2009.05.10

有楽町で薬売りに出会う

 今日は作品紹介ではなく今日あったことネタ。
 人間、一体どこで時代伝奇関連のブツと会うかわからないなーというお話です。出会った場所は、有楽町の東京国際フォーラム…

 今日は国際フォーラムで開かれた「live image」に行ってきました。
 「live image」というのは、文字通り「image」というインストゥルメンタルの曲を中心にしたCDの参加ミュージシャンによるライブで、国際フォーラムでは毎年この時期に開かれています。
(今年で9回目ですが、私ほとんど毎年行ってます…)

 このライブ、必ずしもシリーズのCDに収録された曲ばかりでなく、ミュージシャンが他の場所で発表した曲も流されたりもします。
 さて今回(というかほとんど毎回)そのミュージシャンの中に、バンドネオンの小松亮太さんが加わっていたのですが、その小松さんがMCで曰く
「次は僕が作曲した曲で、アニソンなんですけどね」
 アニソン?
「チャーリー・コーセイさんが歌った曲なんですが「下弦の月」という曲で…」

 「モノノ怪」のOPキタコレ! 三田さん一人で大興奮。
 しかも映像付き!

 映像の方は、てっきりOP映像+α程度かと思いきや、これが「モノノ怪」全五話+OP・ED映像の編集版。
 この映像はステージ上の三面スクリーンに映されたのですが、嬉しいことに映像は「モノノ怪」でお馴染みのあの襖からスタート。襖が両脇に開いて、映像が真ん中のスクリーンに映されるという、心憎い趣向であります。

 原曲は、くせ者番組にふさわしく、かなりトリッキーなボーカル曲ですが(MCで「歌いにくいので有名な曲」と小松さん自ら評していたほど)、ライブではオフボーカル版。
 その代わりというわけではないでしょうが、ライブでの演奏は、サックス、そしてオーケストラが加わっての豪華版でしたが、これがまた、全く違った味わいで実に良いのです。
 特にサックスの乾いた音色が、驚くほどに曲にマッチして…いや素晴らしいものを聞かせていただきました。


 まあ、「live image」に足を運ぶ人間の中で、「モノノ怪」ファンがどれだけいたかはわかりませんが――というかほんとうにごくわずかだと思いますが――そんな思わぬところでの再会を、大いに嬉しく思いました。

 やっぱりモノノ怪は、薬売りは不滅なんだねえ…というには痛い以外の何者でもない感想ですが、しかしそんな気持ちにもなるというものです。
 粋な計らいと素晴らしい演奏を見せてくれた小松亮太さんと、スタッフに感謝です。


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2007.09.29

「モノノ怪」 第十二話「化猫 大詰め」

 楽しかった三ヶ月間もあっという間に過ぎ去り、遂に「モノノ怪」も最終回。「化猫」の大詰めは、かつての「化猫」と全く異なる物語の全貌を明らかにしますが…

 全ての乗客が消えたかに見えた中、ただ一人帰ってきた新聞記者・森谷。彼の記憶を辿り、明かされた市川節子の死の真実――それは、男性社会の中で這い上がろうとしていた節子が掴んできた、地下鉄建設を巡る市長の汚職事件にやはり端を発していました。
 汚職の証拠を掴んだ節子に一人記事を書かせておいて、森谷は密かに市長と結び、節子の記事を闇に葬ろうと画策。そして完成した節子の記事を巡ってあの鉄橋でもみ合ううち、節子は線路に転落、という結果となります。

 そして節子が列車に轢かれるその直前まで感じていた、怒り・恨み・恐怖――その思いが、その場を通りかかった猫と結びついてモノノケと化した…というのが化猫の真でありました(この節子の死の直前のシーンがまた実に迫真の描写で…)。
 その後、二ノ幕で描かれたように節子の死は、偶然事件に関わり合った人々の様々な思惑が結びついた果てに自殺として処理され、単なる不幸な事件として忘れ去ろうとしていた中、因縁の地下鉄が開通して、そこに化猫の復讐の顎が開かれた――それが化猫の理、ということになるのでしょうか。

 さてこの真と理、旧「化猫」やこれまでの「モノノ怪」のエピソードに比べると、正直なところ、良く言えばストレート、悪く言えば意外性に乏しい内容であったかと思います。事件の真相については、二ノ幕までの情報でほぼ予想できる内容でしたし…
 また、今回のエピソードの被害者たる市川節子嬢のキャラクターも、上昇志向が強く、いささか生臭い面もあって(旅館の仲居さんを見下したり)、こうした点なども含めて、ネットで見る感想は、否定的なものが多いかな、という印象があります。

 僕個人としても、良くも悪くもあまりに綺麗に収まってしまった感があって、あれっというのが第一印象だったのですが、見返すうちに、これはこれで良いのかな…という気持ちもしてきました。

 ある人間の明確に邪悪な意志に端を発した行為が、モノノケを生み、惨劇を招いた旧「化猫」に対し、個個人のちょっとした、小さなボタンの掛け違いが、積もり積もって惨劇を招いたこちらの「化猫」。
 こちらのエピソードのスタイルからすれば、被害者だけが純粋無垢というのは、かえって不自然というべきかもしれません(少なくとも、あれだけ上昇志向がなければ、これほど強力なモノノケにはならなかったのでは…)し、この二つの「化猫」の物語の構造の違いは、なにやら近世と近代の、人間精神のありかたに起因するようにも思えてきます。

 また――ラストに現れた無数の猫たちの姿は、いつまた、人の心のありようによって、新たなる思いを背負った「化猫」が、すなわちモノノケが生まれてもおかしくない、ということなのでしょう。そういった意味では、旧「化猫」とこちらの「化猫」は、一種の環を描いているようにも思えます。
 そしてそれこそが、あえてこの番組のラストに「化猫」というエピソードを、背景となる時代を変えながら、登場人物のビジュアルを前作からほとんど変えずに描いた理由ではないかと、これはいささか牽強付会かも知れませんが、感じた次第です


 何はともあれ、今期おそらく最高のクオリティで描かれた薬売りの変身シーン(良く見ると後ろにモノノケと化した節子さんの恐ろしい姿が映っていますが…)にはため息が出ましたし、空間全てがモノノ怪、という化猫の壮絶なビジュアルにも感心いたしました。
 途中、森谷への審判(だったのでしょう、あれは)が挟まったためにアクションのテンポが崩れたと感じている方も多いかと思いますが、個人的にはその前の一連のシーケンスが神懸っていただけに、十分満足してしまいました。
(…あ、思わぬところに小田島様が。これじゃあモボ島様というよりモブ島様だなあ)

 そしてラスト、EDに被せて描かれる後日談は甘甘ではありますが、しかし残された人々――それも一度は彼女の死を黙殺するのに手を貸した人々――の心に節子の存在が残ったということは、何よりの鎮魂となるのでしょう。
 また、結局、後日談で不正が暴かれたことを考えると、モノノケの意志は、市長と森谷に復讐するだけでなく――復讐だけであれば、関係者を集めて証言させるまでもなく、あの二人を殺害すればよいだけの話ですから――、不正を明るみに出すこともあったのかなと感じたことです。


