『アサシン クリード クロニクル チャイナ』 女性アサシン、明朝に翔る
現在、おそらくは世界屈指の(時代)伝奇ゲームである『アサシンクリード』シリーズの中でも外伝的作品である『アサシンクリードクロニクル』三部作――そのうち、中国編であります。16世紀、明の嘉靖帝の時代を舞台に、国を裏から支配する八虎に挑む女性アサシン、シャオ・ユンの戦いが描かれます。
超古代文明の遺産を巡り、有史以来激しい暗闘を繰り広げてきたアサシン教団とテンプル騎士団。現代にまで続くその戦いの姿は、これまで正編だけで十作以上製作されている『アサシンクリード』シリーズで描かれてきました。
本作はその中では(ゲームシステム的に)外伝的な位置づけではあるものの、「正史」の中の物語――『アサシンクリードⅡ』以降三作品の主人公を務めたエツィオの弟子であるシャオ・ユンの物語であります。
(作品としてはもう7年も前の発売ですが、実は今までプレイしていなかったので今回取り上げる次第)
16世紀、明の嘉靖帝(世宗)が旧来の政治勢力を一掃した背後に暗躍した宦官集団・八虎――実はテンプル教団の一員である彼らにより、中国のアサシン教団は壊滅。残るはマスターであるワン・ヤンミンと、シャオ・ユンという状態まで追い詰められるのでした。
そんな状況で、イタリアまで逃れたシャオ・ユンは、エツィオから超古代文明の遺産である「箱」を授けられ、それを餌に八虎を誘い出し、彼らの壊滅に挑むことになります。
敵味方数多くの犠牲を出す中、一人、また一人と八虎を追い詰めていくシャオ・ユン。しかし八虎の首領チャン・ヨンは、明侵略を狙うアルタン・ハーンと結び、その軍勢を導き入れようとしていたのであります。はたしてシャオ・ユンは復讐を果たし、モンゴルの脅威から祖国を守ることができるのか……
というストーリーの本作ですが、ゲームシステムとしては、3Dのいわゆるオープンワールドゲームである正編とは大きく異なり、2.5Dの面クリア型というスタイルの作品。と言えばゲーム性は全く変わっているように聞こえますが、シリーズの象徴ともいえるイーグルダイブをはじめ、アサシンの特徴的なアクションは2Dで再現され、シリーズをプレイしている人間であれば、なるほどと感心させられる落とし込み方となっています。また、ちょっとくすんだ墨絵風のグラフィックも非常に印象的で、作品世界を巧みに作り上げていると感じます。
もちろん、面クリア型となったことで世界の広がりというものはなくなり、サブゲーム的な要素も全くない状況。さらに、正編のアサシンたちに比べるとシャオ・ユンは悲しいくらい打たれ弱い上、基本的に敵に発見されるとクリア時のスコアがガクンと落ちるため、ひたすら逃げ隠れしながらプレイするスタイルとなるのは、アサシンとはいえ、正直なところストレスが溜まります。
(基本的には正編では発見→暴れて逃げる というヘボアサシンだったので……)
しかしそれ以上に困ってしまうのは、上で紹介したように、全ての人名がカタカナ表記となっている点であります。本シリーズは主人公以外は登場キャラのかなりの割合を実在の人物が占め、それは本作も例外ではないのですが――カタカナだと誰のことか本当にわからない。ワン・ヤンミンがあの王陽明だと気付くまで、しばらくかかってしまいました。
もっとも、本作は誰が誰かわかったとしても、題材的にかなりマイナーな印象が強いというのが正直なところです。そもそも明朝の皇帝でも、治世はかなり長いものの、あまり面白い事件があったわけではない嘉靖帝の時代が舞台というのが結構謎ですが、これはエツィオの生涯に合わせたものでしょうか(クライマックスのモンゴル侵攻も、本格的なものはもっと後なわけで)。
また、いかにも悪の集団っぽい八虎も、歴史上はかなりマイナーな上に、この時代は嘉靖帝の手により権力の座からすべり落ちていたわけで、ちょっと迫力に欠けます。もっとも本作では、嘉靖帝を傀儡にして、裏で権力を握っていたという、いかにも「らしい」設定なのですが……
そんなわけで、内容的にかなり地味な上に、ゲームとしても爽快感は今ひとつ――という本作。4面に一度くらい、パルクール中心のステージがあって、緩急を付けているのはわかるのですが、やはり外伝は外伝という印象は残ります。
ちなみに本作は倉田三ノ路によって漫画化されているのですが、こちらはゲームにない(シリーズ名物の)現代パートがあり、この部分もなかなか面白いので、こちらもいずれ紹介したいと思います。
『アサシン クリード クロニクル チャイナ』(UBIソフト PCソフトほか) Amazon
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