2022.07.01

『翔べ! 必殺うらごろし』 第3話「突然肌に母の顔が浮かび出た」

 母の志乃を手篭めにして連れ去り、父を殺した修験者・弁覚を追う若侍・真之助と出会った一行。先生が念力を使って描いた志乃の似顔絵で、若と正十は酌婦となった志乃を見つけるが、いまだ弁覚と共に居る志乃は、息子を避けて死のうとする志乃。その場に駆けつけた真之助だが、弁覚が現れ……

 冒頭の正十と若のギャグシーン以外、ひたすら重くやるせない展開が続く今回。若侍・真之助とその母・志乃を中心に物語は展開します。

 幼い頃、病で魘される母に「そなたは私を殺す目をしている」などと言われ、父が祈祷に招いた修験者・弁覚が母を手篭めにした上に攫って逃げ、追いかけた父は返り討ちにされるという悲惨過ぎる境遇の真之助。寝ぼけて(?)おねむを母と思い込んだり、線の細いところもありますが、若を女と見抜き、自分と同様に背負っているものがあると理解したりと、意外と切れる若者であります。
 このくだりの若や、子を失った母として母を失った真之助を見守るおばさん、妖術使い相手の戦い方を伝授する先生、ごく自然体にその身を気遣う正十と、それぞれの形で彼に接するレギュラー陣の姿も印象に残ります。

 一方、志乃の方は、弁覚に弄ばれ、嫌悪しつつも彼から離れられず、酌婦として暮らしているという何ともハードな設定。子を想わない母なんて日本に一人もいないよ! と息巻くおばさんの姿が何とも皮肉に感じられますが、もちろん、決して真之助のことを想っていないわけではないところが、また悲劇を生むのわけで……

 そんな二人の運命を狂わせた弁覚は、外道揃いの本作の悪役らしくやっぱりド外道。本当に本作の悪役はカジュアルに非道を働くのに驚かされるのですが、弁覚と二人の弟子も、特に予備動作もなく(?)いきなり賭場荒らし――というより賭場皆殺しをやらかすのが恐ろしい。いや、江戸か地方かはわかりませんが、そもそも歴とした武家の奥方を辱めて連れ去った上に当主を殺すというだけでも、メチャクチャな悪事なわけですが……

 さて、お楽しみの(?)今回の超常現象は、タイトル通りの人(ここではおねむ)の肌に志乃の顔が浮かび出るというもの。と言っても突然ではなく、先生が真之助に志乃の顔を念じさせた上でおねむの肌を見せ、そこに志乃の顔を投影したというものであります。ただし、冒頭で行き倒れかけた真之助の胸に、ひとりでに母の顔がぼんやりと浮かび上がるという描写があるので、先生の念力はあくまでも助力だったのかもしれません。
 ちなみに解説ではこの現象をデルモグラフィー、つまり皮膚紋画症と言っているのですが、実際の皮膚紋画症は、皮膚を擦ると貧血になったり、充血や浮腫ができる症状のことであって、全くオカルティックなものではありません。とはいえ、いわゆる聖痕とか、人肌ではないものの卵の殻に念力で絵を描いたという話はあるので、その辺りがベースとなっているのかもしれませんが……

 何はともあれ、この肌絵のおかげで何とか再会した母子ですが、そこに弁覚が現れて更なる悲劇が始まります。仕込み刀で襲いかかる弁覚に対し、先生との特訓が実ったか、優勢になった真之助ですが――止めをさそうとした時、間が悪く志乃が声をかけたためにできた隙を突かれて真之助は深手を負い、最後の力で放った刀も、その前に出てしまった志乃に刺さり――と予言が成就してしまうのです。(この辺り、意地悪く見れば、志乃が弁覚を守ろうとしたように見えなくもないのが、巧いというか何と言うか……)

 それでも真之助の無念の声を先生が聞き逃すはずはなく、今回のターゲットは弁覚と二人の弟子。おばさんは最初の一人はおばさんは焼き芋で引きつけた上、「いろはの「い」の字は何てえの?」と問いかけ「犬も歩けば棒に当たる、だ」と答えたのに、「違うよぉ、お坊さん。いろはの「い」の字は」――とここで上着を脱ぐとその下から目にも止まらぬ速さで匕首を引き抜き、突き刺して――「命いただきます、の「い」ですよぅ」と嬉しそうに言い放ちます。

 そして彼を探しに来た弁覚ともう一人の弟子には、若と先生がそれぞれ別方向から猛然とダッシュで接近! この二人が交錯するように突っ込んでくるというだけで悪夢のような展開ですが、弟子の方は若が巴投げを食らわしたりぶん殴ったりしてうつ伏せにダウンしたところに、ダイビングフットスタンプで背骨をへし折られます。
 そして先生と弁覚の対決は――一瞬の交差の後に、先生は素手で弁覚の仕込み刀を握り止め、自分は旗竿を叩き込んでフィニッシュ。いつもながら先生の圧勝のようですが、刀を受け止めた先生の手から血が流れたのを見ると、やはり弁覚もかなりの使い手だったということでしょうか……


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『翔べ! 必殺うらごろし』 第1話「仏像の眼から血の涙が出た」
『翔べ! 必殺うらごろし』 第2話「突如奥方と芸者の人格が入れ替った」

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2022.06.26

『翔べ! 必殺うらごろし』 第2話「突如奥方と芸者の人格が入れ替った」

 江戸で芸者の染香を助け、もてなされる先生たち。しかし突如染香の様子がおかしくなり、自分は上州漆が原の代官・山地半十郎の妻、琴路だと言い出す。漆が原に向かった先生たちは、山地が土地の百姓から苛烈な取立てを行っており、その悩みが琴路に憑依現象を起こさせたと知る。しかし時既に遅く……

 前回どこに向かったかと思いきや、江戸に辿り着いていた先生一行。しかしおばさんが先生の祈祷の呼び込みをしても客はなく、正十と若は有り金を倍にするといって賭場に乗り込むも予想通りに文無しに。そこに柳橋芸者の染香に絡む破落戸浪人二人組が現れ、先生が処刑用BGMの冒頭をバックにこれを軽くのしたことから、今回は始まります。
 染香と店の主に歓待される一行ですが、超自然主義者の先生だけは刺し身の上の菊の花を食べるくらい。しかし正十がいたずらで水と偽って酒を飲ませると、そのままばったりとぶっ倒れて……

