2007.11.18

「天保異聞 妖奇士 奇士神曲」 獄五「神話」(その二)

 さて昨日の続き。
 この獄五で描かれた物語の結末には――予感めいたものはあったにせよ――驚かされましたし、特にTVの最終回を考えると複雑なものも感じましたが、しかし、不思議に暖かいものを感じたのもまた事実。

 思えば、「物語」という異界――それは実は「現実」のぴったり裏側に存在しているものであり、それだけに逃れ難いものであるのですが――に、ある時は対峙し、ある時は飲み込まれる人々の姿を一貫して描き続けてきた本作。
 それがこのような形で終わることは、一見は「物語」への敗北にも見えますが、しかし、往壓を救わんとする仲間たち…誰よりも何よりも、最も異界を望んできたはずのアトルがラストに見せた姿、取った行動は、人が己の「物語」を超克することへの希望を見せてくれたと言っては甘すぎるでしょうか。
(さらに言わせていただければ、その意味ではこの「奇士神曲」の結末は、TV版の最終回で描かれたものと、実はさして変わらぬものであるようにも感じられます)


 …ダンテの「神曲」で、旅の果てに最後に辿り着いた先は至高天であったのに対し、この「奇士神曲」で最後に待っていた先はあくまでも現世。
 これを長英が言うような絶望と見るか、はたまた人の世に対する希望と見るか…その解釈をこれ以上書くのは野暮というものでしょう。


 さて、昨日の冒頭にも書きましたとおり、これにて「天保異聞 妖奇士」も完結。
 私は、はじめは天保時代を舞台とした時代伝奇ものという、題材に注目して見始めたのですが、こうして最後まで見届けてみれば、題材のみならず、虚構(=物語)でもって現実を切り取ってみせるという、その手法において、まさに伝奇的な作品であったと感心いたします。
 そしてこうした作品であったからこそ、変わらぬ現実の中で変わった物語を展開しなければならないという、一種矛盾した構造を持つ時代伝奇ものである必然性があったかと、今では感じています。

 何はともあれ、會川昇氏をはじめとするスタッフの方々には、素晴らしい物語をありがとうございます、と心からの感謝の気持ちで一杯です。
 また新しい物語で出会えることを祈りつつ…


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2007.11.17

「天保異聞 妖奇士 奇士神曲」 獄五「神話」(その一)

 媛の死と呼応して現れた巨大な影・スサノオ――その姿を目にした往壓の体は奇怪な竜人に変化する。これまでの戦いの中で幾多の竜を倒してきた往壓は、かつてスサノオに倒されたヤマタノオロチの化身と化していたのだ。宰蔵を取り込んだスサノオに対し、人の心を失ったまま襲いかかる竜人往壓。しかしこの戦いこそは、長英が、そして鳥居が望んだ神話の再現に他ならなかった。天津神と国津神の最後の戦いの果ての、往壓の、仲間たちの選択は――

 遂にこの時が来てしまいました。「奇士神曲」の、いや「天保異聞 妖奇士」の最終回。これにて一巻の終わりであります。
 しかし内容の方は、こちらがそんな感傷めいた想いに浸る暇もないほどに突っ走る、まさに怒濤の展開。何しろ、「奇士神曲」という物語のみならず、「天保異聞 妖奇士」という物語でこれまで積み残されてきた謎のほとんどが、ここで明かされるのだから凄まじい話です。

 長英は何のために北の果てに向かっていたのか。その長英に斬られた媛の正体は。そして、往壓を後見してきた鳥居の真の狙いは。さらには、このままスルーかと思われた、かつて西の者が口にした「八本の首」の正体までも盛り込んで描き出された物語のスケールは、こちらの想像を超えた雄大なもので、まさに物語というものの原点であり極限である「神話」と呼ぶに相応しいものであったかと思います。

 冷静に考えると、アレ? と思う点――もちろんちょっと考えれば補完できるのですが――もなきにしもあらずですが、そんなことを考える間も与えない構成の巧さと、それを物語として形作る各要素のクオリティの高さには感心しました。
 特に、物語の謎が明かされ、最後の死闘が繰り広げられる場面での長英と鳥居の対峙は、名優二人の演技合戦的味わいすらあって、もうこちらは見ていてただ唸るばかり(あの二人に叫ばれたら、どんな理屈だって納得します)。


 …そして、そんな物語の果てに往壓が選んだ道は、正直に言えば、あまりに意外なもの。この選択と、それが生み出した結末は、ネット上を見ても賛否両論――しかし思ったほど後者が多くなかったのは、さすがにここまでこの物語を追ってきたファンだと感心――ですし、それも無理もない話かと思います。
(これは全くの想像ですが、予定通り四クールやった上の最終回であれば、もう少しだけ違った形になったように思えるのですが)

<長くなりますので明日に続きます>


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2007.11.07

「天保異聞 妖奇士 奇士神曲」 獄四「地上楽園」

 巨大化した豊川狐を一度は粉砕した往壓たち。しかし宰蔵は奇士に戻ることを拒み、復活した狐たちを連れ、長英と共に姿を消す。長英の狙いが、間宮林蔵の遺書に記された蝦夷地の果ての何ものかにあることを知った往壓たちは、アトルを江戸に残し旅立つ。そしてその地で彼らが出会ったのは、社に一人暮らす不思議な空気をまとった少女・媛だった。が、その姫を襲う長英の凶刃。媛の死と反応したかのように社の裏山が崩れ、氷の中に眠る巨大な姿が現れる――

