そんな道錬と真正面から打ち合うバトルはなかなか気合の入った作画で、きっちりバトルものとして盛り上がります。
 戦っているうちに変な脳内麻薬が出たのか、アヒャヒャヒャと笑いながら殴り合う迅火は確かに怖えですが……

 さて、前半でラブコメ、中盤でバトルと、シチュエーションとテンションを変えながら展開してきたこのエピソードですが、ラストに待つのは悲劇であります。それも極めつけの。
 道錬と迅火の熱戦を尻目に、妊婦が今まさに赤子を産もうとしている小屋めがけて、大岩を転がす烈深。混乱の中の道錬パンチで迅火はダウン、たまは妊婦の世話、真介には打つ手なし――という場で、立ち上がるのは灼岩。その力で大岩を受け止める灼岩ですが、しかしその時……

 もうこの先の展開は原作で何度も読み返して(そしてそのたびにボロボロと泣かされて)いるのですが、ここに動きと声がついた時の破壊力たるや凄まじい。
「だ…大丈夫す バケモンすから」
「安心して生まれてくるす 大丈夫 守るから」
「ようこそ世界へ しっかりがんばるすよ」
と泣かせる台詞の連続(ここで原作にない「幸せ…わたす幸せでした」と言わせるのもニクい)と来て、原作では(間違いなくあえて)描かれなかった赤子の泣き声を響かせる演出は、ある意味どストレートながら、だからこそ胸に刺さりまくります。そしてここでとどめに赤子の名が――とくれば、もうこちらも迅火の如く「おおおお」と呻くしかないのです。

 誰かをアレして泣かせるというのは、作劇としてはあまり褒められたものではないのかもしれません。しかしここでは、おそらくは本当の喪失を知らなかった迅火と真介が、それを真正面から突きつけられる――そしてそれとほとんど同時に、命の誕生を目の当たりにするという点で、すなわち生と死の在り方を目の当たりにしたという点で、大きな意味があったと感じます。
(そんな姿を、おそらくはこれまで無数の生と死を見てきたであろうたまが見守るのもいい)

 人と闇という軸に加えて、生と死という軸が描かれた今回。そのまま今回限定のEDに雪崩込むのも、大きな余韻を残すエピソードでした。


『戦国妖狐 世直し姉弟編』上巻(フリュー Blu-rayソフト) Amazon


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2024.02.22

椎名高志『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第6巻 感動、親子の再会 そして理玖の生きる目的

 独自路線を行きつつも、これが見たかった! と言いたくなるような展開が続くコミカライズ版『半妖の夜叉姫』、前巻は親世代復活か!? という引きで終わりましたが、まだまだ意外な展開は続きます。是露を追い、九州に旅立つこととなった夜叉姫一行。その前に、新たな半妖の娘が……

 京で是露の襲撃を受けて辛うじて逃れた中、過去に何が起きたのか、そして自分たちの親が何故姿を消したのか知ったとわたち。さらに「朔」の影響で妖力を失い、苦戦しながらも、彼女たちは是露の配下・魔夜中を打ち破ることに成功します。
 神としての姿を取り戻した魔夜中の加護により力を得たとわたちは、その勢いで是露に挑むものの、流石に相手は大妖――窮地に陥ったその時、犬夜叉・かごめ・りんが現れて……

 と、猛烈に盛り上がったところで終わった前巻でしたが、あくまでもここに現れた犬夜叉たちはかりそめの姿。実際に戦う力はなかったはずなのですが――しかしそこで是露の身に意外な異変が起きることになります。
 しかしそれ以上にこの場面で印象に残るのは、りんの姿でしょう。冷静に考えればここで登場しても戦力にはならないりんですが――しかし彼女が語るとわたちの強さの源は、親と引き離されても決してとわたちは孤独ではなかったことを語るものであり、戦う力を持たない彼女だからこその言葉に大きく頷くしかありません。