 と、ある意味必殺らしいコミカルなシーンにちょっと顔も緩みますが、それもここまで(正確にはこの後、代官所で仲間たちから世間知らずぶりを突っ込まれる先生のくだりも可笑しいのですが)。この後、染香の態度がおかしくなり、自分が漆が原の代官の奥方だと言い出し、そして同時刻、その代官の奥方は自分は染香だと言い――というところで今回のタイトルになるわけですが、今回の超常現象は、ナレーションによれば「憑依」。実は憑依自体はこの先のエピソードにも何度か出てきますし、そもそも毎回先生が死者の言葉を聞くのも一種の憑依のような気もしますが、生きている人間同士の人格が完全に入れ替わってしまうのは、確かに「稀有な例」でしょう(いや、現代の青春ものでは結構あるか……?)。

 そこで「世の禍々しき災いを取り除くのが俺の修行だ」と先生たちは(正十は楼の主人からちゃっかり染香の治療代をいただき)
上州に足を運ぶわけですが、ここで情報収集に当たる先生たちと、家族が代官所に訴えに行ったきり行方不明になった百姓たちの姿が交錯し、新たな不幸が始まります。
 埒が明かないので代官所に潜入し、奥方を拉致する先生と若ですが、そのどさくさで捕まってしまったのは、親を探して忍び込んだ百姓の若者。この若者は地下牢で拷問を受けた末に、自分の親たちの死骸を見せられた上に自分も後を追わされることに……

 そしてこれこそが琴路の精神に負担を与え、憑依現象を起こしていた原因。江戸の貧乏御家人であった山路は琴路に見初められて婿に入ったものの、出世するために年貢を一方的に釣り上げ、訴え出てきた百姓たちは死人に口なしとしていた――それを知った琴路の煩悶が、同じ生年月日だった染香への憑依現象を起こしていたのであります。
 その山路の所業を、若は琴路の口から聞き出し、それでも夫を「かわいそうな人」と語り、戻ろうとする琴路を止めようとするのですが――その彼女に、琴路が「おなごの気持ちは男のそなたにはわかりません!」と撥ね除けるのは、今回のクライマックスの一つでしょう。もちろん正十が若の涙に気付いたように、若に琴路の気持ちがわからないはずはないのですが……

 結局、山路の元に戻り、ためごかしで慰められるものの、地下牢の死骸を見てしまってショックで染香と入れ替わったところを夫に殺されてしまう琴路。そして山路に昇進を伝えに来た江戸の役人・永井はこれを見逃したどころか、代官所に火をつけて証拠隠滅を図れと入れ知恵する始末。かくて今回のターゲットは、山路、軍内、永井の三人となります。
 江戸に帰る三人の行列を上から大岩を転がして足止めし、その隙に馬に近づいて山路を叩き落とす正十(意外に手並みがいい)。そして若はボディーブローの連打で山路をダウンさせたところに、岩を振り下ろして叩き潰すというプリミティブな処刑を下すのでした。

 一方、駕籠から逃げ出した永井の目に留まったのは、道端に腰掛けたおばさん。これが死神と思うはずもなく横柄に道を聞こうとした永井に、おばさんは答えます。「一本道だよ……この道をずーっと行くと」ここで脇腹に匕首を叩き込み、「地獄に行くのさぁ!」と叫び、力の抜けた永井の体を薄の穂を散らしながら押し突き進むおばさん。カタルシスを感じて良いのか悪いのか、情緒がグシャグシャになる本作ならではの名シーンです。
 そして残る軍内が馬で逃げるのを、徒歩で、しかも山道を疾走して追いかけ、しかも追い抜いて道の真ん中で待ち受ける先生。そして真っ向から突っ込む軍内の上を飛び越しざまに放った旗の柄は軍内を貫くのでした。

 というわけで、悪の中心である山路を若が、軍内を先生が始末するのは少々意外にも見えましたが、これは(軍内役が五味龍太郎だったからというだけでなく)、琴路と関わりのあった若が、女の恨みを晴らしたということなのでしょう。
 しかし憑依中に憑依先の肉体が殺された染香の安否が気遣われますが、結局劇中ではその後語られず……


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『翔べ! 必殺うらごろし』 第1話「仏像の眼から血の涙が出た」

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2022.06.17

『翔べ! 必殺うらごろし』 第1話「仏像の眼から血の涙が出た」

 行者の「先生」と記憶喪失の「おばさん」が訪れた村では、お堂の仏が血の涙を流し、村人たちはよそ者の仙吉とお鶴の仕業だと信じ込んでいた。先生の霊視でお鶴は仏を遺した巡礼の娘だとわかり、村に受け入れられた二人だが、香具師一味が二人を惨殺、仏を奪う。霊の無念の声を聞いた先生は……

 必殺シリーズでも異色作中の異色作として知られる『翔べ!必殺うらごろし』――今回時代劇専門チャンネルで放送が始まったこともあり、これから全話紹介したいと思います。
 毎回種も仕掛けもない超常現象が発生し、それに絡んで物語が展開していく本作ですが、それは第一話の今回も同様。ある村で起きた仏像が血の涙を流すという怪異にまつわる因縁と、それと並行してチームの集結が描かれることになりますが、どちらもアクの強い内容(キャラ)がうまく絡み合っているのに感心させられます。

 冒頭で描かれるのは、先生とおばさんの出会い。どちらも必殺中では異彩を放ちまくるキャラクターですが、偶然二人が言葉を交わすうちにおばさんが四年前から記憶喪失であること、使い込まれた匕首を持っていることが語られ、そこから先生の超能力でおばさんに子供がいたことが判明――と、結構ややこしいおばさんのキャラがサラッと冒頭で紹介されてしまうのが巧みであります。
 一方の先生は、超能力を持っている修行中の行者であること位しかわからないのですが、まあそれが全てのようなものなので……

 そしてもう一人「若」は、村人たちがお鶴たちを無理やり追い出しにかかったところに通りすがって村人たちを叩きのめし、仙吉の話を聞いているうちに惚気に苛立って立ち去る――というくだりから、霊視で血の涙の由来を解き明かした先生に弟子入り志願、しかし拒否されてふてくされて、おばさんに正面から説教され(ここで全く物怖じせず正面から怒るおばさんがイイ)、そして先生に実は女と看破され自分の過去を語るという、こちらも淀みなくキャラが紹介されていきます。

 あと二人、正十とおねむは――こちらはサポートなのでそこまでではないのですが、正十に対しておばさんが「この人、江戸で殺しの斡旋業してた人だ」と言い出し、『新・必殺仕置人』等の正八との関係を(そして自分の過去も)匂わせるのは、心憎い演出です。