 いよいよ残すところはラスト二話となってしまった「奇士神曲」、いや「天保異聞 妖奇士」。果たして如何なる物語が待ち受けるかと思いきや、これが怒濤の展開の連続。起承転結でいえば転がりまくったと言うべきか、本で言えば一読巻を置くあたわざると言うべき内容でありました。

 直接言葉を交わす機会がありながらも完全にすれ違ってしまった宰蔵と仲間たち。いかに火付けの罪があったとしても、本来の目的であった小笠原を目の前にしても、宰蔵の頑なな心は溶けないのが痛々しい。

 その一方で(?)大きく成長を遂げたと見えるのはアトルの態度。鳥居たちに、いわば人質同然の形で江戸に残ることとなったアトルですが、しかし、彼女自身は奇士たちが――いや往壓が戻ってくる場所となることと決め、笑顔で往壓たちを送り出します。
 ヒロインが、主人公の戻ってくる場所となるというのは、さほど珍しいシチュエーションではなく、むしろそれ自体は古臭さすら感じさせるものでもあるのですが、しかしそれまでアトルの魂の辿ってきた道程を考えれば、これは実に素晴らしいことだと素直に思えます。

 そんなこんなで奇士一行が長英を追って旅立つ先は、遙か蝦夷地も北の果て。間宮林蔵の蝦夷地探検は有名な話ではありますが、本作で語られるところによれば、それから帰って以来、林蔵は人が変わったように暗くなり、また周囲の人間を平然と売るようになった(かのシーボルト事件が、林蔵の密告により発覚したというのは有名なお話)という曰く付きの場所のようですが…

 と、その場所にものすごい勢いで到着してしまったのは、仕方ないとはいえ些か拍子抜けですが(もし一年間放映されていれば、この辺りはもっとじっくりと描かれていたのだと思いますが)、そこでアビとえどげんが出会ったのは、どうにも古風な美少女・媛。
 自分の記憶を持たず、そして村人たちからは敬して遠ざけられている様子の彼女の正体に対し、さりげなく厭過ぎる推理(「神の名は」を思い出した…のは儂くらいですか)を巡らせるえどげんに対し、アビは妙なデレっぷり。

 これは本作第三の年の差カップル誕生か、お姉さん許しませんよ! とアホなことを思っていたら、そこに突然飛び出したのは長英。その刃の前に、登場わずか十分程度で斃れた新キャラに、「貴重な坂本真綾が…」とこちらが呆然とするまもなく(元閥が感情を荒げた声を出すのが珍しい)、社の裏山から現れた氷の中に眠る影は…
 神曲だけにルシフェル、などということはありますまいが、いずれにせよ善きものとは考えにくいモノであります。

 全く、あの第一話からわずか四話のうちにここまで物語が膨らんでいくとは全くもって想定の範囲外でありますが、さて残り一話、わずか一話でどのようにこの物語を結ぶというのか…期待と畏れ半ばする思いの中、最終第五話については稿を改めます。


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2007.10.16

「天保異聞 妖奇士 奇士神曲」 獄三「煉獄山」

 宰蔵を取り込み、さらに力を増した赤猫。遂に牢屋敷の囚人が解き放ちとなる中に駆けつけた往壓らはこれを打ち砕くも、宰蔵は長英に連れられて姿を消す。長英の行方を追う小笠原たちは、長英が間宮林蔵の遺書を探していたことを知るが、その遺書は鳥居の渡っていた。鳥居の元に向かった奇士が見たのは、しかし、長英と宰蔵に操られて力を増し、凶暴化した江戸の稲荷たちだった。

 比較的静かな(地味な)展開だった獄二に比べ、グググッと盛り上がってきた感のある獄三。妖夷も冒頭の赤猫とラストの稲荷と、巨大なタイプが二体登場(よく考えたら獄一のテグスといい、なにげに巨大妖夷が多いですね今回)、幕間以来久々の、全員(ただし宰蔵除く)の漢神武器を用いたアクションシーンもしっかりあって、個人的には満足度の高いエピソードでした。

 そして今回も物語の中心となるのは宰蔵と高野長英。小笠原様を想う余りとはいえ、赤猫と一体化して牢屋敷に火を放ったのはやはり重罪と思い悩む宰蔵は、その心の隙を、長英の言葉によって揺さぶられ、そして宥め賺されて長英と行動を共にすることとなってしまいますが…境遇的に仕方ない部分もあるとはいえ、以前の稲荷とペルソナ妖夷のエピソード同様、他人の言葉を鵜呑みにして暴走する宰蔵がどうにも痛ましくてなりません。
(同じように長英に誘われたアトルが踏みとどまったのは、往壓の存在もさることながら、実際に異界を見た者ゆえのことでしょうか――)

