2023.01.12

『フランケンシュタインの花嫁』 フランケンシュタイン再来 怪物の成長と伴侶の誕生と

 後世のフランケンシュタインの怪物のイメージを決定づけた、ボリス・カーロフの『フランケンシュタイン』の続編――前作で死んだかと思われたカーロフ演じる怪物が復活、そして新たに生命創造に燃えるプレトリアス博士の存在が、更なる混迷を生み出します。

 村人に追い詰められた末、燃え落ちる風車小屋の中に消えた怪物――しかし滅んだと思われた怪物は地下で生き延びていました。一方、怪物に殺されたと思われていたヘンリー・フランケンシュタインも息を吹き返し、婚約者のエリザベスをはじめ、屋敷の人々には笑顔が戻るのでした。

 そしてヘンリーの傷も癒えた頃、彼を訪ねてきたのは大学時代の恩師・プレトリアス博士。やはり生命創造に取り憑かれた彼は、ヘンリーを自分の研究室に招待するのですが――そこで見せられたのは、瓶の中に詰められたホムンクルスたちだったのです。
 それが自分の理想とかけ離れたものであることを知ったヘンリーは、プレトリアスからの協力要請を断るのでした。(ここでプレトリアスの研究成果を見て、自分のことを棚に上げてドン引きしているヘンリーが可笑しい)

 一方、彷徨う怪物は村人たちに見つかった末に追い詰められ、一度は警察署の牢に捕らえられたもののすぐに脱出、森の中で暮らす盲目の老人の小屋に迷い込みます。盲目ゆえに怪物の姿を怖れない老人から友人として温かくもてなされ、言葉を教わる怪物ですが――そこにも追っ手は現れ、怪物は墓場の地下に迷い込むのでした。
 そこで怪物が出会ったのは、人間創造の素材となる女性の死体を物色するプレトリアス。花嫁を作ってやると語り怪物を味方に引き入れたプレトリアスは、エリザベスを誘拐し、ヘンリーを脅迫して花嫁創造に協力させるのですが……


 前作の続編として、前作のラストシーンの直後から始まる本作。怪物はともかく、その創造主たるヘンリーまでしっかり生きていたのはどうかと思いますが――この辺りは物語の展開上必要でもあり、まあ続編には仕方ないことでしょう。それはさておき、続編には前作に比べてパワーアップした要素がつきものですが、本作におけるその一つは、怪物の成長であります。

 前作では言葉を喋らず、本能の赴くままに暴れるだけであった怪物。しかし本作における怪物は(確かに随所で凶暴に人々を血祭りに上げるのですが)、多勢に無勢で村人たちに簡単に捕らえられたりすることもあってか、怪物的な印象よりも、むしろ孤独の影が強く感じられます。
 それだけに、その孤独が和らげられ、怪物が初めて他者と意思疎通することを学ぶ盲目の隠者のくだりは、短いながらもやはり感動的な場面であり(「怪物も涙を流すのだ!」)――そして同時にこの場面は、怪物が、実は知性と感情を持つ存在であることをも示すのです。


 そして続編としてのもう一つの、そして最も大きな要素が「花嫁」であります。孤独を和らげるために怪物が伴侶を求める気持ちと、死体から生み出した生命をさらに増やそうとするプレトリアス博士と――二人の思惑が結びついた末に、本作のクライマックスでは、ついに「花嫁」が誕生することになるのです。
 実は原作においても怪物は伴侶を求め、フランケンシュタインに創造させようとするものの、拒否されてしまうのですが――本作ではそれが創造されてしまうのが面白いところでしょう。

 実は本作は(おそらくはディオダティ荘で)メアリー・シェリーがバイロンや夫に対して、実は前作には続きがあって――と語った物語という構成の作品であります。そして何よりも面白いのは、このメアリーと花嫁を、同じ女優が演じていることでしょう。もちろんその意図が作中で語られることはないのですが、何とも象徴的に感じられるではありませんか。


 前作の時点で原作からは離れた物語を、さらにかけ離れたようでいて、いつの間にか近づいていたような、不思議な味わいの本作。それ故でしょうか、製作から実に90年近く経っていても、それなりに鑑賞に耐えうる作品であります。


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2022.10.25

『逆襲天の橋立』 岩見重太郎再び! 悪に挑む豪傑二人

 東映時代劇YouTubeで先日配信された『怪獣蛇九魔の猛襲』に続く、里見浩太朗が岩見重太郎を演じる二部作の後編『逆襲天の橋立』であります。父の仇・広瀬軍蔵を追って旅をする重太郎が巻き込まれた、丹後宮津中村家の御家騒動。その中に仇の影を見て取った重太郎は、後藤又兵衛らとともに激闘に挑みます。

 狒々を操る妖賊・蛇九魔と結び、筑前小早川家を乗っ取らんとした一味を壊滅させたものの、その一人・広瀬軍蔵に父を殺され、逃げられた岩見重太郎。敵討ちのために旅立った彼は、大坂で一組の男女が大野治長の家臣らに打擲されている場に遭遇し、割って入るのでした。
 と、そこに踊りこんできたのは、黒田家を退身して豊臣秀頼に仕える後藤又兵衛。二人の豪傑は一歩も退かず互角の戦いを繰り広げたものの、すぐに争いの誤解も解けて、たちまちのうちに胸襟を開くのでした。

 そして男女――丹後宮津中村家の家老・石垣三左衛門と娘のぬいから、主の式部少輔に取り入った広田伝蔵なる男が、徳川方と気脈を通じているのを、秀頼に直訴しに来たと聞かされた重太郎と又兵衛。やがて重太郎は、伝蔵こそが憎き広瀬軍蔵であると知ることになります。