 さて、今回の超常現象は、先生の霊視によって、かつて村で行き倒れた女巡礼が遺した仏が生き別れた赤子を想って血を流していたものであり、実はお鶴こそが、村人たちが持て余して川に流した赤子だったということが判明するのですが――この事実だけでもちツラいところがあるものの、むしろそれ以上に印象に残るのは、事実がわかる前の村人の反応でしょう。
 実は廓から足抜けしてきたために素性を隠しているお鶴たちを疑い、彼女たちが水子の霊を操って自分たちを害しようとしていると全く根拠なく決めつけ、追い出しにかかる――というよりほぼリンチにかけようとする群集心理は、まさに村八分のメカニズム。これでもかと描かれる閉鎖的な地方の陰湿さには、何とも重い気分になります。

 一方、今回のターゲットである香具師一味もかなりの外道で、女亡者役の芸人が、腹を減らして自分たちの飯をつまみ食いしたのに怒り、せせら笑いながらリンチにかけてあっさり殺害する初登場シーンは実に胸が悪い。
 そして新たな見世物のネタとして血の涙を流す仏に目をつけ、お鶴と再会したことで仏が涙を止めたと知ってお鶴たちを惨殺。仏を奪うという、まさに血も涙もない所業に出るのですが――この金のために他人の命をあっさり奪う辺りは、一種都市的な悪の姿という印象で、一話で地方と都市、双方における人間の負の部分を見せられた思いであります。

 さて、そんなモヤモヤを吹き飛ばすべく(?)繰り広げられるラストの仕掛けは、おばさんが先陣を切って登場。仏を持っている香具師の手下を「ちょいと、落としたよ」と後ろから呼び止め、怪訝な顔をして近付いてきたところに「これから落とすんだよ」「お前さんの――命だよ!」と匕首でブッスリ!

 続いて先生が旗竿片手に斜面をものすごい勢いで駆け下り、三人一列に突っ込んでくる相手を人間離れした大ジャンプで飛び越すと、一番うしろにいた香具師の親分を旗竿で串刺し葬! さらに襲いかかる用心棒の刀を素手でへし折ると、無造作に捕まえて岩場に放り投げ、頭から投げ殺す!
 そして若が残る一人に殴る蹴るのプリミティブな暴力コンボ、とどめはパンチで180度顔面回転のFATALITY!

 太陽から力を得る先生の能力上、陽の光の下で行われるという異色の仕掛け――しかし明るさの欠片もないその姿は、まさに外道への制裁というべきでしょうか。
 何はともあれ、成り行きながら結成されたこのチーム。そのまま先生の足の赴くまま、未知の世界への旅が始まることになります。たとえ、あなたが信じようと信じまいと……


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2022.01.04

『怪竜大決戦』 崩れゆく城塞 激突二大巨獣!

 昨年の大晦日から三が日にかけて、東映時代劇YouTubeチャンネルで『怪竜大決戦』が公開されておりました。1966年公開のこの作品、松方弘樹を主役に、大友柳太朗を敵役に据え、特撮をふんだんに使った特撮時代劇であります。

 邪悪な妖術使い・大蛇丸を従えた悪人・結城大乗の謀反によって乗っ取られた尾形家の城。何とか城外に逃れた若君・雷丸にも、大蛇丸が化身した大龍が迫ったその時、蟇道人の大鷲が彼を救うのでした。
 以来、道人の弟子として育てられ、逞しく成人した雷丸。しかし彼を狙う大蛇丸の魔手が迫り、その戦いの最中に、雷丸は父を探す娘・綱手と出会うのでした。

 そして自らの師であった道人を卑怯な手段で討ち取る大蛇丸。今際のきわの道人から大蝦蟇変化の術を与えられた雷丸は、自雷也と名乗り、両親の仇である大乗と大蛇丸を討つために旅に出ることになります。
 しかし、大乗を裏切り自らが城主になろうと奸計を巡らす大蛇丸は、次々と自雷也に刺客を送り込みます。そしてその最中、綱手は自分が探す父こそ、大蛇丸だと知ってしまうのですが……


 このあらすじからわかるように、本作のベースは、講談の児雷也豪傑譚に始まる、いわゆる児雷也もの。大蝦蟇を操る児雷也、大蛇を操る大蛇丸、大蛞蝓を操る綱手が活躍するこの物語は、その派手な趣向ゆえか、戦前から映画化されてきたものであります。
 本作はその児雷也ものを、当時の最新技術でいわばリメイクしたものですが、その結果、いわゆる東映時代劇+怪獣もの的な趣きが生まれた作品です。

 正直なところ、今の目から見れば合成技術はあまりにもプリミティブ(特に今回の配信は非常に映像状態が良いので粗が特に目立つ)なのですが――しかし松方弘樹の不敵な若武者ぶり、そして悪の妖術師といえばこの人感のある大友柳太朗の怪物ぶりが相まって、時代活劇としては純粋に楽しい本作。
 さらに結城大乗を天津敏(といっても典型的なバカ殿ぶりで、精悍さゼロなのが残念)、蟇道人を金子信雄、さらに大蛇丸の配下ながら密かに自雷也と綱手を助ける老忍・百々兵衛を千葉敏郎が――と脇の面々も充実であります。


 しかし何といっても本作の魅力は、クライマックスの文字通り「大決戦」にあることは間違いありません。

 自雷也が迫っていることも、大蛇丸の暗躍も知らず、城内で宴に酔いしれる大乗――しかしふと気づけば、その乱痴気騒ぎを高みから睨めつける眼が、という、動と静の使い分けが素晴らしい大蝦蟇登場シーンから始まるこのクライマックス。
 その巨体で城の屋根も、壁もものとはせずに突き崩しながら大蝦蟇は大乗一党を追い詰め、そしてついにただ一人になった大乗も、みっともなく命乞い→不意打ちという悪役ムーブも全く通じず自雷也に斬られるのですが――しかしここからが大決戦の本番です。

 邪魔となる大乗が消え、残るは自雷也のみと、大蛇丸は大竜に――長い首がヌッと現れる姿が実に禍々しくインパクト十分――に化身。そして大蝦蟇が口から火を吹けば大竜は水を吐いて打ち消し、飛び道具では勝負がつかぬと見て正面からぶつかり合う二大巨獣!