 しかしやはり強烈なのは、その宰蔵はおろか、妖夷たちをも自在に縛り、操る力を得た高野長英。獄二で受けた、知性と剛毅さという印象はそのまま、その自らの長所をネガティブな方向に利用して、上記の如く宰蔵や、アトルにまで触手を伸ばす様は、その行動が一定の説得力を備えているだけに、よりおぞましく、恐ろしく映ります。
 それにしても驚かされるのは、長英の妖夷に関する造詣の深さ。かつて西の者が語った、妖夷と一体化して操れる者は神の血を引く者のみ、という言葉を一笑に付し、独自の視点でもって妖夷を分析、使役する様には(TVシリーズ本編終盤の展開がひっくり返されたように見えることも相まって)唖然とさせられました。長英先生、師匠のシーボルトに「日本妖怪誌」でも見せてもらったのかしらん。
 さらに長英の力となっているのは、同志であった小関三英(はっきりと名前は出ませんでしたが、獄二の回想シーンに登場した小関さんはこの人物のことでしょう)の怨念が取り憑いたという聖書であります。聖書を読んで妖夷を操ろうとしたシーンには、おいおいと突っ込みたくなりましたが、この聖書、小関氏の怨念が籠もり、それ自体が妖夷と化したという代物。神の言葉を記した書物が妖夷と化したとき、その言葉は妖夷を縛る鎖と化すというのは、異界のロジックとして何だか納得できるように思える――のは既に自分が長英の術中にはまっているのかもしれませんが――ものでありますし、ある意味、漢神に対置される存在として実に面白いと思います。

 そしてこの長英が求めるものは、何と間宮林蔵の遺書。色々と黒い部分も噂されるこの人物と、長英は因縁浅からぬものはあるわけですが、その林蔵が長英に宛てた遺書に記された秘密とは――ここに来て、ある意味実にストレートな伝奇展開ですが、さてその遺書に記された内容が、長英にとって、この物語にとってどのような意味を持つのか。長英の言動を考えると、異界に関するものと想像できますが、それもちと単純な考えにも思えますし…
 さらに気になるのは、長英の術を撥ね除けるためにケツアルコアトルと化した雲七を見た際の、長英の言葉。竜という存在が江戸に居ることに、鳥居の思惑が秘められているようなのですが――TVシリーズ終盤からの怒濤の展開の中で何となく流していましたが、考えてみれば、鳥居が往壓に拘る理由は未だにはっきりしないまま。特にこの「奇士神曲」では、相当危ない橋を渡ってまで奇士たちを庇っているわけで、さてそれが本筋にどう絡むことになるのか、これはある意味、長英の動向以上に私には気になります。

 さて「奇士神曲」も残すところわずか二話。思わぬ豊川狐の参戦で、すっかりオールスターキャストの展開となりましたが、次回はさらに新キャラも登場する様子で、本当に二話でちゃんと完結するのかしら? と不安にならないでもないですが、TVシリーズのことを考えればそれは杞憂でしょう。きっちりと盛り上げて、どのような形であれ、最後は奇士が皆が幸せになる結末を望みますが…さて。


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2007.10.14

「天保異聞 妖奇士 奇士神曲」 獄二「ディーテの市」

 佃衆殺害の廉で獄に繋がれた小笠原は、鳥居の手により死を偽装され、小伝馬町の牢に入れられる。そこで彼が出会った牢名主こそは、かつて蛮社の獄で捕らえられた高野長英だった。一方、往壓たちも鳥居の手により匿われていたが、宰蔵は小笠原に逢いたい一心で浮民に身をやつし、牢に近づく。が、牢屋敷では、外に出たいと願う囚人たちの想いが火の妖夷・赤猫が出没。長英に唆された宰蔵は、自らの舞で赤猫に力を与え、牢は火に包まれるのだった。

 もうすぐ最終巻が発売されるにもかかわらず、別れがつらくてなかなか紹介できなかった「奇士神曲」ですが、ようやく思い切って紹介。まずは獄二「ディーテの市」であります。

 前回、ハメられたとはいえ人を斬ってしまった小笠原様。なぜか町人の牢に入れられているところから始まって、おいおい、考証どうなってるのよ(江戸時代は身分によって入れられる牢が異なります)と思ったのはマニアの浅知恵。ちゃんと、水野派の口封じから守るための鳥居様の手が回っていたのでありました。
 が、そこに待っていたのが、鳥居様も恐れる男、あの高野長英であったとは…

 「妖奇士」に高野長英が登場する、させたいということは、以前から聞いていたように思いますが、しかし鳥居様以上に有名な歴史上の人物ゆえ、どのようなキャラクターとして、そしてどのような扱いで描くのか、気になっていたところですが、これがさすがに見事なキャラの立たせ方。
 史実として伝えられる高野長英の行跡を見るに(いや私の場合、山風の「伝馬町から今晩は」の凄まじい地獄の使者っぷりが印象に残っているせいかもしれませんが)、単なる不運な学究の徒とは思えない、誠に失礼ながら一種山師的なバイタリティすら感じてしまうのですが、本作での描写はまさにそれだったと思います。

 知性と同時に豪毅さを感じさせるデザインに、声はあの男の中の男を演じさせたら斯界屈指の名優・大塚明夫という男臭さながら、しかし、いかにもこの作品らしい陰と屈折を感じさせるキャラクターとして設定されており、その存在感・人間としての貫目は、鳥居様に匹敵するものがあると言えます。
 才能と野心に溢れ気骨ある人物が、社会や政治の動きによって存在を抹消されたとき、果たしてどうなるか、何を望むのか…浮民として牢に近づいた宰蔵に、言葉を巧みに選びつつ、赤猫に力を与えるよう唆すシーンの厭らしさは、実に見事としかいいようがありません。
(ちなみに、長英と小笠原様との出会いを描いたシーンに、説十二で死んだ加納さんがちゃんといたのにちょっとしんみり…)

