劇団☆新感線『神州無頼街』 幕末伝奇! 痛快バディvs最凶カップル、大激突!
一昨年、新型コロナの影響で公演延期となった『神州無頼街』が、帰ってきました。富士の裾野に築かれた無頼の街を舞台に、クールな腕利きの医者と口八丁手八丁の口出し屋が、正体不明の侠客一家が目論む大陰謀に立ち向かう、幕末伝奇大活劇であります。
時は幕末、所は清水湊――清水次郎長親分の快気祝いに名だたる親分衆が集まる中、突如現れた男・身堂蛇蝎。妻の麗波、息子の凶介、娘の揚羽を引き連れ、傍若無人に振る舞う蛇蝎に激昂する親分衆は、突如もがき苦しみだし、倒れていくのでした。。
そこに駆けつけた町医者・秋津永流の手当で次郎長は助かったものの、親分衆は全滅。これ事態を引き起こしたのが、この国にいるはずのない毒蟲・蠍だと見抜いた永流は、蛇蝎に対してある疑いを抱くのでした。
一方、清水湊をうろついては他人の事情に勝手に口を出し金をせびる「口出し屋」の草臥は、蛇蝎一家の凶介が自分の幼なじみ・甚五と瓜二つだったのに驚くのですが――向こうは草臥のことなど知らず、それどころか逆に刃を向けてくるではありませんか。
蛇蝎一家を中心に次々と起こる奇怪な事件と不穏な動き――これに対して、永流と草臥は、蛇蝎を探るため、彼が築いたという富士山麓の無頼の街に向かうことを決意します。しかしそこで待ち受けていたものは、彼ら二人の隠された過去に繋がる謎と秘密の数々だったのであります。やがて二人は、この国を揺るがす蛇蝎一家の大陰謀と対峙することに……
というわけで、42周年興行として上演の運びとなった『神州無頼街』。私も二年待ちましたが、無事観劇することができました。
物語的には、「無茶苦茶強い正体不明の流れ者が、さらに強くて悪い奴の陰謀を叩き潰すために大暴れする」という、皆大好きなスタイルの本作。しかも今回は、その主人公が二人――つまりバディものなのが最大の魅力でしょう。
一見クールながら心優しく、医者ながら武芸の腕も立つ永流(福士蒼汰)。そして口から先に生まれたようなお調子者ながら、やはりバカ強い草臥(宮野真守)。そんな二人が、それぞれ実に気持ちよさそうに、物語の中を飛び回ることになります。
特に歌手としても活躍している宮野真守は、劇中歌の多くを実に気持ちよさそうに歌いまくり。元々歌も踊りもふんだんに投入されているのが劇団☆新感線ですが、今回は特にその度合いが大きかったように感じるのは、このムードメイカーの大活躍があってのことでしょう。
そして忘れてはいけないのは、本作が時代伝奇ものであること。そもそもタイトルからして古き良き時代伝奇小説の証である(?)「神州」というワードを掲げているわけですが、幕末伝奇とくれば――という二大ネタがどちらも投入されているのがまず嬉しい。
しかしそれはあくまでもいわば前フリであって、メインはさらにスケールの大きな、とんでもない展開が用意されていたのには、正直に申し上げて唖然としました。
(ちなみに「神州」らしくというべきか、ニヤリとさせられるような用語や場面も幾つか登場するのにも注目)
しかし本作で最大のインパクトを感じさせるのは、主人公たちが挑む強敵――身堂蛇蝎と妻・麗波であることは間違いありません。
死と暴力が人間の形をしているような、しかしどこか茶目っ気のある蛇蝎、そして彼を支える妖艶華麗な美女――では終わらない麗波と、強烈極まりないこの二人。そんなカップル好演/怪演/熱演する二人――新感線初登場の高嶋政宏と常連の松雪泰子に目を奪われました。
特にこの二人こそが、上で触れたとんでもない展開の仕掛人なのですが――いやはや、これまで色々と時代伝奇ものを見てきましたが、ここまで凄まじいことを企んだ奴は見たことがありません。間違いなくいのうえ歌舞伎、いや新感線の舞台史上でも最凶最悪のカップルであることは間違いないでしょう。
しかし正直なところ、この強烈すぎるカップルの前に、主人公たちの存在感がいささか薄れがちに感じられたのも事実。
また――この辺りは内容の詳細に触れかねないためにぼかしますが――作中に登場した二つの「家族」の存在が、物語展開や主人公たち(というか草臥)とあまり有機的に結びついていないという印象もありました。
そんな勿体無い部分はあったものの、本作が新感線の二年遅れのアニバーサリーイヤーに相応しい、ド派手でケレン味たっぷりの時代伝奇活劇であったことは間違いありません。
特に主人公コンビはこの一作で終わるのはもったいない――彼らの痛快なバディぶりを、是非また見てみたいと心から思います。
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