 さて、最後に一つ、蛇足を承知で言えば、人が人である限り、モノノケが不滅であるのであれば、それを斬る剣も、またその剣を操る者もまた、薬売りの言葉にあるように、同様に存在し続けるのでしょう。
 つまりここで「モノノ怪」という物語が一旦終わったとしても、退魔の剣を手にした薬売りの物語は、まだまだ続くということ。

 薬売りとの二度目の再会を祈りつつ――「モノノ怪」の感想をここに終えさせていただきます。
 いや、本当に楽しい三カ月間でした。

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2007.09.22

「モノノ怪」 第十一話「化猫 二ノ幕」

 「モノノ怪」版「化猫」全三話の真ん中、二ノ幕の今回は、序破急でいえば破に当たりますが、破は破でも破滅の破じゃないかと言いたくなるほどのデス展開。あの人物が、この人物が、こちらの想像を上回るスピードで姿を消し、消されていくという、些か意表をついた展開となりました。

 鉄橋から飛び降り、列車に轢かれて死んだという新聞記者・市川節子。自殺として処理された彼女の死の背後に何があったのか。何故彼女は死ななければならなかったのか。そもそも彼女の死は自殺だったのか。
 地下鉄に集った、いや集められた人々の口から、その真が浮き彫りにされていくこととなるのですが――

 少年は語る。事件現場から立ち去る何者かの姿を目撃していたが無関係と思い黙っていたと。
 記者は語る。節子は地下鉄を巡る汚職で市長を追っていたために殺されたのではないかと。
 車掌は語る。何かを轢いたことには気付いたものの、猫だと思いそのまま列車を走らせたと。
 女給は語る。有名になりたい一心で刑事に対して適当に話を合わせて自殺だと証言したと。
 主婦は語る。情人のもとで節子が何者かと言い争う様を聞いていたが黙っていたと。

 一人一人が、それぞれに事件について知っていることがあったにも関わらず、それを黙っていたことにより、それぞれが結びついた果てに一人の女性の死の真相を隠蔽することとなった――現時点でわかるのはこんなところでしょうか。

 しかし、モノノケが求めるその代償は厳しすぎると思えるほどのもの。
 まるで初めから結論ありきで捜査していたかのような刑事が、ようやくたどり着いたかに見えた駅の幻影に誑かされてドアを開けたところを化猫の爪に捕らわれ虚空に消えたのを皮切りに、証言者一人一人が消されていくこととなります。
 そしておぞましいのは、それぞれが消される直前、それぞれの証言に関わる体の部位――少年は目、女給は口、主婦は耳、車掌は足、記者は全身――に耐えがたい痒みを覚えた果てに、それを狂ったように掻き毟る様。
 これは化猫の、節子の罰ということなのか――ついには薬売りを除く全員の無惨な躯と化した様が描かれますが…
(しかし少年のみ画面に映っていない女性の姿に怯える描写があったを不思議に思っていましたが、これは彼が見たものを見たと言っていなかったためだったのですね。同様に、主婦の耳にのみ「許さない…」と聞こえたのも、彼女が聞いたものを聞いたと言っていなかったからというわけで、これにはちょっと感心しました)

 しかしそれ以上におぞましいのは、パニックに陥った乗客(特に女性二人)がエゴ剥き出しで罵り合う様でしょうか。
 他人事だと思っていた事件に、それぞれの事情があって行った証言が、このような形で自分に祟ってきたら、それは確かに恐慌をきたすのも無理もない話ですが、やはり見ていてキツいことは間違いありません。
 特に旧「化猫」、「海坊主」と可愛いところを見せていた加代と同じ顔・同じ声のチヨがこうした姿を見せるのには、ちょっとショックを受けた方も多いのではないかと思います。

 さらにその上に、マネキン(=群衆)の顔のみが猫に変わったり、ピカソの絵を更にグロテスクに歪めたような壁画がでてきたり、「ヤメテ」の書き文字が画面を埋め尽くしたり――観念的な映像のラッシュが被さってくるのですから、凄まじい混沌ぶり。
 この辺りの演出には、わかりにくいという批判は当然あるかも知れませんが、しかし悪夢の奔流ともいうべきイメージの連続は、これはこれで実にこの作品らしい描写だと思いますし、ただただ圧倒されるその感覚は、個人的には決して嫌いではありません。

 しかしその狂騒が去ってみれば、残ったのは薬売りただ一人。
 本当に皆死んでしまったのか…と思ったとき、ただ一人還ってきたのは、節子の上司である新聞記者――証言をした者から消えていったことを考えれば、還ってきた記者は、未だ証言を終えていなかったということでしょうか。
 冷静に考えてみると、実は節子が殺されたと言っているのは彼一人。あるいはそこに、今回の事件の真の真があるのかもしれません。
 今回示された全員の表現を組み合わせた末に浮かび上がった節子の死の真相ですが、その組み合わせを変えれば、あるいは全く異なる真が生まれるのかも知れません。

 と、こう考えてみると、節子が、化猫が関係者全員を集めて証言を行わせているのは、真実を誰かに明らかにしたい、知ってもらいたいというよりは、むしろ自分自身が真実を知りたい――つまりは自分自身が何故死んだのかわかっていない――ように感じられます。
 今回の冒頭で、薬売りが化猫のことを「真を求めるモノノ怪」と評したのは、これを指してのことなのでしょう。これまではモノノケの内にあった真を、モノノケ自身が知らないというのであれば、これは厄介であります。

 さて、この複雑な真と理が次回大詰めでどのように語られることになるのか。
 節子の死の真相、化猫の真と理はもちろんとして、その他の様々な疑問――何故薬売りは今回のエピソードではあれほどまでに冷静なのか。本当に乗客は皆死んでしまったのか。そしてヤングガンガンの特集記事でも指摘されてしまった小田島様は今回登場しないのか。
 快刀乱麻を断つが如きスッパリとした謎解きを――そして同時に本作らしい切ない余韻を、大詰めには期待したいところです。
 とりあえず列車事故で放送中止というオチはご勘弁いただきたく。


 …しかし、今回一瞬映った節子の素顔はやはりたまきさん。ほぼ確実とは思っていましたがこれは哀しい――まあ、小田島様じゃなくてよかったけれど。


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2007.09.15

「モノノ怪」 第十話「化猫 序ノ幕」

 いよいよ「モノノ怪」も最終エピソードに突入。そのタイトルは何と「化猫」――薬売りの男のデビュー作である「怪 ayakashi」の中のエピソードと同じタイトルであります。
 しかしさすがはクセ球揃いの本作、今度の「化猫」の舞台は、おそらくは大正期の、それも走る地下鉄の車内。意外な舞台で、薬売りの最後のモノノ怪退治が始まることと相成ります。

 地下鉄の新路線開通を記念し、招待客を乗せて走る第一号列車。が、その列車が何かを轢いた時、一両目を残して後続車両は消滅。運転手と六人の乗客――市長・刑事・新聞記者・主婦・女給・少年――を残して、乗客たちも何処かへ姿を消してしまいます。
 運転手のコントロールを離れて列車が疾走する中、市長は開いたドアの向こうの闇に姿を消し、残された人々が途方に暮れたとき、消えたはずの向こうの車両から現れたのはあの薬売り。薬売りの言葉がきっかけとなって、この場に残された人々に、いずれもある共通点があったことが判明したものの、その間もモノノケの影は徐々に近づき――