 石垣親子や、大坂で知り合ったおかしな浪人・山坂伴内、旅の女芸人・小万一座、そして又兵衛とともに、宮津城下に乗り込む重太郎。しかしそこでは、軍蔵と結んだ山賊・大蛇丸一味が夜な夜な狼藉を繰り広げた末、その罪を重太郎になすりつけていたのであります。
 又兵衛や伴内とともに大蛇丸一味を粉砕した重太郎。しかしやはり軍蔵を追ってきた重太郎の許婚・園絵が軍蔵に一味に捕らえられ、重太郎は絶体絶命の窮地に陥ることになるのでした。

 そして中村家で毎年恒例の、天の橋立での源平合戦を模した演習の場に、必殺の罠を張って待つ軍蔵。はたして重太郎の運命は……


 講談で重太郎が繰り広げる冒険活劇のうち、狒々退治と並ぶ――そしてそれ以上のクライマックスである、天の橋立での仇討ち。前作にあたる『怪獣蛇九魔の猛襲』ではこの狒々退治が描かれましたが、本作ではタイトル通り、天の橋立での仇討が描かれることになります。
 キャスト的には、前作に登場したキャラクターで続投するのは重太郎と園絵、そして軍蔵のみ(ただし……後述)で、それ以外は一新。冒頭には(味のある絵で)前作のダイジェストも語られ、まず独立した作品として楽しめるものとなっています。

 さて、天の橋立の仇討ちといえば、重太郎が軍蔵の擁する無数の軍勢を相手にすることになるわけですが、しかし一人だけではさすがに分が悪い――と、講談では彼に助太刀するのが後藤又兵衛と塙団右衛門の二大豪傑。
 重太郎も合わせて三大ヒーローの大暴れを期待したところですが、本作では後藤又兵衛と、後は山坂伴内というオリジナルキャラクターなのは少々残念――ではありますが、60分強という短時間では、重太郎と並ぶ豪傑を二人描くのは難しいという判断なのかもしれません。

 そして本作でその又兵衛を演じるのは品川隆二。シュッとした中にも豪快さ、そして茶目っ気が感じられて、実に良い豪傑ぶりであります。(特に大坂場内で、重太郎を取り押さえずに大野治長を張り倒し、さらにどやどややってきた侍たちが治長に追い打ちをかけるシーンは爆笑)。
 しかしその品川隆二は前作では長屋の面白浪人枠だっただけに(そして本作のそれは別の役者が伴内というキャラでやっているので)いささか混乱するところですが……


 正直なことをいえば、一種の怪獣(というかゴリラ)時代劇としての楽しさがあった前作に比べると、よくも悪くも普通の時代劇になっている本作。しかし一時間強という限られた時間内で非常にテンポよく物語が進むため、気楽に観られる作品であることは間違いありません。
 重太郎のもう一つの冒険である大蛇退治を、山賊大蛇丸との対決という形でアレンジしているのも心憎く、講談ヒーローの映像化として、楽しませていただきました。

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2022.10.05

『怪獣蛇九魔の猛襲』 激突、岩見重太郎vs怪物狒々&仮面の妖賊!

 かなりレアな作品の配信もある東映時代劇YouTubeでいきなり配信されたこの作品――タイトルだけでは絶対わかりませんが、岩見重太郎の狒々退治を題材とした大活劇であります。大狒々を操り人々を苦しめる妖賊・蛇九魔(ジャグマ)に挑む岩見重太郎の活躍や如何に!?

 小早川隆景の治める筑前に出没し、人々を苦しめる妖賊・蛇九魔。狙った家には白羽の矢を打ち込み、恐るべき怪力の狒々と、奇怪な仮面の一団でもって蹂躙するこの賊に対して、小早川家の忠臣・岩見重左衛門が討伐奉行に命じられることになります。
 しかしそれは重左衛門を除き、お家乗っ取りを謀る家老・結城帯刀の陰謀――蛇九魔討伐に出陣した重左衛門は、帯刀の一味である剣術指南役・広瀬軍蔵に足を引っ張られたこともあって失敗し、閉門を申しつけられるのでした。

 そんな中に帰ってきたのが豪傑・岩見重太郎――父に勘当され諸国武者修行に出ていた彼は、密かに市井の長屋に身を潜めて蛇九魔の一党を追い、長屋の仲間たちとともに、蛇九魔との対決を決意するのでした。
 罠をはって蛇九魔を誘き寄せ、激闘を繰り広げたものの、惜しいところで取り逃がしてしまった重太郎。さらに最愛の女性・園絵を狒々に攫われてしまった重太郎は、僅かな手掛かりで敵の跡を追い、意外な本拠にたどり着きます。

 しかし時同じくして帯刀一味が蜂起、隆景や重左衛門の運命は風前の灯火に……


 残念ながら現代ではすっかり知名度が低くなってしまいましたが、講談などでは定番のヒーローであった岩見重太郎。その重太郎の物語といえば、狒々退治と天橋立での仇討ちが二大イベントになるのですが、本作はそのうち狒々退治を、奸臣によるお家乗っ取りの陰謀と搦めて描くユニークな作品です。

 講談などで重太郎が対決する狒々は、山中に潜み、狙った家に文字通り白羽の矢を立てて生贄を求めるという、妖怪とも神ともいえるような存在です。
 しかし本作の狒々は、密かに奸臣と結んで跳梁する仮面の怪人・蛇九魔に操られて暴れまわる怪物。人里離れた場所に現れるのではなく、町中に殴り込んでくる狒々というのはなかなか斬新かつインパクト十分であります。
(その一方で、生贄に扮した重太郎が狒々をおびき出して――という講談などで定番のくだりが、ちょっとアレンジされた形で再現されているのも楽しい)

 その狒々のビジュアルは白いゴリラという印象で、強さ的にも重太郎と素手でやり合って結構押されるというレベル(これはまあ、重太郎がスゴい)で、タイトルの怪獣=狒々というわりには少々おとなしめではあります。
 しかし時代劇ではお馴染みの、奸臣によるお家乗っ取りに狒々が乱入してくるという場面だけでも本作の価値はある――というのは言いすぎですが、基本的には尽くこちらの予想通りに展開する物語の中で、狒々が異次元のインパクトを生み出しているのは間違いありません。

