2024.02.15

『Ebenezer and the Invisible World』 クリスマス・キャロル後日譚!? スクルージ、メトロイドヴァニアに見参

 クリスマスを舞台とした物語として誰もが知るディケンズの『クリスマス・キャロル』。その後日譚に当たる物語が、なんとメトロイドヴァニア(2D探索アクションゲーム)として登場しました。改心したエベニーザ・スクルージが、迷える魂を救うために、ロンドンの見えない世界を奔走します。

 かつて皆の鼻つまみ者の守銭奴だったエベニーザ・スクルージ。しかしあるクリスマス、三人の精霊に自分の過去・現在・未来を見せられた彼は、それまでの自分を悔い改め、クリスマスの博愛の精神を体現した人物として、周囲から敬愛されるようになった――ディケンズの名作『クリスマス・キャロル』であります。

 そして本作はそのスクルージを主人公にしたゲーム。すっかり皆から敬われる紳士となったスクルージの前に現れた幽霊・エリック。大実業家であり巨大な工場主であるマルサス家――その現当主であるキャスパーと生前親友だったエリックは、キャスパーの魂を救ってくれとスクルージに頼むのでした。

 労働者を目の敵にし、彼らを滅ぼして自分たちが豊かになることに血道を上げてきた父・ガイウスの計画を引き継ぐことになったキャスパー。彼の身を案じたエリックは(かつてスクルージの前にジェイコブ・マーレイが現れたように)キャスパーに三人の精霊が現れると警告、その通りにキャスパーは自分の過去・現在・未来を見せられたのです。
 そこで見た己の悲惨な未来に一度は自分の誤りを悟ったキャスパー。しかしその前に現れた邪悪な霊に影響され、彼は改心を思いとどまってしまったのです。しかも一度未来を垣間見たことで、自分が行おうとしていた計画の完成図をも見てしまった彼は、早くもその計画を発動しようとしていたのでした。

 もはや頼れるのは、かつて三人の精霊と出会って改心した過去を持ち、そしてその際の経験から、「見えない世界」――精霊や幽霊たちを見ることにできるようになったスクルージのみと語るエリック。もちろん、今や迷える人に惜しみなく手を差し伸べるスクルージも、これを拒むものではありません。かくてスクルージは、クリスマスを目前にしたロンドンの表と裏を駆け巡ることに……


 いやはや、『クリスマス・キャロル』をゲーム化、それもメトロイドヴァニアにすると聞いた時は、一体頭のどこからそのようなアイディアが出るものか、と驚きましたが、こうして見るとなかなか「らしい」ストーリーなのに感心させられます。
 頼り甲斐のある善人(しかもかなりのイケオジ)として活躍するスクルージを見れるのは嬉しいものですし、未来の精霊が未来を見せたことがマイナスに働いてしまうという設定も、なるほどこう来たか、という印象です。(その他、エベニーザを助けるオプション的な存在として、現在の精霊が連れていた子供たちが協力する設定も巧い)

 何よりもニヤリとさせられたのは、敵役の姓が「マルサス」であることです。我々の知るマルサスといえば、トマス・ロバート・マルサス――ディケンズとほぼ同時代人の経済学者であり、その「人口論」における一種の自己責任論を通じて、弱者救済にネガティブな立場を取った人物でしょう。
 ディケンズの『クリスマス・キャロル』をはじめとするクリスマスを舞台に慈悲・慈愛の精神を謳った作品は、このマルサス的思想に対する一種のカウンターであったとも言われているわけで――ここでそのマルサスを持ってくるのに唸らされた次第です。


 さて、ゲームとしての本作ですが、どこか温かみのある(あるいは凄みのある)手書き調のグラフィックは物語の雰囲気をよく表していると感じますし、そこに登場する様々な幽霊たち(一人一人にフレーバーテキストが用意されている)もなかなかいい。
 そしてスクルージが――華麗なバックステップ回避や身長よりも高いジャンプを見せるのはご愛敬――幽霊たちの力を借りることで、壁を壊したり、二段ジャンプや壁抜け出来るようになるのも面白いところです。

 その一方で、ゲームとしては装備の付け替え等、UIその他が熟れていなかったり、セーブポイントやファストトラベルが微妙に使いにくかったりとストレスが溜まりやすく、妙なところで難易度が上がっているのも事実。また、日本語版はあるものの、肝心なところ(エンディング後の一枚絵とか!)で文字化けしていたり、妙な誤訳があったりするのも残念なところです。

 結局、余程の伝奇マニアか、メトロイドヴァニアファンでもないと勧めにくい作品になってしまっているのですが――それでも名作がこんな形でゲーム化されたというのは、なかなか楽しい気持ちになります。それなりに愛すべき作品というべきでしょうか。


『Ebenezer and the Invisible World』(Play on Worlds PC用ソフトほか)

関連サイト
公式サイト

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2024.01.30

倉田三ノ路『アサシンクリード チャイナ』(漫画版)

 以前ご紹介した『アサシン クリード クロニクル チャイナ』の、『天穹は遥か』『薬屋のひとりごと』の倉田三ノ路による漫画化であります。ゲームの内容を踏まえつつ、ゲームになかった現代パートを加えることで、より「アサクリ」っぽさを感じさせる作品です。

 16世紀、明の嘉靖帝(世宗)の時代――テンプル騎士団と結んだ宦官集団・八虎によって中国のアサシン教団は壊滅。そのわずかな生き残りであるシャオ・ユンも、伝説のアサシン・エツィオから託された「箱」を奪われることとなります。
 マスターであるワン・ヤンミン(王陽明)も倒されたシャオ・ユンは、「箱」を取り戻し八虎を壊滅させるべく、孤独な復讐の道を行くことに……