 そして宰蔵と言えば、彼女の心の行方もまた見所の一つ。髷を切り(ここでオトナアニメのインタビューで、髷の有無に言及していた會川氏の強い言葉を思い出しました)、入れ墨を入れて浮民に身をやつし、牢の世話役となった彼女の決意は、現実の歴史でこの役割をどんな層が担っていたかを考えれば、どれほど凄まじいまでの想いに満ちたものかと、粛然とした思いにすらさせられるものがあります。
 もちろん、いかに長英に唆されたとはいえ、いかに赤猫による間接的なものとはいえ、牢屋敷を火に包んでしまったのは、とんだ八百屋お七と言うべきかもしれません。しかし宰蔵自身の言葉で語られている通り、男としても女としても生きられない宰蔵が、ただ一つ、奇士として己自身でいられる場所が小笠原の下であることを考えれば、責める気にもなれないのが正直なところ。
 そしてもちろん、宰蔵だけは普通の女でいさせたかった、という往壓の想いにも心からうなずけるものがありますが――いやはや、この辺りのドラマ設計は実にうまい(ただ一つ、これは今に始まったわけではないのですが、「一度妖夷の肉を食べたものは、これを食べ続けずにはいられない」という要素に今ひとつ重みが感じられないのが残念。この辺りがもっとはっきりと見えていれば、宰蔵のノーフューチャーぶりにさらに重みが加わったかと思います)。

 そんな人々の想いを込めて牢屋敷は燃え、高野長英は史実通り脱獄。さてこの先の物語に何が待ち受けるか…考えれば考えるほど想い気持ちになってきますが、ファンとしてはただ先の光明を信じてついていくのみ。往壓にすがりついた玉兵親分のような気持ちで(本当にこのシーンでの親分の言葉は、我々ファンの気持ちをそのまま代弁する思いですわ…)続くエピソードを待ちたいと思います。
 …というわけで、DVD七巻に同時収録の獄三に続く。


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2007.08.23

「天保異聞 妖奇士 奇士神曲」 獄一「嘆きの河」

 早すぎた放送終了から四ヶ月…DVD収録のオリジナルストーリーという形で、「天保異聞 妖奇士」が帰ってきました。全五話の新作エピソード「奇士神曲」の第一話である獄一「嘆きの河」は、TV最終回から半年後の江戸を舞台に、奇士たちの新たなる戦いが幕を開けることになります、が…
(以下、ネタバレ注意でお願いいたします)

 時は天保十五年。水野忠邦は罷免され天保の改革は失敗したものの、清吉のロケットは打ち上がっても庶民の暮らしは変わらないままのある日、江戸湾で釣りに出た旗本たちが次々に姿を消すという事件が発生します。跡部良弼の命を受け、(蛮社改所復活と引き替えに)再び集結した奇士たちは、事件の中心と思しき佃島に向かいますが、そこで彼らを待ちかまえていたのは、白魚穫りの漁師たち――いや、幕府設立以来、江戸湾を守ってきた隠密・佃衆。奇士たちを不逞の輩として捕らえようとする佃衆に、自分たちが罠にはめられたと気付く往壓たちですが、時既に遅く、やむなく彼らをその手に掛けるのでした。
 と、そこに出現する巨大な人魚のような妖夷。実はただ一人生き残った佃衆の青年に操られていた妖夷を迎え撃つ奇士たちは、これを粉砕するのですが――彼らに差し向けられたのは、蛮社改所の痕跡をこの世から消そうとする阿部・跡部の配下たち。江戸を逃れることを余儀なくされた奇士たちの運命やいかに…

 と、妖夷の跳梁に始まり、奇士たちのその後の描写に時代に忘れ去られた佃衆の悲劇、妖夷との激しい戦いと、そして奇士たちを襲う幕閣の罠と、短い時間の中に、これでもかといわんばかりに物語を詰め込んでみせたこの第一話。しかもレギュラーキャラはほとんど全員(あ、本庄と花井がいなかったか)登場させているのですから驚きます。
 さすがに劇中時間は半年しか経っていないためか、それぞれのキャラはさほどイメージ等変わっていません――大変に貧乏臭いビジュアルになった小笠原様は除く――し、懐かしいという言葉が当てはまるほど、実時間も経っているわけではないのですが、やはりあの個性的な面々に会えるのは嬉しいものです。
 あと男の尻! 相変わらず男の尻は気がつくと画面に映っていますが、これは別に嬉しくありません。いや、玉兵親分の顔と同じくらい何だか懐かしかったですが。