 もっとも、予想通りといいつつも、蛇九魔が小早川家を狙う理由にはちょっと伝奇的な因縁がありますし(史実からすると逆恨み感がありますが……)、重太郎の仲間が、俺たちの町は俺たちが守る! とばかりに立ち上がった長屋の連中というのも、大いに楽しいところであります。

 ちなみに(書くのが遅れましたが)本作で岩見重太郎を演じるのは里見浩太朗。デビューしてからわずか4年という時期だけに線の細さはありますが、豪傑というより若き暴れん坊(幼馴染とのヒロインとの健康なイチャイチャぶりが楽しい)といった印象の、本作の重太郎にはよく似合います。
 また、長屋の住人の一人で、宝蔵院流の槍術が自慢の浪人・早水進介も、イケメンながらお調子者で楽しいキャラなのですが、どこかで見た顔だなあ――と思ったら品川隆二だったのには納得であります。


 さて、物語の方は重太郎が奸臣と蛇九魔を倒して大団円――と言いたいところですが、乱戦の中で父・重左衛門が広瀬軍蔵の手にかかり、重太郎が仇討ちに旅立つという結末を迎えます。実は本作には続編の『逆襲天橋立』があるとのことで、言うまでもなく、これは先に述べた重太郎のもう一つの冒険・天橋立の仇討ちが題材なのでしょう。
 本作に続き、『逆襲天橋立』も東映時代劇YouTubeで配信されるとのことで、こちらも楽しみにしているところです。

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2022.10.01

『プレデター:ザ・プレイ』(その二) 狩りと成長、そしてプレデターという存在の魅力

 『プレデター』シリーズ最新作、1719年の北米大陸を舞台に、コマンチ族の娘とプレデターが死闘を繰り広げる『プレデター:ザ・プレイ』の紹介の後編であります。本作で人間とプレデターの戦いを通じて描かれるものとは……

 コマンチ族の戦士と、プレデターの激突を描く本作。しかし本作は、正面切っての力と力だけのぶつかり合いを描くものではありません。本作の主人公であるナル――戦闘の才能はあるけれども、まだまだ経験と(特に肉体的に)力不足である彼女が、自分よりも遙かに勝るプレデターに対して、己の持てるもの全てを振り絞って戦いを挑む姿こそが、本作の真骨頂であります。

 その中では、シリーズでも初の女性主人公という側面が、やはりクローズアップされることになります。
 そしてそれは、作中で幾度も描かれるように、ナルが一族の男たちから狩りに加わることを禁じられ、時には見下される姿を通じて、ネガティブに描かれているのが、まず印象に残ることは間違いありません。

 しかしその一方で本作が描くものは、単純なジェンダー批判というものではないとも感じます。ナルが女性だからこそ培うこととなったスキルが、プレデターとの戦いにおいて大きな意味を持つくだりなどは特に象徴的ですが、本作は彼女が女性性を捨てる、あるいは乗り越えていくだけの物語ではないと感じます。
 本作は彼女がそれまでの人生で手に入れたものや与えられたものと、自分がなりたかったものを、プレデターとの戦いの中で統合して、新しい自分自身になる物語――一つの成長劇なのですから。

 狩りが大人への通過儀礼という文化は古今東西に存在しています。(そもそもプレデターからして、わざわざ通過儀礼のためにエイリアンを狩りに地球に来ていたたわけでわけですが、それはさておき)そしてその中で主人公が成長していく姿を描く物語も、数多くあります。
 本作がそんな「狩り」の物語であることは言うまでもありません。もっともそれは、本来ならば狩人であるプレデターにとっては獲物(プレイ)でしかないナルが――物語序盤で彼女に対して兄が、「獲物もお前を狩る」と語ったように――逆襲に転じて狩る側に回り、成長していく姿を描く物語であります。

 本作はアクション映画、モンスター映画として実に痛快な作品ではありますが、その背骨として、こうした一種のテーマ性があることは間違いないでしょう。


 実は本作を見ながら、ずっとプレデターの魅力を――それこそエイリアンに並ぶムービーモンスターとなった理由を――考えていました。思うにそれはやはり、プレデターの持つ一種のフェアプレイ精神と、そこから生まれる隙――といってはおかしければ、対等な戦いのチャンスがもたらす、ゲーム性にあるのでしょう。

 もちろん全てのプレデターがそれに当てはまるわけではありません。そもそもあれだけハイテク装備を持ち込んでフェアプレイもないもんだ、という気もいたします(プレデターの隙は、むしろその優位性からくるもの、といった方が適切なのかもしれません)。
 その辺りは――本作では、異なるものといして描かれてはいたものの――本作にもう一つの敵役(そしてやられ役)として登場する、欧州からやってきたハンターたちの姿と重なる部分があるといえるかもしれません。

 しかし本作は人間側のテクノロジーの未発達な過去――それも大自然(本作で描かれるそれは、実に印象的に美しいのですが)を舞台とすることによって、そしてその中で人間と良い意味で互角の死闘を演じることによって、そんなプレデターの魅力を、改めて鮮明に描いてみせたとも感じられます。


 もう一つ過去といえば、絶対絡んでくるであろうと思われたアレが、期待通りにきっちり絡んでくるのが嬉しいところなのですが――しかしこの辺り、ラストまで見ると、アレ? と首を傾げる点でもあります。
 そこはエンドクレジットでヒントらしきものがあるわけですが――これがホラー映画のラストによくあるフリで終わらないよう、本作に続く物語にも、期待したくなってしまうのです。


『プレデター:ザ・プレイ』 Disney+

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2022.09.30

『プレデター:ザ・プレイ』(その一) 三百年前の激突、プレデターvsコマンチ族!

