「モノノ怪」第四エピソード「鵺」前後編の今回は後編すなわち解決編。前回で提示された様々な謎が明かされ、「鵺」の正体が明かされることとなりますが――いやはや物語の全貌は、全くこちらが予想だにしなかった、意外なものでありました。観る者により姿を変えるモノノケ「鵺」のその正体は…(以下、ネタバレにつきご注意を)
三人組が求める東大寺、それは欄奈待という、それを持つ者は天下人にすらなれるという名香(名前こそ異なりますが、ここで語られている内容はほぼ「蘭奢待」のもの。ここで欄奈待と呼んでいるのは、元々がやんごとなき向きのお宝だけに、実名を使うことを憚ったのではないでしょうか)。本来であれば東大寺正倉院にのみ存在するはずのこの名香が実はもう一つ存在し、笛小路家に伝えられていたというのです。
かくて、その東大寺を賭けての組香・竹取の香を、今度は薬売りを香元として始めることとなりますが…どうも今回の薬売りはいつも以上に挙動が不審で、香の中に、毒を持つ夾竹桃――実際、キャンプなどで枝を串焼きの串や箸代わりに使って死人が出たケースもあります――を「うっかりうっかり(棒)」混ぜてしまったと言い出す波乱含みのスタートです(開始前に薬売りが背負い箱から何やら探している時の、箱の回りの散らかしっぷりが子供みたいでやたらとカワイイ)。
それでも度胸を決めて組香に挑む三人組ですが――室町が手にした香は何も香らない。それもそのはず、それは香ではなくて襖の切れ端、血のたっぷり染みこんだ襖の切れ端。…って、一体何を!? と思えば、さらに薬売りは室町が実尊寺を殺したと言い出します。他の皆よりも早く来ていた室町は、イヤな京都人丸出しの実尊寺の度重なる嘲弄に怒って斬殺していたのでありました(にしても、生前の実尊寺は上半身裸に裃という、「海坊主」の乳首坊主に並ぶロックなコスチュームで吃驚)。と、秘密を暴かれた室町の前に現れたのは、彼の目にのみ映る、腐った泥田坊のようになった実尊寺。実尊寺は彼を襖の向こうに引きずり込んで…
それでも続く組香、次の香(?)は、半井だけにのみわかる香り…髪の毛を焼いたときの匂いでありました。半井もまた秘密を持つ身――そう、瑠璃姫殺しの下手人は彼。源氏香が終わり、皆が中座した後で瑠璃姫に迫った半井は、全く自分を省みようとしない(婉曲的表現)彼女を激情に任せて殺していたのでした。
そして半井は何故か自らも瑠璃姫と同様、血まみれになって消え、残るは大澤のみ。しかしその大澤も、夾竹桃に当たってしまい、パニックに陥った末に外に転がり落ちて首の骨を折って――そして誰もいなくなった。
一体、今回の薬売りは何を考えてこんなブラックなことばかりしでかしたのか(夾竹桃のことも、なんちゃって、全部ウソと言い出しますし…)と、この辺りでかなり混乱したのですが、ここから急展開。一人になった薬売りは、瑠璃姫の遺骸に…いや、その傍らにあるモノに向かって語り始めます。これまでの組香は、三人に自分の人生が終わってしまったと、自分たちが既に死んでいたと自覚させるためのものだったと。すなわち、この屋敷には薬売り以外誰もいなくなったのではなく、最初から誰もいなかったと――
今回のモノノケ「鵺」の正体は、見る場所によって姿の違うモノノケの正体は東大寺そのもの。全ては、自分が自分であるために(何せ興味がない者にとっては香木も単なる腐った木で…)自分の価値を認めてくれる者を必要とした東大寺の仕業。自分の噂を聞きつけてやって来る者を取り殺し、夜な夜な組香を――そしておそらくは今回のようにそれに伴って起きる事件をも――行わせていたと。
なるほど、とここで思い至って感心したのは、前回の感想に書いた色彩の表現です。画面がほとんどモノトーンで支配される中、ただ薬売りのみが(あと庭の犬も)彩色され、三人組はモノトーンで描かれていたのは、彼らが既に生なき偽りの存在であったことの証。そして三人組が香を聞いた時にのみ、画面が彩色されたのは、単なる香りの強調の表現だけではなく、彼らが香の香りの中で生きている、生かされているということだったのでしょう。いやはや、恐れ入りました。