 ――と、ここいわゆる怪獣プロレスになってしまうのはいささか残念ではあるのですが、しかしその合間に容赦なく城が破壊されていく様は凄まじいまでの迫力であります。
 そしてついに追い詰められた大蝦蟇が城外に転落、その上に瓦礫が積もった上に大竜にのしかかられる辺り、城の周囲が本水を使っているだけに本気で心配になり、「おお……蝦蟇よ蝦蟇!」(それは蝦蟇違い――ではないような)と呻きたくなるほどです。

 しかしそこに綱手が祖母(母の母)である蜘蛛婆から託された髪飾りを投じれば、空から現れたるは大蜘蛛! 大蜘蛛の吐く糸に絡まれ、さしもの大竜も力を失い……
 と、原典では大蛞蝓であったものが大蜘蛛になっているのは、まあ色々と理由があると思いますし、ほとんど動かないのは残念ですが――これはこれで見栄えという点では正しかったのかもしれません。


 重ねて申し上げれば、技術という点ではさすがに古めかしい部分は目立つものの、クライマックスのミニチュアワークは、現在見ても凄まじいものがある本作。
 そして骨格となる時代劇はいうまでもなく東映のお家芸と、本作の流れは、ここに登場した巨獣たちが流用された『仮面の忍者赤影』へと繋がっていくと考えればよいかと思いますが――それはさておくとしても、新年早々に理屈抜きに楽しむにはピッタリの作品でした。


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2021.09.30

『長安二十四時』 第13話「申の初刻 隠された陰謀」

 ふとした言葉をきっかけにチェラホトの正体を悟った徐賓。その頃、元載は熊火幇が捕らえたのが王ウン秀であると気付き、利用してのし上がろうと企む。そしてついに龍破のアジトに辿り着いた張小敬は、ただ一人残った曹破延と死闘を繰り広げるが、そこに到着した旅賁軍の行動が大惨事の引き金を……

 オープニングで描かれるのは、前回のオープニングで捕らえられた徐賓が、(牢でずっと前に捕らえられたままこちらも忘れかかっていた書生の)程参と出会う場面。何だか悟り澄ますしてしまったようなことを口走る程参から、衣に以前李必にかけられた墨がついていることを指摘された徐賓は、チェラホトに関する重大な事実に気付くのでした。

 そして牢から出された徐賓が李必に語るチェラホトの正体、いや材料とは墨――西北で算出される石脂(おそらくタールでしょうか)は、徐賓が小敬に聞いたところでは、一壺の石脂で数十人を殺すことが可能で、軍では「猛火」と呼ばれていたと。そんなものを使えば、一晩で長安を焼き尽くすのも容易いと思われますが、しかし長安に持ち込むことができるのか? それを可能とするのが墨だと徐賓は語ります。石脂を燃やした時に出る煙の煤からは墨が作られるのですが、長安の法では、原料の扱いはその製品に準ずる――つまり墨の原料と言ってしまえば、税関を通るのも容易いのであり、そしてこれまでの捜査からもくぐり抜けていたのです。
 ――しかし、今まで小敬が石脂の話をする場面なんてあったかな? と思っていれば、やはりそこを徐賓に問い詰める李必。どうにも徐賓は怪しいと、彼が小敬を選んだ大案牘述で、今度は彼自身が調べられることに……

 そして浮浪者の賈十七に誘き出されたもののすぐに罠に気付いた張小敬は、わざとらしく姿を現した魚腸を追い、一対一の死闘を展開。人間兵器のような魚腸に一歩も譲らず、ほとんど圧倒してみせるのはさすがですが、その状況から(性的な意味も含めて)挑発してのける魚腸の精神性も恐ろしい。結局ここもフェイクであったことを悟った小敬は、再びアジトを探して一人走ることに……

 一方、前回初登場の大理寺評事・元載は、封大倫に招かれて彼の家でもてなしを受け、張小敬抹殺のための便宜を遠回しに依頼されるのですが――事実関係を聞いただけで、小敬と聞家の繋がりが鍵と見抜く辺り、靖安司の誰よりも鋭いかもしれません。しかしその聞染を捕らえたというので覗きに行ってみれば、どうみても商人の娘とは思えぬ高級すぎる簪から皇族か高官の娘と見抜き、事実を知った封大倫を震え上がらせます。
 しかし見捨てて逃げるどころか、これを奇貨として利用してしまおうというのが元載の恐ろしいところ。どうにかしてやると封大倫に恩を売り、王ウン秀のところに行っては助けてやるからと言って状況を聞き出し――その情報を元に、靖安司と右相のところに、同時に封大倫が小敬とともに狼衛から王ウン秀を救ったこと、そしてそれだけでなく、小敬が右相府の地図を描いたことを伝えるのでした。右相は襲撃については一笑に付すものの、小敬が関わっていることはさすがに見逃さず、利用するつもりのようですが――恐れていた展開になってきました。

 そしてついに龍波のアジトに到着した小敬。聞染は必ず助けると決意も新たに足を踏み入れた彼の前に現れたのは、曹破延――彼もまた、血化粧で顔を彩り、絶対抜けぬように剣を手に縛り、覚悟を決めた表情で臨みます。そして始まる激闘は、小敬が押すものの曹破延も引かず、塀から屋根の上まで繰り広げられる大激闘。そして小敬の剣が曹破延の首飾りを切り飛ばし――その場面に、故郷で娘と暮らしていた頃の曹破延の姿が被さるのが心憎すぎる演出!――揉み合ったまま二人が転落した末、曹破延は自らの剣で自らの胸を刺して深手を負うのでした。
 と、そこに駆けつけたのは、崔器と旅賁軍ですが、小敬が止めるのも構わず建屋に踏み込んだところで発動するブービートラップ。一瞬後に起きた凄まじい大爆発は旅賁軍を吹き飛ばし、その爆音は遠く離れた靖安司にまで届くことに……


 というわけで、ようやく正体を掴んだと思えば、ついに大爆発してしまったチェラホト。もちろんこれはほんの一部のはずで、全て使われれば一体どんなことになることでしょうか。。
 まあほんの少し距離をおいていた小敬と崔器、そして井戸に落とされた聞染は大丈夫だと思いますが、少しでも被害を出したら罰せられることになっていた李必の運命も含めて、これまで以上に小敬たちが追い詰められてきたのは間違いありません。

 そして初登場時は面白かったものの、いきなり洒落にならない行動を見せるのが元載。こちらは(史実的にも)李必のライバルになるのでしょうか。今のところはまだその策略の全てはわかりませんが……