 そしてそこに真打ち・殺生丸が登場、ついに是露もその場を逃れるのですが――ここから、この巻のクライマックスの一つというべき場面が描かれることになります。そう、夜叉姫たちとその親たちの束の間の再会、そして別れが……
 ここは一つ一つのやりとりが泣かせの連続なのですが――ここでもその場を攫っていくのが殺生丸。前巻で仄めかされた、殺生丸が置かれたある状況――それを踏まえながらも描かれる、不器用で無愛想な彼なりの妻と子への愛の姿は、もうエモいとかいうレベルではないのであります。


 さて、ここまでがこの巻の三割程度、ここからは新展開となります。肥前国にあるという麒麟丸の根城へと旅することになった三人の夜叉姫と理玖・りおん。堺から西に海路で向かおうとする一行ですが、しかし海に強力な妖怪が出現するようになったため、船が出なくなってしまったというのです。
 そこで海専門の退治屋の船に同乗することになった一行(ここで登場する屍屋の支店のくだりが実に楽しい。足下兄弟か!?)ですが、さてここで登場する海の退治屋を率いるのは――なんと紫織!?

 この紫織、アニメでは第20話に登場しましたが、元々は『犬夜叉』のキャラクター。百鬼蝙蝠の父と人間の母の間に生まれた半妖であり、非常に強力な結界を張る力を持つ少女であります。アニメでは、身寄りのない半妖の子供を匿う隠れ里を作り、子供の頃のせつなが世話になった人物として描かれました。

 それが何故ここで大男を顎で使う海の女に――という気もしますが、しかし元々地黒だった彼女のビジュアルは、妙に似合うのもまた事実であります。
 そして何よりも、半妖の娘としてはとわたちの先輩に当たる彼女が、一種のロールモデルとして活躍するのも、大いに納得できるところでしょう。

 さて、彼女とその一党、そしてとわたち一行の前に現れたのは、ワダツミズチなる女妖。海のメデューサというべきそのビジュアルと能力は、アニメの第26話に登場した海蛇女(元々の名前は「わたつみのたまひ」)がベースでしょう。
 アニメでは悲しい過去の妖怪でしたが、こちらでは特にそういうところもない敵のワダツミズチ。しかしとわたちが総力戦を強いられることになったのですから、かなりの実力者であったことは間違いありません。

 とはいえ、このエピソードで中心となったのは、理玖という印象があります。アニメでは結構立ち位置が曖昧だった理玖ですが、こちらでは早々に殺生丸の協力者として行動、心ならずとはいえ、麒麟丸や是露とは早々に敵対する立場となります。
 しかしそれだけに今の彼の立場は微妙なところにあります。もはや行く先もなく、為すべきこともない理玖。元々、麒麟丸によって作られた存在である彼は、己には心すらないと思い定めていたのですが……

 それがそうではなかったと戦いの中で気付き、そして新たな自分の生の目的を定める姿が、実にいい。そしてそれを形にしてみれば――これにもなるほど、と納得させられるのです。

 そして新たな味方を加えて、いよいよ麒麟丸の城に迫るとわたち。はたしてその前に待つのは――いよいよクライマックスは近いのでしょう。


『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第6巻(椎名高志&高橋留美子ほか 小学館少年サンデーコミックス) Amazon

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2024.02.21

高橋留美子『MAO』第19巻 夏野の命の真実 夏野の想いの行方

 平安時代からの怨念と因縁を縦糸に、そして大正時代での怪異との戦いを横糸に展開する『MAO』、第19巻では前巻より続く人身御供の村を巡る戦いに続き、夏野の身に起きた出来事の真実が描かれることになります。そしてそれらの中で、己の力で摩緒を助けるべく奮闘する菜花ですが……

 長きにわたり雨乞いのための人身御供の儀式を続ける山中の村。そこで水を巡る異変が起きていることを知った摩緒と菜花は、その異変の主――新御降家の水の術者・流石と対峙することになります。
 この村の出身であり、かつて家族を奪われて復讐を望む男に雇われた流石に対し、それでもこの村に今も生きるものがいると止めようとする摩緒たち。しかしその戦いの最中も人身御供の儀式は続き――というところで、前巻からの続きとなっています。

 いつもであれば新御降家の陰謀を摩緒たちが打ち砕いて――という展開になるわけですが、しかし今回はあまりにも因習村のやり方が陰惨であるために、単純に善悪言い難いのも事実。そして新御降家側が流石――能天気で軽く女の子に弱いという、高橋作品に定番の陽性キャラであることもあって、何だか妙な空気が漂います。