 三話構成で余裕があってか、今回は舞台設定と登場人物を丁寧に描写することに主眼が置かれているかに思えた今回、さすがにラストエピソードだけあって画的クオリティも高く、これまでの江戸時代から一変したモダーンな世界を――もちろん「モノノ怪」チックなアレンジを交えつつも――巧みに描き出していたかと思います。
 そんな舞台に、一体何歳なのか、平然と顔を出した我らが薬売りですが、さすがに(?)マイナーチェンジ、衣装全体を黒っぽいトーンに変え、さらには指輪にピアスでモダーンさをアッピールです(でもチンドン屋とか旅芸人とか言われちゃうの)。
 そして薬売りと絡む人々は、何と元祖「化猫」で見たような人々ばかり。市長はあの諸悪の権現の旗本爺の若い頃に、女給のチヨさんは「海坊主」にも登場した加代に、その他の人物も皆、あの呪われた事件の関係者にそっくりで驚かされます。これは単なる視聴者サービスか、はたまた時を越えて怨念と因縁が作用したものかわかりませんが、同じ「化猫」を冠する物語として、心憎い仕掛けかと思います。

 …しかし仕掛けと言えば、思わぬところに思わぬものが仕掛けられていて一瞬も油断できない本作ですが、今回はそれが実に恐ろしい方面に作用していて、ホラーとしてもかなりレベルの高い作品となっております。
 特に驚かされたのは、ほとんどサブリミナル映像並みのさりげなさで挿入されている恐怖映像です。Bパート開始早々、突然の怪事に呆然とするチヨの背後、窓の外の闇に一瞬映るのは、無惨に叩き潰されたかのような市長の姿(よく見ると、血の跡がひっかき傷のようにも…)。
Bake01_3
 さらに、列車が往く先に続くトンネルの闇を写した画面で、上から落ちてくる姿が一瞬差し挟まれたのは、これもおそらくは市長…(このシーン、赤く変わった天井のランプが、猫の目のようにも見えるのがまた恐ろしい)。
Bake02_2

 どちらも本当に一瞬のことで、ほとんど自分の見間違いかと思ってしまうさりげなさで挿入された映像ですが、それがまた心霊写真的というか呪いのビデオ的と言いますか、「なんか見ちゃいけないものが映ってた!」的恐ろしさがあってたまりません。
 いつもであれば目を皿のようにして、ちりばめられた謎と伏線の数々をチェックするのですが、今回ばかりはそういう見方をしてちょっと後悔…というか、既にアバンタイトルで
「許さない…許さ…許さない…」
という、怨念にまみれたかのような女性のうめき声が流れる時点で既に俺涙目www

 と、少なくともホラー演出では、すでに現時点でシリーズ最強という印象のある今回のエピソードですが、物語自体は、序ノ幕だけあって、まだまだ全く先は見えない状況。
 しかし終盤ではこの怪事の背後に、列車事故で亡くなった女性記者の存在があること、一両目に集められた人々は、皆、陸橋から飛び降りたところを列車に轢かれて亡くなったという彼女と何らかの関わりがあったことが語られており、元祖「化猫」に比べると、怪異の根元が早くも見えてきたようにも思えます。

 しかし三分、いや一分あればそれまでの物語を根底からひっくり返ることも珍しくない(というかいつも)のが本作。残り二回…それだけの間にどこまで物語が転がっていくか。
 その物語の結末は、同時に薬売りとのお別れかと思うと複雑なものがありますが、最後まできっちりと見届けなくてはと思います。
 だから放送時間の変更とか津波情報とかはもうご勘弁…


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2007.09.08

「モノノ怪」 第九話「鵺 後編」

 「モノノ怪」第四エピソード「鵺」前後編の今回は後編すなわち解決編。前回で提示された様々な謎が明かされ、「鵺」の正体が明かされることとなりますが――いやはや物語の全貌は、全くこちらが予想だにしなかった、意外なものでありました。観る者により姿を変えるモノノケ「鵺」のその正体は…(以下、ネタバレにつきご注意を)

 三人組が求める東大寺、それは欄奈待という、それを持つ者は天下人にすらなれるという名香(名前こそ異なりますが、ここで語られている内容はほぼ「蘭奢待」のもの。ここで欄奈待と呼んでいるのは、元々がやんごとなき向きのお宝だけに、実名を使うことを憚ったのではないでしょうか)。本来であれば東大寺正倉院にのみ存在するはずのこの名香が実はもう一つ存在し、笛小路家に伝えられていたというのです。
 かくて、その東大寺を賭けての組香・竹取の香を、今度は薬売りを香元として始めることとなりますが…どうも今回の薬売りはいつも以上に挙動が不審で、香の中に、毒を持つ夾竹桃――実際、キャンプなどで枝を串焼きの串や箸代わりに使って死人が出たケースもあります――を「うっかりうっかり(棒)」混ぜてしまったと言い出す波乱含みのスタートです(開始前に薬売りが背負い箱から何やら探している時の、箱の回りの散らかしっぷりが子供みたいでやたらとカワイイ)。

 それでも度胸を決めて組香に挑む三人組ですが――室町が手にした香は何も香らない。それもそのはず、それは香ではなくて襖の切れ端、血のたっぷり染みこんだ襖の切れ端。…って、一体何を!? と思えば、さらに薬売りは室町が実尊寺を殺したと言い出します。他の皆よりも早く来ていた室町は、イヤな京都人丸出しの実尊寺の度重なる嘲弄に怒って斬殺していたのでありました(にしても、生前の実尊寺は上半身裸に裃という、「海坊主」の乳首坊主に並ぶロックなコスチュームで吃驚)。と、秘密を暴かれた室町の前に現れたのは、彼の目にのみ映る、腐った泥田坊のようになった実尊寺。実尊寺は彼を襖の向こうに引きずり込んで…
 それでも続く組香、次の香(?)は、半井だけにのみわかる香り…髪の毛を焼いたときの匂いでありました。半井もまた秘密を持つ身――そう、瑠璃姫殺しの下手人は彼。源氏香が終わり、皆が中座した後で瑠璃姫に迫った半井は、全く自分を省みようとしない(婉曲的表現)彼女を激情に任せて殺していたのでした。
 そして半井は何故か自らも瑠璃姫と同様、血まみれになって消え、残るは大澤のみ。しかしその大澤も、夾竹桃に当たってしまい、パニックに陥った末に外に転がり落ちて首の骨を折って――そして誰もいなくなった。