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『長安二十四時』 第9話「未の正刻 誰がために」
『長安二十四時』 第10話「未の刻 重なる面影」
『長安二十四時』 第11話「未の刻 忠誠を誓いし者」
『長安二十四時』 第12話「未の刻 裏切りの予兆」

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2021.09.23

『長安二十四時』 第12話「未の刻 裏切りの予兆」

 聞染の香を頼りに彼女の跡を追う張小敬と崔器。その頃、新たに二人の狼衛を仲間に引き入れた龍波たちは、いよいよアジトを発とうとしていた。曹破延らが時間稼ぎのために残ったアジトに近づく小敬だが、その頃嫉妬に燃える魚腸は聞染を殺そうとしていた……

 冒頭で描かれるのは記録坊の史書で狼衛のことを調べていた李必が、探していた部分が破られていたことから徐賓の仕業と疑い、彼を拘束、記録坊の鍵を没収する一幕。さすがに過剰反応では? という気もしますが……

 一方、犬を利用して聞染(の香)を追っていた張小敬と崔器は、犬の鼻が回復するのを待ちながら、しばしダベることになります(「ミントよこせよ」「しょうがねえなあ」的な男臭いやりとりが実にいい)。そこで明らかになるのは、崔器の人となり――長安を初めて訪れた時、兄に三日三晩、街を案内されて様々な人間と出会った。俺は王族や貴族ではなく、そんな市井の人々を守りたい……
 そのために出世しなくては、という目標はともかく、地方軍に参加していたという経歴を含めて、この男、実は小敬とあまり変わらない志を持っているのでは!? と驚かされたこのくだり。これまでニヤニヤクチャクチャしてばかりの男と思っていましたが、わずかな時間でキャラの印象をガラリと変えてくる巧みな演出に感心です。

 そしてその頃、昌明坊の龍波のアジトにやってきたのは、右刹の使者だという二人の狼衛――マガル曰く戦神と恐れられるルーダーとルイゴ。つまり右刹の側近、最強の戦士ということか!? という期待は、しかし次の瞬間二人が魚腸に叩きのめされて土下座というギャグのような展開で、マガルたちの尊敬の念もろとも粉砕されます。さっそく殺しにかかる魚腸を止めて、二人を説得して仲間に加えた龍波は、いよいよ真・チェラホトに向けてアジトを出発しますが――足がつかないようにアジトを破壊するために後に残ったのは曹破延たち。当然というべきか、生還確率は極めて低いミッションですが……

 一方、檀棋が告げた小敬の言葉に対し、そのとおり聞染(実は王ウン秀)の解放を命じる永王。母の位牌の前で小敬の縁者には手を出さないと誓ったと、たぶん中国では最高レベルの約束をしたとのことですが(どれだけ小敬が怖かったの永王……)、それに不満顔の封大倫に対して、小敬本人については、大理寺の評事に命じて囚人の引き渡しを求める公文書を書かせろ永王は命じます。そして王ウン秀も、大理寺に引き渡されることに……

 大理寺といえばかのディー判事もいたところですが、ここで白羽の矢を立てられた男・元載は――何というか、とてもふくよかな女性たちを集めておしくらまんじゅう状態にして、その中で暖を取るというインパクト満面のビジュアルで登場。何かそういう特殊な趣味がある方なのかと思いきや、単純にボロ屋で寒いので暖房代わりの様子です。
 しかしその支払いをケチるというセコさ――というより貧乏ぶりのようですが、本人はその才能を自負しているらしく、いい屋敷に住みたいとか、お偉いさんの娘と結婚したいとかブツブツ言っております。この辺り、史実を知っていると大いに笑えるのですが――召使らしいこれまたコロコロした少女とのやりとりも愉快な元載。しかし立ち位置的には敵に回りそうなのが不安です。

 そんな動きも知らず、ようやく昌明坊に近づいた小敬と崔器ですが、この辺りに軍の望楼はなく、空き屋敷が多いと、如何にも潜伏には適した地域なのを知った小敬は、崔器に援軍を連れてくるように命じます。その報は李必にも伝わりますが、その時彼は姚汝能と靖安司に潜むらしい内通者の存在について話している最中。冒頭の徐賓への処置は、内通者のあぶり出しのためだそうですが、どう考えても目の前の人が怪しい……
 そして犬を連れてただ一人先に進む小敬の前に立ち塞がったのは、賈十七なる浮浪者をリーダーとした三人組――ですが言うまでもなく小敬はこれを瞬殺。曹破延に雇われたこいつらはどう考えても時間稼ぎにしか思えませんが、その頃大事件が発生します。

 龍波と距離が近い(ように見た)聞染に対して魚腸の殺意が爆発、辛うじてマガルがこれを止めたものの、今度はマガルに殺させようする魚腸。女子供は殺さないというマガルは、聞染に井戸に飛び込めと命じ、彼女はやむなく従うのですが――水落ちは生存フラグとはいえ、魚腸の暴走ぶりをどうすべきか。
 いずれ彼女についても、そのキャラが深掘りされると思いますが――最初は龍波に利用される哀れな女性かと思われたのが、今ではむしろ龍波のストーカー状態で、全く感情移入できないのが正直なところです。


 というわけで、全体の1/4に達したものの、まだまだ先は見えない状況の今回。冷静に考えると今回は大きな動きはなかったものの、様々な場所で並行して事態が進行するため、全く停滞している感はありません。しかし、そろそろ色々な意味で大爆発しそうですが……


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『長安二十四時』 第3話「午の正刻 遺された暗号」
『長安二十四時』 第4話「午の刻 窮地の靖安司」
『長安二十四時』 第5話「午の刻 人脈を持つ男」
『長安二十四時』 第6話「午の刻 地下都市の住人」
『長安二十四時』 第7話「未の初刻 信望の結末」
『長安二十四時』 第8話「未の初刻 小敬の過去」
『長安二十四時』 第9話「未の正刻 誰がために」
『長安二十四時』 第10話「未の刻 重なる面影」
『長安二十四時』 第11話「未の刻 忠誠を誓いし者」

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2021.09.13

『長安二十四時』 第11話「未の刻 忠誠を誓いし者」

 崔器に犬を借りてくるよう命じた張小敬は、犬に聞染の香の匂いを嗅がせて追いかける。その頃、靖安司には郭利仕将軍が李必を訪ね、状況が太子方に不利になっていることを告げる。一方、聞染は、曹破延らに助っ人を紹介すると申し出るが、連れて行った先に待っていたのは龍波一味だった……