 それでももちろん、村にはそこで生活を送る人々がいるのも事実。それを無視できず、土剋水だからと流石に挑む菜花ですが――その結末は予想できたものの、その先のこのエピソードの落着のさせ方はお見事というべきでしょう。
 ある意味新御降家で一番の強敵かもしれない流石のキャラクターを活かし、そして人身御供の少女・幸子が一歩踏み出す姿を描いての結末には納得です。
(幸子でスゴいオチをつけるのも含めて……)


 さて、次なるエピソードでは、震災後に被災者たちが住む不忍池に夜毎現れる妖をきっかけに物語が始まるのですが――ここでの中心となるのは夏野であります。
 土の術者であり、五人の候補者に含まれていなかったにもかかわらず、平安時代から大正まで生きながらえてきた夏野。それは謎の土人形との契約で、候補者の一人で土の術者・大五の五体を集めるのと引き換えの命だったのですが――ここで意外とあっさりと、彼女を生かしていた者の正体と、彼女の命の源が明かされることになります。

 それは半分は予想が付き、半分は予想外のものでしたが、いずれにせよここで明らかになった真実は、更なる謎と秘密を語るものであることは間違いありません。
 何故大五は蘇らされたのか。いやそもそも大五は誰に、何故殺されたのか? そしてそれは同時に、かりそめの命を持つ夏野の今後に繋がるものなのでしょう。

 そしてこの巻の後半で描かれるエピソードは、そんな彼女の想いの一端が描かれたものと言えるかもしれません。

 かつて悪逆無惨な盗賊だった鵺丸が改心して仏道に入り、即身仏となったものが祀られていたという鵺丸塚。その塚が壊されたのと共に、周囲に怪事が続発していることを知った夏野は、菜花を調査に誘います。
 悪霊退治ができるかもしれないという夏野の言葉通りに現れた不気味な怪物(その真実の陰惨さがまた、実に作者らしい)を前に、彼女は菜花にただ一人、祓ってみせるよう告げるのですが……

 本作における二人の主人公でありつつも、物語が始まった時点でほとんど完成したキャラクターである(それは平安組のキャラはほぼ全員そうなのですが)摩緒に対して、まだまだ発展途上のキャラとして描かれている菜花。
 そんな彼女の姿は、先に述べた人身御供の村でも描かれましたが、この鵺丸塚のエピソードでは、彼女がまた一段成長する様が描かれることになります。

 そしてそれは同時に、彼女を導いた夏野の姿を描くことでもあります。
 今は、幽羅子の口からかつての真実を知ることを「生きる」目的としている夏野。そんな彼女が、菜花を導こうとしているのは――あるいは自分の「余命」を悟っているからなのでしょうか。

 先に平安組はいずれも完成したキャラと述べましたが、その中で唯一大きく不安定な要素を抱えた彼女だけに、その向かう先が気になるのです。


『MAO』第19巻(高橋留美子 小学館少年サンデーコミックス) Amazon


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2024.02.20

『明治撃剣 1874』 第肆話「撃剱」

 町で起きた辻斬りの犠牲者が大日本撃剱会の出場者であったことから、捜査のために身分を隠し、出場することになった静馬。そこには数々の強豪と共に、あの修羅神狂死郎も参加していた。一方、謎の人物・御前が行う阿片の密貿易を巡り、狂死郎が世話になっている守屋組長らの思惑が複雑に絡み……

 二回も休みが入ったためもあってか、まだ第四回だったのか!? という気がする本作ですが、今回はタイトルというかサブタイトルの通りに激剣会が登場。それにふさわしくというべきか様々な剣士たちが登場し、その一方で物語の裏側の動きも活発化して一気に物語は複雑になってきた印象があります。

 そしてその縦糸になるのはいうまでもなく撃剣会であります。言ってみれば剣術試合を興行化した撃剣会ですが、本作においては、謎の人物・御前とも深いつながりのある守屋組が取り仕切る興行、そしてそれを任されたのが、組長の龍三と杯を交わした狂死郎で――というわけで、色々と裏があるとしか思えません。しかしそれはさておいたとしても、多額の賞金に釣られて腕自慢たちが集まってくる、というのは定番ながらやはり盛り上がるパターンであります。