 という内容であった『アサシンクリード クロニクル チャイナ』。本作はその漫画化であり、ゲーム内の流れにほぼ忠実に、シャオ・ユンの戦いを描いています。石窟寺院から始まり、マカオ、紫禁城を経て、長城での決戦まで――正直なところ、ゲームのダイジェスト的な印象は否めないのですが、作中のちょっとしたアクションや場面に、ゲームをプレイしているとニヤリとさせられる部分があるのは、お約束とはいえ嬉しいところではあります。

 この辺りは作者自身がシリーズのファンだという点が大きいと思いますが、冒頭に挙げたように中華(風)世界を舞台とした作品を描いてきた作者を起用したのは適材適所というほかありません。


 しかしこの漫画版の特長は、原作再現のみにあるのではありません。むしろその最大の特長は、原作ゲームにない、しかしアサシンクリードシリーズにはお馴染みの要素――現代編を追加していることにこそあります。

 現代編の主人公となるのは、ある事件がきっかけで学校を退学し、引きこもっている少女・黄里紗。自分の中の暴力衝動に悩む彼女は、世界的大企業アブスターゴ社が運営するクリニックで、DNAから遺伝的記憶(先祖の記憶)を探る装置・アニムスによる「治療」を受けることになります。
 そしてその中で里紗が見たものこそが、彼女の先祖であるシャオ・ユンの戦いだった――というのが本作の基本構造となります。

 実はテンプル騎士団の現代における隠れ蓑であるアブスターゴ社によってアニムスの被験者となったアサシンの子孫が、先祖の記憶を辿る――というのは、シリーズの定番展開。
 しかし実は原作はシリーズの番外編的性格のためか、この現代編が存在しなかったものを、本作においては新たに描いてみせたというのは、これは原作プレイ済の人間にとっても、大いに気になるところであります。

 正直なところ、ゲームをプレイしている時には別になくても(というかむしろない方が……)と思ってしまう現代編ですが、しかしこうして追加されると嬉しくなってしまうのがファン心理――というのはさておき、こういう形で漫画の独自性を出してくるのは大歓迎であります。

 さらにこの現代編、シリーズのアメコミ版(現代編についてはゲームよりも実質こちらがメインになっている部分もあるので恐ろしい)で活躍した日本のヤクザアサシン、キヨシ・タカクラが里紗を導く役どころで登場。
 また、里紗をアニムスにかけるアブスターゴの女性技術者・加賀美は、映画版で描かれた事件がきっかけで左遷された過去があったりと、ゲーム以外のメディアも複雑に絡んでいくシリーズらしい要素が満載されているのも楽しいところです。

 もちろん本作の内容が正史と断言されたわけではないのですが、上記のとおり漫画の設定が公式となっている部分も多く、もちろん本作もUBIの監修を受けていることを思えば、公式となる可能性も大きいと思われます。

 そしてそうしたマニア的な興味だけでなく、自分自身の存在に嫌悪感を抱いていた里紗が、ある意味自分のルーツであるシャオ・ユンの戦いを知ることによって自分自身を肯定し、新たな一歩を踏み出す――そしてそれはシャオ・ユン自身がアサシンとして復讐を超えた道を歩み出すのと重なる――のは、物語の結末として実に美しいと感じます。


 そしてもう一つ、本作オリジナルのシャオ・ユンの弟子・小虎の父が実は日本の三浦氏の出身で、北条早雲との戦(油壺の語源になったあの戦)に敗れて中国に渡ったという設定があり、そして小虎が日本でアサシン教団を作るという展開が本作の結末では語られるのですが――この辺り、戦国時代の日本を舞台とする, ゲームの次回作に関わってくるのかどうか、というのも楽しみにしているところであります。


『アサシンクリード チャイナ』(倉田三ノ路&ユービーアイソフト 小学館サンデーGXコミックス全4巻) Amazon


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『アサシン クリード クロニクル チャイナ』 女性アサシン、明朝に翔る

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2023.02.02

『アサシン クリード クロニクル チャイナ』 女性アサシン、明朝に翔る

 現在、おそらくは世界屈指の(時代)伝奇ゲームである『アサシンクリード』シリーズの中でも外伝的作品である『アサシンクリードクロニクル』三部作――そのうち、中国編であります。16世紀、明の嘉靖帝の時代を舞台に、国を裏から支配する八虎に挑む女性アサシン、シャオ・ユンの戦いが描かれます。

 超古代文明の遺産を巡り、有史以来激しい暗闘を繰り広げてきたアサシン教団とテンプル騎士団。現代にまで続くその戦いの姿は、これまで正編だけで十作以上製作されている『アサシンクリード』シリーズで描かれてきました。
 本作はその中では(ゲームシステム的に)外伝的な位置づけではあるものの、「正史」の中の物語――『アサシンクリードⅡ』以降三作品の主人公を務めたエツィオの弟子であるシャオ・ユンの物語であります。
(作品としてはもう7年も前の発売ですが、実は今までプレイしていなかったので今回取り上げる次第)


 16世紀、明の嘉靖帝(世宗)が旧来の政治勢力を一掃した背後に暗躍した宦官集団・八虎――実はテンプル教団の一員である彼らにより、中国のアサシン教団は壊滅。残るはマスターであるワン・ヤンミンと、シャオ・ユンという状態まで追い詰められるのでした。
 そんな状況で、イタリアまで逃れたシャオ・ユンは、エツィオから超古代文明の遺産である「箱」を授けられ、それを餌に八虎を誘い出し、彼らの壊滅に挑むことになります。

 敵味方数多くの犠牲を出す中、一人、また一人と八虎を追い詰めていくシャオ・ユン。しかし八虎の首領チャン・ヨンは、明侵略を狙うアルタン・ハーンと結び、その軍勢を導き入れようとしていたのであります。はたしてシャオ・ユンは復讐を果たし、モンゴルの脅威から祖国を守ることができるのか……