 一体、今回の薬売りは何を考えてこんなブラックなことばかりしでかしたのか(夾竹桃のことも、なんちゃって、全部ウソと言い出しますし…)と、この辺りでかなり混乱したのですが、ここから急展開。一人になった薬売りは、瑠璃姫の遺骸に…いや、その傍らにあるモノに向かって語り始めます。これまでの組香は、三人に自分の人生が終わってしまったと、自分たちが既に死んでいたと自覚させるためのものだったと。すなわち、この屋敷には薬売り以外誰もいなくなったのではなく、最初から誰もいなかったと――
 今回のモノノケ「鵺」の正体は、見る場所によって姿の違うモノノケの正体は東大寺そのもの。全ては、自分が自分であるために(何せ興味がない者にとっては香木も単なる腐った木で…)自分の価値を認めてくれる者を必要とした東大寺の仕業。自分の噂を聞きつけてやって来る者を取り殺し、夜な夜な組香を――そしておそらくは今回のようにそれに伴って起きる事件をも――行わせていたと。

 なるほど、とここで思い至って感心したのは、前回の感想に書いた色彩の表現です。画面がほとんどモノトーンで支配される中、ただ薬売りのみが(あと庭の犬も)彩色され、三人組はモノトーンで描かれていたのは、彼らが既に生なき偽りの存在であったことの証。そして三人組が香を聞いた時にのみ、画面が彩色されたのは、単なる香りの強調の表現だけではなく、彼らが香の香りの中で生きている、生かされているということだったのでしょう。いやはや、恐れ入りました。
 また、前回の源氏香で薬売りの回答が「幻」だったのも、今にして思えば実に意味深です(さらに考えれば、場面転換の時に三人組がポン、と消えるのは演出ではなく、本当にああいう出入りをしていたのかも…)。
 何はともあれ、一気呵成に展開する物語に混乱したのも一瞬、見てみれば屋敷の庭は、無数の墓で――犠牲者の墓で――埋め尽くされていた、というシーンには鳥肌が立ちました。うむ、ホラーだ。実にホラーです。

 とはいえ、モノノケの形と真と理がわかってしまえば鵺も薬売りの敵ではありません。亡者と化した四人組が迫る中にも冷然と立ち、久々の「解き放つ」フルバージョンで変身した薬売りの一撃で東大寺は炎に包まれるのでありました。
 そして東大寺が炎に消えた瞬間、モノトーンだった世界が鮮やかに彩られ、魂が解放されたか、美しく変わった屋敷の庭には四人組を始め、香を楽しむ人々の姿が――が、それも一瞬、薬売りの「香、満ちたようでございます」の言葉とともに屋敷は荒れ果てた姿に変わり一件落着。薬売りとともに唯一屋敷の中で生ある存在だった小犬が、残り香を嗅いでイヤな顔でくしゃみをするという皮肉な幕切れで一巻の終わりとなるのでありました(閉まった襖のバックに、物が燃える音が被さる演出も実にうまい)。


 さて、終わってみればこの作品にしては珍しくかなりストレートに謎を解き明かして終わった印象のある今回のエピソード。前回の感想でも少し触れたのですが、個人的には捻くれた作品が(も)好きなせいか、最初は見ていてちょっと物足りなくも思ったのですが、最後まで見てみれば、終盤の一捻り二捻りも実にうまく効いた上にコミカルな要素、ホラーとしての要素もきれいに配分されていて、かなり面白いエピソードになっていたと思います。ある意味毎回毎回変化球で攻めてくる「モノノ怪」ですが、たまにはこういうストレート(に見せてもちろん相当クセはあるのですが)も良いですね。今回は珍しく「泣かせ」の要素がなかったことも、スッキリした後味につながっていると思います。

 しかしうるさいことを言えば、ちょっと画面のクオリティ的には不満もあったのは事実。退魔の剣の発動シーンは短いながらも札のアクションと組み合わせた実にケレンの効いたチャンバラアクションとなっていて実に満足したのですが、その前の変身シーンが「化猫」の時のバンクで…。いや、それは別にいいのですが、アスペクト比考えないで流用しているから画面がおかしなことになってしまったのはいただけない話であります。
 それ以外にも全般的に作画はちょっとマズい状況で、特に薬売りの顔つきがころころと変わってしまったのは、物語が面白かっただけに何とも残念であります(しかしそれでも薬売りは薬売り、としっかりわかるのは、いかにデザインとして薬売りが優れているかの現れ…というのは褒めすぎですかね)。
 もちろん、作品全体の面白さを損なうほどではなく、あくまでも贅沢なワガママ、ではありますが…


 さて、いよいよ来週からはラストエピソード「化猫」に突入。「怪 ayakashi」で放送された名作「化猫」と大胆にも同タイトルですが、何と舞台は地下鉄の中というのですから驚きます。地下鉄というからには時代は20世紀になるのかと思われますが(史実では日本初の旅客用の地下鉄は1927年開通)、さて薬売りはどのような姿で現れるのか。予告の映像を見た限りでは着物の色や小物等が、いままでと異なるようですが…(時代を超越して現れることについては、もう驚きません)
 そしてまた、地下鉄の客らしき人間たちの顔が、かつての「化猫」事件の関係者に瓜二つなのもまた気になるところ。彼らの子孫か転生か、はたまた他人の空似かはわかりませんが、大いに期待を煽ってくれます。
 見事に完結した「化猫」のエピソードを再び持ってくるからには、スタッフにも色々と考えがあるはず。はたして伝説再びとなるか――これは見逃せません。


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2007.09.01

「モノノ怪」 第八話「鵺 前編」

 気がつけば既に外で咲いている花はナツノハナから秋の花に移りつつありますが、「モノノ怪」の方ももう残すところは二エピソードとなっています。その一つ「鵺」の前編が今回、さる公家の姫君の婿取りを巡り、モノノケによる惨劇が…起こるのですが、メインとなるのは聞香勝負、何故かそこに薬売りも加わって、えらく混沌とした様相を呈するのでした。

 京は聞香の名門・笛小路家の娘である瑠璃姫の婿を決めるために開かれる聞香。婿候補は四人――公家の大澤、商人の半井、侍の室町、あと一人は薬売り…「どうも」っておい(平然とその場に座っている薬売りに爆笑)。
 もちろん四人目は別にいたのですが、集合時間に現れないため失格、そこで勝手についてきてしまった薬売りが参加して、聞香勝負――組香が始まります。
 ここで行われる組香、源氏香は、物語中でも説明されましたが、香を五種×五包=二十五包用意してそのうちの五方を焚き、その内容を当てるというもの。その組み合わせは全部で五十二種類、その内容を、五本の縦線(作中では札)と、同じ香を意味する横線の組み合わせで表した図で示すことになります。何だか説明を聞くだけでも非常にややこしいルールですが、ここで口元にふんにゃかした微笑を浮かべて札をためつすがめつしている薬売りが異常に可愛くて…何だかもうどういうルールでもいいやという気分になります。