 狩猟を目的に来襲現れる地球外生命体・プレデターと人間の死闘を描いてきた『プレデター』シリーズにおいて、映像では初めて第一作よりも前――それも今から三百年前の北米を舞台に描かれる物語であります。コマンチ族の娘とプレデター、全く立場を違える戦士二人の激突の行方は……

 1719年、北米中西部の大自然の中で生きるコマンチ族――その一人であるナルは、女性としての薬草集めの役割に飽き足らず、兄のタアベのように狩りに出ることを望む毎日。縄付きの斧投げの練習に励んできたナルは、ついに仲間を襲ったクーガー狩りに同行を許されることになります。
 しかし兄からチャンスを与えられたものの狩りには失敗――クーガーを仕留めた兄が英雄扱いされるのに対し、複雑な想いを抱くナル。しかし狩りの途中に皮を剥がれた蛇を目撃したことから、何か得体の知れぬモノがいることを予感し、狩りを決意するのでした。

 愛犬のサリイのみを連れて狩りに出たナルは、途中で皮を剥がれた無数のバッファローを目撃。さらに巨大な熊を見つけてこれを狩ろうとしたものの、全く及ばず窮地に陥るのですが――その時突如現れた姿なき影が熊に真っ向から戦いを挑み、激闘の末にこれを叩きのめしたではありませんか。
 川に流されてその場を逃れたナルは、集落から迎えにやってきた戦士たちと出会ったものの、彼らはナルの言葉を笑うばかり。しかしその一人の身に、赤い三つの光点が……


 地球を侵略するためでも、地球人を餌などに利用しようというのでもなく、ただ地球を狩り場と見做し、襲来する宇宙の狩人「プレデター」。ヒューマノイドではあるものの、人間とはかけ離れた容姿を持つプレデターは、しかし高度な知性を持ち、「狩り」に当たっては独自のルールと美学を持つ、ユニークな存在でもあります。
 これまで1987年の第一作以来、これまで四作、『エイリアン』シリーズとのクロスオーバーを含めればこれまで六作製作されてきたシリーズは、その非常に独特で(そして使い勝手の良い)プレデターの設定もあってか、漫画等のスピンオフでは、様々な時代と場所で出現した姿が描かれてきました。

 しかし本作は映画――いうなれば本編では初めての過去を舞台とする作品。しかもプレデターと戦うのはネイティブアメリカンだというのだから大いにそそられます。
 何しろシリーズの第一作では、ネイティブアメリカンの兵士・ビリーが銃火器を捨て、戦化粧を施して山刀片手にプレデターにただ一人挑む(そして瞬殺される)という名場面があっただけに、そのリベンジも期待したくなるところであります。

 そして本作はその期待を十二分に満たしてくれる作品でした。プレデター側の武装が、これまでに比べると少々原始的で火力的にかなり抑えめになっているのはご愛敬かもしれませんが、しかしそれだけに伝わってくるプリミティブな殺意が実にナマナマしい。
 金属の矢(しかも誘導式)をメイン武器に、リストブレイドやスピアといった常連武器、さらには縁が刃物にもなるシールド――どちらかと言えば接近戦寄りの装備ですが、それで人間のみならず周囲の生物を片っ端からなぎ倒していく姿には、それだからこその恐ろしさがあります。

 しかし弓矢や斧を使わせれば、コマンチ族も負けてはいません。特にナルの兄・タアベが中盤で見せる(ナルの援護があったとはいえ)一対一で繰り広げるほぼ互角のバトルは、ビリーの時の溜飲が下がった――というのは言いすぎかもしれませんが、まさしく本作ならではのバトルであることは間違いないでしょう。
(その直前に、あの名台詞が登場するのもニッコリ)


 しかし――と、自分でも驚くほど語りに熱が入ってしまい、長くなったので次回に続きます。


『プレデター:ザ・プレイ』 Disney+

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2022.07.01

『翔べ! 必殺うらごろし』 第3話「突然肌に母の顔が浮かび出た」

 母の志乃を手篭めにして連れ去り、父を殺した修験者・弁覚を追う若侍・真之助と出会った一行。先生が念力を使って描いた志乃の似顔絵で、若と正十は酌婦となった志乃を見つけるが、いまだ弁覚と共に居る志乃は、息子を避けて死のうとする志乃。その場に駆けつけた真之助だが、弁覚が現れ……

 冒頭の正十と若のギャグシーン以外、ひたすら重くやるせない展開が続く今回。若侍・真之助とその母・志乃を中心に物語は展開します。

 幼い頃、病で魘される母に「そなたは私を殺す目をしている」などと言われ、父が祈祷に招いた修験者・弁覚が母を手篭めにした上に攫って逃げ、追いかけた父は返り討ちにされるという悲惨過ぎる境遇の真之助。寝ぼけて(?)おねむを母と思い込んだり、線の細いところもありますが、若を女と見抜き、自分と同様に背負っているものがあると理解したりと、意外と切れる若者であります。
 このくだりの若や、子を失った母として母を失った真之助を見守るおばさん、妖術使い相手の戦い方を伝授する先生、ごく自然体にその身を気遣う正十と、それぞれの形で彼に接するレギュラー陣の姿も印象に残ります。

 一方、志乃の方は、弁覚に弄ばれ、嫌悪しつつも彼から離れられず、酌婦として暮らしているという何ともハードな設定。子を想わない母なんて日本に一人もいないよ! と息巻くおばさんの姿が何とも皮肉に感じられますが、もちろん、決して真之助のことを想っていないわけではないところが、また悲劇を生むのわけで……

 そんな二人の運命を狂わせた弁覚は、外道揃いの本作の悪役らしくやっぱりド外道。本当に本作の悪役はカジュアルに非道を働くのに驚かされるのですが、弁覚と二人の弟子も、特に予備動作もなく(?)いきなり賭場荒らし――というより賭場皆殺しをやらかすのが恐ろしい。いや、江戸か地方かはわかりませんが、そもそも歴とした武家の奥方を辱めて連れ去った上に当主を殺すというだけでも、メチャクチャな悪事なわけですが……