 前回聞染の機転によって救われながらも、彼女のことを信用できず殺そうとするマガル。しかし聞染は彼らの主たる右刹は自分たちに従っており、支払われた前金で既に長安にいくつもの屋敷や妓女、下僕を用意して優雅に暮らそうとしていると告げ、真のチェラホトのための助っ人の所に連れて行ってやると誘います。そして曹破延はその提案に乗るのですが――彼らが連れて行かれた先は、龍波たちのアジトだったのであります。ということは聞染は龍波の仲間であり、龍波が右刹を動かしていたということで、つまり曹破延は知らないまま龍波のために働かされていた――ということになるのでしょうか。
 そんな事実が明らかになる一方で、その聞染を追う小敬は、崔器を顎で使って宮中から犬を借りてくるよう命じます。小敬のことを敵視していた崔器ですが、前々回・前回の大チョンボを庇われた形になって、今日だけは小敬の言うことを聞くと言っているのが、何とも愉快というか何というか……

 その頃、靖安司には狼衛全滅が偽りであった知らせが伝わり、お祝いムードが一変。そんな中で李必はチェラホト阻止のため、可燃物の捜索を最優先するのですが――それに異を唱えたのは、珍しやデータ分析担当の徐賓であります。ここはむしろ逃げた狼衛を追って捕らえてしまえば狼衛壊滅も嘘でなくなるし、結果としてチェラホトも阻める――と食い下がる徐賓に、こちらも珍しく苛ついた李必が墨をぶっかけるというギスギス状態です。

 と、そこにやってきたのは驃騎大将軍の郭利仕。以前、葛の旦那のところで金器を私した疑いがあったことが語られていましたが――その時頭に浮かべた「将軍」のイメージとはだいぶ異なる政治家然とした老人であります(まあ、この時代は名誉職だったようですが)。
 この郭利仕は太子派の大物らしく、李必も「郭おじさま」と呼びかけていますが、彼が李必に伝えたのは皇帝の言葉。李必ら靖安司をねぎらうように聞こえるその言葉に喜ぶ李必ですが、しかし郭利仕に言わせればこれこそが危険の前触れ。現に郭利仕は茶器を私した疑いをかけられ(この辺りは前回描かれた右相の企てによるものですね)、完全に皇帝から遠ざけられて諫言はもはや不可能になってしまったというのです。要するに自分には助けることはできないというのですが……(しかし、これがどこまで真実を言っているのか、疑おうと思えば疑えますが)

 さて、龍波と引き合わされた曹破延とマガルは、当然ながら右刹の上に立っているという龍波に疑いの眼差しを向けるのですが――ここで曹破延が娘を右刹の下人にしないために下僕の地位に甘んじていることなど、狼衛の内情を知る者以外知りえないことをズバリと語る龍波。その言葉にこれは本物と感じたものか、龍波の誘いに対し、二人は自分たちの命を使えと膝を屈するのでした。
 一方、魚腸は何かと龍波に気安げな(龍波も聞染のことを「お嬢」と呼んだり)聞染に露骨に剣呑な眼差しを向けます。龍波からあなたの香と同じ香りがしたことがあったけど?(ギロリ)という辺りなど殺る気マンマンですが、頭は回るけれども空気は読めない聞染は魚腸を挑発するようなことを言ったりして、この後のことが心配になります。
 そして崔器が連れてきた犬をカワイイカワイイして速攻で手懐けた小敬は、その聞染の香を犬に嗅がせて後を追いかけるのですが、街の雑踏の中を突っ走るもんだから流しの香売りと激突、匂いがグチャグチャな状態に。それでも手段はありげな顔の小敬ですが……

 一方、永王のもとを訪れた檀棋は、小敬の「張小敬の縁者を放せ」という言葉を伝えるのですが――それまで彼女のことを適当にあしらっていたのが、小敬の名を聞いた途端に表情を変える永王。そりゃ以前ボコボコにされればそうもなろうというものですが――さて。


 前回に続き、今後の展開に向けてのタメ的な印象もある今回ですが、何といってもインパクトがあったのは、聞染が龍波と繋がっていた事実でしょう。いつ繋がったのかというのも気になりますが(おそらく父の死後だとは思いますが)、龍波が立場的に狼衛の完全に上というのも意外なところ。そもそもかなりの財力を持つと思しい彼の正体は何なのか、そして長安を狙う理由は何か――まだ彼が真の敵なのかはわかりませんが、この先の展開の鍵を握る存在なのは間違いありません。
 そしてラストは、龍波が何やらピタゴラスイッチ的な仕掛けを用意している場面が映されますが――見た目はどう見てもタル爆弾的なその正体は何か? 真・チェラホトの一端が明かされるのも遠くなさそうであります。


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2021.09.07

『長安二十四時』 第10話「未の刻 重なる面影」

 王ウン秀(実は聞染)を人質にされて曹破延らを逃した事実を伏せて、狼衛を壊滅させたと報告する崔器。その報に沸き返る靖安司だが、確認のために李必に送り込まれた檀棋は、死体の中に曹破延がいないことを見破る。そこで意識を取り戻した張小敬は、自分のせいにしろと崔器に告げる……

 アバンタイトルは、狼衛壊滅の報が入る中、相変わらず何事か鍛冶仕事的な作業に勤しむ龍破と魚腸のやりとり。何故狼衛のアジトがバレたのか、自分が女を連れ込んだためと気付きつつも、魚腸が妓楼の札を隠れ家にわざと残したせいではと言う龍破は(確かにその通りなのですが)、いつか彼女に刺されると思います。
 それはさておき、狼衛が壊滅したと聞いてもあまり驚かず、龍破はチェラホトが降臨すると語るのですが、これは一体……

 さて、その(元)狼衛のアジトで、前回ラストに王ウン秀(のふりをした聞染)を人質にされて、曹破延とマガルを逃してしまった崔器。腹心の部下を派遣して周囲を探させましが、既に三人は仮面の芸人に化けて(聞染の巧みすぎる演技もあって)その場を脱出済みであります。追い詰められた末、とりあえず後で捕まえればいいだろ! という感じで靖安司本部には狼衛壊滅(そして小敬は失踪)と報告、靖安司は歓喜に沸き返るのですが――そこで油断せず、きっちりと確認のために檀棋を送るのが李必らしいところであります。
 そしてアジトにやってきた檀棋は、狼衛一人ひとりの死体の身長を、曹破延のそれと照合し始めるのですが、さすがにこれは崔器も予想外だった様子。そして狼衛たちと一緒に転がされていた小敬も檀棋に見つけられ、一瞬意識を取り戻して軽口を叩くのですが、やはり無理を重ねたのが祟ったか、再び意識を失います。