 というストーリーの本作ですが、ゲームシステムとしては、3Dのいわゆるオープンワールドゲームである正編とは大きく異なり、2.5Dの面クリア型というスタイルの作品。と言えばゲーム性は全く変わっているように聞こえますが、シリーズの象徴ともいえるイーグルダイブをはじめ、アサシンの特徴的なアクションは2Dで再現され、シリーズをプレイしている人間であれば、なるほどと感心させられる落とし込み方となっています。また、ちょっとくすんだ墨絵風のグラフィックも非常に印象的で、作品世界を巧みに作り上げていると感じます。

 もちろん、面クリア型となったことで世界の広がりというものはなくなり、サブゲーム的な要素も全くない状況。さらに、正編のアサシンたちに比べるとシャオ・ユンは悲しいくらい打たれ弱い上、基本的に敵に発見されるとクリア時のスコアがガクンと落ちるため、ひたすら逃げ隠れしながらプレイするスタイルとなるのは、アサシンとはいえ、正直なところストレスが溜まります。
(基本的には正編では発見→暴れて逃げる というヘボアサシンだったので……)


 しかしそれ以上に困ってしまうのは、上で紹介したように、全ての人名がカタカナ表記となっている点であります。本シリーズは主人公以外は登場キャラのかなりの割合を実在の人物が占め、それは本作も例外ではないのですが――カタカナだと誰のことか本当にわからない。ワン・ヤンミンがあの王陽明だと気付くまで、しばらくかかってしまいました。

 もっとも、本作は誰が誰かわかったとしても、題材的にかなりマイナーな印象が強いというのが正直なところです。そもそも明朝の皇帝でも、治世はかなり長いものの、あまり面白い事件があったわけではない嘉靖帝の時代が舞台というのが結構謎ですが、これはエツィオの生涯に合わせたものでしょうか(クライマックスのモンゴル侵攻も、本格的なものはもっと後なわけで)。
 また、いかにも悪の集団っぽい八虎も、歴史上はかなりマイナーな上に、この時代は嘉靖帝の手により権力の座からすべり落ちていたわけで、ちょっと迫力に欠けます。もっとも本作では、嘉靖帝を傀儡にして、裏で権力を握っていたという、いかにも「らしい」設定なのですが……

 そんなわけで、内容的にかなり地味な上に、ゲームとしても爽快感は今ひとつ――という本作。4面に一度くらい、パルクール中心のステージがあって、緩急を付けているのはわかるのですが、やはり外伝は外伝という印象は残ります。


 ちなみに本作は倉田三ノ路によって漫画化されているのですが、こちらはゲームにない(シリーズ名物の)現代パートがあり、この部分もなかなか面白いので、こちらもいずれ紹介したいと思います。


『アサシン クリード クロニクル チャイナ』(UBIソフト PCソフトほか) Amazon

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2022.07.10

あずま京太郎『THE KING OF FIGHTERS外伝 炎の起源 真吾、タイムスリップ! 行っきまーす!』第2巻

 ザ・キング・オブ・ファイターズ(KOF)シリーズの660年前の過去を描くスピンオフ漫画の第2巻にして完結編であります。タイムスリップした先で八尺瓊勾依なる男と出会い、八尺瓊、そして草薙のオロチとの戦いを目の当たりにすることとなった真吾。しかし両家の運命は思わぬ方向に向かうことに……

 自分もいつか炎を出すことを夢見て、今日も今日とて草薙流古武術の特訓に明け暮れる矢吹真吾。しかしその最中、彼は不思議な空間に飲み込まれ、660年前の過去にタイムスリップしてしまうのでした。
 そこで赤い炎を操るぶっきらぼうな青年・八尺瓊勾依と出会った真吾は、不審人物として捕らえられ、八尺瓊家に軟禁されることになります。

 そんな中で勾依の家族、そして草薙京の先祖と出会った真吾は、両家がオロチ変化なる怪物たちと戦っていること、そして勾依が抱えた深い屈託の存在を知ることに……

 と、真吾が草薙ではなく八尺瓊=八神の先祖の方に先に出会うという、いささか捻りを加えた展開で始まった本作。この第2巻では、いよいよKOFのバックグラウンドストーリーで語られた過去の悲劇の真実が紐解かれることになります。

 勾依の妻・カヤから、勾依の背負った過去を聞かされた真吾。その矢先、オロチの封印の一つが解かれ、その場に倒れているのが発見された勾依は、その場に現れた帝の兵により連行されてしまうことになります。
 さらに真吾とカヤが残った八尺瓊家を襲撃し、カヤを攫う二人の女八傑集(!)。さらに、囚われの勾依の前にもう一人の八傑集が現れます。そしてその語る言葉に絶望した勾依は……


 660年前にオロチの力に魅せられた八尺瓊家の者がオロチの封印の一部を解き、オロチと血の契約を結んだ末に、紫の炎を操る八神家となった――第1巻でも触れましたが、これがこれまで語られてきた八神家の誕生のエピソードでした。
 この巻で描かれる物語は、これを踏まえつつも、真吾の目を通じて、そこに隠されたもう一つの物語を描き出すことになります。

 それは、身も蓋もない表現を使えば、後付けの設定改変なのかもしれません。過去の美化なのかもしれません。しかし実際に読んでみれば全くそう感じることがないのは、やはり物語の盛り上げ方と、勾依のキャラ描写の巧みさにあるのでしょう。
 しかしそれだけでなく、本作のさらに巧みなのは、そこに真吾の成長物語が重ね合わされている点にあるといえます。

 草薙の人間でないにもかかわらず、炎を出そうと懸命に努力してきた真吾――その姿は、これまで基本的に本筋とは離れた、ギャグ要素として描かれてきました。
 しかし本作における真吾は、炎を出せる血を受け継いでいない、いわば炎が出せないことを宿命付けられている身でありつつも、それを乗り越えようと奮闘する、奮闘し続ける青年として描かれます。

 それが八尺瓊の過去の物語と重なる時に生まれるのは、力の欲望に屈して人を捨てようとした愚者の物語ではなく、宿命に翻弄されながらもなおも人であろうと戦い続ける勇者の物語なのです。
 そしてその先にある紫の炎の真実を知れば、必ずや、八神を見る目も変わると感じますし、ラストで真吾が勾依にかけた言葉に込められたものの熱さと重さ、そしてそこにある希望には、ただ涙するしかないのです。