 さて、お楽しみの(?)今回の超常現象は、タイトル通りの人(ここではおねむ)の肌に志乃の顔が浮かび出るというもの。と言っても突然ではなく、先生が真之助に志乃の顔を念じさせた上でおねむの肌を見せ、そこに志乃の顔を投影したというものであります。ただし、冒頭で行き倒れかけた真之助の胸に、ひとりでに母の顔がぼんやりと浮かび上がるという描写があるので、先生の念力はあくまでも助力だったのかもしれません。
 ちなみに解説ではこの現象をデルモグラフィー、つまり皮膚紋画症と言っているのですが、実際の皮膚紋画症は、皮膚を擦ると貧血になったり、充血や浮腫ができる症状のことであって、全くオカルティックなものではありません。とはいえ、いわゆる聖痕とか、人肌ではないものの卵の殻に念力で絵を描いたという話はあるので、その辺りがベースとなっているのかもしれませんが……

 何はともあれ、この肌絵のおかげで何とか再会した母子ですが、そこに弁覚が現れて更なる悲劇が始まります。仕込み刀で襲いかかる弁覚に対し、先生との特訓が実ったか、優勢になった真之助ですが――止めをさそうとした時、間が悪く志乃が声をかけたためにできた隙を突かれて真之助は深手を負い、最後の力で放った刀も、その前に出てしまった志乃に刺さり――と予言が成就してしまうのです。(この辺り、意地悪く見れば、志乃が弁覚を守ろうとしたように見えなくもないのが、巧いというか何と言うか……)

 それでも真之助の無念の声を先生が聞き逃すはずはなく、今回のターゲットは弁覚と二人の弟子。おばさんは最初の一人はおばさんは焼き芋で引きつけた上、「いろはの「い」の字は何てえの?」と問いかけ「犬も歩けば棒に当たる、だ」と答えたのに、「違うよぉ、お坊さん。いろはの「い」の字は」――とここで上着を脱ぐとその下から目にも止まらぬ速さで匕首を引き抜き、突き刺して――「命いただきます、の「い」ですよぅ」と嬉しそうに言い放ちます。

 そして彼を探しに来た弁覚ともう一人の弟子には、若と先生がそれぞれ別方向から猛然とダッシュで接近! この二人が交錯するように突っ込んでくるというだけで悪夢のような展開ですが、弟子の方は若が巴投げを食らわしたりぶん殴ったりしてうつ伏せにダウンしたところに、ダイビングフットスタンプで背骨をへし折られます。
 そして先生と弁覚の対決は――一瞬の交差の後に、先生は素手で弁覚の仕込み刀を握り止め、自分は旗竿を叩き込んでフィニッシュ。いつもながら先生の圧勝のようですが、刀を受け止めた先生の手から血が流れたのを見ると、やはり弁覚もかなりの使い手だったということでしょうか……


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『翔べ! 必殺うらごろし』 第1話「仏像の眼から血の涙が出た」
『翔べ! 必殺うらごろし』 第2話「突如奥方と芸者の人格が入れ替った」

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2022.06.26

『翔べ! 必殺うらごろし』 第2話「突如奥方と芸者の人格が入れ替った」

 江戸で芸者の染香を助け、もてなされる先生たち。しかし突如染香の様子がおかしくなり、自分は上州漆が原の代官・山地半十郎の妻、琴路だと言い出す。漆が原に向かった先生たちは、山地が土地の百姓から苛烈な取立てを行っており、その悩みが琴路に憑依現象を起こさせたと知る。しかし時既に遅く……

 前回どこに向かったかと思いきや、江戸に辿り着いていた先生一行。しかしおばさんが先生の祈祷の呼び込みをしても客はなく、正十と若は有り金を倍にするといって賭場に乗り込むも予想通りに文無しに。そこに柳橋芸者の染香に絡む破落戸浪人二人組が現れ、先生が処刑用BGMの冒頭をバックにこれを軽くのしたことから、今回は始まります。
 染香と店の主に歓待される一行ですが、超自然主義者の先生だけは刺し身の上の菊の花を食べるくらい。しかし正十がいたずらで水と偽って酒を飲ませると、そのままばったりとぶっ倒れて……

 と、ある意味必殺らしいコミカルなシーンにちょっと顔も緩みますが、それもここまで(正確にはこの後、代官所で仲間たちから世間知らずぶりを突っ込まれる先生のくだりも可笑しいのですが)。この後、染香の態度がおかしくなり、自分が漆が原の代官の奥方だと言い出し、そして同時刻、その代官の奥方は自分は染香だと言い――というところで今回のタイトルになるわけですが、今回の超常現象は、ナレーションによれば「憑依」。実は憑依自体はこの先のエピソードにも何度か出てきますし、そもそも毎回先生が死者の言葉を聞くのも一種の憑依のような気もしますが、生きている人間同士の人格が完全に入れ替わってしまうのは、確かに「稀有な例」でしょう(いや、現代の青春ものでは結構あるか……?)。

 そこで「世の禍々しき災いを取り除くのが俺の修行だ」と先生たちは(正十は楼の主人からちゃっかり染香の治療代をいただき)
上州に足を運ぶわけですが、ここで情報収集に当たる先生たちと、家族が代官所に訴えに行ったきり行方不明になった百姓たちの姿が交錯し、新たな不幸が始まります。
 埒が明かないので代官所に潜入し、奥方を拉致する先生と若ですが、そのどさくさで捕まってしまったのは、親を探して忍び込んだ百姓の若者。この若者は地下牢で拷問を受けた末に、自分の親たちの死骸を見せられた上に自分も後を追わされることに……