 そして小敬が思い出すのは、聞無忌と最後に会った日のこと――不良帥の仕事での長旅(このあと小敬に殺される上役に押し付けられたようですが)から帰って聞無忌の店を訪れてみれば、何だか隊長(と無忌のことを呼び続ける小敬が微笑ましい)の様子がおかしい。そこで彼が外出した間に聞染を半ば叱りつけて聞き出したのは、この店が熊火幇の地上げのために様々な嫌がらせを受けており、無忌はその交渉に出かけたという事実。しかしほどなくして帰ってきた無忌は深い傷を負っており、聞染のことを小敬に託してそのまま帰らぬ人に……
 と、この辺りの事情は正直なところ予想通りでしたが、印象に残ったのは、無忌に不良帥として奔走する理由を問われての小敬の言葉でしょう。長安に来るのは仲間たちの夢だった。仲間に変わり俺たちが夢の中にいるが、夢は美しくないとな――と。当然この仲間とは、あの戦場で死んでいった者たちのことでしょう。そしてそんな小敬の想いが、今でも彼を突き動かしているのか――?

 そんなこんなで時間は過ぎ、名もない靖安司の役人が「もう三日も帰ってないんですが、狼衛も滅んだし今日は早上がりして良いですか……」と勤め人には身につまされるようなことを言い出したり、靖安司を閉めて太子のところに行こうと姚汝能が呼びに来たりという状況の中、それでも状況確認は止めない李必。そしてその心配は当たり、檀棋は、死体の中に曹破延がいないことを確認するのでした。
 強がってもバツの悪い表情は隠せない崔器ですが、そこに割って入ったのは意識を取り戻した小敬。俺が手柄のためにやったと言えばいいと崔器に提案した小敬は、崔器の話を聞いて、彼が王ウン秀だと思いこんでいた女性は聞染だと気付くのでした。(一方、本物の王ウン秀の方は、聞染と間違えられて熊火幇に捕らえられることに……)

 何はともあれ、靖安司に急ぎ戻ろうとする檀棋に対し、小敬は「張小敬の縁者を離せ」と永王に伝えろというのですが――しかし永王の配下である熊火幇に捕らわれているのが、聞染ではなく王ウン秀なのは、崔器とのやり取りで既に気付いているはず。一方、檀棋は逆に小敬に対して、聞染に靖安司が一番安全と伝えてと告げて去るのでした。


 前話で起きた出来事のフォローとおさらいという印象もある今回ですが、やはり気になるのは聞無忌の死と、現在の小敬を動かす動機との関係でしょう。明らかに命を捨ててかかっている小敬には真の目的が別にあるのか? それはまだまだわかりません。

 一方、面白かったのは小敬と檀棋のやり取りで、以前から何かと艶っぽい方向に持っていこうとする小敬と全く取り合わない檀棋という関係性が、今回はほんのわずかばかり変わっていたようにも感じられます。小敬が本気で檀棋に粉をかけているのか、これまたわかりませんが、ある意味非常にストイックな小敬だけに、やはり真意が気になるのです。

 そしてもう一つ、聞染が語った、私たちが右刹の主、という言葉の意味も……


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2021.08.29

『長安二十四時』 第9話「未の正刻 誰がために」

 右相と靖安司双方が張小敬の過去に辿り着いていた頃、捕われの身の小敬は狼衛に長安の地図を書くと申し出て時間を稼いでいた。地図が書き終わったとほぼ同時に、小敬を狙う熊火幇が狼衛のアジトを襲撃、大乱戦が始まる。さらにようやく到着した崔器の部隊の突入で狼衛は追い詰められるが……

 今回アバンで描かれるのは右相の屋敷――小敬が烽燧堡の戦いの生き残りであることを知った右相は、当時兵部尚書の地位にあった自分が援軍を送らなかったために部隊は壊滅したことから、自分は小敬の仇であったかと冷や汗タラリであります。ちなみに右相側にこの情報をもたらしたのは、「三女」なる人物。靖安司側で名前に女がつく人物がいたかな……?(すっとぼけ)
 一方、靖安司に戻ってきた姚汝能は李必らに小敬の行動を語り、一体そこまでして小敬を突き動かすものは何かと問います。確かに第2話の時点で既に恩赦の目はなくなっている状況であるのは確かで、長安の市民のためかと思ったものの、しかし間者の小乙を犠牲にし、自分も指詰めまでするというのは、単なる義務感や正義感のみとは思えません。

 ここで前回と今回語られたことを整理すれば、小敬と聞染の父・聞無忌は、わずか九名しか生き残らなかった烽燧堡の戦いの戦友。そして帰還して聞無忌は店を開き、小敬は不良帥になるのですが――国の施設の建設を巡る争い(地上げ)で聞無忌は熊火幇に殺され、小敬は復讐のために熊火幇34人のみならず、上官の不良帥を撲殺、さらに一連の事件の背後にいた永王なる人物をボッコボコにした、ということになります。

 さてその小敬は、拷問の末に曹破延の手で処刑――と思いきや、いきなり後ろから曹破延をどつく狼衛の同僚・マガル。曹破延やっぱり人望ないのか? と思いきや、お前には娘がいるだろうとマガルは熱く語るのですが――狼衛は娘が少ないのでしょうか? 随分と曹破延も思い入れがあるようですが……
 何はともあれ曹破延は拘束され、どさくさに紛れて命拾いした小敬は、長安の地図を書いてやろうとマガルと交渉。どこを書いてやろうかと言われて、どこがいい? と聞き返す狼衛は、意外と抜けているのかそれとも本当は地図は必要ないのか? そして恩知らずの王ウン秀に売国奴呼ばわりされながら小敬が描いた地図には、右相の屋敷の周辺が――おそらくは嘘を描いているのだとは思いますが、あるいは狼衛に右相を襲撃させようというのでしょうか。

 しかし地図を描き終わればもう用無し――とばかりに狼衛が小敬に迫ったまさにそのタイミングで、聞染の挑発に乗った熊火幇がアジトを急襲! しかし小敬の隠れ家と思って威勢よく乗り込んでみれば、待ち構えていたのはフル装備の狼衛だったからびっくり仰天――とはいえ熊火幇も面子にかけて退くに退けず、ここにヤクザvsテロリストのドリームマッチが開幕であります。
 そしてその隙を逃さず、柱に縛り付けられていた曹破延がアタフタしている間に阿修羅のように暴れまくる小敬。また狼衛に捕らえられた聞染と王ウン秀を人質にされて一度は捕らえられたものの、そこに今度はようやく到着した崔器の部隊が突入して三つ巴の大乱戦――というより崔器の部隊が猛烈に矢を打ち込むものだから、狼衛も熊火幇も壊滅状態であります。