 と、実によくできた物語である本作ですが、バトル面の描写もまた、非常に巧みであります。
 いわばツキノヨルオロチノチニクルフマガヒと対決する真吾の、それまでの物語を踏まえたファイト(外式・百合折りなどの技描写に納得!)、そして表と裏の本領を発揮して風を操る八傑衆に挑む草薙と八尺瓊の姿など――これを見たかった! と快哉を挙げたくなります。

 一歩間違えれば色物になりかねない内容を、あらゆる面で丹念に描いてみせた本作は、特に昔からのKOFファンであればあるほど感動が大きい、スピンオフのお手本のような作品と言ってよいかと思います。
(これはまあ蛇足ですが、時代ものとして見た時に、おそらくは南北朝時代ならではの社会情勢下での、八尺瓊と草薙の不安定な立場を物語に盛り込んでいるのも、嬉しいところでした)


 しかしまあ、先祖は先祖として、八神庵はやっぱり八神庵なんだなーというオチが実に……(そしてそこにさらりとあの伝説のネタを投入してくるセンスに脱帽!)

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2022.06.11

あずま京太郎『THE KING OF FIGHTERS外伝 炎の起源 真吾、タイムスリップ! 行っきまーす!』第1巻 いま描かれる660年の因縁!

 突然どうした、というチョイスかもしれませんが、格闘ゲームの最大手の一つ、ザ・キング・オブ・ファイターズ(KOF)シリーズのスピンオフにして、660年の過去を描く物語であります。現代まで続く草薙家と八神家の因縁の源とは――現代からタイムスリップしてしまった矢吹真吾が見届けます。

 以前のKOFで八神庵に負わされた傷も癒え、草薙京の父・柴舟の下で修行に励む矢吹真吾。そんなある日、自主練中に謎の空間に引きずり込まれた真吾が意識を取り戻してみればそこは見覚えのない場所――それどころか、見たこともないような不気味な怪物が襲いかかってくるのでした。
 自分の技も通じず、窮地に陥った彼の前に現れたのは真っ赤な炎を操る男――怪物を焼き払ったその男は、八尺瓊と名乗るのでした。

 訳のわからぬまま八尺瓊についていった真吾はそのまま、八尺瓊邸の牢に放り込まれることに。そこでようやく自分がタイムスリップしたことに気付いた真吾は、今が鎌倉幕府が倒れた後の時代だと知るのですが……


 1994年稼働の第1作から今年の第15作まで、長きに渡り展開してきたKOFシリーズ。そのストーリーの中心には、一つの伝奇的設定があります。

 シリーズの(初代)主人公である草薙京とその宿命のライバル・八神庵――彼らは共に約1800年前に「オロチ」なる存在を封印した「三種の神器」と呼ばれる家系のうち、草薙家・八尺瓊家の末裔。
 しかし約660年前にオロチの力に魅せられた八尺瓊家の者がオロチの封印の一部を解き、さらに妻が草薙家に殺されたと騙された末にオロチと血の契約を結び、八神と名を改めた――大まかにいえば、これが両者の、いや両家の因縁の始まりなのです。

 そして本作はまさにその瞬間を描く物語なのですが――それを見届けるのが真吾というのが、なるほど、と感心させられます。
 KOF97が初登場の真吾は、京に憧れて押しかけ弟子になった(京的にはパシリにした)という設定のキャラクター。別に京や庵のように手から炎を出せるわけでもない、ちょっと体が頑丈なだけの本当にごく普通の高校生なのであります。

 しかし何かと事件に巻き込まれやすい京の近くにいるためか、真吾も様々な戦いに首を突っ込み、ついにはKOF XIでは京と庵の緩衝役としてチームを組むことに――まあ、その結果、暴走した庵から京を庇って深手を負い、以降大会に出場していないのですが……
(ちなみに本作では、この時の傷(とKOF97ドラマCDで山崎竜二に刺された時の傷)にある意味が与えられているのが実に面白い)

 それはともかく、物語の渦中近くにいながら、あくまでも立場は傍観者の一般人的という彼のスタンスは、本作のような物語には非常にマッチしているというべきでしょう。
 まあ、庵は(京も)『THE KING OF FANTASY 八神庵の異世界無双 月を見るたび思い出せ!』で異世界転生しているので、今回は別のキャラの方が――というのはともかく。


 さて、そんな本作ですが、キワモノめいたタイトルに対して、内容の方はかなりしっかりとしている印象があります。オロチの誘惑に堕ちる前の八尺瓊とはどのような存在だったのか、いやそもそも歴史の中で(陰で)草薙・八尺瓊両家は何をしていたのか――そんな部分がきっちり描かれているのは、ファンとして嬉しい限りです。(何故形の上では八尺瓊家がどこの者とも知れぬ真吾を一応保護しているのか、という説明も面白い)

 そしてその中で、真吾が懸命に自分なりの道を、自分なりの戦いを見つけようと努力するという、成長物語としての側面が描かれているのも、好印象であります。
 もっとも、お前あれだけ京や庵の近くにいて、八神=八尺瓊って知らなかったのか!? などとも思いますが、そこは先に述べたように、一般人代表としての役割なのでしょう。
(そもそも初出が30年近く前の設定、最近のファンは知らないのかも……)

 この巻の時点では、まだまだ660年前の因縁そのものの真実は描かれておらず、それは最終巻であろう次巻に送られていますが、それがどのように描かれるのか楽しみになる――KOFファンにはオススメできる作品です。


 ちなみに作中に「鎌倉幕府が滅びてから争いばかり」「武力を持ちながら戦に加担せぬ我々は公家側からも将軍側からも良く思われてはいない」という台詞があるのを見ると、本作は後醍醐帝と足利尊氏が対立し、幕府ができる直前が舞台のように思われます。
 仮に庵が初登場した1995年から660年前とすると1335年と、見事に平仄が合うのですが――KOFで年代を云々するのは野暮とはいえ、興味深いところではあります。