 そしてこれこそが琴路の精神に負担を与え、憑依現象を起こしていた原因。江戸の貧乏御家人であった山路は琴路に見初められて婿に入ったものの、出世するために年貢を一方的に釣り上げ、訴え出てきた百姓たちは死人に口なしとしていた――それを知った琴路の煩悶が、同じ生年月日だった染香への憑依現象を起こしていたのであります。
 その山路の所業を、若は琴路の口から聞き出し、それでも夫を「かわいそうな人」と語り、戻ろうとする琴路を止めようとするのですが――その彼女に、琴路が「おなごの気持ちは男のそなたにはわかりません!」と撥ね除けるのは、今回のクライマックスの一つでしょう。もちろん正十が若の涙に気付いたように、若に琴路の気持ちがわからないはずはないのですが……

 結局、山路の元に戻り、ためごかしで慰められるものの、地下牢の死骸を見てしまってショックで染香と入れ替わったところを夫に殺されてしまう琴路。そして山路に昇進を伝えに来た江戸の役人・永井はこれを見逃したどころか、代官所に火をつけて証拠隠滅を図れと入れ知恵する始末。かくて今回のターゲットは、山路、軍内、永井の三人となります。
 江戸に帰る三人の行列を上から大岩を転がして足止めし、その隙に馬に近づいて山路を叩き落とす正十(意外に手並みがいい)。そして若はボディーブローの連打で山路をダウンさせたところに、岩を振り下ろして叩き潰すというプリミティブな処刑を下すのでした。

 一方、駕籠から逃げ出した永井の目に留まったのは、道端に腰掛けたおばさん。これが死神と思うはずもなく横柄に道を聞こうとした永井に、おばさんは答えます。「一本道だよ……この道をずーっと行くと」ここで脇腹に匕首を叩き込み、「地獄に行くのさぁ!」と叫び、力の抜けた永井の体を薄の穂を散らしながら押し突き進むおばさん。カタルシスを感じて良いのか悪いのか、情緒がグシャグシャになる本作ならではの名シーンです。
 そして残る軍内が馬で逃げるのを、徒歩で、しかも山道を疾走して追いかけ、しかも追い抜いて道の真ん中で待ち受ける先生。そして真っ向から突っ込む軍内の上を飛び越しざまに放った旗の柄は軍内を貫くのでした。

 というわけで、悪の中心である山路を若が、軍内を先生が始末するのは少々意外にも見えましたが、これは(軍内役が五味龍太郎だったからというだけでなく)、琴路と関わりのあった若が、女の恨みを晴らしたということなのでしょう。
 しかし憑依中に憑依先の肉体が殺された染香の安否が気遣われますが、結局劇中ではその後語られず……


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『翔べ! 必殺うらごろし』 第1話「仏像の眼から血の涙が出た」

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2022.06.17

『翔べ! 必殺うらごろし』 第1話「仏像の眼から血の涙が出た」

 行者の「先生」と記憶喪失の「おばさん」が訪れた村では、お堂の仏が血の涙を流し、村人たちはよそ者の仙吉とお鶴の仕業だと信じ込んでいた。先生の霊視でお鶴は仏を遺した巡礼の娘だとわかり、村に受け入れられた二人だが、香具師一味が二人を惨殺、仏を奪う。霊の無念の声を聞いた先生は……

 必殺シリーズでも異色作中の異色作として知られる『翔べ!必殺うらごろし』――今回時代劇専門チャンネルで放送が始まったこともあり、これから全話紹介したいと思います。
 毎回種も仕掛けもない超常現象が発生し、それに絡んで物語が展開していく本作ですが、それは第一話の今回も同様。ある村で起きた仏像が血の涙を流すという怪異にまつわる因縁と、それと並行してチームの集結が描かれることになりますが、どちらもアクの強い内容(キャラ)がうまく絡み合っているのに感心させられます。

 冒頭で描かれるのは、先生とおばさんの出会い。どちらも必殺中では異彩を放ちまくるキャラクターですが、偶然二人が言葉を交わすうちにおばさんが四年前から記憶喪失であること、使い込まれた匕首を持っていることが語られ、そこから先生の超能力でおばさんに子供がいたことが判明――と、結構ややこしいおばさんのキャラがサラッと冒頭で紹介されてしまうのが巧みであります。
 一方の先生は、超能力を持っている修行中の行者であること位しかわからないのですが、まあそれが全てのようなものなので……

 そしてもう一人「若」は、村人たちがお鶴たちを無理やり追い出しにかかったところに通りすがって村人たちを叩きのめし、仙吉の話を聞いているうちに惚気に苛立って立ち去る――というくだりから、霊視で血の涙の由来を解き明かした先生に弟子入り志願、しかし拒否されてふてくされて、おばさんに正面から説教され(ここで全く物怖じせず正面から怒るおばさんがイイ)、そして先生に実は女と看破され自分の過去を語るという、こちらも淀みなくキャラが紹介されていきます。

 あと二人、正十とおねむは――こちらはサポートなのでそこまでではないのですが、正十に対しておばさんが「この人、江戸で殺しの斡旋業してた人だ」と言い出し、『新・必殺仕置人』等の正八との関係を(そして自分の過去も)匂わせるのは、心憎い演出です。

 さて、今回の超常現象は、先生の霊視によって、かつて村で行き倒れた女巡礼が遺した仏が生き別れた赤子を想って血を流していたものであり、実はお鶴こそが、村人たちが持て余して川に流した赤子だったということが判明するのですが――この事実だけでもちツラいところがあるものの、むしろそれ以上に印象に残るのは、事実がわかる前の村人の反応でしょう。
 実は廓から足抜けしてきたために素性を隠しているお鶴たちを疑い、彼女たちが水子の霊を操って自分たちを害しようとしていると全く根拠なく決めつけ、追い出しにかかる――というよりほぼリンチにかけようとする群集心理は、まさに村八分のメカニズム。これでもかと描かれる閉鎖的な地方の陰湿さには、何とも重い気分になります。

 一方、今回のターゲットである香具師一味もかなりの外道で、女亡者役の芸人が、腹を減らして自分たちの飯をつまみ食いしたのに怒り、せせら笑いながらリンチにかけてあっさり殺害する初登場シーンは実に胸が悪い。
 そして新たな見世物のネタとして血の涙を流す仏に目をつけ、お鶴と再会したことで仏が涙を止めたと知ってお鶴たちを惨殺。仏を奪うという、まさに血も涙もない所業に出るのですが――この金のために他人の命をあっさり奪う辺りは、一種都市的な悪の姿という印象で、一話で地方と都市、双方における人間の負の部分を見せられた思いであります。

 さて、そんなモヤモヤを吹き飛ばすべく(?)繰り広げられるラストの仕掛けは、おばさんが先陣を切って登場。仏を持っている香具師の手下を「ちょいと、落としたよ」と後ろから呼び止め、怪訝な顔をして近付いてきたところに「これから落とすんだよ」「お前さんの――命だよ!」と匕首でブッスリ!