 もちろん本来であればこうしたグレーゾーンのイベントに巡査である静馬が関わるはずもありませんが、彼が取り扱うことになった辻斬り事件の被害者が出場予定者、そして目撃された犯人が二刀流ということで、これも剣客ならば撃剣会絡みの可能性がある――というわけで捜査のため、偽名で彼も出場することになります。
 さらに参加者の中には何故か藤田五郎がいるのですが(ここで静馬が何となく見覚えがあるような顔をしながら名前に覚えがなかったのは、藤田名乗りは斗南藩移住の時なので平仄はあっています)、さらに嬉しいのは中澤琴の登場です。
 女性ながら男装して新徴組に参加したという、嘘のような実在の剣士である中澤琴。さらに自分より強い者と結婚すると決めていた(その結果生涯独身だった)とまで来るとキャラが立ちすぎているためか、意外とフィクションに登場することは少なかった彼女が登場するだけでも本作の価値はある、というのはもちろん言い過ぎですが……

 さらに土俵で相手を殺して追放された殺人力士・雷岩梶五郎、紳士然とした態度ながら自分のペースのためには残虐行為も厭わないイギリス人ブレイズ・ミラー、やたらと運が良い短躯のおっさん・宝井幸太郎、賭場でのいざこざで刀を交えた狂死郎をも驚かせた居合使い・吉川冬吉――といずれも一癖も二癖もある面々に、静馬・藤田・琴、そして狂死郎も加わった八人でトーナメントが! と、いきなりメジャーな展開になるのには驚きましたが、ストーリーが比較的地味だっただけに、歓迎したいと思います。

 さて、このトーナメント自体は次回開幕ですが、それと並行してきな臭さを見せているのが、第一話から登場している謎の金髪侍・御前サイドの動きであります。新政府打倒のために色々と企んでいるらしいこの御前、その一環として阿片の密貿易を行っていますが、一味の守屋組長と商人の藤島が、阿片を横流しして私腹を肥やそうとしているなど、一枚岩ではない様子。
 さらにそこに目をつけた狂死郎は、配下たちを使ってこの横流しを妨害(しかしそれを阻んだ狐面の用心棒も、もしや……)。その目的はまだ不明ですが、御前の側は狂死郎、いやその前身の庄内藩士・池上宗一郎の存在を知り、自分の敵であると認識しています。どうやら幕末にはドイツと手を結んで薩長に対抗しようとしていたらしい狂死郎が、何故御前を狙うのか――おそらくはその辺りに本作の物語の核があるのでしょう。

 そして組長への牽制と敵の排除、一挙両得とばかりに、雛鶴が狂死郎抹殺を狙う一方で、御前は「鴉」なる者を呼んだようですが――その直後に登場した巡査の牧野がいかにも不審な動きを見せたと思えば、金欲しさにその動きに巻き込まれそうなのが小山内巡査――と、あちこちで動きが出てきました。
 さらにここに辻斬り事件がどう絡むのか、様々な勢力と登場人物が現れ、事態が複雑化していくのは伝奇の華、次回以降が楽しみです。
(これでキャラデザがもう少しわかりやすいと良いのですが――メインどころ以外はかなり地味なのでキャラを混同しやすい)


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2024.02.19

柳川一『三人書房』 乱歩と有名人たちの探偵秘録

 その業績故か、フィクションの中では自身が探偵役を務めることも少なくない江戸川乱歩。本作もそんな作品の一つですが、シチュエーションのユニークさが印象に残ります。乱歩が乱歩になる前、平井太郎と二人の弟が団子坂上で開いていた古本屋・三人書房を舞台とした連作であります。

 三重から上京し、弟の通と敏男の三人で、団子坂上に古本屋「三人書房」を開業していた平井太郎。彼の三重時代からの友人であり、三人書房の二階に居候していた井上青年や通と共に、太郎は探偵小説談義を戦わせる毎日を送っていたのですが――そこにある謎が持ち込まれます。