 さて一勝負終わって退席した一同。いかにも胡散臭く姿を消した三人組は、それぞれに「東大寺」なるものを探しているようですが――それぞれ収穫なく部屋に戻ってくればそこには薬売りが机の上にという、いきなりの衝撃映像。本当に薬売りは高いところ好きだなあ、と一瞬感心しましたが、ここでは床一面にお馴染みのモノノケレーダーたる天秤を放っていたためのようですが、しかしその肝腎の天秤が迷っているとのこと。そして隣の間への襖を開いてみれば、今度こそ本当の衝撃映像、行方不明となっていた四人目の男・実尊寺が部屋の天井から床までを血に染めた猛烈な惨死体となって転がっていたのでありました(この人、アバンタイトルで殺されていたのですがこれがまた一見の価値ありのもの凄いポップな惨殺されっぷり)。
 さらに瑠璃姫はと見てみれば、これまた首筋を刺されて壮絶死。何だかわからないうちに二人の人間が、しかもその一人は今回の中心人物とも言うべき(微妙に蛇っぽい)姫様が殺されて一同ボーゼン…かと思いきや、「東大寺」を求めて我先にと走り出す三人組に、さすがの薬売りもボーゼン。「待てーっ」と珍しく声を荒げたのがさらに笑いを誘います。

 さてその「東大寺」を何としても手に入れようとする三人組、姫に仕える老婆が目が悪いのをいいことに、姫の死を隠して祝言をあげ、とりあえず「東大寺」を手に入れてしまおうと目論みます。そのためにもう一度行う組香の香元を薬売りが務めることになって――というところで前編おわり。


 前回の捻った演出・構成に比べると極めてストレートな展開だった今回、特に前半は組香で終わってしまって、色々と身構えてみていたこちらとしてはちょっと拍子抜けしてしまったのですが、素直な目で見返して、今回もやっぱりなかなか面白い回でした。
 特に、薬売りの微妙にすっぽ抜けた存在感が実に楽しく、欲の亡者のような――しかしそれでいて演出はコミカルなのですが――三人組の求婚者とよい対比となっていたかと思います。…というか、そんなことを抜きにしても今回の薬売り回りの演出は面白すぎたのですが。

 そしてまた、印象に残ったのは作中のビジュアル構成。モノクロの世界に、薬売りと一部のアイテムのみがカラーで示されるという不思議なスタイルなのですが、これが組香シーンで、香を聞いた瞬間にパッと周囲がカラーとなる演出が実に印象的でした。今回の中心となるのは「香」ではありますが、どうやっても直に伝えようのないその「香り」というものを伝えるに、この手で来たか、と大いに感心した次第です。でも馬糞はないよな。

 さて――しかし今回は事件が起こるばかりでその真相は未だ藪の中であります。。タイトルとなっている「鵺」は、鳴き声しか現れませんでしたが(これはモノノケではなく鳥のトラツグミの鳴き声ですが――鵺の鳴く夜は恐ろしい)この鵺は、頭は猿、胴は狸、手足は虎、尾は蛇という怪物で、源頼政に討たれたという伝説がある代物。転じて、正体不明の人物やあいまいな態度をも指す言葉にもなりましたが、まさに現状は鵺的状況とでも言ったところでしょうか。
 その謎を解く手がかりとなるのが、三人組が探し回り、ラストで薬売りが正体を問い質した「東大寺」なのでしょうが――やはり香絡みで「東大寺」と言えば、やはり真っ先に思いつくのは正倉院の寺宝・蘭奢待。その名の中に「東大寺」の三文字を隠すこの秘木は、実は先に触れた源頼政が鵺を退治た際に褒賞として与えられたという繋がりがあったりして…
 いずれにせよ、石碑(?)に掛けられた上着、庭をうろつく青い犬、室町が目撃した不思議な幼女と意味深なアイテム・キャラクターも様々に存在しており、ここは一つ頭を空っぽにして、次回を楽しむこととしましょう。


 ちなみに、今回よりOPのヴィジュアルが一部新変更。大筋は変わりませんが、タイトル画面でこちらに振り向く薬売り、現代風の服装で猫を追う少女、ラストに影絵のように現れる薬売りなど、随所に新カットが挿入されていて印象に残ります。特にラストの薬売りが格好良くてねえ…


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2007.08.26

「モノノ怪」 第七話「のっぺらぼう 後編」

 「モノノ怪」三つ目のエピソード「のっぺらぼう」、前後編の後編である今回は、いよいよ薬売りがモノノケの形と真と理を暴く解決篇。仮面の男…の面はあっさりと冒頭で封印され、あとは薬売りの仕切る芝居「お蝶の一生」によりお蝶の過去とその深層の心理が描き出されることとなりますが、さて、のっぺらぼうとは誰かと言えば…

 毎回色々と凝ったスタイルで物語を見せてくれるこの「モノノ怪」ですが、今回は(これまでのエピソードに比べれば)構成的にはかなりシンプル。「お蝶の一生」で描かれるお蝶が凶行に至るまでの人生を通じて、お蝶の心の中に潜んでいたもの、お蝶が心の中で育んで――そして殺してきたものが描かれますが、それがそのままモノノケ・のっぺらぼうの真と理に繋がることとなります。
 母の過剰な期待に応えるために自分の心を無くし、自分を道具にして望まぬ家に嫁いだ彼女の心から生まれたもう一人の彼女。自分を殺し、自分という存在を――すなわち自分の顔を失ったお蝶に取り憑いたモノノケ、それこそがのっぺらぼう、ということなのでしょう。
 
 モノノケの形と真と理さえわかってしまえば、その力を発揮した退魔の剣の敵ではもちろんありませんが、しかし何よりもモノノケを祓う力となったのは、お蝶が自分の過去と心の内を直視することができたからなのでしょう。正直、見ていたときは、薬売りに過去を見せつけられて悶え苦しみ嗚咽する彼女の姿は正視に耐えないくらい辛いものがあったのですが、その果ての「ばっかみたい」という言葉、そしてラストを見れば、その辛さがあったからの救いだとわかります(にしてもお蝶を演じた桑島法子氏の演技の見事さたるや…この「モノノ怪」という作品、見事なビジュアル面にまず目が行きますが、声優陣の素晴らしい演技あってこそのこの作品とわかります)。
 それにしても今回の薬売り、終わってみればその行動はカウンセラーのようでした。薬を売るだけでなく、カウンセリングもしてくれるとは、何とも芸達者です。


 さて――お話の方はこのような内容かと思いますが、細かいところに目を向けると突然難しくなる今回。私も観ている最中に色々と悩みましたし、ネットで他の方の感想を拝見しても、色々な意見が出ていましたが、一番大きな疑問点は、「仮面の男の正体は?」に尽きるかと思います。
 この点については、以下の三つの考え方があるかと思います。
1.純粋なあやかしである
2.お蝶の心が生んだ分身である
3.薬売りの自作自演である

 1.については、解説の必要はないでしょう。前編で描かれていたように、彼は本当にお蝶に恋していたアヤカシの類で、モノノケとは別の存在ということです。また、2.は、自分自身を殺したお蝶の想念がもう一人の自分を生み出したように、誰かに愛されたいと願うお蝶の心が、自分を必要としてくれる、一途に慕ってくれる相手を生み出したということで、仮面の男もまた、モノノケの分身とも言えるかと思います。
 さらに一番ドラスティックな3.は、薬売りと、変身後の薬売り(通称ハイパー薬売り)が示し合わせてお蝶を巡って芝居を演じ、お蝶の本音を引き出したということになります(今回も含めた本作での描写を見るに、薬売りとハイパーは別個に存在しているようですので、それも不可能ではないかと)。

