『Ebenezer and the Invisible World』 クリスマス・キャロル後日譚!? スクルージ、メトロイドヴァニアに見参
クリスマスを舞台とした物語として誰もが知るディケンズの『クリスマス・キャロル』。その後日譚に当たる物語が、なんとメトロイドヴァニア(2D探索アクションゲーム)として登場しました。改心したエベニーザ・スクルージが、迷える魂を救うために、ロンドンの見えない世界を奔走します。
かつて皆の鼻つまみ者の守銭奴だったエベニーザ・スクルージ。しかしあるクリスマス、三人の精霊に自分の過去・現在・未来を見せられた彼は、それまでの自分を悔い改め、クリスマスの博愛の精神を体現した人物として、周囲から敬愛されるようになった――ディケンズの名作『クリスマス・キャロル』であります。
そして本作はそのスクルージを主人公にしたゲーム。すっかり皆から敬われる紳士となったスクルージの前に現れた幽霊・エリック。大実業家であり巨大な工場主であるマルサス家――その現当主であるキャスパーと生前親友だったエリックは、キャスパーの魂を救ってくれとスクルージに頼むのでした。
労働者を目の敵にし、彼らを滅ぼして自分たちが豊かになることに血道を上げてきた父・ガイウスの計画を引き継ぐことになったキャスパー。彼の身を案じたエリックは(かつてスクルージの前にジェイコブ・マーレイが現れたように)キャスパーに三人の精霊が現れると警告、その通りにキャスパーは自分の過去・現在・未来を見せられたのです。
そこで見た己の悲惨な未来に一度は自分の誤りを悟ったキャスパー。しかしその前に現れた邪悪な霊に影響され、彼は改心を思いとどまってしまったのです。しかも一度未来を垣間見たことで、自分が行おうとしていた計画の完成図をも見てしまった彼は、早くもその計画を発動しようとしていたのでした。
もはや頼れるのは、かつて三人の精霊と出会って改心した過去を持ち、そしてその際の経験から、「見えない世界」――精霊や幽霊たちを見ることにできるようになったスクルージのみと語るエリック。もちろん、今や迷える人に惜しみなく手を差し伸べるスクルージも、これを拒むものではありません。かくてスクルージは、クリスマスを目前にしたロンドンの表と裏を駆け巡ることに……
いやはや、『クリスマス・キャロル』をゲーム化、それもメトロイドヴァニアにすると聞いた時は、一体頭のどこからそのようなアイディアが出るものか、と驚きましたが、こうして見るとなかなか「らしい」ストーリーなのに感心させられます。
頼り甲斐のある善人(しかもかなりのイケオジ)として活躍するスクルージを見れるのは嬉しいものですし、未来の精霊が未来を見せたことがマイナスに働いてしまうという設定も、なるほどこう来たか、という印象です。(その他、エベニーザを助けるオプション的な存在として、現在の精霊が連れていた子供たちが協力する設定も巧い)
何よりもニヤリとさせられたのは、敵役の姓が「マルサス」であることです。我々の知るマルサスといえば、トマス・ロバート・マルサス――ディケンズとほぼ同時代人の経済学者であり、その「人口論」における一種の自己責任論を通じて、弱者救済にネガティブな立場を取った人物でしょう。
ディケンズの『クリスマス・キャロル』をはじめとするクリスマスを舞台に慈悲・慈愛の精神を謳った作品は、このマルサス的思想に対する一種のカウンターであったとも言われているわけで――ここでそのマルサスを持ってくるのに唸らされた次第です。
さて、ゲームとしての本作ですが、どこか温かみのある(あるいは凄みのある)手書き調のグラフィックは物語の雰囲気をよく表していると感じますし、そこに登場する様々な幽霊たち(一人一人にフレーバーテキストが用意されている)もなかなかいい。
そしてスクルージが――華麗なバックステップ回避や身長よりも高いジャンプを見せるのはご愛敬――幽霊たちの力を借りることで、壁を壊したり、二段ジャンプや壁抜け出来るようになるのも面白いところです。
その一方で、ゲームとしては装備の付け替え等、UIその他が熟れていなかったり、セーブポイントやファストトラベルが微妙に使いにくかったりとストレスが溜まりやすく、妙なところで難易度が上がっているのも事実。また、日本語版はあるものの、肝心なところ(エンディング後の一枚絵とか!)で文字化けしていたり、妙な誤訳があったりするのも残念なところです。
結局、余程の伝奇マニアか、メトロイドヴァニアファンでもないと勧めにくい作品になってしまっているのですが――それでも名作がこんな形でゲーム化されたというのは、なかなか楽しい気持ちになります。それなりに愛すべき作品というべきでしょうか。
『Ebenezer and the Invisible World』(Play on Worlds PC用ソフトほか)
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