 続いて先生が旗竿片手に斜面をものすごい勢いで駆け下り、三人一列に突っ込んでくる相手を人間離れした大ジャンプで飛び越すと、一番うしろにいた香具師の親分を旗竿で串刺し葬! さらに襲いかかる用心棒の刀を素手でへし折ると、無造作に捕まえて岩場に放り投げ、頭から投げ殺す!
 そして若が残る一人に殴る蹴るのプリミティブな暴力コンボ、とどめはパンチで180度顔面回転のFATALITY!

 太陽から力を得る先生の能力上、陽の光の下で行われるという異色の仕掛け――しかし明るさの欠片もないその姿は、まさに外道への制裁というべきでしょうか。
 何はともあれ、成り行きながら結成されたこのチーム。そのまま先生の足の赴くまま、未知の世界への旅が始まることになります。たとえ、あなたが信じようと信じまいと……


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2022.01.04

『怪竜大決戦』 崩れゆく城塞 激突二大巨獣!

 昨年の大晦日から三が日にかけて、東映時代劇YouTubeチャンネルで『怪竜大決戦』が公開されておりました。1966年公開のこの作品、松方弘樹を主役に、大友柳太朗を敵役に据え、特撮をふんだんに使った特撮時代劇であります。

 邪悪な妖術使い・大蛇丸を従えた悪人・結城大乗の謀反によって乗っ取られた尾形家の城。何とか城外に逃れた若君・雷丸にも、大蛇丸が化身した大龍が迫ったその時、蟇道人の大鷲が彼を救うのでした。
 以来、道人の弟子として育てられ、逞しく成人した雷丸。しかし彼を狙う大蛇丸の魔手が迫り、その戦いの最中に、雷丸は父を探す娘・綱手と出会うのでした。

 そして自らの師であった道人を卑怯な手段で討ち取る大蛇丸。今際のきわの道人から大蝦蟇変化の術を与えられた雷丸は、自雷也と名乗り、両親の仇である大乗と大蛇丸を討つために旅に出ることになります。
 しかし、大乗を裏切り自らが城主になろうと奸計を巡らす大蛇丸は、次々と自雷也に刺客を送り込みます。そしてその最中、綱手は自分が探す父こそ、大蛇丸だと知ってしまうのですが……


 このあらすじからわかるように、本作のベースは、講談の児雷也豪傑譚に始まる、いわゆる児雷也もの。大蝦蟇を操る児雷也、大蛇を操る大蛇丸、大蛞蝓を操る綱手が活躍するこの物語は、その派手な趣向ゆえか、戦前から映画化されてきたものであります。
 本作はその児雷也ものを、当時の最新技術でいわばリメイクしたものですが、その結果、いわゆる東映時代劇+怪獣もの的な趣きが生まれた作品です。

 正直なところ、今の目から見れば合成技術はあまりにもプリミティブ(特に今回の配信は非常に映像状態が良いので粗が特に目立つ)なのですが――しかし松方弘樹の不敵な若武者ぶり、そして悪の妖術師といえばこの人感のある大友柳太朗の怪物ぶりが相まって、時代活劇としては純粋に楽しい本作。
 さらに結城大乗を天津敏(といっても典型的なバカ殿ぶりで、精悍さゼロなのが残念)、蟇道人を金子信雄、さらに大蛇丸の配下ながら密かに自雷也と綱手を助ける老忍・百々兵衛を千葉敏郎が――と脇の面々も充実であります。


 しかし何といっても本作の魅力は、クライマックスの文字通り「大決戦」にあることは間違いありません。

 自雷也が迫っていることも、大蛇丸の暗躍も知らず、城内で宴に酔いしれる大乗――しかしふと気づけば、その乱痴気騒ぎを高みから睨めつける眼が、という、動と静の使い分けが素晴らしい大蝦蟇登場シーンから始まるこのクライマックス。
 その巨体で城の屋根も、壁もものとはせずに突き崩しながら大蝦蟇は大乗一党を追い詰め、そしてついにただ一人になった大乗も、みっともなく命乞い→不意打ちという悪役ムーブも全く通じず自雷也に斬られるのですが――しかしここからが大決戦の本番です。

 邪魔となる大乗が消え、残るは自雷也のみと、大蛇丸は大竜に――長い首がヌッと現れる姿が実に禍々しくインパクト十分――に化身。そして大蝦蟇が口から火を吹けば大竜は水を吐いて打ち消し、飛び道具では勝負がつかぬと見て正面からぶつかり合う二大巨獣!