 そして屋敷に火をつけようとした狼衛を小敬が阻む一方で、王ウン秀とともに捕らえられた部屋から逃げ出そうとする聞染。突入した崔器は曹破延を見つけ、わざわざ飛び道具を手放して一騎打ちを仕掛けます。お、これはどちらかが死ななければ収まらないやつ――と思いきや、マガルが人質にとった聞染を王ウン秀と思い込んだ崔器は、曹破延とマガルを逃してしまい……


 というわけで、三つ巴の大乱戦と小敬の大暴れもさることながら、改めてクローズアップされた小敬が戦う理由(の予想)が印象に残る今回。小敬の34人の理由は今回描かれたとおりだと思いますが、果たしていま靖安司に協力する理由は、右相への復讐(だけ)のためなのか?
 確かに赦免の希望もない今、最高権力者である右相への復讐は、大きな行動の理由ではありますが……。間者殺しや狼衛への地図提供などの危ない橋を渡り続ける行動も、明日がない故のものとも思えますが、まだ何かあるようにも思えてなりません。

 その一方で早くも壊滅寸前の狼衛。また1/5もいかないうちにここまで追い込まれて、本当にこの先陰謀を遂行できるのか、何だか心配になってきました。


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2021.08.23

『長安二十四時』 第8話「未の初刻 小敬の過去」

 単身修政坊の狼衛のアジトに接近する張小敬を射殺しようとする曹破延だが、小敬のことを知る聞染はこれを止め、小敬と接触する。聞染の登場に驚きながらも彼女を逃し、単身突入する小敬だが、王ウン秀を盾にされ、狼衛に捕らえられる。その頃、李必は小敬と聞染の父の関係を調べていた……

 今回冒頭で描かれるのは、王ウン秀を騙して捕らえ、曹破延ら狼衛と対面する聞染の姿。何故長安の人間が自分たちに協力をと疑う曹破延に対し、聞染は父を殺した長安を憎んでいると答えるのでした。
 一方、右相の不正の証人殺しに絡んでいると思しき聞染を追う李必は、彼女の経歴を調べる中で、彼女の父が消息不明となった年に朝廷が辺境を守る兵を募集していたことから、その線での調査を命じます。が、同時に張小敬もその年に軍に入隊していることに気付くのでした。

 その小敬は、姚汝能に頼んだ援軍の派遣を待たずに灯籠売りに化けて修政坊の狼衛のアジトに接近しますが、狼衛側には一発で怪しまれ(というより接近する者は全て殺す方針の模様)、曹破延は彼を遠間から射殺すように命じますが――しかしやってきたのが小敬と見た聞染は、突然彼は自分を迎えに来た夫だと言い張り、小敬のもとに向かうのでした。
 そして聞染と対面する小敬。互いに顔なじみの間柄らしい二人ですが、小敬にとってこれは予想外の対面であったのか、彼女がここにいることを問い詰めます。が、彼女が言を左右するのを追求する間もないと考えたか、彼女に後で落ち合おうと告げると単身アジトに突入。一方、小敬の言葉に従ってその場から離れる聞染ですが、小敬の後を追ってきた熊火幇のヤカラどもに見つかり、小敬の居場所に案内するように強いられることに……

 その頃、聞染の父のことを調べていた李必は、そのものズバリの名ではないものの、聞無忌なる人物が、小敬と同じ部隊にいたことを突き止めます。最前線の烽燧堡で味方の援軍もないまま孤軍奮闘し、200名を超える部隊のうち、9名しか生き残らなかったというその部隊――小敬と聞無忌は、その生き残りに含まれていたのであります。そしてそこからさらに李必は、小敬の34名殺しの背後に深い事情があることを察するのでした。

 その頃単身アジトに殴り込み、たった一人で狼衛の集団を向こうに回して獅子奮迅の大暴れを繰り広げる小敬。外での射撃戦を制し、屋敷の中に飛び込んでは地形を活かして多勢を翻弄し――と桁外れの強さを見せる小敬ですが、王ウン秀を殺すと脅されては戦いようもなく、武器を捨てて捕らえられるのでした。
 そして吊り下げられた末、銅銭ほどの肉を削いでいく銭削ぎなる拷問を仕掛けられる小敬。狼衛がどこからこの場所を知ったのか吐けと迫る中、小敬の心の中に浮かぶのはあの地獄の戦場――そう、烽燧堡の戦いの様子であります。戦友たちと肩を並べる若き日の小敬ですが、そこには確かに聞無忌の姿が――どうやら小敬より少し年かさに見える、なかなか食えない人物の印象です。

 時に沈黙を、時にこちらを翻弄するような小敬をさっさと殺して計画を早めようとする曹破延と、右刹を待つべきだという他の狼衛と、意見対立に救われている感もある小敬。しかし小敬を救援すべき崔器の部隊は、崔器自身が間者を殺した小敬に対して激しい敵意を抱いている(むしろ捕らえようと李必に進言するほど)のに加え、街の喧騒に阻まれて修政坊までまだまだ辿り着けない状況。ついには花車の芸比べにぶつかり、完全に足止めされる羽目に……


 ほとんど物語始まって以来最大の大立ち回りを小敬が見せる(建物のセットをフルに使っての立体的なアクションが圧巻)一方で、彼の過去にまつわる様々な情報が提示された今回。聞染が父を熊火幇に殺されたと以前語っていたのが真実であり、小敬の戦友である聞無忌が聞染の父であれば、小敬が熊火幇のメンバーを大量殺戮した事情も想像できるような気がしますが――まださらなる事情があるのでしょうか。
 そしてその熊火幇に捕まってしまった聞染ですが、狼衛相手の態度を見るに、かなり機転が効く様子。そんな彼女であれば、これを利用して今の小敬の窮地を救えるのでは、という期待もありますが――相変わらず態度はデカい崔器が全く頼りにならないだけに。

 それにしてもその崔器が足止めを食うこととなったパレードの場面の華やかさは圧巻で、本作の物量の凄まじさにはまたも感心させられます。ラストにチラッと登場した女性が、見物の観客たちがコールを送っていた許鶴子でしょうか……(しかし相変わらず中国ドラマらしく妙なところで終わる今回)


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