 うち、3.についてまず考えてみると、根拠は二点あります。一つは、仮面の男のビジュアルが、ハイパー薬売りに酷似していたこと。もう一つは、結末で勝手口に座った薬売りが、仮面の男の煙管を吹かしていたこと。どちらもなるほど、と思いますが(特に後者)、どちらも別の理由は色々とつけようがあるようにも思えます。特に、「モノノ怪がその面の男を操り あなたを欺き あの家に縛り付けた」という薬売りの台詞から考えると、ちょっと苦しいように思えますし、既に婚礼の席で出現していたことを考えると(記憶を改竄していた可能性もありますが)、やはり薬売りだった、というのは難しいように思えます。

 また2.は、モノノケ誕生の過程を考えると、これはこれで非常に説得力がありますし、ドラマ的にも何とも哀しくてよい(という言い方は本当に申し訳ないですが)かと思います。この場合、仮面の男との婚礼の結果は、お蝶が幻想の幸せの中に没入して、現実から完全に心を閉ざしてしまうこととなるのでしょう。
 ただし、この場合も上に挙げた台詞がひっかかってきます。仮面の男が本当にお蝶の生み出したもの、モノノケの分身であれば、また違った表現になるのではないでしょうか。

 そして1.ですが、やはりこれが本編の描写との矛盾も生じず、一番通りが良いように思えます。彼は不幸な境遇のお蝶に惹かれてきたアヤカシであり、彼女を陰ながら見守ってきた存在。薬売りの言葉のように、モノノケに操られて、お蝶を操る道具として利用されていたことになりますが、これはこれで幸せだったのでしょう。 と、この考えを採る場合、実は自分でもどう解釈したものかと悩んでいたのが、クライマックスでの、お蝶とハイパー、薬売りの三人の以下の会話。
お蝶「ひとつ聞いてもいいですか のっぺらぼうは何故…何故私を助けてくれたんでしょう?」
ハイパー「救われたなどと…思っているのか?」
薬売り「強いて言うなら 恋でも したんじゃないですかね 貴女に」
お蝶「え…」
薬売り「叶うわけなどないのに 哀しき モノノケだ」
お蝶「哀しき モノノケ… ありがとう…ありがとう…もう大丈夫」

 この台詞だけだと仮面の男=モノノケと聞こえて、2.でも良いように思えてくるのですが、ここはのっぺらぼう≠モノノケと解すればよいのかと思います。薬売りが「哀しき」と評しているのは、仮面の男ではなく、モノノケ(=薬売りと話しているお蝶)と考えると、その後のお蝶の「ありがとう」という言葉に綺麗に繋がってくるように思えます。

 もちろん、以上述べてきたのはあくまでも一つの解釈。観た人の人数だけの解釈が存在するのが本作だと思いますし、それが魅力なのですが、私はこう解した、ということで。


 しかし今回のエピソード、時代を変えれば「夢幻紳士」に出てきても違和感ないかも…


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2007.08.18

「モノノ怪」 第六話「のっぺらぼう 前編」

 早いもので「モノノ怪」も早くも中盤にさしかかり、第五話の今回は三つ目のエピソード「のっぺらぼう」。色々と賑やかだった前回までとはガラッと趣を異にして、今回はメインに登場するのは三人のみ、その三人のやりとりで進む一種舞台劇的な味わいのある、ユニークなスタイルで描かれた今回ですが、しかし何が真で何が偽か、迷路の如く入り組んだ展開は変わらず、早くも次回が待ち遠しい内容でありました。

 夫と姑、義弟夫婦の四人を惨殺した咎により、市中牽き回しのうえ磔獄門に処されることとなった女性・お蝶と同じ牢に入ってきたのは、何とあの薬売り。女手一つで行えるとは思えない凶行の背後にモノノケの影を感じ取った薬売りですが、お蝶は言を左右にしてなかなか本心を見せません。
 と、そこに現れたのは仮面の男。お蝶を救い出しにきたこの男こそはモノノケの形…と打ちかかる薬売りですが、退魔の剣は男には反応せず、かえって男の術で薬売りは顔を奪われてのっぺらぼうになってしまう有様…
 そして牢を抜け出したお蝶と仮面の男ですが、たとえ一生追っ手に追われたとしても「あの場所」には戻りたくないというお蝶に対し、仮面の男はお蝶にプロポーズ(超展開)。お蝶もこれに応じ、美形声に似合わぬちょっともの凄い喜びっぷりの男は、仲間である奇怪な仮面たちが祝福する中、早速祝言を挙げようとしますが――そこに現れたのは薬売り。
 あっさりと己の顔を甦らせてみせた薬売りと仮面の男の第二ラウンドは薬売りに分があったか、薬売りの鏡に映し出された男は苦しみ悶え、そしてその顔からついに仮面が落ちて…以下次回。

 冒頭から「化猫」での初登場時を思い出させる饒舌さを見せる薬売りのすっとぼけぶりに煙に巻かれた思いの今回ですが(「味噌で煮ようが塩で焼こうが鯖は鯖」って敏樹ですかアナタ)、それに続く展開も謎また謎の連続です。
 物語の大半を占めるお蝶と仮面の男の会話の中身も、どれもこれも意味深に聞こえて戸惑うばかりですが、しかしその戸惑いが気持ちいいのがこの「モノノ怪」という作品。
 どれが伏線でどれがフェイクなのか、どこからどこまでが真実でどこからどこまでが偽りなのか、さんざん振り回され、次の展開を予想する(そして裏切られる)のが楽しくてなりません。

 今回を見たところで頭に浮かぶのは、やはり多重人格と内面世界、というテーマではあるのですが、では仮に仮面の男がお蝶の別の人格であり、二人が存在するのが彼女の精神の内面世界であるとして、ではそのどこに薬売りが――すなわちモノノケが絡むことになるのか。
 薬売りは全てをモノノケがお蝶を騙すための芝居と断じましたが、さてそれではモノノケが彼女を騙す、その目的は何なのか。なぜ仮面の男は退魔の剣に反応しないのか。さらに物語のそもそもに目を向ければ、何故お蝶は自らの行った殺人の詳細を記憶していないのか。四人を殺したのは本当にお蝶なのか。いや…そもそも殺人事件自体が存在したのか?