 ――と、ここいわゆる怪獣プロレスになってしまうのはいささか残念ではあるのですが、しかしその合間に容赦なく城が破壊されていく様は凄まじいまでの迫力であります。
 そしてついに追い詰められた大蝦蟇が城外に転落、その上に瓦礫が積もった上に大竜にのしかかられる辺り、城の周囲が本水を使っているだけに本気で心配になり、「おお……蝦蟇よ蝦蟇!」(それは蝦蟇違い――ではないような)と呻きたくなるほどです。

 しかしそこに綱手が祖母(母の母)である蜘蛛婆から託された髪飾りを投じれば、空から現れたるは大蜘蛛! 大蜘蛛の吐く糸に絡まれ、さしもの大竜も力を失い……
 と、原典では大蛞蝓であったものが大蜘蛛になっているのは、まあ色々と理由があると思いますし、ほとんど動かないのは残念ですが――これはこれで見栄えという点では正しかったのかもしれません。


 重ねて申し上げれば、技術という点ではさすがに古めかしい部分は目立つものの、クライマックスのミニチュアワークは、現在見ても凄まじいものがある本作。
 そして骨格となる時代劇はいうまでもなく東映のお家芸と、本作の流れは、ここに登場した巨獣たちが流用された『仮面の忍者赤影』へと繋がっていくと考えればよいかと思いますが――それはさておくとしても、新年早々に理屈抜きに楽しむにはピッタリの作品でした。


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2021.09.30

『長安二十四時』 第13話「申の初刻 隠された陰謀」

 ふとした言葉をきっかけにチェラホトの正体を悟った徐賓。その頃、元載は熊火幇が捕らえたのが王ウン秀であると気付き、利用してのし上がろうと企む。そしてついに龍破のアジトに辿り着いた張小敬は、ただ一人残った曹破延と死闘を繰り広げるが、そこに到着した旅賁軍の行動が大惨事の引き金を……

 オープニングで描かれるのは、前回のオープニングで捕らえられた徐賓が、(牢でずっと前に捕らえられたままこちらも忘れかかっていた書生の)程参と出会う場面。何だか悟り澄ますしてしまったようなことを口走る程参から、衣に以前李必にかけられた墨がついていることを指摘された徐賓は、チェラホトに関する重大な事実に気付くのでした。

 そして牢から出された徐賓が李必に語るチェラホトの正体、いや材料とは墨――西北で算出される石脂(おそらくタールでしょうか)は、徐賓が小敬に聞いたところでは、一壺の石脂で数十人を殺すことが可能で、軍では「猛火」と呼ばれていたと。そんなものを使えば、一晩で長安を焼き尽くすのも容易いと思われますが、しかし長安に持ち込むことができるのか? それを可能とするのが墨だと徐賓は語ります。石脂を燃やした時に出る煙の煤からは墨が作られるのですが、長安の法では、原料の扱いはその製品に準ずる――つまり墨の原料と言ってしまえば、税関を通るのも容易いのであり、そしてこれまでの捜査からもくぐり抜けていたのです。
 ――しかし、今まで小敬が石脂の話をする場面なんてあったかな? と思っていれば、やはりそこを徐賓に問い詰める李必。どうにも徐賓は怪しいと、彼が小敬を選んだ大案牘述で、今度は彼自身が調べられることに……

 そして浮浪者の賈十七に誘き出されたもののすぐに罠に気付いた張小敬は、わざとらしく姿を現した魚腸を追い、一対一の死闘を展開。人間兵器のような魚腸に一歩も譲らず、ほとんど圧倒してみせるのはさすがですが、その状況から(性的な意味も含めて)挑発してのける魚腸の精神性も恐ろしい。結局ここもフェイクであったことを悟った小敬は、再びアジトを探して一人走ることに……

 一方、前回初登場の大理寺評事・元載は、封大倫に招かれて彼の家でもてなしを受け、張小敬抹殺のための便宜を遠回しに依頼されるのですが――事実関係を聞いただけで、小敬と聞家の繋がりが鍵と見抜く辺り、靖安司の誰よりも鋭いかもしれません。しかしその聞染を捕らえたというので覗きに行ってみれば、どうみても商人の娘とは思えぬ高級すぎる簪から皇族か高官の娘と見抜き、事実を知った封大倫を震え上がらせます。
 しかし見捨てて逃げるどころか、これを奇貨として利用してしまおうというのが元載の恐ろしいところ。どうにかしてやると封大倫に恩を売り、王ウン秀のところに行っては助けてやるからと言って状況を聞き出し――その情報を元に、靖安司と右相のところに、同時に封大倫が小敬とともに狼衛から王ウン秀を救ったこと、そしてそれだけでなく、小敬が右相府の地図を描いたことを伝えるのでした。右相は襲撃については一笑に付すものの、小敬が関わっていることはさすがに見逃さず、利用するつもりのようですが――恐れていた展開になってきました。

 そしてついに龍波のアジトに到着した小敬。聞染は必ず助けると決意も新たに足を踏み入れた彼の前に現れたのは、曹破延――彼もまた、血化粧で顔を彩り、絶対抜けぬように剣を手に縛り、覚悟を決めた表情で臨みます。そして始まる激闘は、小敬が押すものの曹破延も引かず、塀から屋根の上まで繰り広げられる大激闘。そして小敬の剣が曹破延の首飾りを切り飛ばし――その場面に、故郷で娘と暮らしていた頃の曹破延の姿が被さるのが心憎すぎる演出!――揉み合ったまま二人が転落した末、曹破延は自らの剣で自らの胸を刺して深手を負うのでした。
 と、そこに駆けつけたのは、崔器と旅賁軍ですが、小敬が止めるのも構わず建屋に踏み込んだところで発動するブービートラップ。一瞬後に起きた凄まじい大爆発は旅賁軍を吹き飛ばし、その爆音は遠く離れた靖安司にまで届くことに……


 というわけで、ようやく正体を掴んだと思えば、ついに大爆発してしまったチェラホト。もちろんこれはほんの一部のはずで、全て使われれば一体どんなことになることでしょうか。。
 まあほんの少し距離をおいていた小敬と崔器、そして井戸に落とされた聞染は大丈夫だと思いますが、少しでも被害を出したら罰せられることになっていた李必の運命も含めて、これまで以上に小敬たちが追い詰められてきたのは間違いありません。

 そして初登場時は面白かったものの、いきなり洒落にならない行動を見せるのが元載。こちらは(史実的にも)李必のライバルになるのでしょうか。今のところはまだその策略の全てはわかりませんが……


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