 閑話休題、時代ものとして見た場合では、佃島を――すなわち江戸の突端を、いや江戸の海を守る命を代々受け継ぐ佃衆なる集団の存在が面白いところでしょう。将軍直々に命じられての任に誇りを持ちながらも、いつしかその役目は――任じた側から――忘れ去られ、周囲からは単なる白魚漁師としか見られぬジレンマ。そしてその想いが、妖夷を動かし、そして結果的に自分たちを滅ぼすこととなるという皮肉は、いかにもこの作品らしい苦い味わいかと思います。
 ちなみに今回登場する妖夷は、デザイン的にはボディスーツをまとった人魚、とでも表すべきもので、それだけでもユニークですが、その正体が実は…というのも意表をついていて面白い。なるほど、今でも普通に見られる×××も、その原材料と製法を見れば実におぞましいものであります。


 さて、ここまで結構な点ばかりを挙げてきましたが、あまり芳しくない印象の部分もあるのもまた事実。
 上記のようにこの一話に数多くの要素をちりばめた結果――特に全体の大きなストーリーに押されて――今回の物語の中心たるべき佃衆の影が相当に薄くなってしまっており、それが単独のエピソードとして見た場合のこの物語の印象を少々ぼやけたものとしてしまっているのは事実かと思います。あまりにもあっさりと佃衆が斃れてしまった部分もそうですが、かつての役目・誇りと今の姿との間で揺れ動く佃衆の姿がもう少し描けていれば…と些か残念に感じました。
 また、何よりも、絵的なクオリティがTV版に比べるとどうにも…別に私は絵だけに惹かれて本作を愛するものではありませんが、しかしやはりTV版のクオリティに慣れた目からすると、些か違和感を感じたのが正直なところ。OPとEDが歌なしというのも、これはやむを得ないこととはいえ、寂しいことです。色々な意味で寂しいストーリーであるだけに、絵とかこういうところまで寂しいと何だかもう…
 もちろん、ここで挙げた点はいずれも諸般の制約を考えれば仕方はない部分もあるのかと思いますし、贅沢といえば贅沢なのかもしれませんが…ぶっちゃけ、こうして新作が見れるだけでも本当にありがたいことではありますし(…と、スタッフの方のブログを見ると、最終話はもの凄いクオリティになるようですので、素直に期待するとします)。


 何はともあれ、ここに始まった奇士たちの神聖喜劇。幕府という後ろ盾を失った――いや、幕府という巨大な存在を向こうに回した奇士たちが、これから如何なる道を歩むことになるのか。収録された獄二の予告の時点で、既に心騒がされるものがありますが、さて。
 そしてこの獄一のタイトルを良く見れば、この「奇士神曲」は、いきなり地獄の最深部から始まったことがわかります。地獄の深奥、魔王ルシフェルが眠るコキュートスを流れる河の名を冠して物語が始まるということは、さて、一体何を意味するのか。獄二のタイトル「ディーテの市」は、地獄で言えば中間地点と言うべき場所ではありますが、それではこれから天界へ上っていくということなのでしょうか? 神が去ったこの世界で、往壓たちは誰と、何と出会うことになるのでしょうか――残り四話、心して見る所存です。


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2007.07.16

「天保異聞 妖奇士」DVD第四巻解説書が豪華な件について

 本放送終了から早三ヶ月の「天保異聞 妖奇士」ですが、DVDの方は現在第四巻まで発売されています。各巻、何かしらオマケがついているのですが、最新第四巻は、特製解説書一(ブックレット)が付録となっています。
 この手のDVDにブックレットというのは、特に珍しくないのかもしれませんが、今回のブックレットは全六四ページ、なかなか作りの細かい豪華版でした。

内容は
・インタビュー(會川昇・川元利浩・山村竜也)
・設定画・原画(往壓の初期設定画も!)
・背景美術集
・各話粗筋(説十五まで)
・用語解説(同上)
・妖夷&漢神解説(同上)
と、一部ムックと重なる部分もあるものの、ファンであれば正直なところ金を出して買っても惜しくない充実ぶり。
 これまで報じられてこなかった情報も、往壓の初期モデルがオダギリジョーやジョニー・デップだったとか、現在放送中の「大江戸ロケット」の作業は本作と同時進行だったとか、その時から若本規夫氏に両方の鳥居様の声を演じてもらうと決めていた(「妖奇士」が一年放送だったら、同じ声の二人の鳥居様がTVに登場する異常事態になっていたのか…)とか、(このブログでも取り上げましたが)えどげんとアビの元ネタの存在への言及があったり、興味深い内容が多く掲載されていました。

 残念ながら放映は半年で終了、正直なところ一般的な(アニメファンに対する)人気も…だったため、雑誌記事等による情報掲載が少なかった本作(以前に紹介したようにムックは素晴らしい内容でしたが)ですが、こうした形でフォローしてくれるのは本当に嬉しい話ですね。掲載されているストーリーダイジェストや設定資料などは、この巻までに収録されたエピソードまで、また會川氏へのインタビューは第八巻解説書に続くとあるので、おそらく最終巻となるであろう第八巻にも同様のブックレットが付いてくるものと思われます。第六巻以降、新作エピソード全五話が収録される予定ですので、そこまで含めた完全版の内容となるであろうブックレットが楽しみです。

 と、ブックレットのことばかり書いてしまいましたが、この第四巻に収録されている吉原編は、放送中も人気の高かった屈指の名編。時代劇ファン的にも、吉原の姿を裏も表もきっちりと描いてみせた上で、さらにそれを本筋にきちんと絡めて物語を展開してみせたのには、本当に驚かされました。ラストの、夕日に溶けるように消えていく蝶の姿がまた…
 ちなみにジャケット絵は今回から登場の狂斎なのですが、ジャケ裏が怖いです。怖すぎます。