 恋人の島村抱月の跡を追うように自殺した松井須磨子――その死の衝撃がまだ世間に残っていた折り、太郎たちが買い取った須磨子の随筆集の中に挟まれていた、一通の手紙が事の発端でした。
 「私はやっぱり先生の所へ行かなければならないのです」と書きつつ、相手への想いを綴ったその手紙。それがもし須磨子のものであったとしたら、自殺の意味も大きく変わってくる――そう考えた太郎たちは、手紙の真偽を調べ始めます。

 その際に問題になったのは、手紙の末尾に記された「十二」という数字。本文と関係のないこの数字に何の意味があるのか? 太郎が解き明かしたその意味が示すものとは……


 この表題作「三人書房」から始まる本作は、乱歩が三人書房を営んでいた時代を中心に、彼が探偵役を務める全五編から構成される連作短編集であります。

 浮世絵研究の第一人者が写楽の贋作売買に関わったというスキャンダルの謎を、同じ浮世絵愛好家である宮沢賢治の示唆によって乱歩が解き明かす「北の詩人からの手紙」
 町を騒がす奇妙な娘師(土蔵破り)の出没と、敏男が入れあげる浅草の美人怪力芸人の舞台での失敗が、奇妙な形で交錯する「謎の娘師」
 ある寺の秘仏堂に忍び込んだ盗賊が、化け物を見て逃げ出したという事件を宮武外骨から聞いた乱歩が、寺に関わるある絵師にまつわる謎を横山大観に明かす「秘仏堂幻影」
 高村光太郎の作ったブロンズ像の首ばかりが盗まれ、さらにそのモデルの一人が人が変わったようになってしまった謎を、乱歩が解く「光太郎の〈首〉」

 ここに収められた物語の何よりもユニークな点は、登場人物の多くが、実在の人物であるという点でしょう。乱歩と二人の弟や、上に挙げた宮沢賢治、宮武外骨、横山大観、岡倉天心はもちろんのこと、乱歩の友人の井上も、乱歩のエッセイに記された人物なのですから。
 そんな実在の人物たちがデビュー前後の乱歩と出会い、ある者は乱歩に謎の解決を託し、ある者は共に謎に挑む――有名人探偵ものでは定番の趣向ではありますが、やはり大いに盛り上がるところであります。

 もちろんミステリとしても魅力的であることは間違いなく、特に表題作は、松井須磨子の死の謎にまつわる「暗号」解読と、さらにその先に――という構成の巧みさが印象に残ります。
 また混沌としたムードの浅草を背景に、日常の謎的出来事から展開していく「謎の娘師」なども(乱歩の趣味のおかげである真相に辿り着くのも含め)乱歩らしさの漂う作品であったかと思います。


 その一方で、本作の最大の特徴である乱歩と有名人の邂逅に違和感があるのも正直なところです。史実の上では(私の知る限りでは)関わりのなかった人物と乱歩との取り合わせ自体は興味深いのですが――それが何故表に出なかったのか、という点で本作は説得力が弱いものが多かったのが残念でした。
(また、「秘仏堂幻影」の真相も、さすがに飛躍のしすぎではないかと……)

 さらにいえば、「光太郎の〈首〉」は(既に三人書房を閉めた後の話であることもあって)そもそも乱歩が探偵役を務める必然性も薄いのでは――と、色々厳しいことを書いてしまいましたが、魅力的な題材だけに(そしてこういう趣向が個人的に大好きなだけに)気になってしまった、というのが正直なところです。

 できれば、三人書房時代の語られざるエピソードを見てみたい――そう感じた次第です。


『三人書房』(柳川一 東京創元社ミステリ・フロンティア) Amazon

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2024.02.18

「コミック乱ツインズ」2024年3月号

 「コミック乱ツインズ」2024年3月号は、ちょっと気の早い桜をバックにした若又市の『前巷説百物語』が表紙、『江戸の不倫は死の匂い』が巻頭カラーであります。今回も印象に残った作品を一つずつ取り上げます。