 そんな謎の数々に目を奪われつつも感心させられたのは、今回の舞台――というか背景。これまで大なり小なり、閉鎖空間でのサスペンスが描かれてきた本作ですが、ここでは閉ざされた女の心(本当に内面世界かどうかというのは別にして)という、思いも寄らぬ形で閉鎖空間が飛び出してきて、いやはやこの手があったか、という気分です。

 ちなみにその複雑な女ゴコロを見せるお蝶さんと、クールなんだか熱血何だかわからぬ仮面の男の、二人の声を当てるのは、「化猫」が放映された「怪 ayakashi」のご同輩(?)「天守物語」の主役カップルを演じていたお二人。内容的な関係はもちろんありませんが、現世の男と異界の女を演じた二人が、今回はある意味立場を逆転させた役柄をとなっているのはなかなか面白いことかもしれません。

 さて今回は前後編ということで、次回は早くも大詰め。正直なところ、この後に如何様にも転がすことの出来るお話ではありますが、それだけに予想がつかず大いに気を持たせられます。
 本当の「のっぺらぼう」は誰なのか――楽しみで仕方ないのですが、とりあえず次回はまさかの津波攻撃だけは勘弁していただきたいところです。


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2007.08.13

「モノノ怪」 第五話「海坊主 大詰め」

 「モノノ怪」の第二エピソード「海坊主」もいよいよ大詰め。遂に形を現したモノノケに対し、源慧はその真を語り始めますが、そこに待っていたのは…というわけで、久々に薬売りも解き放ち、まさに大詰めに相応しい内容の濃い一話となっておりました。

 異界と化した船内の生け簀から現れたうつろ舟。中にはこの海を魔境と変じさせたと思しき源慧の妹・お庸が潜むかと思われましたが、いざ封印を解いて(ここでこのエピソード初登場の御札)中を改めてみればそこには…誰の姿もない。お庸はどこに消えたのか、いや何よりモノノケの真は何処に…
 と、ここで自分とお庸の過去を語り始める源慧。この竜の三角の海域近くの島で生まれ、早くに両親を亡くした二人は身を寄せ合って生きてきましたが、それがやがて互いを道ならぬ想いに駆り立てることとなります。やがて島の決めたことで僧侶となった源慧は、お庸への想いを断ち切るために修行に励みますが、その心中に常にあったのは、お庸が誰かのものとなることを恐れ、嫉む心…(と、真面目な話の時に何ですが、この回想シーンでの若き日の源慧のビジュアルがどう見てもきんどーちゃんで噴いた)

 と、アヤカシが出没する以前から海難事故が多発する竜の三角を鎮めるため、島に帰ってきた源慧は、お庸への執着心を断ち切るために島に帰ってはきたものの、いざうつろ舟を前にして、臆病風に吹かれる有り様。が、そこに現れたお庸は、兄と結ばれないのであれば、他の者と結ばれる前に御仏の元に参りたいとうつろ舟に乗ることを志願したのでありました。
 そしてお庸は哀れ海に消え、その想いが凝ってこの海を魔境に変えた、これが源慧の語るモノノケの真。

 が――薬売りはそれは真ではないと冷然と否定し、源慧が手で隠していた片目をどうしたのかと問いかけます。そして薬売りが語る真、源慧が包み隠そうとしていた真の真…それは、この海を魔境に変えたモノノケ、天空から見つめる目の姿をしたモノノケが、お庸を、己の心の中の本心を恐れる心が膨れあがった末に本体から身を分かって生まれた、源慧の分身であるという、そのことでありました。
 そして甦るかつての源慧の本心。源慧の心中にあったのは妹への愛などではなく、ただ己が立身出世して、いい暮らしをしたいという欲望であり、そのためであれば、お庸が自分の身代わりとなっても胸一つ痛まず、かえって嘲笑うような酷薄な男の姿でありました。だがしかし、お庸がうつろ舟に乗る直前になって初めて妹の本心を、彼を心から慕う心を知らされた源慧は、そこで初めて己の浅はかで醜い心に気づき、それを悔い恥じた末に、その現実を封印して、その上に、自分とお庸の甘美な、しかし背徳的な感情を上書きすることによって、お庸の真の心と、己の偽りの心に折り合いをつけることを選び――しかしその歪みからモノノケが生まれてしまった、ということなのでしょう。

 己の真に気付いた源慧は、半身を滅せられることを望み、その心に応えた薬売りが遂に抜きはなった退魔の剣により海坊主は打ち砕かれ、そして過去の後悔と恐怖から解放された源慧の姿は美しく変わって――ここに「海坊主」大団円ということと相成るのでした。


 …と、複雑なお話をできるだけ噛み砕いて再構成してみましたが、つくづく感心させられたのは、「化猫」の時に見せられた偽りの真と真の真の関係を、裏返しにしてみせたかのような物語の妙。私も前回の感想に書きましたが、「化猫」を見ていた方の大半は、源慧の語る内容が偽りであることは予想済みであったのではないかと思います。いかにも悲劇めかして描かれたお庸の物語は全くの偽りであり、真実は、お庸は身勝手な男の欲望の犠牲となって果て、その怨念がモノノケを生んだのだろうと――
 が、それが半分当たりであり、半分は大ハズレであったことは、上に書いたとおり。確かに源慧の中には浅ましく利己的な心があった一方で、お庸の心の中にあったのは、まぎれもなく源慧への心からの愛であり、そしてそれだけが源慧の内にあった二つの過去、真のそれと偽りのそれとの中で、唯一共通する真実でありました。
 「化猫」同様に偽りに違いないと頭から決めてかかっていた、男が語る女の側の心情こそが唯一の真実であった――そしてそれこそが、回り回ってモノノケを生み出す原因であった――という、この鮮やかすぎる逆転劇を目にした瞬間の驚きは、うつろ舟の上でお庸の告白を聞かされた瞬間の源慧の驚きと並ぶ…というのは大げさすぎるかもしれませんが、視聴者たるこちらの驚きと、物語中の源慧の驚きのタイミングを見事に重ね合わせて見せた小中千昭氏の手腕は、全くもって見事と言うほかありません。

 も一つ見事と言えば、今回の主役と言うべき源慧を演じた中尾隆聖氏の声の当てぶりでしょう。老若二人の源慧を演じ分けた様は言うまでもないことですが、その聖人ぶりが一転して若き日のゲス野郎の姿を現す「出世してぇんだよぉ」以降の台詞回しのハマり様には、ただ唸らされました。
 これは勝手な想像ですが、源慧役が当初予定されていた(こちらの下から二つ目を参照のこと)速水奨氏から中尾氏に変更となったのは、まさにこのシーンのためだったのではないかとすら思ってしまいます。

 そしてこのシリーズといえば忘れてはならない伏線・象徴の数々についてもやはりお見事。何故、海座頭が皆に「恐ろしいもの」を問うてきたのか、そして天に浮かんだモノノ怪が何故目の形をしていたのか。そして、ちょっとベタ過ぎる気もしますが、やはり船名の「そらりす丸」も伏線というか象徴なのでしょう。
 もっとも、源慧の右目についてはちょっと唐突すぎたなあというのが正直なところで、これは伏線とは無関係ですが、ここまで散々目立ってきた幻殃斉がいらない子となってしまったのと合わせて(まあ、彼はそういう存在といえばそれまでなんですが)大詰めのちょっと残念な点ではあります。

 とはいえ、上記の通りストーリーは実に本作らしく捻った展開で大いに楽しめた上に、ちょっと希望の持てる美しい結末でありましたし、アクションの方も、あの袖の長いな衣装が実に映える薬売りの大見得から、実に久々のトキハナツ(゚皿゚)! もあって、「モノノ怪」という作品のエピソードの一つとして恥ずかしくない、充実の作品であったと思います。