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2007.04.27

「天保異聞 妖奇士 蛮社改所入門」 妖奇士という存在の奇蹟

 約一ヶ月前に惜しくも最終回を迎えた「天保異聞 妖奇士」のムックである、公式コンプリートガイド「蛮社改所入門」が発売されました。早速入手して一通り目を通しましたが…はっきり言って、ファンなら絶対手に入れるべきもの。設定紹介やストーリーガイドはもちろんのこと、スタッフ&キャストの生の声がぎっしり詰まった、非常に満足度の高い一冊でした。

 本書の内容をざっと挙げれば――

○人物紹介(レギュラーは錦織・川元利浩・會川昇各氏のコメント付き)
○ストーリーガイド(各話毎に會川・錦織・山村竜也各氏のコメント付き)
○スタッフインタビュー(會川・山村・川元・草なぎ琢仁・ねこまたや・森大衛・山形厚史・横山彰利・大谷幸・錦織各氏へのインタビュー)
○設定画(主に妖夷のもの。草なぎ氏のコメント付き)
○キャストインタビュー(藤原啓治・川島得愛・三木眞一郎・小山力也の男性陣、新野美知・高山みなみ・折笠富美子(と藤原啓治)の女性陣に別れての座談会)

 その他、天保年間の年表や用語ガイドや、漫画版の蜷川ヤエコ氏や「大江戸ロケット」の吉松孝博氏(清吉・銀次郎と往壓の揃い踏み!)の特別寄稿、それに雑誌掲載イラストの収録などです。

 こうして見ると、ムックとしては標準的な内容かもしれませんが、その一つ一つの濃さが尋常ではなく、本編同様、その中に込められた圧倒的な情報量に驚かされます。
 特にスタッフインタビューは、質・量ともにほとんど本書のメインと言ってよいほどの内容で、メインスタッフ一人一人が、どのようにこの「妖奇士」という番組と向き合い、作り上げてきたかが実によくわかるようになっています。特に原作者であり脚本の會川昇氏のページでは、幻となった説一準備稿の全文が収録されており、元々の作品のスタイルが、実際に放映されたもの以上に(意図していたかどうかは別として)ラディカルなものであったことが見て取れます。また、幕間ラストで描かれた(そして些か唐突な印象もあった)「異界」と「物語」の関わりについても、納得のいく形で考え方が示されているところが実に興味深いところです。

 このスタッフインタビュー、そしてキャストインタビューから感じ取れたのは、彼らがどれだけ真摯にこの作品に向き合ってきたかということであり、そしてまた生まれたこの作品が――たとえ当初の予定とは異なる時期で途絶したとはいえ――どれだけ恵まれたものであったかということ。
 作品を構成するあらゆる面でこれだけのクオリティを持った「時代劇」がこうして存在すること自体、一種奇蹟的なことなのかもしれない…というのはかえって失礼な表現かもしれませんが、それが正直な今の気持ちです。


 なお…気になるDVDオリジナルエピソードについても触れられていたのですが、現時点の構想では、全五話構成で、TVの後のエピソードになる見込みとのこと。幕府の軛を逃れたことにより、幕府から追われることとなった奇士たちが北に旅する物語になるとのことですが――どうなるのだ小笠原様! ナンバーはTV版の「説」から「獄」となるようで、これはまたヘビーなお話になりそうな予感。
 もっとも構想段階の話ことですので、まだまだどうなるかは見てのお楽しみ。DVD第六巻からの収録となるらしいので、その後の奇士たちに出会えるのは、夏以降のこととなりそうです。
 本書のおかげで、いよいよますますこの作品への想いが増したところですので、楽しみに楽しみにその時を待ちたいと思います。


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2007.04.01

「天保異聞 妖奇士」 幕間「ヒトハアヤシ」

 前島聖天を襲撃する西の者。宰蔵の犠牲で逃れた小笠原だが、幕閣は蛮社改所を鳥居が設置したものとして諸共に葬り去ろうとする。鳥居と共に前島聖天に取って返す小笠原だが、その前で西の者はアトルの力を使い、その地に眠る巨大な百足の妖夷を復活させる。が、その場に元閥の漢神の力で人に戻り、機会を見計らっていた往壓が現れる。奇士たちの、鳥居の漢神の力は西の者と妖夷を打ち砕き、異界に去ろうとしたアトルも、往壓の想いに応え帰ってくる。幕府の機関ではなくなった奇士。しかしその後も彼らの活躍は終わることなく、人々の間に物語られていくこととなる…(完)

 ついにこの日が来てしまいました。「天保異聞 妖奇士」の最終回です。…が、悪く言えば詰め込みすぎ、良く言えば見所だらけの展開で、最後の最後まで一瞬たりとも油断できない展開、大いに楽しませていただきました。
 あまりに語るべき内容が多いので、主にそれぞれのキャラ方面から取り上げさせていただきます。