『THE KING OF FIGHTERS外伝 炎の起源 真吾、タイムスリップ! 行っきまーす!』第1巻(あずま京太郎&SNK 講談社マガジンポケットコミックス) Amazon

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2021.10.29

『弁慶外伝 沙の章』 日本から大陸へ! 時空を超えた元寇伝奇

 先日紹介した『弁慶外伝』の続編に当たる作品――ハードをスーパーファミコンに移して1992年に発売された本作は、元寇を背景に、その背後で繰り広げられた語られざる戦いを描く物語。日本に始まり、舞台は中国大陸にまで時空を超えて広がる、稀有壮大な物語であります。

 文永11年、大軍で襲来し九州を蹂躙したものの、突然吹き荒れた暴風によって壊滅的な打撃を受けて撤退を余儀なくされた蒙古軍。その背後に日本側の強力な呪術の存在を察したフビライ・カンは、配下の四界将の一人・呪魂を派遣――北条時宗も全国の法力者でこれを迎え撃つも、多くの犠牲を出すのでした。
 そして文永の役から2年後、四国の修門砦で修行を積んでいた主人公・不動(デフォルトネーム)は、帝の命により戦いに加わるべく都に向かおうとするも、その矢先に砦は襲撃を受けて壊滅。不動も窮地に陥ったところを、長門の練武館からやって来た戦士・巳陰(みかげ)と常世(とこよ)に救われることになります。

 呪魂の追撃から辛うじて逃れた三人は、呪魂を倒して元の再襲来を阻むべく、日本中を奔走。数々の冒険の末、かつて源義経の手によって眠りについた不死身の戦鬼・弁慶を復活させ、ついに呪魂に挑むのですが……


 と、文永の役と弘安の役の間の時期を舞台とする本作。そもそも鎌倉時代を舞台としたゲーム自体(前作のような義経・弁慶を題材としたものを除けば)珍しいのですが、元寇を題材にしたものは、それこそ本作のほかは昨年の『Ghost of Tushima』くらい――というのは大げさかもしれませんが、それくらい希少であることは間違いありません。

 さて、冒頭に述べたとおり本作は『弁慶外伝』の続編ですが、物語自体は直接の繋がりはなく、前作で何処かへ旅立った義経と弁慶のその後が語られる程度であります。
 とはいえ、前作で伊勢三郎が率いていたかすみの一味が、ほとんど忍者集団のかすみ一族になっていたり、前作の主人公・鬼若が法眼に育てられた林省寺が廃墟となっていたりと、前作を知っていればニヤリとできる場面がいくつかあることは間違いありません。

 そして物語的には前作以上に奔放に、如何にも伝奇的な陰の歴史が語られていくわけですが――しかし本作は中盤で思いもよらぬ展開を見せることになります。

 弁慶とともに呪魂を倒し、日本を救ったかに見えた不動たち。しかしこの戦いの根源が、単なる元による日本侵略というものではなく想像を絶するほど根深いことを知った不動たちは、中国大陸に渡り、伝説の地・崑崙を求めて旅をすることになります。
 その前に立ちふさがるのは残る三人の四界将たち。そしてやがて物語は時空を超え、邪馬台国まで遡る奇怪な因縁が語られることになります。一度は義経が身を以て封印した魔を滅ぼすため、不動と弁慶たちは死闘を繰り広げることになって……

 と、鎌倉時代の日本を舞台とするだけでも珍しいのに、本作はこの時代の中国大陸を舞台にするというさらに珍しい展開をすることになります。フビライだけでなく、バヤンや古源邵元といった実在の人物まで登場する一方で、ほとんど既存の神話伝説を用いないオリジナルの伝奇世界が展開されるのに驚かされます。
 ――が、個人的にはオリジナルになりすぎて(そして中国に渡ってからは舞台に馴染みがなさすぎて)もう伝奇ものというよりファンタジーじゃないかな、という印象があるのも正直なところではあります。

 また、冷静に考えると物語の処々に矛盾というか不明点があったり(結局、メインキャラの一人・鳴沙にまつわる設定が今ひとつ未消化だったり等)、ちょっとすっきりしない部分もあって、ゲームとしては前作よりもはるかに完成度が高いにもかかわらず、賛否が分かれているのも、理解できるところです。

 ちなみにゲーム性でいえば、前作の高すぎるエンカウント率やバフデバフがほとんど役に立たない点などは解消されているのですが、敵味方ともポンポン連続攻撃やクリティカルヒットを出すので、戦闘が安定しないのがストレスが溜まる点。
 いや、一番ストレスが溜まるのは、タイトルロールであり物語的にも重要な位置づけのはずなのに、戦闘ではNPC扱い、しかもランダムにしか攻撃しない(攻撃しない時の方が多い)弁慶の存在なのですが……


 と、最後に一点言及すべきは、本作のイメージビジュアルでしょう。前作は本宮ひろ志が担当していましたが、本作では何と山形厚史が担当。
 説明書や攻略本で見ることができるイラストは実に見事で、これだけでも何とかしてご覧いただきたい逸品であります。


『弁慶外伝 沙の章』(サンソフト スーパーファミコン用ソフト) Amazon


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『弁慶外伝』 鎌倉伝奇RPG! しかし色々な意味で古典……

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2021.10.14

『弁慶外伝』 鎌倉伝奇RPG! しかし色々な意味で古典……

 実に今から32年前、PCエンジン用ソフトとして発売された時代伝奇RPGであります。鎌倉時代を舞台に、奇しき因縁を背負った少年・鬼若が、かの弁慶らと共に繰り広げる戦いを描いた本作を、今に至りようやくクリアいたしましたので、今回ご紹介いたします。