 と――忘れてはならないのは、このシリーズ恒例の、ラストエピソードED後のあと一幕。今回は、物語中怪しげな動きをしていた佐々木が「今までありがとう」と呟きながら見つめる彼の愛刀・九字兼定が砕けてその破片が目の中に入り、彼が狂笑めいた笑いとともに「絶対忘れないよ」という謎の言葉を残したところで本当の幕となります。
 これは色々と解釈が出来そうですが、ここは素直に(?)、彼が第二の海坊主となったと解することにしておきます。ラストカットでは、笑う彼の背後にもう一人の彼の姿が見えておりますし、モノノケは消えたはずなのに、彼の後ろにあった生け簀の水は赤いままでしたから――
 思えば、二ノ幕で海座頭が「恐ろしいもの」を問うた時、彼のみは恐れなどないと、己の心を偽る答えを返した挙げ句、己の内心の罪の意識に苦しむ様が描かれたわけですから、源慧同様の存在となることも十分あり得るのではないでしょうか(そう考えると、海座頭は海坊主の仲間を生み出すための試験官のような存在だったのかも…)。
 もっとも、ラストカットにはもう一人、二人の佐々木のその間に、薬売りがこちらを(=笑う佐々木の方を)向いて立っている姿も描かれていましたので、彼が野放しになることはないと思いますが…幕切れで襖が閉まったときに聞こえる「カチン」は単なる効果音か、退魔の剣の歯鳴りの音か…いずれにせよ、最後の最後まで、本作には楽しく振り回していただいたことです。


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2007.08.06

「モノノ怪」 第四話「海坊主 二ノ幕」

 先週より始まった「海坊主」、全三幕の二ノ幕。乗客の一人一人に「恐ろしいものは何か?」と問いかけるアヤカシ・海座頭の出現により、乗客の心底が暴かれていくこととなる展開で、動き的には地味でしたが、各キャラクターそれぞれの心理描写が面白く、なかなか見応えのある回でした。

 さて、まんざら幻殃斉の口からでまかせでもなく本当に存在していた魔境・龍の三角。船の羅針盤に何者かが行った細工を抜きにしても、アヤカシの集うこの海域に、薬売りは退魔の剣の導きで連れてこられたと語りますが、しかしそれはアヤカシ退治のためではなく、モノノケを斬るため。前回も少し触れられていた通り、本作においてはアヤカシとモノノケはまた別の存在とのことですが――これは色々とややこしいようですが、千差万別の起源を持ち、人とは異なる理を持って動くこの世ならざるものがアヤカシ。そしてそのアヤカシと激しい人の負の情念がアヤカシと結びついたモノがモノノケ、と考えれば良いのでしょうか。

 などと話していたところに現れたのはアヤカシ・海座頭。この海座頭、怪優・若本規夫が声を当てるだけあって無闇な迫力(しかしこの海座頭、いわゆる魚人という奴ですが、これまでの半漁人の常識を覆すような(?)ユニークなデザインでちょっと感心)で、「うぉまえがうぉそろしいことわぁ…ぬわんだあぁぁぁ!」と、相手の恐ろしいものを問うて答えさせては、それを幻影にして見せるという、ちょっとどころではなくイヤな能力を持っている様子。
 その問いに対し、財を失い一文無しになることを恐れた三國屋は、虎の子の金魚を口から吐き出して色々な意味のショックでダウンし、怖いものなどないと答えた佐々木は、今まで辻斬りなどで斬殺してきた者たちの怨霊に飲み込まれて半狂乱に。そして加世は…もの凄い勢いで乙女の夢を語った末に、突然妊娠し、立ったまま魚人の胎児を産み落とすというグロテスク極まりない幻覚を見せられて狂乱…するところを薬売りに抱き留められて何とか回復(この時の妙にエロい薬売りの仕草が面白いんですが、これは何かしら術を使ったのかもしれませんな。また幻殃斉は「饅頭怖い」とベタなことを答えた挙げ句…何を見せられたかはわかりませんが、まあこれも大変な目にあった模様です。…しかし、他の人間に比べると答え方を自制できたこの人は、見かけよりもしっかりとした人間なのかもしれません。

 そして真打ち、薬売りの答えは…「この世の果てには形も真も理もない世界が、ただ存在しているということを知るのが怖い」という意味深なもの。その答えを受けて見せられた幻覚では、己が虚無に浸食されてただ消えていく様を見せられますが、さすがは薬売り、他の者のように取り乱しはしませんでした(が、現実に戻ったときに拳を握っていたところを見るに、やはりなかなかキツい体験だった様子)。
 この薬売りの答えには色々と解釈があるかと思いますが、どのようなモノノケであっても形と真と理さえあれば粉砕する退魔の剣を持つ薬売りにとって、その三つが存在しない世界というのは、それは確かに厄介極まりないものでしょう。更に言えば、それはおそらく彼の存在意義であろうモノノケ退治を不可能とするものであって…ちと大げさに言えば、まさに彼にとっては存在の根幹に関わる恐怖なのかもしれません。

 閑話休題、残る菖源と源慧のうち、菖源は自分の師である源慧が恐ろしいと答えます。そんなにアブノーマルなことを強要させられたのか… 源慧の不審な態度に不信感を抱いていたた菖源は、羅針盤に細工できたのは源慧のみと答え、そしてその源慧の答え――この五十年間彼が恐れてきたもの、それはこの海にあり、漂い続けこの海を魔境に変化させたモノ…五十年前に彼の妹が乗って流されたうつろ舟でありました。
 そしてその言葉こそは薬売りが望んだもの。食わせ物揃いのこの船の真を暴くために、海座頭の力を利用したということなのでしょう。アヤカシまで利用して事件を暴こうとは、やっぱりこの人は一枚上手でした。…巻き込まれた周囲の人はたまらんですがな。

 と、ここで登場したうつろ舟。ゲーゲーやってても不屈の解説魂に燃える幻殃斉は、大木をくり抜いて作られた、一度乗ったら出られない舟と解説します。
 実際の書物等で言えば、「平家物語」では源三位頼政に倒された鵺をこれに入れて海に流したという記載があります(あれ、そう言えば「モノノ怪」にも「鵺」のエピソードが…)。もっとも、それ系の方面では圧倒的に有名なのは、曲亭馬琴の「兎園小説」に登場した虚舟のエピソードかと思いますが、流すにしろ流れてくるにしろ、常ならざるモノが乗せられた舟ということに間違いはないようです。
 そして源慧の言葉に応えるかのように異界と化した船の中から現れたモノ、五十年前に海に消えたはずのうつろ舟の中から、「カリ、カリ…」と、何かをひっかくような、何ともご勘弁いただきたいようなホラーな音が聞こえてきたところで、次回に続く。


 さて、源慧曰く、このうつろ舟には、妹が彼の身代わりとして自ら乗り、流されたと事件の真相に近づく発言をしたものの、それが源慧にとってだけの真ではなく皆にとっての真であるかどうか、まだわからないというのは「化猫」を観た者であれば皆知っていること。おそらくはまた、おぞましくも哀しい真が待っているのでしょう…
 どうも作画的には色々と厳しいようですが、次回大詰めでどのようなドラマとアクションが待っているか――小中千昭氏が脚本を書き、古橋一浩氏が絵コンテを切っている以上、なまなかなものが出てくるわけがありません。大いに期待して次回を待ちます。


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