○鳥居様
 終盤に来て急に「実は善人」度が増した感のある鳥居様。身も蓋もない言い方をしてしまえば、これは終盤駆け足になった分の描写不足から来る錯覚であって、あくまでも彼にとっては幕府が大事、そのためには個人の命は軽く見るであろうことはこれまでの物語で語られた通りでしょう。それでもなお、彼もまた己の信念を持って生きてきた一個の大人物であることは言うまでもありません。
 最終決戦では、刀を抜いてまさかの戦闘を演じた上、漢神まで登場(でも捻りがない上に勝手に他人に使われる)。それ以上に、事件を闇に葬った上に返す刀で水野忠邦を失脚させ、さらに自分と小笠原におとがめなしという鮮やかすぎる戦後処理で大活躍ぶりにはただただ感心。
 史実ではこの後、復讐のためだけに復帰してきたような水野に反撃されて失脚、四国丸亀に押し込められるのですが、物語が続いていたらここまで描かれていたのかな? 何はともあれ、名優・若本規夫の演技もあって、単なる悪役ではない厚みのある人物として描かれていたのは、本作の収穫の一つだと思います。
 じゃあ次は「大江戸ロケット」で!

○えどげん
 番組打ち切りで最も割りを喰ったのは、まちがいなくこの人でしょう。往壓から宰蔵・小笠原・アビとそれぞれの過去編が描かれてきて、さあこれから、というところで…正直なところ急すぎた最終三部作での変心ぶりも(さらにラストのどんでん返しも)、えどげん過去編が描かれていれば、また違ったものとして見えたであろうことを考えると残念です(もしかすると「狼人同心」とのリンクもあったかもしれないしね)。
 漢神二つは、彼が(設定的に)陰陽合わせ持つキャラクターだからかしら?

○小笠原様
 終盤は上と下の板挟みで色々とかわいそうだった小笠原様。この辺りの描写は、一年続いていればもっとねっちり描かれていて、もしかすると軟禁どころでなく洒落にならない扱いになっていたのでは、という気もするので、まあこのくらいで良かったのではないでしょうか。
 …というか、もうファイティングナックル装着してからのはっちゃけぶりで全部吹っ飛んだよ! もうすんげえノリノリなんだもん! 「リングにかけろ」並みに敵をブッ飛ばしておいて、ファイティングポーズとともに「もはや私に刀は要らぬ!」ってそりゃ要らないよ! いやはや、この最終回の持つ爽やかさの半分くらいは、小笠原様の暴れっぷりによると思います。
 結局地下に潜った奇士たちの中で、唯一公の身分を持っているだけに、この後の方が板挟みは酷くなるんじゃないかと心配になりますが、宰蔵もいるし、身分的には一番君が勝ち組だ! …幕府が続く限りは。

○西の者
 何だか物語を終わらせるためだけに出てきたような扱いになってしまった彼ら。しかし説二十四の感想にも書きましたが、実は後南朝でした! というだけで伝奇ファンとしては満足です。朱松(ずっと赤松だと思ってたよ…)は滅んだものの、彼がリーダーであっても首領とは一言も言っていないわけで、まだ西の者全体の暗躍は続くのではないでしょうか。首もまだありそうですし。
 しかし、量産型テレホマン/´∀`;::::\になったり、宰蔵と踊り対決をするかと思ったらいきなりブッた斬られたり、全般的に彼らも(やられ役として)はっちゃけていたのが素敵。

○アトル
 ラスト近くになって中二病を発症して色々と心配させてくれた彼女ですが、よく考えたら登場したときからそんな感じだった、というか登場する度(除く日光編)に話が暗い方向に向かってたような気がします。ということはこの子のおかげで…という気もしますが、それはちょっと酷な話。重い過去を背負った登場人物ばかりの中で、掛け値なしに一番重い過去を持っていたのが最年少の彼女だったのは間違いありません。
 そんな彼女を異界から現世に引き戻すきっかけとなったのが、ある意味アトルとはネガとポジの関係とも言える往壓だったのは、当然と言えば当然ですが、さすがに「俺は君がいないとダメなので側にいてください(意訳)」呼びかけるとは思いもよらなかったなあ…が、これまで孤独の中で生きてきた彼女にとって――いや、これは人間全般にとってかなり普遍的な話かと思いますが――誰かが自分を必要としてくれているというのは、自分自身の価値を認めてくれる人がいたということであり、何よりも嬉しいことであることを考えれば、意外ではあるものの、実に納得のできる結末だと思います。

○往壓
 それはそうなんだけど、四十目前のニートが十代の娘つかまえて「俺と一緒にいてください」orzというのは、深読みしなくてもいかがなものか? という気分にもなりますが「まぁ、いいさ!」
 振り返ってみれば、三十九歳という年齢設定が十全に活かせていたとは言い難い部分もありましたが、しかし問題のアトル説得シーンなど、この年になってもダメなんだから本当にダメなんだな、という不思議な説得力があったようにも思います。
 なんだかんだいって、愛すべき主人公であったと心から思います。でも俺はこの年にはもっとまともな人間になっていようと思います<俺ヒドス