『前巷説百物語』(日高建男&京極夏彦)
 というわけで花を背負って表紙を飾った又市ですが、本編の方は、提灯一つの灯りのみの暗闇の中、登場人物たちの言葉のやり取りが続くという、ちょっと舞台劇的な味わいのある回。主要キャラクターたちが揃ったところで、首を吊ろうとしていたお葉の口から、そののっぴきならない理由が語られることになります。

 聞けば、彼女が慕う音吉がかみさんに殺され、さらに彼女から自分まで殺されかかったところで逆に殺してしまったという状況。そんな八方塞がりのお葉を、後の又市であれば妖怪の仕業にして救ってみせるところですが、今の又市にできるのは、狡かろうが汚かろうが惨めたらしかろうが人は生きてこそ、と『必殺必中仕事屋稼業』の最終回みたいな言葉をかけるくらいしかできません。
 そんな中、この損を三十両で買うと角助が言い出して――いよいよ次回、仕掛けが始まります。


『ビジャの女王』(森秀樹)
 まだまだまだ続くモンゴル軍の総攻撃、三本の攻城塔の一本は倒し、モンゴル軍の突撃戦法を何とか防いではいるものの、やはりビジャ側がジリ貧であることは否めません。そしてついに攻城塔が城壁に取り付き、こういう時に役に立ちそうな火矢の攻撃もしっかりと対策が取られているという危機的な状況で、モズが取った策とは……

 なるほど、確かにちょっと勿体ないですが、こういう風にすればいいのか! と勉強になる(いや、利用する機会はないですが)展開。何とか一矢報いたものの、しかしまだ逆転にはほど遠い状況で、頼みの綱はモンゴル軍の中のインド墨者の働き以外にないと思われますが……


『真剣にシす』(盛田賢司&河端ジュン一・西岡拓哉/グループSNE)
 大坂城で大塩平八郎を相手に繰り広げられるカードゲーム「蔵騒動」もいよいよ佳境。大塩が金と米、銃の札を集めてゲームの勝利と実利を求める一方で、夜市は何故か酒の札を集めるのに拘って――という展開からは明らかに大塩有利に見えますが、夜市の場合はここからが怖いのはいうまでもありません。

 大塩のスカウトも煙に巻き、飄々とプレイを続ける夜市の真意と勝算は――と、白熱の勝負が繰り広げられるのですが、ちょっとルールがややこしくて点数の計算が頭の中で追いつかないのが辛い。ゲーム自体はよくできているのですが、プレイの内容自体は札のやり取りなので、地味に見えてしまうのも勿体ないところです。

 そしてゲームの方は思わぬ展開を迎えたところで、次回最終回――ってここで!? ちょっとどころではなく残念ですが、どのように締めくくるのか見届けたいと思います。


『カムヤライド』(久正人)
 ヤマトタケルの東征に対して、いよいよ激化する蝦夷&国津神連合軍の攻撃。もっともこちらはモンコ・ヤマトタケル・オトタチバナ・タケゥチとたった四人とはいえ、国津神特効持ちが二人に、無敵のタンク役、さらに速度と技術に全振りした攪乱役もいるという構成で、隙はありません。
 コール付きの新フォームを二つも披露と、神薙剣も絶好調ですが――しかしここで(国津)神絶対殺すマンである彼の、意外な弱点が判明することとなります。

 一歩間違えれば文字通り命取りになるこの弱点ですが、それを知りながら何故モンコが放置しているか――その理由が、彼の揺るがないヒーロー精神、いやそれ以上にヤマトタケルへの友情と信頼を示すようで、大いにグッときます。

 が、グッと来るのはそれだけではありません。オオウスを奪われて以来、殺伐とした気配を隠さず、その苛立ちを蝦夷たちにぶつけようとしたオトタチバナ。その彼女にモンコが差し出したのは……
 モンコのキャラクターのある側面が大きな意味を持つこの展開には、そう来たか! と大いに納得&テンションが上がりました。

 飄々としつつも、さらりと人を守り救うことへの固く熱い信念を見せるモンコを見ていると、本作がヒーロー漫画である所以は、単にカムヤライドという変身ヒーローが登場するからだけでないと、改めて感じるのです。