 おそらくは鎌倉時代の初期、房総のとある寺で都の僧・法眼に育てられていた少年・鬼若(きじゃく)。何者かに拐われた幼馴染の少女・おコトを救出した彼は、それをきっかけに、自らの出生に秘められているという謎を解くための旅に出ることになります。
 やがて金屋吉次郎こと金売吉次の縁で、衣川の戦を密かに生き延びた伊勢三郎(実はおコトの父)を仲間に加えた鬼若。魔界の侵略が始まったことを知った鬼若は、出羽の法術師・沙夜香、結界の中で眠りについていた弁慶をも仲間に加え、諸国に向かうのでした。

 そして旅の中で、自分の両親の正体を知る鬼若。その後も都から奪われた三種の神器の行方を追って東奔西走、さらには義経の姿が現れたという蝦夷の地に渡り――ついに決戦の地・裏鎌倉に乗り込んだ鬼若たちの前に現れた真の敵とは……


 冒頭に述べたように、今から32年前の1989年(平成元年!)に発売された本作。当時は和風ファンタジーというべき作品はそれなりにありましたが、正史を(一応)背景とした作品はまだ珍しかった印象があります(ちなみに和風ファンタジーの雄・『天外魔境』第1作は同年の発売)。

 ゲームシステム的には当時から見ても非常にオーソドックスな4人パーティー形式のRPGである本作――今の目で見ると当然ながら古さは否めないのですが、それはもちろん言うだけ野暮というものでしょう。当時としては珍しい漢字を用いた画面はなかなか見やすく印象的です。

 さて、ストーリーの方は、上に述べたのがある意味全てというか、かなりシンプルで、ほぼ一本道の、お使いの連続で展開していく内容――というのはこれまた時代を考えれば仕方がないとして、ある意味お約束の物語を日本の舞台設定に当てはめたものといえます。
 主人公の両親があの二人であるとか、ラスボスが――正確にはその裏に真のラスボスがいるのですが――あの人物というのは、これはもう設定的には定番中の定番ですぐ予想がつくのはちょっと残念なところではありますが……(この数年後に発売されたスーパーファミコンの『鬼神降臨伝ONI』とかなり被る)。

 もっともその一方で、常陸坊海尊の扱いや、蝦夷地を異国から来た魔法使いたちが治めているなどユニークな部分があるのは評価できます。


 そんなわけでストーリー的にはそれなりに楽しめたのですが――ゲームとして大きな減点ポイントなのは、その異常なまでのエンカウント率。もちろん運はあるものの、ひどい時は数歩歩いただけで敵が出現。
 さらに、フィールドではエンカウントを封じる術があるものの、ダンジョンでは使えず、ストレスは溜まるばかり(またこのダンジョンの階段が実質ワープポイント並みの滅茶苦茶な繋がり方なので迷いまくる)。

 本作を今頃になってプレイした理由の一つが、最近の色々とリッチなゲームは疲れるので、イベントは少しで、ひたすら戦うゲームがしたいと思ってのことだったのですが――まさかこういう形で叶うとは。

 さらに睡眠と毒以外のデバフ・バフ系の術はそのターンしか効果がないという、ちょっとどうかしているとしか思えない仕様もあったりして――この頃よくあった、プレイアビリティの低さが難易度の高さになっているゲームとなってしまっているのは、やはり残念というほかありません。

 私は今回このゲームを、PlayStation VitaのPCエンジンアーカイブスでプレイしたのですが、携帯機のどこでもセーブ機能がなければとてもクリアできなかったのは間違いないかと思います。
 そんなわけで、物語的にはそれなりに面白いものの、やはり今プレイするにはよほどのことがないと――というのが、今回最後までプレイして確認できたことでありました。

 ちなみに本作、スーパーファミコンで元寇の頃を舞台とした続編『弁慶外伝 沙の章』が発売されており、こちらはなかなかよくできているようなので、いずれプレイしたいと思います。


 ちなみに本作、作中で三年前に義経が蝦夷に現れたという言及があるので、その辺りの年代の物語なのでしょう。
 鬼若の年齢がちょっとややこしいのですが、鬼若は常人より成長速度が早いという設定があるので……


『弁慶外伝』(サンソフト PCエンジンアーカイブス)

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2021.08.06

『Bloodstained: Ritual of the Night』 新たなメトロイドヴァニア、新たな伝奇世界

 既に発売から2年が過ぎた作品を今紹介するのも恐縮ですが、まだ追加コンテンツの開発が続いていること、そして何よりもつい先日ようやくクリアしたため、紹介させていただきます。18世紀末のイギリスに現れた悪魔の城を舞台に繰り広げられるゲーム、「メトロイドヴァニア」の名品であります。

 産業革命による科学の発展で、錬金術から人々の心が離れていくのに危機感を抱いた錬金術ギルド。彼らはその存在感を示すため、魔力を宿し成長する結晶「シャード」をその身に埋め込まれた少年少女たち「シャードリンカー」を生贄に悪魔を召喚、しかし大量の犠牲者を出した末に自滅したのでした。
 それから十年、儀式の直前に謎の昏睡状態に陥ったことから難を逃れたシャードリンカーの少女・ミリアムが覚醒。それと時を同じくして、無数の悪魔が潜む謎の城が地上に出現したのであります。

 かつて親しかったシャードリンカーの青年・ジーベルが悪魔を操っていることを知り、その身に宿るシャードを武器に、彼の暴走を止めるための戦いを決意したミリアム。
 人間たちへの復讐に燃え、ミリアムを誘うジーベル。ジーベルに仕える悪魔・グレモリーを追う東洋の剣士・斬月。悪魔召喚に用いられたロガエスの書を追う老錬金術師・アルフレッド。悪魔と戦うミリアムをサポートする美しきエクソシスト・ドミニク――悪魔の城を巡り、幾重にも絡み合うミリアムと彼らの運命の行方は……