また、前回の源氏香で薬売りの回答が「幻」だったのも、今にして思えば実に意味深です(さらに考えれば、場面転換の時に三人組がポン、と消えるのは演出ではなく、本当にああいう出入りをしていたのかも…)。
何はともあれ、一気呵成に展開する物語に混乱したのも一瞬、見てみれば屋敷の庭は、無数の墓で――犠牲者の墓で――埋め尽くされていた、というシーンには鳥肌が立ちました。うむ、ホラーだ。実にホラーです。
とはいえ、モノノケの形と真と理がわかってしまえば鵺も薬売りの敵ではありません。亡者と化した四人組が迫る中にも冷然と立ち、久々の「解き放つ」フルバージョンで変身した薬売りの一撃で東大寺は炎に包まれるのでありました。
そして東大寺が炎に消えた瞬間、モノトーンだった世界が鮮やかに彩られ、魂が解放されたか、美しく変わった屋敷の庭には四人組を始め、香を楽しむ人々の姿が――が、それも一瞬、薬売りの「香、満ちたようでございます」の言葉とともに屋敷は荒れ果てた姿に変わり一件落着。薬売りとともに唯一屋敷の中で生ある存在だった小犬が、残り香を嗅いでイヤな顔でくしゃみをするという皮肉な幕切れで一巻の終わりとなるのでありました(閉まった襖のバックに、物が燃える音が被さる演出も実にうまい)。
さて、終わってみればこの作品にしては珍しくかなりストレートに謎を解き明かして終わった印象のある今回のエピソード。前回の感想でも少し触れたのですが、個人的には捻くれた作品が(も)好きなせいか、最初は見ていてちょっと物足りなくも思ったのですが、最後まで見てみれば、終盤の一捻り二捻りも実にうまく効いた上にコミカルな要素、ホラーとしての要素もきれいに配分されていて、かなり面白いエピソードになっていたと思います。ある意味毎回毎回変化球で攻めてくる「モノノ怪」ですが、たまにはこういうストレート(に見せてもちろん相当クセはあるのですが)も良いですね。今回は珍しく「泣かせ」の要素がなかったことも、スッキリした後味につながっていると思います。
しかしうるさいことを言えば、ちょっと画面のクオリティ的には不満もあったのは事実。退魔の剣の発動シーンは短いながらも札のアクションと組み合わせた実にケレンの効いたチャンバラアクションとなっていて実に満足したのですが、その前の変身シーンが「化猫」の時のバンクで…。いや、それは別にいいのですが、アスペクト比考えないで流用しているから画面がおかしなことになってしまったのはいただけない話であります。
それ以外にも全般的に作画はちょっとマズい状況で、特に薬売りの顔つきがころころと変わってしまったのは、物語が面白かっただけに何とも残念であります(しかしそれでも薬売りは薬売り、としっかりわかるのは、いかにデザインとして薬売りが優れているかの現れ…というのは褒めすぎですかね)。
もちろん、作品全体の面白さを損なうほどではなく、あくまでも贅沢なワガママ、ではありますが…
さて、いよいよ来週からはラストエピソード「化猫」に突入。「怪 ayakashi」で放送された名作「化猫」と大胆にも同タイトルですが、何と舞台は地下鉄の中というのですから驚きます。地下鉄というからには時代は20世紀になるのかと思われますが(史実では日本初の旅客用の地下鉄は1927年開通)、さて薬売りはどのような姿で現れるのか。予告の映像を見た限りでは着物の色や小物等が、いままでと異なるようですが…(時代を超越して現れることについては、もう驚きません)
そしてまた、地下鉄の客らしき人間たちの顔が、かつての「化猫」事件の関係者に瓜二つなのもまた気になるところ。彼らの子孫か転生か、はたまた他人の空似かはわかりませんが、大いに期待を煽ってくれます。
見事に完結した「化猫」のエピソードを再び持ってくるからには、スタッフにも色々と考えがあるはず。はたして伝説再びとなるか――これは見逃せません。
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