 次号は『ビジャの女王』が表紙、 巻頭カラーは『そぞろ源内』とのことです。


「コミック乱ツインズ」2024年3月号(リイド社) Amazon

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2024.02.17

久正人『カムヤライド』第10巻 嵐の前の静けさ!? 新たなる敵の影

 連載五十回突破、単行本もこれで第十巻と、長期連載となった『カムヤライド』、この巻は天津神との全面対決が終わり、嵐の前の静けさという印象ですが――しかしそこで語られるものは、驚くべき事実の数々。モンコたちを更なる戦いに誘う、新たなる(?)敵とは……

 驚愕の「殖す葬る」から一転、ヒーローたちと怪人たち、五対五の頂上決戦が描かれてきた本作。それぞれに犠牲を払いつつ繰り広げられた激闘は、アマツ・ノリットとミラールをカムヤライドと神薙剣がそれぞれ撃破――これにより天津神たちが撤退したことから、ひとまず終わりを告げることになります。

 この巻の冒頭では、そのアマツ・ノリットとミラールが、それぞれの好敵手、あるいは想いを寄せた相手との別れが描かれるのですが――特にノリットにとっては、あの殖す葬るは、戦いにも血を流したり相手を傷つけたりせず、終わればノーサイドになるものがあることを教えるものだったのか、と感心させられます。
(……ん、師匠なんかやってなかったか?)
 しかしこれで戦いが終わったわけではありません。よく考えればモンコはヤマトのお尋ね者、そもそも神薙剣とヤマトヒメたちも、モンコを追って現れたのですから。

 かくて捕らえられた上、トレホ親方たちを人質にされたモンコですが、ここで意外な事実を語ったのがタケゥチであります。
 彼が手に入れたノミの宿禰の指の指紋とモンコの指紋の間のある関係性を、そして東国の民と国津神が同盟を締結、その仲立ちとなったのは以前に彼が追っていた謎の三人の老人と、「ノミ様」なる人物であったことを!

 しかしノミの宿禰は、ヤマトでの処刑からは生き延びたものの、その後確かに死んだはず。それは今回、色々とノミの宿禰(の造形)には詳しいトレホ親方によっても確認されたはず。だとすれば、東国に現れたのは何者なのか。そして何よりも、モンコとの関係は――?

 かくて東国征伐に向かうヤマトタケルの軍に同行することになったモンコ。それは人質を取られた囚われ人としての旅ではあります。しかしそれ以上に彼にとっては、ヤマトタケルの目を覚まさせる――出会った頃の彼に戻すための旅というのがまた泣かせるところであります。
 そして誰かを取り戻すための旅というのは、オトタチバナも同じ。かつて己の力を誰にも受け容れられずに荒れ狂っていた彼女を認め、「盾」とし生きることを教えてくれたワカタケを天津神から奪還するために、彼女もまた東征に加わります。


 かくて旅立つ三大ヒーロー+タケゥチ。しかし相変わらず飄々としたモンコと、何を考えているかわからないヤマトタケル、殺気立つオトタチバナと、向いている方向がバラバラ。あのタケゥチがツッコミ役に回らざるを得ないのですから先が思いやられます。
 そしてそこに意外なところから「敵」が襲いかかります。その「敵」の戦う理由の哀しさに対し、モンコが語るのは――ヒーローという存在がある意味必然的に抱えざるを得ない陰を、「守る」という言葉で全て受け止めてみせる彼の姿には、ひたすら痺れるしかありません。

 そこからカムヤライドの新たな能力と神薙剣との対峙、そしてさらに物語の始まりに繋がる存在の提示――と、物語は一気にアクセルを入れて展開。再び嵐に突入したその先はまだまだ見えないのであります。


 それにしてもこの巻で思いもよらぬ活躍――というより要所要所を押さえて見せるのがタケゥチです。この巻では彼の思わぬ秘密が明かされますが、それを以て記紀の描写との整合性を取ってみせるのには脱帽であります。
(そしてこの巻のラストでは、彼が思わぬ人情を見せますが、あれはあれである種のフラグを背負わせたような……)


『カムヤライド』第10巻(久正人 リイド社SPコミックス) Amazon

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