 そんな本作は、いわゆる「メトロイドヴァニア」の王道を行く作品。メトロイドヴァニアとは、サイドビュー視点の探索型アクションゲーム。一定のエリアの中で探索や戦闘をを行い、使えるアクションや行けるエリアを増やしていくという、要するに『メトロイド』や『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』のようなゲームであり、それ故の名称(キャッスルヴァニアは悪魔城ドラキュラの英名)であります。
 そして本作のプロデューサー・五十嵐孝司は、この『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』以降、シリーズの大半を手掛けた人物であり、そして独立後に初めて発表した本作は、その味わいを(意図的に)色濃く残した作品となっています。


 それではシリーズの味わいとは何でしょうか? ゲーム的には、経験値制を導入することによる難易度の緩和、出来ることや行ける場所が広がっていくタイミング等のレベルデザインの巧みさが考えられますが――何よりも物語背景の設定とゲーム内容(音楽やグラフィックも含めて)のマッチング、設定が本編の内容に与える厚みにあったと感じます。

 悪魔城シリーズでいえば、あのヴラド・ツェペシュを百年に一度甦る魔王として設定し、その魔王の君臨する主人公に城に挑むという物語を――それが大半はプレイ開始前の背景に留まるとしても――設定することによって、ゲーム内の探索・設定の背後に、大きな広がりがあったと感じます。
 言い換えればドラキュラという「実在」の人物を題材とし、どこかの異世界でなく、現実と地続きの世界を舞台とすることで――つまり伝奇的な空気を持ち込むことで、シリーズは他との差別化に成功していたのです。


 さて本作は、あくまでも悪魔城シリーズではない別個の作品ではあるものの、敢えてそれに内容や雰囲気を大きく寄せた作品であります。そしてそれはゲーム性の部分だけでなく、伝奇性の部分でも同様です。

 上に述べた錬金術師ギルドの悪魔召喚は、実は1783年――アイスランドでラキ火山が噴火、数年間異常気象をもたらして多大な犠牲者を出した年に設定されています。
 この史実が、物語背景として一つの背骨を与えるとともに、物語のキーアイテムにロガエスの書――かのジョン・ディーが天使との交感実験をした際に使用したという「実在の」文書を配置することで、新たな物語世界に厚みを与えているのです。

 といっても現実とのリンクはそのくらいで、18世紀末に(魔界のテクノロジーという扱いとはいえ)鉄道が登場したり、アイテムとして日本料理が、敵キャラとしてくねくねが登場したりという点はあるのですが――それは、ゲームとしてのご愛嬌ということで。


 何はともあれ、悪魔城シリーズという先行作品を踏まえつつ(利用しつつ)も、あくまでもそれとは別個の、新たな伝奇世界の創造に挑んだ本作。それは決して容易な試みではなかったと思いますが、本作はそれを見事に成し遂げたと感じます。
 メトロイドヴァニアとして面白いのはもちろんのこと、一つの伝奇ものとして――懐かしくも新しい作品が生まれたことを、ジャンルそのものの、そして悪魔城シリーズのファンとしても歓迎したいと思います。


『Bloodstained: Ritual of the Night』(Game Source Entertainment Nintendo Switch用ソフトほか) Amazon

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2020.12.14

富士原昌幸『スーパーロボット大戦OGサーガ 龍虎王伝奇』 伝説の超機人、「現実」世界に吼える

 2003年の雑誌連載開始から幾度かの中断を経て、実に14年後に描き下ろしを含めて完結した、中華伝奇ロボットアクション漫画――スーパーロボット大戦シリーズの主人公機の一つである龍虎王の過去の戦いを描くスピンオフ作品であります。

 日本と清国の緊張が高まる明治時代、発掘が進められているという超機人の調査を命じられ、大陸に渡った大日本帝国陸軍情報部の大尉・稲郷隆馬。古代中国で作られた機械人形という、ほとんどホラ話としか思えぬ超機人ですが――しかし確かに実在し、大英帝国のグリムズ男爵の手によって発掘が進められていたのでした。
 超機人が眠る蚩尤塚を代々守ってきた一族の末裔・文麗を男爵の手から救い出した隆馬ですが、男爵は発掘した二体の超機人・雀王機と武王機を起動。窮地に陥った二人の前に、地中から龍王機と虎王機が出現――これに乗り込んだ二人は、二身合体した龍虎王・虎龍王を駆り、伝説の四神同士の戦いを繰り広げることになります。

 辛くもこの戦いに勝利した隆馬と文麗ですが、その前に現れたのは、世界中の紛争の背後に暗躍する組織・バラルのエージェント・孫光龍。
 伝説の妖魔たちを象った妖機人たちを配下に持ち、さらに超機人の中でも最上位に位置する四霊の一体・応龍皇を操る光龍との対峙の末に、二人はかつて地上で繰り広げられた機人大戦の存在を知るのですが……

 という第一部に続き、時は流れて第二部の舞台となるのは第二次世界大戦前夜の昭和初期――バラルに一族を滅ぼされた隆馬と文麗の孫・飛麗は、バラルと戦うために結成され、グリムズ家や名門ブランシュタイン家も参加する超国家組織・オーダーと出会い、その一員として潜水母艦・魁龍に搭乗することになります。

 オーダーの擁する巨大ロボットたる鋼機人・轟龍のパイロットとなり、謎めいた艦長の下、仲間たちとともに、次々と襲い来るバラルの妖機人たちと戦い続ける飛麗。
 戦いの果てに明らかになるオーダーとバラルの目的――そしてバラル四仙の一人・泰北が操る四罪の超機人、さらに再び現れた孫光龍が潜む四霊の一体にしてバラルの拠点・霊亀皇との決戦に臨む飛麗と仲間たちの運命は……