 そして奇士たちの物語はひとまず終わりを告げました。が、それは、アニメ番組という形は終わったものの、その中の世界では、逆に彼らの物語が始まるという一種メタな形でもあります。この辺り、いささか唐突ではありますし、理が勝ちすぎている感もありますが、異界に当置される、そして対極に置かれるものとして「物語」が提示されるというのは、なかなかに考えられたオチではありますし、納得できるものもあります。
 これから彼らの物語が、いつ如何なる場で語られるかはわかりませんが――語られること自体はあると信じたいものです。まあオリジナルビデオストーリーはあるようですが――私はこの風変わりで型破りで、欠点も色々あるんだけど愛すべき物語を、これからも語り伝えていきたいと、今は強く感じているところです。


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2007.03.27

「天保異聞 妖奇士」 説二十四「後南朝幻想」

 アトルの力で現れた巨大妖夷・祗影。アトルを止めようとする往壓だが、西の者はアトルと祗影を捕らえ、祗影と一体化してしまう。妖夷こそはかつて神々が現世に遺していった神の鎧であり、神の血を引く後南朝の末裔である自分のみが操ることができると語る西の者。駁竜に変じた往壓は祗影を倒すが、人間に戻ることができず、半ば妖夷化してしまう。と、そこに西の者側についた元閥が現れ、叢雲剣で往壓を貫くのだった…

 まさに風雲急を告げるラスト一話前と言うべき内容でありました今回の「天保異聞 妖奇士」。
 主な内容を上げれば
・アトル中二病発症
・アトルを往壓に託す狂斎
・踊るおっさん巫女と妖夷=神の鎧説
・西の者の正体と鳥居の真意
・大魔獣激闘
・遂に往壓妖夷化&えどげんの裏切り
と、確かに詰め込みと言えば詰め込み、急展開ではあるのですが、前回が小難しい――と言って悪ければ細やかな人間描写が必要な――話を詰め込もうとして消化不良になっていた一方で、今回は物語の重要な背景設定を盛り込みつつも基本はアクションで、詰め込みがかえって状況の緊迫感を強めていたように思えます(というのは贔屓目に過ぎるかもしれませんが…また、唯一ソテ姐さんの狂乱が唐突に見えてしまったのが残念。気持ちは何となくわかりますが)

 上記のようにポイントは山ほどありますが、まず挙げるべきは妖夷の正体でしょう。かつて八百万の神が、現世においてまとったという鎧。神々が異界へ去る際に現世に遺したその鎧と、人の想いが合わさって生まれたものが、妖夷と呼ばれる存在だった、と。なるほど、以前アビ姉が登場した際に、妖夷は異界に留まれないと語られていましたが、それとも確かに平仄は合います。
 そしてまたそこから繋がってくるのが、神は、神の血を引く者は、妖夷と一体化して(モビルトレースシステムの如く)操ることができる、という事実。これもまた、数話前の吸血妖夷の回で、西の者が異国の吸血妖夷を身にまとおうとしていたこと、そして誤って妖夷と一体化してしまった男が暴走したこととも整合性が取れています。
 もっとも、妖夷が神の鎧だったら豊川の姐さんたちみたいな存在は一体…という気もしますが、あれはまあ、妖夷とはまたちょっと違う神様に近いものか、あるいは何かの拍子に自我を持ったり人を取り込んだりした妖夷なのだと思っておきます。
(なお、この神の鎧という テーマ、同じ會川作品である「南海奇皇(ネオランガ)」と通じるもののがあるとのことなのですが、そちらは未見なのが残念)

 それはさておき、伝奇者的にたまらないのは、その妖夷の特性を使って幕府転覆を企む西の者の正体が、実は後南朝の末裔だった、というところ。後南朝については番組中でも語られていましたが、南北朝合一に不満を持つ南朝方の人間が吉野に籠もって正統の王朝を唱えたもの。結局は時勢にあらがえず自然消滅してしまったようですが、その存在の面白さから、室町時代を描いた時代ものにはしばしば登場する存在です(が、不勉強にして江戸時代に後南朝を登場させた作品は、すぐには思いつきません)。
 この後南朝が歴史上に姿を現した事件の一つが、1443年(嘉吉3年)の禁闕の変で、この時は後南朝側が内裏に乗り込んで神璽と宝剣を奪っていますが、それが今回竜殺しの剣として往壓を貫き、若本規夫にしては珍しくうろたえた声を上げさせた叢雲剣の登場に繋がってくるのですが…どんだけマニアックなのだ、一体。
(マニアックと言えばもひとつ、祗影=「桃山人夜話」の赤エイ=リヴァイアサンなんてとんでもなさすぎる話をサラッと出してくれるのが最高でありました)

 さて、往壓は(尻丸出しで)倒れ、えどげんは西の者側に立ち、アトルはその手に落ちたという最悪の状況となって次回に続く、となったわけですが――どうやら次回は奇士の本拠である前島聖天が西の者の襲撃を受ける様子。この絶体絶命のピンチに小笠原様のマッハパンチ炸裂!?
 …と、実にカオスな状態の次回最終回を、悲しくはありますが、まずは楽しみに見届けたいと思います。 

 と、次回は「最終回」じゃなく「幕間」? しかもビデオでオリジナルストーリー? 
 まあ、「幕間」ってのは少年漫画で言う「第一部完」と同じようなモンだと思いますし、オリジナルストーリーもごく限られた話数だとは思いますが――と、さすがに今更楽観的にはなれないのですが、少しだけも希望が見えるというのは良いものですね。


 …しかしあのおっさん巫女はもの凄く安永航一郎臭かったなあ


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