 というわけで、数十年に及ぶ稲郷家と蚩尤塚の一族、さらにはグリムズ家やブランシュタイン家と、バラルとの戦いを描いた本作。内容的にはゲームの『スーパーロボット大戦α』シリーズ及び『スーパーロボット大戦OG』シリーズに登場した龍虎王の由来を語る物語であり、そしてゲームに登場したキャラクターの先祖たちの姿を描く物語であります。
 その意味ではまさしくゲームのスピンオフなのですが、しかしここで登場する超機人たち――古代中国神話に登場する神や妖魔、神獣の類をモチーフとした巨大ロボットたちの存在は実に魅力的で、背景となっている神話の「真実」たる機人大戦の内容も含め、ゲームとは独立した巨大ロボット伝奇として楽しむことも出来ます。

 また、第一部がかなりシンプルなストーリーだったのに対して、第二部はキャラクターの背負う因果因縁が複雑となり、よりユニークな物語が展開。。さらに人が造った超機人というべき鋼機人(四神をモチーフとして四体登場)が、能力的には及ばずながらも、懸命に妖機人たちに挑む姿は、圧倒的な力を誇る龍虎王のバトルとは違った魅力があります。


 その一方で、単行本全3巻というボリューム上の制約もあってか、キャラクター造形は些か掘り下げが少なく、特に飛麗の内面があまり描かれていないのは――終盤の展開を考えても――食い足りないところではあります。
 そして何よりも、本作の特徴の一つである、未来の物語ではなく(その未来に分岐していく)現実世界の過去を舞台にしているにもかかわらず、その点がほとんど設定上に留まり、あまり物語の中で有機的に活かされていなかったのは、個人的には何よりも残念に感じられます。

 もちろん本作はそういう物語ではないことは重々承知ですが、この辺りは大いに勿体ないという印象があります(特に第二部は冒頭以外ほとんど海上で物語が展開してしまうため、現実との距離感が大きく……)。
 結局のところ、面白い部分も大きいけれども勿体ない部分も大きい、古代伝奇としては面白いけれども近代伝奇としては――と個人的には感じることとなった本作。もちろんこういう視点で本作を見ている人間はまずいないわけですが……

『スーパーロボット大戦OGサーガ 龍虎王伝奇』(富士原昌幸 KADOKAWA電撃コミックス) 上巻 Amazon/ 下巻 Amazon/完結編 Amazon

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2012.10.09

「戦国無双Chronicle 2nd」 年代記にして銘々伝の面白さ

 ニンテンドー3DSのロンチソフトとして発売され、意外な面白さにファンを驚かせた「戦国無双Chronicle」の新作、「戦国無双Chronicle 2nd」が発売されました。前作の面白さはそのまま、旧来のシリーズの味わいも取り込んでみせた快作であります。

 「戦国無双」というゲームについては、今さらここで説明するまでもありますまい、一騎当千の戦国武将(でない人間もたくさんいますが)が活躍する戦国アクションゲームです。
 正直なところ、「無双」シリーズのゲームは毎年何作も発売されているため、食傷気味の部分もあったのですが、そんなゲーマーも感心したのが前作「戦国無双Chronicle」。
 各ステージ毎の操作キャラクターを複数設定し、タッチパネルでそれを随時切り替えることにより、刻一刻と変わっていく戦場の状況に対応していくというのが、抜群に面白く、かつ新鮮で、「無双」シリーズの新たな可能性を見せてくれた、と言っても過言ではない作品でありました。

 その「戦国無双Chronicle」を引き継いだ本作は、前作の登場キャラに加え、藤堂高虎・井伊直虎・柳生宗矩(!)と三人の新キャラを加えたパワーアップ版…と言うと、近頃はやりの完全版的印象がありますが、実際のイメージは大きく異なります。

 というのも、前作はクロニクル(年代記)の名の如く、河越夜戦から大坂夏の陣までがほぼ一直線に描かれていたのに対し、本作は、中心となる武将毎に分かれた物語が描かれる、並行的構造。
 しかも武将によっては、史実とは異なる展開となったり、あるいは別の武将の物語を反対側から描いていたりと、ifの部分がよりクローズアップされているのであります。

 なるほど、ステージ自体は前作でも登場したものであっても、そこで展開される物語が異なれば、これは全く異なるものとして見ることができましょう。
 実は、「戦国無双」シリーズとして見れば、前作のクロニクルスタイルがむしろ異色で、各武将毎にストーリーが(if展開も含めて)描かれる本作の方が、シリーズの本流に戻ったとも言えます。

 個人的には前作のスタイルも気に入っていただけに、少々残念に感じるところがないわけではないのですが、しかしどうしても登場武将の活躍に濃淡が出てしまった前作に比べれば、より平等に活躍を描くことができる今回のスタイルは、武将毎のファンが存在するシリーズにおいてはむしろ正しいチョイスとかもしれません。むしろ、クロニクル的部分を残しつつ、従来の武将銘々伝的な要素を取り込んだ、おいしいところ取りのスタイルと言っても良いのではないでしょうか。

 さらに言えば、ステージ数が増えたことで、ちょっと驚くような人物や事件が描かれるようになったのも実に楽しい。
 取りあえず最初に選んだ今川の章(実質は井伊直虎の章なのですが)では、小野道好が無駄に存在感をアピール。この人が目立つゲーム(というかフィクション)初めて見ましたよ!
 その他、浅井の章では長政を差し置いて斎藤龍興が大活躍したりと、全般的に今回はモブ武将が大健闘した印象があります。

 もっとも、おかげでいつもの無双アレンジされた武将たち(のコスチュームやキャラクター)が、えらく浮いて見えるのも痛し痒しですが…


 それはさておき、本作が前作をプレイした方でも間違いなく楽しめる作品であることは――そしてもちろん、本作で初めて戦国無双をプレイするという方にも面白い作品であることは間違いないお話。無双アレンジが苦手な方もいらっしゃるかとは思いますが、想像以上に真面目に歴史ものしている部分もあり、食わず嫌いの方ほど楽しんでいただきたい、そんな快作であります。

「戦国無双Chronicle 2nd」(コーエーテクモゲームス ニンテンドー3DS用ソフト) Amazon
戦国無双 Chronicle 2nd


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